GILGAMESH

  イギリスのジャズロック・グループ「GILGAMESH」。 72 年 ASSAGEI、ジェイミー・ミューアとのコラボレーション SUNSHIP を経たアラン・ガウエンらが結成。 孤高のイメージの強いガウエンの美しいキーボードを中心としたジャズロック・サウンドはマイナーながらも HATFIELD AND THE NORTH とともにシーンを活性化し、NATIONAL HEALTH に向かう。 75 年解散。 77 年に再編し、二作目を発表。

 Arriving Twice

 
Alan Gowen piano, electric piano, synths
Phil Lee guitars
Mike Travis drums
Neil Murray bass on 1,2
Peter Lemer electric piano on 3,4
Steve Cook bass on 3,4
Jeff Clyne bass on 5,6,7,8

  2000 年発表のアルバム「Arriving Twice」。 ファースト・アルバム収録へ至る道のりを示した驚きの発掘音源。 NATIONAL HEALTH で再合流するニール・マーレイや元 CMU のスティーヴ・クックなど、グループに加わるもデビュー作に音を残さなかったメンバーの演奏を、初めて耳にできる。 また、ジェフ・クライン以下 4 人の確定メンバーによるアウト・テイクも興味深い。 曲は一部未発表の作品も交えるが、ほぼファースト・アルバムのレパートリー。 ユーモラスな決めのフレーズをもつ「Phil's Little Dance」やタイトル・ナンバーなど、このグループの個性を印象付ける作品の収録がうれしい。

  「With Lady And Friend」(4:25) 73 年録音。
  「You're disguised - Orange Diamond - Northern Gardens - Phil's Little Dance - Northern Gardens」(17:52) 73 年録音。
  「Island Of Rhodes - Paper Boat - As If Your Eyes Were Open」(6:52) 74 年録音。
  「Extract」(9:27)74 年録音。 HATFIELD AND THE NORTH とのダブル・カルテットによる演奏用の作品。
  「One And More - Phil's Little Dance - World's Of Zin」(9:11) 75 年録音。
  「Arriving Twice」(1:41) 75 年録音。
  「Notwithstanding」(4:21) 75 年録音。
  「Lady And Friend」(4:06) 75 年録音。

(RUNE 140)

 Gilgamesh

 
Phil Lee guitar
Alan Gowen acoustic & electric piano, clavinet, synthesizer, mellotron
Jeff Clyne bass, contrabass
Mike Travis drums
Amanda Persons vocals

   75 年発表の第一作「Gilgamesh」。 共同プロデュースにデイヴ・スチュアートを迎えている。 結成以来メンバー交代を重ね、ようやく最終形をまとめてアルバム・セッションへとこぎつけたようだ。 最終メンバーは、元 NUCLEUS のベテラン・ベーシスト、ジェフ・クライン以下、フィル・リー、マイク・デイヴィスなどブリティッシュ・ジャズ・シーンのミュージシャンばかりである。 内容は、多彩なキーボードとジャジーなギターをフィーチュアしたカンタベリー・ジャズロック。 エレガントにして暖かなテーマ、テクニカルにしてユーモアもあるインタープレイ、繊細なアンサンブルがバランスよく配された好作品だ。 エレクトリックのみならずアコースティック・ピアノ、ギターが用いられる場面も多い。 全曲インストゥルメンタル。 個人的には、丹念な作りこみにもかかわらず奇抜にならず、あくまで優雅なところがとても気に入ってます。 プログレ・ファンよりも、ジャズ・ファンに新たな世界への窓口としてほしい作品です。 スキャット以外は全編インストゥルメンタル。

