GLASS HAMMER

  アメリカのプログレッシヴ・ロック・ユニット「GLASS HAMMER」。 92 年結成。 フレッド・シェンデルとステファン・デアルク(バブ)のデュオから出発し、現在は 4 人編成。 ハモンド・オルガンやメロトロン、アナログ・シンセサイザーなどヴィンテージ鍵盤楽器を高度に操るキーボード・ロック。 アコースティックな音も巧みに使う。 ファンタジー・ノベル的な主題をエマーソン、ウェイクマン直系のスリリングなキーボードとトラッド・タッチで描く本格派である。

 If

 
Fred Schendel keyboards, steel guitar, mandolin, backing vocals
Steve Babb bass, keyboards, backing vocals
Jon Davison lead vocals
Alan Shikoh guitars
Randall Williams drums

  2010 年発表の第十一作「If」。 内容は YES 風のリード・ヴォーカルと器楽によるフォーク系シンフォニック・ロック。 エレクトリック・キーボードによるプログレ・クリシェ(もちろんメロトロンあり)、メロディアスなギター、トラッド・フォーク調の透明感ある歌唱とマンドリンの調べ、これらが呼応しながら穏やかな表情で物語を綴っている。 ミドル・テンポの展開が多いため単調に聴こえることもあるが、全体としては、なだらかに連なる丘陵地帯を旅するような心弾ませる作風である。 もう少しケレン味があると THE FLOWER KINGS に迫ったと思うが、あえてそうしないところが特徴なのかなと思う。 どうやら若干の紆余曲折を経て、初期の作風に戻りつつあるようだ。 宇宙っぽいのになぜか山に萌える緑を揺らす風やせせらぎが聴こえてきそうな感じの音、そういう YES の流儀をみごとに再現しています。

(SR 1924)

 Journey Of The Dunadan

 
Fred Schendel vocals, organ, keyboards, acoustic guitar, recorder, drums
Stephen DeArqe vocals, synthesizer, bass, trurus pedal, medieval guitar, percussion
Piper Kirk vocals
Michelle Young vocals
Basil Clouse bass on "The Palantir" & "Return Of The King"
David Carter electric guitar on "Morannon Gate"
Rod Lambert electric violin on "The Palantir"
Tony Mac rhythm programming on "Return Of The King"

  93 年発表の第一作「Journey Of The Dunadan」。 すでに手垢のついた感があるのだが、またしても主題はトールキンの「指輪物語」からである。 もっともストーリーに則っているのではなく、あくまでインスピレーションの源だと注釈されている。 耳触りのいいナレーションに導かれて、精妙なキーボードとヴォーカル、合唱、巧みな SE などの織り成す雄大なパフォーマンスとともに、魔法の世界へと入ってゆく、そんな感じだ。 リック・ウェイクマン往年の諸作にも通じる、クラシカルでトラッドそしてファンタスティックな音楽物語といえるだろう。
  本作のピアノ、ハモンド・オルガン、アナログ・シンセサイザーを中心にしたテクニカルなキーボード演奏は、EL&P に代表される 70 年代のキーボード・ロックの生み出した音楽的な特徴、すなわち攻撃性やロマンティックな叙情性、をみごとに再現している。 プレイそのものもエマーソンやウェイクマンとの類似点が多い。 その上で、さらなる特徴としてゲストをフィーチュアした歌ものの魅力がある。 それは、アメリカンでナチュラルな堂々たるポップスであり、アグレッシヴな演奏に鮮やかなアクセントをつけ、全体の流れを整えている。 声質やメロディにはアメリカらしい明るさがあり、プログレという観点では好みを分けそうだが、多彩なメロディがそれを補ってあまりある。 さらに、アコースティック・ギターやリコーダーらによるトラッド風のブリッジも異世界を描く小道具として効果的に使われている。 唯一残念なのは、「邪悪さ」の演出が安易なプロレス/ホラー映画/HM 調へと堕ちこんでしまっており、ストラビンスキーやバルトークほどの品格がないことだろう。 リズムも表情に乏しいのだが、安定感はあり多彩なキーボード・プレイを支え際立たせるという意味では問題ないだろう。 全体に、小曲が続くため聴き流してしまいがちだが挿絵入りの小説を読むようにじっくりと進めば、ページをめくるに連れ意外なほどいろいろなものが聴こえてくる。 まさに本格的なトータル・コンセプト・アルバムである。 そしてその観点で興味深いのは、CAMEL の「Snow Goose」がインストゥルメンタルという抑制された表現でリスナーの想像力を喚起しテーマを浮かび上がらせたのと対照的に、この作品は映像以外のあらゆる手段・情報を利用して物語を描こうとしている。 抑制とは対極の、使えるものなら何でも使う調の直接的なアプローチが、いかにもアメリカのグループらしいというのはうがちすぎか。 ともあれ、ありあまるキーボード・テクニックと優れたポップ感覚を持ち、音像作家としてのスタートを切ったこのグループに是非注目しよう。 プロデュースはシェンデルとデアルク。
  オリジナル盤には残念ながら歌詞が記載されていない。 2000 年の再発盤ではどうだろうか。

