GRYPHON

  イギリスのクラシカル・ロック・グループ「GRYPHON」。 王立音楽院出身のリチャード・ハーヴェィとブライアン・ガランドを中心に 71 年結成。 73 年 アルバム・デビュー。 古楽器を用いた異色の編成で中世音楽を演奏するスタイルから出発し、ロック色のあるオリジナル作へと発展した。 77 年の解散までに五枚のアルバムを残す。 GRYPHON は「緯度 0 大作戦」の空飛ぶアレです。

 Gryphon
 
Richard Harvey recorders, krumhorn, keyboards, guitar, mandolin
Brian Gulland bassoon, krumhorn, recorder, keyboard, vocals
Graeme Taylor guitars, keyboards, recorder, vocals
David Oberle drums, percussions, vocals
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  73 年発表の第一作「Gryphon」。 二つの木管楽器とギター、ハープシコード、パーカッションから成るアコースティック・アンサンブルが奏でる中世風のサウンドであり、まさしく「古楽ロック」というべき内容である。 本格的な学究である音楽家が、現代のポップス、ロックと交差/刺激し合った結果生まれた音は、きわめてユニークかつ前衛的なものとなった。 いい具合に古びて味わいを持つ世俗の音に宮廷の雅を交えたサウンドは、まずふくよかで品のある芳香を放ち、そして素朴な躍動感ももっている。 また、中世音楽といっても、いわゆるトラッドといわれる世俗のものが今のポップスと通底するのは当然(ともに庶民の娯楽である)であり、ここでの試みは、現代において「古典音楽」として奉られてしまうような堅苦しい世界から音楽を脱出させて、自然なポジションにすえ直したことといってもいいだろう。 アプローチの種類も、古楽風のフレーズを交えたフォーク、純トラッド、バンド形式による宮廷音楽、古楽器によるモダンなポップス、さらには古楽をコラージュした雑食性豊かな前衛作まで多彩である。 それでいて、演奏そのものはきわめてオーセンティックな技巧派であり、雰囲気重視のフォーク作品とはまったく次元の異なる完成度をもっている。 抜群の表現力をもつ二人の管楽器奏者のポリフォニックな絡みを中心に、溌剌と弾けるような絃の音とまろやかでユーモラスな管の音が、抜群の調和を見せている。 特筆すべきはクラムホルンという奇妙な形の木管楽器だろう。 その音は草笛を思わせる、ノスタルジックで素朴なものである。
   聴きものは 7 曲目。 スタンダード・ナンバーの断片も散りばめられる超絶ソロ、エレクトリックな処理など、聴きようによってはサイケデリックな酩酊感もある、スリリングな快速チューンである。 8 曲目もポップス、ルネッサンス、バロックと自由奔放な動きを見せるアコースティック・ギター・ソロ。 9 曲目はブリット・ポップを古楽器で演奏したような作品。 ルネッサンス/バロックの宮廷古楽と俗謡そして中世風のオリジナル作品を主とする本作を出発点にして、さまざまな音楽スタイルが絶妙の配合を見せるオリジナル・サウンドが形作られてゆく。 本作は、フランス・ブリュッヒェン、デヴィッド・マンロー、ハンツ・マルティン・リンデのファンにもお薦めです。 エレクトリックな音はほとんどなし。 ジャケットのグリフォンの絵は、昔読んだ「不思議の国のアリス」の挿絵にそっくりです。元になる何か有名な絵か彫刻があるのでしょうか。

  「Kemp's Jig」(3:07)
  「Sir Gavin Grimbold」(2:45)
  「Touch And Go」(1:29)
  「Three Jolly Butchers」(3:54)
  「Pastime With Good Company」(1:34)
  「The Unquiet Grave」(5:40)
  「Estampie」(4:53)
  「Crossing The Stiles」(2:25)
  「The Astrologer」(3:12)
  「Tea Wrecks」(1:06)
  「Juniper Suite」(4:49)
  「The Devil And The Farmer's Wife」(1:55)

