HAPPY THE MAN

  アメリカのプログレッシヴ・ロック・グループ「HAPPY THE MAN」。 74 年結成、79 年解散。 後に CAMEL に参加するキット・ワトキンスが在籍。 三枚のオリジナル・アルバムに加えて初期習作、ライヴ、TV 用曲集などが後年発掘さる。 フュージョン調のライトな音質と技巧的な変拍子、キーボードと管楽器らによるポリフォニックな演奏がとけあうファンタジックなサウンドはアメリカン・プログレッシヴ・シーンの奇跡という言辞が相応しい。 2004 年復活新作「The Muse Wakens」発表なるも、2007 年現在、主メンバーは別ユニット OBLIVION SUN で活動継続中。

 The High Places

 
Stanley Whitaker guitars, vocals
Frank Wyatt keyboards, reeds
Dave Hughes bass, vocals
Bill Brasso drums, percussion

  2012 年発表のアルバム「The High Places」。 新ユニット「OBLIVION SUN」の第二作。 リズム・セクションはメンバー交代した模様。 内容は、メロディアスでファンタジックなフュージョン系シンフォニック・ロック。 リズミカルな作品でのライトなフュージョン・タッチとキーボードによるオーケストラルな効果にメロディアスなギターが重なるシンフォニック王道タッチのブレンドが鮮やかに行われている。 土の香りのするオルタナティヴ・ロック調の作品にもオーケストラがバックについているようなファンタジックな広がりがある。 ウィテカーの声があるだけで HTM に聴こえてしまうというのは確かにあるのだが、それにしても驚くほどに基本的な手触りが変わらない。 さりげなく変拍子を組み込んで楽曲をスリリングに仕立てる技も熟練だし、へヴィなサウンドによる陰陽のアクセント配置やミステリアスな演出も堂に入っている。 昔は、悪くいえば「超絶的に難しい練習曲」のような作品もあったが、ここでは、技巧を越えた音楽そのものの豊かさが極まってきたと感じる。 特に歌ものには、力強く美しい表現と説得力がある。 はちきれそうに溌剌としていた音も、まろみを帯びていよいよ豊かに優美になっており、まさに円熟してきたというべきだろう。 また、演奏の呼吸がじつにライヴで活き活きとしており、心地よい緊張感と迫力がある。 製作面にあまり手をかけられないことを逆手に取るように、スタジオ・ライヴ一発録りでスタジオ盤を作っている感じである。 キーボードは、ストリングス系のほかは、意外なほどアコースティック・ピアノの割合が高い。 シンセサイザーは、ここぞというところで目まぐるしく優美なフレーズを決めてくる。 全体に、それほど機材や楽器が豊富でない普通の編成のバンドでも、アイデアがあれば、エンタテインメントとしても芸術としても十分な水準のロックを作るれることを再確認できる内容です。
   アルバム後半は 22 分にわたる組曲「The High Places」。ドラマティックな展開の力作である。 収録時間は現代の標準からすると 42 分と少なめながら、メロディアスでジャジーかつクラシカルなサウンドに個性をしっかり示した良作である。 「Crafty Hands」のファンにはかなり懐かしく感じられるかも。 プロデュースはグループ。

(PMCD1301)

 Happy The Man

 
Kit Watkins synthesizer, keyboards
Mick Beck percussion
Rick Kennell bass
Stanley Whitaker guitars, vocals
Frank Wyatt keyboards, vocals, wind

  77 年発表の第一作「Happy The Man」。 キーボードを駆使した華麗なサウンド、そしてテンポ/リズムの多彩な変化をものともしないテクニカルで精妙なアンサンブル。 ソフトで爽やかなフュージョン・テイストという第一印象は、聴く毎に、センシティヴでユーモラスなフレーズが宝石のように散りばめられた、ファンタジックなサウンドというイメージにかわってゆく。 そして夢見るような音を用いながらも、テーマ/ソロはユーモラスというにはあまりに知的な企みを匂わせ、リズミカルなアンサンブルはもはや疾走する精密機械である。 すべてが結晶のようにきらめく幻想の世界であり、優美でありながら冷ややか、そしてパラノイアックなまでに細部のくっきりとした夢なのだ。 フュージョン・タッチのなめらかな音にすら、実験的な本質を華やいだ表情で包み込みアクセスしやすくするという試みなのでは、と構えさせるものがある。 なにせよ突然変異のような無比のオリジナリティである。 そしてデリケートできめの細かい、きわめてヨーロピアンなニュアンスの音にもかかわらず、恥じらう姿すらもあっけらかんと明るく、ハイテンションで押し進んでしまうところはやはりアメリカのバンドである。
  キーボードは、プログレッシヴ・ロックの要求に応えつつ成長し、次第に演奏の主導権をギターと分け合うまでになった。 このグループは、そういうキーボード主体のプログレッシヴ・ロックの完成形ともいえるだろう。 本作では、そういったキーボードが、サックス、フルートなどの管楽器やギターとめまぐるしくもスムースで奇天烈な音楽を織り成している。 プロデュースは大物ケン・スコット。ARISTA レーベル。 曲名はおそらく早口言葉。