  「Shadow Of The Past」(3:19)
  「Something's Coming」(3:18)
  「Song Of The Dunadan」(9:13)
  「Fog On The Barrow-Downs」(2:33)
  「The Prancing Pony」(1:12)
  「The Way To Her Heart」(3:31)
  「The Ballad Of Balin Longbear」(3:39)
  「Rivendell」(3:30)
  「Khazad-Dum」(1:24)
  「Nimrodel」(4:58)
  「The Palantir」(6:39)
  「Pelennor Fields」(4:25)
  「Why I Cry(Arwen's Song)」(5:20)
  「Anduril」(2:02)
  「Morannon Gate」(5:41)
  「The Return Of The King」(7:55)
  「Why I Cry(Single Edit)」(3:58)ボーナス・トラック。

(ARION 7690-51111-120)

 Perelandra

 
Stephen DeArqe vocals, keyboards, bass, bass pedal, mellotron, zimmitar, rhythm programming
Fred Schendel vocals, keyboards, acoustci & electirc guitar, drums, rhythm programming, mellotron
Walter Moore vocals, 12 string acoustic guitar, electric guitar
Michelle Young vocals, singing
Milton Hamerick steel guitar
Randy Burt sax
Tracy Cloud backing vocals, speaking
David Carter 12 string acoustic guitar

  95 年発表の第二作「Perelandra」。 今回は、メンバーとゲストのクレジットの区別はない。 内容は、前作同様シンセサイザー、ハモンド・オルガン、メロトロンとヴィンテージ・キーボードを駆使したテクニカルにしてカラフルなシンフォニック・ロック。 サントラ風の SE やナレーションなども適宜用いている。 演奏の中心となるキーボードのプレイは、70年代のスーパー・プレイヤー達を彷彿させる本格的なものである。 もっとも、エマーソンそのもののような強烈なオルガンやピアノのプレイが散見できるにもかかわらず、メロディアスなヴォーカル・パートや間奏のプレイには堅実さが目立ち、全体としてはエキセントリックな面よりもアメリカン・ロックらしいフランクな感じが強い。 意外な発見は、ラグタイム風のプレイが似ていることである。 楽曲は、西海岸もののようなアコースティックな歌ものやクラシックのアレンジもの、そしてニューエイジ風から HM に近いものまでヴァラエティに富んだ内容になっている。 そして、その楽曲の随所にプログレ・キーボード・プレイが放り込まれているといえばいいだろう。 今回のコンセプトは、特に明記されてはいないので歌詞から想像するしかないが、ペレランドラという女性を巡る人生そのものに関わるような深刻かつ幻想的なもののようだ。 しかし、特にテーマを意識せずとも充分に聴き応えのある楽曲が揃っている。 前作がトータル性、ストーリー描写に優れた作品とするならば、本作はそれぞれの楽曲が明快な特徴をもって充実した作品である。 それでもエンディングに向けて明らかに楽曲は盛り上がりを見せ、11 曲目ではあたかも PINK FLOYD のように迫り、遂に迎える大団円では瑞々しいメロディでヴォーカルがリードしつつ次第にスペイシーでシンフォニックな高揚が訪れる。 そして YES のクライマックスを思わせるコーラスと、若い力の爆発のようなハイ・テンションのキーボード・アンサンブルが劇的に上りつめてゆくのだ。 アメリカらしい乾いた土と太陽の香りのするロックにプログレ・キーボードをちりばめたアルバムである。 何曲かエンディングが唐突であることとドラムスが一部単調であることを除けば、かなりの聴き応えです。 プロデュースはシェンデルとデアルク。