(TRA 262 / PCCY-00344)

 Midnight Mushrumps
 
Richard Harvey recorders, harmonium, pipe organ, grand piano, harpsichord, electric piano
  toy piano, keyboard glockenspiel, mandolin, vocals, krumhorn
Brian Gulland bassoon, bass krumhorn, tenor recorder, keyboards on 4, vocals
Graeme Taylor guitars, vocals
David Oberle drums, timpani, percussion, lead vocals
Philip Nestor bass, vocals
guest:
Ernest Hart organ
Pete Redding guitar, bass
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  74 年発表の第二作「Midnight Mushrumps」。 古楽器によるインストゥルメンタル大作とルネッサンス調の旋律にロックのビートが混ざったヴォーカル曲から構成される。 演奏は、リコーダー、オーボエに似たクラムホルン、アコースティック・ギター、オルガンによる対位的アンサンブルに、適宜ソロを交えるスタイル。 伸音と撥音がバランスよく配された本格的な古楽器合奏であり、安定した演奏ときわめて自然な抑揚は、キワモノ的なものをまったく感じさせない。 また、エレクトリック・ベースとスネア中心のドラムスもごく自然にアンサンブルを支えている。 何にせよ、エレクトリックな音/ビートに慣れた耳には凄まじく新鮮なのだ。 曲調にトラッド調の哀感はなく、生活に根差したユーモア/エネルギーと宮廷音楽的な雅が漂っている。 ロマン派的なテンポ・ルパートから離れたアンサンブルが、ロックのビートとみごとにとけ合っていることがじつに興味深い。
  1 曲目の大作は、ほのかにユーモラスなテーマをもとに、即興的なプレイとリラックスしたアンサンブルが自然にドラマをつくってゆく傑作。 テーマはガスパル・サンス風。 2 曲目は、ルネッサンス調ヴォーカル・ナンバー。 素朴な音にキーボードが味つけしてポップ。 3 曲目は、ギターのテイラーの作品。 流れるような演奏は、現代フォークとも古楽ともつかぬ不思議なもの。 アンプラグド YES もしくは GENTLE GIANT。 4 曲目は、ガランドが仕切る軽妙かつ重厚なキーボード中心のアンサンブル。 5 曲目は、リズムをめまぐるしく変えてゆくファンタジア。 これならロック・ファンがうなずくのも分かる大傑作。 私は THE BEATLES を思い出しました。 6 曲目は、ビートの効いたダンス・ナンバー。 さえずるようなリコーダーが美しい。

  「Midnight Mushrumps」(18:58)
  「The Ploughboys Dream」(3:02)
  「The Last Flash Of Gaberdine Taylor」(3:58)
  「Gulland Rock」(5:21)
  「Dubbel Dutch」(5:36)
  「Ethelion」(5:15)

(TRA 282 / PCCY-00345)

 Red Queen To Gryphon Three
 
Richard Harvey keyboards, recorders, krumhorn
Brian Gulland bassoon, krumhorn
Graeme Taylor guitars
David Oberle drums, percussions, tymps
Philip Nestor bass
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  74 年発表の第三作「Red Queen To Gryphon Three」。 4 曲の完全インストゥルメンタル大作を揃えた本作品は、前二作のアプローチの完成形であり、最高傑作といっていいだろう。 クラムホルンなどの古楽器とともに、キーボード(特にシンセサイザー)を大胆に使用したアンサンブルは、まさしく、ロックの形を取って現代に甦った中世音楽である。 楽曲は、トラディショナルな主題を中心にして目まぐるしく展開してゆくが、ユーモアとリリシズムをいっぱいに湛えており、どこまでも親しみやすい。 そして何より、音色がみごとなまでに多彩なのだ。 管弦さまざまな楽器が奏でる旋律が、テーマを中心に層を成してゆく様子は、ファンタスティックとしかいいようがない。 トラッドな旋律の魅力と丹念に音を積み重ねてゆく演奏、さらには純真でオプティミスティックな喜びがサウンドの底辺に流れており、その点で、マイク・オールドフィールドやボ・ハンソンの作品に通じる世界ともいえる。 北欧トラッドの明るさとの共通性もあるように思う。 太く硬い音色のベースとフル・ピッキング・スタイルのギターなど、演奏/サウンド面では、当時ツアーに同行した YES の強い影響もあるようだ。 各曲それぞれに魅力にあふれるのだが、特に取り上げるなら、3 曲目「Lament」。 哀愁と豊穣さ、一緒になって胸を打つ主題が、変転を重ねるなかで、時にたおやかに、時に堂々と浮かび上がる。 クラムホルンの摩訶不思議な音色に酔って、遥か古の世界の夢を見ましょう。

