DEUS EX MACHINA

  90 年代イタリアを代表する超絶技巧音楽集団「DEUS EX MACHINA」。 85 年ボローニャにて結成。 バンド名は、ギリシャ悲劇の終盤、こんがらがったシチュエーションを一気に整理する天の声のことらしい。 91 年アルバム・デビュー。 2008 年久しぶりの新作発表。

 Cinque

 
Claudio Trotta drums
Alessandro Porre Porreca bass
Magrino Collina guitar
Bonez Bonetti violin
Fabrizio Puglisi keyboards
Fabio Cocchi violin
Nicola Il Rosso viola
Enrico Guerzoni cello
Alberto Piras vocals

  2002 年発表の第六作「Cinque」。 ブラス・セクションを巻き込んだ前作のハチャメチャ路線からやや軌道修正し、MAHAVISHNU ORCHESTRA によるハイテク・ハードロックという趣を取り戻した。 キレや重みは圧巻、ミステリアスな余裕が感じられる内容である。 そして、初めはミドル・テンポの歌パートの印象のためにスピード感が実感できないが、ふと気がつけば、凶暴にしてしなやかなアンサンブルとともに風を切り裂いて突っ走ることになる。 4 曲目のライ・クーダーのような歌ものから伝わる乾いた空気感が、なかなか新鮮だ。 5 曲目は、本家 MAHAVISHNU ORCHESTRAAREA の顔色を変えそうなヘヴィ・ジャズロック。 7 曲目は、かなりの爆発力を示す。 そして終曲は、弦楽四重奏をフィーチュアした現代音楽作品。
  あまり似合いませんが、全体に「円熟」といっていいでしょう。 ヴォーカルはラテン語とイタリア語が半々くらい。 ライヴを体験したいバンドです。

(CUNEIFORM RUNE 159)

 Gladium Caeli

 
Marco Matteuzzi drums, percussion
Alessandro Porreca bass
Maurino Collina guitar
Alessandro Bonetti violin
Luigi Ricciardiello keyboards
Alberto Piras vocals

  90 年発表の第一作「Gladium Caeli」(剣の天)。 サウンドは、ロバート・プラントを思わせる圧倒的存在感のヴォーカルと、のしかかるようなプレイで押し捲るスピーディかつパワフルなハードロック。 アンサンブルにしなるような弾力性があり、ミドル・テンポの演奏にも、底知れぬパワーが感じられる。 数珠つなぎのように次々とプレイが折り重なり、発展する演奏も特徴的だ。 とにかく強烈なスタイルである。 しかしながらこれだけ強烈なのに、いわゆるプログレ・メタル調のクリシェはなく、ロックと他の音楽の邂逅が純化された形で行われている。 芸術性を感じさせるのだ。 そして、勇者の雄々しさと高潔な魂のきらめきがあるのだ。 おそらく、世の中なんでもマンガとプロレスで解釈できると信じてるのは、世界中で日本人とアメリカ人だけなのだろう。(余談) 演奏にはスタジオ盤というよりはライヴに近いプレゼンスがあり、実際二日で録音を終わったと語っている通り、ほとんど一発録りなのだろう。 恐るべき技巧である。 また、内容はロック・オペラ的なトータル・アルバムらしい。 歌詞はラテン語。
  ヴァイオリンの存在と圧倒的な演奏力は、70 年代の P.F.M. を思わせる。 しかし彼らは、70 年代プログレッシヴ・ロックのみならず HR/HM やジャズロック/フュージョンをも、十分吸収しきっているようだ。 圧倒的なヴォーカルを誇示するスタイルは AREA にも通じるのだが、おそらくラテン語という点さえのぞけば、LED ZEPPELIN にヴァイオリンが入ったようなイメージというのが、最もピッタリくるだろう。 おそらく、グランジ・ブーム含め PEARL JAM やレッチリなど、一連の HR リヴァイヴァルからの流れもあるのだろう。 以後得意技となる 10 分以上にわたってハイ・テンションのまま突っ走るというスタイルも、既に確立されている。 もっとも本作は、後に見られるようなアヴァンギャルドな爆発よりも、自ら影響を受けたサウンドを素直に前面に出してまとめあげたように思う。 メロディ・ラインも思ったよりも屈折しておらずキャッチーである。 また ZEPPELIN を連想させるのは、ハイトーンのヴォーカルのみならず、フォルクローレ/トラッド的な音使いが随所に現れるせいだろう。
  常に予測不能の期待感と不安をかきたてるあたりは、すでに他のグループの一歩先を走っている、といっていいのだろう。 ヴォーカル以外で特筆すべきはギターだろう。 ナチュラル・トーンが魅力の、カッコよすぎるオールラウンド・プレイヤーである。 個人的には、メロディアスなヴォーカルが冴え渡る 2 曲目の大作が最も好み。

