MARILLION

  イギリスのプログレッシヴ・ロック・グループ「MARILLION」 。 78 年結成。 ポンプ・ロック・ムーヴメントの旗手としてシーンをリードした。 最新作は 2008 年発表の「Happiness Is The Road」。グループ名は、指輪物語の前段「SILMARILLION」より。(発音は、「(シル)マリルリオン」のようだ)

 Somewhere Else

 
Steve Hogarth vocals, occasional piano, percussion
Mark Kelly keyboards
Ian Mosley drums
Steve Rothery guitars
Pete Trewavas bass, occasional guitar, acoustic guitar on 10
guest:
Mike Hunter all sorts of things while we were out
Clever Bugger French horn on 10
Sam Morris French horn on 10

  2007 年発表のアルバム「Somewhere Else」。 前作の憂鬱な正調英国ロックから、ややレイドバックしたオルタナティヴ・ロック調となる。 ストリングスとギターがせめぎあうサイケデリック(THE BEATLES 風とどうしても思ってしまう)調で幕を開けるのだが、ジャジーなブリッジから、一気にエモーショナルな歌が膨れ上がる。 アコースティックな音を活かし、アメリカン・ロックに通じるアーシーなセンスも薫る。 シンプルなバッキングで歌唱の「歌」としての存在感は増し、サビで湧きあがるストリングスもきわめて自然。 まず耳をとらえるのは、3 曲目の名曲「Thank You Whoever You Are」。 4 曲目「Most Toys」はジョン・レノンかと思いました。
  抜けるような青空、飛び交うジェット旅客機、高層ビル群、ニューヨーク、壁に張られたポートレート。祈りと願い。
  
(INTACT CD11)

 Marbles

 
Steve Hogarth voice
Steve Rothery guitars
Mark Kelly keyboards
Pete Trewavas bass
Ian Mosley drums, percussion

  2004 年発表のアルバム「Marbles」。 幻想悪夢的、叙情的にして重厚な傑作。 タイトルと同名の小品を散りばめて大作が続く。 穏やか過ぎるのではと思うほどに、しっとりと、しかし自信に満ちた語り口で物語を綴る。 そして、若々しくコンテンポラリーな風合いと、伝統的なシンフォニック・プログレの風雅が、同時に匂い立つ。 自分たちの編み出した物語を語るために、現代の音をこれだけきちんと取り込めるとは、驚くほかはない。 おまけに、その今の音という奴が、THE BEATLES(個人的な出発点)からのすべての音のこだまをたずさえているのだ。 ブリティッシュ・ロックの王道は、細々かもしれないが、続いているのである。 イアン・アンダーソンやロジャー・ウォーターズから直接バトンを受け取るのは、まずはこの人たちだろう。 (ロバート・スミスはピーター・ガブリエルか誰かからもらってくれ)
  メロディアスというよりは、音の響きとビート感に重きをおいた作りであり、特に 1 枚目は憂鬱でペシミスティックな表情が主である。 しかし、2 枚目から次第に力強さが生まれ、3 曲目の「Don't Hurt Yourself」で一回みごとに突きぬける。 どちらかといえば 2 枚目の方が表現が多彩で面白い、と思ったとたん妙なことを考えた。 ひょっとすると 1 枚目は現代の若者向けで 2 枚目はオールド・ファン向けという作りになっているのではないだろうか。
   CD 2 枚組のボックス・デラックス仕様(足の上に落としたら骨折しそうな分厚いブックレット付き)と通常ジュエル・ケース仕様、および CD 1 枚のダイジェスト・エディションあり。 こういうのはコレクター向けの商売なのだろうが、一般人にはどれが何やら俄かには分からず、ややこしいのが難点。
  
(Intact 10391)

 Script For A Jester's Tear

 
Mick Pointer drums, percussion
Steve Rothery guitars
Pete Trewavas bass
FISH(Drek Dick) vocals
Mark Kelly keyboards

  83 年発表の第一作「Script For A Jester's Tear」。 強烈な個性をもつ FISH の演劇的ヴォーカルを軸に、ヘヴィで現代的な音作りの中にプログレッシヴ・ロックへの憧憬を織り込んだデビュー作。 エキセントリックなヴォーカルとクリアな音色の器楽からなる演奏は、技巧よりも全体の醸し出すムードを重視しているようだ。 また FISH による物語性のある歌詞も、彼等の表現にとって重要な役割をもつようだ。 そして、ハケット風味のサスティンに HM/HR 的なアタックを加えたスティーヴ・ロザリーのギター・スタイルは、新世代のメロディアスなギター・プレイの典型となってゆく。 我が世代にとって初体験のフォロワーであり、当時の非難轟々も今思えば、沈滞するシーンへの過剰反応と思えなくもない。 シンプルなドラム・パターンや音の軽いシンセサイザーなど、80 年代初頭の音に我慢ができれば、決して悪くはない。
  EMI のデジタル・リマスター盤は CD 2 枚組。 オリジナル・アルバムの内容に加えて、シングルやオルタネート・テイクが収録されている。 プロデュースは、デヴィッド・ヒッチコックが予定されていたが、自動車事故で起用できず、ピーター・タウバーが起用された。 ひょっとしてヒッチコック版もあるのではと期待を抱かせる裏話である。

