フランスのプログレッシヴ・ロック・グループ「CARPE DIEM」。 71 年の EP 録音を経て、75 年ドラムス、サックスが加入し、アルバム・デビュー。 ニ作を残し、79 年解散。 第三作も録音されたが未発表。 サウンドは、サックスがリードしギター、キーボードが伴奏するファンタジックなもの。 第一作ではヘヴィな演奏も見せるが、第二作ではよりドリーミーな曲調へと変化。
| Gilbert Abbenanti | guitars |
| Christian Trucchi | keyboards, vocals |
| Claude-Marius David | soprano sax, flute, percussion |
| Alain Berge | bass |
| Alain Faraut | drums, percussion |
75 年発表の第一作「En Regardant Passer Le Temps(時間牢の物語)」。
内容は、張り詰めた緊張の中をサイケデリックな色彩が流れてゆく、クラシカルなジャズロック。
イコライザやフェイズ・シフタ系のエフェクトを多用したエレクトリックな音は、ややチープな印象を与えるのだが、現実離れした世界を提示することには成功している。
サックス中心の演奏ながら、いわゆるジャズロック的なファンキーなノリやグルーヴ、ブルーズ感覚は皆無であり、クラシカルで丹念なアンサンブルが主である。
しなやかに流れるサックス、ロングトーンのヒステリックなギター、細かなドラム・ロールや 8 分の 6 拍子のリフなど、かなり KING CRIMSON を意識しているところもある。
ただし、独特のほの暗いファンタジーへの耽溺といった趣が、英国風の翳りやアイロニーとはややニュアンスが異なる。
決してテクニシャンではないのだが、思いつめたような緊張感と微妙な音のグラデーション配置が、味わいのある音楽を生んでいるようだ。
全体に、ゆるやかでレガートなうねりが続いてゆく。
「Voyage du non-retour」(3:51)CRIMSON 調の 8 分の 6 拍子のベース・リフの上でキーボード、サックス、ギターがシリアスなアンサンブル/ソロを繰り広げる。
スピーディかつ流れるような勢いがあるインストゥルメンタルだ。
短いながらシリアスな緊迫感がいい。
「Reincarnation」(12:53)クラシカルでドリーミーなメイン・ヴォーカル・パートと緊張感あふれるインストゥルメンタルを組み合わせた大作。
イントロは、エレピとフルートらによるクラシカルで愛らしいアンサンブル。
そしてメイン・パートは、エレピ伴奏でイコライジングでささくれだったヴォーカルがゆるやかに歌う。
インストゥルメンタル・パートでは、ギターとサックス、オルガンらが細い音符の糸をたどるような、レガートにして緊迫した演奏を見せる。
メロディは優しげなのだが、一種パラノイアックなテンションがあるのだ。
6 分半辺りで一段落し、やや即興風のサイケなアンサンブルへと進む。
ヴォコーダを通したようなモノローグとリリカルなギターが、渦を巻くようなオルガン(エフェクトでストリングス・アンサンブルに近い音になっている)とともに流れてゆく。
この 2 分あまりの緩徐パートを経て、再びメイン・パートへと回帰。
終章では、ギターとオルガンらが交錯する澱みをフルートが軽やかに拭い去り、エレピ、ギター、サックスらによる全体演奏が沸騰、ミステリアスなモノローグが幕を引く。
リリカルなイントロ、メロディアスなヴォーカル・パートが次第に緊張感あるインストゥルメンタルへと吸い込まれてゆく大作。
サックス、ギター、キーボードのハーモニーによるレガートで優美な流れを、硬質で細かなビートが切り刻み、もう少しゆき過ぎると苛ついてしまいそうな曲調を保つ。
リズムの甘さや平板な音響が生硬なイメージを与え、タイトロープをたどるような緊張を生んでいるのかもしれない。
終盤ハイ・テンションの演奏が、クライマックスを迎えて、揺らぎながらも爆発を繰り返すところがスリリングだ。
この独特のファンタジックな作風は、第二作へ引き継がれてゆく。
「Jeux du siecle」(10:12)ギターとエレピのアルペジオが静かに湧き上がるイントロダクション。
チューブラーベルズを思わせる密やかなオープニングである。
