THE ENID

  イギリスのプログレッシヴ・ロック・グループ「THE ENID」。 BARCLAY JAMES HARVEST のオーケストラ指揮者を務めたゴドフリーを中心に 74 年結成。 76 年アルバム・デビュー。80 年代後半に解散するも、90 年代中盤に復活。 ロック・バンドによるバロック、ロマン派クラシック作品演奏を試みる異色の存在。 なお、CD 化された 70 年代の作品の一部は権利関係の問題から再録音されており、オリジナル LP とかなり異なる印象を与える。 2015 年、新作「The Bridge」発表予定。あいかわらずお金ないそうです。 初期二作の LP ヴァージョンもようやく正規 CD 化。

 Invicta
 
Max Read vocals, guitar
Dave Storey drums, percussion
Jason Ducker guitars
Joe Payne vocals
Robert John Godfrey keyboards
Nick Willes bass, percussion

  2012 年発表の作品「Invicta」。 内容は、賛美歌風のファルセット・ヴォイスなどノーブルなヴォーカルとコーラスをフィーチュアした厳かな歌ものクラシカル管弦楽ロック。 得意のピアノと「管弦」キーボードに加えてチャーチ・オルガンも動員された重厚華麗な演奏に、涙にむせぶように繊細なギター・サウンドで憂いの表情を描き添えている。 7 曲目のようなファンタジックなインストゥルメンタルにおけるデリケートな表現にも磨きがかかっている。 基本的な路線は 70 年代の作風と変わらない。 また、本作では、ヴォーカルが大きくフィーチュアされている。 管弦キーボードはごく自然にそのヴォーカルに付き随って、リズミカルかつメロディアスな展開を支えている。 その完成度の高さから、クラシカルで劇的だがポップなロックというのは英国にしかありえないような思いにとらわれる。 音楽性こそやや異なるがアプローチや到達点といった点で、ALAN PARSONS PROJECT とも共通する。
   歌ものクラシカル・ロックの佳作。 正統的な表現の安定感は抜群であり、5 曲目の後半や 8 曲目のようなオーケストラ的でなおかつ疾走感、ビート感のある独特の作風も確立されていると思うが、もっとプログレらしい奇矯さ、音楽的な冒険を試みてほしい。
   invicta は「不屈」を意味するラテン語。 プロデュースはゴドフレイとマックス・リード。

  「Anthropy」(1:04)
  「One & The Many」(10:22)
  「Who Created Me ?」(5:39)
  「Execution Mob」(4:06)
  「Witch Hunt」(6:36)
  「Heaven's Gate」(9:09)
  「Leviticus」(6:03)
  「Villan Of Science」(5:03)
  「The Whispering」(4:22)

(EWCD27)

 In The Region Of The Summer Stars
 
LP creditCD credit
Robert John Godfrey keyboards, percussion keyboards
Stephen Stewart guitar guitar, bass
Francis Lickerish guitar guitar
Glen Tollet keyboards, bass, tuba keyboards
Robbie Dobson drums, percussion
Chris North drums, percussion(for renewal)
Dave Storey drums, percussion
guest:
David Hancock trumpet
Neil Mitchell trumpet