  「Script For A Jester's Tear」(8:44) 感傷的過ぎるほどに感傷的なメロディ・ライン、躁鬱の果て、狂気スレスレのエキセントリックな絶唱、それをデリケートに守り立て寄り添うアンサンブル。 か細い印象の器楽が、ヴォーカルの嘆きとともに次第に厚みをまし、感情の面向きのままにうねりを作り出してゆく。 無駄のない音の配置による全体の雰囲気の作り方と、剛柔、明暗、速度の変化のさせ方がみごと。 メロディ、器楽アレンジの点でアルバム・オープナーにふさわしい傑作である。 エコーをかけたエレクトリック・ピアノから多彩な音色(晩鐘、オルゴール、その他)のシンセサイザー、ハードロック調ながらも、なめらかな筆致でよく歌うギター、リズム・キープを超えた自由な発想のリズム・セクション。 恋の破局を嘆く道化師の物語である。 もしストリングス・シンセサイザーがメロトロンだったら、80 年代の作品とは思えないでしょう。

  「He Knows You Know」(5:23) ハードなタッチの中に英国ロックらしいメランコリーが感じられる作品。 ヴォーカル表現のデフォルメとリズムのアクセントが強めだが、ストリングス系キーボードによるうっすらとヴェールをかけるような彩りと、つややかなバンクス風リフレインが、叙情的な印象を高める。 ハケット風のサスティン・ギターも思い切り泣き叫ぶ。 ストリングスが鳴りっ放しなだけに、ここでも、これがメロトロンならば...という幻想を捨て切れない(そういう声も多かったせいか、本 CD では 2 枚目にメロトロン版の別テイク収録)。

  「The Web」(8:52) オムニバス風にいくつかの場面を展開する大作。 冒頭こそ、一人芝居ヴォーカルと鋭いリズムでモダンに迫るが、次第に古典的なシンフォニック・ロック風の曲調へと変化する。 嘆きのヴォイス、角張ったシンセサイザーのオスティナート、アコースティック・ギター風のアルペジオ、シャフルのベース・パターンなど、後半へ向かうに連れて、モロにクラシック GENESIS に変貌(6:30 以降の展開はおみごと)する。 シンセサイザーからギターまで、ソロも大きくフィーチュア。 1 回聴いただけではなかなか分からないが、何度か聴くうちに、丹念な器楽の面白さに気づく。 そういうところも本家と同じ。 ただし、強烈に印象に残るメロディがない。 その点だけが残念だ。 歌詞は、失恋に端を発するノイローゼを克服する様子?

  「Garden Party」(7:19) 明快なメロディ・ラインを強烈なビート感と叙情的なキーボードで彩った作品。 キーボードは音色こそ豊富だが、凝った演奏ではなくフレーズは聴きやすい。 ギターはキーボードとほぼ同じラインをなぞっているようだ。 長さのわりには。シンプルな印象を与える作品だ。 歌詞は、園遊会を皮肉った内容のようだ。

  「Chelsea Monday」(8:17) スターになることを夢見つつ、空疎な現実を生きる少女の妄想が無限の哀愁を呼ぶバラードの名作。 1 曲目と同じく、センチメンタルなヴォーカル表現は、圧倒的な迫力を持つ。 そして、落ちついた調子でじっくりと歌い込むヴォーカルとともに、苦悩と哀愁を一手に引き受けるのは、ギターである。 サビでは一気に迸り、ロザリー節全開である。 ヴォーカルを坦々と支えるベースも印象的。 可憐なイメージの演奏は「A Trick Of The Tail」の同曲と同じく英国ポップスの伝統だろう。 冒頭の SE が描く街 Chelsea というのは、芸術家が多く住むところらしいです。

  「Forgotten Sons」(8:23)

  ボーナス・トラック 1 曲目は、記念すべきデビュー・シングル「Market Square Heros」。 ギターのパワーコードが轟くオープニングを経て、リズミカルなシンセサイザーが伴奏する軽快なロックンロールである。 ヴォーカルの多彩な表情、デジタル・シンセサイザーのつややかな音色、ソリッドなギターなどの音が、当時は決定的に新しかったのだろう。 チャート・ヒットを狙った戦略的な作品のようだ。

  ボーナス・トラック 2 曲目は、未発表曲「Three Boats Down From The Candy」。 激しくたたみかけるシンセサイザーのプレイと、静かなギターのアルペジオ伴奏によるヴォーカル・パートの鮮やかな対比。 シャープなギター・リフやスピーディなシンセサイザーのプレイなども特徴的。 いかにもアルバム収録曲のプロトタイプといった感じの作品だ。

