イギリスのアヴァンギャルド・ロック・グループ「HENRY COW」。 68 年結成。「SLAPP HAPPY」との融合/分裂を経て 78 年まで活動。 作品は五枚。 解散後も、各メンバーが旺盛な活動を世界規模で続ける。 複雑な作曲と即興の交差、室内楽的アンサンブル、現代音楽的アプローチを特徴とする真の前衛ロック。 RIO 運動の原点。
| Fred Frith | guitars, violin, viola, piano, voice |
| Tim Hodgkinson | organ, piano, alto sax, clarinet, voice |
| John Greaves | bass, piano, whitsle, voice |
| Chris Cutler | drums, toys, piano, whitsle, voice |
| Geoff Leigh | saxes, flute, clarinet, recorder, voice |
73 年発表の第一作「Legend」。
内容は、カンタベリー・ジャズロックの即興性とアヴァンギャルドな面をクローズアップした快作。
「チェンバー・ロック」というと厳しく難解なイメージを与える恐れがあるが、カンタベリーという冠通り、冴えたポップ・センスがあることを強調したい。
また、フランク・ザッパからの流れをたどりなおして、「Uncle Meat」あたりに立ち返ったといってもいい音楽性である。
演奏は、俊敏なリズムの上で、クラシックやジャズ風味を交えた管弦/鍵盤楽器とロック・ギターが、挑戦的に荒々しく、ときにユーモラスに交流するもの。
おそらくは、即興とスコアが交錯する内容なのだろうが、推進力をもつ鋭いビート、歪んだ音色のギター・プレイ、そして、精度を求めつつも、呼吸のよさを優先してしまう若さや緩やかさを考えると、やはり、フリー・ジャズでも現代音楽でもないロックである。
リリカルなメロディと突発的で狂気じみたプレイが同居する不可思議な演奏は、ロック・ファンには、とても新鮮ではないだろうか。
難解なイメージは、少し聴き込めばなくなると思います。
East Side Digital 版 CD は、ホジキンソン、フリスによって 90 年にリミックスが施されており、オリジナルよりもリバーブ処理が多く、後に加入するクーバーのプレイなどのオーヴァーダブもある。
また、98 年には、ReR よりオリジナル・ミックスの CD も出ている。
「Nirvana for Mice」(4:56)
昭和歌謡調のメロディアスな全体演奏は、奇妙な圧迫感をもつギターで破断され、狂おしいサックスのリードでフリー・ジャズ色を強め、パワフルで挑発的な即興演奏へと高まってゆく。
さまざまなノイズやきまぐれなリフレインが平然と放り込まれ、イメージは歪曲する。
耳に馴染むオープニングから、一気に強烈なインパクトある演奏へとなだれ込み、リスナーを新しい世界へといざなう、出色のオープニング・ナンバーだ。
全体に、自信に満ちた推進力をもち、うねるようなドライヴ感がある。
管楽器はダイナミックなブローを見せ、ギターは内向的で偏執的、ドラムスはジャズにしてはパワフル(フィルがカッコいい)であり、ベースはテクニカル。
唐突なエンディングには独特のユーモアが。
エンジニアとしてマイク・オールドフィールドのクレジットあり。
ESD 盤では、オープニング付近のピアノのオブリガートや最後の声に、リバーヴ処理が施されている。
「Amygdala」(6:58)
美しく躍動的なアンサンブルに、即興風のプレイというスパイスで変化をつけて織り上げた、摩訶不思議なジャズロック。
メロディアスにして複雑であり、デリケートなハーモニーが無限の渦巻きになっているようなイメージをもつ。
HATFIELDS よりは、キーボードが生ピアノのみの NATIONAL HEALTH というべきだろう。
序盤は、ハーモニウムを思わせるオルガン、ギターによる穏やかだが内向的なアンサンブル。
フルートが加わり華やぐも、中盤サックスの参入辺りから躍動感が強まる。
挑戦的な変拍子アンサンブルが、緩急自在に進む。ファズ・ギターやエフェクタッド・ギターのアクセントも効いている。
終盤は再びゆったりとした、今にも Northerttes のスキャットが聴こえてきそうなアンサンブルになる。