  「a) One And More b) Phil's Little Dance - For Phil Millers Trousers c) World's Of Zin」(10:22) 3 部構成の作品。 オープニングは、種々のキーボードのリードする軽快なジャズロック・ナンバー。 このオープニングから、ジャジーなムーグとメロトロンの絶妙のコンビネーションを聴くことができる。 キーボードはムーグ及びエレピを中心に、アコースティック・ピアノやクラヴィネットを交えてゆくスタイル。 テクニカルな変拍子ユニゾンが続くが、キツさはなく、あくまで穏やか。 軽やかに走り出すアンサンブルは、爽快ですらある。 一転ユーモラスなクラヴィネットが現れ、9 拍子のフレーズを決めてギターとエレピのユニゾンが繰返される。 続いてクラヴィネットの伴奏でムーグ・ソロ。 5 拍子を刻むベースのリフもおもしろい。 ギターも加わって、ホンワカとしたインタープレイが続く。 9 拍子のユニゾンの決めが、HATFIELDS と似ているのも興味深い発見だ。 このユーモアは、カンタベリー・ジャズロック独特のものなのだろう。 (というか、RETURN TO FOREVER の「The Shadow Of Lo」か?)
  中間部からはテンポもゆったりと落ちつき、リーのギター・ソロがリードしてゆくメロウなパートである。 音色はかなり歪んでいるしベンディングもロック・ギター風なのだが、フレーズの歌わせ方はやはりジャズ。 ピアノ伴奏で柔らかく歌うギターがいい。 フィル・ミラーのような唯一無二の個性はないが、素朴な味わいがある。 アマンダ・パーソンズのドリーミーなスキャットが静かに湧き上がると、本当に HATFIELDS との区別が難しくなる。 唯一の違いはロマンティックなアコースティック・ピアノの調べだろうか。 ファンタジックなピアノとギターのアンサンブルを堪能するうちに、静かにフェード・アウト。
  ファンタジックにしてユーモラスなオムニバス風の傑作。 スリリングなイントロで一気に惹き込まれ、これぞカンタベリーといわんばかりのリズミカルなキーボード・プレイに酔いしれることができる。 ガウエンはクラヴィネットとムーグの両手弾きからロマンティックなピアノまで大活躍。 デリケートでメランコリックな幻想美。 そして、スリリングなはずのユニゾンの決めが、あくまでユーモラスなところもカンタベリーらしい。 後半の気持ちよく動くベース、ピアノ、表情豊かなギターによるアンサンブルは、いわば大人向けのジャズロック・アンサンブルといえるだろう。 アメリカ産のラテン風クロスオーヴァー・サウンドと音楽要素は似ているものの、総体がつくり出す空気・タッチは異なる。

  「Lady And Friend」(3:44) アコースティック・ギターとエレピの美しいデュオが織り成す夢のようなイントロダクション。 そっと寄り添うようなユニゾン。 一転ギターのハードなコードが飛び込んでビックリするが、一瞬ですぐに元の柔和なアンサンブルに戻る。 印象的なベースのリフレイン、そしてエレピは一つ一つの音を置いてゆくように響き、ギターも静かに歌う。 ドラムまで、そっとタムを鳴らす。 眠りを誘うようなアンサンブル。 ギターをきっかけにリズムが戻り、アンサンブルのヴォリュームが上がる。 リズムは得たが、あくまで穏やかな演奏だ。 ピアノのコードが重々しく響き終り。
   幻想的な美しさを湛えた小曲。 イントロのロマンチックな演奏はハードな決めで吹っ飛ばされるが、再びあっという間にベースがリードする幻想的なアンサンブルへと流れてゆく。 たゆとうような美しさに気を失いそうになると、最後にギターとピアノのアンサンブルが動き出す。 もっとも、やや中途半端に終っているような感じもある。 美人の横顔を眺めているような気持ちになります。