  76 年発表の第一作「In The Region Of The Summer Stars」。 CD 化に際し、旧 A 面曲の手直しと旧 B 面再録音など、かなり手が加えられ、曲名変更まで行われた。 ジャケットも、日本盤 CD が 77 年 LP と同じものを使用している一方で、英国盤 CD は異なる。 おそらく作者には、これらは別物として扱われるべきであり再録版が現在の正規版であるという意図があるのだろう。 特に、ストリングス系のキーボードの音色とドラムスのプレイは、違いがはっきり分かる。
  内容は、管弦楽をシミュレートするシンセサイザー、オルガン、メロトロンを駆使したクラシカル・ロック。 ロマンチックなピアノ・ソロからギターのリードによるかなりヘヴィな演奏まで、多彩な曲想を、驚くほど徹底したクラシカルな曲作りと奏法で描いている。 いわゆるロック + クラシック調のサウンドにありがちな、いかがわしさや安っぽさはない。 クラシックをバンド・フォーメーションで演奏するという点で、唯一無二の個性と実力が示された傑作といえるだろう。
  しかし、音楽的な効果の点で不満もある。 シンセサイザーによるオーケストラ・シミュレーションやピアノ演奏が非常に堂に入っているのに比べて、ややヘヴィなテーマを持つバンド演奏が、いまひとつ垢抜けない。 「The Lovers」のロマンチックにして格調ある美しさと対比すると、「The Falling Tower」と「The Devil」では荒唐無稽さが感じられ、「Death, The Reaper」では哀感あるテーマが際立ち切れないもどかしさが感じられる。 そして、この落差がアルバム展開の妙味というよりは、単なる曲/演奏の出来のバラつきに感じられてしまう。 したがって、アルバム全体を通した印象も妙に屈折してしまうのである。 つまり、打楽器を用いたムソルグスキー調のアグレッシヴでアヴァンギャルドな展開よりも、ロマンチックな旋律美を押し出す展開の方が、素直にこちらの耳に入ってくるのである。 これは、おそらく、この時点ではゴドフレイの素養とセンスが「クラシックの中でもロックっぽさのある」曲よりも「純然とクラシックらしい」曲に力を発揮したのであろう。 ゆえに、あくまで個人的な感想ではあるが、アルバムの完成度のためには、ストレートにロマンチックな旋律を使った作品を、揃えるべきだったように思う。 もちろん、あくまで比較の問題であり、ロック的なパートの演奏内容そのものは、迫力とユーモアがこん然となった個性的なものではある。
  さて、「純然とクラシックらしい」シンフォニックな曲想が貫かれるアルバムの終盤は、非常に感動的である。 「The Sun」は厳かな管楽器の調べが導く、慈愛と癒しの作品。エレキギターによるまろやかな演奏と弦楽系のサウンドが希望のある優美に世界を描く。 「The Last Judgement」は、ドラムス、ティンパニとメロトロンが巧みに使われたボレロ風の雄大な作品。 シンセサイザーによる管弦とギターがうまくかみあい、ダイナミックでリアルな作品になっている。 中盤のムーグ・シンセサイザーがリードする演奏は緊張感、神秘性、躍動感をすべて備えた名演。 エンディングでは海の音とともにトランペットが高らかに鳴り響き、「The Fool」を再現するなど謎めいた展開を見せる。 そしてタイトル曲「In The Region Of Summer Stars」は、ギター、キーボードによる CAMEL 風のファンタジックで和みのある作品。 これだけバンドの演奏がよいと、管弦調の音がややつけたし的にすら感じられる。
   またボーナス・トラックの大作「Reverberation」は、シンセサイザーのシーケンスをベースに幻想的なストリングスが浮かび上がるオープニングを経て、レクイエム風の沈痛なストリングスが奏でられる、重厚かつ浮遊感のある作品。 シンセサイザーの音の質感やシーケンスの使用など、本編とはやや異なった雰囲気を持つ曲である。 おそらく、ゴドフレイ一人による多重録音の作品なのだろう。 いわば、ロマンチックな TANGERINE DREAM といったところだ。
  死や悪魔をモチーフにしたパートではエレキギターが使われ、太陽、愛といったモチーフのパートではピアノやトランペットといったアコースティック楽器が中心になる。 こういう興味深い楽器の選択など、他にもいろいろ発見がありそうな作品である。
  さて、そもそもロックをはじめポピュラー・ミュージックは、象牙の塔に封じ込められたクラシック音楽に躍動する肉体を取り戻し、時代遅れの権威から開放することをその存在意義の一つとしていた。 したがってそのクラシックをロック・バンドがそのまま忠実に再現してしまうというのは、皮肉や武者修行としての意味合いはともかく、自立性の欠如でありまたオルタナティヴなポジションを取っているともいえないだろう、という意見もあるかもしれない。 しかし、プログレッシヴなロックを志したミュージシャンは、ポピュラー・ミュージック自体までもが次第に持ち始めた硬直を解きほぐし、さらにロックの可能性を深化することを目標にして、敢えてクラシックやジャズなどの音楽との壁を取り払ったのだ。 そしてその原動力は、評論家風の理念ではなく、素朴な音の可能性への探求心であった違いない。 このグループも、クラシックの作曲技法を活かしたままロック・バンド形態で演奏することによって、新たな音楽的な効果が得られないだろうか、というプログレッシヴな、常識をぶっ飛ばした発想・信念のもとに歩みを始めたに違いない。 彼らのアプローチは、後から見ると非常に独創的かつアクロバチックに思えるが、ゴドフリーの音楽的素養と当時の音楽シーンの様相から、ごく自然に現われたものなのだろう。 したがって本作に、ただバンドとオーケストラで共演しましたという作品とは、同列には語れない深みがあるのも当然である。 まああまり構えずに、素直に音を楽しんでみよう。 これは自戒です。 プロデュースはゴドフレイとスチュアート。 これ以降の作品ではメロディアスでシンフォニックな路線が確立するだけに、ややバラけてはいるが大胆で多彩な演奏が聴けるという意味で、本作はプログレ・ディスコグラフィの独特の位置をキープし続けるだろう。 曲名がタロットカードから取られているそうですが、偶然にもほぼ同じような時機にスティーヴ・ハケットの有名なソロ作品でもタロットカードがモチーフになっています。 本当に偶然なんでしょうか、興味深いところです。