心の表層のようにフラフラクルクルと変化するわりには、流れは自然であり、聴き終わると濃い後味が残る。
これは、ゆったりとしたパートとせわしなく走り回るパートを丹念に紡いだシナリオのおかげだろう。
何にせよ、緻密で巧妙な演奏である。
フリー・ジャズや現代音楽よりは、若々しさと耽美な甘さがあり、そこが魅力なのかもしれない。
カンタベリー・ジャズロックの逸品。
ESD 盤では、リンゼイ・クーパーのバスーンがオーヴァーダブされている。
インストゥルメンタル。
「Teenbeat Introduction」(4:32)
おそらく完全即興による、次曲へのプロローグ。
ギター、アルト/ソプラノ・サックス、ドラムス、ベースによる演奏である。
希薄で不安定な空間が、次第に密度を上げてゆくようなイメージである。
互いに出方をうかがい、ミスコミュニケーションを繰り返し、ギターによる不思議な音が次々と現れ、やがて、散らばっていたしずくが集まって一つの流れとなるように、一体となったなめらかな動きが生まれ出る。
サックスのプレイは典型的なフリー・ジャズ。
「Teenbeat」(6:48)
スピーディな変転に奇妙なユーモアが浮かび上がる作品。
珍妙なフレーズを凝り捲くった変拍子(8 分の 23 拍子 !)、ポリリズムで支える。
トレモロ、連打、ヴォカリーズによる波打つ様なオープニングを経て、技巧的なギターのブリッジ、そして、管楽器のリードするユーモラスなアンサンブルがくるくると変転する。
展開のキーとなるのは、多彩で細かなパッセージを繰り出すギター、そしてクラリネット。
2:50 辺りで提示されるコミカルな主題が最後まで見え隠れする。
中盤はクラリネット・ソロを、このコミカルなテーマによるポリリズミックなアンサンブルが支える。
終盤大胆なブレイクをメロディアスなアルト・サックス(ティム・ホジキンソンによる)が受け止める。
インストゥルメンタル。
「Nirvana Reprise」(1:14)
ESD CD のみの収録曲。
「Extract from "With The Yellow Half-Moon and Blue Star"」(3:38)
クラシカルなポリフォニーによる構築性と、その構築性をぶち破ろうとする激しい勢いがせめぎあう、ユニークな作品。
中盤のフルートとサックス、最後のサックスなどキラリと光るメロディがある。
短いが、ユーモアある充実した内容だ。
「Teenbeat」のコミカルな主題も現れる。
「Teenbeat Reprize」(5:04)
4 曲目のリプライズ。
スピード感あふれるジャズロック。
煽るようなリズムで一直線に走り抜ける。
ESD CD のみの収録曲。
「The Tenth Chaffinch」(6:04)
再び即興。
キーボードによる幻想的な序盤から、リズムのないまま、ベース、フルート、キーボードらによる間歇的な即興演奏が続く。
即興の要素として、人声が積極的に使われている。
カトラーの音が強まるとともに、ギターも自己主張を始める。しかし、なんとも尻切れトンボのまま終わり。
「Nine Funerals Of The Citizen King」(5:30)
おそらくグリーヴスの歌唱による、メロディアスな歌もの。
初期 SOFT MACHINE を思わせる佳曲であり、ヴォーカル表現は、ロバート・ワイアットの影響下にあると思われる。
ヴァイオリンによるクラシカルな伴奏とオブリガート、ヴィオラ、管楽器、ベース、オルガンによる室内楽的な表現が新鮮だ。
「Bellycan」(3:19)
破壊的な作品であり、危険な吸引力をもつ。
ESD CD のみの収録曲。
日常生活ですっかり鈍った精神に鉄槌を下すようにぶつかってくる前衛ジャズロック。
初めはとっつきにくかったが、聴き込むほどに、小気味いいプレイが魅力を放ち、挑戦的な姿勢がカッコよく思えてくる。
不協和音のベールを剥げば、そこにあるのは、スピード感あるタイトなロックなのだ。
HATFIELD AND THE NORTH が、初期クロスオーヴァーに反応したグループとするならば、こちらは、フリー・ジャズの即興性と現代音楽の挑戦に応じたグループといえるだろう。
もっとも、ジャズという共通項があるせいか、遊びの感覚や自由度は似通っている。
また、クラリネットの音は、室内楽的なイメージを強める要因である。
