Hugh Hopper

  イギリス、カンタベリー・シーンの重鎮ベーシスト「Hugh Hopper」。 元 SOFT MACHINE という前置きももう不要なくらい長く活発なキャリアを誇るミュージシャン。 70 年代はソロに加えて STOMU YAMASH'TA'S EAST WINDISOTOPEMONSTER BANDキース・ティペットらとのユニットSOFT HEAPGILGAMESH など、80 年代以降はアラン・ガウエンとのコラボレーションから大陸ジャズ・シーンとの活動、そして近年のフレッド・シャルノーらとの活動と、数え上げればきりがない。 SOFT MACHINE 時代からのファズ・ベース・プレイそしてかなりのアヴァンギャルド志向がこの人の特徴だ。 2009 年 6 月惜しまれつつ鬼籍に入る。

 1984

 
Hugh Hopper bass, percussion, mellophone, loops, piano, sax
John Marshall drums on 2,3,4,5,6,7
Pye Hastings guitar on 2
Lol Coxhill soprano sax on 2,7
Gary Windo bass clarinet on 3, tenor sax on 2,4,7
Malcolm Griffiths trombone on 2,3,4,7
Nick Evans trombone on 2,3,4,7

  72 年発表の初ソロ作「1984」。SOFT MACHINE の「6」より前に発表されている。 SOFT MACHINE での仕事を「6」を最後に終えるホッパーが、自分のやりたいことに向けて独自に動き始めたということだろう。 主題はタイトルから明らかな通り、オーウェルのディストピア小説「1984」。 曲名は原作に登場する行政管理機構を示しており、非人間的な組織というイメージを大胆な音響で描いている。 思わず、このおぞましき管理体制社会を眺める目で SOFT MACHINE の状況をとらえていたのかもしれない、とコワいことも考えてしまう。 全曲インストゥルメンタル。 プロデュースもホッパー。

  アルバム・オープニングは、後にも繰り返し録音される恐るべき名作「Miniluv(愛情省)」(14:38)。ほとんど彼のベースの多重録音からなるサウンド・エフェクト的な実験作である。 ハーモニクスやグリッサンドはおろか極端な高音部でのプレイからピッキング・ポルタメント(というよりノコギリ音)、ブリッジ部分でのノイズなども交えた断片的なフレーズが重なり呼応し不気味な風景を描いてゆく。 とりとめなさと緊張が両立し、やがて帰ってこられない旅に出てしまったような気分になる。 メロフォンとクレジットされた管楽器もホッパーによる。 個人的には全く古びることのない音のように思います。 また、ビル・フリゼールの作品と同じヴァイブレーションを感じます。

  2曲目「Minipax I(平和省)」(3:17) 軽妙なパイ・ヘイスティングスのコード・ストロークに支えられ、管楽器がメロディアスに歌う。 メロディには脱力感とやや下品なニュアンスもあるような。 フリージャズ調の絶叫サックス(コックスヒルだろうか)が間の抜けたトロンボーンやベースのリフと響きあいかなりズッコケた雰囲気である。 活気は確かにあるのだが不自然でありテーマはやはり不気味。

  3曲目「Minipax II」(3:09) スタッカートのフレーズを吹き続けるバスクラリネット、ドローン風のベース、そしてやたらとハイテンションのトロンボーン二管のアドリヴ。 さらに、紙をクシャクシャさせる音、クシの歯を弾く音がずっと続いている。 自動演奏機械を見るようであり、こちらの思いは決して伝わらないような暗い気持になる。 取りつくしまがない。

  4曲目「Minitrue(真理省)」(1:24) シリアスなジャズロック小品。 ホッパーはピアノのみ。 マーシャルが力強くリズムを叩き出しブラスが力強くうねる。 不安定なイメージを強めるピアノの残響。

  5曲目「Miniplenty(豊富省)」(17:03) エレクトリックなノイズやうめき声がつくる音塊を、パーカッションの軽快な音が削り取り輪郭をつけてゆくようなイメージのアヴァンギャルド巨編。 サステインするエレクトリックなリフレインと切れ味の鋭いパーカッションのコントラストが鮮やかである。 パーカッションがリバーヴを残すという逆説的な展開になると軽快なリズムにあわせてファズ・ベースがエンジン音のように次第に頭をもたげ電気の粒を飛び散らせつつ動き始める。 機械のようなノイズとファズ・ベースの驀進にパーカッションが応える。 そしてテープによる軽快な演奏の挿入。 地獄の洞窟で巨大で醜い怪物がうめき声をあげつつテレビを観ているようなイメージが浮かぶ。 ベースは挿入された演奏に反応して次第に激しく動き出す。 ノイズそしてパーカッションとベースのインタラクションさらにはサウンド・コラージュまで、前衛手法をつぎ込んだ大作である。