  「Now Arriving」(2:01)
  「Time Marches On」(10:36)
  「Lliusion」(9:07)インスト・パートが強烈に EL&P な作品。ヴォーカル・パートとの落差が大きく展開よりもプレイが重視されている。似てます。
  「The Way To Her Heart」(4:47)ヴォーカル・ハーモニーが爽やかなアメリカン・フォーク・ロック。リタ・クーリッジと DOOBIES もしくは EAGLES
  「Felix The Cat」(2:33)メンデルスゾーンのシンフォニーのアレンジ。 リズム・セクションの扱いの難しさを再発見。
  「Now Departing」(1:05)
  「Perelandra」(8:07)GENSIS 風のキーボードとニューエイジ・テイストとくればこれは HAPPY THE MAN
  「Le Danse Final」(5:19)音響派風のバックとブルーなサックス・ソロ。 80 年代的。異色。
  「That Hideous Strength」(3:54)
  「Enda The Lion」(0:56)
  「Into The Night」(4:46)メロディ・ライン、ヴォーカル・ハーモニー、ギターなど PINK FLOYD を相当意識した作品。
  「Heaven」(8:37)

(ARION RECORDS)

 On To Evermore

 
Fred Schendel vocals, keyboards, guitar, sitar, mandolin, flute, drums
Stephen Babb vocals, keyboards, bass, percussion
Walter Moore vocals, guitar, drums
David Carter vocals, guitars
guest:
Bob Stabner percussion on "This Fading Age"
Tracy Cloud vocals on "On To Evermore"
Kristy Sink vocals on "Twilight On Longview"
Tony Smith vocals on "Only Red"
Tatyana voice on "The Muse"

  98 年発表の第三作「On To Evermore」。 4 人編成になっての作品。 サブ・タイトルに「アリアーナと彫刻家の物語」とある。 そして、スリーヴには、「長」と「彫刻家」の書簡の形式でストーリーが暗示されている。 まだ赤ん坊のペレランドラを拾い上げて以来、「長」の近辺を不吉な事件の陰がよぎり、遂には愛妻の誘拐へと発展する。 事件を操る「魔術師」の謎めいた存在。 そして、さらに謎を深める「彫刻家」とその妻。 歌詞を斜め読みすると、どうやら前作を引き継ぐファンタジックな活劇のようだ。
  内容は、洗練されたサウンドのキーボードを中心とするファンタジックなシンフォニック・ロック。 キーボードを多用しながらも、音楽の基調は、アコースティックな音と夢見るような暖かみのある世界である。 得意のトラッド・フォーク調も随所に盛り込まれており、ポップな聴きやすさは今までで一番だ。 もちろん EL&P ばりのパーカッシヴなハモンド・オルガンやシンセサイザーのプレイは健在であり、重量感と雄大なスケールを感じさせてくれるのだが、それ以上に、今回特に強調したいのは、本作はいわゆる EL&P 系の豪腕キーボード・ロックではなく、高い完成度を持つ妖精譚/伝奇調のファンタジック・ロックであるということだろう。 基本は、クリアなサウンド仕立てによるノスタルジックな田舎風の昔語りであり、素朴ながらも丹念な語り口を楽しむべきである。
  物語を綴る重役を担うヴォーカルは、アメリカンな能天気ささえ気にならなければ、個性的なメロディも逞しくなめらかなハーモニーも、かなりいい。 また、声質の異なる複数のヴォーカリストが歌うことで、効果的なストーリー・テリングを行っている。 特筆すべきは、勢いのいいインストゥルメンタル・パートでもアコースティックなシーンでも、シンセサイザーの使い方が抜群にカッコいいこと。 丸みのあるつややかな音で演奏を小粋に華やかに飾って、ざらついたハモンド・オルガンやピアノ、ギターといい対比を成している。 また、力任せの単調な展開がないのも、特徴的だ。 場面ごとにていねいに音を配置しており、メロディアスなヴォーカル・パートでも攻め込むようにヘヴィなインストゥルメンタル・パートでも、誠実にこまめに起伏を付けて豊かに展開してゆく。 前作がややプログレ・クリシェにこだわっていたのに対し、本作は、演奏の充実を上回って物語を綴るうまさがあり、オリジナルなものを感じる。 なににせよ、キーボード・ロックといういいかたが失礼に当たるほど、味わいあるアメリカン・ロック/ポップ・チューンとしての完成度がある。 技巧的なプレイで押すような演奏もあるのだが、全体の印象としては、メロディを活かしデリケートな表現にこだわった落ちつきのある作品だ。 アメプロ・ハード系でも特に KANSAS のような叙情的で多彩な音楽性をもったグループのファンにお薦め。 プロデュースはスティーヴ・バブ。