フリスのギター・プレイは、訥々と語ったり、美しく歌ったり、やおらアグレッシヴに迫ったりと、さまざまな表情を見せるが、どれもみごとに決まっている。
やはり名手の一人だ。
一方、カトラーのドラミングは、乾いた音と安定した手数で、きっちり演奏を仕切っている。
全体的な音の感触が、どことなくロバート・ワイアットを思わせる辺りも興味深い。
アヴァンギャルド/チェンバー・ロックの出発点として、永遠の一枚。
(ESD 80482 / ReR HC1)
| Fred Frith | stereo guitar, violin, xylophon, piano |
| Tim Hodgkinson | organ, alto sax, clarinet, piano |
| John Greaves | bass, piano, voice |
| Chris Cutler | drums |
| Lindsay Cooper | bassoon, oboe, recorder, voice |
74 年発表の第二作「Unrest」。
ジェフ・ライが脱退、女性管楽器奏者のリンゼイ・クーパーが加入する。
美人が入れば、当然バンドは盛り上がる(か、崩壊する)。
ともあれ、ここで、バスーンとオーボエというロックの世界では珍しい楽器が、導入されることになった。
チェンバー・ロックというネーミングは、当然こういう楽器の使用とも関係しているのだろう。
1 曲目から 4 曲目までが作曲ものであり、5 曲目から 8 曲目がスタジオ・インプロヴィゼーションに編集作業で手を加えたもの、そして ESD 盤のみ収録の 9、10 曲目は、ほぼ手つかずのインプロヴィゼーションだそうだ。
ロバート・ワイアットとウリ・トレプテ(GURUGURU のベーシスト)に対する謝辞がある。
さて内容は、奇天烈な即興のテンションとともにメロディアスな主張もあり、全体に余裕の感じられる作品となっている。
つかず離れず絶妙の均衡を見せるアンサンブルに、ソロのアクセントも巧みにちりばめた演奏が生み出す高度な音楽性は、後続グループに多大な影響を与えたに違いない。
緩衝域のような空間に、静かにさまざまな音が散りばめられる場面や、ヒリヒリした緊張感に満ちたアンサンブル、暴力的ともいえる激しいインプロまで、数々のフリー・ミュージックを味わうことができる名作だ。
「Ruins」はチェンバー・ロックの金字塔。
「Bitten Storm over Ulm」(2:18)。
ギターのコード一発そして妙に律儀なベース・パターンが動き出す。
7+3 もしくは 7+4 拍子だろうか、妙におちつかないリズムだ。
ざらつき乾いた音のドラムがマメに仕切るも、ギターがヘヴィ・ディストーションによるウネウネとしたヴィブラートとチョーキングを用いるプレイで脱力させる。
ギターをかき鳴らすようなさまざまなノイズが気まぐれに散りばめられる。
何か特殊なギター奏法なのだろう。
ドラムス、ベース、ギターのトリオにエレピと管楽器がアクセントをつける、ユーモラスなオープニングである。
ギターと並行に動き続ける管楽器アンサンブルは、ヒョウキンな 8 分の 10 拍子のテーマを提示。
ギターは我関せずといった趣で、わざとらしくロック・ギターのパロディのような盛り上がりを見せる。
さまざまなノイズはキーボードとギターの特殊奏法のオーバーダブだろうか。
もつれるような管楽器によるクリアーなユニゾンが、混迷する演奏を鮮やかにまとめて去ってゆく。
コミカルな変拍子チェンバー・アンサンブル。
わざとらしい力みのあるギターとチンドンな管楽器による、まるで笑いを必死にこらえているようなユーモアある演奏だが、
イメージとして近いのは、クラシックの室内楽である。
人懐こいメロディ・ラインなどは前作の 1 曲目にも通じており、意外にこういう調子も基本の一つなのかもしれない。
ニュー・ミュージックだからといって、なにも堅苦しくしゃちこばる必要はないのさ、といいたげだ。
THE YARDBIRDS の「Got To Hurry」(アルバム「For Your Love」収録)を元ネタにしているそうだが、不勉強なのでよく分かりません。
ETRON FOU に伝わったのはこういう部分だったのだろう。
人を食ったようなリラックスしたオープニングである。
「Half asleep; Half awake」(7:59)。