  「Starborne」(4:31)繊細な音がいつしか雄大な世界を描いてゆくイントロダクション。 タイトルのイメージそのままの幻想的なインストゥルメンタルだ。

  「Stumpy Meets the Firecracker in Stencil Forest」(4:21) サックス、ピアノがフィーチュアされたジャジーで緩やかな演奏が、小気味よくテクニカルなアンサンブルへと昇華するきらびやかでちょっとルーニーな作品。 ユーモラスなトゥッティ、そしてスタカートとレガートを強烈に対比させるアレンジ。 リズム・チェンジは軽やかにして壮絶、そして快調そのもの。 リズミカルなクラヴィネットとつややかなムーグが印象的。 ばねを巻き過ぎた玩具が弾けて暴れ出すような演奏です。 インストゥルメンタル。

  「Upon the Rainbow(Befrost)」(4:38) エレピ、フルート、サックスが柔らかく縁どるジャジーな歌もの。 メロディアスなヴォーカル(ややイアン・アンダーソン似)に対して、ボトムはつまずきそうな 3+2 拍子の変拍子パターン。 ここでもスタカート気味に全体を支配する変拍子リフに対し、ヴォーカルとムーグの魔法がなめらかな触感を与えている。 AOR 調のグルーヴもあるのだが、小刻みかつ尋常ならざるアクセントが続くので、これでリラックスできる人は少なかろう。 ソプラノ・サックスをエフェクトしたようなムーグ・ソロは絶品。

  「Mr.Mirror's Reflection on Dreams」(8:52) 1 曲目の世界をさらにおしひろげたような、美しくも緊張感のある大作。 華やかな三拍子と小気味いい二拍子の交錯、舞い踊るピアノ、深い水の底を漂うようなフルート、アコースティックともエレクトリックともいえぬひたすらシンフォニックな響きと世界を取り囲む薄絹をゆっくりと押し広げてゆくようなムーヴメント。 そして、スリリングなユニゾンが受け止め、なめらかなタッチのギターが歌う。 コミカルというには愛らしすぎるシンセサイザー。 夢想性、テクニカルなキレともに P.F.M の「Photos Of Ghost」を思わせるところもある。 タイトル通り奇想曲風である。 インストゥルメンタル。

  「Carousel」(4:08) ロマンティックなピアノと厳かなストリングス、ギターがオーヴァーラップするヘヴィな作品。 ムーグやギターのソロにも、ピエロの仮面の裏側の不気味さと同じくユーモアの果ての邪悪な雰囲気がにじむ。 フェード・アウト後の余韻も奇妙だ。 まさに、ぎくしゃくと巡る怪奇のメリーゴーラウンドである。 やや間奏曲風。 インストゥルメンタル。

  「Knee Bitten Nymphs in Limbo」(5:21) 8 分の 5+7/5+6.5 拍子のテーマと 4 分の 4/4.5 拍子(!?)のテーマの呼応とシンセサイザーの超絶ソロに息を呑むスーパー・テクニカル・チューン。 けんけんしながらスキップするような奇天烈リズムがドライヴするユーモラスなテーマとルーニーなハイパー・テクニカル・ソロがかわるがわる現れ、眼が回り呼吸も忘れて卒倒寸前になる。 それでも音質そのものはファンタジックであり、いわゆる「ジャズロック」とは明らかに玩味が異なる。 ここが、このグループの面白さなのだ。 後半、テーマと重なって突っ走るオルガンのようなシンセサイザー・ソロ(ピッチペンドするのでシンセサイザーだろうと想像)のカッコいいこと! ギターそっくりのニュアンスのソロもシンセサイザーだろう。 終盤には 16 分の 11 拍子(!?!)や 16 分の 13 拍子(!?!?)がめまぐるしく変わる驚異のアンサンブルがひた走る。 変幻自在に加減速して演奏をリードするのは、ワトキンスのムーグである。 GENTLE "The Boys In The Band" GIANT を思い切りキュートにするとこうなると思う。 インストゥルメンタル。 代表作。タイトルは早口言葉じゃないのかなあ。

