LIFETIME

  アメリカのジャズロック・グループ「LIFETIME」。 マイルス・グループを飛び出したトニー・ウィリアムスが、68 年ジョン・マクラフリン、ラリー・ヤングと結成。当時ジャズのオーディエンスからはそっぽを向かれ、ロック・ファンが詰めかけたそうです。ジャズロックの出発点の一つといえる音。NUCLEUS の創始者イアン・カーは、本グループに強い影響を受けたと語っている。2008 年ジャック・ブルース中心にトリビュート・グループが活動中。

 Emergency

 
Tony Williams drums, vocals
John Mclaughlin guitar
Larry Young organ

  69 年発表の第一作「Emergency」。 フリー・ジャズとヘヴィ・ロックが奇跡的な出会いを果たした大作である。 途方もなくアシッドなサウンドにジャズを放り込み、爆発力あるギターを核に、一気に世界をひっくり返した野心的な内容だ。 もっとも、それは結果論であり、燃え上がる感性に駆り立てられた突発的なアプローチに、あまり計画性は感じられない。 高度なジャズの素養をもったまま、一跨ぎで垣根を越えたらこうなりました、とアッケラカンとしているような感じである。 ジャズの電化、電化といわれるが、ここでの電化は桁外れであり、ワウやファズ、レスリーといったご法度品をそ知らぬ顔で持ち込んで、ドッカンドッカン爆発させている。 もはや電化というより「感電」である。 モダン・ジャズ的なソロすらも、やがて煮えたぎるカオスへと突っ込んでゆく。 その果てに新しい世界への道が見えたのかどうか、ウィリアムスに聴いておくべきであった。 アナログニ枚組。 プロデュースは、モンテ・ケイとジャック・ルイス。

  「Emergency」(9:35)。 強烈なドラム・ロールからギターのパワー・コードが炸裂するオープニング。 ノイズの嵐の中を、あまりにカッコいい 8 ビートのドラムスが突進する。 まずは、コルトレーンばりの "シーツ・オブ・サウンド" なギター・ソロ。 ヘヴィ・ディストーションで毛羽立った、それでもジャジーなプレイである。 ドラムスもシンバルを丹念に刻むジャズ・スタイルへ。 しかしリズム・キープの合間に打ち鳴らされる音がすごい。 豪雨のような連打である。 テンポ・ダウンとともに、オルガンの丸みを帯びたバッキングが聴こえてくる。 三者向かい合ったアドリヴ・タイムである。 次第に熱気が高まり、ドラムスのピック・アップをきっかけに一気に走り出す。 オルガンの和音の高まり、ギターのノイズ、重戦車のようなリズム。 再び干渉空間へ。 オルガンが荒々しくもリリカルなプレイで縁取ってゆく。 ギターはワウで毒々しく彩られ、オルガンを挑発するようだ。 ドラムスにあおられるように高まっては、拡散してゆく。 遂に、鋭い 4 ビートにリードを取られて、オルガンが走り出す。 ギターだけはノイズの海におぼれている。 すさまじいドラミングだ。オルガンも絶叫する。 さらりとオープニングのテーマへと回帰し、ぶつぶつと沸き立つような音を立ててエンディングへとひた走る。
   押し捲りのジャズロック。冒頭のテーマでカッコいい 8 ビートを見せつけるも、中間部はジャジーなソロと即興バトル。 それでもそのテンションたるや並ではない。 ドラムスは、どうしてこんなに音が出るのか不思議になるほど音がある。 ワイルドにしてキレと丹念さが際立つ。 ウィリアムス作。

  「Beyond Games」(8:17)。 ギターによるけだるげなリフレイン。 ギターをバックにウィリアムスのモノローグが入る。 これはまさしくラップである。 ダルなギターのフレーズとオルガンのコード・プレイによる執拗なリフレイン。 ドラムが饒舌に前面に出てくる。 再び語り。 ベース・ラインはオルガンか。 ギターはスリリングなトーンをもつコードにワウをかけて叫ぶ。 モノローグに重なる軋むようなギター、そして落ちつきはらったまま火を噴くオルガン。 ブルージーなロック・ギターとモノローグをフィーチュアしたストリート感覚あふれるナンバー。 執拗なリフが生むかったるさのなかに凶暴な表情がある、スロー R&B チューン。 クスリでヘロヘロになっているようなイメージ。 ウィリアムス作。