  「Opening Move」(9:44)まさにアコースティックなイメージの YES。「Yours Is No Disgrace」でしょうか。
  
  「Second Spasm」(8:18)ダイナミックにして小気味のいいベース・パターンがあまりにクリス・スクワイアな作品。
  「Lament」(10:49)
  「Checkmate」(9:43)

(TRA 287 / PCCY-00346)

 Raindance
 
Malcolm Bennett bass, flute, lyriques, esoteriques on 4
Brian Gulland bassoon, backing vocals, vocals on 6
Richard Harvey grand piano, Rhodes, RMI & Crumar electric piano, Mini-moog, Copeman Hart organ
 Mellotron, Clavinet, keyboard glocken spiel, recorders, krumhorns, penny whistle, clarinet on 4
David Oberle drums, percussions, lead vocals on 3, 8, vocals on 6
Graeme Taylor guitars, backing vocals
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  75 年発表の第四作「Raindance」。 STACKRIDGE をクラシカルにしたような粒ぞろいのクラシカル・ポップチューンが並ぶ愛らしきブリティッシュ・ロックの逸品。 いってみれば、YES に学んだ明快な音による浮き彫りのようなアンサンブルと、入念に音色を選んで丹精込めた、それでいて、フォーキーな軽やかさとジャジーな小粋さも備えた楽曲の詰め合わせ箱である。 歌ものだけではなく、インストゥルメンタルにおいても、上品なユーモアを伝える豊かな表情がある。 そこが、このグループの卓抜たる演奏力を物語っている。 この作風を「英国の FOCUS」と呼ぶのも一興だろう。
   巷間の小品集なる評価には、前作との対比以外の大きな意味はない。 本作を最後にギタリストのグレアム・テイラーが脱退するが、次の作品までに間が空いているのは、的確きわまるギター・プレイで作品を引き締めてきたこの人を失った痛手からの回復にそれだけ要したということなのだろう。 このテイラーによる 6 曲目は、田園風味とヴォードヴィル調を連結し、メロディアスにしてリズミカル、のどかでやんちゃな本当に英国ロックらしい名曲。 また、ハーヴェイは、随所でウェイクマンばりのプレイを放つが、それすらも愛らしくほほえましい。 最終曲の大作は、エレクトリック・キーボードを活かしたクラシカルかつ躍動感あるシンフォニック・ロックの名作。 つむじ風のように舞うキレのいいリコーダーとともに、滋味あふれるクラムホルンも活躍する。

  「Down The Dog」(2:44)
  「Raindance」(5:37)
  「Mother Nature's Son」(3:08)
  「Le Cambrioleur Est Dans Le Monchoir」(2:14)
  「Ormolu」(1:00)
  「Fontinental Version」(5:36)
  「Wallbanger」(3:33)
  「Don't Say Go」(1:48)
  「Ein Klein Heldenleben」(16:03)

(TRA 302 / PCCY-00347)