  6曲目「Minitrue reprize」(3:08) 前曲から切れ目なく始まる。 ノイジーなサックスのオーヴァーダブが圧するとベースがゆったりと秩序をもたらす。 ベースとは思えないクリーンな高音が湧き上がるサックスの海を吹き抜ける。 サックスもホッパーによる。

  7曲目「Miniluv reprize」(5:02) ボーナス・トラック。 長いブレイクに続いて始まるのは 1 曲目のフル・バンド・ヴァージョン。 メロディアスなトロンボーンそして敏捷なベース、ドラム。 激しく切り込むのはヘイスティングスのギターか。 リードはトロンボーンであり不協和音を使ったベースも目立つ。 再びワウ・ギターが轟く。 ギターは頻繁にエレクトリックな音で切り込みトロンボーンにアクセントを付ける。 そして絶叫するサックスの登場だ。 混沌とする演奏しかし前進は続く。 ファンク、フリー・ジャズのニュアンスたっぷりのジャズロックであり、マイルス・デイヴィスを思わせるミドル・テンポの迫力ある演奏である。テーマはホッパーらしいインダストリアル調のざらざらした手触りである。


  実験色の濃い作品を中心に現代的で鋭利なジャズロックまで不協和と不安感が全篇を貫く。 ホッパーのアヴァンギャルドな感覚がはっきりと分かる作品である。 素材はラフながらも組み合わされた音の印象は緻密できめが細かい。 普遍的な作品といえるだろう。 CARAVAN のパイ・ヘイスティングスのゲスト参加が珍しい。 なお日本版CD は 5 曲のアウトテイクのボーナスがつく。

(CUNEIFORM Rune 104)

 Hopper Tunity Box

 
Hugh Hopper bass, guitar, recorder, soprano sax, percussion
Elton Dean alto sax, saxello
Mark Charig cornet, tenor horn
Frank Roberts electric piano
Dave Stewart organ, pianet, oscillators
Mike Travis drums
Richard Brunton guitar
Gary Windo bass clarinet, saxes
Nigel Morris drums

  「Hopper Tunity Box」は 77 年の発表。 ナイジェル・モリス、エルトン・ディーン、デイヴ・スチュアートらをゲストに迎え、SOFT MACHINE 時代よりはやや輪郭のはっきりしたジャズロックを披露している。 インダストリアルなサウンド、得意の雄弁なるディストーション・ベースが全開。 デイヴ・スチュアートも気合の入ったプレイを見せている。 そして楽曲は、アヴァンギャルドながらも、ジャズとロックの疾走感と緊迫感を失わない作品ばかりである。 さすがホッパーだ。 プロデュースはマイク・デューンとホッパー。

  オープニング「Hopper Tunity Box」(3:34) 歪みきったベースが鬱々と響く。 金切り声を上げる管楽器のような音はオルガン(ホッパーのリコーダーも重なっているような気がする)だろうか。ベースとの対位的なデュオにバスクラリネットが加わるも、ノイズが吹き荒れて、キナ臭い展開となる。 バスクラによる「Facelift」のリフも飛び出す。

  「Miniluv」(3:32) 轟音ベースがアグレッシヴに突進する、ホッパーの名刺代わりの代表作。 インダストリアルなノイズの嵐をギャリー・ウィンドのフリージャズ・サックスが力強く切り裂く。

   ゴージャズなテーマとデイヴ・スチュアートによる迫真のソロなど躍動感とファンタジー、終盤に見せるクラシカルな深刻さが一体となった 3 曲目「Gnat Prong」(7:55)は、プログレ・ファンにはたまらない名曲。 おおげさにいうとトリオの NATIONAL HEALTH