  「Where」(12:10)。 タムタムがざわめくミステリアスなオープニング。 ノイジーなギターがきまぐれに音を出す。 そして頼りなげなヴォーカル、応ずるギター。 おそらく即興なのだろう。 ライド・シンバルの連打、オルガンのリフとともにリズムが決まり、ギターはトレモロ風のフレーズやオクターヴを用いてアドリヴを見せる。 ギターはオルガンのリフを奪って一気に変拍子のトゥッティへ。 すぐにフリーな演奏の応酬へ。 そして今度は、ジャジーでアップテンポの 4 ビートへと変貌、ジャズ・ギター・ソロが始まる。 マクラフリン独特の猛スピードのトレモロも交えた、奔放なソロだ。 オルガンとギターのインタープレイも熱い。 一転リズムを失う。 再びヴォーカルとギターの怪しいやりとり。 ギターのエフェクトがエレクトリック・ピアノを思わせる。 ライド・シンバルとともに、今度は先のオルガンのリフをギターが奏で、オルガン・ソロ。 ギターはオクターヴ移動するなど、リフに飽き足らないようだ。 オルガンは音量が今ひとつだが、荒々しいプレイ。 再びやや加速したトゥッティで迫る。 轟々たるドラムスとともに演奏は煮え立つが、またもスピーディな 4 ビートが刻まれジャズ・オルガン・ソロ。 ギターのベース下降和音が轟く。 オルガンに対してギターがアドホックな戦いをしかける。 やや音量が落ち、タムの連打にギターが気まぐれに応じる。 オープニングに似た展開だ。 ものすごい迫力のスネア・ロールが飛び込むと、一気に騒然としたムードになる。 そして三度ヴォーカルとギターの呼応。 宙ぶらりんのようなヴォーカルの旋律とギターの余韻。 ざわめくタムタム、そして不気味にフロア・タムが打ち鳴らされる。 フェード・アウト。 即興・ソロの充実した大作。 リズム・キープを越えたドラミングによるアヴァンギャルドな雰囲気がカッコいい。 マクラフリン作。

  「Vashkar」(4:59)。 ギターの鋭いテーマをすさまじい手数のドラミングが支える。 モダン・ジャズ風のスリリングなテーマと 3 拍子のズレが、不思議な感覚を呼び覚ます。 まずはジャジーなギター・ソロ。 ややスパニッシュな雰囲気もある。 ドラムはとにかく全拍/全タム叩きまくって応戦。 膨れ上がるように高まる熱気、そして異常な緊迫感。 そしてギター、オルガンによるテーマヘ回帰。 続いてオルガン・ソロ。 スタカートする和音の連打は、ほとんどキース・エマーソン。 ドラミングとともに再び熱気高まる演奏。 圧迫感がある。 一気にインプロヴィゼーションに火が点き、ドラムを中心に全てが燃え上がる。 ギターは怪しげなノイズからワウによる絶叫へ。 やや音量がおちつくと、最後もギター、オルガンによるテーマを奏でる。 圧倒的手数のドラミングが迫る豪快なエレクトリック・ジャズ。 カーラ・ブレイ作。

  「Via The Spectrum Road」(7:49)。 ブルージーなギターとオルガンをしたがえた、けだるいヴォーカル。 アコースティック・ギターがオーバーダブされて、コードを響かせる。 ドラムのロール、そしてギターはブルージーなプレイ。 ジャズではなくブルースである。 テーマが終わると一気にリズムが細かくタイトに刻まれて、ギターが暴れ始める。 チョーキングを駆使したジャズ・ギタリストらしからぬプレイである。 リズムが重くなり、再びブルースへ。 ドラムスは丹念にリズムを刻みつつ、小爆発を繰り返す。 ギターも勝手に暴れており(マクラフリンのギタリストとしての守備範囲の広さに感服)、秩序らしい秩序はかろうじてドラムスの進行が支える。 オルガンはほぼ完全にノイズ。 ドラムスは、丹念なプレイに過激なロールをはさみ込み、ギターとも活発に反応しあう。 もっとも全体には緩めであり、獰猛な獣がお腹いっぱいになってまどろんでいるような風情である。 ブルージーな歌をテーマを即興演奏で彩る作品。 マクラフリン/ウィリアムス作。