  ボーナス・トラック 3 曲目は、セカンド・シングルの大作「Grendel」。 まさに GENESIS クローンの面目躍如の 19 分あまりのシンフォニック大作。 1) Heorot's plea and Grendel's awakening と 2) Grendel's Journey そして 3) Lurker at the Threshold の三部からなるベーオウルフ伝説である。 おもしろいのは、退治される魔物グレンデルの視点から描かれているところ。 題材といい、目くるめくドラマチックな展開といい、間違いなく 70 年代プログレッシヴ・ロックの再現/復刻を目指した作品である。 そして、シンセサイザー、ギターによる変拍子を交えた巧みな演奏は、サウンドこそデジタルでマシナリーだが、80 年代に 70 年代初期の GENESIS が甦ったといっていいものである (もっとも終盤のベースのリフだけは、ちょっとやり過ぎかもしれないが)。 この作品が MARILLION の評価を決定つけたのだ。 ちなみに、FISH がインタビューに応えて、本作は GENESIS の「Supper's Ready」にも比肩しうる、みたいなことをいってるが、さすがにそれは背負い過ぎ。

  4、5 曲目は「Chelsea Monday」、「He Knows You Know」のデモ・テイク。 メロトロンをフィーチュアしたアレンジになっており、デジタル・シンセサイザーを使ったアルバム・ヴァージョンとの印象の違いが興味深い。


  80 年代初期において、デフォルメされた表情を駆使するヴォーカルや芸術的なメロディ・ライン、透明感のあるアンサンブルなどが、決定的に新しかった作品。 シンフォニックなプログレッシヴ・ロックからの影響を受け止めて生み出された、メロディアスで耽美なロックである。 演劇的なヴォーカル・パフォーマンスや歌詞、きわめてメロディアスなギター・プレイなど、英国ロックの王道をゆくプレイが特徴だ。 もっとも、サウンドそのものは、さすがに 70 年代よりもぐっとデジタルなクールネスをもっている。 物語調の楽曲を実体化する演奏スタイルは、テクニカルなプレイよりも、広がりのある音を活かした堅実なアンサンブルと個性的なソロに重点を置くものである。 さざめくようなアンサンブルと濃厚でしつこいヴォーカルが、対比しつつ巧みに連携もして、独特の音楽をつくりあげている。 もっとも、感傷を前面に出しつつ人工的なメロディ・ラインと技巧的表情づけを駆使するヴォーカルのスタイルは、かなり好き嫌いが分かれそうだ。 全体にリズムのアクセントがきつく、ドラムスの音も大きめなのは、当時のハードロック向けのプロデュースのせいかもしれない。 できればもう少しソフトな音づくりであってほしかった。
  
(EMI 7243 8 57865 2 5)

 Fugazi

 
Ian Mosley drums, percussion
Steve Rothery guitars
Pete Trewavas bass
FISH(Drek Dick) vocals
Mark Kelly keyboards

  84 年発表の第ニ作「Fugazi」。 ドラマーにベテラン、イアン・モズレイを迎えた。 暗殺者からリアルな夫婦倦怠期まで、エキセントリックなテーマの歌詞の世界が、さらに広がりを見せている。 もっとも、一作目に続いて、心を病んだ道化師の妄想の世界を、さらに綿密に描いていると深読みもできる。 裏ジャケを見ると、なぜかピーター・ハミルのソロ・アルバムが転がっており、プログレッシヴ・ロックへの思い入れとともに内省的な作品イメージをアピールするようでもある。 メロディ・ラインは、やや分かりやすく変化したようだ。 個性的なヴォーカル表現に加えて、ギターとシンセサイザーが縦横無尽に活躍しており、器楽は充実している。 重い聴き応えのあるアルバムだ。 プロデュースはニック・タウバー。

  「Assassing」(7:01) シンフォニックに高まるもインド、東洋風味のシンセサイザー、そしてエキゾティックなコーラス、シタールも聴こえてくる。 ドラムはアフロなビートを刻み、シンセサイザーがゆるゆると歌う。 シンセサイザーが次第にシャープな和音を響かせ始めると、ヴォーカルの一声をきっかけに、ギターが小気味よくコードを刻み、歯切れいいフレーズを決める。 ヴォーカルもなめらか、メロディアスであり、前作よりもぐっとキャッチーな印象だ。 もっとも「Assassing!」なので、あんまりまともな歌詞とは思えないが。 最初の間奏はすばらしくなめらかなギター。 続いて、シンセサイザー。 スピーディなフレージングから単音の美しいフレーズを奏でる。 弾力あるベースを中心にエキゾティックなリフが刻まれるとを繰り出すと、謎めいた独り言風のヴォーカルが帰ってくる。 シンセサイザーの和音の高まりとともに、ヴォーカルも高らかに詠唱するも、独り対話のような奇妙な閉塞感をもつ表現が続く。 ギターとシンセサイザーの呼応によるリフがキャッチーな分、歪なイメージも漂い始める。 もっとも、最後まで元気よく突き進むのだが。
  エキゾティックなムードを巧みに生かしたポップ・チューン。 POLICE あたりと近いセンスを感じる、ということは典型的な 80 年代英国ロックの 1 つということだろう。 インディ・ジョーンズの序盤のようなアジアの曙的イントロから、ヴォーカルの入りまで、なかなか劇的でカッコいい。 その後は、ノリのいいきわめてシンプルなリズムの上で、ギター、シンセサイザーが、切れ味よくヴォーカルを支える。 リズム・セクションは、普通の 8 ビートを実に豊かに響かせており、さすがというべきだろう。 7 分のわりには演奏に展開がなく(プレイのキレのよさはすごいのだが)構成もシンプルなのは、もっぱら歌詞を聴かせることに重点をおいているからだろう。

