CARAVAN

  イギリスのプログレッシヴ・ロップ・グループ「CARAVAN」。 68 年 WILD FLOWERS を母体に結成。 したがって SOFT MACHINE とは兄弟関係である。 サイケデリック・ロック全盛の中から、甘美なメロディと即興を交えたユニークなインスト、そしてふんわりしたポップ感覚でぬきんでてきたカンタベリー・シーンを代表するグループだ。 メンバー交代を繰返しつつも、70 年代を通してパイ・ヘイスティングス中心に活発にアルバムを発表した。 90 年代に入って再結成、アルバム発表やライヴ活動を行なっている。 2000 年 9 月の新ベスト・アルバムでは「9 フィート」のイントロが修正されてます。 2001 年現在 DECCA 盤のリマスター・リイシュー中。

 Caravan

 
Richard Coughlan drums
Richard Sinclair bass, guitar, vocals
Pye Hastings guitar, bass, vocals
Dave Sinclair organ, piano, vocals
guest:
Jimmy Hastings flute on 4

  68 年発表の第一作「Caravan」。 ビートの名残をとどめるサウンドに、乾いたサイケデリックな幻想と深いリリシズムの陰影を加えた、初期ブリティッシュ・ロックの佳品。 ロマンティックなオルガン・ロックとしては屈指の作品だろう。 ヘイスティングスの自己主張に比べてシンクレアはまだ一歩下がっており、テナー・ヴォイスを活かすには至らない。 ハーモニーはデイヴ・シンクレアも加えて三声で決める。 また、オルガンは珍しくレスリーも用いている。 60 年代らしい冷ややかな熱気を孕むすてきな音だ。 正直にいって CARAVAN らしさはまだ十分には現れていないが、さまざまな方向へと踏み出して自らを試しているような爽やかさは感じられる。 個人的に、ブリティッシュ・ロックは、DONOVAN のようなフォークおよび後期 THE BEATLES のサイケデリック・ロックから、ここを経て、KING CRIMSON のファーストへと進んでいったように思います。
   ジミー・ヘイスティングスを迎えた 4 曲目は名曲。 このフルート・ソロはあらかじめ用意したものではなく、録音時に着想して一発で決めたそうです。 マジカルな 5 曲目は、「I Am The Walrus」からプログレにつながってゆく瞬間が描かれている。 最終曲は、後の大作を暗示するドラマチックな力作。 プロデュースはトニー・コックス。 リチャード・シンクレア作曲の「Policeman」、「Grandma's Lawn」では、パイ・ヘイスティングスがベースを弾き、リチャード・シンクレアがギターを弾いているそうです。

  「Place Of Your Own」(4:01)
  「Ride」(3:42)
  「Policeman」(2:44)
  「Love Song With Flute」(4:10)
  「Cecil Rons」(4:07)
  「Magic Man」(4:03)
  「Grandma's Lawn」(3:25)
  「Where But For Caravan Would I」(9:01) 本曲の作曲について、ブライアン・ホッパーへの謝辞があります。

(HTDCD 65)

 If I Could Do It All Over Again, I'd Do It All Over You

 
Richard Coughlan drums, congas, bongos, maracus, finger cymbals
Richard Sinclair bass, tambourine, hedge-clipper
Pye Hastings 6 & 12 string guitars, acoustic guitar, claves
Dave Sinclair organ, piano, harpsichord
Brother James(Jimmy Hastings) sax, flute

  70 年発表の「If I Could Do It All Over Again, I'd Do It All Over You」。 オルガンをフィーチュアした長大なインストゥルメンタルやベース・ライン、管楽器のサポートなどによって独特なソフト・サイケデリック・テイストを確立した作品。 ツイン・ヴォーカルやメランコリックなメロディ・ラインに英国本流のビートポップのイメージを残しつつも、ジャズ的な演奏によるスリルが全体を引き締めている。 変拍子や中世風のメロディもすでに登場。 一方 A 面のメドレー終盤で見られるようなフォーク・タッチの幻想的な繊細さは、本作以降では珍しくなる。 ノーブルであまやかな味わいはまさに CARAVAN。 すでにキャラがたってます。 プロデュースはテリー・キングとグループ。

  「If I Could Do It All Over Again, I'd Do It All Over You」(3:05)
  「And I Wish I Were Stoned / Don't Worry」(8:12)
  「As I Feel I Die」(5:12)
  「With An Ear To The Ground You Can Make It / Martinian / Only Cox / Reprise」(9:51)
  「Hello Hello」(3:44)
  「Asforteri 25」(1:20)
  「Can't Be Long Now / Francoise / For Richard / Warlock」(14:17)
  「Limits」(1:32)

(SKLR 5052)

 In The Land Of Gray And Pink

 
Pye Hastings electric & acoustinc guitar
Dave Sinclair organ, piano, Mellotron, vocals
Richard Sinclair bass, Acoustic guitar, vocals
Richard Coughlan drums, percussion
Jimmy Hastings flute, tenor sax, piccolo
David Grinsted cannon, bell, wind