  「Notwithstanding」(4:47) RETURN TO FOREVER ばりのギターとエレピによる挑戦的なテクニカル・ユニゾンが決まるイントロダクション。 たたみかけるようなリズムの上でギターとエレピがやわらかく響くが、再びユニゾンの決め、吹き上げるメロトロン、ピアノが重々しいフレーズを放つなど、めまぐるしい展開を見せてゆく。 ピアノを引き鉄に一瞬でドラムが消え、ベースが何かを待ち受けるようにリフを刻んでゆく。 フェードインするドラム・ロール、そしてエレピの伴奏でジャジーなギター・ソロが始まる。 エレピとギターが呼応しあうも、ベースはそ知らぬ顔でリフを刻んでいる。 偏屈なエレクトリック・ジャズである。 エレピは即興風のプレイを続けている。 ギターも奇妙なノイズで攻め立てる。 ワウも使っているようだ。 一転ヘヴィなファズ・キーボードが凶暴にリードし始めるが、今度はドラムスと弦を緩めたようなギターがフリー・フォームの演奏を繰り広げる。 ノイズのように様々な音が渦巻きやがてフェード・アウト。
  挑発的なユニゾンや即興風のインタープレイなどジャズロックらしいジャズロック。 変拍子ボトムでのインプロから、次第に脈絡を拒否するようなサイケデリックな展開へ進む。 大胆なギター・ソロがおもしろい。 精緻だが若々しい生きのよさも感じさせる。 1 曲目の冒頭や本作のオープニングなどメロトロンの音も聴こえるようだ。 作曲クレジットに初期メンバーのスティーヴ・クックの名前がある。

  「Arriving Twice」(1:37) エレピとアコースティック・ギターが美しいハーモニーを成すイントロダクション。 ベースがしなやかに動きを与える。 重奏へ絡むのはドリーミーなムーグ・シンセサイザーのフレーズ。 再び重奏へと戻りオープニングのシーケンスを繰り返す。 丁寧なドラミング。 再びムーグのメロディを迎えて終る。
  ガウエンらしいデリケートなキーボードをフィーチュアしたロマンティックな小品。 アコースティック・ギターとエレピの柔らかな音色が構築する繊細な世界である。 ムーグは絶品としかいいようがない。 HAPPYTHEMAN のルーツは、1 曲目のクラヴィネットやここでのムーグではないだろうか。 小さいが抱きしめたくなるような作品である。 代表作だろう。

  「a) Island Rhodes b) Paper Boat - For Doris c) As If Your Eyes Were Open」(6:41) コントラバスがシンコペーション気味の 3 拍子のリフを刻みはじめる。 ドリーミーなエレピ、そしてギターが静かに音を散りばめる。 ハイハットがリズミカルに刻まれ、アンサンブルに推進力を与える。 エレピのテーマでゆっくりと動き出す演奏。 何かを予感させるスリリングなイントロダクションだ。 WEATHER REPORTRETURN TO FOREVER の系譜である。 再びベースのリフが刻まれるが、我関せず風のエレピ、ギターによる静かな交歓が続く。 「Moonchild」。 やがてリズムとともに演奏はふんわりと動き出し、エレピとギターの密やかなプレイが続いてゆく。 印象派の絵画の如き淡い色彩の点描的風アンサンブル。
  ベースがややハードな 8 分の 7 のリフを提示。 ベースとエレピの刻むリフに乗ってギター・ソロ。 ディストーションのかかったロングトーンを使った緊張感のあるフレージング。 ベース・リフとのリズムのずれが、奇妙にかしいだイメージを与える。 続いてピッチベンドを用いたなめらかなムーグ・ソロ。 一転リズムが消え、エレピとギターによる幻想的な演奏が始まる。 柔らかなアンサンブルがするするとすべるように続いてゆく。
  リズムが戻るとベースが 8 分の 5+8 分の 7 のリズミカルなリフを刻み始める。 シャープなギターと柔らかなシンセサイザーが絡みつつ交互にオブリガートを決める。 そしてなめらかなユニゾンが続いてゆく。 ドラムが挑発する。 続いてアコースティック・ピアノとギターのユニゾンヘ。 目の醒めるようなピアノがスピーディにたたみかけてゆく。 一瞬のブレイクからテンポ・アップ、クラヴィネットが 8 分の 5 拍子でリフを小気味よく刻み、うねるようなギター・ソロが走る。 スリリングな演奏だ。 アドリヴで暴れるギター。 どんどんスピードを煽るクラヴィネットとエレピ。 最後はたまったエネルギーを解き放つように鮮やかなユニゾンが決まる。
  動と静のコントラストが冴える劇的なジャズロック。 イントロから繰り返される 8 分の 6 拍子のコントラバス・リフは、やがて訪れるスリリングかつスピーディな展開の予兆だろうか。 序盤、ドリーミーなアンサンブルの描くパステル調の世界が、いかにもこのグループらしい。 そして一旦動き出すと、スリリングな変拍子リフとともに緊張感を保って突き進む、ポリリズムのジャズロックへと変貌する。 走っても攻めても、独特の線の細さが一貫する。 終盤の走りがカッコいい。