  「Punch A Judy」(3:18) ホーン系デジタル・シンセサイザーによる 7 拍子リフレインにヘヴィなギターがかみつくインパクトあるオープニング。 付点のある「つまづきそうな」リズム・パターンを伴奏に、ヴォーカルは全開。 得意のスタイルである。 「Watcher Of The Skies」の系譜にある作風である。 メロディも冴えており、歌唱との相性もいい。 リズムへの乗っかり方もいい感じだ。
  リズミカルにして印象的なメロディもある佳曲。 3 分あまりのシングル風の作品であり、エッセンスをきちんと詰め込んだ印象がある。 特に、なめらかなヴォーカルと対照的なひっかかりのあるリズム・パターンのおかげで、曲に面白いノリがある。 歌詞は、女房を殴って別れたいという洒落でもなんでもない妙なもの。 ちなみに「Punch And Judy Show」といえばイギリスのこっけい夫婦人形劇の定番。

  「Jigsaw」(6:46) 思い切りファンタジー調のシンセサイザーのアルペジオと祈りを捧げるようなヴォーカル。 ややカマトト風ではあるが、叙情派の名に恥じぬ表現である。 対照的にサビでは強烈に思いを叩きつける。 パワフルな歌唱を和らげるのは、やはりキーボードの響きだ。 間奏では、ギターが思いのたけをすべて歌い上げる。 微妙なスローミドルのテンポをきっちり仕切り、多彩な表現を見せるドラムスがみごと。
  前作の作風に近い、ミドル・テンポの感傷的な作品。 優美な表現とパワフルな表現を極端な落差で往復するだが、基本的には叙情的な作品である。 愛らしいキーボードとともに朗々たる歌唱が響き、ストリングス系シンセイサイザーをバックにメロディアスなギターが泣き捲くる。 お涙頂戴風の表現が主となる中で、力強いベース・ラインが印象的だ。 女房ではなく愛人との別離を歌っているせいか、前曲と異なり、夢を追う切なさと引き千切られる哀しみが、ちゃんと表現されている。 歌唱力が生かされた傑作。

  「Emerald Lies」(5:08) 凡百のフォロワーの胸を射抜いたに違いないシンセサイザーの変拍子パターン。 鮮やかなのだが、いかんせん手垢がつき過ぎた。 メイン・ヴォーカルは謎めいた詠嘆、モノローグ調、ギターのアルペジオが寄り添う。 「Chelsea Monday」を思い出す。 高鳴るシンセサイザーとともに新たな展開へ。 唸りを上げるギターとベース。 そしてしなやかなギターとともにヴォーカルは怒りにまみれる。 迸るような音はメロトロンだろうか。 堂々たるアンサンブルがシンフォニックな広がりを生み、淡々としかし朗々と歌は続く。 ギターとキーボードを中心とする重厚な演奏は、プログレの伝統を受け継ぐものだ。 フィードバックの残響を残して去ってゆく。
   NWOBHR とは異なった手法でブリティッシュ・ロックの伝統を継承する好作品。 80 年代HR 風のオープニングにも、ヘヴィさよりも、しなやかで弾力的なイメージが強い。 静・鬱から動・怒へのヴォーカルの表情の変化が曲の流れとマッチしており、ここへきてようやくその多彩で巧妙な表現力が明らかになる。 激情と重苦しさ、哀感がしっかりと盛り込まれている。 終盤に向けての安定感と重みのあるアンサンブルがカッコいい。 堅実な演奏力を生かした傑作。

  「She Chameleon」(6:53) オルガンによる教会風のリフレインが、厳かにしてややミステリアスなタッチを次第に深めると、珍しくヴォーカルが静かに歌い出す。 ファルセットなど FISH らしさが映える美しいメロディである。 「Watch The Lizard!」 力強いドラムスの打撃が、ヴォーカルをドラマチックに守り立てる。 オルガンとオーヴァーラップして、透き通るようなシンセサイザーの調べが浮き沈み、ベース、ドラムスが楔を打ち込む。 間奏は、軽やかなシンセサイザー・ソロ。 バンクス調のプレイである。 ヴァースに続く二度目の間奏は、サスティンを効かせてむせび泣くギターである。 早めのヴィヴラートが特徴的だ。 最後まで、訴えかけるようなヴォーカルがリードしてゆく。
  暗くメロディアスなバラード。 再び前作の作風を生かしつつ、エキセントリックではなく、クラシカルというべき気品を感じさせる内容である。 切々たるメロディ・ラインは AOR のスタンダードの如き美しいもの。 シンセサイザーがさまざまに活躍し、ギターも見せ場をもつ。 このシンセサイザー・ソロのスタイル含め、本曲の作風はネオ・プログレの元ネタとして営々と受け継がれる。 メロディがいいことで、エキセントリックなヴォーカル・スタイルも活きてくる。