  71 年 6 月発表の第三作「In The Land Of Gray And Pink」。 サイケデリックながらもクールに抑制したサウンドと、奇妙な品の良さが摩訶不思議な雰囲気をつくる大傑作。 変拍子やユニークな和音の響きをシュールなファンタジーで包んだ、極上のプログレッシヴ・ロックである。 リチャード・シンクレアのなまめかしきテナー・ヴォイスと、デイヴ・シンクレアのオルガンを中心としたジャジーでアンサンブルが印象的だ。 「流れるような」とライナーにも書かれているオルガンは、甘く優しくいつしかリスナーの心にしっかりと根をはってゆく。 プロデュースはデヴィッド・ヒッチコック。

  ホルンによる長閑なイントロで始まる 1 曲目「Golf Girl」(5:00)はユーモラスにして切ない懐かしさでいっぱいの佳曲。 最高級の手ざわりをもつリチャード・シンクレアのヴォーカルとゆるやかなトーンのオルガンそして歌うようなメロトロン。 のんびりと暖かみある空気にあふれる演奏がときおり見せる鋭いきらめきがいい。 軽やかに舞い踊るピッコロも素敵だ。 サイケデリックでクレイジーな雰囲気とノーブルな表現がマッチした名曲である。 歌詞も洒落ている。 2001 年リマスター盤ではピッコロの存在感が強まっています。

  「Winter Wine」(7:35)。 12 弦アコースティック・ギターとヴォーカルによる中世トラッド風のテーマ。 一転リズム、オルガンのスタートとともにスリリングな演奏が動き出す。 息を呑む瞬間だ。 歯切れよく刻まれるリズムとうねるベースそしてソリッドなオルガンのトーン。 そして全ての中心にリチャード・シンクレアの切なく打ち沈むヴォーカルがいる。 伏せ目がちなのにクールな涼やかさをもつヴォーカルをリードに、一体感ある演奏はやがて憂鬱なままピアノが散りばめられ、軽やかなオルガン・ソロへと進む。 巧みに音色を変化させてはジャジーなアドリヴのコール・レスポンスを決める、エキサイティングな演奏だ。 ベースもスリリングに絡んでくる。 オルガン・ソロは歌メロの再現を経て、ドラムスとも抜群の反応を見せてゆく。 ドラム・フィルがいい感じだ。 軽やかなビート感を持ったままヴォーカルが帰ってくる。 柔らかく響き渡るヴォカリーズそしてあくまでスリリングに突き進むインストゥルメンタル。 心地よい停滞からファンタジックな疾走へと鮮やかに変化する名曲。 オルガンが大きくフィーチュアされている。 しかし、一番の魅力は、シンクレアの声とさまざまな情感を切なさでまとめ上げたようなメロディ・ラインだろう。 2001 年リマスター盤ではエンディングのオルガンの余韻をたっぷり味わうことができます。

  「Love To Love You」(3:03)はパイ・ヘイスティングスのヴォーカルによるカントリー・フレイヴァーある小品。 小気味よいギターのコード・ストロークとピアノが刻むビート感そして歌メロはやはり THE BEATLES 直系だろう。 パーカッションの音もユーモラスだ。 ごく当たり前のポップなラヴ・ソングなのだが、じつは何気ない 4 分の 7 拍子。 パイ・ヘイスティングスのヴォーカルは声量・声質ともにリチャード・シンクレアには及ばないがピュアな瑞々しい味わいがある。 この曲でもサビのコーラスのバッキング部分やエンディングのエピローグ風のフルートがとても可愛らしい。

  「In The Land Of Gray And Pink」(4:58)。 フォーク、SSW 調のアコースティック・ギター・デュオによるオープニング。 再びイメージは THE BEATLES である。 一転して 3 拍目にアクセントするリズムが独特のひっかかるようなノリを生み出し、シンクレアのなめらかなヴォーカルが不思議な物語をささやき始める。 またもや世界は甘くシュールな色彩をもって浮かび上がる。 スタカートを効かせ、ほどよく抑制した演奏とヴォーカルの絶妙のバランス。 間奏はリリカルなピアノ。 ファズ・ベースのトレモロと唇をブクブクいわせるコミカルなスキャット。 続いてファズで毛羽立ったオルガン・ソロ。 デイヴ・シンクレア独特のプレイだ。 サイケなサウンドを基調に、アクセントの強い R&B 風のリズムとメロディアスなヴォーカルのコンビネーションが独特の雰囲気を生む佳曲。 シンクレアはジャジーで敏捷なメロディにおいても鮮やかな歌唱表現を見せる。 ファズを用いた音つくりやブクブクいうヴォーカルなど小技も効いている。 歌詞はひたすらシュール。

