イギリスのギタリスト、作曲家「 Fred Frith」。 70年代、HENRY COW における前衛音楽とロックの融合から出発し、RIO を通して多くのミュージシャンと共演を続け、意欲的に作品を発表する。 ギター、ヴァイオリン奏者といったプレイヤーとしての活動に加え、作曲者としてもさまざまな分野の音楽を手がけ、多くのアーティストに作品を提供する。
| Fred Frith | guitar |
74 年発表の第一作「Guitar Solo」。
HENRY COW 在籍中のファースト・ソロ・アルバム。
フリー・インプロヴィゼーショニストとしてのフリスを前面に出した内容である。
ほとんどの作品が、ギター一本による即興演奏である。
ギターという楽器の特性を知り尽くした上で、あきれるばかりに豊富なアイデアを並べ立ててゆく。
写真は、ESD の CD のジャケットより。
あたかも複数のギターをオーヴァーダビングし、それぞれが、自由闊達な演奏を繰り広げているかのように躍動感ある「Hello Music」。ギター一本による演奏とは到底信じられない。
「Glass c/w Steel」では何かで、弦をこすって音を立てているようだ。背景にもう一つ楽器が鳴っているようにも聴こえる。
「Ghosts」は、ヴォリューム・ペダルをうまく使った作品。
これは、わりと仕かけが分かりやすいが、真似してできるかというと別問題。
オルゴールのような音が美しい。
「Out Of Their Heads」では、ファズが使われている。
ピアノの弦を叩いているような音は、とてもギターとは思えない。
「プリペアド・ギター」なるものが、本作品全編で使われているようだ。
ジョン・ケージのプリペアド・ピアノと同じようなものと想像されるが、どんな調整が施されているかなど、詳細は不明である。
(ジャケットの写真でピックアップ付近に何か付けているのが、それかもしれない)
スチール・ドラムのような打楽器系の音が凄い。
すばやいピチカートと弦を叩いているのだとは思うが、これまたとてもギターとは思えない。
最後で入る怪獣の叫びのような轟音が意外にギターらしく、安心する。
それでも安心って種類の音ではないのですが。
典型的な暴力的アヴァンギャルド・サウンドでしめる大作である。
「Not Forgotten」は、美しいメロディをもつ佳曲。
音が二個抜いてあるそうだ。
どの音かなんて考えるのもうっとおしいが気にはなる。
一つは E だと思うが。
「Hollow Music」も、比較的まともにギターを弾いている作品。
次第にエキサイトするところが、かえっておかしい。
「Heat c/w Moment」も、ファズを使った曲。
ヴォリューム・コントロールとファズのせいか、どこか異教の呪文のようである。
足を踏み鳴らす音が、原始的なパーカッションのようにも聴こえる。
「No Birds」はファズ、ディレイが使われている。
シンセサイザーのような幻想的で空間的なサウンド。
エフェクトもうまく使うと無限の可能性があることを示している。
轟音は、巨大な機械がゆっくり動いているようなイメージ。
どうやっているのだろう。
ギター一本によるインダストリアル・ゴシック・ミュージックである。
二つのギターがせわしなく演奏されてようやくギター・ミュージックらしくなってくる。
デュオは美しく重なりあって響く。
一音の美しさが沁みる。
12 分にわたる大作だ。
楽器の達人の無限の探求心と、徹底的にギターにこだわる職人魂が生み出した傑作。
ギターが好きな人、ギターを弾く人にはお薦め。
またギターにこだわらずとも、先鋭的な音楽としても魅力的、刺激的である。
Frith 氏も Derek Bailey を聴いて影響を受けたのでしょうか。
(ESD 80442)
| Fred Frith | bass, guitar, violin, keyboards on 7-13, drums, on 7,11,13 |
| Hans Bruniusson | drums on 1-6 |
| Eino Haapala | guitar, mandolin on 1-6 |
| Lars Hollmer | piano on 1-6, organ on 1-6, accordion on 1-6 |
| Marc Hollander | alto sax, clarinet on 1-6, bass clarinet on 7-13 |
| Dave Newhouse | alto sax on 7-13, organ on 10 |
| Tom Scott | soprano sax on 11 |
| Paul Sears | drums on 7,8,10,11,13 |
| Billy Swann | bass on 8,10,11,13 |
80 年発表のアルバム「Gravity」。
