イギリスのジャズ・ピアニスト「Keith Tippett」。 70 年のアルバム・デビュー以来、様々な形態での活動を続ける。プログレッシヴ・ロックとの接点として、69 年からの KING CRIMSON への参加が名高い。ジャズ、ロックに強く影響されるも、きわめて独自の審美センスでわが道を往く。
| Keith Tippett | piano, electric piano |
| Mark Charig | cornet |
| Elton Dean | alto sax |
| Nick Evens | trombone |
| Jeff Clyne | double bass, bass |
| Alan Jackson | drums, glockenspiel |
| Giorgio Gomelsky | bell |
70 年発表のアルバム「You Are Here... I Am There」。
バリー・サマー・スクールのベスト・プレイヤーで構成されたキース・ティペット・グループに、ベテラン・ベーシスト、ジェフ・クライン、ドラムのアラン・ジャクソンのリズム・セクションを加えて録音されたデビュー・アルバムである。
名物プロデューサーのジョルジオ・ゴメルスキが、ジャズとロックの垣根を取っ払ってプロデュースにあたり、なぜか、演奏にまでクレジットされている。
また、エンジニアは、YES で有名なエディ・オーフォード。
まさに、ジャズとロックがともに新しい姿へ変貌しつつ互いに交錯していた、当時のシーンを象徴するような顔ぶれである。
楽曲は、すべてティペット作。
サウンドは、ホーン・セクションを活かした幻想的フリー・ジャズをベースに、クラシック、トラッド、ポップスからのさまざまな和声、メロディを盛り込んだユニークなものである。
ラウドなリズム・セクションが、ジャズを逸脱してロック的なノリをつくり出すこともあるが、全体的には、ジャズロックより一歩ジャズ寄りの演奏である。
フリー・ジャズで鍛え上げた緊張と弛緩のコントラストを鮮やかに制御して、気高いイメージの叙情性を築き上げている。
爆発的なフリーといえるところもあるのだが、暖かいホーンの音色とシャープな 8 ビート、的確なピアノらによるクロスオーヴァー的なニュアンスもある。
かように微妙な位置にある、ややおとなしめのサウンドなのだが、熱気を封じ込めて、マイルドな口当たりにしながらも、鋭利なピアノが一瞬のきらめきのように飛び出してくる。
さらには、高邁な芸術性の横顔に浮かんだ微笑が THE BEATLES だったりする。
若々しくも充実したテクニックと豊かな感性が結びついた傑作である。
ティペットは本作品の後、三作品にわたって、KING CRIMSON とコラボレーションする。
「This Evening Was Like Last Year(To Sarah)」(9:05)オープニング、誰もが「Islands」の冒頭「Formentera Lady」を思い浮かべるはず。きわめてシンフォニックな作風だ。
「I Wish There Was A Nowhere」(14:02)ディーンのサックスをフィーチュアしたピアノ・トリオを経て、ホーン・セクションがオーヴァー・ラップ。
ディーンのプレイが加熱するともに、アンサンブルは、メル・コリンズ在籍時の KING CRIMSON のイメージが強まる。
中盤は、マーク・チャリグのコルネットが主役。センチメンタルなのだが、ベタつかず決して悪くない。
ディーンもビター・スウィートなソロで応酬し、ベース、ピアノも揃うとすっかりオーセンティックなモダン・ジャズ・トリオである。最後はホーン・セクションとピアノによるメロディアスな全体演奏。
ブルージーに過ぎず、ほどよく抑制された叙情的な作品である。
「Thank You For The Smile」(2:03)映画音楽風のスリリングなホーン・アンサンブルに「Hey Jude」が現れる。
「Three Minutes From An Afternoon In July(To Nick)」(4:11)タイトルとおり、ニック・エヴァンスのトロンボーンをフィーチュアした幻想的(悪夢的)な作品。デリケートな音作りが冴える。
「View From Battery Point(To John And Pete)」(2:00)ベースとグロッケンシュピールをフィーチュア。
「Violence」(4:00)コルネット、トロンボーン、ピアノ、サックスがリードする快速チューン。ドラム・ソロあり。
「Stately Dance For Miss Primm」(6:51)この時期らしいジャズロック。ディーンのサックスがカッコいい。
「This Evening Was Like A Last Year」short version(4:05)ボーナス・トラック。
(DISC 1963 CD)
| Keith Tippett | piano, Hohner electric piano |
| Mark Charig | cornet |
| Elton Dean | alto sax, saxello |
| Nick Evens | trombone |
| Robert Wyatt | drums |
| Bryan Spring | drums |
| Phil Haward | drums |
| Roy Babbington | double bass, bass |