  「Nine Feet Underground」(22:40)は旧 B 面を占めた超大作。 ドラマチックなオルガンを中心にスリリングなソロ、インタープレイ、センチメンタルなヴォーカル・パートを交え、夢の国の丘陵をいつまでものぼりくだり旅するようなすてきな曲である。 長いインストゥルメンタルが印象的なオルガンのリフで締めくくられ、SOFT MACHINE を思わせるようなオルガン・ソロを経た後に待っているのは、一種の衝撃といってもいいだろう。 静かに歌い出すリチャード・シンクレアの声はそれほど心にすっと入り込む。 初めて聴いたときにはこのヴォーカルを迎えた途端、もうとっくの昔に忘れてしまった思い出がいきなり甦ってきて涙が出そうになってしまった。 そしてエンディングに向かってひた走る「Nine Feet Underground」の旅に僕も一緒に連れていってほしいと本気で願ってしまった。
  うねるようなビートに支えられたオルガンのリードで繰り広げられる、スリリングなメドレー・ナンバー。 サックス・ソロ、印象的なオルガンやギターのリフ、パイ・ヘイスティングス、リチャード・シンクレアそれぞれのヴォーカル・パートをはさみ 20 分にわたって続く一大スペクタクルである。 あなたの心の弦を弾いて甘く哀しい音をたてるにちがいない。


  こんなにポップで切なくてけれどもしたたかでクールなサウンドは初めて。 リチャード・シンクレアのヴォーカルとデイヴ・シンクレアのオルガンはまさに絶品。 甘口なのにスリルも感じさせるまるでハッカのキャンディみたいな演奏だ。 そして最後の大作は、サイケデリック・ロックの傑作であるとともに CARAVAN がまぎれもなく SOFT MACHINE の兄弟であることを示している。 こんなにセンチメンタルになったのは THE BEATLES 以来のこと。 名作。

(POCD-1834 / DERAM 8829832)

 Waterloo Lily

 
Pye Hastings guitar, vocals
Steve Miller keyboards
Richard Sinclair bass, vocals
Richard Coughlan drums, percussion
guest:
Lol Coxhill sax
Jimmy Hastings flute, tenor sax
Phil Miller guitar
Mike Cotton trumpet

  72 年発表の第四作「Waterloo Lily」。 デイヴ・シンクレアが MATCHING MOLE 参加のため脱退し、スティーヴ・ミラーが加入。 おなじみのジミー・ヘイスティングスに加えてロル・コックスヒルやフィル・ミラーなど、カンタベリーのジャズ系ミュージシャンをゲストに迎えている。 ちなみにフィル・ミラーとリチャード・シンクレアは、この後すぐに HATFIELD AND THE NORTH を結成する。 プロデュースはデヴィッド・ヒッチコック。
  前作に比べ、インストゥルメンタルにおけるジャズ色がぐっと拡大する。 リード・ヴォーカルは 1 曲目以外は全てヘイスティングスによる。

  1 曲目「Waterloo Lily」(6:47)は、唯一シンクレアがヴォーカルをとるナンバー。 あいかわらずの美声テナーと力強さもあるストレートなメロディ・ラインが印象的。 バッキングは R&B 風のハードなギターとエレピのコンビであり、間奏もブルージー。 ぐっと引く部分でも、遠くサックスが鳴るとブルース・フィーリングに満ちたエレピの演奏が続いてゆく。 ファンキー調とシンクレアのノーブルな声質の微妙なさじ加減がいい感じだ。

  2 曲目「Nothing At All」(10:25)は、ジャジーなエレピとブルージーなギターのコンビネーションで始まるインストゥルメンタル・ナンバー。 パイのワウ・ギターを引き継ぐフィル・ミラーのギターもジャズ・テイストたっぷりである。 エレピ主体のプレイはスティーヴ・ミラーの持ち味のようだ。 サックスも加わって繰り広げられる知的なジャズ・セッションである。 「It's Coming Soon」 は、モダン・ジャズ調のピアノ・ソロから始まるスローで美しいナンバー。 HATFIELD AND THE NORTH が演りそうな曲である。 一転シャープな 8 ビートへと変化し、ピアノ、オルガンとギターのソリッドな音によるスリリングなジャズロック・アンサンブルが続いてゆく。 ベースのリフも切れ味鋭い。 エレピとワウ・ギターのユニゾンから激しい決めが連発、再び最後に「Nothing At All(Reprise)」のブルーズ進行へと戻ってフェード・アウトする。 変化に富んだジャズロック・インストゥルメンタル。 全体にジャズ風味が強い。 またドラムだけはあまりジャズ風でなくシンプルなロック・ドラムなのもおもしろい。

  3 曲目「Songs And Signs」(3:39)はヘイスティングスの密やかなヴォーカルと、コーラス、ギター伴奏がソフトにまとめられたグルーヴィなナンバー。 ポップな歌メロと伴奏・間奏のジャジーなエレピの取り合わせが新鮮だ。 アコースティック・ギターのコード・ストロークはじつにフレッシュだ。 シンクレアのオブリガートが切ない。 ハーモニーの雰囲気などから THE BEACH BOYS のイメージも。