  「Incubus」(8:30)またまた FISH のけったいな擬音から始まる。 バッキングは前曲に続きオルガンそしてギターのコードを奏でるシンプルなリフ。 間奏はまずシンセサイザー。 続いてギターのような美しいアルペジオに乗ってヴォーカル。 ここのヴォーカルは表情を抑えて歌い込んでおり歌のうまさが際立っている。 いつもこうすればいいのに。 そしてイントロの「Whoooowa」が再現しヴォーカル・パート。 リズムが止むと淡々としたピアノと生々しいギターのメランコリックなデュオをバックにヴォーカルが切々と歌う。 フルートのようなシンセサイザーのメロディが聞こえる。 ドラムが戻りギターのエモーショナルなソロ。 やや抑え目に歌う見事なソロだ。
  FISH の妙な擬音さえなければ前曲に続きドラマチックな佳作であっただろう。 ヴォーカルには正統的なうまさがありギター、シンセサイザーのソロには華やかさと哀愁もある。 静と動のコントラストも鮮やかな作品だ。

  「Fugazi」(8:02)ピアノの沈んだリフレインそしてヴォーカルが歌い出す。 密やかな独り言のようなヴォーカルとピアノのデュオが続く。 デュオが静かに終わると鮮やかなギターのリフレインそしてベースの連打とともにヴォーカルが力強く吠え始める。 一人二役のようなヴォーカルそして激しいギターが轟きシンセサイザーが軽くオブリガートする。 リズムが軽快に跳ね始めシンセサイザーの軽やかなリフレインとギターのコードが演奏をドライヴする。 そして別人のようなヴォーカル。 ちょっとテクノっぽいところが面白い。 そして FISH のヴォーカルが強烈に応酬する。 決めとドラムのフィルそしてギター・ソロへ。 再び躍動感のあるリズムでヴォーカルが元気に歌う。 ギターのオブリガートからヴォーカル。 鮮やかに決めが入るとシンセサイザーのエレクトロ・ポップ風の低音がごぼごぼと響きメタリックな和音が轟く。 そのままヴォーカルが歌い出しベースとシンセサイザーは低音のリフでアクセントをつけ続ける。 ギターは遥か彼方を悲鳴のように通り過ぎる。 重苦しい演奏だ。 叫ぶヴォーカル。 そしてようやくギターのリフへ移り軽快さが戻るとヴォーカルは最後の一節を繰り返して終わり。
  ストレートな作風にミステリアスなトーンが貫く英国ロックらしい好作品。 かなり長いが、ヴォーカルを除けばあまり変化はなく、パワフルなハードポップである。 短ければ、シングル向きだろう。 イントロのピアノや中間部の重苦しいシンセサイザーが轟くシーンなど、プログレッシヴ・ロック的な構成があるにも関わらずこういう印象を残すのは、ヴォーカルがしつこすぎる、もっといえば強烈な個性が仇になってかえって食傷しているからであろう。


  エキセントリックなヴォーカルとダイナミクスの大きな演奏が結びついたドラマチックな作品。 ユニークな歌詞を、メロディアスなギターとシンセサイザーが彩り、表情豊かなヴォーカルが歌い上げるというスタイルが、ほぼ完成している。 歌詞の世界が分かると面白みはさらに増すでしょう。 FISH の歌唱の強烈な存在感に違和感を覚えなければ、なかなかの作品といえるだろう。
   唯一残念なのは、80 ポップらしくというかなんというか往時のサウンド処理があまりこのグループのスタイルに合わないこと。情念で迫る作風なだけに、もっと深みのある音がほしかった。 このサウンドだと、せっかくのキレと弾力のある演奏が歌唱の存在感に負けてしまい、全体のバランスが悪くなってしまう。 せっかくの好作品の味わいが多くの人に伝わりにくくなるのは残念だ。 たまたま本作を手にした方は、2、3 回のリスニングで売り飛ばさないで 1 年くらいは抱えていましょう。
  スティーヴ・ロザリーのスタイルは確立、メロディアスにして中身あるプレイを堅実に放っている。 キーボードもかなり目立った動きを見せている。デジタルではあるが全体の透明感と整合感はこのキーボードのプレイに負う。 このクリアな演奏と濃厚で毛深いヴォーカルのアンマッチが、ユニークなところだ。 またドラムは、さすがというべきか、ミドル・テンポの 8 ビートもフィルも非常に的確であり、躍動感をもって曲をしっかり支えている。 あえて楽曲のスピードを抑えてたっぷりメロディを歌わせることができるのも、このドラムのおかげだろう。
  前作の延長上で、楽曲、器楽のヴァリエーションと充実を図った完成形。
  
(CAPTOL CDP 7 46027 2)

 Real To Reel

 
FISH voice
Steve Rothery guitars
Mark Kelly keyboards
Pete Trewavas bass
Ian Mosley percussion

  84 年発表のライヴ・アルバム「Real To Reel」。 第一作および第二作からのナンバーをメインに二つの会場のライヴをまとめている。 ギターの存在感、力強くも丹念なリズム、迫真のヴォーカルなど楽曲(特に前半の第二作のナンバー)はスタジオ盤を遥かに越えたプレゼンスをもつ。 ロック・バンドとしての力量・存在感を認めさせる力があります。 本 CD は 86 年の EP「Brief Encounter」とのカップリング。

  「Assasing
  「Incubus
  「Cinderella Search
  「Emerald Lies
  「Forgotten Sons
  「Garden Party
  「Market Square Heroes

(EMI 7243 8 56107 2 1)

