EAST OF EDEN

  イギリスのプログレッシヴ・ロック・グループ「EAST OF EDEN」。 60 年代末デイヴ・アーバスを中心に結成。 69 年 DECCA よりアルバム・デビュー。 72 年のアーバス脱退を含め、メンバー交代と所属レーベルの移動を経て 78 年解散。 初期は、チャールズ・ミンガスと東洋指向のヒッピー文化の影響を受けたアーバスのリーダーシップで、ジャズ、サイケデリック・ロック、東洋音楽を混合し、エキゾチックでミスティカルなサウンドを目指した。

 Mercator Projected

 
Dave Arbus violin, flute, bagpipe, recorder
Ron Caines saxophone, vocals
Geoff Nicholson guitar, vocals
Steve York bass, harmonica, indian thumb piano
Dave Dufont drums, percussion

  69 年発表のデビュー・アルバム「Mercator Projected」。 内容は、サックス、フルート、ヴァイオリンをフィーチュアした、ジャジーなサイケデリック・ロック。 大胆に電気処理したヴァイオリンが独特の存在感を放つ。 最大の特徴は、サイケ風味に混ざった中央アジア風のエキゾチズムである。 ブルーズ・ロック、ジャズ、そして、アジアン・エスニックからヨーロッパ・クラシックまでを横断する演奏は、濃密なものであり、さらにそこへ、60 年代サイケのもつインド風サウンドが盛り込まれ、「屋上屋根をつくる」が如く仰々しくアンバランスな音になっている。 部分部分はジャズ、ブルーズ、ポップス、民族音楽とそれぞれ正統的だが、まとめあげられた全体像は極めて怪しい。 これが魅力だろう。 裏ジャケのエジプト風衣装に身を包んだメンバーの写真が音を象徴している、といってもいい。 不気味かつどこか滑稽なのだ。 邦題は「世界の投影」。世界地図のメルカトル図法のことのようです。 クレジットはないが、オルガンやメロトロンも使われているようだ。

  オープニング・ナンバーの「Northen Hemisphere」(5:02) 獣の鳴き声がこだまする、まるでジャングルにいるような SE から始まり、ヘヴィなギター・リフとノイジーなヴァイオリンのリードで進むブルージーなロック。 重苦しいギター・リフに応えるヴォーカルは、美声ながらどうしようもなく気だるげ。 ヴァイオリンのオブリガートはマウス・ハープ風。 間奏部では、イコライザの効かせた怪しいモノローグとアグレッシヴなベース・ランニング。 フルート・ソロは、あっという間に定位を変化させて後退し、奇妙なざわめき声と重なり合う。 再び力強いメイン・パートへ。 ギターが吠える。 最後はテープ逆回転操作も交え、全てが混沌とし、爆発音で終わる。
  ギター・リフとささくれだつヴァイオリンがドライヴする、粘っこいヘヴィ・ロック。 SE やヴァイオリン、フルートなど、きわどい音によるエキゾチックかつサイケな演出が冴える。 ブルーズ・ロックに、さまざまなアイデアを無造作に突っ込んだ、初期の DEEP PURPLE に近い世界である。 それにしても、「北半球が好き」っていったい何? 南北問題に楔を打ち込むような歌詞内容なのだろうか。(笑)ケインズ作。

  2曲目「Isadora」(4:32)。 イントロダクションは、フォーク・タッチのフルートとサックスのハーモニーによる鮮やかなテーマ。 リード・ヴォーカルもセンチメンタルな表情である。 フルートの風が吹き抜けるような、寂しさの演出だ。 間奏は、オーヴァー・ダビングされたツイン・ギターによるヘヴィなリフのハーモニー。 続いて、ジャジーでクールなフルート・ソロ。 レゲエ風のギター・バッキングがおもしろい。 天から舞い下りるようにサックスも加わる。 乱れながらもクールなところが、TONTON MACOUTE の作風に非常に似ている。 一瞬のブレイク、そしてメイン・パートへ。 最後はフルートとサックスがひとくさり。
  フルートとソプラノ・サックスをフィーチュアしたフォーク・タッチのジャズロック。 コーラスを交えたうわずり気味の歌メロには、トラッド風の枯れた趣がある一方、フルートやサックスのソロにはクールでジャジーな華ぎがある。 ギターのアクセントも効果的だ。 ケインズ/ニコルソン/ヨーク共作。