 Treason
 
Richard Harvey piano, sax, recorder, electric keyboards
David Oberle lead vocals, percussions
Brian Gulland bassoon, English horn, recorders, vocals
Bob Foster guitars, vocals
Jonathan Davie bass
Alex Baird drums
Tim Sebstian lyrics
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  77 年発表の最終作「Treason」。 ベース、ギターがそれぞれジョナサン・ディヴィとボブ・フォスターに交代、ドラムスのデヴィッド・オバールはヴォーカルに専念し、専任ドラマーとしてアレックス・ベアードが加入した。 サウンドは、メンバーの変化に伴ない一気にポップ度アップ。 ソフトロック風のヴォーカル・ハーモニーによるメロディ・ラインを、テクニカルなアンサンブルと典雅な古楽の響きで支えるシンフォニック・ロックであり、そのパフォーマンスは、従来のイメージは確かに覆すのだが、いかにも英国ロックらしいものである。 甘目でイージーなメロディが好みを分けるかもしれない(1 曲目のテーマなんて胸キュンものですが)が、各パートが呼吸よく反応し、フレーズがめまぐるしく交差するアンサンブルには、いかにもプログレらしいスリルがある。 一方、バスーン、ホルンの柔らかな響きは、のどかで穏かな表情を作り出している。 爽やかなコーラス、ジャズ風のボブ・フォスターのギター、多彩なキーボード、古楽で鍛えた精緻なアンサンブルを組み合わせた演奏は、粒だった音をもつリズミカルなものであり、結果的に YES に非常に近いイメージになっている。 プログレ・ファンには、かなり聴きやすいはず。 しかし、数多存在した YES のエピゴーネンの大きく異なるのは、自己満足的なテクニック指向にとどまらず、古楽とロックの融合という高度な目標をしっかりともち続けているところだろう。 このキャッチーで木目細かいサウンドは、その追求の結果として、十分納得できるものだ。 古楽からポップスまで無限の引き出しを持つリチャード・ハーヴェィが、もし YES に加入していたら、と思わず想像を逞しくしてしまう。 エレクトリックなポップ感覚と田園風ののどかさがブレンドした佳作。 玉手箱を開けたら、古楽が一気に現代の音楽になりました。 ENGLAND のファンにはお勧め。

  「Spring Song」(10:00)音量の差が大きいオープニング。しばらく音が出ないのでステレオが壊れたかと思いました。 YESGENESIS を思わせるトリッキーなシンフォニック・チューン。 メロディ・ラインも絶妙。 特にエンディングのリフレインなど、ジョン・アンダーソンが歌ってもおそらくまったく違和感なし。

  「Round & Round」(4:30)
  「Flash In The Pantry」(4:57)
  「Falero Lady」(4:08)
  「Snakes And Ladders」(5:15)
  「Fall Of The Leaf」(4:22)
  「Major Disaster」(4:04)

(HARVEST SHSP 4063 / C5CD 602)

 About As Curious As It Can Be
 
Richard Harvey recorders, krumhorn, keyboards, harmonium
Graeme Taylor guitars, mandolin
David Oberle drums, glockenspiel
Brian Gulland bassoon, bass krumhorn
Philip Nestor bass on 1-3
Malcolm Bennett bass on 4-8, flute
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  2002 年発表の作品「About As Curious As It Can Be」。 74 年、75 年の BBC スタジオ・ライヴ録音。 宮廷風味の強いアコースティックな大衆古楽からダイナミックな古楽ロックへの変転がよく分かる選曲になっている。 摩訶不思議な音色、バンド・アンサンブルの妙味、スリリングな展開などジャンルへの拘泥を空しくする超越感あふれる作風である。 全体にグレアム・テイラーのエレクトリック・ギターの存在感がたいへんいい。

  「Renaissance Dance Medley
  「Midnight Mushrumps」第二作より。古楽スタイルのフォークロックとして卓越した演奏力を見せる大作。
  「Ethelion」第二作より。
  「Wallbanger」第四作より。
  「The Last Flash Of Gaberdine Taylor」第二作より。
  「Le Cambrioleur Est Dans Le Monchoir」第四作より。
  「Ein Klein Heldenleben」第四作より。YES の影響をしっかりと消化した古楽プログレの大傑作。
  「Jigs

(HUX 027)


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