グリーヴスによる美しいピアノ・ソロから始まる。
残響を活かした、タイトル通りまどろむようなここちの演奏だ。
ピアノの余韻が消え入るとベースが怪しげなリフを提示して一気に演奏が動き出す。
リードはオーボエ。
ノイジーなギター、オルガン、ピアノがオーボエを支え、ベースも積極的に動いてゆく。
続いてギターがリードを交代し、オーボエのつかずはなれずのデュオを繰り広げる。
メロディアスなアンサブルに手数の多いドラムスがアクセントをつけてゆく。
3 拍子系のせいか、込み入った音のわりにはゆったりとしたイメージのある演奏である。
続いてサックスがリード。
バスーンがおっとりと追いかける。
サックスのテーマは、SOFT MACHINE を思わせる知的で粋な感じである。
管楽器の柔らかな音がきちっと進行するベクトルを示している。
やはり、SOFT MACHINE を思わせる展開だ。
ワウ・ギター、バスーンらによる、ややモヤッとした即興風のアンサンブルが続く。
次第に、バスーンはアドリヴの存在感を強めてゆき、周囲も緊迫したムードに対応してゆく。
全パートが一斉に暴れだすも、ドラムスがハイハット連打に切りかえた辺りから、演奏はゆっくりと解きほぐされてゆく。
そして、ギターのアルペジオが新たな秩序を静かに促すようだ。
バスーンはいまだうねるようなトリルを続ける。
そしてミステリアスなピアノがクロス・フェード・イン。
ジャジーなピアノ・ソロがフェード・アウト。
美しいピアノ・ソロをプロローグとエピローグに配したメロディアスなジャズロック。
各楽器のソロの一歩手前のような印象的なフレーズをフィーチュアしており、木管はあるがチェンバーというよりはジャズロックというべきだろう。
前半は、さまざまな音がそれぞれの流れに乗って関連しつつも澱みなく動いてゆく明確なアンサンブルであり、後半はフリー/即興風の心地よい乱れと緊張が生じてゆく。
こういう作品では、手数多くアンサンブルの一つの流れとして存在感をアピールするドラムスが、いよいよワイアットに聴こえてしまう。
夢見るようなピアノにいざなわれて眠りにつくも悪夢に悩まされ、目覚めの前に再び美しい幻想を見る、そんなイメージだ。
「Ruins」(12:10)。
ヴァイオリンかキーボードか、アタックのない甲高い音がフェード・イン、キリキリと聴覚を刺激する。
オーボエ、オルガン?の気まぐれなつぶやきは、強いエコーのかかった金属音(ピアノの打鍵だろうか)に追いかけられ、断ち切られる。
緊張感あふれるオープニングだ。
マリンバ、ギター、ベースらによるもつれるようなアンサンブルがクロス・フェード・イン、
一転して、オルガン、ベースがリードするメロディアスなアンサンブルが始まる。
ベース、オルガンをピアノとマリンバが追いかけ、ピアノ、マリンバがユーモラスだが無機的という印象的なテーマを提示し、反復する。
8 分の 15 拍子。
安定感ある HF&N 調の展開である。
ファズ・ベースが唸り、スネア・ロールをきっかけに、ギターのインプロへ。
ノイジーなギターが思うさま暴れ続け、ドラムスが勝負を挑む。
ピアノ、ベースは大胆なシンコペーションによる奇妙なアクセントのリズムを刻む。
管楽器が加わったかと思う間もなくポリリズミックな演奏は突如断ち切られ、ヴァイオリンが不気味に宙にさまよいだす。
初期の KING CRIMSON 風の展開だ。
オープニングと同じく、バスーンがヴァイオリンにからむようにようにつぶやき、ヴァイオリンはそれに苛つくようにおおいかぶさってゆく。
管楽器、ヴァイオリンらによる伸びやかな反論が高まるも、バスーンがとぼけたように応じ、今度はヴァイオリンとベースがそれに反応する。
再び、管楽器、ヴァイオリンらによる伸びやかな主張、そして、今度はマリンバがコミカルに反応する。
ヴァイオリンをバスーンは追いかけ、陰鬱なハーモニーになってゆく。
バスーンとヴァイオリンの深刻なデュオに、マリンバが突っ込みを入れる展開が繰り返される。
リズムは失われ、管弦楽器が不安定な世界を泳いでゆく。
オルガン、管弦らによるユニゾン、ハーモニーが力強く一つにまとまり、高鳴る。
プリペアド・ギターらによる多彩きわまる珍妙なノイズをしたがえて、管絃楽器は一歩一歩前に進んでゆく。
ここの管絃楽器のパターンは、ピアノとベースが以前刻んでいたシンコペーションのパターンである。