  「For Absent Friends」(1:13)ロマンチックななかに哀しみを湛えたアコースティック・ギターの響き。 現代クラシック的な和音から始まり、南米風のロマンチシズムを感じさせる調べへと移ってゆく。 マイナー 7 th が美しいアコースティック・ギター・ソロ小品。 ジャジーかつ現代的、そしてラテン風エキゾチズムをも漂う好演である。

  「a) We Are All b) Someone Else's Food c) Jamo And Other Boating Disasters - From The Holiday Of The Same Name」(7:49) エレピによる眩惑的な 8 分の 5 拍子のリフレインに、ロングトーン・ギターによる 8 分の 7 拍子のテーマが重なる、謎めいたオープニング。 タイトなリズムとともにファズ・ギターがエレピのリフを引き継ぎ、タイトな演奏が始まる。 ギターは再び 8 分の 7 拍子のテーマへと戻り、エレピのコードが追いかける。 ここでのリードは、むしろ機敏なベースかもしれない。 シリアスな反復演奏が流れるような筆致で小粋なアンサンブルへと変化し、柔和な表情になるところがみごと。(1:50)
  一転リードはエレピへと移り、ラテン風のソロを取り始める。 ギターは控えめながらも、さまざまな音でバッキング。 エレピはゆるやかで訥々とした調子から、次第に自己主張を強めてゆく。 ドラムスはスリリングなプレイを連発。 続いてロングトーン・ギターによる悩ましげなソロ。 フィル・ミラーを思い出す音だ。 ギターの速弾きに導かれるように、全てが一体となった熱っぽい演奏が盛り上がる。 ギターのアドリヴにエレピ、ベースが激しく反応し、ハードなせめぎあいが続いてゆく。 遂にギターはオープニングのシリアスなテーマを再現し、再びなめらかなアンサンブルが次の展開へと導いてゆく。(4:30)
  テンポはそのままに、技巧的なユニゾンをアクセントにして一旦エネルギーを放出、そして快調なベースのリードから再び仕切りなおして、ダイナミックなアンサンブルが始まる。 ファンキーなギターを際立たせつつも追いかけるようなユニゾン。 最後は、もつれるように長いユニゾンを息継ぎなしで決めてゆく。(5:20)
  一転クラヴィネットとギターによるファンキーにバウンスする曲調へ。 歯切れよくビートを刻むクラヴィネットとギターの応酬は、やがてジャジーなギター・ソロへ。 軽妙なやりとりに続いてタイトな呼応。 ここでアコースティック・ピアノが加わり、ギターのテーマ変奏を挿入、やや重厚なイメージへと変化。 そしてファズ・ギターに導かれて、ドリーミーなスキャットが湧きあがる。 スキャットに重なるようにムーグがさえずり、ギターも歌うようにアンサンブルへと加わる。 何度も仕切りなおすような演奏がおもしろい。 ピアノ、スキャット、ギターらによるメロディアスな演奏が、アコースティック・ピアノのエレガントにスケールへと吸い込まれてゆく。
  実験的な変拍子アンサンブルを多用した、緊張感のあるオムニバス風のジャズロック。 NATIONAL HEALTH へとつながってゆく、頭脳優先型のカンタベリー・サウンドである。 音色/リズムのめまぐるしい変化と、緊張と弛緩の巧妙な切りかえが特徴だ。 テーマは一貫するようだが、曲そのものは無限に変転してゆくイメージである。 フィナーレでもメロディアスな演奏を端折りつつ、反復するような奇妙な曲調が維持されている。 エンディングもあれもう終わり?というような唐突なものだが、最後までリスナーをはぐらかし続けるのも意図なのだろう。