  「Spectrum」(8:50)。 ギターとオルガンがスピーディなユニゾンを叩きつけるエレクトリック・ジャズ。 まずはギター・ソロ。 ジャジーな超絶速弾き大会である。 オルガンのコード伴奏もスピーディでカッコいい。 ドラムスはジャズ・ドラムの音量を倍にしたようなプレイ。 荒々しいがていねい、という矛盾した表現が似合う。 8 ビートではなくあくまで倍速 4 ビートである。 ユニゾン・テーマを性急に繰り返して、次はオルガン・ソロ。 テーマのせわしなさをそのままソロに持ち込んでいる。 ブルーズ・タッチの意外にオーソドックスなソロだが、ジャズ・オルガンとしては異色のワイルドなプレイだ。 芸術的なシンバル・ワーク。 盛り上がるオルガンに大胆な不協和音をぶつけるギター。 三度ユニゾンから、オルガンは R&B 調のベースへと移り、安定したビートとともに演奏は進む。 しかし次第に加熱、轟音渦巻く中からオルガンが鮮やかに飛び出す。 ギターはきわめて自分勝手なプレイである。 最後はギターの和音リフ、オルガンのベース・リフ、爆発的なドラミングが交錯した全体演奏へ。 オルガンをフィーチュアしたノイジーでワイルドなエレクトリック・ジャズ。 マクラフリン作。

  「Sangria For Three」(13:07)。 オルガンの旋律とギターのカッティングから始まり、リズムが決まるとギターが走り出す。 途中リズムが消え、オルガンとギターの難解なインプロになるが、リズムの復活とともにギター・リフとオルガンのテーマから演奏の輪郭がはっきりしてくる。 テンポが上がるとオルガンのアグレッシヴなソロ。 ワウ・ギターが絡み、ドラムの音量も上がってくる。 再びリズムが退き、シンバルとともにオルガンとギターの低音が轟く。 エフェクトをかけたオルガンの捻じれた音とギターの歪んだ音がもつれ合い、恐ろしげな緊張が高まる。 ドラムが悪魔を祓うような打撃を見せ、すべてが混沌としたままフェード・アウト。 リリカルな瞬間に CRIMSON と共通する詩情を感じさせる大作だ。 これは、オルガンのロングトーンがフリップのギターやメロトロンを思わせるせいだろう。 ウィリアムス作。

  「Something Special」(5:37)。 シンバルとともにギターがコードを響かせると、ドラム、オルガンのシンクロしたリフが応える。 これを交互に演奏すること数回。 やがてリフのみとなり執拗に繰り返される。 ドラムは我関せずで変幻自在に叩きまくっている。 ギターは伴奏であり、メインはドラムスである。 リズムがタイトにまとまり、攻め込むリフにも迫力が生まれてくる。 リフが弱まるとともに、ギターがかき鳴らされてシンバルの音が大きくかぶさって終わる。 デイヴ・ハーマン作。


  むんむんする熱気とクレイジーなワイルドネスを誇示するヘヴィ・ジャズロック。 まさに「ジャズにファズ」、またはジャズ・ハードロックというべき内容である。 恐ろしく音は悪いが、その音の迫力たるや並大抵ではない。 フュージョン前夜には、こんな異常な熱気が吹き荒れていたのである。
   ウィリアムスのドラミングは、リズム・キープをはるかに越えた表情豊かな演奏を見せる。 ドラムスが、これだけメロディックでフレーズを感じさせるとは、驚き以外の何ものでもない。 全体のイメージは原初段階のジャズロックであり、フリーを経たモダン・ジャズに、ハードロックのサウンドを叩き込んだといえば通りがいいだろう。 しかしながらその熱気には、そういった解釈を寄せつけないパワーがある。 これは、ウィリアムスが、ただもう矢も盾もたまらずロックの側へ飛び込んだ勢いが生んだ音なのだ。 そして、そのドラムの技術が、ロックの枠には到底収まらずはみ出してしまったところに、この過激で熱い音楽が生まれたのだろう。マクラフリンの手癖ギターは好き嫌い分かれそうだが、緊迫感という点では群を抜いており、このエネルギーを欠いても今回のアルバムの熱気はなかったろう。 録音の悪さも、この音楽には自然なのかもしれない。 それにしてもウィリアムスのシンバルさばきはすばらしい。
   ジャズ・オルガンという点でいうと、ラリー・ヤングという人選はなかなか興味深い。 ジミー・スミスに代表されるような、いわゆるソウル臭さよりも、モーダルでクールなプレイが求められてたということだろうか。
(POCJ-2538)

 Turn It Over

 
Tony Williams drums, vocals
John Mclaughlin guitar, vocals
Larry Young organ
Jack Bruce bass, lead vocals