  LP での曲クレジット。
  1 曲目「The Fool...
  2 曲目「...The Falling Tower」(6:16)
  3 曲目「Death, The Reaper」(3:59)
  4 曲目「The Lovers」(5:17)
  5 曲目「The Devil」(4:14)

  1 曲目「The Sun」(4:39)
  2 曲目「The Last Judgement」(8:12)
  3 曲目「In The Region Of The Summer Stars」(6:19)

  CD での曲クレジット。
  1 曲目「The Fool」(2:42)
  2 曲目「The Falling Tower」(5:05)
  3 曲目「Death, The Reaper」(4:04)
  4 曲目「The Lovers」(5:25)
  5 曲目「The Devil」(4:20)冒頭のテーマは「禿山の一夜」に酷似。
  6 曲目「The Sun」(4:45)
  7 曲目「The Last Judgement」(9:13)序盤のテーマはメロトロン・フルートか。エンディングで「The Fool」へと回帰する。
  8 曲目「In The Region Of Summer Stars」(7:44)
  
  9 曲目「Reverberation」(18:34)ボーナス・トラック。

(BUK 52001 / MNTL CD7)

 Aerie Faerie Nonsense
   
 LP creditCD credit
Robert John Godfrey keyboards keyboards
Stephen Stewart guitars, percussion guitar, bass
Francis Lickerish guitars, bass, lute guitar
Dave Storey drums, percussion drums, percussion
Charlie Elston keyboards
Terry "Thunderbags" Pack bass
Glen Tollet  bass
Chris North  drums, percussion

  77 年発表の第二作「Aerie Faerie Nonsense」。 84 年に新規録音され、86 年に CD 化。 CD では曲順が変更されているが、曲目変更はない。 ジャケットは左が LP、右が英国版 CD。 日本盤 CD のジャケットは LP ジャケットと同じもの。
  内容は、前作を凌ぐ出来映えのバンドによるクラシック・シミュレーション、そしてそこから生まれる新たな感触のサウンド。 豊かな旋律美とクラシック的なポリフォニー、ダイナミクスにロックのリズム感が自然に融けあった、みごとな演奏が続き、これこそこのグループの目指したサウンドであると納得させるだけの力をもつ作品になっている。 前作のぎこちなさは消え、ごく自然な抑揚でロマン派調のデリカシーあふれるシンフォニックな演奏が繰り広げられている。 キーボードのみならず、粘っこくサステインするエレクトリック・ギターによる朗々たるテーマ演奏も、ティンパニなどの打楽器のスタイルに倣うドラムスのプレイもクラシック風の表現としてきわめて自然である。 また、前作ではゲストで迎えていた金管楽器をシンセサイザーでシミュレートしておりその音も新鮮だ。
   「Prelude」は、夜明けの曙光の荘厳さと勇壮さをイメージさせる序曲。 轟くティンパニはそのまま 2 曲目「Mayday Galliard」を導く。 フォーク風のリズミカルなテーマがギターやキーボードや鍵盤パーカッションらに取り巻かれて愛らしい呼応を見せる。 そして、まろやかな張りのあるギターのテーマと軽快なシンセサイザーの管の響きに支えられてキュートに跳ね、舞い踊る。 愛らしい舞曲であり、緻密な音の作りがまったく重苦しくならないアレンジのマジックである。 3 曲目「Ondine」における、ギターとシンセサイザー、ピアノらが静かに呼応しながら生み出すほのかなペーソスがすばらしい。 木管のソロを思わせるトラッド風のメロディもとても新鮮だ。 流々たるギターを中心とピアノを中心にさまざまな音を散りばめて、陰陽の微妙な変化を行き交うデリケートな手工芸品のようなシンフォニーを奏でている。 4 曲目「Childe Roland」は、クラシカルな曲想をロック・バンドとしての特性を生かしてリードする本作の「動」の部分を担う作品。 「軽騎兵序曲」や「ラデッキー行進曲」を思わせる勇壮かつややコミカルな動きも見せる。 中間部のピアノによるブリッジを経て、サーカスのようにノリノリの演奏が繰り広げられる。当たり前かもしれないが、吹奏楽部よりもやや軽音楽部寄りである。 いかにもイギリスらしい交響曲だ。
   そして LP 旧 B 面を占める超大作「Fand」は、モダン・クラシックの交響曲もしくは史劇のサウンド・トラックを思わせる、壮大なスケールの作品。 管弦が分厚く層を成し、ストリングスはもちろん高低のブラス、さらにはエレクトリックな質感のシンセサイザーやギターも活かしたスペクタクルである。 管弦楽とリズム・セクション入りのバンド演奏をシームレスに行き交い、時にブルース・フィーリングらしきものすらちらつかせるなど、バンドによるクラシック・シミュレーションを超越した独自の音楽世界が完成している。
  全曲インストゥルメンタル。 プロデュースは、ゴドフレイとスチュアート。