  4 曲目「Aristocracy」(3:03)は、カントリー・フレイヴァーある CARAVAN らしいストレートなナンバー。 ここでいうカントリー・フレイヴァーとは、THE BEATLES の「All My Loving」である。 前作の「Love To Love You」から続く、ヘイスティングスのヴォーカルによる典型的な作品だ。 エレキギターとアコースティック・ギターによる歯切れよいコード・ストローク、そして間奏のワウを効かせたオルガン、さらにはドラムもフェイザーで処理されており、細かいところへ配慮が行き届いている。 リズミカルでファンタジックな作品だ。

  5 曲目「The Love In Your Eyes」(12:31)は得意のオムニバス大作。 劇的なオーケストラの降臨。 そして哀愁のストリングスを背景に切ないヘイスティングスのヴォーカルが流れてゆくオープニング。 ギターが静かに鳴る。 タイトなドラミングが立ち上がりストリングスも追いかける。 ビートの力を得てヴォーカルもエネルギッシュに歌いだす。 オープニング・テーマを再現する間奏のオーボエ・ソロは透き通るように美しい。 ストリングス。 再びリズム、そしてヴォーカル・パートに続いてワウ・ギターとストリングスが軽やかにせめぎあう。
  8 分の 6 拍子へとリズムは変化しフルートの華麗なソロが舞い始める。 「To Catch Me A Brother」だ。 ブラスによる強烈なアクセント。 そしてエネルギッシュな演奏を支える鮮やかなベースのフレージング。 狂おしくスケールを上下するフルートに煽られるようなスリリングなアンサンブルである。 エレピのコード。 再びブラスが切り込みフルートはいよいよエネルギッシュに吹きまくりブラスに対抗する。
  8 拍子に戻り、テンポも落ちつきを見せる。 そしてギターとエレピがマイナーのリフを刻み出す。 「Subsultus」である。 エレピ伴奏でジェットマシーン風のギター・ソロ。 ヘイスティングスのプレイはフレーズよりも音色の工夫が面白い。 オルガンのような音だ。 生音に近いギターも重なってくる。 小気味よい演奏だがややブルージーな雰囲気が強まる。 ギターのリフレインが高まる。 エレピの静かなリフレインを経てソロへ。 長いディレイを用いた一人ニ重奏がおもしろい。 エレピ・ソロは次第にジャズ色を強めファンキーに跳ね始める。 ワウ・ギターのバッキングが聞こえる。
  すっとヴォリュームが下がるとエレピが余韻を残し、「Debouchement」。 憂うつな決めの繰り返しに合わせてヘイスティングスがセンチメンタルに歌う。
  ワウ・ギターのコード・カッティングが始まると「Tilbury Kecks」。 エレピのバッキングでブルース・フィーリング一杯のギター・ソロが入り、すぐにエレピとギターのユニゾンへとまとまってゆく 。 思わせぶりなブレイクを経てドラムのピックアップそして再びワウ・ギター・ソロ。 バッキングでもファンキーなプレイが続く。 ドラムのパターンも面白い。 フェード・アウト。
  クラシカルなオーケストラとの共演を経て、センチメンタルなメロディを配しつつ、ジャズロック調のスリリングな演奏が続いてゆく。 ジャズ、ブルーズと微妙な表情の変化を見せる演奏が楽しい。 特に中盤以降のシャープな 8 ビートで走り続ける演奏は、難しいことをしなくてもカッコいいという経済性を備えたロックの名演である。 ヘイスティングスのギターとミラーのエレピに加え、前半のフルートもすばらしい。

  6 曲目「The World Is Yours」(3:41)は、大作のエピローグのような優しいメロディ・ラインのヴォーカル・ナンバー。 軽快なテンポと甘いメロディ・コーラス。 リズミカルなアコースティック・ギターの伴奏が気持ちよい。 やさしくてちょっぴり切ないサヨナラである。


  スティーヴ・ミラーのエレピ中心のプレイやゲストのおかげでジャズ色が拡大し、ソロとともに阿吽のインタープレイも充実した作品。 ジャズ指向はオープニング曲や二つの大作に顕著である。 CARAVAN がジャズロックなのだろうかという疑問に対する一番簡単な答えは、このアルバムだ。 そして注目は 5 曲目の大作である。 サイケデリック・ロックから出発してジャズに身を委ねつつ、遥かに高い到達点を目指す心意気が凝縮した作品である。 もちろんドラマチックな大作一本槍でなく、センチメンタルなポップ・フィーリングにあふれたヴォーカル・ナンバーも取り揃えており、アルバムとしてのバランス確保も巧みである。 前作のようなシュールでサイケなファンタジーという趣は消えたが、技巧的で音楽の幅の広がりを感じさせる作品となっている。 やや地味なのが残念。 スティーヴ・ミラー氏は 98 年に逝去されました。ご冥福を祈ります。

(DERAM 820 919-2)

