METAMORFOSI

  イタリアのプログレッシヴ・ロック・グループ「METAMORFOSI」。 シシリー出身。 72 年に二枚の作品を残すも、注目を浴びたのは、20 年後に日本のファンが発掘してからだそうだ。 迫力のバリトン・ヴォイスとキーボードを中心にしたミステリアスなサウンドが特徴。 2004 年、ついに新作「Paradiso」発表。もちろんスピタレリ健在。

 Paradiso

 
Jimmy Spitaleri lead vocals
Enrico Olivieri keyboards, piano
Leanardo Gallucci acoustic guitar, bass
Fabio Moresco drums

  2004 年発表の第三作「Paradiso」。 30 年余を経た「神曲 - 天国編」。 リズム・セクションは新メンバーなるも、バリトンのヴォーカリストとキーボーディストはオリジナル・メンバーが健在。 内容は、ロマンティックでアグレッシヴなキーボードがオペラ風のド迫力の歌唱を取り巻く、クラシカルにしてロックな、荘厳にして邪悪な、豪奢にしてチープな書割風の一大ドラマ、すなわち、驚くべきことに前作と完全に同じ世界なのだ。 キース・エマーソン、リック・ウェイクマン、イタリアン・バロック、イタリアン・オペラ、カンタウトゥーレなどをキーワードに、往年のイタリアン・プログレの王道を貫いている。 おそらく楽曲は 70 年代に編み上げられたものであり、それを長い時間をかけて熟成させたに違いない。 したがって、芸術としての存在感という意味で抜きん出た光を放っている。 まあ、四の五の言わずとも、シンセサイザーとアコースティック・ピアノのプレイだけで、すべてのプログレ・ファンの頬は緩むであろう。 そして、大上段に振りかぶるようなコンセプトを掲げながら、アコースティック・ギターを片手にささやくような歌もある、そういうところが、たまらない。
   かたや、サウンドが洗練され、展開が整理されたため、混沌としつつも不気味なオーラを放っていた前作の魅力が損なわれている、という見方も可能である。 (余談だが、演奏のキレが増したせいか、前よりも BANCO に聞こえてしまうところあり) また、作品と基本的なアレンジが 70 年代のものなので、音の幅や密度が生み出す迫力の点では、現代のロックに敵わないかもしれない。 ただし、ここでバンドが訴えたいことや綴りたい物語が、言葉が分からないにもかかわらず、かなりの重みをもって濃密に迫ってくるのも確かである。 音総体として、こういうインパクトを与えられるのは、甦った 70 年代イタリアン・プログレの中では、いや、すべての現代プロプレッシヴ・ロックを見渡しても珍しいのではないだろうか。 (主題が「ダンテ」なんだから説得力があって当然だ、という話もあるが) SOLARISAFTER CRYING といった東欧勢がかなりこの地平を開拓しているが、METAMORFOSI は先駆者として本作で立派な仕事をした思う。 クラシックの翻案やエマーソン、ウェイクマンへの想いもさりげなく楽しげに織り交ぜている。

(GMP 003)

 ...E Fu IL Sesto Giorno

 
Jimmy Spitaleri vocals, flute
Enrico Olivieri vocals, organ, cembaro, piano, flute, synthesizer
Roberto Turbitosi vocals, bass
Mario Natali drums, percussion
Luciano Tamburro guitars

  72 年発表の第一作「...E Fu IL Sesto Giorno」。 スピタレリの正調カンツォーネを中心にした、プログレ前夜のアート・ロック。 ビートポップもしくはラヴ・ロック風のメロディとコーラスに、オルガン・ピアノ・チェンバロらが悠然とクラシカルな広がりと整合感を与え、手数の多いバタバタ・ドラムがかき回す世界である。 オルガンやチェンバロの演奏はバロック調の本格派。 リズム・セクションは、録音こそ冴えないが、演奏そのものははなかなか充実している。 特に、ベースは積極的に前に出るプレイで演奏に躍動感を加えている。 また、二つのフルート(音色はリコーダーに似る)を用いたプレイは、たしかにリリカルなアクセントとして効果的だが、クラシカルというよりはアンデス民謡風。 全体として、60 年代英国ビートポップ色の強いアンサンブルを、クラシカルなキーボードによる音の厚みと本格的な声質のヴォーカルでグレードアップしたイメージである。 メロディアスでありながらほんのり神秘的なムードを匂わすところは、まさしくイタリアの THE MOODY BLUES。 そこへ圧倒的声量のカンツォーネが加わったといえばイメージできるだろうか。 後半はポップな雰囲気が強くなる。
  3 曲目の大作では、フルート、ギターの見せ場もある。 4 曲目は爆音が暗示的なクラシカル・ロック。 終盤はギター・ソロ。 5 曲目は劇的なヴォーカルが映える勇壮な作品。 6 曲目はロマンティックながらスピード感もある作品。 ギターとフルートがかけあう。 7 曲目は軽快なポップス。