 Misplaced Childhood

 
FISH voice
Steve Rothery guitars
Mark Kelly keyboards
Pete Trewavas bass
Ian Mosley percussion

  85 年発表の第三作「Misplaced Childhood」。少年の成長を描いたトータル・アルバムのようだ。 成長とは、プログレッシヴ・ロックからの出立のアナロジーだろうか。 全編途切れなく続く楽曲群は、率直にして情感豊かであり、取りつきやすさも遥かにアップ。 ギター、キーボードともに、ゆったりと懐深い音で包み込むような表現を見せる。 これは、ヴォーカルがメロディアスな表現をこころがけ、エキセントリックにデフォルメされた表情をやや抑えたことに起因するようだ。全体として当時のメイン・ストリーム・ロックの質感に近づきつつも、THE BEATLES から流れ続けるブリット・ポップの王道からも決して外れていない。 ややセンチメンタリズムを強調する前半を経た、後半の躍動的でオプティミスティックな響きの高まりは、変拍子こそあれ三人 GENESIS よりもさらにアメリカナイズされたレイド・バック感がある。 また、ギターの音に、POLICE のアンディ・サマーズや U2 のエッジを思い出してしまうのは、流行の電子技術に束縛されるエレクトリック・ミュージックとしては、もはやいた仕方ないところなのだろう。 もちろん、独特のなめらかさをもって朗々と歌い上げるロザリーのスタイルは、スティーヴ・ハケットの繊細さとデヴィッド・ギルモア(ギターに限らず PINK FLOYD の「The Wall」の影響は大きそうだ)や 70 年代中盤のエリック・クラプトンのブルーズ・フィーリングをモダンに洗練したような不思議な個性をもっている。 高らかなロングトーンには自信がみなぎっている。 また、デジタル・シンセサイザーを輝かしい音で操り、ささやくようなピアノで涙を誘うキーボーディストと、メロディとリズムを同時に支えるベーシストもいい仕事をしている。 それにしても、このサウンドで、ヴォーカルがもっとストレートで透明感のある声質だったらどんなによかっただろう。 個人的に前半の音は、プログレというよりも、70 年代中盤以降日本のポップ・シーンの主流を占めた「ニューミュージック」を思いださせる。往年の英国ロックのような R&B やトラッド・フォーク的な音がベースに見えないせいか、音にタフな存在感や運動神経は感じられない。サウンドそのものもメロディアスでスペイシーではあるが、シンフォニックというのとはやや異なるような気がしてならない。一方後半は、劇的な大作を核にして力強さと苦悩の果ての突き抜け感があり、PINK FLOYDGENESIS を合わせたような手応えある内容になっている。この現世肯定的な開き直りこそが成長の証なのだろうか。いや、答えを急ぐまい。まだまだ道は続くのだ。 プロデュースはクリス・キンゼイ。 「Kayleigh」は 1985 年に全英チャート二位のヒットとなった。 さらに鑑賞予定。

  「Pseudo Silk Kimono」(2:13)
  「Kayleigh」(4:03)
  「Lavender」(2:27)
  「Bitter Suite」(5:53)GENESIS 風の組曲。他の作品と比べて感傷的過ぎないため後味がいい。CD では 5:53 で次の曲に移るが、実際は 6 曲目の最初の 2 分はこの曲の第四部、第五部である。
  「Heart Of Lothian」(6:02)

  「Waterhouse(Expresso Bongo)」(2:12)
  「Lords Of The Backstage」(1:52)
  「Blind Curve」(9:29) "Jester's Tear" 直系の泣きの大作。
  「Childhoods End?」(4:32)
  「White Feather」(2:23)
  
(CAPTOL CDP 7 46160 2)

 Clutching The Straws

 
FISH voice
Steve Rothery guitars
Mark Kelly keyboards
Pete Trewavas bass
Ian Mosley drums, percussion
guest:
Tessa Niles backing vocals on 2, 11
Chris Kimsey backing vocals on 7
John Cavanagh backing voice on 8

  87 年発表の第四作「Clutching The Straws」。 FISH 在籍最後のアルバム。 叙情性が前面に出た前作から、元の路線に戻ってきた。 ただし、パフォーマンスは格段に安定感を増し、ストレートに訴えかける表現にも落ちつきがある。 演奏、ヴォーカルともに、スタイルを貫くための強迫的なエキセントリシティの呪縛から解かれたように、明快で自然な表現を身につけている。 透明感あるプログレ風ハードロックといった趣のサウンドと私小説的な重みを背負った FISH の歌い込みは第一作に近いのだが、奇を衒ったような技巧的メロディや青臭い "WANNA BE" が払底したおかげで、聴き心地はかなり異なる。 無常感と涙の果てに、ようやく凛とした表情とパワー、幅広い共感を呼ぶための余裕あるポップ・テイストを手にしたのだ。(「Incommunicado」のようなスタイルは、個人的にはあまり似合うとは思わないが) そして、過剰なデフォルメがなくなってみると、シリアスなメッセージがよりストレートにリアリティをもって迫ってくるのが分かる。 デリカシーあふれるオリジナルなロックを、切々と訴えるだけではなくカッコよくも演じられることを実証した作品といえるだろう。
  他にも、キーボードを中心とした重厚華麗な曲調、深い空間的な広がり、じっくり歌い込むバラードにおけるヴォーカルの細やかな表現力、ギターがブルージーなソロよりも、アルペジオやバッキングを主としていること(「Sugar Mice」で見せ場を作ってはくれるが、そこまでは抑え気味である)などが本アルバムの特徴だろう。 個人的には、軽快という名の下の軽薄さにうんざりしていただけに、こうした方向への変化、成長はうれしい。 あとは 7 拍子のキーボード・リフを卒業するだけだろう。 プロデュースはクリス・キンゼイ。