  「On Time As a Helix of Precious Laughs」(5:22) バラード調の甘めのラヴソングをファンタジックなサウンドで刺激的に彩ったポップ・チューン。 ゆったりとたゆとうメイン・パートを皮切りに、ホールズワース氏風のヘヴィなギターのリードによる「わりと普通のフュージョン風」な間奏パートを経て、スピーディに転がるマリンバ伴奏や行進曲風のスネア・ドラムとメロディアスなヴォーカルを対比させたメイン・パートへと帰る。 変拍子のアクセントもあるが 8 ビートでもユニークな強拍の置き方をするため独特の抑揚がある。これまた GENTLE GIANT との共通点である。 最後には得意の「デリケートなのに圧迫感のある」変拍子トゥッティも現れる。 しなやかなギターと多彩な打楽器でジャジーでポップな歌を彩った作品だ。

  「Hidden Moods」(3:40) 管楽器をフィーチュアした繊細でエレガントなインストゥルメンタル。 ほのかなラテン・テイストや典型的なベース・サウンドなど、いわゆる「フュージョン」なのだが、清潔感というかニューエイジっぽさもある。 打ち寄せる波のようなストリングス・シンセサイザーやエレクトーン風の電子ピアノのせいかもしれない。 序盤は、エレピとフルートによるドリーミーなアンサンブル、中盤は美しいアコースティック・ギター・ソロを経て木管の調べで典雅なイメージを描く。 後半はベースの刻むさりげない変拍子リフにドライヴされて、ムーグとワウ・ギターが軽やかな応酬を繰り広げ、さわやかな緊張感を呼び覚ます。 またも間奏曲風。

  「New York Dream's Suite」(8:30) ドラマティックなオムニバス風のジャズロック大作。 ファンタジックな質感を残しつつも、ここまで披露してきたシニカルなユーモアにとどまらない正統的なロマンが沸き立ち、ダイナミックかつパワフルな流れが感じられる。 シンセサイザーに負けずにギターもドラムスも積極的に攻めている。 せめぎあうようなアンサンブルがカッコいい。 しかし、緩急の変化もみごとである。ゆったり歌うアンサンブルはまるで夢のゆりかごのようだ。 第一曲と同じく悠然と広がる宇宙の営み、すなわち 70 年代を生きたすべての人々の胸に描かれた心象風景の一つをイメージさせる。 さまざまに変化しつつも骨太でナチュラルな流れがあり、気がつけばおだやかな終焉の滝つぼへと流れ込んでいる。 完成度高し。 カラフルなファンタジーと前半の作品や「Knee Bitten Nymphs in Limbo」で見せたルーニーなユーモア感覚をドラマにまとめ上げた力作だ。

(AL 4120 / ERC-32005)


 Crafty Hands

 
Stanley Whitaker 6 & 12 string guitars, vocals
Frank Wyatt pianos, harpsichord, saxes, flute, words
Kit Watkins pianos, harpsichord, moog, fake strings, clavinet, 33, recorder
Rick Kennell bass
Ron Riddle drums, percussion

  78 年発表の第二作「Crafty Hands」。 前作の音楽性を、より確実化し、ダイナミックなフュージョン・タッチと繊細にして深みのあるシンフォニックな響きを合体させることに成功した傑作。 たゆとうような幻想性に加え、自然でメロディアスな面も強まり、聴きやすさという点でも優れている。 また、ドラムスがロン・リドルに交代し、リズムそのものもやや力強く押し出されている。 あえて華麗な奇を衒うことで個性を示した前作に比べると、ほんの少しながらも、落ちつきと血の通った表情が感じられるのだ。 とはいえ、これだけのミュージシャンが力まずに迫るのだから、それはそれで恐るべきメリハリをもった内容の濃い音楽になっている。 内容は、精緻な構築美と官能的なグルーヴの理想的なバランス/融合そのものだ。 GENTLE GIANTYESGENESIS のメロディ・センスとフュージョン・タッチを加味して、華やかにしたようなサウンドといえばいいかもしれない。 最終曲は、宮沢賢治の「よだかの星」では? プロデュースはケン・スコット。ARISTA レーベル。

  「Service With Smile」(2:45)クラヴィネットが刻む 16 分の 6+5 拍子のリフの上でギター、ムーグがしなやかにせめぎあう華麗なるインストゥルメンタル。 流れるようにレガートなテーマとリズミカルなバックが生む深遠なるファンタジーの世界である。 夢見るようなサウンドによる重厚でダイナミックなタッチが新鮮だ。 最高のアルバム・オープナー。 ところで、マクドナルドの店員用マニュアルのようなタイトルは何?