細切れになった室内楽のような演奏が続く。
普通の音楽ファンはこのあたりでウンザリするかもしれない。
ようやくヴァイオリンがリードをつかみ、バスーン、ベースそしてオーボエらが合流する辺りから秩序が復活、ドラム・ビートが刻まれる。
一気にスピーディなビートが復活し、暴力的なギターをきっかけにベースが大胆に動き出す。
管楽器によるハーモニーがメロディアスに一本筋を通すように流れてゆく。
前曲のリズムに室内楽を加えたようなスリリングな演奏が盛り上がるが、幻のように消え去り、余韻はフリップばりのギターのロングトーンのうねり。
そうか、これがオープニングの音なのだ。
管楽器も寄り添い、ロングトーンでギターに重なってゆく。
奇妙なキャラバンは余韻ならぬ余韻を残して遠くへ去ってゆく。
現代音楽風の無機質、強引なドライヴ感、異形の構築美をより合わせた挑戦的な大作。
変拍子ジャズロックによる序盤、リズムレスでアヴァンギャルドな室内楽風の中盤(即興のようだが、鋭いユニゾンやコール・レスポンスもある)はやがてノイズのカオスと化し、いつしか一体となったアンサンブルが力強いリズムとともに去ってゆく終章。
ギターの特殊奏法によるものを主に、さまざまなノイズが現れるが、宙に音を撒き散らしながらも前進する堅実なベクトルがある。
したがって、決して弛緩はない。
さまざまな楽器の奇妙な調べとノイズは交錯し、反応し、新しい流れとなる。
不安なまま秩序を維持するアンサンブルが、息を呑む緊張を生み、素っ頓狂ともいえるプレイが、ふと息をつかせる配合の妙。
中盤では、次々に楽器が役割を変えてゆく凝ったインタープレイもある。
フリスのヴァイオリンやギターなど、KING CRIMSON の即興を思わせる場面もある。
クラシカルな構築性と衝動的な表現のインパクトを兼ね備える、真にプログレッシヴな音楽といえるだろう。
ドラマも感じます。
名作。
「Solemn Music」(1:11)。
シングル・ノートを唸らせるベースをきっかけに、オーボエがゆったりと哀しげに歌い出す。
メロディアスなオーボエにギターはユニゾンやアルペジオ風の伴奏などで静かに寄り添ってゆく。
オーボエとギター、ベースによる品のあるクラシカルなトリオ。
憂いをもつオーボエの音色がいい。
ドラムレス。
「Linguaphonie」(5:31)。
バスーンと思われる低音が渦巻き、毛羽立ったノイズがからみつく。
あまりに不気味なオープニングをさらにおぞましくするのが、混声の奇妙なシュプレヒコールである。
おそらくギターの特殊奏法なのだろうが、機械のような轟音や雑音の断片が降り注ぐ。
ドラムス、管楽器も少しづつ加わって、吐き出されるヴォイスとともに、無秩序な空間が広がってゆく。
バスーンの即興、そしてかすれ声の女。
突如湧き上がるギター、打ち鳴らされるドラムス、ねじくれるノイズ。
何もかもが壊れるようなドラム、ギターの騒音。
メタリックなノイズに覆われた即興演奏。
断片的な音と意味不明のヴォイスが無秩序に湧き上がり、こっけいな感じもあるのだが全体としては緊迫している。
ほとんどのノイズはフリスによるギターの特殊奏法によるようだ。
ロバート・フリップを思わせる即興もある。
ギターがプレイヤーの気違いじみたアクションによってノイズを生むのに対して、管楽器は楽器そのものが狂気を噴出しているように思える。管楽器プレイヤーはおそらく楽器にのっとられているのだ。
「Upon Entering The Hotel Adon」(3:04)。
回転する電子音がいらつくノイズに変化すると、唐突な大絶叫、大狂乱、そしてドラムの乱れ打ちが炸裂。
乱れ打ちはいつしかビートへと変化、ベースを主に堅実な演奏へと収斂する。
管楽器ユニゾンによるテーマの提示をきっかけに、演奏は秩序立ち、それでもドラムスを中心に爆発的な勢いで演奏が続いてゆく。
サックスら管楽器も絶叫し始める。一瞬落ちつきを取り戻しそうになるのだが、再びもつれあうような全体演奏へと突っ込んでゆき、挑発し合い、発展してゆく。
エフェクとされたベースだけがわりと冷静に自分の道を進んでいるようだ。
ギターのコード・ストローク、そして荒々しいアドリヴを経て、またも爆発的なドラムスとともに、今度はサックス主導で突っ込んでゆく。
冒頭からハイテンションで突き進むエネルギッシュな作品。