彷徨うようなフルートの先導で、演奏が動き出す。
ざわめくシンバル、つぶやくベース、ゆるやかに響くオルガン。
ベースのきっかけから、一気にサックスがリードする鋭い演奏が飛び出してくる。
サックス、ギターのリードでメロディアスなテーマが奏でられる。
続いて 2+3 拍子によるポリリズミックなアンサンブル。
即興風のプレイを重ねながら次第に演奏はまとまり、サックス、ギター、キーボードがテーマへと進む。
ギター・ソロはフリップとハケットの中間点。
なめらかなサックス、キーボードが伴奏する。
ドラムは今ひとつ甘いが、ベースのアクセントが効いている。
続いてエレピのソロ。
バイエルのような優しい演奏だ。
続いてオルガン。
こちらはなかなか軽やかだ。
キーボードのかけあいからギターのリフレイン、サックスのリードと目まぐるしく演奏は主役を変えて進む。
テンポは変化なく一直線だ。
サックスが主導権を握り力強く突き進むと、テンポをやや落としてギターが受けのフレーズを切なく奏でる。
再びサックス、ギターが走る。
再びギターによる受け。
フルートも加わりエレピとともにクラシカルな演奏へと変化する。
ドラムが再び加わり、力強い打撃でアクセント。
舞うようなフルートとおだやかなエレピ、渦を巻くようなキーボード。
驚いたことに密やかなヴォーカルが入ってくる。
フルートの夢見るようなオブリガート。
ヴォーカルを吸い込むように、ストリングス・アンサンブルが消えてゆく。
短いモチーフをラフに組み合わせたような大作。
自閉的なファンタジーと躍動するロックが錯綜し、眩暈がしそうだ。
中盤では、ソロもフィーチュアしたハイ・テンションの演奏が延々と続く。
一体感のある全体演奏は VdGG のインストゥルメンタル・パートにも通じるような気がする。
ただし、一貫した流れや構築性はあまり感じられない。
また、いわゆる即興演奏のような、瞬間のインスピレーションによるプレイのぶつかりあいではなく、緩やかに決められた流れにしたがってストックされた演奏を並べているようなイメージである。
場面ごとのおもしろさや迫力はあるのだが、全体を通した印象が今ひとつ薄い。
「Publiphobie」(9:54)1 曲目と同じくハードなギターとサックス、キーボードが一線になり、硬質なリズムにドライヴされるヘヴィ・チューン。
16 ビートのほとばしるようなアンサンブルである。
サックスが鮮やかなテーマを提示する。
ギターのトレモロやフルート、エレピが細かな起伏を刻むが、基本的には幅広のスペクトルをもつ音が轟々と流れ続ける。
3 分付近でいったん停止。
スローなヴォーカル・パートが始まる。
ソプラノ・サックスによるジャジーなオブリガート。
伴奏のギターもジャズ調である。
間奏はメランコリックなハードロック・ギター、そしてきらめくようなソプラノ・サックスのリフレイン。
一転音量が下がり、ギターとオルガンのリフレインが細かなモアレを織り成す。
ここから 3 連符により、リズムがなめらかさを増す。
エレピの 3 連リフレインにサックスがアクセントする。
再び密やかなリフレイン、そして再びサックス、ベースがリードするヘヴィな演奏へと高まる。
珍しくギターがハードに唸る。
3 連による緊迫したリズム。
サックスが迸る。
再び 2 拍子系へ変化し、ギターとサックスがパワフルにたたみかける。
ギターはかなりハードなパワー・コードを叩きつけている。
ブレイクをはさみ、緊迫感を高めるアンサンブル。
8 ビートに巧みに 3 拍子を織り交ぜている。
透き通るようなシンセサイザーによるアクセント。
サックスが最初のテーマを再現。
やがて全体がそのテーマへと重なり、あっさりと終わる。
ジャジーなサックスのテーマを軸に、強圧的な反復とレガートな全体演奏が、高くなり低くなりしながら延々と続く作品。
サックス、ギター、キーボードが追いかけあいながら進むさまは、他の楽曲よりと比べると、クラシカルというよりは初期のジャズロックというべきものだ。
明快な変化でメリハリをつけており、反復が多いわりには単調さはない。
ヘヴィなギターが新鮮だ。
聴き終えて初めに思い浮かんだ言葉は「幻想美」。
それもカラフルなファンタジーと、漆黒の闇が同居する奇妙な幻想美である。
耳に残るのは、フェイザーのかかったギターとサックスのクリアーな音だ。
