アメリカのネオ・プログレッシヴ・ロック・グループ「ILUVATAR」。 83 年ボルチモアにて結成。 2000 年現在作品は四枚。 KINESIS レーベル。 2009 年遂に新作完成か。 グループ名は、「指輪物語」世界の唯一神の別呼称より。
| Gary Chambers | percusion, durms |
| Mick Trimble | bass |
| Glenn McLaughlin | vocals, percussion, bass pedals |
| Jim Rezek | keyboards |
| Dennis Mullin | guitar, bass pedals |
93 年のデビュー・アルバム「Iluvatar」。
内容は、70 年代のプログレのみならず、80 年代のハードポップやポンプ・ロックを吸収消化した、ずっしり手応えあるシンフォニック・ロック。
つやのある声と豊かな表情をそなえたヴォーカル(フィル・コリンズ似)と、バランスよくまとまった器楽による、完成度の高い演奏である。
どのプレイも、華麗であると同時に腰が座っている。
これは、ライヴで鍛えられた結果なのだろう。
ヘヴィなサウンドは、主にリズム・セクションの手数によるようだ。
しかし、ヘヴィ・メタルのクリシェではなく、あくまで曲の展開として要求されるハードさなので、自然に感じられる。
アルバムは、このハードなサウンドと機敏なプレイが生み出す迫力のアンサンブルと、ジョン・アンダーソン型のヴォーカルとアコースティックな音を大切にしたバラードを対比させた構成になっていて、その結果、ドラマチックなうねりが感じられる。
また、明瞭なテーマをストレートに歌い上げるところでは、アメリカン・ロックらしく、エモーショナルなのにカラッとした性格が出ている。
泣きのメロディやミステリアスなプレイにも、屈曲した雰囲気は少なく、あくまで直截的だ。
そして、このテーマを支えるのが、ギターを中心としたダイナミックな器楽。
適度に技巧的なプレイは、ただのクローンに終らないリアリティをサウンドに与えていると同時に、幅広い層にアクセスしやすい音になっている。
喩えるならば、PENDRAGON 風の演奏でキーボードをもっと活躍させ、ナチュラルなハードさを加味したサウンドといえばよいかもしれない。
もっとも、すでに何か風というレベルは越えた、オリジナルな音が現れつつある。
センチメンタルなメロディ・ラインに、ポンプ・ロック臭さを感じるむきもあるかもしれない。
しかし、最近のグループだけあって、プレイのレベルが圧倒的に高い。
特に取り上げるなら 2 曲目「In The Eye」。
前半は RUSH にも通じるハードロック的なプレイを次々繰り出す、このグループらしい音だ。
ギター、リズムともに鋭角的であり、シンフォニックというよりはヘヴィ・メタルに近いだろう。
後半からはシンセサイザーの分厚い音でシンフォニックな曲調へと変化するが、ASIA や 90125YES のようなハードポップ色がよく出ている。
さらに 8 曲目「Marionette」。
歌い込むヴォーカルとハモンド・オルガンが印象的な、ぐいぐいと盛り上がる GENESIS 調シンフォニック・ロック。
また 9 曲目は、メロディアスなギターが歌い上げる YES 風の作品。
ともあれ、本作の強みは何より「聴きやすさ」であろう。
「Iluvatar」(2:26)
「In The Eye」(10:01)
「Eagle」(6:38)
「New Found Key」(4:13)
「Exodus」(7:08)
「Wait For The Call」(4:37)
「Dream Visage」(7:00)
「Marionette」(7:19)
「Emperor's New Clothes」(7:05)
(KINESIS KDCD 1008)
| Gary Chambers | percusion, durms, backing vocals |
| Dean Morekas | bass, backing vocals |
| Glenn McLaughlin | vocals, percussion |
| Jim Rezek | keyboards |
| Dennis Mullin | guitar |
95 年の第二作「Children」。