  LP での曲クレジット。
  1 曲目「Prelude」(1:20)
  2 曲目「Mayday Galliard」(6:10)
  3 曲目「Ondine」(4:01)
  4 曲目「Childe Roland」(7:09)

  1 曲目「Fand
    「1st movement」(11:46)
    「2nd movement」(5:42)

  CD での曲クレジット。
  1 曲目「A Heroes Life "Childe Roland To The Dark Tower Came"」(7:08)
  2 曲目「Ondine "Dear Sweet Thing Of Wonderful Beauty: Roland's Childe"」(3:46)
  3 曲目「Interlude」(0:58)
  4 曲目「Bridal Dance "Mayday Galliard"」(6:39)
  5 曲目「Fand」(29:36)
  第一楽章パート 1「Isle Of Brooding Solitude
  第一楽章パート 2「The Silver Ship - Landfall
  第一楽章パート 3「The Grand Loving
  第二楽章「Love Death...The Immolation Of Fand

(EMI EG 2603241/ MNTL CD6)

 Touch Me
 
Robert John Godfrey keyboards
Stephen Stewart guitar, bass
Francis Lickerish guitar
Glen Tollet bass
William Gilmour keyboards
Tony Freer woodwind, keyboards
Dave Storey drums, percussion

  78 年発表の第三作「Touch Me」。 本作は 89 年に CD 化されるが、再録音はされていない。 ここの写真は、オリジナル LP、英国盤 CD のジャケットである。
  前作同様、内容は、スケールの大きなロマン派クラシック・ロック作品。 キーボード担当メンバーの増員により音に厚みが加わったこと、木管楽器奏者による明快な表現が加わったことによる、アンサンブルの妙はさらに充実する。 クラシカル・ロックとして、力強さ/繊細な筆致/音色の豊かさなど、すべての点において今までで一番の完成度だろう。 特に、全体の音色のベースとなるストリングス系の音は、ほとんど本物のオーケストラと区別がつかない。 ロマンティックなピアノの存在と、ストリングスや軽やかな管楽器系の音にエレキギターがまったく違和感なく重なるところが、このグループの音楽の大きな二つの特徴である。 ドラムスもティンパニ的な用い方であり、クライマックスでの雷鳴のような響きは、まさしくオーケストラのものである。 さらに、オーボエなど木管楽器の導入も、キーボードにはない微妙なニュアンスの表現を担っており、成功といえるだろう。 また、リズム・セクションを活かした躍動的な作品から、優美でメロディアスな作品まで、各楽曲の性格もはっきりとしている。 聴きやすさという点でも優れている。 最終曲へ到達した頃には、これはクラシック・ロックというよりは、演奏楽器としてシンセサイザーとギター、ベース、ドラムスが指定された現代クラシック作品といった方が適切なのでは、という気持になってくる。 実際それで何の問題もないだろう。 ジャンル分けは、ここまでくると演奏会場の都合程度にしか意味がなくなる。