  4曲目「The Lonely Sea And The Sky」(6:31) かなり「ジャズ」なジャズロック。 クレジットによれば、イントロや間奏のメローなギターはホッパーの演奏だ。 エレクトリック・ピアノ入りの優雅なテーマをもつ楽曲は、この人の作風としては異色かもしれない。(もっともブリッジ部には、得意のデンジャラスな感じのノイズも現れるが) 中盤のディーンのソロ、終盤のチャリグのソロもよく歌っている。幕引きはマイルス・ディヴィスの作品のようだ。

  5曲目「Cruble」(3:55) ギターとエレピがリードするファンキーかつ上品なジャズロック。 ソロは、エレクトリック・ピアノ。 メイン・ストリームでも通用しそうなキャッチーな曲であり、SOFT MACHINE には決してないスタイル。 こういう曲も作れるんですね。 マイク・トラヴィスという人はジャズ畑だと思うが、なかなかけれんのあるカッコいいドラミングを見せる。

  6曲目「Lonely Woman」(3:20) オーネット・コールマンの作品。 ブラスのユニゾンによるメロディアスなテーマがずるずると続き、一つの紐がときほぐれてゆくように音が散らばってゆく。 オリジナルは知らないが、リズムレスでブラスとベースのエフェクトで演るというアイデアは、ホッパー独自のものではないだろうか。 即興も交えるが、和声・音階がモダン・ジャズ調なため、さほどアヴァンギャルドな感じはない。

  7曲目「Mobile Mobile」(5:00) 再びデイヴ・スチュアートを交えたキーボード・トリオ。 ファズ・ベースが牙をむくノイジーなインダストリアル調の演奏である。 テーマはあるが即興風。 序盤は、各自のプレイが交錯し、全体としてはのっそりと動き始めるイメージだが、ノイズを巻き込みつつ次第に一体感が強まる。 後半の疾走がたまらなくカッコいい。 せわしないドラム・ビートは、まるでキーボード主体の ISOTOPE

  8曲目「Spanish Knee」(3:48) ブラスが力強い、ベースラインも明確なジャズロック。 エンディングのサックスは、ほとんどコルトレーンである。 タイトルは「Spanish Key」のパロディ?

  9曲目「Oyster Perpetual」(3:10) ホッパーのギター、ベースの多重録音による作品。 「1984」風の世界だが、リラックスしている。

(3012842)

 Cruel But Fair

 
Hugh Hopper bass
Elton Dean alto sax, saxello
Keith Tippett piano
Joe Gallivan drums, percussion, synthesizer

  76 年発表の「Cruel But Fair」。 ディーン、ティペット、そしてアメリカ人のドラマー、ジョー・ギャリバンとのセッション作。 仕掛け人はホッパーらしい。 内容は、元 SOFT MACHINE の二人とフリー・ジャズメンのティペット、ギャリバン、四人のプレイが熱いアヴァンギャルド・ジャズ。 MACHINE なら「5」の世界である。 ただし、オルガンはなく、代わりというにはあまりに巨大なピアノの音がある。 ギャリバンがアドホックにシンセサイザーの電子音を挿入するものの、SOFT MACHINE レベルの電気の魔術には至らない。 もう一息というシーンも多いのだが、あくまでサックスとピアノを中心にした、MACHINE とは別個の強烈な即興演奏と見るべきだろう。 もっとも、力比べのようなニュアンスではなく、熱気とともに明確な知性に裏付けられた審美センスを感じさせる。 この辺が英国ジャズの特徴なのだろう。 ホッパーはベースにファズを使用しておらず、普通のトーンで勝負。 爆発力と微妙なニュアンスを併せ持つディーン、明晰で豊かな音色を活かしてソロでも伴奏でも破壊的な演奏を聴かせるティペット、両雄相譲らずの猛烈な作品だ。 プロデュースはフローデ・ホーン。

  いわゆる「フリー・ジャズ」にはあまり詳しくないのだが、字義通りなら、各楽器が即興で自由に演奏しまくる 1、2 曲目「Seven Drones」および「Jannakota」は、間違いなくフリー・ジャズだろう。 サックスとピアノ、ドラムスの演奏はまさに爆発という表現がふさわしい。 ヒートアップして連打を見せるティペットに、キース・エマーソンの姿がだぶる。 フリー・ミュージックからのアプローチだろうとクラシック・ピアノからのアプローチだろうと、ハイ・テンションの名手にかかれば、等しく音楽的な興奮をもたらすということだろう。 サックスの仕切りも絶妙である。 2 曲目は、モコモコした電子音と身悶えるサックスの対話風インプロヴィゼーションである。

