HELDON

  フランスのプログレッシヴ・ロック・グループ「HELDON」。 ロバート・フリップに私淑するリシャール・ピナスを中心に結成。 74 年アルバム・デビュー。 79 年解散。作品は七枚。 ピナスは現在もソロ活動を続ける。 盟友パトリック・ゴーシェは 75 年から MAGMA でも活動。 また、初期のドラマー、ココ・ルーセルは CLEARLIGHT を経て渡米し、HAPPY THE MAN へ参加。

 Electronique Guerilla

 
Richard Pinhas AKS synth, 1957 Gibson Les Paul guitar
Alain Renaud guitar
George Grunblatt VCS3 synth
Patrick Gauthier piano, VCS3 synth
Coco Roussel drums
Pierrot Roussel guitar, bass
Gilles Deleuze voice

  74 年発表のデビュー・アルバム「Electronique Guerilla」。 ピナスのギターをフィーチュアしたヘヴィでエレクトリックな作品である。 ナレーション入りの一曲を除き、すべてインストゥルメンタル。 ピナスのギター・スタイル、とりわけディストーションとイコライジングで加工されたロングトーンは、ロバート・フリップのプレイに酷似。 この CD はなぜかロバート・ワイアットに捧げられている。

  1 曲目「Zind」(2:18)低周波ノイズがハウリングのように波打つ。 いくつもの波が追いかけあい、流れは厚みを増す。 あまり効果は感じられない。

  2 曲目「Back To Heldon」(8:31)ノイズの中を浮かび上がるけたたましいシンセサイザーのリフレインに、波打つギターが重なりあってゆく、アンビエントにしてヘヴィーな世界。 ギターは、きわめてフリッパートロニクス的。 まさしくフリップ&イーノの世界である。 シンセサイザーの反復に電子音が変化をつけると、同時に、ギターのメロディにも動きが現れる。 反復が止むと、終盤は飛び交う発信音が他を圧する。 やがて反復も復活。 ミニマルなエレクトロニック・ミュージック。 「Evening Star」です。

  3 曲目「Northernland Lady」(6:57)多重録音されたギターのアルペジオとリフレインによる伴奏で、ロングトーン・ギターがうねうねと流れてゆく。 2 分辺りから、変調された電子音によるけたたましいメロディが加わる。 ややエキゾチックなメロディだ。 ギターの伴奏もシタールのような響きをもつ。 アルペジオとロングトーン、電子音がヴォリュームの変化させて、主客を変えながら絡まりあう。 80年代 KING CRIMSON ほど技巧は凄まじくはないが、ある意味の先取りのような内容だ。 本作のうちでは演奏者の見える演奏。

  4 曲目「Ouais, Marchais, Mieux Qu'en 68」(4:22)ヘヴィなギターをバックにフランス語によるナレーションが続く、やや不気味な作品。 ギター、ドラムスともに着実ながら、荒々しく苛ついたような表情を感じさせる。 かなりパンク的なセンスではないだろうか。

  5 曲目「Circulus Vitiosus」(8:43)は再びフリップ&イーノの世界。 メカニカルにして刺激的な反復が交錯しあうなかを、ギターが悠然と流れてゆく。 オリエンタルな響きをもつギターは、エレクトリックな荒野に肉体の湿気をもたらす。 ループが描くのは、この世のものというよりはどこか他の惑星の景色のようだ。 名曲。

  6 曲目「Ballade Pour Puig Antich」(2:19)衝突音と電子音の呼応が繰り返される衝撃的なイントロ。 やがて CAN のような反復型のベース・パターンとギターのテーマが現れる。 背景は戦争のようなノイズの嵐だが、ベースとギターのデュオはおだやかだ。


  アルバム全体を通して、一種の荒涼とした美しさを感じさせる内容になっている。 反復とうねるような旋律のコンビネーションは、はるかジャーマン・ロックに通じる無機世界への道を示しているようだ。 ヘヴィ・ディストーションを用いたロングトーンのプレイやテープ・ループはフリップそのままなのだが、3 曲目のような演奏には AMON DUUL 風の素朴なプレイが基本にあることを示す。 CRIMSON が「Red」を最後に解散した 74 年にフランスでこういうアルバムが生まれていたとは、いわくいい難い縁を感じる。

(Disjuncta 12-13 / SPALAX 14239)

 Un Reve Sans Consequence Speciale

 
Richard Pinhas guitar, synthesizer, tapes, electronics
Francois Auger drums, percussion, synthsized percussion
Didier Batard bass on 3
Janick Top bass on 4, fracello on 4
Patrick Antisthene Gauthier synthesizer on 1