  「Morning Sun」(4:05) 前作をほうふつさせるデリケートなシンフォニック・チューン。 優美な序奏、そして生まれたばかりの妖精が無邪気に伸びをするようにあまりにも繊細でまろやかなムーグのテーマが否応なく耳を釘付けにする。 オルゴールを思わせる伴奏は、ギター、ハープシコードとピアノ、ヴァイブだろうか。 軽やかなステップをすっと止めるムーグを受けるのは、切なく悩ましいアコースティック・ギター。 キーボードは夢の泉からあふれ出すせせらぎである。 ドラムスの参加とともにいよいよ深々と高まるストリングスとともにドラマに色があふれ始め、再びテーマが華やかに盛り上がる。 名残惜しげなエンディング。 優雅な三拍子のワルツである。

  「Ibby It Is」(7:53) ドリーミーなサウンドによるソフトな GENTLE GIANT 調のトリッキーなフュージョン作品。 2 拍子と 3 拍子の交錯、 クラヴィネット、ギターらによる跳ねるようなアンサンブルとメロディアスなソロ、ストリングスのコントラストが冴える。 反復によるソフトな酩酊効果もあり。 ギターとキーボードによる夢見がちながらも乾いたクールネスのあるコンビネーションは、往年のバジー・フェイトンとニール・ラーセンを思わせる。 得意のファンタジック・チューンとの微妙な差異は、ごく自然なブルーズ・フィーリングにあると思う。

  「Streaming Pipe」(5:25) 再びトリッキーな変拍子リフを軸にしたややヘヴィな作品。 ゆったりまろやかなサウンドで高速スキップのようなプレイを包み込む得意技である。 アクセントを次々にずらして緊張感を高め、そのスリルをレガートなギターへと手渡す。

  「Wind Up Doll Day Wind」(7:08) 得意の半音下降フレーズを軸にコミカルな音を散りばめた歌もの。

  「Open Book」(4:54) 素朴なリコーダーの調べが意外。

  「I Forgot To Push It」(3:08)16 分の 3+5+5 と 3+5+4 のリフが交錯するトリッキーな快速チューン。

  「The Moon, I Sing(Nossuri)」(6:18)5 拍子のゆるやかなアルペジオに支えられたゆったりとした作品。

(AB 4191 / ERC-32006)


 Third: Better Late

 
Kit Watkins keyboards, flute
Frank Wyatt electric piano, alto sax, flute
Stanley Whitaker electric & acoustic guitars, vocals
Rick Kennell bass
Coco Roussel drums, percussion