ベーシストがメンバー交代するも、サウンドの大筋に変化はない。
ただし、ダイナミックな演奏に現れるシンフォニックな重厚さ、および、ポンプ風のヴォーカルが熱気とともにジョン・アンダーソンのような透明感あるハイトーンへと表情を変化させるところが、新境地である。
音に重みをもちながらもヘヴィ・メタル調にならずに情熱的なメロディを決めてゆくギター、ノスタルジックな響きでバッキングを支えるハモンド・オルガンもいい感じだ。
「Haze」(6:43)
いかにもファンタジー路線のシンセサイザーによるイントロから、ギターのアルペジオへと、ひたすらメロディアスな曲想が続いてゆく。
メローなヴォーカルと優美なピアノ。
PENDRAGON 風のロマンチシズムである。
しかし、ハモンド・オルガンとギターが、ごく自然な流れでハードなプレイを決めてゆくようになる。
優れた演出だ。
そして、ふと気がつけば、リズムも 8 分の 7 拍子。
ハモンド・オルガンとシンセサイザーは、音色にくっきりと対比をもたせてそれぞれの役割を果たし、ギターはアルペジオ中心のバッキングでヴォーカルを支え、シャープなリフとしなやかなオブリガートでアクセントをつける。
ツボをおさえた最小限のプレイで、軽快に走り、耳を惹きつける佳作である。
ポンプ風とはいえ、ロックらしいダイナミックさと硬軟のメリハリがある。
「In Our Lives」(6:35)
メロディアスなギターが歌い、ハモンド・オルガンが厚みをつけるキャッチーなイントロ。
一転、ヴォーカル・パートは暗く沈んで始まる。
エモーショナルなストリングスとギターのアルペジオ。
やはり PENDRAGON を思わせる、メランコリックな曲調だ。
ハモンド・オルガンのオブリガート、子供のコーラスなど、小技は効いている。
間奏のギターは、スティーヴ・ロザリー直系ながらも、クラシカルなフレーズをきちっと決める。
そして、シンセサイザーのコード・リフをきっかけに、曲調はポジティヴな明るさを取り戻し始める。
ギターは優美な語り口で歌い出す。
高まる気持ちを音におきかえたような、歌心あるすてきなソロだ。
苦悩から歓喜へと進むバラード。
終盤のギター・ソロが聴きもの。
「Given Away」(6:39)
雄大な景色が眼前に広がるシンセサイザーの響き。
柔らかなアルペジオに導かれて、ヴォーカルは優美なメロディを歌い出す。
ミドル・テンポの AOR タッチであり、いわば、フィル・コリンズ風である。
映像的なギター、シンセサイザーのコンビネーションがみごと。
ギターは、リラックスしたプレイからなめらかにエモーションを高めてゆく。
とりわけ、間奏のギター・ソロがすばらしい。
「Late Of Conscience」(8:58)
ダンテの「地獄編」のような暗黒世界をイメージさせる、シリアスなオープニング。
リズムレスで始まる冷ややかなヴォカリーズ(シンセサイザーだろうか)とピアノ(チェンバロ風シンセサイザーか)のリフレインに導かれて、始まるのは力強いヴォーカル。
リズムが入るとやや単調さがあるものの、ヘヴィな質感とエモーションが交錯し、ヘヴィメタ風ながらもドラマチックだ。
冷ややかなヴォカリーズとシンセサイザーのリフレインは、いつまでも聴こえる。
間奏は苦悩するようなギター。
セカンド・ヴァースでは、ヴォーカルと轟々たるギターが高めあう。
ドラムにも力が入る。
続く間奏は、ミュートしたギター・リフと透き通るようなシンセサイザー。
ギターが唸る。
そして決めの繰り返しから、アナログらしいシンセサイザー・ソロへ。
続いて、ヘヴィな速弾き系ギター・ソロ。
再び、オープニングのシリアスな空気が満ち、ヴォカリーズとピアノが繰返される。
ヴォーカルを取り巻くのは、カモメの鳴き声のようなシンセサイザー・シーケンス。
リズムが力強く戻り、エネルギッシュなアンサンブルが高まり、引いてゆく。
エンディングもヴォカリーズが冷たく響き、シンセサイザーが静かにリフレインする。
極めつけは、悩ましく響きわたるロングトーン・ギター。
すべて、潮騒のように消えてゆく。
冷ややかな静寂をヘヴィな熱気が貫いてゆく、劇的な作品。
ソロを抑え、アンサンブル全体によるストーリー・テリングを重視しているようだ。
雰囲気作り/構成力も抜群であることが分かる。
アルバムのクライマックスといえるだろう。