放浪するフリスが、マルク・オランデル、ZAMLA MAMMAZ MANNA、THE MUFFINS のメンバーやクリス・カトラー、ミシェル・ベルクマンらと共演したダンス・ミュージック・アルバム。
引用によれば、「ダンスとは重力(Gravity)に対する勝利」なのだそうだ。
スウェーデン、スイス、アメリカ録音。
この後フリスは N.Y. を拠点として活動する。
ZAMLA と共演した 1 曲目から 6 曲目は、さまざまな楽器を使った、変拍子フォーク・ロック。
ペーソスあるテーマをリズミカルに歌う民俗調である。
ときおりシリアスなギターとともに HENRY COW 風の厳しい調子も現れるが、大半は、ノホホン能天気でさりげなく哀愁のあるテーマが輪舞する、すてきな演奏である。
安っぽいキーボードや突っ込み気味の変拍子が生み出すアンサンブルは、軽妙奇天烈にしてひたむきで素朴な魅力があり、一気呵成のノリのよさもある。
特に、ZAMLA が主導権を取っている 5 曲目から 6 曲目への流れがいい。
ZAMLA については、どことなくユーモラスなリズムや奇声などいかにも「らしい」演奏なのだが、あの北欧臭い独特の節回しが、ここでは汎世界的(無国籍?)ダンス・ミュージックの象徴としての役割を果たしている。
THE MUFFINS と共演した 7 曲目から 13 曲目は、舞曲風であるとともに圧倒的にロックらしい骨っぽさをもつ。
7 曲目冒頭、ロバート・フリップばりに歪み切ったギターが壮絶な緊張感を伴って凶暴にうねる。
みごとなインパクトだ。ゲストのベース、シアーズのドラミングがカッコいい。
すかさず 8 曲目では、楽曲がバラバラと解体し、スットコドッコイなインプロとなる。
そして 9 曲目では「007」の MODS 風パロディの如きサスペンスフルでスリリングな疾走へ。
10 曲目は、長閑なオルガンのテーマをインダストリアルなノイズが取り巻く作品からとぼけたようなギター・インストへのメドレー。
11 曲目では、きっぱりとした縦揺れビートでフリーキーなギターがとぐろを巻く。
12 曲目は、ヴァイオリンを使った東欧、中央アジア風のトラッド作品。ギターやキーボードらによるヘヴィなアクセントも効いている。
13 曲目は、ギター、ベース、ドラムス、ピアノによる即興断片。ノスタルジックな響きのピアノによる幕引きがいい。
CD 化に際しての追加トラックと思われる 14 曲目以降は、HENRY COW の未収録曲や ART BEARS、AKSAK MABOUL、SKELETON CREW の作品から。
最終曲は、最近のギター即興とフリスがコメントしているが、あきれるくらいカッコいい。
(ESD 80452)
| Fred Frith | guitar |
| ETRON FOU L ELOUBLAN | |
| MASSACRE |
81 年発表のアルバム「Speechless」。
ETRON FOU LELOUBLAN、ビル・ラズウェルらと共演した作品。
緊張感あふれるアンサンブルにフリスの採集したテープを背景や効果音として散りばめることによって、映像的であると同時に、突発的な驚きやおかしさなどの効果が生まれている。
前半、ETRON FOU LELOUBLAN との共演部分は、管楽器やハーモニウムの音、激しいドラムそしてユーモラスなギターが印象的。
メロディ自体は比較的わかりやすいが、リズムとノイズが強烈に覆い被さり全体に危険なムードに満ちている。
後半は MASSACRE との共演。
テープというアイデアも優れているが、それがアイデアの一つに過ぎなくなってしまうほどアヴァンギャルドな演奏の尖り具合が凄まじい。
エネルギッシュで危険な香りに満ちた前衛音楽である。
もちろん、ドライヴ感あるカッコよさも太鼓判。
デタラメに近いが決してそうではなく、明確な意識の方向が見えてくるインプロヴィゼーションである。
民族音楽やフリー・ジャズの断片も見えるものの、パワフルな演奏が、竜巻のように何もかも巻き込んでしまっている。
名盤。
(ESD 80542)
| Fred Frith | guitar |
83 年発表のアルバム「Cheap at Half the Price」。
4 トラック宅録によるオリジナル・ポップ・ソング・アルバム。
ドラムス以外はフリスの演奏。
何を演るか伝えずドラム・トラックを作らせた(ブルニッセンやマハーである)、といういかにも「らしい」話が裏ジャケに載っている。
内容は、元気一杯のヴォーカル中心の軽快なポップロック。
伴奏は、煽り気味のリズム(無理矢理ループ)とサーフ・ロック調ギターとオモチャみたいなキーボード。
ニューウェーヴでもなきゃ今までの音でもない、へんてこりんな作品である。
アカデミックで職人的なギター即興音楽求道者であるとともに、独特のセンスをもつポップス、ロック・ミュージシャンであることがよく分かります。
(ESD 80572)
| Fred Frith | guitars, violin, flotsam, bass |