  3曲目「Echoes」は、ベースによる静かなイントロを経て、緩やかなエレクトリック・ピアノ伴奏の上で、ディーンのサックスが官能的なメロディを歌い上げてゆく名品。 緊張感と繊細な美感のバランスが絶妙であり、本アルバム中で最も高い完成度を持つように思う。 初期 WEATHER REPORT の名曲「Orange Lady」を髣髴させる。 個人的にお気に入りの一曲です。

  4曲目「Square Enough Fire」は、2 曲目にピアノとエフェクトされたベースが参加した形になる。 混沌から次第にまとまってゆく展開は、SOFT MACHINE 風といわざるを得ない。 中盤からの展開のきっかけとなるのは、ドラム/ベースの生み出すリズム。 エレピ、サックスは、抑制されながらもエネルギーを感じさせる。

  続く 5、6 曲目は比較的小品であり、発展前のモチーフ、または実験といってもいいかもしれない。
  5曲目「Rocky Recluse」は、本アルバムでは珍しくエフェクトをかけたベースとピアノの訥々とした対話である。 対話が加熱するとともに、シンセサイザーの電子音が絡んでくる。 実験的な小品だ。

  6曲目「Bjorn Free」 エコーを効かせたベースと豊かな音のピアノ、そしてシンバルの響きをバックに、サックスによる力強いメロディが流れてゆく。 全体に哀愁が漂う小品。 是非発展させて欲しかった。

  7曲目「Soul Fate」 前のめりのドラムスによるリズムとピアノの即興伴奏、メロディアスなサックスのアンバランスが面白い。 演奏は音量を上げてゆき、サックスも強力な即興演奏に移ってゆく。 サックスは再びメロディアスなフレーズを残して去り、ピアノは、短いながらも、低音から高音まで駆け巡る狂おしいソロとリズミカルな和音を刻む。 最後はドラムスだけが残る。

  実験色の強いフリー・ジャズ作品。 一音一音の響きに張り詰めた緊張感のある好アルバムである。
(OW 31373)

 Mercy Dash

 
Hugh Hopper bass
Elton Dean alto sax, saxello
Keith Tippett piano
Joe Gallivan drums, percussion, moog synthesizer

  77 年に収録、85 年に発表された第二作「Mercy Dash」。 メンバーは前作と同じである。 日本語盤の帯にはライヴ録音とあるものの、真偽は不明。 前作と比べて音は多彩になったが、凶暴にして絶妙の流れをもっていた集団即興の集中度合いという点では、さほどでない。 しかし、明快にして力強い瞬間やリリカルな光明が鮮やかに差し込む瞬間はあり、ときとして、シンフォニックな響きすら感じられるところがある。 第一曲の「Calyx」のテーマの力だろうか。 前作同様 SOFT MACHINE の「5」のファンにはお薦めしたい。

  1曲目「Intro / Calyx」(13:58)オープニングからシンセサイザーのノイズが渦巻くパワフルなフリー演奏。 4 分過ぎアルト・サックスにより「Calyx」のテーマが提示され、その後は、さらにハイテンションのインプロが続いてゆく。

  2曲目「Waffle Dust」(2:54)は、シンセサイザー・パーカッションのノイジーな連打に、うっすらとピアノのざわめきとサックスの調べが重なる断章。 シンフォニックな余韻あり。

  3曲目「Brass Wind Bells」(9:19) 「1,2,2,2」という奇妙なカウントの後、ピアノとベースによるパワフルで密度の高い変拍子リフが示され、緊迫感は一気に高まる。 低音域で押し上げるような力をもったリフだ。 サックスは悲鳴のようなロングトーンを重ねてゆく。(オーヴァーダブでサックス自体も重なり合っている) サックスがリフにユニゾンするのをきっかけに、ピアノも即興へ突入する。 そして、前作と同様なピアノ、サックス中心の狂おしくパワフルな即興演奏へ。 息苦しくなるほどに詰め込まれた音が 唐突にピアノ/ベースの変拍子リフが復活し、サックスもメロディアスに迫ってタイトな全体演奏へと変貌する。 鮮やかだ。
  強引な変拍子リフ、テーマと爆発的な即興パートによる挑戦的な雰囲気の作品である。 フリー・ジャズなのだが、攻撃性という観点からロック・ファンにもアクセスできそうな音だ。