  「Hotel Hobbies」(3:35)
  「Warm Wet Circle」(4:25)
  「That Time Of The Night(The Short Straw」(6:00)
  「Going Under」(2:47)
  「Just For The Record」(3:09)
  「White Russian」(6:27)名曲。
  「Incommunicado」(5:16)
  「Torch Song」(4:04)
  「Slainte Mhath」(4:45)
  「Sugar Mice」(5:46)
  「The Last Straw」(5:58)
  「Happy Ending
  
(CAPTOL CDP 7 46866 2)

 Brave

 
Steve Hogarth voice
Steve Rothery guitars
Mark Kelly keyboards
Pete Trewavas bass
Ian Mosley drums, percussion

  94 年発表のアルバム「Brave」。 重厚なトータル・アルバムの傑作。 切れ目なく続く曲が、波打つようにゆったりとしたうねりを作り、耳を惹きつけながらも決して強制はしない聴きやすさがある。 これは強弱、硬軟、緊張/弛緩の変化が、きわめてナチュラルであるためだろう。 アンビエントといってもいいほどのスペイシーな曲調と、小気味よく躍動する演奏を行き交う表現が、非常にうまいのだ。 (そう感じてしまうと、8 曲目がやや唐突なのですがいかがでしょう) 大作の語り口としては、理想的である。 ヴォーカル、ギター、キーボード、ドラムスらがそれぞれが見せるプレイが、情感と審美センスにあふれながらもあくまで明快なところも、聴きやすさの理由の一つだろう。 さて、世界に散らばる PINK FLOYD フォロワーがプログレ・リヴァイヴァルの立役者の一派であることは論を待たないが、本作で見られる SE やサイケデリックなセンスは、もしかするとそういう流れからのいわば逆輸入モノなのかもしれない。 思わず PORCUPINE TREE 辺りとも比べたくなる。 プログレからニューウェーヴを経て、英国ロック本流が到達した場所がここということならば、世の中まだまだ捨てたもんじゃない。 プロデュースはデイヴ・ミーガンとグループ。
  
(7243 8 28032 2 5)

 This Strange Engine

 
Steve Hogarth voice
Steve Rothery guitars
Mark Kelly keyboards
Pete Trewavas bass
Ian Mosley drums, percussion

  97 年発表のアルバム「This Strange Engine」。 内省的で叙情的な佳作。 一度目のリスニングではあまりの地味さに驚くが、繰り返しきちんと耳を傾ければ、自らの心の声のような歌がしみわたってくる。 そして、穏やかな空気の中にも、しっかりと胸を震わせるメロディ・ラインやハーモニーがある。 7 曲目「Hope For The Future」も、こういう位置に配されることで、一層輝いている。 アイリッシュ調のメランコリーに交えたアメリカン・ロック風の音使いもいい。 全体にアコースティックなイメージの作品である。 おそらく U2POLICE などに倣った面もあるのでは。 1 曲目「Man Of A Thousand Faces」の俗っぽくないアイリッシュ・テイストとビリー・ジョエルのような歌唱の説得力、2 曲目のバラード「One Fine Day」の、THE BEATLES に通じる寓話性と完成度、3 曲目「80 Days」のバロック・トランペットを思わせるシンセサイザーなど、特に前半に印象的なシーンが多い。
  
(CMRCD071)

 Radiation

 
Steve Hogarth voice
Steve Rothery guitars
Mark Kelly keyboards
Pete Trewavas bass
Ian Mosley drums, percussion