全員で全力投球が最後まで続く。ベースがかろうじて理性的な動きをするが、それ以外は完全なドシャメシャ状態。
バラバラの音が一気にまとまって走り出す瞬間の壮絶さ。
ベースが目立ってます。
「Arcades」(1:57)。
静寂の中なんとなく危険な予兆を孕んだバスーンが流れ出す。
室内楽風ながらも高まる緊張。
ピアノの弦をかき鳴らす音が衝撃的に切り込む。
サックスが断片的な音を散りばめる。
バスーンがややシリアスな表情を見せるも、サックスはあくまで気まぐれな音を吹き散らす。
オルガンかギターか分からぬが、さまざまな音が浮かび上がっては消える。
サックスの音が支配的になって終わり。
余韻と残響が異様な効果を生むチェンバー・ロック。
緩やかな干渉はあるものの、明確な形・方向を成さぬまま消えてゆく。
わびさびか。
ドラムレス。
「Deluge」(5:24)。
ベースを追いかけてハイハットをこねくり回すドラムと金属的なギターが食いつくように反応する。
サックスは一瞬顔をのぞかせては消える。
音の定位もよく分からない。
自然発生的だが、それでも次第にまとまりをみせてゆく演奏。
しかし、掴み合いのような断続音の連なりを、いつのまにかクラリネット、オーボエ、ヴァイオリン、オルガンがクロス・フェードで湧き上がり塗りつぶしてゆく。
レクイエム風の美しくも暗いユニゾンが響く。
そして、ピアノの静かな和音の響きとともに、グリーヴスのヴォーカルが始まる。
ふともぎとられたように音は消え、余韻すら残らない。
終末感漂う美しいエンディング。
前半の行き場のない即興が、次第にまとまりを見せるかと思えば、一気にドラマチックな終焉へと流れ込む。
すばらしい演出だ。
ヴォーカルはロバート・ワイアットを思わせ胸に迫る。
フリー・ジャズの影響の強いサウンドからオリジナルな即興音楽へと進化し、個性が確立された名作。
作曲ものにいたっては、キャッチーな聴き心地すらある。
しかし、やはり圧巻は後半の即興演奏だ。
これを聴いてしまうと、前半が、いかにもこじんまりとまとまっているように思えてしまう。
また、スタジオ盤はあくまで可能性の一断面に過ぎないという気も強くしてくる。
後半は、カオスのなかへ放り出されたような気持ちになるだけに、最終曲のロマンティックな余韻がいっそうすばらしい。
(ReR HC2/ESD 80492)
| Tim Hodgkinson | organ, clarinet, piano on 2 |
| Fred Frith | guitar, violin, xylophon, piano on 4 |
| John Greaves | bass, piano |
| Chris Cutler | drums, radio |
| Dagmar Krause | voice |
| Peter Blegvad | guitar on 2,3, voice on 1, clarinet on 1 |
| Anthony Moore | piano on 1,2, electronics, tapework |
| Lindsay Cooper | bassoon, oboe, recorder, voice |
| guest: | |
|---|---|
| Geoff Leigh | soprano sax on 1 |
| Mongezi Feza | trumpet on 1 |
| Phil Becque | oscillator on 4 |
75 年発表の「In Praise Of Learning」。
スタジオ盤として三作目。
74 年「Desperate Straights」にて SLAPP HAPPY と共演後、SLAPP HAPPY のメンバーが HENRY COW に合流する。
本作は、その合流後の初作品である。
録音後、ダグマー・クラウゼを残して SLAPP HAPPY とは決別するため、結果として HENRY COW が個性的な女性ヴォーカリストを獲得したことになった。
ヴォーカルが入ることによって、全体の表情が和らぎ、物語性が高まったような気がする。
もっとも、それもつかの間、クラウゼはギター、サックスらとともにアヴァンギャルドな音の列をなぞり、透き通るようなヴォイスを吐き出しながら、次第にシリアスな器楽アンサンブルへととけ込み、文脈の限定とは裏腹な、無限への発散を示唆する独特のこわさを生み出すようになる。