  4曲目「Anguishy」(3:02) フォーキーなイメージの旋律を朗々と、しかし激しく歌い上げるサックスに、激しいピアノのざわめきが重なる。 荒々しくもロマンティックな表情の演奏だ。 身悶えるような「苦悩」を表現しているのだろうか。 ピアノのプレイは、ギターの激しいコード・ストロークのようなニュアンスが感じられる。 発展しそうになるのだが、フェード・アウト。

  5曲目「Waffling Again/Punkom」(8:00) 近現代クラシックを思わせる美しいピアノのリフレインの上で、二つのサックスが朗々と歌ってゆく。 KING CRIMSON の「Lizard」辺りの雰囲気に近い。 幾何学的な文様を描いてゆくようなピアノのリフレインに対して、サックスは、ややとまどいを見せながらも、次々と新しいフレーズを生み出してゆく。 ドラムスの乱れ打ちが加わる辺りでは、すでに、浮き上がり漂ってゆくような不思議な空気ができあがっている。 音は激しいのだが、ピアノとサックスの絶妙の絡みは酩酊感を生んでいる。 クラシカルな感動を呼び覚ます佳品です。

  サックス、ピアノ主導の幻想的なフリー・ジャズ。現代音楽的な要素も取り入れた作品といえるだろう。 ホッパーの存在感は今ひとつだが、ピアノ、サックスによるフリー演奏という点ではとても優れた内容である。 難解さを越えた感動がちゃんとある。 シンフォニックな手ごたえもあるので、プログレ・ファンはぜひチャレンジしましょう。
(3012802)

 Monster Band

 
Hugh Hopper all instruments on 1-5, bass on 6-9
Elton Dean saxello on 6-9
Mike Travis drums on 6-9
Jean-Pierre Carolfi keyboards on 6-9
Jean-Pierre Weiller bass on 6-9

  78 年の発表のアルバム「Monster Band」。 前半 5 曲が一人多重録音、後半 4 曲がバンド形式による 74 年のライヴ録音である。 内容は、ファズ・ベースを中心としたノイジーかつ挑戦的なもの。 後半は、ワウ・ワウやファズを用いたベース、エレピにディーンのサックスが力強く挑む、危険な香りのインプロヴィゼーション。 スクエアなリズムとリフの上で、思うさま暴れる演奏だ。 録音の悪さが、却って鬼気迫る様子をよく伝えている。

(3012782)

 Somewhere in France

 
Hugh Hopper bass, fuzz bass, keyboards, gong
Richard Sinclair voice, fretless bass, guitar, bongos
guest:
Serge Bringolf drums, percussion
Helene, Jacky, Pascale voices

  83 年発表のアルバム「Somewhere in France」。旧友リチャード・シンクレアとのコラボレーション。 内容は、ベルベットのようなシンクレアのテナー・ヴォイスをフィーチュアした歌ものが主。 ホッパーは、作詞・作曲およびキーボードやベースをプレイし、シンクレアを支えている。 宅録に近いような製作なのだが、楽曲はきわめて豊かだ。 不運にも一線を退くことを余儀なくされるも、無聊を託つことない二人らしく、メロディ、ハーモニー、上質なユーモアのセンスはいささかも衰えていない。

(VP133CD)

 Meccano Pelorus

 
Hugh Hopper bass
Patrice Meyer guitar
Dionys Breukers keyboards
Pieter Bast drums
Frank Van Der Kooij tenor & soprano sax
Hans Van Der Zee guitar on 5,6
Kees Van Veldhuizen alto & soprano sax on 5,6

  91 年の発表のアルバム「Meccano Pelorus」。 SOFT MACHINE に憧れたオランダのミュージシャンに招かれて結成された、HUGH HOPPER BAND 名義による 89 年と 87 年のライヴ録音。 内容は、知的にしてフィジカルなスリルもあり、そして何よりファンタジックなエレクトリック・ジャズロック。 ホッパーは、作曲およびベーシストとして演奏に貢献する。 変拍子のリフはもちろん、大胆なフレージングを見せているが、ファズは用いていない。 他のメンバーでは、フィンガー・ピッキングで繊細なニュアンスを表現する巧者パトリス・メイヤー(アルバムでの演奏は前任者と分け合う)、端正なフレーズを奏でるサキソフォニストが印象深い。 ディーン風のサックスや THE BEATLES などのくすぐりもあり。 「Miniluv」も収録。 全編インストゥルメンタル。 録音はややチープ。