「Cracker」(5:59)
前曲から一転、ハードなギター・リフでかっ飛ばす豪快なナンバー。
ヴォーカルもストレートであり、ギター主導のハードロックといえるだろう。
ギター・ソロもオーソドックス。
中盤のメローなパートが次第に昂揚するところや、変拍子リフなどはさすがにプログレ出身。
メロディアスな作品が主なので、カッコいいリフが一際光る。
いかにもアメリカンな曲ともいえる。
「Eye Next To Glass」(4:56)
余韻たっぷりのギターで始まる、切実な雰囲気をもつ作品。
全編ドラムレスであり、シンセサイザーとギターが幻想的に響き合う。
前曲からの落差もなかなか計算されている。
低音のシンセサイザーによる押し上げるような響きのせいか、ヴォーカルの表情にあたかも子供の一人遊びのようなポツンとした寂しさがある。
純真さというべきだろうか。
つぶやき続ける SE は、取り巻く大人たちなのかもしれない。
最後は、すべてをかき消すようにオルガンの音が重なり合い、高鳴る。
幻想から胸を締めつけるような寂しさが立ち昇るバラード。
演奏は透明感あるシンセサイザーのリフレインが呼び覚ます「Your Darkest Hour」(5:07)へと流れ込む。
英国風のややメランコリックなテーマをもつアップテンポのナンバーだ。
前曲に躍動するリズムを加え、一気に現実へと戻ったような曲調だ。
背景に満ちわたるストリングス、パーカッション系シンセサイザーのリズミカルなリフ、すべるようなギター、アクセントの強いリズムなど、まさに正統ポンプ・ロック。
そして、クラシカルなアコースティック・ギターとハモンド・オルガンのデュオが、本格プログレ路線の矜持を見せる。
メロディアスかつキャッチーなヴォーカルと、ダイナミックな演奏による英国風のモダンなロック。
エンディングの 8 分の 7 拍子のドラム・パターンもカッコいい。
ポスト FISH MARILLION でしょうか。
「The Final Stroke」(12:30)。
目が醒めるほど鮮やかなピアノ・ソロによるイントロダクション。
やがて、ストリングスとピアノの美しいアンサンブルから、静かなギターが動き出し、ヴォーカルが歌いだす。
ミドル・テンポのおちついた曲調だ。
そして、この曲もヴォーカルがリードする物語調である。
ヴォーカル・パートはかなり GENESIS 風。
ピアノ、ギターなど、アコースティックな音が美しい。
最初の間奏はギター・ソロ。
速弾きも交えるが、基本は、口ずさめるような優しいメロディだ。
ギターのおかげでポジティヴな明るさが満ちてくる。
ヴォーカルに続き、シンセサイザー・ソロ。
なめらかで光沢のあるトニー・バンクス流である。
リズムが消え、ストリングス・シンセサイザーが荘厳に響くと、ヴォーカルとの対話が始まる。
鐘が鳴る。
続くギター・ソロは、ヴァイオリン奏法を用いたアタックのないストリングス風のもの。
やがて、ギター、ベース、ハモンド・オルガンのポリフォニックなアンサンブルへと進み、緊張感が高まってくる。
エネルギーをため込むようなアンサンブルから最初に飛び出すのは、天を舞うギター。
なめらかに歌い上げる。
8 分 の 7 拍子のアンサンブルがギターのリードで続く。
一転、輝かしいピアノ・ソロ。
浄化と啓示。
マーチング・スネアがフェード・イン、和やかな演奏が動き出す。
ギターが轟き、ハモンド・オルガンも迸るとハードなアンサンブルが復活。
再び、ギターが高らかに伸びやかに歌い上げる。
ギター・ソロを受け止めるのは、厳かなピアノ、そして柔らかなアコースティック・ギターとおだやかなヴォーカルである。
様々な光景を見て歩み続けたヴォーカルは、静かに歌を締めくくる。
ギター・ソロやシンセサイザー・ソロを交えつつリズミカルに進んだり、リズムを失ってうつろな空間に一人佇み遠く響くシンセサイザーやギターに耳を傾けたりと、さまざまな場面を乗り越えてゆく大作。
GENESIS の「Cinema Show」を思わせるロマンチックな大作だ。
ダイナミックさとメロディのよさががっちり手を組んだ、平均クリアのネオ・プログレッシヴ・ロック。
ポンプ風ヴォーカルは、あらゆるメロディにメランコリックな翳をもち、アメリカ特有のカラッとしたところが少ない。
声質も癖がなく聴きやすい。