  83 年発表の第三作「Third: Better Late」。 ドラマーが元 HELDON のココ・ラッセルに交代。 本作は、79 年に録音が済んでいたにもかかわらず、諸般の事情で 83 年まで発表が遅れた。 CD 化は 90 年。ジャケット写真はこの CD のもの。
  前作のメイン・ストリームへの接近は一段落、本作では、フュージョン風のグルーヴやテクニカルなプレイも取り入れつつも、よりドリーミーで描写的なアンサンブル指向のサウンドへとゆり戻している。 キーボードとギターがリードするメロディアスなアンサンブルには、安定したテクニックとともに上品なポップ感覚があり、安心して身をゆだねることができる。 たたみかけるような展開やテクニカルな変拍子といった大向こう受けするような場面よりも、デリケートな音の数々を絶妙のバランスで散りばめた演奏を楽しむべきだろう。 正直にいって、サウンドに関しては、機材に恵まれなかったせいか、前作までほどの華やかさはない。 製作未了のように聴こえるところすらもある。 それでも、音を使ったモザイクというべき卓越したアンサンブルのみごとな精緻さ、デリケートにして挑戦的な運動性など、音楽としての質の高さははっきりと分かる。 特に、ワトキンスのキーボード・プレイは、ややリラックスした感あるも、多くのキーボーディストが落ち込んだニューエイジの陥穽の崖っぷちで踏みとどまり、あくまでロマンティックで幻想的でスリリングなプログレ心を忘れていない。 他に演奏で目を惹くのは、反応のいいリズム・セクション、抜群の呼吸のよさをさりげなく見せる、こなれたインタープレイ、いわゆる歌のうまさよりも多彩な表情で聴かせるヴォーカルなど。 わたしにはスタンリー・ウィテカーの歌唱スタイルがイアン・アンダーソンと同じに聴こえてなりません。 大作「Labyrinth」では、カラフルな音色と流れるような展開に加えて、ユーモアを感じさせる余裕の演奏。 独特のよじれてゆくような調子もある佳作だ。 また 1 曲目「Eye Of The Storm」は、後にワトキンスが加入した CAMEL の作品にも収録されている。 フルートとサックスによる美しくファンタジックなテーマは、CAMEL を意識したものとしか思えないできばえであり、「Rain Dances」に収録されていても全く違和感はないだろう。 GENESIS のロマンチシズムをフュージョンの文脈へと昇華した唯一無二の存在の円熟の境地を堪能できる名盤。 本作を最後にグループは解散。 アルバムのタイトルは「Better late than never」(遅くともないよりはまし)という意味の慣用句の省略形と思われる。

  「Eye Of The Storm」(3:58)メロディアスでライトなタッチとほのかな神秘性がブレンドした、珠玉という言葉のふさわしい佳曲。フルートが美しい。インストゥルメンタル。
  「The Falcon」(6:09)独特のシリアスな味わいのあるヴォーカルを活かした作品。
  「At The Edge Of This Thought」(5:16)キーボードをフィーチュアした優美な変拍子インストゥルメンタル。
  「While Chrome Yellow Shine」(6:10)つややかなサックスと丸みのあるサウンドのシンセサイザーをフィーチュアした天翔るような作品。 テクニカルなギターも加わり、前曲よりもスリリングでドラマ性もある。インストゥルメンタル。ソプラノ・サックスが高まると WEATHER REPORT のイメージも。
  「Who's In Charge Here ?」(5:39)思いが胸に渦巻くメランコリックな感じの歌もの。無調、不協和音が不気味。
  「Shadow Shaping」(4:25)5 拍子なのに輪舞風に感じられるダンサブルな歌もの。80 年代なら普通のポップスとして流行りそう。 ジョー・ジャクソン辺りのスタンダード・リバイバル路線と並べるのはどうだろう。
  「Run Into The Ground」(5:02)パワフルな演奏でスリリングではあるが、スタイルは吹っ切れたように普通のアメリカンなフュージョン。 あまりに緻密な演奏ばかりだったのでストレス解消のためだろうか、伸び伸びとしている。
  「Footwork」(4:19)3 拍子系と 2 拍子系を交錯させつつもメロディアスなテーマで迫る GENTLE GIANT 的な作品。
  「Labyrinth」(7:29)挑戦的な変拍子アンサンブルをユーモラスかつファンタジックなテーマでドライヴするプログレ傑作。
  「Such A Warm Breeze」(5:08)

(AZ-1003 / CUNEIFORM RECORDS 55001)

 Beginnings

 
Mike Beck drums, percussion
Cliff Fortney lead vocals, flute, Rhodes, on 2-5
Rick Kennell bass
Kit Watkins multi-keyboards, vocals
Stanley Whitaker guitars, vocals
Frank Wyatt keyboards, alto sax, flute, vocals

  90 年発表の作品「Beginnings」。 グループ結成以降、1974 年から 1975 年にわたる初期二年の軌跡を記録した編集盤。 珠玉の未発表曲が主。 ワトキンスのキーボードを中心としたファンタジックなタッチはすでに完成しており、そのまま第一作へと引き継がれている。 サウンドはクラシックとジャズ、ポップスの不可思議なブレンドであり、繊細な美感と気品にあふれ、幻想的かつロマンティック、そして、やや偏執気味のリズム・マニアであることも隠していない。 優美でファンタジックだが、ベタつく感じがまったくないところがユニークである。 やはり、このグループは、ワイアット、ウィテカーの作曲力とワトキンスのサウンド・メイキングのセンスがキーである。 いわば、YESGENESIS 流のプログレに、ブライアン・ウィルソンやトッド・ラングレンのポップ・テイストをソフトに、デリケートに加味したような作風である。 リード・ヴォーカリストの歌唱法もドリーミーなサウンドによくマッチしている。 2/4 トラックのテープから起こした内容のため、音の広がりや立体感は決していいとはいえないが、ファンならばぜひ聴いてほしい。 この時期の CUNEIFORM レーベルの活動には、感謝の言葉もない。