  「Just C」(0:45)モダン・ジャズ風のアコースティック・ピアノ・バラード。 ロマンと気品にあふれ、いかにもエピローグに相応しい、静けさと落ちつきのある小品である。


  静謐かつ幻想的なロマンを湛えたアンサンブルと、スリリングに走るインタープレイが変幻自在に織り成すジャズロック。 ギター、エレピ、ムーグ・シンセサイザー、クラヴィネット、それぞれが豊かな歌心と心地よい緊張感を保った演奏を生み出すことに徹しているところがすばらしい。 かといって、眉をしかめてテクニカル一本槍というわけでもない。 宝石のように精緻なきらめきと、人間らしい呼吸のよさのブレンドが絶妙なのだ。 また作曲部分と即興のバランスもいいんじゃないだろうか。 HATFIELDS と同時期にこんなにすばらしいアルバムがあったとは、カンタベリー・シーンの層のなんと厚いことか。 この音楽をさらに進めて NATIONAL HEALTH へと収斂するのはもう必然だったのだろう。 ガウエンのプレイは音の響きを大事にする美音指向であり、そのスタンスこそがこの独特な美しさをもつサウンドの根幹をなすのだろう。 特にムーグのプレイは出色である。 リーのギターは、ややヘヴィなエレキギターとロマンチックなアコースティック・ギターを巧みに使い分けている。 ジャズロックに繊細さとロマンを求める方へお薦めです。 ジャケットはよく見ると双六になっており、「ドラマーがギグに遅刻。一つ戻る」などといったユーモラスな文章がある。

(CACD2007)

 Another Fine Tune You've Got Me Into

 
Phil Lee guitars
Alan Gowen keyboards
Hugh Hopper bass
Trevor Tomkins drums

  78 年発表の第二作「Another Fine Tune You've Got Me Into」。 ガウエンが NATIONAL HEALTH を脱退していた時期に発表された作品。 第一作からメンバー交代があり、ドラムスにトレバー・トムキンス、ベーシストにヒュー・ホッパー(本当にどこにでもでてくるおっさんだ)を迎えている。 ちなみに、この時期からホッパーとガウエンはコラボレーションを始め、いくつかのアルバムを残している。
  前作からの変化は、独特のユーモアや深刻さを醸し出していたデリケートなアンサンブルに、メインストリーム・フュージョン風のグルーヴが加わったこと。 より一般向けに洗練された、といってもいいだろう。 挑戦的で緻密な変拍子アンサンブルに加えて、優美なテーマが主導するジャジーな演奏とエレクトリックでメローなトーンが目立つ。 もちろん、演奏はきわめて技巧的だ。 いくつもの旋律が、からみあうように精緻な模様を成して流れてゆく。 ガウエンの述べているとおり、本当にオーヴァー・ダビングがないとしたら、息を呑むテクニックである。 アドリヴと作曲を自然な流れでつないでゆくという試みがみごとに的を射た、エレクトリック・ジャズの佳作といえるだろう。 ガウエンのシンセサイザーのプレイは出色。 わたしはジョー・ザヴィヌルよりこちらが好きです。 プロデュースはグループ。 BRUFORD のファンは、こちらもぜひ。