  「On To Evermore」(7:00)
  「The Mayor Of Longview」(5:26)
  「The Conflict」(5:45)
  「Muse」(1:06)
  「Ariana」(16:41)美しいクライマックス。
  「Only Red」(5:18)
  「This Fading Age」(5:13)
  「Juckyard Angel」(8:58)
  「Twilight On Longview」(5:47)
  「?」(1:24)

(SR1127)

 Chronometree

 
Fred Schendel Hammond organ, Mellotron, Mini-moog, synths, keyboards, recorders
 acoustic & electric & slide guitar, auto-harp, drums, backing vocals
Steve Babb bass, keyboards, Mellotron, assorted analog symths, backing vocals
Brad Marler lead & backing vocals, acoustic guitar
Walter Moore drums on 6, electric & acoustic guitar
Arjen Lucassen guitar
Terry ClouseSOMNAMBULIST guitar

  2000 年発表の作品「Chronometree」。 キース・エマーソン、リック・ウェイクマンばりのハモンド・オルガン、アナログ・シンセサイザーのプレイをフィーチュアしたキーボード・ロック。 プログレ・ファンを巡るホロ苦くも奇妙な物語をテーマとするトータル・アルバムのようだ。 パーカッシヴで攻撃的なハモンド・オルガンのソロは、必ずプログレ・ファンに訴えるはず。 また歌ものにおける、アコースティックなフォーク/トラッド・テイストも健在だ。 いかにもアメリカン・ロックらしく、乾いたメロディとストレートな曲調が主なのだが、ツボを心得たキーボードの音の配置やアコースティック・ギターを用いたリリカルな演出によって、豊かなドラマが生まれている。 中西部の荒野を思わせるギターの弾き語りにメロトロンが静々と重なるところなど、かなりのセンスである。 演奏は、バランス・安定感ともに盤石。 メロディアスなヴォーカル・パートに、息を呑むようなキーボード・ソロを交えながら進んでゆく語り口には、もはや風格すらある。 テクニカルなプレイでひたすら押し捲るアーティストが多いアメリカにおいて、この緩急や強弱などバランス感覚に優れた演奏は、頭一つ抜け出ているといえるだろう。 なぜかアルイエン・ルカッセンのギターが高鳴るところだけ、バスドラがロールする。 アメリカン・ハードロックと REM のようなオルタナティヴ・ロックにプログレ・クリシェを散りばめた音、といってしまうのはあまりに大胆だろうか。 とにかくプログレ・ファンによるプログレ・ファンのための音楽であることに間違いはない。

  「All In Good Time - Part One
    「a) Empty Space」(6:45)
    「b) Revealer」 70 年代キーボード・ロックの王道たるハモンド・オルガンのプレイとあまりにニューウェーヴなヴォーカルの取り合わせが、かえって奇妙な味わいを生む序曲。 冒頭、ギターを交えたたたみかけるような変拍子アンサンブルでの全力疾走がカッコいい。 キーボードの存在感に比べると、ギターは少し弱い。

    「c) An Eldritch Wind」(3:26)いかにもアメリカン・オルタナティヴな弾き語り。 アナログ・シンセサイザーが、控えめながらもいいプレイを続ける。

    「d) Revelation」(8:07) ハモンド・オルガンによるヘヴィな邪悪さの演出、ジャズ・タッチが EL&P 風味を強調する。 ギターは、ここでも存在感が希薄。