  オープニング・ナンバーは、さまざまに展開しながらも、明快なテーマのおかげで聴きやすい。 カラフルなサウンドを楽しむことができる。 2 曲目は、エキゾチックで哀しげなマーチ風のテーマと、流麗にして優美な第二テーマが交錯する西アジア風の幻想曲。 オーボエとギターが美しい。 また、ゴドフレイ得意のピアノ独奏曲である 3 曲目は、さながら協奏曲の第二楽章といった趣のロマンをかきたてる美しいナンバー。 4 曲目は、華やかでスリリングな作品。 ストリングスとギター、ドラムスがとけあいヴィヴァルディを思わせるアンサンブルも見せる。 バロック・トランペットを思わせるシンセサイザー、木琴が鮮やかだ。 終盤には、得意のオーストリア舞曲風の演奏へと進む。 「ノリ」のよさが生かされているという点で、図抜けた内容だ。 最終曲「Albion Fair」は、幻想的かつ瞑想的なシンセサイザー・ミュージックの前半から、管弦楽風に躍動する後半へと進む大作。 粘っこいギターといい、ロマンティックなピアノといい、この後半は ENID らしさ満点の演奏である。 なお、プレイヤーはボーナス含め 7 曲を表示するが、これは「Albion Fair」が 2 曲に分かれているため。 また、ボーナス・トラックは、ゴドフレイのシンセサイザーによる峻厳かつ幻想的な現代曲の大作「Joined By The Heart」のパート 2。

  「Charade」四部から成る作品。
  「Humouresque」(6:16)
  「Cortege」(5:13)
  「Elegy(Touch Me)」(3:18)
  「Gallavant」(7:18)

  「Albion Fair」(5:29 + 10:57)振幅の大きい、ド派手さナンバーワンの大作。
  「Joined By The Heart」(14:43)ボーナス・トラック。ロバート・ゴドフレイ、ステファン・スチュアートによる共同作のゴドフレイ・パート。

(MNTL CD5)

 Six Pieces
       
Robert John Godfrey keyboards
Stephen Stewart guitar, bass
Francis Lickerish guitar
Martin Russell keyboards, bass
William Gilmour keyboards
Robbie Dobson drums, percussion

  80 年発表の第四作「Six Pieces」 オリジナル LP は 80 年発表。89 年に CD 化される。 ジャケット写真は、左がオリジナル LP、右が再発 LP と英国盤 CD に使用されたもの。 タイトル通り六曲から成る作品であり、それぞれの曲がこのときのメンバーを表現したものとなっているそうだ。 作風は、全体にロマンチックにしてオプティミスティックな明るさのあるものであり、各曲内での展開もメリハリが効いている。 目まぐるしく展開する 1 曲目に象徴されるように、浪漫派クラシック風の意匠にばかり落ちつくことなく、エネルギッシュで躍動的な表現もある。 いわゆるプログレッシヴ・ロックらしさという点では一番の作品ではないだろうか。 交響曲調にしっかりととけ込むギターの表現の巧みさにも驚かされる。
   2 曲目は、サイモンとガーファンクルで有名な「スカボロフェア」のテーマによる作品。 ボーナス・トラックとして、大作「Joined By The Heart」のパート 1 が追加されている。 各曲も鑑賞予定。

  「Punch And Judy Man」 キーボーディストのウィリアム・ギルモア氏。分裂気味の性格なのか、目まぐるしいコミカル・タッチと安らかな田園調、ヘヴィさと雅が対比する。独特の諧謔味が GENESIS にも通じる。傑作。

  「Once She Was ...(Scarborough Fayre)」キーボーディストのマーティン・ラッセル氏。ロマンティックでやや感傷的な作品。当たり前だが、管絃を模すシンセサイザーによる交響楽の表現がみごと。後期 EL&P ばりの勇壮な演奏もカッコいい。

  「The Ring Master」ドラマーのロビー・ドブソン氏。逞しき牧歌調というか、けたたましい祝祭調というか、ポップスらしさのある作品。いつもながらエレキギターと交響曲を巧みに折り合わせている。