  98 年発表のアルバム「Radiation」。 ここまで来ると、世間ではすでにプログレ扱いされておらず、コアなシンパが懸命に応援するも、チャートからもノスタルジーが支えるネオ・プログレ・シーンからも見放されているようだ。 しかしながら、ひっそりとした佇まいのわりには、RADIOHEADKULA SHAKER らによる 70 年代解釈を逆輸入する形で過激にスタイルとしてのプログレをキープしているあたりは、天晴れなように思う。 もっとも、70 年代プログレを体験もしくは早めに追体験したファン層はこの時期すでにロックから離れており、また、メディアもプログレ・リヴァイヴァルで大御所の再発/データ整理や気鋭の新人の発掘におおわらわだったせいもあって、このバンドの熱心なリスナーだった 80 年代初頭以降の HR/HM 経由のファン層がこの音がプログレであると気づかなかった、というのが実情だろう。 (まあ、ちょっとプログレ・リヴァイヴァルには時期的に遅すぎたという話もある)  なんとも皮肉めいた状況である。 ライナーや世間のレビューなるものを見ても、大手レーベルから遠ざかっただの、マネジメントがどうしただの、業界訳知り系の話ばかりで肝心の音は本当に知られていないようだ。 デジタル・テクノロジーのせいで、音をドープするよりも周辺情報に通じることが簡単になったのは確かであり、そして、ゴシップ好きはファンの悪弊として仕方がないが、全員でゴシップ集めに回る必要はさらさらない。
  さて、この作品については、間違いなく 70 年代ブリティッシュ/プログレ・ファンにはお薦めできる逸品です、とだけいっておけば十分である。 メランコリックなメロディも、ハモンドもメロトロンもストリングスもあり。 もちろん THE BEATLES もある。 そして、いらつくようにヘヴィなギター・ロックやヤマアラシのようなセンチメンタリズムあふれるバラードなど、英国ロックらしい面構えもちゃんと見せてくれる。 PORCUPINE TREE よりはヴァラエティに富んでおり、ポップさ加減と重苦しさのバランスもいい。 アーシーにブルージーに迫っても、サイケデリックに漂っても、嘘偽りのない手応えがある。 さすがベテランの技である。 IQ と同じく、時代の変遷を血肉にした、みごとなロックなのだ。 流行がワン・サイクル回り、温故知新的情報処理(というよりは巨大資本によるゾンビを働かせるプランテーション的カタログ化)が進んだおかげで、初期の FISH 時代よりも 70 年代ファンには受け入れやすいかもしれない。 プロデュースはグループとスチュアート・エヴリィ。

  「Costa Del Slough」()
  「Under The Sun」()
  「The Answering Machine」()
  「Three Minute Boy」()
  「Now She'll Never Know」()
  「These Chains」()
  「Born To Run」()
  「Cathedral Wait」()
  「A Few Words For The Dead」()
  「The Space」()ボーナス・トラック。「Seasons End」収録作品。
  「Fake Plastic Trees」()ボーナス・トラック。RADIOHEAD のカヴァー。
  
(PCCY 01281)

 marillion.com

 
Steve Hogarth voice
Steve Rothery guitars
Mark Kelly keyboards
Pete Trewavas bass
Ian Mosley drums, percussion

  99 年発表のアルバム「marillion.com」。 前作発表から続いてほぼ 1 年をかけて製作したアルバムのようだ。 ポップだがけだるく、ワイルドなようでセンチメンタルな英国ハードロックらしさのある佳品である。 パワーコードをガーンと叩きつけた後にさりげなくクラシカルなフレーズをオブリガートしたりする辺りが、ロザリーの卓越したセンスだし、ジョージ・ハリスンやクラプトン、ジェフ・リンのラインにしっかりつながっていると思うと、とてもうれしくなる。 グラムやパンクのような、うすっぺらなファッション性も見え隠れするが、決してそれは悪くはない。 いいじゃないの、ポップになったって。 惜しむらくは、中道にすっぽり収まるあまり、ガツンとくるようなインパクトに欠けること。 ただし、リラックスして流しておく分には、部屋をいい感じの空気で満たしてくれる。 レイドバックというと古過ぎるかもしれないが、そういう感じである。 まあこれだけコンスタントにアルバムを出すのだから、一つや二つ、不調もあって当然だろう。 ちなみに、爛熟するインターネット時代を象徴するようなタイトルは、この時期他にもいくつかのグループが採用した。
   「Rich」は AEROSMITH ばりのグラマラスなハードロック。 「Interior Lulu」は、なかなかプログレなキーボードが活躍する 15 分の長編。ポスト・ロック風でもある。 最終曲は、やや頼りなげなマイルス風トランペットをフィーチュアしたジャジーなポスト・ロック風の作品。 ロザリーもオクターヴで迫る。 オシャレです。
   結論は、くつろいだ感じもなかなかいいじゃないと思わせてくれる佳作。 名盤よりも愛聴盤がいい。 昔々、アシッド・フォークという表現があったが、MARILLION の最近の作風は、現代のアシッド・フォークロックというイメージである。 まあ、単なる与太ですが。 プロデュースは、グループ。一部のミックスにスティーヴ・ウィルソンの名前も見える。

  「A Legacy」()
  「Deserve」()
  「Go!」()
  「Rich」()
  「Enlightened」()
  「Built-in Bastard Radar」()
  「Tumble Down The Years」()
  「Interior Lulu」()
  「House」()
  
(NR4505)

 Anoraknophobia

 
H voice
Ian drums, percussion
Pete bass
Mark keyboards
Steve guitars

  2001 年発表のアルバム「Anoraknophobia」。 久々の傑作。 もともとアルバムを通した空気感を一貫させるのはうまいし、じわじわっとくるカッコよさもあるバンドなのだが、本作はそのカッコよさの立ち上がりのキレがいい。 ゾクっとくる瞬間がいくつもある。 前作とそう大きく音楽が変わっているわけではないので、「ようやく調子が上がってきた」と見るべきだろう。 多言は弄す必要なく、RADIOHEAD と同格にある、ブリティッシュ・ロック史のメルクマールたる作品とだけいっておこう。 もっとも、そんな位置づけを軽々ぶっ飛ばすほどに、ギラギラとして生々しいのだが。
   プロデュースは、グループ。

  
(INTACT 70501-2)


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