 For Girls Who Grow Plump In The Night

 
Pye Hastings guitar, vocals
Dave Sinclair keyboards
John G.Perry bass, vocals, percussion
Richard Coughlan drums, percussion
Peter Geoffrey Richardson viola
guest:
Tony Coe clarinet, tenor saxJimmy Hastings flute solo, conduct
Tommy Whittle clarinet, tenor saxHarry Klein clarinet, baritone sax
Pete King flute, alto saxBarry Robinson flute, piccolo
Henry Lowther trumpetChris Pine trombone
Rupert Hine A.R.P synthesizerFrank Ricotti conga
Jill Pryor larynxPaul Buckmaster electric cello

  73 年発表の「For Girls Who Grow Plump In The Night」。 デイヴ・シンクレアが復帰するも、今度はリチャード・シンクレアが脱退、そして新メンバーにベースのジョン・ペリー、ヴィオラのジェフリー・リチャードソンを迎える。 特にリチャードソンは、この後の CARAVAN を音楽的に支える重要人物となる。 ヴィオラが入った分だけデイヴ・シンクレアのキーボードの出る幕が減るのではと危惧したが、最終曲にみごとな見せ場をつくってくれている。 一方、パイ・ヘイスティングスはほぼ全作品の作曲を担当し、ハイトーン/ファルセットを活かしたリード・ヴォーカルでも活躍する。 どうやらグループの主導権は彼の手に収まったようだ。 作品は、管弦楽を含めた多彩なサウンドを駆使し、明快で親しみやすいフレージングによる器楽ソロをフィーチュアした贅沢なポップスである。 ビートポップスにジャズ的な即興ソロ・パートを盛り込んだアプローチという点で、ジャズロックの一つの潮流といってもいいだろう。 ゲストもジャズ界のミュージシャン中心に豪華。 プロデュースはデヴィッド・ヒッチコック。

  前半はギターとヴィオラがカントリー・フレイヴァーあふれる演奏を見せる。
  1 曲目「Memory Lain, Hugh」(5:00)。 ギターによるあっと驚くカントリー調のソリッドなリフとコード・カッティング。 クールなヴォーカルがカッコいい。 リズミカルな曲調をヴィオラがなめらかに潤す。 カントリー・テイストはギター・リフに名残をとどめ、次第にデイヴ・シンクレアのオルガンとエレピ、管楽器の繰り返しが CARAVAN サウンドに染めあげてゆく。 エア・ポケットのように静かなブリッジでは、フルートが大きくフィーチュアされる。 なめらかなヴィオラの紹介を経て、グルーヴィなキーボード・ソロ、そして、その熱気を抑えるようなフルートの再現。 最後は、ドラムスを強調した熱っぽいバンド演奏とフルートの乱舞が重なり合い、ヴィオラも加わって大見得を切る。 管楽器のゲストも豪華絢爛だ。
   余韻を断ち切って、軽快に「Headloss」(4:19)へメドレー。 再びカントリー・フレイヴァーあるリズミカルな作品だ。 地味な声質のヘイスティングスのヴォーカルは、リズミカルな曲調でこそ活きる。 リチャード・シンクレア脱退を乗り切るための作戦は、大きく外れてはいない。 リラックスした歌メロと軽快でほんのりロマンティックな展開が心地いい。 コンガが調子よく入ってノリノリの演奏が続く。 ギターとヴィオラによる小気味のいいかけあい。 ヘイティングスのギターはクランチなフレーズをきっちり決めており、本人の謙遜のわりにはかなりの腕前である。 ヴィオラが口火を切り、カントリー調のギターとの軽やかなかけあいを続けながらエンディングへ。 ポップでリズミカルなロックンロールにぜいたくな管楽器のアレンジを施したメドレー作品。 ギター、オルガン、ベース、ドラム、ヴィオラまで、全メンバーのプレイがしっかりフィーチュアされている。 管絃のアレンジは、ジミー・ヘイスティングス。

  2 曲目「Hoedown」(3:10)。 再びヘイスティングスによるカントリー調ギター・リフがドライヴするアップテンポのポップス。 軽快で歯切れのいい曲調は 1 曲目に酷似するも、パーカッションも加えたリズムは軽やかな 8 分の 7 拍子である。 ヴォーカル・パートは二声のコーラス。 (一人多重録音かペリーとヘイスティングスか?) 間奏は、フィドル風のヴィオラ・ソロをたっぷり。 パーカッションとともにハンド・クラップも入って、追い立てるようなスピード感を演出している。

  3 曲目「Surprise, Surprise」(3:45)。 優美なメロディによるのどかで愛らしいバラード。 ヴィオラのゆったりしたメロディと敏捷なベースがヴォーカルを守り立てる。 さざめくようなエレピの伴奏もいい感じだ。 コーラスはここでもばっちり。 サビのファルセットはこの曲にピッタリだ。 ヴォーカルの甘さに対してリズム・セクションは非常にタイト。 後半に向かうにしたがってヴィオラがどんどん盛り上ってゆく。 やや不自然なフェード・アウト。 このリード・ヴォーカルはペリー?
  ここまでの曲に共通するのは、カントリー調のメロディ楽器を支えてドラムスが一貫して手数多くパワフルなプレイを見せており、全体のドライヴ感を保っている点である。