| Chris Cutler | drums, electrified drums, jetsam, contact mike, telephone mouth-piece |
90 年発表のアルバム「Live in Moscow, Prague & Washington」。
83 年に発表された LP(83 年プラハでのライヴと 79 年ワシントンでのライヴを収録) に 89 年のモスクワでのライヴ録音を追加した CD である。ジャケット写真は左側が CD で右側が LP。
内容は、プリペアド・ギターやエレクトリック・ドラムスの生み出す轟音ノイズ(ヴォイス含む)を徹底的に用いた完全即興演奏。
いわゆる旋律や和声、リズム、シーケンスはなく、二人の演奏家が、時に勝手に時に相互に触発されて高揚したり弛緩したりを繰り返す。
(ごくたまに民族音楽風のメロディやギター・リフらしきものが浮かびかがる)
また、少なくとも一部は電気処理されているはずなのだが、全体の音の感触はアコースティックな生音のものである。
これは、打楽器的な音が主なためだろうか。
1 曲目のモスクワ・ライヴでは、21 分あたりで演奏が一段落してまばらな拍手が起こるが演奏はそれを無視するかのように力いっぱい甦って続いてゆくという、臨場感あふれる展開となる。
2 曲目プラハ・ライヴは、1 曲目よりも「動き」が感じられる、ハードなアタックのある演奏である。中盤のドラミングがものすごい。
「Moscow」(43:00)
「Prague」(27:13)
「Washington」(2:49)
(LP Re 1729 / ReR CCFFCD)
| Fred Frith | guitars, bass, violin, caslo, piano, drums, singing |
| Tom Cora | cello, bass, caslo, drums, contraptions, singing |
84 年発表のアルバム「Learn To Talk」。
N.Y. にて結成した新グループ「SKELETON CREW」による第一作。当初デイヴ・ニューハウスを含む 4 人編成だったらしいが、結局、トム・コラとのデュオに収まる。(第二作ではジーナ・パーキンスが加入する)
ライヴもこの二人で行っていたようだ。
内容は、エネルギッシュでキレのいい、おまけにユーモアもあるパンク調アヴァンギャルド・ロック。
荒っぽくもパワフルなドラム・ビートにのせた元気の塊のような演奏だが、勢い任せのようでいて、音色はあまりに多彩であり、弦楽器によるクラシカルな表現や SE、カットバック的な演出もあり、効果はしっかりと計算されているようだ。
大道芸的なペーソスとコミカルさとともに、痛快な開き直りによる、ロックな骨っぽさ、締まり具合、クールな叙情性が抜群である。
いわゆる即興音楽の非慣用的(non-idiomatic)な表現を使いながらも、アジテートするロックになっているところが魅力だろう。
ヴォーカルが 80 年代初頭英国ロックらしさあふれるスタイルであるところが意外だった。
右側のジャケットは、RECREC による次作との 2in1 CD のもの。
次の作品では、キーボードによる音質の拡充とともにヴォーカルやメロディ・ラインが安定し、充実したロック・アルバムとなる。
(RecRec 05 / reCDec 512)
| Fred Frith | guitar, bass, keyboards, violin, tape manipulations |
| Joey Baron | drums |
| George Cartwright | alto sax |
| Tom Cora | cello |
2004 年発表のアルバム「Allies」。
89 年録音、96 年発表の作品の再発盤。
2004 年に再マスタリングと記載がある。
「The Technology of Tears」に続く、舞踏パフォーマンスのための音楽第二弾ということだ。
内容は、メランコリックなメロディとはっきりしたリズムによるアンサンブルが切々と続くインストゥルメンタル。
アヴァンギャルドな感じはほとんどなく、やや翳のある表情を保ったまま、淡々と演奏されてゆく。
カートライトのサックスですら、情感のあるフレーズを紡ぐことがある。
また、バロンのドラムスは、ニューウェーブ風のシンプルな 8 ビートに痛いくらいのインパクトがある。
どちらかというとクラシカルというべき作風だろう。
シンプルな素材を少しづつ変化させ、重ねてゆくフリスの丹念な作曲/アレンジ手法が、古典的な音楽の構築法に通じるからだろう。
破断による緊張の喚起の仕方も巧みであり、ドラマを感じさせる。
全体に、明らかにカンタベリー・ファン、プログレ・ファン向きの内容だ。
改めて、ロバート・ワイアットと共鳴する個性を感じました。
また、おそらくもう少し音を「それ風に」加工すると、ECM の作品といって通るでしょう。
(ReR FR0 07)