そして、むしろ器楽の方が、即興が主体ながらもシリアス一辺倒ではなく、夢見るように美しいピアノに象徴されるポップなタッチがあることに気がつく。
シュールで凶暴な世界に設けられたヴォーカルという定点は、アクセスしやすさのためではなく、より過激な展開への導入口として機能しているようだ。
ボーナス・トラックは、騒音蠢き、殺気漂うインスダストリアルなアヴァンギャルド・ロック。
ESD 盤では、1、2 曲目は 85 年にフレッド・フリスらによってリミックスされたというクレジットがある。
また、ジャケットには「芸術とは鏡ではなくハンマーである」という言辞が記されている。
「War」
「Living I The Heart Of The Beast」
「Beginning:The Long March」
「Beautifull As The Moon - Terrible As An Army With Banners」
「Morning Star」
「Lovers Of Gold」ESD 盤のみの収録曲。
(ESD 80502)
| Lindsay Cooper | bassoon, flute, oboe, piano on 8 |
| Chris Cutler | drums |
| Dagmar Krause | voice |
| Fred Frith | guitar, piano |
| John Greaves | bass, voice, celeste |
| Tim Hodgkinson | organ, clarinet, alto sax, piano on 7 |
| guest: | |
|---|---|
| Robert Wyatt | on 2 |
| Geoff Leigh | tenor & soprano sax, flute, clarinet, recorder on 7,8,9 |
76 年発表のライヴ・アルバムの名作「Concerts」。
LP、CD ともに二枚組。
ロバート・ワイアットがゲスト参加。
ライヴならではのメドレーや、20 分にわたるインプロヴィゼーションが収録されている。
「Ruins」に象徴されるスリルとパワーが漲る屈指のライヴ作品といえるだろう。
ESD 盤 CD は「Greasy Truckers Compilation」からの抜粋が、ボーナス・トラックとして収録されている。
単体収録時間が異なる上に、LP 二枚から CD 二枚への移行のため、曲順がアナログ LP からは大きく変更されている。
「Groningen」と「Udine」を切り離したのが、やや不自然に感じられる。
「Beautiful as the Moon;Terrible As An Army With Banners」(22:46)アナログ A 面収録のメドレー。
「Nirvana For Mice」
「Ottawa Song」
「Gloria Gloom」
「Moon Reprise」
「Bad Alchemy / Little Red Riding Hood Hits the Road 」(8:16)アナログ B 面 1 曲目。
「Ruins」(16:14)アナログ B 面 2 曲目。
「Groningen」(8:49)アナログ D 面 1 曲目。
「Groningen Again」(7:12)アナログ D 面 3 曲目。
「Oslo」(25:59)アナログ C 面収録。
「Off The Map」(8:30)「Greasy Truckers Compilation」より。
「Cafe Royal」(3:22)「Greasy Truckers Compilation」より。
「Keeping Warm In Winter」(1:00)「Greasy Truckers Compilation」より。
「Sweet Heart Of Mine 」(9:06)「Greasy Truckers Compilation」より。
「Udine」(9:29)アナログ D 面 2 曲目。
(ESD 80822/832)
| Tim Hodgkinson | organ, alto sax, clarinet, hawaiian guitar on 1,2, piano on 3 |