  76 年発表の第五作「Un Reve Sans Consequence Speciale」。 内容は、シンセサイザー・エレクトロニクスとロバート・フリップばりのへヴィなディストーション・ギターによるノイジーなインダストリアル・ミュージック。 位相変調とパーカッシヴなシーケンス反復を重ね合わせて描いた悪夢的な世界である。 PINK FLOYD らが実験的なアクセントとして試みたサウンドを中心に据えて拡張した音楽であり、その無機性、非人間性のイメージから 70 年代最末期にはインダストリアル・ミュージックと呼ばれる音楽の、いわば先駆けとなる作品である。 エネルギッシュなドラミングと電子ノイズが吹き荒れる演奏は最初期の TANGERINE DREAM のようだが、ジャーマン・ロックとの違いは、ミニマリズムによるヒプノティックな魔術性を超える、徹底したけたたましさと無闇な暴力性にある。 きわめてインテリジェントな音響操作によって生まれるのが原初の凶暴さであるというところがおもしろい。 現代人はその肉体性をいったん他のメディアを経由しなければ誇示できないのだろうか。 シンセサイザーによるメタリックでパーカッション的な音響が特徴的。 オージェによるアフリカンな打楽器の応用もある。 本作でのアプローチは次作でさらにリズムを強化することで完成形を見出す。 そして、本作のタイトルは、なんと KING CRIMSON のブートレッグのタイトルから取られたらしい。 そういえば、「Sailor's Tale」によく似たギターの表現も散見できる。 個人的にはシンセサイザーとギターの割合が逆転したほうがよかった。

  「Marie Virgine C.」(11:43)ピナス作。
  「Elephanta」(8:28)オージェ作。
  「MVC II」(6:14)ピナス作。
  「Toward The Red Line」(15:16)ピナス作。
  以下ボーナス・トラック。
  「Perspective 4ter MUCO」(5:26)ピナス作。
  「Marie Et Vergine Comp」(9:33)ピナス作。

(COB 37002 / CTCD 536)

 Interface

 
Richard Pinhas Moog III & B, guitar, electronics
Francois Auger drums, synthsizer, composition
Didier Batard bass on 4
Patrick Gauthier Minimoog, composition (3) , Moog bass (except 2)

  78 年発表のグループとしての第六作「Interface」。 内容は、きわめてヴァイオレントかつエレクトリックなヘヴィ・ロック・インストゥルメンタル。 シンセサイザー・ビートと強力ドラムスを組み合わせた無機質なリズム・セクションの上で、ムーグ・シンセサイザーが眩く輝き、ヘヴィ・ディストーテッド・ギターが思うさま暴れる。 今風にいうならば、人力テクノ・エレクトロニカややジャズロック寄り、といったところである。 ディレイやロングトーンなどギターのプレイ・スタイルはきわめてロバート・フリップ的だが、音楽的には、よりワイルドかつパンキッシュなセンスがあるようだ。 これは、ギターよりもシンセサイザー・シーケンス系の音の比重が高いためかもしれない。 また、フランシス・オージェの卓越したドラミングが生み出す躍動感は、テクノ/サイケデリック・サウンドにも迫る(4 曲目「Bal-A-Fou」などはきわめて GONG 的)のだが、全体として見ると、どちらかといえばダンサブルなビート感やスピード感よりも、ゴシックな軋みを強く意識させる。 5 曲目の小曲「Le Fils Des Soucouples Volantes (Vertes)」を聴くと、やはりギターの存在がアルバム全体の歪んだ緊張感を強めていると確信できる。 シーケンスやビート、リズム、パーカッシヴなアクセントによって、すでに十分な完成度をもつエレクトリック・ミュージックになっているにもかかわらず、さらにギターを加えることで、エピゴーネン的な怪しさとヤケっぱち風の苛立ちが加わって、なんとも奇妙で危険な構築物となっている。
  78 年にしてすでに「Interface」という言葉を使っているところにもかなりのセンスを感じます。 COBRA レーベル。

  「Les Soucouples Volantes Vertes」(2:26)リズム、シンセサイザー・ビートが主役のエレクトリック・チューン。 ドラムスがカッコいい。完全にドイツ系です。 オージェ作。 ジャケットの宇宙人は緑の空飛ぶ円盤でやってきたらしい。