エキサイトしたときのハイトーンが、地声に近いような気がする。
そしてギターの存在感。
テクニカルで、ヘヴィなプレイもメロディアスなプレイも余裕で決めている。
JADIS 風のソロには爽快感がある。
そして、厚みのあるつややかな音色のシンセサイザーと熱いハモンド・オルガンを巧みに操るキーボーディストのセンスもすばらしい。
SPOCK'S BEARD に迫るポンプ・ロック、もしくはテクニカルな PENDRAGON といえばいいかもしれない。
また、ヘヴィだがメタルではない音も、アメリカの新進グループとしては得難い特徴だ。
曲では、ギターもヴォーカルも情感たっぷりに歌い上げる 3 曲目と、アイデアを全てつぎ込んだ大傑作である最終曲。
特に最終曲は、ヴォーカルがさまざまなドラマを経て最後に帰還するというストーリーも感動的。
この曲 1 つでも充分でしょう。
メロディック・ロックが好みの人には大推薦。
そして同じに、ポンプ・ロック嫌いのための破格の処方箋。
(KINESIS KDCD 1016)
| Dennis Mullin | guitars |
| Kezer Mij | keyboards |
| Dean Morekas | bass, backing vocals |
| Chris Mack | drums, percusion |
| Glenn McLaughlin | vocals |
99 年の第四作「A Story Two Days Wide」。
アーカイヴ・アルバムをはさんだ、スタジオ三作目。
ドラムスに新メンバーを迎えた(キーボーディストは、なぜかクレジットの名前の綴りがさかさまになっている)。
作風の基調は、喉ごしのよい、いわゆるネオ・プログレッシヴ・ロック。
ヴォーカルとハモンド・オルガンを中心にした演奏には、SPOCK'S BEARD を思わせるキレもあり、暖かみとともにズッシリとした手応えを感じさせる。
シンセサイザー、ギターによる音色を工夫したメロディアスなソロはみごとという他ない。
この二人の役者がフロントにどっかと構えて、派手なプレイを連発し、対話性のある反応のよいアンサンブルを構成している。
広がりある音景色、そして複数の旋律が織り成す妙味のある、いわゆるシンフォニック・ロックの醍醐味あふれる内容である。
そして、メロディに力点を置くあまりにリズムが単調になる、というネオプロ系の弱点は、この作品では全くといっていいほど気にならない。
よく動くベースとシンプルながら工夫が感じられるドラミングによるリズム・セクションには、小気味よさがある。
このグループの強みだろう。
また、ヴォーカルは、アメリカのグループにありがちな能天気さから逃れるためにゲイブリエル/FISH 路線に倣ったと思われるが、ハイトーンの安定した声量とともに表現力もアップし、堂々たるパフォーマンスで演奏をリードしている。
ストーリーにみごとな起伏をつけている「引き」のうまさは、すでに熟練を感じさせる。
アコースティック・ギターの伴奏で静かにヴォーカルが始まるシーンなど、70 年代のブリティッシュ・ロック、もしくは往年のイタリアン・ロック並みに鮮やかに決まっているのだ。
厚みのあるレガートなメロディ・セクションと、ダイナミックかつ多彩なリズム・セクションのコンビネーションは、ロックの基本をしっかりおさえた、いわば理想型である。
おそらく、録音バランスのよさも奏功しているのだろう。
全体に、角のとれた音が、安定感を生んでいるように思う。
反面、聴きやすさは抜群だが、現代の音に慣れているとややもの足りないかも。
年寄り向けといってはいい過ぎか。
メロディに頼り過ぎない引き締ったアンサンブルの推進力と、巧みなヴォーカルが編み出す表情の機微が生む新世代のネオ・プログレッシヴ・ロック。
アメリカンなポップ感覚も新鮮な好作品だ。
各曲も鑑賞予定。
JADIS や IQ、SPOCK'S BEARD のファンにはお薦め。
「Sojourns」(9:04)
「Savant」(7:46)
「Dreaming With The Lights On」(6:34)
「Holidays And Miracles」(8:35)
「Better Days」(7:02)
「Even Angels Fall」(4:25)
「Indian Rain」(15:41)
(KINESIS KDCD 1026)