  3曲目「Waterways」(6:49) 遠く歌うヴァイオリンが、霧のかかった湖面をすべってゆくようなイメージをかきたてるオープニング。 ベースに導かれるように、空ろな響きのヴォーカルが入ってくる。 4 分の 5 拍子は無意識の焦燥感と喪失感を同時に演出する。 間奏は再び幻想的なヴァイオリン。 唐突な深いエコーに冷たい空間の広がりが意識される。 ヴォーカル・パートとヴァイオリンの間奏には、宙ぶらりんな落差があり、奇妙な孤独感が募る。
  やおら始まるは、AMON DUUL II 風のラーガなソロ・ギター。 リズムもトライバルな力強さを増し、シタール風のギターを支える。 ピアノのような奇妙な音も聴こえる。 サックスによるうねるようなソロ。 サイケな混沌。 絶叫するヴァイオリン、ベース、ギター、荒々しく打ち鳴らされるシンバル。 リズムは消えて、完全なる狂乱が訪れる。 やがてオープニングのソロ・ヴァイオリンが復活、印象的なベース・ラインとともにメイン・ヴォーカルへと回帰する。
  幻想的にしてややセンチメンタルなサイケ・バラード。 メイン・パートの幻想性を担うのは、ヴァイオリン。 中間部は、ジャーマン・ロック風のインド・サイケなインプロである。 カッコよくいうならば、幽玄の美と原色の荒々しさが交錯し、互いに引き立てあっている。 エンディングをトイレの洗浄音にする辺りは、自嘲気分と自信がない交ぜとなった若さを感じさせる。 ケインズ作。

  4曲目「Centaur Woman」(7:09) フルート、ハーモニカがけだるいリフでユニゾンする JETHRO TULL そのもののようなオープニング。 ヴォーカルもダルなブルーズ調だ。 一転倍速で走り出すと。 ハーモニカとフルートによるエネルギッシュなかけあいから、再び走る。 巧みなランニング・ベースとサックス・ソロから、次第にジャズ色が強くなる。 手数の多いドラム。
   ファズ・ベースがさらりと主導権を取ると、リズムはシンバル主体の 4 ビートへと変化。 ファズ・ベースのアドリヴ独壇場だ。 一人かけあいやコードをかき鳴らすなど、即興ソロが続く。
   ギター、ハーモニカのリフから、再びブルージーなメイン・パートへ。 ランニング・ベースと狂おしく吠えるサックスを中心に、エネルギッシュな演奏が続く。 最後は RAP 調のモノローグが一くさり。
  ベースをフィーチュアした、60 年代の残り香強きジャズロック。 いわゆるブルーズ・ロック調(メイン・パートのヴォーカルやハーモニカ)、サイケデリック・ロック・スタイル(ファズ・ベース)に、フルートやサックスでジャジーな味付けをたっぷり施している。 さらに中間部では、4 ビートでフリーキーなベース・ソロを大きくフィーチュア。 ベースは、ソロだけではなく、鮮やかなランニングも披露する。 全体の骨格ははっきりしているが、無理やりな接木のようなところもある。 ここまで 3 曲、70 年代初期の「何でもあり」状態を象徴するかのように、全パートがそれぞれに大胆な見せ場をもっている。 ケインズ/ヨーク共作。

  5曲目「Bathers」(4:57) メランコリックなメロトロン・ストリングスが物悲しく吹きすさび、訥々としたギターとともに、シンバルは潮騒のように震えざわめく。 ヴォーカルは陰鬱だ。 うごめくようなベース・ライン。 虚無の淵に吹きつのる寒風の如きメロトロン、サビでは、ロマンティックな響きが加わって盛り上がり、ギターにオルガンとメロトロンが切なく追いすがる。 打ち鳴らされるドラムス、高々と叫ぶオルガン、ギター。 再びどっと落ち込み、暗い歌が繰り返される。
   茫漠たる荒野に吹きすさぶ寒風のように物寂しいバラード。 オルガン、メロトロン(エレクトリック・ヴァイオリンの可能性もある)が効果的に用いられており、ドラムとともに憂鬱な歌からシンフォニックな高まりへ上り詰める演奏を支える。 他にも、エネルギッシュな動きを見せていたギターやサックスが、物静かなプレイでアクセントをつけている。 ブリティッシュ・ロックならではの感傷的、幻想的作品だ。 ケインズ作。