  「Sanctum」ゴドフレイ氏自身。 金管のつややかな響き、木管のまろやかな響き、なめらかなギターで優雅に綴るロマンである。

  「Hall Of Mirrors」複雑なる性格のギタリスト、ステファン・スチュアート氏。 20世紀の交響曲らしい作品。 ギターはあたかも第一ヴァイオリンのように華やかである。

  「The Dreamer」ギタリストのフランシス・リカーリッシュ氏。 邪悪な、怪しげな序曲を伴う作品。本編は美しく力強いピアノ・コンチェルト。 CD では、6 曲目と 7 曲目に相当。

  「Joined By The Heart」ボーナス・トラック。前作のボーナス・トラックと対を成す。ロバート・ゴドフレイ、ステファン・スチュアートによる共同作のスチュアート・パート。

(MNTL CD4)

 Something Wicked This Way Comes
 
Robert John Godfrey keyboards, vocals
Stephen Stewart guitar, bass, backing vocals
Chris North drums, percussion

  83 年発表の作品「Something Wicked This Way Comes」。 前作発表後、所属レーベルの経営難の煽りでグループはいったん解散状態になるが、スチュアートとゴドフレイを中心に再編、自主レーベルより本アルバムを発表する。 これを契機に、以降、権利問題に端を発して旧作の再発や再録音が行われることとなり、複数のジャケットや内容が錯綜してリスナーを悩ませることになる。 (もっとも、ゴドフレイ自身が作品に継続的に手を入れることを好むということもあるらしいが) 内容は、従来のスタイルを維持しつつもヴォーカルの採用やロックらしいビートを強調したものとなる。 ロマンティックなクラシックとバンドっぽさの取り合わせは意外に悪くない。 タイトル曲を聴いていると、ENID もまた黄昏色をした良質の英国ロックの一つなのだという思いが改めて湧き起こる。 タイトルから明らかなようにブラドベリイの有名な小説からインスピレーションを得ているようだが、核兵器への言及があるように、小説をそのまま扱うのではなく、むしろ当時の英国政策を含めた政治情勢への批判が強く込められているようだ。

  「Acid Raindown 」LP でのタイトルは「Raindown」。
  「Jessica´s Song 」LP でのタイトルは「Jessica」。
  「Then There Were None
  「Evensong
  「Bright Star
  「Song For Europe
  「Something Wicked This Way Comes (1984 CD Version)
  「Something Wicked This Way Comes (1993 Fan Club Re-Recording)
  「Something Wicked This Way Comes (1982 Vinyl Version)

  「Song Of Fand」CD ボーナス・トラック。79 年のライヴ録音。

(MNTL CD1)

 The Seed And The Sower
 
Robert John Godfrey keyboards
Stephen Stewart guitar
Damian Risdon drums
Niall Feldman bass
guest:
Geraldine Connor voice of Earth Mother
Troy Donockley low whistle

  88 年発表の作品「The Seed And The Sower」。 当初はゴドフレイとステファン・スチュアートによるユニット名で発表された。 同名の小説(「戦場のメリークリスマス」の原作らしい)をモティーフとした作品であり、その作風は、いわゆる ENID らしいクラシカルなシンフォニーにニューエイジ風のクリアなワールド・ミュージック・テイストを加味したものである。 ゴドフレイのキーボードは、今作品でもみごとにエレガントで神秘的な世界を作り上げている。 スチュワートの伸びやかなギターに薫るほのかなアジアン・テイストは JADE WARRIOR 的であり、また、打楽器やヴォカリーズによるアフリカン・ミュージック風の表現にはマイク・オールドフィールドやパット・メセニーの作品のイメージも。 優美なだけではなく、どこまでもしなやかで無駄がなく、奥深いサウンドである。卓越した映画音楽という印象もある。 本作品で、70 年代から続いたグループはいったん解散する。
  個人的に、この時代にこういう響きの音楽を「ニューエイジ」として十羽一からげにしていたことを悔いています。 もう少し耳を傾けていれば、本作と出会えていたでしょう。
  CD ではボーナス・トラックとして、18 分の大作「Reverberations」がつく。 ゲストとしてクレジットされているトロイ・ドノックリーは IONA の方でしょうか。