  「Expergi」(8:26)幻想的でシンフォニックな導入部とヴォーカルのファルセットが痺れるほどにカッコいい LED ZEPPELIN 風のニューロック・サウンド。 ワウ・ギター、オルガン、アナログ・シンセサイザーら、ノスタルジックなサウンドによるプレイをモダンなリズムが支える。 演奏はくるくると変転するのだが常に一体感があり爆走という表現が相応しい。 終盤のオルガンと朗唱はまさしく 70 年代サウンドである。

  「Arbor」(16:19)みごとなギター・ソロに導かれるトラッド・タッチのリリカルなテーマ部がいつのまにか煮えたぎりギターとヴァイオリン、エレピらによる巨大なインプロヴィゼーションへと雪崩れ込む大作。 特にギターが圧倒的な存在感を示す。 ジャズロックというにはあまりに一直線でワイルドでありむしろハードロック・インストゥルメンタルというべきだろう。11 分付近ではストラトス調のヴォーカル・パフォーマンスもあり。 メロディアスな場面での風を受けて立ち尽くすような雄々しいロマンチシズムがいい。

  「Gladium Caeli」(11:27)風格すら感じさせるシンフォニックかつ重厚なバラード。もう LED ZEPPELIN そのもの。

  「Ignis Ab Caelo」(4:42)ギターが轟くエキサイティングなハードロック。ウェーバーだかスッペだかの行進曲をハードロックにしたようなオープニング。いらいらするような反復に堪忍袋の緒が切れたように爆発するギター。ヴォーカルは素っ頓狂に暴れ周りギターはシャフルでガンガンにブギーをカマす。終盤は痛快ロケンロー。

  「Se Ipse Loquitur」(3:38)ヴァイオリン、ギター、ヴォーカルが一線で攻め立てるアメリカンなロックンロール。ムーグ、オルガン、ピアノがアクセントをつける。次第に展開はねじれてゆき突き抜けそうで突き抜けない。

  「Dialeghen」(15:24)終盤に EL&P も真っ青のオルガン、アナログ・シンセサイザーによる絨毯爆撃あり。 P.F.M. のプレモリ氏のミニムーグを思い出す。シャフル・ビートも痛快です。最後は本当に爆音。

  「Omnia Evolvitur Sed Potest Mutari」(8:19)ロンド風の調子よいギター・リフへシンセサイザー、メロトロン、ヴァイオリンがガーッとかぶさるダイナミックな終曲。ヴォーカル・パートもファンクにグルーヴィで思わず「Presence」の B 面を思い出す。中盤ジャズへと変化し、ランニング・ベースとエレピ、ギターによるワイルドなインタープレイが楽しめる。ギターはほとんどマクラフリン状態。

(Drums ECD2247)

 Deus Ex Machina

 
Claudio Trotta drums
Alessandro Porre Porreca bass
Maurino Collina guitar
Alessandro Bonetti violin
Luigi Riccia Ricciardiello keyboards
Alberto Piras vocals

  92 年発表の第二作「Deus Ex Machina」。 ドラムスがメンバー交代した模様。 思わせぶりなイントロで始まるのでびっくりするが、内容は、前作のハードロックにモダンでアヴァンギャルドなセンスやシンフォニックなキーボードなどのプログレ風味の加わった、懐の深さをみせるもの。 一番強く感じられるのは、現代音楽的な演奏である。 変拍子による絡まったようなアンサンブルや急転直下の頓狂な曲展開など、パワーとロマンチシズムが主だった前作とは異なる種類の過激さがあるのだ。 そして前作でも見せたような引きというかリリカルな見せ場は、ハードで奇天烈な演奏の随所に、いい感じのアクセントとして散りばめられている。 オープニングはジャジーもしくはフォーク・タッチのメロディアスな演奏なのに、どんどん捻じ曲がり形を変えてゆくという曲ばかりである。 二重人格的なムードの切りかえやいきなり沸き立つハイ・テンションなどが、新たに加わった作曲・演奏技法ということになるだろう。 特徴的なのは、現代音楽的なプレイを繰り出すヴァイオリンとアナログ・シンセサイザーのサウンド。 ちなみに、LED ZEPPELIN を思わせるところはほとんどなくなり、ヴォーカルもプラントというよりもイタリア語のギラン/カヴァーデイル路線を経て、いよいよデメトリオ・ストラトスに近づいた感あり。

  「Ad Montem」(7:31)
  「Vacuum」(5:51)
  「M.A.」(1:20)
  「Hostis」(6:00)
  「Cor Mio」(5:01)
  「Si Tu Bene Valeas Ego Bene Valeo」(7:33)
  「Lo Stato Delle Cose」(9:00)
  「Deus Ex Machina」(7:28)
  「Omega」(2:10)