| Nevile Whitehead | bass |
| Gary Boyle | guitar |
71 年発表のアルバム「Dedicated To You, But You Weren't Listening」。
メンバーに、ロバート・ワイアットら SOFT MACHINE 人脈も動員された第二作。
タイトルは、SOFT MACHINE の第二作の作品名を拝借しているようだ。
この豪華な顔ぶれは、エルトン・ディーンの SOFT MACHINE 参加にともなう交流と思われる。
また今回は、ティペット以外にもニック・エヴァンス、エルトン・ディーンが楽曲を提供している。
演奏は、二重にも三重にも強化されたパワフルなリズムの上で、アグレッシヴなホーンが吹き荒れる熱狂的フリー・インプロヴィゼーションを中心に、多様な器楽を組み合わせたもの。
もちろん、実験的な音づくりが図られている。
ティペットは、ホーンをフィーチュアした楽曲の提供以外にも、動きの敏捷さと音色の重厚さを兼ね備えたプレイで、鋭くソロを挿入している。
管楽器がフィーチュアされシャープな緊迫感のある 1、3 曲目は、メンバーが重なることもあって、まさしくピアノの入った SOFT MACHINE、NUCLEUS というイメージだ。
明快さとダイナミズムを兼ね備えたジャズロック・サウンドである。
輪郭のはっきりしたテーマとイケイケな演奏が、とにかくカッコいい。
2、4、5 曲目は、フリー色の濃い作品。
生き物のように音が反応しあい、次第に有機的な関連をつくり上げてゆく。
7 曲目は、再びエネルギッシュなリズムを従えて、トロンボーンがリードする強力な作品。
ティペットのエレピとゲイリー・ボイルのギターがリフを刻む。
全体に、スピード感と自由でエネルギーに溢れた演奏が特徴のアルバムだ。
「This Is What Happens」(4:57)ニック・エヴァンス作。
クインシー・ジョーンズを思わせるソウルフルにしてファンクなジャズロック。
フロアが沸立つリズムと吹き上げるサックス、そして舞うようなピアノ。
なにもかもカッコいいです。
「Thoughts To Geoff」(10:15)ティペット作。
巨大なインプロヴィゼーション。
ピアノも全開。
「Green And Orange Night Park」(8:07)ティペット作。
メロディアスなホーン・セクションがフィーチュアされた作品。
ホーンのテーマとせめぎあうディーンのソロは、なめらかな光沢を放つ。
「Gridal Suite」(6:09)エルトン・ディーン作。
複数のドラム・セットによる押し寄せるような激しいビートの上で、熱狂的なホーンが火花を散らす。
ストリングス・ベースとピアノの低音が密かに通じ合う。
「Five After Dawn」(5:16)ティペット作。
次々と立ち上がるホーンのロングトーンをパーカッション類やエレクトリックなエフェクトが取り巻くフリー演奏。
ノイズ、ヴォイスも入ったサイケデリックな悪夢。
「Dedicated To You, But You Weren't Listening 」(0:33)ヒュー・ホッパー、マーク・チャリグ、ディーン共作。
「Black Horse」(5:54)エヴァンス作。
ギター、エレピのリフにホーンのパワフルなテーマが重なるグルーヴィなジャズロック。
リードするのはトロンボーン、サックスである。ニック・エヴァンス氏とは仲良くなれそうです。
(REP4449-WP)
71 年発表のアルバム「Septober Enegy」。
ティペットによって編成された「CENTIPEDE」なる総勢 50 余名の巨大ユニットによる一大フリー・ミュージック組曲。
管絃、ヴォーカル、ベース、ドラムスらが、編成を変えつつフリー・フォームのソロ、アンサンブルを次々と繰り広げ、ジャズ、クラシック、ロックと全ての様相を呈する巨編である。
目まぐるしい変転のなかにも、たゆとうような沈静と勇壮な昂揚を維持する箇所があり、即興風ながら、きちんとした明快な語り口になっている。
サウンドは、前作をぐっとスケール・アップしたものといってもいいだろう。
一部前作からの引用すらあるように思う。
ビッグバンドのホーンに慣れた耳には、ストリングス・セクションが新鮮。
プロデュースは、KING CRIMSON のロバート・フリップ。
「監督」業に追われ、残念ながらプレイはしていないようだ。
ただし、KING CRIMSON ファンには、「Islands」以降の音楽的なネタがしっかり見つかる。フリップ氏の入れ込みようは想像に難くない。
「Septober Enegy - Part 1」(21:35)
「Septober Enegy - Part 2」(23:28)
「Septober Enegy - Part 3」(21:07)
「Septober Enegy - Part 4」(18:39)ナイーヴなまでにシンフォニックに高まる感動の終曲。
(DISC 1965 CD)
| Keith Tippett | piano |
| Roy Babbington | bass |
| Keith Bailey | percussion |
| Frank Perry | percussion |
| Julie Tippetts | guitar, voice, recorder, mandolin |
72 年発表のアルバム「Blueprint」。