    「e) Chronometry」 ストリングスが、たゆとうなかを虚脱したような歌が続いてゆく。 ヴォーカルはオルタナティヴ調から、やおら KANSAS を思わせる勇壮な表情へと変化する。 ファンタジックというよりは、ふらつくような曲調である。

    「f) Chronotheme」(4:41) サスティンを効かせたヒステリックなギターと、ウェイクマンばりの華麗なキーボードが交錯する謎めいたインストゥルメンタル。 突き抜けそうで突き抜けない。 ハモンド・オルガンを用いた重厚なミドル・テンポのテーマ部に、さまざまなソロをからめているのだが、明暗判然とさせないような調子を貫いている。 ソロはアナログ・シンセサイザーがカッコいい。

  「A Perfect Carousel」(5:17) アコースティック・ギターの弾き語り。 乾いた歌声がしみる名作だ。 切ないファルセットを支えるのは、メロトロン・ストリングスの密やかな響き。

  「Chronos Deliverer」(5:47) クラヴィネット、チャーチ・オルガンを重ねスライド・ギターが轟くオープニングと高鳴るコラールが、YES を思わせる劇的シンフォニック・チューン。 ここでもていねいなアナログ・シンセサイザーのプレイがいい。

  「All In Good Time - Part Two
    「g) Shapes Of The Morning」(1:55) バロック・フーガ調のオルガンからジャジーなビートでシンセサイザー・ソロ、と EL&P 的なお約束をコンパクトにまとめた佳作。 メロディアスな速弾きギターもよし。

    「h) Chronoverture」(5:59) クラシカルなピアノ、邪悪極まるハモンド・オルガン、「Peter Gunn」を髣髴させるシャフル・ビートなどマニアにうれしい展開でたたみかける力作。 ピアノの低音部の独特の使い方やアナログ・シンセサイザーの華麗な速弾きなどのしかけもある。 HM なギター、ドラムスも許せてしまう。 オルガンのオスティナートにメロトロンが重なる辺りで、ややテンションが落ちるが、その後も強引に引っ張ってゆく。 まとまりはないのだが、アクセントとなるプレイを連発して、最後まで保たせる。

    「i) The Waiting」(5:38) メロトロン・ストリングスの枯れ果てた音色が演出する悲劇的な序奏。 鋭いリズムでたたみかけるオルガンのオスティナートとサスペンスフルなギターが重なり高潮する、と一転邪悪なトゥッティにノイズが渦巻く、「悪の経典」風の演奏へ。 そして、ガラリと雰囲気を変えて、オルタナティヴ・ロック調のヴォーカル・パートがスタートする。 重厚なピアノが伴奏するも、演奏はすっかりアメリカンで逞しい調子を取り戻している。 ギターもノー天気だ。

    「j) Watching The Sky」(0:59)トラッド調のリコーダー・アンサンブル。

(SR9000)

 Lex Rex

 
Steve Babb lead & backing vocals, 4 & 8 string bass, synthsizer, keyboards, pipe organ, Hammond organ, Mellotron
Fred Schendel lead & backing vocals, steel guitar, guitars, Hammond organ, piano, pipe organ, keyboards, synthsizer
 Mellotron, mandolin, recorder, drums, percussion
Susie Bogdanowicz, Walter Moore, Sarah Lovell vocals
Haley McGuire, Robert Streets, Carrie Streets vocals
David Carter, Charie Sheltone, Bjorn Lynne guitar