(KRC 001)

 De Republica

 
Loris Claudio Centopellitrotta drums, percussion
Porre Porreca bass
Maurino, Maurino guitar
Bonetz violin, trumpet
Riccia de Feccia keyboards
Piras vocals
Savino cello

  95 年発表の第三作「De Republica」。 機械のように正確無比な変拍子が駆動するスピーディにして明確な輪郭をもつ演奏に、なめらかな地中海風エキゾチズムをブレンドした驚異の音楽性を誇る傑作。 超絶的な技巧が生み出す演奏はすさまじいテンションの高さを誇り、放っておけばその音楽は無尽蔵の増殖を見せ、どこまでもキリなく突き進む。 即興演奏と計算されたスコアの中間を転げ落ちるように疾走する様子は、もはやハードロック、ジャズロックという紋切り型の言葉では片づけられないモーメンタムを持っている。 それでいながら南欧風の豊かで暖かい息遣いもある。 おおげさにいえば、これこそ「ロックの未来型」の一つではないか。
  編成は、ヴォーカル、ギター、キーボード、ベース、ドラム、ヴァイオリンの 6 人であり、チェロやトランペットのゲストを迎えている。 1 曲目のエレアコ・ギターやヴァイオリンを聴いてハタと膝を打ったのは、P.F.M の「Chocorate King」や「Jet Lag」にきわめて近いニュアンスであることに気づいたからだ。 まず特徴的なのは、強烈な存在感をあらわすヴォーカリスト、アルベルト・ピラス。 異様な力強さをもつ節回し、エキゾチックな言葉の響きによる「歌」は、発せられるというよりは、その力でリスナーを丸ごと呑み込んでしまうようだ。 ギターとキーボードはもはや多くを語る必要のないテクニシャン。 リフの切れや何気ないバッキングにセンスを感じる。 同じイカレポンチでも緩急もなくソロばかり弾きたがるアメリカ人とは大違いであり、アカデミックな感受性がある。 そしてリズム・セクションは弾力に富み、どこまでもパワフル。 奇妙な変拍子を大きなノリで仕切っている。 さらには、ヴァイオリンによる現代音楽的なアクセントも欠かせない。 とにかく、AREAP.F.MIL VOLO といった超一流のグループと並ぶ位置にいると断言できる内容である。 久々に現れた 7 拍子のスピーディなパワー・ナンバーが似合うグループだ。
  1 曲目のバラード調の序章で、フュージョンにしてはヴォーカルがやけにパワフルだなくらいに思った貴方には、底なしの陥穽が牙をむいて待っているとだけいっておこう。 とかくこういうグループは、前を走っているためにとんでもない方向へ行ってしまいがちだが(11 曲目なんてかなり心配)、アヴァンギャルドに向かってもきっと今の疾走感と色気、パワーを保ち続けるだろう。 ゴタクをならべましたがとにかくカッコいい。 名盤。

  「Exordium」(9:15)叙情的な序章から、なめらかに立ち上がり一気呵成に突き進む痛快作。

  「Res Publica I」(2:01)メイナード・ファーガソンかランディ・フレッカーのようなトランペットが暴れ回る。

  「Res Publica II」(5:55)ヴォイス、ヴァイオリンによる現代音楽的断章を交えた変拍子ハードロック。

  「Res Publica III」(10:11)中盤のギター、シンセサイザー、ヴァイオリンによるバトルがおみごと。延々続きそうな演奏である。

  「Macte Aequitatem」(4:56)暴力的なリフ、キース・エマーソンのようなムーグ、ヴァイオリンが強烈な快速ハードロック。 何があろうと無理やり突き進む。

  「Foederis Aequas Dicamus Leges」(5:51)
  「Aeterna Lex」(1:05)
  「Perpetua Lux I」(2:03)
  「Perpetua Lux II」(5:56)
  「De Oraculis Novis I」(4:29)
  「De Oraculis Novis II」(3:32)
  「De Oraculis Novis III」(2:15)
  「Dittatura Della Mediocrità」(8:42)ストレス解消のような(いや、さらに溜まるか?)爆走チューン。

(KRC 009)

 Diacronie Metronomiche

 
 

  98 年発表の第四作「Diacronie Metronomiche」。 初のライヴ・アルバム。 ただでさえテンションの高い作品群が、ライヴにおいてはさらに迫力を増しており、もはやゴジラみたいなものである。 快速球が剛速球に変わって圧倒するのだが、ピラスのヴォーカルに代表されるように、なんといってもこのグループの魅力は「しなやかさ」と「つや」もしくは「ワイルドな色気」である。 したがって、やはり剛速球というよりは胸元えぐる快速シュート、これですな。 超絶技巧と歌心を同時に持ったプレイヤー達の繰り広げる饗宴という意味では、ヨーヨー・マの奏でるタンゴと通じるものがあるかもしれない。 やっぱりライヴですよ、こういうグループは。 来日希望。