  6曲目「Communion」(4:03) テープの早送りのような雑音が飛び回るオープニング。 厳しいヴァイオリンの和音が轟くのだが、意外やリズミカルに演奏が始まる。 ヴァイオリンとフルートのユニゾンによるリフは、なかなか軽快。 しかし、メジャーともマイナーともつかない不安定さあり。 そして飛び込むメイン・ヴォーカルは、みごとなまでに感傷的なメロディ。 斜に構えながらも、感傷の尾を引きずる GS 歌謡調である。 スリリングな伴奏とのアンバランスな、不思議なコンビネーションだ。 ヴァイオリンのリフで演奏はドライヴされ、メランコリックな歌が続いてゆく。 フルートとヴァイオリンのハーモニーがなぜか明るい。
   センチメンタリズムの向きが CRESSIDA などに通じる、英国ロックらしい作品。 スリリングな弦楽の力を利用した演奏には、奇妙な調性のアンバランスがあり、軽やかに疾走しつつも緊迫するという矛盾したタッチである。 フルートとヴァイオリンのハーモニーによるアンサンブルは、じつに突拍子がない。 冒頭のノイズやエンディングの SE など、アヴャンギャルドなしかけもあり。 バルトークの弦楽四重奏からインスパイアされたとのこと。 かなり前衛的な作品だ。

  7曲目「Moth」(3:54) 電気処理されたタムのビートが、よじれながらいくつも重なる。 やはり電気処理されたサックスによる中近東風のメロディアスなテーマ、ヴォーカルは再び沈み込んだ表情である。 歌は切ないバラード。 伴奏は音を拾うようなギターのアルペジオ、朴訥なサックスの調べ。 やがてサックスに電子音が重なり、大きく膨れ上がると、ヴァイオリンが受け止める。 スペイシーなのだがノイジーにして埃っぽい、なんともすさまじい音である。
  デリケートなバラードに電気処理を施した怪作。 ドラムス、サックス、ヴァイオリン、ヴォーカル、すべてに毛羽立つような電気処理が施されている。 もっともメロディそのものは、器楽のテーマもヴォーカルも決して悪くない。 サックスの調べがなかなか印象的だ。 イタリアン・ロック、またはサイケ時代の THE BEATLES にありそうな作風だ。

  8曲目「In The Stable Of The Sphinx」(8:30) 電話が鳴る。 受話器の向こうから男の声。 一転、ロックンロール調のスピーディなドラムが、リズムを刻み始める。 唐突なオープニングだ。 ギターのリフに続き、サックスが伸びやかに歌う。 ギターはアルペジオを繰り出し、鋭いフレーズを決める。 オーヴァー・ダブされたヴァイオリンが官能的なメロディを響かせる。 ヘヴィなギター・リフ。 再び、ギターが鋭く決めのフレーズ。 ヴァイオリンが天から降って、激しくかき鳴らされる。 吸い込まれるように消えたヴァイオリンが再び現れ、即興風のプレイを続ける。 受けてたつギター。 サックス、ヴァイオリンのスリリングなリフを伴奏にギター・ソロ。 ヘヴィで武骨なソロである。 サックスとギターのユニゾンが、シャープなリフを繰り返す。 ヴァイオリンはフリーなプレイを続けている。 もつれ合い上昇するヴァイオリン、サックス、ギター。 ノイズの塊が膨れ上がる。 爆発的な展開だ。 ドラムも暴れサックスは咆哮する。 やがて、潮が引くように音が消えてゆく。 残骸の中から、再び秩序をもたらすのは、ベースのフレーズであった。 静かに歌いはじめるヴァイオリン。 ギターが爪弾かれる。 ベースはリフを刻み続ける。 やがて、力強くサックスがメロディを提示する。 狂おしいサックスとおだやかなヴァイオリン、ギター。 次第にアクセラレートするアンサンブル。 サックスとヴァイオリンが伸びやかに歌う。 ドラムが場面を転換、ギター・リフの伴奏でヴァイオリンが歌う。 ギターとヴァイオリンがユニゾンを決めて終り。
  ヘヴィなジャズロック・インストゥルメンタル。 ブルージーなギターとジャジーなサックス、ヴァイオリンをフィーチュアし、スピード感と重みの両立したハードな曲調である。 リフとテーマ、フリーキーなソロを組み合わせ、ワイルドなプレイを次々に決めてゆき、クライマックスで破裂する。 混沌と秩序を象徴するような展開だ。 やはりやや古臭く野暮ったい音の感じが持ち味か。


  ヘヴィなエスニック・ジャズロック。 ギターの音はどうしようもなく古臭く、管楽器とヴァイオリンも荒っぽい。 しかし、アヴァンギャルドな展開やエキサイトしたときの演奏の迫力はすさまじい。 サックスやフルートがジャズ志向であるため、音の感触こそサイケ調だが、脱力系ではなく一貫して力勝負である。 そして、このまとまりを欠いた奔放な演奏とうまくバランスするのが、きわめて英国的なヴォーカルとコーラス・ワークである。 メランコリックな歌メロがじつにいい。 また、ヴァイオリンもクラシック調からジプシー系まで多彩。 メロトロンみたいな音のヴァイオリンだ。 全く垢抜けない、いかにもアングラな音だが、何が起こるか分からない面白さがある。 やはり名盤だろう。