| Lindsay Cooper | bassoon, oboe, soprano sax, soprano recorder |
| Fred Frith | electric & acoustic guitars, bass, soprano sax on 3 |
| Chris Cutler | drums, electric drums, noise, piano on 4, trumpet on 3 |
| guest: | |
|---|---|
| Anne-Marie Roelofs | trombone, violin |
| Irene Schweizer | piano on 5 |
| Georgie Born | bass on 7 |
78 年発表の「Western Culture」。
グループとしての最終作。
ジョン・グリーヴスはすでに脱退、ブレグヴァドとの活動を経て NATIONAL HEALTH に参加している。
アナログ A 面はホジキンソン、B 面はクーパーによる作品が並ぶ。
つまり、全体即興は限定されている、と考えていいだろう。
「History & Prospect」の副題をもつ A 面は、ギター、キーボードと管楽器によるアンサンブルを中心とする均整の取れたモダン・クラシック風のチェンバー・ロックである。
UNIVERS ZERO のような強圧的な変拍子パターンによる「押し」の勢いやジャズ的な爆発力ではなく、表情豊なドラムス、パーカッションもフルに活かした、物語の流れを感じさせる丹念なタッチがメインである。
二管の応酬も特徴的だ。
フリスのギターは、ディストーションを効かせたヒステリックなロングトーンとプリペアドによる特殊奏法(2 曲目のエンディング)が特徴的だが、2 曲目「The Decay Of Cities」冒頭のクラシカルなタッチでも存在感を現す。
ホジキンソンにクレジットされている「ハワイアン・ギター」というのは、ラップ・スチール・ギター(スライド・ギター)のことだと思う。まさに「都市の崩壊」らしいカタストロフィックな終盤もカッコいい。ヴァイオリンが加わったアンサンブルには緊張感とともに独特の逸脱感(キチガイじみた感じ)あり。
3 曲目は、カンタベリーの向こう側でフランク「Wazoo」ザッパが微笑んでいるような世界。
不安げにゆれつつも二管、ヴァイオリンらが成す暖かく緩やかな流れに身を任せられる。
こういった作風も、アメリカのレコメン第二世代へと引き継がれているはずだ。
1 曲目を代表に、基本的には険しく抽象的なイメージの演奏だが、後のホジキンソンの超厳格な作風からは考えられないようなアクセスしやすさもあり、ロックへの力点はしっかり確保されている。
B 面には「Day By day」の副題がつく。
管楽器奏者の作品らしく、二管や管/ギターの連携と呼応が強調されているようだ。また、緩急含むスピード感ある演出も効いている。
二管のユニゾン、ハーモニーを軸にたたみかけるように走るところもある。
ロックらしいモーメンタムやグルーヴは A 面以上だろう。
もっというと、クラシカルなタッチを強調することでいわゆるプログレらしさも出ている。5 曲目「Falling Away」ではゲストのセシル・テイラーばりのフリーなピアノがフィーチュアされるが、キース・ティペットのいる CRIMSON に聞こえなくもない。一転して 3 曲目「Look Back」は緩徐楽章のような小品。最終曲「1/2 The Sky」はヘヴィなギターとオルガンによる厳かな世界を管楽器の痙攣が揺るがせる、カンタベリーらしさ満点作品。運動性のアップはジョジー・ボーンのベースが加わったためだろう。
全体に、フリージャズ的な力でねじ伏せるタイプではなく、構築と緩やかな逸脱が均衡した佳作である。
聴きやすい、というと真に受けてもらえない可能性もあるが、最も聴きやすい作品ではないだろうか。
「History & Prospect」
「Industry」(6:58)
「The Decay Of Cities」(6:55)
「On The Raft」(4:01)
「Day By day」
「Falling Away」(7:38)
「Gretel's Tale」(3:58)
「Look Back」(1:19)
「1/2 The Sky」(5:14)
(ESD 80852)