  70 年発表の第ニ作「Turn It Over」。 ベーシストに元クリームのジャック・ブルースを迎える。 この人選はロック寄りのアプローチを強める意図に基づく、という推測がジャズ評論家を中心にあるようだが、ブルースは、ジャズの研鑚すらその一面に過ぎないといっていいほどの巨大なミュージシャンであり、ウィリアムスが「ジャズの異化」にとどまらないスケールの大きな音楽的な展開を求めた果てに出会ったのがブルースであった、という方が実際に近いのではと考える。 もちろん、技巧面においても、決して純ジャズ畑のミュージシャンに引けを取るようなことはない。 さて、その内容は、純ジャズ・ナンバーすら呑み込む、ドロドロとアシッドな、そしてライヴ感覚あふれるヘヴィ・ロックである。 これだけ演奏力の高いミュージシャンが試みる轟音サイケは、なかなか他では聴くことはできない。 ロックに突っ込みながらも、さらに次元の高い世界を目指しているような壮絶なドラミングと、空ろな視線のようなヴォイスを軸に、ほとんど即興のようなプレイが散りばめられ、ジャズからジミヘン・ハードロックまでのスペクトルをすさまじい勢いで揺れ動く。 まとまったものは何一つないが、足元が崩れるような混沌と殴打のように強烈な音のモーメンタムに、目が醒めること間違いなし。 主役はもちろんドラムスである。

  1曲目「To Whom May Concern-Them」(4:20)。 不気味なフロアタムの連打とハードロックそのものなギター・リフがからみあうカッコいいオープニング。 マクラフリンのリフをリードに、8 分の 6 拍子で突き進む。 ギターを軸にオルガンで広がりをつけるという、ごく基本的なコンビネーションもリズムとともに決まるとこんなにカッコいい。 絶叫するギター、オルガン。 それでも、時おりコリア (RETURN TO FOREVER か)らしいスパニッシュなニュアンスやジャズの和音感が浮かび上がる。 ただしサウンドは完全に歪み切っており、CREAM の即興に近い。 壮絶なスネア・ロールとともにすべてが一体となって駆け出す。 デンジャラスなムードと躍動感あふれるジャズロック。

  2曲目「To Whom May Concern-Us」(2:55)。 前曲からそのまま突入。 テーマとともにようやくコリアらしいスペニッシュ・テイストが表面に現れる。 ギターとオルガンが朗々たるユニゾンを決めて、再びヘヴィな世界へと突入。 壮絶なスネア・ロールとともにオルガンが迸り、ブルージーなソロへ。 のしかかるようなギターがすごい。 CREAMRTF が合体したようなすさまじい作品だ。 実際はいつまでも続くに違いない。 1 曲目、2 曲目はチック・コリア作。

  3曲目「This Night This Song」(3:44)。 頼りなげなウィリアムスのヴォーカルをフィーチュアしたストレンジな作品。 伴奏は電子音と化したオルガンとアドホックなアルペジオを刻むギター。 フレットレスによるベース・ラインもヴォイスと同じようにやるせなく、方向を失ったような響きである。 苛々とした精神状態をあらわすような、ざらついた感触ある作品だ。

  4曲目「Big Nick」(2:43)。 ようやく現れた軽やかなジャズ・ナンバー。 集中豪雨のようなドラミングとともに、オルガンがジャジーなソロを決めてゆく。 ハードロック・ギターのアクセントもいい感じだ。 もっとも、スウィングするノリでありながら、限界点近くで演奏しているような緊張感あり。 オルガンにもドラミングにも、音を鷲掴みにするような力まかせな熱気が漂っている。 コルトレーンの作品。

  5曲目「Right On」(1:49)。 マクラフリンのディストーション・ギターとヤングのオルガン、さらに怒りを爆発させるドラムスによる全開のプレイ。 インプロ合戦からクライマックスだけを抽出した作品。 ほとんど CRIMSON

  6曲目「Once I Loved」(5:08)。 何とボサ・ノヴァ。 原形はウィリアムスの頼りなげなヴォーカルにほんの少し残っているだけであり、電子ノイズとリズムのないフリーな演奏によってほとんど異形のものへと変貌している。

  7曲目「Vuelta Abajo」(4:57)。 初期 CRIMSON、ジミヘン辺りが混然となったようなヘヴィ・ロック。 粘っこいベースのリフにドライヴされて、ギター、オルガンが暴れ回る。 バッキングながら吼えるようなヤングがみごと。一方、マクラフリンのギターは、カッコいいのだが意外に線が細い。 そして圧巻は、ワイルドにして緻密なドラミング。 第一作から繰り返し実験されてきたハードロックとジャズの融合は、ウィリアムスのドラミングとヘヴィで暗いサウンドの結合という形態で実現に至ったようである。

  8曲目「A Famous Blues」(4:10)。 ドラムのリードで展開してゆく、このユニットらしい作品。 不気味なヴォーカルやオルガンのインプロもウィリアムスのドラミングに操られている。 マクラフリン作。