  「Wanglosaxon」(10:13)ホッパー作。サックス、ギターのソロをフィーチュアした比較的オーソドックスな内容。 自然発生的にスタート、サックス主体のモダン・ジャズ調テーマから、ベースのリフをエンジンに、サックス、ギターとソロがわたる。 ブラス・セクションを模すシンセサイザーのデジタルっぽい音は、この時代ならではのもの。 89 年のツアーから。

  「Spanish Knee」(6:15)ソロ第二作の作品。 ホッパー作。 思い切りのいいテーマ、サスペンスフルな展開がカッコいいホッパーらしい作品。89 年のツアーから。 タイトルはもちろんマイルス・デイヴィスのパロディ。

  「Meccano Pelorus」(9:14)ホッパー作。 ギターとベースのアドリヴ風のやりとりから発展するスペイシーな作品。 キーボードがメロトロン風の音や大胆な効果音を挿入するせいか、プログレ色強し。 後半は、サックスとベースのインタープレイ。 終盤のユニゾン・ラインがいかにも。 89 年のツアーから。 冒頭のベース・ソロは、ラヴェルの「ボレロ」のテーマでしょうか。

  「Miniluv」(6:30)ホッパー作。 ホールズワースばりのギターをフィーチュアし、元曲の面影はなし。 跳躍アルペジオはフィンガーピッキングの独壇場、と思っていましたが、最近の人はピッキングでも難なくやるからなあ。 89 年のツアーから。

  「Seven For Lee」(10:31)エルトン・ディーン作。 SOFT HEAD の「Rogue Element」収録の作品。 7 拍子のリフが特徴。 87 年のツアーから。

  「Springtime 85」(8:20)ヴェルトヒューツェン作。 ギター・シンセサイザーが加わる後半からが、カッコいい。 87 年のツアーから。

(WAYSIDE WMAS 6)

 Caveman Hughscore

 
Hugh Hopper fuzz bass, bass, double speed bass, wah feedback bass, cats
Elaine di Falco piano, Fender Rhodes, accordion, vocals
Fred Chalenor bass, double speed bass, Fender Rhodes
Henry Franzoni drums, voice
guest:
Jen Harrison French horn

  95 年発表の作品。 フレッド・シャルノー率いる「Caveman Shoestore」なるユニットにホッパーが参加、グループ名を「Caveman Hughscore」に改めた。 ギターレスでツイン・ベースがリードするユニークな編成である。 ホッパーのファズ・ベースは、すでにギターの域に達しており、メロディ楽器として十分機能している。 また、ディ・ファルコのけだるいヴォーカルとアコーディオンも存在感あり。 かなりアヴァンギャルドな和声やリズムを和らげているのは、このヴォーカルではないだろうか。 また、ヌケのいいドラムやリフ中心のドライヴ感ある演奏は、ジャム・バンドの 5 年先をいっていたともいえる。
  すでにジャズだ、ロックだというこだわりからは遠く離れたホッパー氏、独自のオルタナティヴ・ミュージックを目指す若者たち相手に、感性も演奏技術も堂々と渡り合う。 このあたりがやはり只者ではない。 そして、その若者たちがとりあえず辿りついた音が、カンタベリー・サウンドと似通っているのだから、驚きである。 そう、乾いたユーモアとシリアスネス、転がるようなメロディの親しみやすさが同居するこのサウンドには、確かにカンタベリーがこだましている。 したがって、ニューヨークのアヴァン・ロック・シーンに現れた先祖返り達にとって、ホッパーは現人神のような存在に違いない。
  ディ・ファルコの個性的なヴォーカルと輪郭のはっきりした音響、そしてシリアスかつ明快なメロディが生み出すユニークなサウンド。 やはりコンテンポラリーなジャズロックというべきだろう。 独特のクールネスもまたよし。 「Dedicated To You, But You Weren't Listening」のカヴァーあり。

(TK95CD093)