  「Ignis Ab Caelo」(3:43)
  「Foederis Aequas Dicamus Leges」(5:57)
  「Ad Montem」(6:31)
  「De Oraculis Novis I」(4:28)
  「Exordium」(9:00)
  「Bonetti Canta I Deus」(0:41)
  「Perpetua Lux I」(2:58)
  「M.A.」(2:00)
  「Si Tu Bene Valeas Ego Bene Valeo」(7:16)
  「Brukner L'Avversario Di Brus Li」(1:06)
  「Res Publica III」(7:30)
  「Deus Ex Machina」(7:45)
  「Dialegein」(9:34)
  「Sigla」(1:11)

(KRC 014)

 Equilibrismo Da Insofferenza

 
 

  98 年発表の第五作「Equilibrismo Da Insofferenza (偏狭な曲芸)」。 管楽器セクションを大きくフィーチュアし、フリー・ジャズ的な運動性と爆発力を強化したハチャメチャな大傑作。 第三作の作風をデフォルメして倍速/倍密にしたような展開を繰り広げる。 歌ものの数は減ったのだが、ピラスの存在感はまったく変わらない。 ハイテク・ハードロックにフリー・ジャズ調のアヴァンギャルドなプレイを突出させつつ、演奏は、次々予想を裏切ってどこまでも転げ落ちてゆく。 矢継ぎ早に折り重なってくる音の圧力は途方もない。 爆発的なテクニックでパワーとスピードを隆々と誇示する、ワイルドで知的な変態ハードロックとして頂点を極めた大傑作だ。 今回も 10 分以上の作品が目白押し。

  「La Sindrome Del Falso Amico」(0:05)「どっこいしょ」のようなイントロ。

  「Distrazione Infinita」(無限の分析)(10:32)超弩級の傑作。 管楽器セクションをフィーチュアしたしなやかなジャズロック。 即興も交えて全編ぐいぐいと押し捲りだが、特に、ギター・ソロと終盤でフィーチュアされるリズム・セクションがすごい。 ヴォーカルも色気全開である。 なんというか、ソロをフィーチュアしつつも悠然たる展開なのです。

  「Cosmopolitismo Centimetropolitano」(コスモポリティスモ・センティメトロポリタノ)(10:33) 凶暴なギター、パーカッシヴなオルガン、金切り声を上げるヴァイオリン、衝撃的なノイズを放つシンセサイザーらによるワイルドな超速三拍子ハードロック。 ピラスも絶叫しっぱなし。 演奏をリードし、変転のきっかけを作るのは、ギターである。 中間部では、エレクトリックなノイズを使ったフリー・フォームの演奏もある。 終盤のエキサイトはただごとでない。

  「Amori Difficili」(気難しい奴)(5:20)アコースティック・ギターとベースのデュオ。 現代音楽調、南欧風味、カントリー風味など多彩な表情を見せる。 フランコ・ムッシーダの「Peninsula」とならぶ佳曲。 現代イタリアの「ゲイリー・グリーンとレイ・シャルマン」。

  「Incomunicabilita」(通信不能)(11:20)コワれた感じのヴォーカルがたまらない AREA 風のハード・ジャズロック。トランペットが冴える。これぞ「ジャズロック」。

  「Equilibrismo Da Insofferenza」(偏狭な曲芸)(7:32)ソロ・ドラムスをフィーチュアした序章、バラードからメタリックなハードロックへと変貌する中盤、プレモリのミニムーグを思い出させるキーボード・ソロ。ギター、オルガンのリードで暴走するままに幕を引く。

  「Dove Non Puo'Esserci Contraddizione」(矛盾命題)(7:08)前曲で生じた GENTLE GIANT 風の渦巻くリフをそのまま引き継いで暴走。 ヴォーカルと器楽のバトルは LED ZEPPELIN 的。 それにしてもカッコいい演奏です。

  「Trot-Tronic」(トロット・トロニック)(3:13)ハンパないドラムス乱れ打ちとエレクトリック・ノイズ、ヴォコーダによるサイケデリック小品。

  「La Fine Del Mondo」(この世の終わり)(16:33)余裕たっぷりになめらかな歌心も発揮したジャズロック大作。 エレクトリック・ヴァイオリンも加わった変拍子ビッグ・バンドの展開は貫禄十分。 モダン・ジャズとサイケなハードロックの融合である。ラッパとギターが大爆発。


  驚異的なリズム・ブレイクと快速ユニゾンのカタルシス。 桁外れの暴走コンテンポラリー・テクニカル・ロックであり、最高に「変」な、文句なしの名盤。 次はどこへ走っていくのでしょう。

(KRC 020)


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