  まず印象的なのは、1 曲目「Darker Brighter」や 4 曲目「Play Time」におけるキーボードとリーのギターによるデリケートなインタープレイである。 密やかな表情と気品、そして美音に心地よいグルーヴが加わったぜいたくな内容である。 ガウエンのエレクトリック・キーボードのプレイは、きわめて繊細なタッチであり、文字通り、流れるように軽やかに美音を紡ぎ出している。 女性的なデリカシーと品のいい奔放さがあり、カンタベリーらしいユーモラスな面も忘れられていない。
   2 曲目「Bobberty-Theme From Something Else」の前半のように、ディレイの使用や、シンセサイザーの音色の使い分け、シンセサイザーとエレピとのコンビネーションなど、アンサンブルにもさまざまな工夫が見られる。
  リーのエレキギターは、前作よりもぐっと音色とタッチを柔らかくしており、キーボードとの絡みもデリケートである。 フュージョンらしさは、まずこのギターに顕著である。 アコースティック・ギター・ソロの 3 曲目「Waiting」では、ほのかなラテン・テイストを盛り込みつつ、クラシカルで整然としたプレイも披露している。 また、ホッパーはあいかわらず要所でベースにファズを少々使用している。 ホッパー作曲と思われる 6 曲目「Foel'd Again」は、お得意のシリアスな音響実験的内容である。 ドラムスは、やや硬めの音を用いており、シンバル・ワークなどのスタイルも完全にジャズだ。
  さらに、美音/繊細路線にとどまらず、最終曲「T.N.T.F.X」のような短くもスリルがギュッと詰まった展開もある。 突き進む力を明確に感じさせる作品であり、繊細な音響とパワーの結びついた新境地といえるだろう。 残念ながらまだ完成品ではないようだが。
  全体にフュージョン風味はあるのだが、ガウエンとリーの呼応を中心とした演奏は、アメリカのグループよりもぐっと繊細でしっとりとした湿り気がある。 この、ソフトにして軽妙で、エモーションを露にしないクールネスを秘めたプレイは、おそらく、メインストリーム・フュージョンとカンタベリーの中間に位置するのだろう。

  「Darker Brighter」(5:40)ユーモラスなテーマやギタリストがフィル・ミラーのスタイルをなぞっている間は、HF&N によく似ているが、鋭いユニゾンのキレなどの技巧面やシンセサイザー・サウンドなどのキーボードのスタイルに個性が現れる。 ホッパーのベースも、シンクレア風のフレットレスかもしれない。

  「Bobberty-Theme From Something Else」(10:41) 中盤はギターを中心にメローなジャズ・タッチで迫る。フィル・ミラー色はなくなり、完全に「ジャズ・ギター」である。 ギターに続いて、エレクトリック・ピアノのソロ。こちらもモダン・ジャズ調である。 後半は、ギターとシンセサイザーがカンタベリーらしいやり取りを見せるも、次第にフュージョン・タッチが強まる。重力を解き放つようなピッチ・ベンドがいい。

  「Waiting」(2:25)郷愁を誘うスタンダード風のアコースティック・ジャズ・ギター・ソロ。

  「Play Time」(7:14)クールで洒脱、スリリングなカンタベリー・ジャズロック。ドラムスにも鮮やかな主張がある。小刻みにブレーキを踏むような変拍子。

  「Underwater Song」(7:04)優美な幻想曲。 さえずるようなムーグ・シンセサイザーとたどたどしくも暖かみあるギター。 プロローグはドラムス・ソロ。 終盤のバッキングはメロトロンか。

  「Foel'd Again」(1:50)ギターのハーモニクスとエレピの和音によるアブストラクトな小品。

  「T.N.T.F.X」(2:54)ギターがサックスのようにテンション高く暴れる。


  カンタベリー独特の諧謔味はやや減退し、フュージョン的な心地よさが勝った作品。 繊細で優美なサウンド、表現はさらに磨かれていて、終始心地よいグルーヴがある。 抑えすぎではないかと感じられるほどあらゆる点で過剰さやデフォルメを控え、密やかな音響としなやかな躍動感のバランスで最後までまとめられている。 プログレというよりは、デリケートなエレクトリック・ジャズというべきかもしれません。