  4 曲目「Cthlu Thlu」(6:10)。 珍しくヘヴィで邪悪な表情を見せる作品。 冒頭のかすれるような音はテープ処理だろうか。 スペイシーなエフェクト音が飛び交い、対話調のヴォーカル(ヘイスティングスとペリー)による不気味なムードが立ち込めるかと思えば、突如転調、明るくソウルフルなヴォーカルとクラヴィネットが飛び出して R&B 調に変化するなど、素っ頓狂な展開を見せる。 再び暗のベース・パターンそしてヴィオラがリードする明と移動するが、結局三度ヘヴィな曲調へ。 ヘヴィに刻まれるギター・リフがドライヴする場面は、CARAVAN には珍しく、攻撃的でダークなプログレ調である。 深いエコーの澱みで、さまざまな音がぐるぐる渦を巻いている。 次第に浮かび上がるは、ブルージーでジャジーなオルガン・ソロ。 ヘヴィなギターとオルガンが熱っぽく絡む。 一転テンポも上がり、再び軽快なロックンロールへ。 軽やかなサックスも聴こえる。 最後は、ダークなベース・リフを思い切りリタルダンド、不気味な余韻を引っ張って終る。 いかにもプログレらしい(「Abbey Road」の A 面風といってもいいかもしれない)凝った曲作りとひねりがあるヘヴィ・チューン。 ただ明るいだけのカントリー・ナンバーに食傷しかけると、ちゃんとこういう曲が用意されている。

  5 曲目「The Dog, The Dog, He's At It Again」(5:53)。 タイトルと合わないが、ジャジーで胸キュンのラヴ・ソング。 コーラスで歌うメロディが切ない。 ヴォーカルをなぞるエレピとヴィオラが暖かい。 間奏は、珍しく。デイヴ・シンクレアによるメロディアスなシンセサイザー・ソロ。 さまざまな音色をふんだんに用いた贅沢なポップスだ。 ねばっこいベースの動きもみごと。 2 回目の間奏ではすっかりブルージーな曲調になり、湧き上がるシンセサイザー・ソロ。 ハンド・クラップがおもしろい。 そして、決めの連発とヴィオラのオブリガート。 再び一転して甘いコーラスのヴォーカル・パートへ。 そして 60 年代っぽい追いかけコーラスが繰返される。 甘く切ないのにどこかクールなのは、ヘイスティングの声質によるのだろうか。 10CC を思わせる英国風のスウィートなポップスへジャジーな器楽を持ち込んだ、CARAVAN の典型スタイルの名曲。 シンセサイザーの音がいい。

  6 曲目「Be All Right」(6:38)。 ヘリコプターの爆音のような SE から始まり、ギターとヴィオラ、チェロのユニゾンによるリフがドライヴ感を高めるハードなオープニング。 シンプルな繰り返し主体のヴァースは、ルパート・ハイン辺りを思わせる王道ポップス調である。 リード・ヴォーカルは、おそらくペリー。 特に、サビのメロディがチープである。 まるで 70 年代後半から 80 年代の作品のようだ。 ギター・ソロは意外なほど激しい。 弦楽器がドライヴするハード・チューンというのも、意表を突く試みである。
   しかし、「Chance Of A Life Time」で雰囲気は一転。 ヴィオラとアコースティック・ギターによる物憂く沈んだ演奏とコンガの響きに支えられて、ヘイスティングスは甘くひそやかに歌う。 バラードである。 エレピが加わると、西海岸の涼しげな空気が曲調を軽くする。 続いて、悩ましく憂鬱なヴィオラ・ソロ。 バックは、ワウ・ギターのカッティング。 最後は、アコースティック・ギターとヴィオラ、エレピに彩られたヴォーカル・パートで静かに終る。 翳のあるポップスという点では、CAMEL に通じる作風である。

  7 曲目「L'Auberge Du Sanglier」(9:46)。 管弦楽を大きくフィーチュアしたオムニバス風の大作。 悩ましきヴィオラとアコースティック・ギターの爪弾きによる神秘的な序章。 ヴィオラはなめらかな音色で存在感をたっぷりアピールしている。 爆音を合図に、10+9/16 拍子のリフがドライヴするスリリングな大作「A Hunting We Shall Go」が始まる。 パワフルにテーマを刻み込むと、まずは、切れ味鋭いオルガン・ソロ、そして激しいギター・ソロからヴィオラのソロへ。 ヴィオラは 6+7 拍子の第二テーマを提示、それが全体を制すると、一気に静けさが帰ってくる。 美しいピアノの調べに導かれて、遠い潮騒のように、静かにオーケストラが始まる。 「Pengola(ジョン・G・ペリー作) / BackwardsSOFT MACHINESlightly All The Time」より)」だ。 ゆるやかな起伏をつけながら、次第に盛り上がってくるオーケストラ。 シンセサイザーとエフェクトされたオルガンが管絃の調べから浮き沈みしながら、次第にクライマックスへと近づいてゆく。 そして、管絃とともに「A Hunting We Shall Go」がエネルギッシュに再現される。 ストリングスに交じって響いてくるオルガンのなんとカッコいいこと!。 最後は爆音で全てが消えてゆく。 オーケストラ・アレンジは、マーティン・フォードとジョン・ベル。