淡々とした演奏ながらも音に厚みがあり、それなりの聴き応えがあるのは、やはりアンサンブルとして練られているのだろう。
1 曲目と最終曲で見られる、せわしなく追い立てる曲調とファンタジックに澱む場面のコントラストも効果的だ。
ヴィブラートを効かせたロングトーンのギターや、複合拍子でたたみかけるプレイは、KING CRIMSON のコピーで培ったものなのだろう。
特にドラムのプレイは、甘目の曲調をしっかり引き締めている。
専らヘタウマ的な味わいが主なのかもしれないが、個性的なサウンドであることは間違いない。
演奏よりも音の調合による微妙な色合いに魅力のある、インストゥルメンタル・ロックといえるだろう。
初期の KING CRIMSON を思わせる緊張感とリリシズムそして繊細な幻想性であり、ひょっとするとフランス的な CRIMSON 解釈なのかもしれません。
(FGBG 4122.AR)
| Gilbert Abbenanti | guitars |
| Alain Berge | bass |
| Alain Faraut | drums, percussion |
| Christian Trucchi | keyboards, piano, synthesizer, vocals |
| Claude M. David | soprano sax, flute, percussion |
| Gilles Bertho | sound |
| Yves Yeu | text |
76 年発表の第二作「Cueille le Jour(彩)」。
前作で見せたハードな面は影をひそめ、独自の世界が確立された。
ギターとキーボードの生み出す夢幻空間を、サックスが着実な歩みで切り開いてゆくさまには、息を呑むような美しさがあり、その耽美な世界の秩序を、小刻みなリズムが心地よい緊張感をもって維持している。
タイトル組曲は名作といえるだろう。
アナログ LP では B 面であった組曲は、本 CD では A 面になっている。
「Couleurs」(21:38)
キーボードとエフェクトが織り成すスペイシーなステージで、サックス、ギターが紡ぐファンタジックな物語。
どちらかといえば、音量やテンポの変化よりも、音、フレーズの組み合わせ(つまりアンサンブル)のおもしろさに力を注いだ作品である。
キュートでメロディアスなフレーズが群れを成し、さざなみのように、しだいに重なりあい高まってゆく展開に、わくわくさせられる。
変拍子も使いながら一貫して小刻みなプレイを続けるドラムスは、この独特のテンションの維持とともに、堅実な歩みの原動力となっている。
要所では重厚邪悪な表情も見せるのだが、どちらかといえば、愛らしくもクールなフレーズやアンサンブルに魅力があるようだ。
ほとんどインストゥルメンタルの大作ながらも、この内容ならば、比較的楽に音についていけるのではないだろうか。
また、ギターは、決してハイテクというわけではないが、ロングトーンを多用した丁寧なフレージングが魅力。
長いクレシェンドの果てにクライマックスを迎えたような、中盤の演奏もカッコいい。
サックスのリードも、いわゆるジャズ、ロック的なブロウとは異なる、メロディアスで端正な演奏が主である。
キーボード的な使い方といってもいいだろう。
各章の色の名前の通り、まさに音の「彩」に満ちあふれた名作だ。
全体に、クラシック、それも室内楽的なニュアンスのある演奏である。
同じくサックスを用いた CRIMSON 系の稠密な音世界ということでは、CERVELLO などとも共通するものを感じる。
もっとも CERVELLO の唯一作が「陰」なのに対し、こちらはまちがいなく「陽」ではあるのだが。
「Naissance」(3:22)
大曲のクライマックスを取り出したようなエネルギッシュな作品。
メロトロンを思わせるストリングス・シンセサイザーが冒頭から湧き上がり、ムーグとサックスのユニゾンによる緊迫したテーマが高鳴る。
前の大作の中盤を思わせる。
ドラムスが、積極的に力強い打撃を見せると、上ものがソフト・タッチでも表情が一変する。
最初から飛ばして、一気に盛り上り、そのまま消えてゆく。
インストゥルメンタル。
「Le Miracle De La Saint-Gaston」(3:38)
シンフォニックなバラード。
きわめてシャンソン風の歌を、多彩な器楽が支える。