  9曲目「Allah Be Praised」(4:36)。 ヘヴィにしてスピーディなジャズロケンロー。 冒頭フュージョンの元祖のようななめらかなアンサンブルで迫るが、すぐに 4 ビートによるギターとオルガンのすさまじいかけあいが始まる。 中間部で破裂するようにフリーなプレイが湧き上がるところでピークを迎え、後半は再びジャジーなリズムで、オルガン、ギターがそれぞれに豪快なアドリヴで力強く進んでゆく。 熱気は凄まじいが、オルガンのソロは比較的オーソドックスだ。 終盤の一体となった全力疾走がカッコいい。 ここではオルガンも完全にブチ切れる。 ヤング作。

  10曲目「One Word」(3:45)。ボーナス・トラック。 MAHAVISHNU ORCHESTRA の名曲。 ジャック・ブルースが叫び、凶暴なギター、オルガン、ドラムがテクニカルなユニゾンでたたみかける。 異常な熱気を帯び、どこまでも荒っぽく、そして切ない。 マクラフリン作。


  ざらざらとした手触りのヘヴィ・ジャズ/ロック。 きちんとしたジャンル分けを試みると、必ず脱落しそうな内容である。 ジミヘンとフリー・ジャズが合体したような感じといえばいいのかもしれない。 ジャズ作品も完全に変形している。 ジャズの技巧で轟音ヘヴィ・ロックをやるとこうなるのだろうが、そこへさらに奇妙なヴォイスを放り込んで、あえて定点からずらすようなことも試みられている。 誰もが眉をひそめそうな内容だけに、ウケる人にはたまらないはず。 そして驚くべきは、これだけヘヴィでアシッドなサウンドと断片を寄り合わせたような作品にもかかわらず、ドラムスのプレイはどこまでも気品と節度がある。 丹念で美しいドラミングは、あたかも黒々と澱む電子の沼地に立ち尽くす一羽の白鳥のようだ。 若気の至りもここまでくるとみごとなものです。
(POCJ-2539)

 The Joy Of Flying

 
Tony Williams drums
Jan Hammer keyboards/synthesizer on 1,2,6,7
George Benson guitar on 2,7
Paul Jackson bass on 2,7
Ralph MacDonald percussion on 2
Tom Scott lyricon on 3,5
Herbie Hancock keyboards/synthesizer on 3,5
Stanley Clarke bass on 3,5
Ronnie Montrose guitar on 4
Brian Auger keyboards/synthesizer on 4
Mario Cipollina bass on 4
Cecil Taylor grand piano on 8

  78 年発表の作品「The Joy Of Flying」。 ジャズ、R&B、ロック、ファンクなどなど、さまざまな音楽をテンコ盛りしたフュージョン・アルバムである。 下品なシンセサイザーで走り回るヤン・ハマーを筆頭に、華やかなゲストとともに、思い切りやりたい放題の内容だ。 この方は、70 年代初頭の「恐るべき若気の至り」からも明らかなように、V.S.O.P みたいなフォーマットよりも、節操をぶっ飛ばして突っ走るときに本当の天才の冴えを見せるような気がする。 優れたアルバムかどうかはまったく定かではないが、アランホールズ・ワースを迎えた NEW LIFETIME の作品よりも楽しいのは、確かです。
   ヤン・ハマーとの 2 曲のデュオを聴いていると、「Wired」のドラムスがトニー・ウィリアムスだったらと妄想してしまう。 ジョージ・ベンソンは 7 曲目で華麗なるモダン・ジャズ・ギターを奏でる。 最終曲は、セシル・テイラーとのデュオ(おそらく即興)。これが笑っちゃうくらいすごい。 さて、カタルシスという点では、4 曲目のライヴ録音が白眉。 ロニー・モントローズの十字砲火に、爆発的な打撃で応戦するスリル満点の作品です。

  「Going Far」ヤン・ハマーとのデュオ。
  「Hip Skip」ファンキーなフュージョン。なんというかズレずにカチっと決まってます。
  「Hittin' On 6」クチャクチャのクラヴィネットがハンコックらしいスペース・ファンク・フュージョン。個人的には 2 曲目よりもこちら。
  「Open Fire」ハードロック。器用なハイテク・ハードロック・ギタリスト、モントローズと楽しげにバトルする。しかしながら、ウィリアムスのようにまったく力みなくいくらでもロールを加速、大音量化できると、ロックっぽく聞こえないことが分かった。 ハードロックのドラムスには「力み」や「モタり」が必要なようだ。
  「TONY」軟派なスムース・ジャズ。ピアノとともにリズムのキレはみごと。
  「ERIS
  「Coming Back Home
  「Morgan's Motion

(A 26500)


  close