  カントリー・テイストのポップ・ロックを中心に多彩な芸域の幅を見せる佳作。 アレンジに工夫を凝らしたポップスにジャズロック的な逞しい演奏力を結びつける作風は完成の域にある。 ヘイスティングスの作曲の妙は、各プレイヤーの演奏力を活かすという点に集約されるので、リチャードソンはそういう戦略にぴったりの人選だ。(マルチプレイヤーぶりは次作以降で十分に生かされる) 前半のポップ・テイストがやや単調になりかけたところで、ミステリアスなヒネリを加え、最後の大作をぶつけて一気に幕を引く。 さて、複数の作品をつないで一つにする手法は、THE BEATLES の「A Day In The Life」や「You Never Give Me Your Money」辺りが始まりのようだが、本作品でもその方法がうまく使われている。

(DERAM 820 971-2)

 Caravan & The New Symphonia

 
Pye Hastings guitar, vocals
Geoff Richardson electric viola
Richard Coughlan drums
John G.Perry bass, vocals
Dave Sinclair electric piano, organ, synthesizer

  74 年発表の「Caravan & The New Symphonia」。 CARAVAN 初のライヴ・アルバムは、管絃オーケストラを率いた作品である。 バック・コーラスやオーケストラとバンドの間の張り詰めた一体感は申し分なく、ライヴとしては屈指の内容といっていいだろう。 タイトな演奏に浮かび上がる独特の甘さや緩やかさなど、すべての音がいかにも CARAVAN らしく、そこへさらにライヴ独特の臨場感と拡大されたダイナミクスがある。 オーケストラとバンドの共演は数多あれど、本作品は、その試みの稀有の成功例の一つだろう。 バック・コーラスにリザ・ストライク、サックスとフルートにジミー・ヘイスティングス、そしてパーカッションにモーリス・パートなど、おなじみの顔も見える。 最終曲の前に入るパイ・ヘイスティングスの英国訛りの MC に思わず頬が緩みます。 新曲が三曲。 プロデュースはデヴィッド・ヒッチコック。 1973 年 10 月 28 日英国ドルリーレーン王立劇場にて収録。 2001 年のリマスター盤はライヴ全曲(第一部はバンドのみの演奏で、第二部からがオーケストラとの共演)を収録した決定盤。

  「Introduction by Alan Black」(1:01) MC によるイントロダクション。

  「Memory Lain, Hugh / Headloss」(9:57) LP 未収録。前作より。ヘイスティングスのギターとリチャードソンのヴィオラによるかけあいがカッコいい。

  「The Dog, The Dog, He's At It Again」(6:35) LP 未収録。前作より。ヴォーカルはペリー。

  「Hoedown」(3:55) LP 未収録。前作より。第一部はここまで。

  「Introduction」(6:55)サイモン・ジェフズによる新曲。ここから第二部。

  「Mirror For The Day」(4:19)新曲。

  「The Love In Your Eye」(12:02)四作目より。

  「Virgin On The Ridiculous」(6:53)新曲。

  「For Richard」(13:48)二作目より。

  「A Hunting We Shall Go」(10:33) LP 未収録。前作より。

(K16P-9062 / 8829692)

 Cunning Stunts

 
Pye Hastings guitar, vocals
Dave Sinclair keyboards
Mike Wedgwood bass, vocals, conga
Richard Coughlan drums
Geoff Richardson viola, guitar, flute

  75 年発表の「Cunning Stunts」。 ジョン・ペリー脱退後、ベースとヴォーカル担当にマイク・ウェッジウッドを迎えた DERAM 最後の作品。 前半ポップ・チューンそして後半に大曲メドレーをすえたアルバム構成は、すでに自家薬籠中の技である。 サウンド面の特徴は、オープニング 2 曲で示されるような優雅なブリティッシュ・ポップ本流の味わいだろう。 10CCWINGS など THE BEATLES の流れを汲む一系統なのだ。 新加入のウェッジウッドは、ベース以外にもオーケストラ・アレンジやムーグをこなしている。 もちろんリチャードソンもヴィオラ、ギターで大活躍。 プロデュースはグループとデヴィッド・ヒッチコック。 ジミー・ヘイスティングス氏はクレジット以外にも(当然のように)フルートで活躍。

  1 曲目「The Show Of Our Lives」(5:48)。 ストリングスの海に揺られるノスタルジックかつスペイシーなナンバー。 ゆったりと波打つようなピアノによるイントロダクション。 フレットレス・ベースのグリッサンドで完全にノック・アウトである。 なんて優美なサウンドなんだろう。 そして誰かに抱かれているようにゆったりとスウィングするメロディ。 歌詞もすてきだ。 いつのまにかストリングスに抱かれて、満点の星空を翔んでゆくのだ。 胸いっぱいになってしまう、すてきなオープニング・ナンバーである。 カントリー・フレイヴァーあふれるギター・ソロはリチャードソン。 ヴォーカルはウェッジウッド。 「I'm Not In Love」でしょうか。