  「Chaldean Crossing」(8:37)
  「A Bar Of Shadow」(7:22)
  「La Rage」(8:42)
  「Longhome」(15:59)
  「Earthborn」(8:08)
  「Reverberations」(18:37)ボーナス・トラック。87 年カセットテープで発表された沈痛な面持ちの作品。デジタル・シンセサイザーのサウンドが特徴的。最終パートの悲劇的な弦楽のテーマ、それに続く挽歌調のピアノ・ソロが心を揺さぶる。

(ENID11 / IECP-10080)

 White Goddess
 
Robert John Godfrey keyboards
Grant Jamieson guitar
Max Read bass, guitar, choirs
Dave Storey drums, percussion

  98 年発表の作品「White Goddess」。 内容は、70 年代の作品を思わせるロマンティックにして高貴、重厚なシンフォニーである。 表現には、あたかも喜怒哀楽のような自然な抑揚があり、ストレートなロマンティシズムが感じられる。 それでいて、いわゆるニューエイジ・ミュージックの安っぽさがなく、清く慎ましく気高い魂がある。 ステファン・スチュアート氏との別離に端を発す音楽家としての不調をなんとか乗り越え、ゴドフレイ氏が THE ENID をカムバックさせたという経緯を知ってしまうと、なおのこと力いっぱい応援したくなる。 30 年近く経っているのにデビュー・アルバムの作風は、ほぼそのままに残っているので、「In The Region Of The Summer Stars」のファンには絶対のお薦め。 端的にいって、ロマン派のシンフォニーやピアノ協奏曲を聴いているのとあまりかわらないのだが、それこそがこのグループの目指しているところなのだから当然なのである。 もちろん、オーケストラ風のキーボード・アンサンブルにエレクトリックなバンド演奏を織り込む手際の冴えも十分に発揮されている。 「白の女神」とは、かつて人間に託した宝=自然の恵みを人間がまったく大切にしないばかりか、強欲の果てに損ない始めたのに呆れ、決然と取り上げようとする母なる地球のことのようです。 各曲も鑑賞予定。

  「Prelude」異様な爆音が轟く衝撃的な序曲。

  「Fantasy」ドビュッシー、フォーレ風味のあるその名のとおりファンタジックにして不思議な翳りのある作品。 富田勲やディズニーを思い出してしまいます。魔術のように美しい管弦とギター。 終盤には NEW TROLLS ばりのダイナミックな盛り上がりも。

  「Riguardon」ドラムスも加わりバンドらしさが強調されたリズミカルな民俗楽タッチ(ケルト風?)の作品。

  「Sarabande」うっすらとたゆとうストリングスの響きに朗々たるギターが浮かび上がる幻想的で美しい作品。前曲や本曲でのギターの使い方は ENID ならでは。Mike Oldfield 的ともいえます。
  「Waltz」ストリングスによる優美で愛らしいワルツ。

  「Ballade」ピアノ独奏中心の憂鬱なバラード。

  「Gavotte」スチール・ドラム風の響きや木管楽器調などさまざまな音色のシンセサイザーによる可愛らしい小品。

  「Chaconne」幻想味とオプティミスティックな響きが綾なす Mike Oldfield 風の傑作。エレキギターの紡ぐ音の表情はあいかわらず巧みです。

  「Gigue」8 分の 6 拍子による躍動するタランテラ調の舞曲。明るくユーモラス。旧作の再録のようにも思える。 英国風の「Celebration」ですね。

  「Nocturne」夜想曲というよりはレクイエムのような、厳しい旅の最後に待ち受ける安息と慈しみにあふれた作品。キーボードによる管弦楽風の演奏が息を呑むほどにすばらしい。

(ENID010CD)

 Journey's End
 
Robert John Godfrey keyboards
Max Read vocals
Jason Ducker guitars
Dave Storey drums, percussion
Nick Willes bass, timpani, percussion