  2002 年発表の作品「Lex Rex」。 内容は、多彩な音色を誇るキーボード群と清潔感あるヴォーカル・ハーモニーをフィーチュアし、ノスタルジックな響きを大切にしたシンフォニック・ロック。 YESEL&PGENESIS のイディオムを織り交ぜつつ、たまにネオ・クラシカル HM 調ではあるものの、ていねいなタッチでストーリーを綴っている。 そして、おなじみアナログ・シンセサイザー、ハモンド・オルガン、メロトロンは、今回もいい音がどっさり盛り込まれている。 曲名や歌詞から判断して、今回もお伽話仕立てのトータル・アルバムのようだ。
   オープニングこそカノンで迫るが、全体としては、複雑なアンサンブルよりも、メロディアスなテーマを中心に各キーボードの特徴的な音を活かしたフレージングをつないでゆくスタイルである。 (ごくたまに、ヤン・ハマーのようなテクニカルなジャズロック調のプレイがはさみこまれるが、こういうのは今まではなかったように思う) SPOCK'S BEARD のような図抜けたダイナミズムこそないが、場面ごとに頭をひねって最も効果のある音を選び出す職人的な丹念さがあり、またそれと対照するように、一気呵成のキレのいいプレイによる痛快さがある。 トラッド的な音のセンスのよさはすでに実証済だが、本作品でも、女性ヴォーカルやギターなどデリケートな表現には特に気を配っているようだ。 また、アメリカのグループには珍しく、イージーなロックンロール調に流れてがっかりさせられることや、技巧に凝りまくりで聴いていて疲弊するということもない。 YES 風のハーモニーを支えるメロトロンの使い方や、しっとりとしたアコースティック・ピアノを泣きのギターが追いかけるところなど、卓越した音楽センスと積み重ねたキャリアが感じられる。 ロマンチシズムの品格は、いわば、往年の FOCUS に迫る。
  安易な HM 色を払底したので、個人的には安堵している。 ただし、プロダクションは前作の方が良かったように思う。この辺りが自主製作の難しいところだ。 ともあれ、GENESIS みたいな EL&P で、なおかつ歌は YES、というバンドが聴きたい方にはお薦め。 これだけ継ぎ接ぎしてもなんとか聴けてしまうのだから、それはそれですごいことである。

2 曲目「Tales Of The Great Wars」は、プログレらしい音を満載した挨拶代わりの大作。変拍子のトゥッティやジャジーでテクニカルなソロもあるのだが、やはり素朴で叙情的な表現がみごと。分厚い音のアンサンブルの運びもイイ感じだ。遁走曲風のオープニングからワクワクさせる。
3 曲目「One King」は、躍動する YES 調のシンフォニック・ロック。スタイリッシュに決めていてカッコいい。キーボードのアンサンブルもすばらしい。傑作。
4 曲目「Further Up And Further In」は、本作中最大の作品。SPOCK'S BEARD ばりのミドルテンポの堂々とした演奏だ。後半のオルガン・ソロは、「Supper's Ready」のトニー・バンクスへのオマージュでしょう。至福のエンディングもいい。
6 曲目「Music For Four Hands」は、華やかなピアノ連弾の小品。 9 曲目、クライマックスの大作「When We Were Young」は、オールド・ファン直撃のシンフォニック・チューン。

このグループの作風の一番の魅力は、いろいろな意味での「暖かみ」だと思います。 技巧に走りすぎても、世を儚んでブルージーになりすぎても到達できない、人生を穏かにするやんわりとした暖かみ。 そういう感じをこの人達は、知ってか知らずか、音として捉えているような気がします。 音楽ファンでもここまで到達できるということを示して勇気を分けてくれているだけに、これからも元気に活動してほしいグループです。

(SR1123)

 The Inconsolable Secret

 
Fred Schendel keyboards, guitar, steel guitar, vocals
Steve Babb keyboards, bass, vocals
Walter Moore vocals
Susie Bogdanowicz vocals
Matt Mendians drums

  2005 年発表の作品「The Inconsolable Secret」。 内容は、一言で済ませられる。 つまり、YESGENESISEL&P のいいところを完璧なまでに換骨奪胎したシンフォニック・ロックである。 ハモンド・オルガン、アコースティック・ピアノのプレイから伝わるヴァイヴレーションは本物だし、悠然とした管弦楽によるクラシカル・タッチも全編冴え渡る。 コピー・バンドっぽい無理無駄ムラすべて消え、往年の名作とほぼ同等の地平を極めている。 おそらくここまでの最高傑作であり、これだけ究めてしまうと次の展開がたいへんそうだ、などと余計な心配もしたくなる。 とりあえず「おめでとう」と伝えたい。 あまりに自然でバランスがいいので地味に聴こえてしまうかもしれない。 持ち味であるトラッド風味も健在。
  ジャケットのイラストはもちろんロジャー・ディーン。 CD 二枚組。一枚目には楽曲のほかにディーンのイラストやセッション風景のヴィデオが収録されている。

(SR1320)


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