ヴァースはアコースティック・ギターやフルートなどアコースティックな音で支え、盛り上がりとともにリズム、キーボードも加わってブリッジを彩り、サビは重厚な器楽で迫る、という常套手段ではある。
序盤/中盤のメロトロンのようなオルガンによる重厚なテーマや、リリカルなサックス、フルートなど、やはりかわいらしい初期 CRIMSON というイメージである。
一つ一つの楽器がしっかりと特徴を見せており、アレンジのセンスも、かなりのものだ。
「Laure」(2:45)
リズミカルなダンス・ミュージック風の作品。
イントロは、泡立つようなディレイを効かせたギターによるファンタジック、いやラテン、カリプソ風の演奏。
メイン・パートは、アコースティック・ギターがリズムを刻み、フルートとキーボード、サックスらが軽やかに舞い踊る、いわばライトな JETHRO TULL。
後半は、かなり無茶なギター・ソロ。
最後は、サックスがメロディアスなプレイで締める。
フェイザー系のエフェクトのせいでキレは悪いが、奇妙ににじむ音がファンタジックな効果を生んでいる。
いろいろな意味で、短いわりには印象は強烈だ。
インストゥルメンタル。
「Tramontane」(3:37)
2 曲目と同じく、1 曲目のクライマックス部分の変奏のようなインストゥルメンタル。
サックスとギターをフィーチュアし、モダン・ジャズのビッグ・バンド風の広がりと厚み、スリルをもって、疾走する。
緊張感と力強さがバランスしたカッコいい演奏だ。
スクエアで細かいドラム・ビートも本領発揮である。
イントロでは、ベースをフィーチュアしミステリアスな含みを見せるが、サックスによるテーマに導かれてみるみるうちに、ほんのり邪悪でジャジーな演奏へと進んでゆく。
「Divertiment」(3:56)
ピアノとサックスのみで綴られる、クラシカルなロマンあふれる作品。
序奏はメランコリックなピアノ・ソロ。
テーマ部は、サックスが加わり、厳かなテーマへと進んでゆく。
印象派とベートーベンがつぎはぎされたようなイメージである。
端正なピアノと温かみあるサックスが互いに高めあううちに、やがてドビュッシーを思わせるアンサンブルへ。
ユーモラスなピアノとサックスのやりとり。
サックスはジャジーなアドリヴも見せるのだが、不思議とジャズらしくない。
他の曲に比べると遥かにシンプルな内容だが、それだけにサックス、ピアノの力量がはっきりと分かる。
サックスのメロディに秘められた力強さ、豊かなピアノの表現はみごとである。
後半のピアノはどこかで聴いたような気がするので、ドビュッシー(子供の領分?)やサティの作品そのものかもしれません。
ボーナス・トラックは、「Couleurs」の第4部「Rencontre」の英語ヴァージョン。
(3:22)編曲が異なるのか、ここではメロトロンが使われているような気がする。
ファンタジックなサウンドを用いたジャズロック。
初期 KING CRIMSON 風の曲調にサイケなエフェクトをかけまくったような音である。
白眉は、このサウンド、演奏スタイルの集大成ともいえる組曲だろう。
ソフトなサウンドをサックス、ギターが貫く演奏は、音の感触とは裏腹になかなかタイトかつハードである。
硬めの音で敏捷なフレージングをするベースと、細かいリズムを叩き出すドラムスの存在も大きいだろう。
甘目の音、メロディが主であるアンサンブルを、しっかりと支えて起伏をつくっている。
また、サックスのプレイに、ジャズっぽさよりもクラシックのオーボエのような端正さ、上品さがあるところも興味深い。
全体に演奏テクニックよりも、音色と編曲のバランス感覚が優れた作品といえる。
フレーズはさほど込み入っていないのだが、それらが組み合わさったときの精緻な模様のような美しさはかなりユニークである。
前作で散見された露骨な CRIMSON のモノマネ部分が解消したのは正解。
ワンパターンには違いないが、そのパターンが優れている。
組曲以外にも、「Le Miracle De La Saint-Gaston」における CAMEL 風のストレートなロマンチシズムや、「Divertiment」におけるクラシカルなアンサンブルなど見せ場は多い。
フュージョンではなくあくまでファンタジックでクラシカルなジャズロックというべきでしょう。
名盤。
(KICP 2813)