  2010 年発表の作品「Journey's End」。 四年をかけて製作された十二年ぶりの新作。 ヴォーカルもフィーチュアしたライトでリズミカルなパートと重厚な管弦キーボードが轟くパートが難なくブレンドしたドラマティックな展開から、後期 PINK FLOYD をイメージさせる大河作品風のアルバムとなっている。 このグループの持ち味である独特のクラシック解釈と類を見ない神秘的なサウンドに魅せられたファンは、本作品を耳にすると 80 年代後半を思い出して少し背筋が寒くなるかもしれない。 しかし、バッキング、器楽パートにおける優美さや可憐さ、厳かさといった真正な美感の表現には、初期作品と変わらない深みと味わいがあると思う。 今回のギタリストも今までの名手たちと同様メロディアスで歌うような表現を得意としており、ゴドフレイのピアノもアンサンブルに交わりつつもきっちりと活躍している。 50 年代の映画音楽を思わせる甘美な響きも変わらずある。 ヴォーカル・パートにもう少し際立つもの、たとえば背筋が震えるように美しいメロディ、声、強烈なアジテーションや英国らしい毒気があれば、もっともっと目を惹く作品になっただろう。 とはいえ、専売特許である管弦交響楽ロックとしては十分過ぎるクオリティの作品である。
   プロデュースはゴドフレイとマックス・リード。ここに載せたジャケットとは別のジャケットの CD もあるようだ。内容が異なるかどうかは分からない。

  「Terra Firma」(7:08)
  「Terra Nova」(5:39)
  「Space Surfing」(4:58)
  「Malacandra」(13:56)
  「Shiva」(7:59)
  「The Art Of Melody: Journey's End」(5:20)最終曲らしい感動的なシンフォニック・チューン。 リチャード・ロジャース辺りと比べても遜色なし。

(EWCD10)

 Fall Of Hyperion
 
Robert John Godfrey keyboards
Christpher Lewis vocals, all lyrics
Neil Tetlow bass
Jim Scott guitars
guest:
Nigel Mortons hammond organ
Tristan Fry percussion
Ronnie McCrea percussion

  73 年発表の作品「Fall Of Hyperion」。 THE ENID に先立つロバート・ジョン・ゴドフレイのソロ作品。 内容は、まさに THE ENID の序章というべきもので、本格的なクラシック・ピアノ、メロトロンなどストリングス系キーボード、オルガン、鍵盤打楽器を駆使して作り上げた管弦楽であり、きわめてロマンティックな「エレクトリック・クラシック」である。 古式ゆかしいロマンと哀愁を湛えた歌唱が入ると 50 年代ハリウッド製ミュージカルのサウンド・トラックの趣も出てくる。(オスカー・ハマーシュタイン Jr/リチャード・ロジャース路線ですな) マリンバ、ティンパニなど打楽器のプレイ(B 面でパーカッションを駆使したみごとな演奏あり)も、ロックではなくオーケストラのものだ。 そして、演奏とともに、作詞(おそらくアルバム・コンセプトもだろう)も担当したというクリストファー・ルイスのヴォーカルが、滋味をたたえておりなんともいい。 中性的で雅な歌声は、気品あるエレガントな演奏によくマッチしている。 一つ確実なのは、クラシックの翻案のような企画アルバムやコンセプト・アルバムという名のもとの凡作は山のようにあるが、本作は、それらとは全く次元の異なる、きわめて音楽的に充実した作品だということだ。 たったこれだけの楽器と歌で、あまたの管弦楽作品と並ぶような巧みなストーリーテリングと純音楽的な感動を与えているのだから、ゴドフレイとその周囲の音楽家達の力量たるや驚くべきものである。 本作に先立つゴドフレイを中心としたバンド活動がここに結実し、次なるステップ= ENID への序章として刻まれたのだ。
  何度も同じようなことを繰り返すが、本作品はいわゆるロック・ファン向けではなく、「他にはない変わったもの」が好きな人向けである。 その点は THE ENID となんら変わらない。 個人的には、THE ENID の作品よりも、ヴォーカルに重きがある分こちらが好み。 ポップスの幅を大きく広げたゴドフレイの才能と CHARISMA レコードの慧眼に感謝しましょう。 プロデュースはニール・スレイヴン。
   タイトルはジョン・キーツの哲学的抒情詩「ハイペリオンの没落」より。 現行の紙ジャケット CD の音質は、以前の Virgin 盤と同等程度。 もう少し中音域を抑えたり、クリアになると印象が違いそうです。(ライナー・ノーツによるとオリジナル LP もこもり気味の音質だったようです)
  
  「The Raven」(8:46)
  「Mountains」(6:56)
  「Water Song」(5:57)
  「End Of Side One」(0:04)
  「Isault」(5:10)
  「The Daemon Of The World」(14:44)激しく展開する中盤ではシンセサイザーも活躍。打楽器ソロもおもしろい。

(BT-5167 / IECP-10072)


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