(spalax 14838)

 Two Rainbows Daily

 
Alan Gowen keyboards
Hugh Hopper bass
Nigel Morris percussion on 8-12

   80 年発表のアルバム「Two Rainbows Daily」。 SOFT HEAP、再編 GILGAMESH で共演したヒュー・ホッパーとのコラボレーション。 多重録音も用いた美しいセッション集である。 後半 5 曲は、CD 化の際のボーナス・トラックであり、内容は 80 年 9 月 21 日のライヴ録音。
  ひそやかにたゆとうようなムーグ・シンセサイザーやエレピが綴る珠玉の音響。 ホッパーのファズ・ベースが和音を用いた伴奏やメロディアスなプレイで重心を支え、ほどよい酩酊感と繊細な幻想美におだやかな動きを与えている。 GILGAMESHHAPPY THE MAN のファンへお薦め。 もう少し音質に奥行きがあったらたいへんな傑作になっていたでしょう。 こっそりひとりで味わいたい。

  「Seen Through A Door」(5:51)
  「Morning Order」(6:28)
  「Fishtank I」(4:53)
  「Two Rainbows Daily」(4:11)
  「Elibom」(5:01)
  「Every Silver Lining」(5:19)
  「Walz For Nobody」(8:59)
  以下ボーナス・トラック。
  「Chanka's Troll」(5:13)
  「Little Dream」(4:01)
  「Soon To Fly」(3:59)
  「Bracknell Ballad」(4:08)
  「Stopes Change」(3:25)

(RUNE 77)

 Bracknell - Bresse Inprovisation

 
Alan Gowen keyboards
Hugh Hopper bass, tape loops
Nigel Morris percussion on 1-3

   94 年発表のアルバム「Bracknell - Bresse Inprovisation」。 「Two Rainbows Daily」のボーナス・トラックと同日のライヴ録音から 3 曲、78 年の SOFT HEAD のフランス・ツアー中のセッション録音から 5 曲から成る編集盤。 二人のコラボレーションはすでに 78 年にはスタートしていたことになる。
  ライヴ録音の方はナイジェル・モリスのパーカッションとホッパーの音響操作が中心でキーボードはやや控えめ。 ガウエンという人はステージでの即興はあまり得意ではなかったのだろうか。 デュオではガウエンはエレピ中心のプレイ。 ホッパーの快調なランニング・ベースとせめぎあう静かなエキサイト・シーンもたっぷり。

  「Floating Path」(18:00)
  「Now What Exactly」(7:59)
  「Zaparoshti」(5:20)
  「Ranova」(2:00)
  「A 'Louest」(14:46)
  「Winged Trilby」(7:08)
  「Six Cream Bombs From Beaune」(1:17)
  「Rubber Daze」(3:42)

(VP186CD)

 Before A Word Is Said

 
Alan Gowen keyboads
Phil Miller guitars
Richard Sinclair bass, vocals
Trevor Tomkins drums

  GILGAMESHNATIONAL HEALTH と華麗なキーボードワークを見せたアラン・ガウエンの遺作となった 81 年のアルバム「Before A Word Is Said」。 ややセッション風であり、楽曲の緻密さやアルバムとしての主張は今一歩に感じられるが、各メンバーの個性が際立つストレートな演奏が楽しめる。 佳作といえるだろう。 ミラーが 4 曲、ガウエンが 3 曲、シンクレアが 1 曲持ちよっている。

  夢の中に飛び込んでいくようなキラキラしたキーボードとシンクレアのファズ・ベースの動きが印象的な「Above And Below」(7:41)から、アルバムは幕を開ける。 各パートの音の分離が明快で、非常に聴きやすい。 ユーモラスで躍動感もあるのだが、どこか捻じれた感じがするカンタベリーらしい演奏である。 ロック風の音色にジャズ風のプレイというミラーの個性的なギター・ソロに続いて、シンクレアのベース・ソロ。 キーボード・ソロは流麗かつ官能的。 ミラーの作品。