 Highspotparadox

 
Hugh Hopper bass, sampler
Elaine di Falco Fender Rhodes, accordion, synthesizer, vocals
Fred Chalenor bass
Will Dowd drums, percussion
Jen Harrison french horn
Craig Flory tenor sax, clerinet, bass clarinet
Wayne Horvitz ring modulated keyboard

  「Highspotparadox」は「HUGHSCORE」による 96 年の作品。 ユニットのメンバーは、ホッパーに加えてフレッド・シャルノー、エレイン・ディ・ファルコの三人であり、他はゲスト。 そして、ここでもオープニングは、もはやテーマ・ソングといっていい、「Miniluv」。 ディ・ファルコのけだるいヴォーカルとアコーディオンが演奏にソフトなタッチを加えているが、全編聴き見通すと、やはり不条理な世界へ取り残されたような気持ちになる、前衛ジャズロックである。 ギターを思わせるエフェクト・ベースのリード・プレイにさらに磨きがかかっているからコワい。 全体に演奏は、エネルギッシュなインタープレイやソロというよりは、スポンテニアスに発展しつつクールなキナ臭さを漂わす、きわめて今風のものである。 エキゾチックなメロディや奇妙な反復もある。 ラウンジ風のなめらかなヴォーカル・ナンバーと HENRY COW を思い出してしまう尖った演奏が、さほど挑発的なそぶりも見せずに、並立している。 抑制された分、不気味なシリアスさがかえって立ち昇るのだが、そういうアヴァンギャルドな音楽がきわめてナチュラルに(極端にいえば「聴きやすく」)耳に響く。 これは、昨今のレアグルーヴに耳が慣れたおかげだけではないだろう。 おそらく、遥か昔から斬新な音楽に取り組み続けたミュージシャンたちの発する、息遣いや体臭のようなものなのだ。 SOFT MACHINE のぶっちぎりの先鋭性に舌を巻かざるを得ない。 6 曲目では、おそらくその本家の音源も応用されている。 そしてなんと、最終曲は悩殺タンゴ。 やれやれ。
  全体に緊張感はあるものの、いわゆるアヴァンギャルド・ミュージックのように過剰に暴れることはなく、ときとしてメロディアスで穏やかな印象すら与える逸品である。 最近の作品にしては、録音がデッドなところが唯一残念。 プロデュースはウェイン・ホービッツ。

(T/K 109-2)

 Delta Flora

 
Hugh Hopper bass, fazz bass
Elaine di Falco accordion, Rhodes, Vox organ, Wurlitzer, synthesizer, voice
Fred Chalenor bass, guitar
Tucker Martin drums, percussion
guest:
Chrystelle Blanc-Lanaute fluteJon Hyde pedal steel
Elton Dean alto saxDave Carter trumpet
Robert Jarvis tromboneCraig Flory tenor sax

  HUGHSCOREの第二弾「Delta Flora」は 99 年の作品。 ドラムのタッカー・マーティンを加えてフル・バンド編成となり、活動基盤が整ったようだ。 インダストリアル・ミュージック的な雰囲気のメカニカルなサウンドを基盤に、昨今のプログレ復権に大きく寄与したノスタルジックなサウンドのサンプリング(実際ヴィンテージ・キーボードを駆使している)と独特のメロディが息づき、アヴァンギャルドな展開の中に、真っ直ぐ未来を志向するベクトルが感じられる。 思い切って 90 年代 SOFT MACHINE といっていいだろう。 ディ・ファルコのアルト・ヴォイスは、あたかもクールに暴れるアンサンブルを象徴するように、冴え冴えと存在を主張する。 メロトロンを思わせるオルガン、さびしげなローズ・ピアノも印象的。 この現代的なジャズロックを、二世代下のメンバーとともにリードするのが、このベテランだから恐れ入る。 まさにマイルス・デイヴィスに匹敵するセンスとパワーである。 「Facelift」の再録もあり。 中盤は得意の音響派アヴァンギャルドの様相を呈すも、8 曲目の大作「Based On」でガッチリと雰囲気を作っている。 エルトン・ディーンも元気。 1 曲目「Was A Friend」は、ロバート・ワイアット作詞であり、彼の最新作「Shleep」にも収録されている。 シューベルトの歌曲「辻音楽師」をクールにアレンジしたような名曲だ。

(CUNEIFORM Rune 110)


  close