  「Leave That Kitten Alone, Armone」(9:16)第一作の作風そのままな、そこはかないユーモア漂うファンタジック・チューン。75 年、2 トラック・テープでのスタジオ・ライヴ録音。89 年ワトキンスによって DAT 移行時に追加処理がなされている。そういえば「Leave my kitten alone」という R&B のスタンダード・ナンバーがありますな。ワイアット作。

  「Passion's Passing」(8:40)74 年、4 トラック・テープでの放送用音源。89 年ワトキンスによってリミックスされている。サックスを始め、ゆったりメロディアスなソロが美しい。ワイアット作。

  「Don't Look To The Running Sun」(9:52)74 年、4 トラック・テープでの放送用音源。89 年ワトキンスによってリミックスされている。 HTM らしい愛らしくもルーニーで圧迫感のあるアンサンブル(序盤は合わせるのが難しそうな微妙なスロー・テンポ、中盤は得意の目まぐるしいアンサンブルへ)から、一気に、弾けるブライアン・ウィルソン風のサビへ。ヴォーカルはなんとなくピーター・ガブリエル風。フォートニイ作。

  「Gretchen's Garden」(11:04)いわゆるプログレらしさを発揮して目まぐるしく展開する力作。 オルガンやエレピの音が新鮮。 終盤、スリリングな変拍子で勢いよくたたみかける。 74 年、2 トラック・テープでのスタジオ・ライヴ録音。90 年ワトキンスによって DAT 移行時に追加処理がなされている。ワイアット、ケン、ウィテカー作。

  「Party The State」(9:20)GENESIS の影響が露な作品。 いかにも「アメリカ・プログレの発掘もの」風である。 74 年、2 トラック・テープでのスタジオ・ライヴ録音。90 年ワトキンスによって DAT 移行時に追加処理がなされている。フォートニイ作。

  「Broken Waves」(5:49)メロディアスなシンセサイザー、サックスによるフュージョン・タッチの作品。 75 年、2 トラック・テープでのスタジオ・ライヴ録音。89 年ワトキンスによって DAT 移行時に追加処理がなされている。ワトキンス作。

  「Portrait Of A Waterfall」(6:45)タイトルのイメージそのままの、ニューエイジ風味のある作品。 サックスのプレイは不思議なほどモダン・ジャズっぽくならない。 75 年、2 トラック・テープでのスタジオ・ライヴ録音。89 年ワトキンスによって DAT 移行時に追加処理がなされている。ウィテカー作。

  
(Cuneiform 55003)

 Deaths Crown

 
Mike Beck percussion
Dan Owen vocals, classical guitar, additional bass on 2
Rick Kennell bass
Kit Watkins organ, moog, string ensemble, clavinet, flute, recorder, sound effect
Stanley Whitaker guitars, recorder
Frank Wyatt electric piano, vocals

  99 年発表の作品「Deaths Crown」。 未発表曲アーカイヴ第二弾。 クリフ・フォートニィの脱退後、新ヴォーカリスト、ダン・オーウェンを迎えて録音された作品集である。 デモ音源らしい音質だが、超大作を筆頭に作品そのものは、サルベージされて幸運だったとしかいいようのない、みごとなものである。 個人的には、ワトキンスのオルガンとワイアットのエレクトリック・ピアノの絶妙のコンビネーションとリコーダーの使い方に痺れた。 CD 製作の謝辞に、デイヴ・ローゼンタールの名前がある。

  「Deaths Crown」(38:00)74 年録音。74 年の段階ですでにテクニカルかつファンタジックかつルーニーという特徴的なサウンドが完成の域にあることに驚く。第一作のモチーフ(ワトキンスの癖ともいう)が見つかる。YES と共通する雄大なスケール感もあり。
  「New York Dreams Suite」(8:45)第一作収録作品。74 年録音。
  「Merlin On The Hight Places」(7:10)76 年録音。インストゥルメンタル。

(CUNEIFORM 55015)