  2 曲目「Reflexes In The Margin」(4:00)は、ファズ・ベースがリードするバップ風のサスペンスフルなイントロから、緊張感あるアンサンブルが続いてゆく。 たたみかけるユニゾンと短い各楽器のソロの連続から成る作品だ。 ランニング・ベースも心地よし。 ガウエンの作品。

  3 曲目「Nowadays A Silhouette」(4:30)シンクレアのエフェクト・ベースがたゆとうナンバー。 ムーグの軽やかなソロが駆け抜けてゆく。 軽やかでドリーミーな演奏だ。 ミラーの作品。

  4 曲目「Silver Star」(2:24)ミラー独特のぎこちないギターとガウエンの颯爽としたムーグが奏でるフュージョン風カンタベリー。 ベースはファズ。 ガウエンの作品。

  5 曲目「Fourfold」(6:15)親しみやすいムーグのテーマがすてきな作品。 こういうユーモラスな語り口こそが、カンタベリーの味わいである。 ギター・ソロとエレピ・ベース伴奏の場面は HATFIELDS と区別がつかない。 中盤のムーグ・ソロはただただ華麗。 ミラーの作品。

  6 曲目「Before A Word Is Said」(7:58)シンセサイザーの不気味な低音によるテーマと子供の争う声の SE から始まり、波乱を予感させる。 コラール調のスキャットも交えて、キーボードの音が重なり合いつつテーマが変奏され繰り返される。 ドラム、ギターがアドホックにアドリブを乗せていく。 4 分頃からコードがメジャーへと移り、ギターのメロディとともに光が射しはじめる。 キーボードは一貫して背景を彩る。 ギターはジャジーでリラックスしたプレイを続ける。 最後は再び、低音のシンセサイザーが唸り、子供の声の SE とともにテーマを回想つつフェード・アウト。 珍しくアンビエント風のキーボードを用いたミステリアスで実験的な作品。 サティ風か。 ガウエンの作品。

  7 曲目「Umbrellas」(3:54)エフェクト・ベースからゆったりと始まりハイハットとムーグの響きに導かれてシンクレアのスキャットが始まる。 あいかわらず色っぽいヴォイスである。 ムーグはぐっと抑え目、フルートのように密やかに舞い踊る。 ドラムが純ジャズ風なところをのぞく、とこれも HATFIELDS と区別がつかない。 ややレトロな感じの未来/宇宙といったイメージが膨らむ。 シンクレアの作品。

  8 曲目「A Fleeting Glance」(7:33)ギターとムーグがユーモラスなアンサンブルを繰り広げる作品。 ギター、ムーグのソロは、それぞれしっかり持ち味が出ている。 7 拍子のリフや変拍子を交えた決めなど、「チャンレンジングにしてメロディアスで聴きやすい」という典型的なカンタベリー・ジャズロックである。 こういう曲は、まだまだ音源がありそうなのだが。 ミラーの作品。

  ガウエンのキーボードは、エレピにフェイズ・シフタ、サスティンなどのエフェクトをかけたものとムーグ・シンセサイザー中心と思われる。 粒の揃ったきらびやかな音色である。 ミラーのギターがいかにも訥弁型のジャズ・スタイルであるのと対照的に、ソロにおける流れるようななめらかさも特徴的である。 そしてムーグのピッチベンドも鮮やかだ。
  スリリングなインタープレイの中に、キーボードがエレガントで軽やか、ポップな色をもつけるカンタベリー・ジャズロック作品。 メンバーの個性が十分活かされており、ドリーミーなのに躍動感もある、不思議なサウンドが魅力がいっぱいである。 叶わぬことではあるが、この作品を仕上げて欲しかった。
(BP130CD)


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