  「Jet Girl」(9:49) TANGERINE DREAM のようなシンセサイザー・シーケンス上でギターを大きくフィーチュア。 ここでも人力ドラムスがカッコいいアクセントになっている。 ギターはフリップ氏と区別がつきにくいのだが、本家と比べると危うさや爆発力は今一つ。 芸風を追いかけているのだから、ネタが限られているのは当然ではある。 オージェ、ピナスのデュオによる演奏。 だんだんテンポが落ちてゆくところが不気味。 ピナス作。

  「Le Retour Des Soucouples Volantes」(2:21) 1 曲目に続いてエレクトリックなビートで迫る小品。 一瞬で通り過ぎる小品ながら、ヤン・ハマー直系のゴーシェのムーグ・ソロがカッコいい佳作。 折り重なるムーグを鋭いビートが貫いてゆく。 ゴーシェ作。 空飛ぶ円盤はやってきたので帰るらしい。

  「Bal-A-Fou」(7:22)ノイジーかつスペイシーな即興風の作品。 後期 CRIMSON 風のインプロにシンセサイザーを大量に放り込んだ感じ。 ただし、中盤からはミニ・ムーグ・ソロと鋭いドラミング、デディエ・バタールによるベースによって MAHAVISHNU ORCHESTRA のようなジャズロック的な展開となる。 それがまたエラくカッコいい。 オージェ作。 ベーシストも凄腕。

  「Le Fils Des Soucouples Volantes (Vertes) 」(1:47) 大作の一部のようなギター・インプロ。 複数のギターが、折り重なり追いかけあう。 ここでもオージェのドラミングが圧倒的。 音についてはフリップ氏との区別は困難だが、アドリヴのパターンはこちらがやや安易。 ピナス作。 親円盤が帰ったので今度は息子円盤がきたらしい。

  「Interface-Live (Part.1)」(6:19)ボーナス・トラック。78 年パリでのライヴ録音。クライマックスの抽出。

  「Interface-Live (Part.2)」(2:02)ボーナス・トラック。78 年パリでのライヴ録音。クライマックスの抽出、その 2。

  「Interface」(19:02) 本作のクライマックス。 シンセサイザーとギターの金属臭にむせ返るサイバー・パンクな傑作である。 前半ノイズとドラムスを組み合わせたビートが徹底して強調され、ミニマルなシンセサイザー・シーケンスにかなり酩酊した中盤に、ようやくギターが登場する。 まさにフリップそのもののようなプレイだ。 その後は、ギター、リズム、低音シンセサイザーが、ほぼ同等の力配分で刺激的な演奏を繰り広げてゆく。 反復とノイズによる麻薬的音響攻撃に、脳髄が焼け焦げるような気さえする。 矛盾するようだが、緊張ではりつめたトランス・ミュージックといえるだろう。 やはり傑作です。 エンディングで、ピナスという人はミュージシャンとしてはぜんぜんアカデミックじゃなくて、単なるロック好きであることが露呈する。 ピナス作。

(COB 37013 / CUNEIFORM Rune 43X)

 Stand By

 
Richard Pinhas Moog, Polymoog, vocoder, guitars, sequencer
Francois Auger drums, composition (1 parts 3 & 6)
Didier Batard bass
Patrick Gauthier Minimoog, piano, polymoog, keys, composition (2)
Klaus Blasquiz voice (1 & 2)

  79 年発表のグループとしての第七作「Stand By」。 HELDON 名義のラスト・アルバム。 シンセサイザー・シーケンスが主導権をもっていた「Interface」と比べると、本作では格段にヘヴィなギターがフィーチュアされており、暴力的美学を感じさせるタイトル・ナンバーから壮大な組曲までエレクトロニクスを利用したダイナミックでワイルドなギター/シンセサイザー・ロックが繰り広げられる。 特にタイトル・ナンバーは、凶暴なヘヴィネスとドライな情感が KING CRIMSON の「Lark's Tongues In Aspic」に匹敵するばかりか、さらにジャズロック的な演奏とテクノ風シーケンスの直線的な疾走感を交えてユニークネスを発揮した、フレンチ・ロック屈指の傑作である。 いわゆる CRIMSON フォロワー中では飛びぬけた作品だ。 専任のベーシストを迎えたのは正解だろう。 そして最後の大作「Bolero」では、「Interface」同様シンセサイザー・シーケンスとドラムスの織り成す浮遊感覚に満ちた世界を、ヘヴィなギターが貫いてゆく。 エレクトロニクスとのお遊びとは決別し、ストレートにヘヴィなロックと向かい合うことによって生まれた傑作アルバムだ。 EGG レーベル。

  「Stand By」(14:04)
  「Une Drole De Journée」(4:00)
  「Bolero」(21:47)

(0066.054 / KICP 2713)


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