清らかな美しさと滑稽なまでの荒々しさに満ちた傑作。
ジュリー・ティペットは活躍するが、意外に「ピアノが少ない」のがおもしろいところである。
クレジットによれば、電気楽器は使用されておらず(ロバート・フリップのコメント)全体が完全な即興演奏(キース・ティペットのコメント)である。
この編成は「OVARY LODGE」の二作まで続いてゆく。
プロデュースは、ロバート・フリップ。
したがって、「Islands」やこの後に発表される「Lark's Tongues In Aspic」にはここでの音響的、音楽的な要素が抜け目なく取り入れられている。
特に予期せぬ東洋風味を持つリコーダーの使い方や金属パーカッションなどに顕著ではないだろうか。
また、最初期 ECM からの影響もあるはずだ。
(RCA SF 8290 / BGOCD 634)
| Keith Tippett | piano, harmonium, recorder, voice, maracas |
| Julie Tippetts | voice, Er-Hu, Soprano recorder |
| Harry Miller | bass |
| Frank Perry | percussion, voice, hsiso, sheng |
76 年発表のアルバム「Ovary Lodge」。
ビッグバンドを経たティペットが取り組んだユニットによる前衛アンサンブル「OVARY LODGE」による「Blueprint」から数えて三作目の作品である。
内容は、個性的なフリー・ジャズまたは現代音楽というべきなのだろうが、レッテルはともかく、独特の美感に支えられた世界が味わえるものである。
ジュリー・ティペッツを中心とした声明の如きヴォイスと、なんだかわからない打楽器、弦楽器、雅楽調のリコーダーなどが入り乱れて、奇妙に東洋風のニュアンスを醸し出す。
倍音を欠いた抽象的な音が絡み合う中で、ハリー・ミラーのダブル・ベースがゆったりと音を受け止めて広げてゆくいい感じのドローンとして機能している。
他にも、深い余韻をもつチャイム系の音が印象的だ。
ティペットのピアノは得意の音塊打撃技中心であり、出るところでは出るのだが、全体としては役者の一人に過ぎない。
CRIMSON ファンはどうしても「Formentera Lady」に聞えてしまうと思います。
75 年ロンドン、ネトルフォールド・ホールでのライヴ録音。
(OGUN OG 600 / OGCD 021)
78 年発表のアルバム「Frames」。
総勢 22 名から成る「Keith Tippett's ARK」なる楽団による「映画のない映画音楽」。
澄み渡る静けさの中、神秘的な音が生み出されるシーンから、厳格強固なモダンアート的世界、モダン・ジャズ、そして怒涛の強圧的集団即興まで、映像を喚起させるきわめて多彩なサウンドに満ちている。
何がすごいって、嵐のように吹き荒れるエネルギッシュなフリー・ジャズの坩堝にエモーショナルな色艶とメロディアスななめらかさがちゃんとあるのだ。
これはおそらく、ジャズではなく、フリー・ジャズの手法を応用したバロックで巨大な「ポップス・オーケストラ」なのだ。
KING CRIMSON の「Islands」や MAGMA を思わせるシーンもある。
プログレ・ファン向きの大傑作です。
プロデュースはヒュー・ホッパー。
LP 二枚組。
「Frames - Part 1/2」(39:13)
「Frames - Part 3/4」(44:29)ジュリー・ティペッツの声に導かれるパート.3 が非常に美しい。後半のモダン・ジャズもすばらしい。
個人的にはジャズらしくないヘンリー・ロウザーのリリカルなソロと思い切りジャズなティペットのソロが好み。ハリー・ミラーのベースも躍動している。
(OGUN 003/004 / OGCD 010/011)
| Paul Rogers | double bass |
| Paul Dunmall | alto & tenor saxophone, chinese shenai |
| Keith Tippett | piano (woodblocks, pebbles. chimes) |
| Tony Levin | drums, percussion |
96 年発表のアルバム「Birdman」。
ソロ・プロジェクトと同名のカルテットによる三作目。
おそらく即興であろう三つの大作で構成される。
ティペットはプリペアド・ピアノや直接弦を弾くなど特殊奏法を駆使し、遮二無二突き進むような超速パッセージとパーカッシヴな反復で演奏をリードする。
ダンモールという人の経歴はよく知らないが、いわゆるフリージャザーらしく、パワフルな悶絶ブロウで吹きまくるタイプの奏者であり、ソロで爆発し、他の器楽にもヴィヴィッドに反応してゆく。
音の存在感という意味では一番だろう。
こういった奏者による力技が遠慮なく衝突し合った結果、フリージャズ作品にはよくある現象かもしれないが、各器楽の騒音的な位相が同期して一気に巨大な「うねり」となる瞬間の醍醐味がある。
モダンジャズ調の演奏も、さながらコラージュの断片のように、浮かび上がっては濁流に呑まれてゆく。
75 分を越える強烈なプレゼンスを心底体験できる作品だ。
「Birdman」(28:19)
「Shubunkins」(31:27)
「The Hands Are Just Shadows」(16:10)
(Cuneiform RUNE 82)