  1曲目「IL Sesto Giorno」(4:36)
  2曲目「...E Lui Amava I Fiori」(4:38)
  3曲目「Crepuscolo」(9:05)
  4曲目「Hiroshima」(5:23)
  5曲目「Nuova Luce」(3:55)
  6曲目「Sogno E Realta」(5:57)
  7曲目「Inno Di Gloria」(3:29)

(VM 003)

 Inferno

 
Davide "Jimmy" Spitaleri lead vocals, flute
Enrico Olivieri keyboards, vocals
Roberto Turbitosi guitar, bass, vocals
Gianluca Herygers drums, percussion

  72 年発表の第二作「Inferno」。 オーソドックスなプレイをしていたギタリストが脱退し、ドラマーもメンバー交代。 そして、一気に、邪悪な妄想が膨張するキーボード・ロック路線へと突き進む。 テーマは、ダンテの「神曲-地獄篇」。 冒頭からドラが鳴り響き、厳かなチャーチ・オルガン、気品あるピアノ、チェンバロ伴奏でノーブルなバリトン・ヴォイスが歌いだす。 そして、バタバタとうるさいリズムの立ち上がりとともに、演奏のリードはムーグ・シンセサイザーへ。 引きのロマンティックなピアノ、鳴り続けるオルガン、近代クラシック調の挑戦的な曲調も高まり、まさしく正統派キーボード・ロックといえる内容になっている。
   もっとも、ピアノの演奏には技巧を忘れさすほどの独特の荒っぽさがある。 安っぽいというよりも、チンピラ風のドライな危うさである。 荘厳なチャーチ・オルガンやノイジーなシンセサイザーなど、多彩なキーボードをフィーチュアした小曲が、この後も切れ目なく続いてゆくのだが、全体の印象は、ドラムスとキーボードがせめぎあい忙しなく変転しつつ坂道を転がり落ちてゆく、という感じである。 荘厳なイメージとチープな感触が表裏一体を成す独特の作風である。
   正統的なクラシック調が、皮肉にも却って光の差さない裏世界を意識させ、美しいはずのメロディも、金属的な音色のシンセサイザーの多用によって、耽美を通り越して猥雑で邪悪な響きを持ち始める。 けたたましいキーボードに付き従ったり、煽ったりする音数多いリズム・セクションは、いつまでも回転し続ける狂気の轆轤のようだ。 ファズを使ったベースもヘヴィな演奏に合っている。 いわば、初期シンセサイザー独特のメタリックな音が重なり合って聴覚に襲いかかるような感じであり、この音は EL&P に慣れた耳にもかなり刺激が強い。 また、目まぐるしく変化するために 1 つのメロディやテーマを軸にした鑑賞は、前半に関してはかなり辛い。 こういった、ややもするとキワモノっぽく聴こえてしまう内容を引き締めるのが、ダヴィデ・スピタレリのバリトン・ヴォイスである。 伸びのある低音によるメロディアスな歌唱は、単に気品と哀愁を漂わすだけではなく、無機的で発散的な演奏(これは表現力によるというよりも、サウンドの質そのものから来る生硬さだと思う)に音楽の血肉を通わせている。
   IL BALLETTO DI BRONZO と比べると、和声に現代音楽的なアプローチは見られず、技巧も及ばない。 こちらは、英国風のオルガン・ロックに荒っぽくも技巧的なピアノ、シンセサイザーを積み重ねたイメージである。 実際、後半になると叙情的な表現やジャジーなプレイも多く、ビートっぽさも見せたりする。 この、アヴァンギャルドなノイズの使い方や挑戦的なアイデアとは裏腹な、グルーヴや優しげなメロディなどに、60 年代末からのアートロックの流れを感じる。 これだけクラシカルな要素を盛り込みながらも、エレクトリックな楽器で奏でる「モダン・クラシック」ではなく、あくまでポップス、ロックであり、そのロックをクラシカルかつジャジーなキーボードとバリトンでやってみた、というニュアンスなのだ。 したがって、EL&P と同じく、音楽性云々よりもまず娯楽であり、ジャンルの軋みと若々しい挑戦的な姿勢が生む熱気が魅力となっている。 このコンセプトだと、今なら間違いなくエクストリームなメタルになって表現が単純化しそうなだけに、あの時代に生み出されたことを喜びたい。 70 年代イタリアン・キーボード・ロックを代表する一枚。 熱気と多彩さが魅力なのだが、この作風だともう少し音響的に洗練された方が効果的だったと思う。

(VM 002)


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