(PMS 7040-WP)

 Snafu

 
Dave Arbus violin, tenor sax, trumpet,flute, bagpipe
Ron Caines saxophone, piano, vocals
Geoff Nicholson guitar, harp, strings, vocals
Andy Sneddon bass, strings, vocals
Geoff Britton drums, claves, african drum

  70 年発表の第二作「Snafu」。 ベースとドラムがメンバー交代。 しかし、ヴァイオリン、サックスとギターはあいかわらず強力なコンビネーションを発揮し、前衛的でアジアン・エキゾチズムあふれるジャズロックを繰り広げる。 アンダーグラウンドな空気とフリー・ジャズの危険な香りがふんぷんである。 前作を、さらにアヴァンギャルドに突き進めた作品といえるだろう。 プロデュースは、デヴィッド・ヒッチコック。 ボーナス・トラックはシングル・ヒットの「Jig-A-Jig」。

  「Have To Whack It Up」「錯乱」という邦題の通り、ギターとヴァイオリンが暴れ、最後は「錯乱」する狂人のわめき声が消えてゆく。 恐るべきオープニング・ナンバーだ。

  「Leaping Beauties For Rudy/Marcus Junior」フリー風のサックスのインプロヴィゼーションから、一転、するりとシャープなジャズロックへなだれ込む。 オリエンタルなメロディだがクールなサックスと、ドライヴ感に満ちたギター、ベースのバッキング・アンサンブルが冴える。

  「Xhorkom/RamadhanIn The Snow For A Blow-Part1/Better Git It In Your Soul」ヴォーカル含むテープ逆回転のイントロから、中近東風サックス、そしてフルートと繊細なヴォーカル・リフレイン。 再び、パワフルなサックスとトランペットのジャムからブラスのユニゾン・リフレイン。 キャッチーなメロディ・ラインのブラス・アンサンブル。 実はチャールズ・ミンガスらしい。

  「Uno Transito Clapori」レコードのスクラッチ・ノイズのような音。 テープ効果によるおしゃべり。

  「Gum Arabic/Confucius」エキゾチックなフルートとパーカッションの静かなインプロ。 蝿が飛ぶようなヴァイオリンの音。 リズムとギターが入り、フルートとソプラノ・サックスのスリリングなアンサンブル。 シャープなリズム・セクション。 テナーのアドリヴと不気味な語り。 フルート・ソロ。 テナーが重なる。 粘り強い引き締まったアンサンブル。

  「Nymphenberger」ヴァイオリンとギターのユニゾンによる変拍子アンサンブルが飛びかかってくる、強烈なオープニング。 メイン・ヴォーカルは、一転して、憂鬱ながらもメロディアスである。 バッキングは、サックスとヴァイオリンによる素朴なデュオ。 ドタバタ・ドラムに支えられて、間奏は、けだるくももの悲しいギター。 やがて、ヴァイオリンが重なり、哀愁のアンサンブルとなる。 しかし、音色が凶暴なため、繊細な感じはあまりない。 哀愁のメイン・ヴォーカルも、伴奏があまりに埃臭い。 最後は、タイトな演奏に変貌し、ヴァイオリンをフィーチュアするうちにオープニングの強烈なリフが再現する。 過激なインパクトと物憂げな風情の交じったヘヴィ・ロック。

  「Habibi Baby/Boehm Constrictor/Beast Of Sweden」サックスとフルートがもつれ、テープ逆回転音が絡む。 哀しげなヴォーカル。 後半は、静かなインプロから始まる。 ベースの響きやヴァイオリン、何かを叩く音が散乱する。 突如静寂は破られ、ベースがビートを刻み、ヴァイオリンとギターが暴れ出す。 全員リフに収束し、ハードなアンサンブルへと突入。 決めの連発と絶叫。 前衛的なインプロヴィゼーション。

  「Traditional:/arraged by EAST OF EDEN」ピアノ伴奏で野太い声が歌う。 ピアノのメロディはアヴァンギャルド。 1 分強の小曲。

  「Jig-A-Jig」マーチング・ドラムからサックス、ヴァイオリンの演奏。 リズムとともに躍動感たっぷりに踊るアンサンブル。 ドラムが強烈にビートを叩き出すと、ヴォリュームが上がってハードに盛り上がる。 狂乱するサックス、ヴァイオリンのリフにファズ・ギター。 そして決めの連続。 ややブルーズ臭いハード・ジャズロック。 ヘヴィな質感と突っ走る快感。 最後は手拍子で、ヴァイオリンが舞い踊る。 インストゥルメンタル。

(POCD-1847)


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