 The Muse Awakens

 
Frank Wyatt sax,keyboards, woodwinds
Stanley Whitaker guitars, vocals
Dave Rosenthal keyboards
Joe Bergamini drums,percussion
Rick Kennell bass

  2004 年発表の再結成新作「The Muse Awakens」。 遂に現れたオリジナル新作。 キット・ワトキンスの跡をデイヴ・ローゼンタールが引き継いで活動を続けていたようだが、ようやくそのラインナップでの作品が完成した。 70 年代の作品としっかりリンクする、イメージ通りの内容である。 切り刻むような変拍子とルーニーなメロディが交錯してキリキリ舞いするシーンとライトなフュージョン・テイストがブレンドし、その果てに誰も見たことのない夢景色を描き出す、あの作風は健在だ。 油の効いた精密機械が早口でおしゃべりをするようなシンセサイザーのプレイもちゃんと再現されており、ローゼンタールの苦心の跡がうかがえる。 ドラムスは新メンバーのジョー・ベルガミーニ。 「らしさ」という点では、百点満点の内容です。 忙しなさと対比するメローな語り口もみごと。 きらめくような叙情性にほんのりとしたメランコリーを交える手腕は冴え、アメリカン・ロックには珍しいブリティッシュ・ロック・テイストを漂わせるところもそのままである。 唯一文句があるとすれば、奇天烈さや叙情性にさらなる深みを与える耳を釘付けにするようなメロディがもう一歩(いや半歩?)であることと、変拍子を強調したリフレインが耳につくこと。

  「Contemporary Insanity」(3:25) 変拍子リフで執拗にたたみかける、まずはご挨拶。

  「The Muse Awaken」(5:34) 第一作のイメージをよく復元した叙情的な作品。 スタッカートになったときの表情が 70 年代そのままなので驚く。

  「Stepping Through Time」(6:32) 透徹で厳かな響きを孕むオムニバス調ファンタジー。 フルート初登場。次第に躍動感が全体を支配してゆく。

  「Maui Sunset」(5:35) エレクトリック・ピアノが美しく懐かしい。

  「Lunch At The Psychedelicatessen」(4:58) 奇妙なギターを受け止めて、サックス初登場。 漫画チックなタイトルにぴったりのトンがってユーモラスな作品。ハーモニウムもおもしろい。

  「Slipstream」(4:43) アコースティック・ピアノをフィーチュアしたエレガントな作品。 後半ユーモラスなシンセサイザーが現れて、ピアノと交歓する。

  「Barking Spiders」(4:12)

  「Adrift」(4:03)

  「Shadowlites」(3:53)

  「Kindred Spirits」(5:26)

  「Il Quinto Mare」(7:22) なぜにイタリア語?

(INSIDEOUT6 93723 40542 1)

 Oblivion Sun

 
Frank Wyatt keyboards, sax
Stanley Whitaker guitars, vocals
Bill Plummer keyboards
Chris Mack drums, percussion
Dave Demarco bass

  2007 年発表のアルバム「Oblivion Sun」。 メンバーの都合から HTM としての活動を保留せざるを得なくなったウィテカーとワイアットを中心とした新ユニット「OBLIVION SUN」名義の作品。 ツイン・キーボードを生かした布陣とシャープでカラフルなおかつ独特のユーモアを備えた作風は、HAPPY THE MAN の後継といって間違いないだろう。 変拍子に聞えない変拍子がドライヴするメロディアスなアンサンブル、マイルドな管楽器系のニュアンスをもつ絶品のシンセサイザー・サウンド、ころころと転がるようなシンセサイザー・ソロ、そしてそれらが組み合わされて生み出される、ゆったりとした抱擁のような叙情性、ファンタジーは、30 年を経ても魅力を失っていない。 ウィテカーのギターに示されるように、以前より若干ハードなエッジの立ったサウンドとシンプルなノリを取り入れているところもある。 新キーボーディストのビル・プラマーが 3 曲提供しているが、その 2 曲がいかにも HTM らしい作品になっている。 特に 6 曲目「Re: Bootsy」の「いかにも」な 70 年代後半のファンキー・フュージョン・タッチがおもしろい。 ワイアットによる 9 曲目「Golden Feast」は、フュージョンのようでフュージョンでないという HTM らしさを十分に味わわせてくれる傑作。 個人的にはヴォーカルもあるワイアット作の 4 曲目「Catwalk」がいい。

(MVDA 4648)


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