  2 曲目「Stuck In A Hole」(3:10)。 ギターのコード・カッティングが小気味いい、ポール・マッカートニーばりのポップ・チューン。 パーカッションも入った調子のいいアップ・テンポの作品だ。 決めの追いかけファルセット・コーラスに胸キュンである。 間奏はヴィオラとウェッジウッドの操るブラス風の愛らしいムーグ。 軽やかなポップン・ロールだ。 ちょっと伝法に叩き飛ばすリズムも洒落ている。 「Junior's Farm」でしょうか。 野卑ではない DOOBIE BROTHERS という感じもあり。

  素朴なヴォーカルが不器用な男の愛の歌を思わせる 3 曲目「Lover」。 (5:07)メロディからストリングス、ピアノの使い方まで、ジョージ・マーティン直系の正統ブリット・ポップのバラードである。 ゆったりと優しげな曲だ。 ヴォーカルにそっと寄り添う控えめなピアノがいい味わいだ。 間奏の短いギターとヴィオラのユニゾンもぐっと抑え目でいい。 ストリングスをたっぷり使ったこの曲調では歌までうまいといやみだが、素朴なヴォーカルのおかげでとてもいい感じにまとまっている。 逆に最後のヴィオラ・ソロ、ストリングスは美しいのだが、やや大仰というかベタ過ぎてちょっといやみ。 リード・ヴォーカル、ストリングス・アレンジはウェッジウッド。 「Lover」と単数のときは実は女性からみた男の恋人というニュアンスだそうです。

  4 曲目「No Backstage Pass」(4:32) メランコリックななかにジャジーなクールさをもつ、弾き語り風のバラード。 前曲のストリングスがそのまま続いてイントロとなってゆく。 さすがにヘイスティングスのヴォーカルは甘くはなくてクール。 そして、秋風のようなメロディと伴奏のストリングスがまた英国風である。 エレクトリック・ピアノによるさりげなくもジャジーな味つけは、サビにおけるグルーヴ感をしっかり用意する。 後半のサビに続くスリリングなギター・ソロは、おそらくリチャードソンだろう。 最後は、再びストリングスに支えられた憂鬱な調子へと帰ってゆく。

  5 曲目「Welcome The Day」(4:02) R&B テイストたっぷりのファンキー・チューン。 CARAVAN としては、異色作といっていいだろう。 元来ソフトな声質らしいウェッジウッドが、無理やりパンチを効かせ、派手さのないドラムスもパーカッションをフィーチュアして細かなリズム・キープを見せる。 ヴィオラがやや浮き気味なのは、R&B にヴィオラという取り合わせが珍しすぎるせいだろうか。 うねるようなワウ・ギターとエレピのプレイなど、まさしくソウル・ミュージック、R&B なのだが、脂ぎらないヴォーカルとの取り合わせが、いいのか悪いのか分からない。 そんななかでシンクレアのムーグ・ソロが、SOFT MACHINE 的な知性を感じさせる。

  旧 B 面は得意のメドレー大作「The Dabsong Conshirtoe」(18:02)。 ギターのアルペジオに導かれて、うっとりするほど美しいメロディの「Mad Dabsong」が始まる。 ムーグのテーマと歌メロが、なんともノスタルジックな名作だ。 伴奏はおちついたピアノのアルペジオと、木管楽器のようなムーグのオブリガート。 アコースティック・ギターはリチャードソン。
   そのままノスタルジックなメイン・テーマを引き継ぎ、「Ben Karratt Rides Again」へ。 すぐに、クランチなギターがカッコいい、ハードなタッチのロックンロールへと変化する。 ここでも間奏/オブリガートにムーグ・シンセサイザーが存在をアピール。 エレクトリック・ヴァイオリン、シンセサイザーらによるテンション高いインストゥルメンタルが続いてゆく。 ソウルフルな盛り上がりだ。
   再び 1 曲目のノスタルジックなヴォーカル・テーマが再現、さざめくストリングスとともに「Pro's And Con's」へと進む。 ギターによるハードなリフとブラス・セクションが冴える、ハードなロックンロールだ。 早口のヴォーカルは、ポール・マッカートニー風。 独特のトーンのオルガン、エレクトリック・ヴィオラと続くコール・レスポンス風のソロ合戦もカッコいい。 「ロッキン・コンチェルト」という邦題のイメージは、ここら辺りからきたのだろうか。 ブラス・アレンジはジミー・ヘイスティングスとシンクレア。 指揮もヘイスティングスだそうだ。
   ここからインストゥルメンタル・ナンバーが 2 曲。 まずは、ドラマチックなアンサンブルが一気に高まり、オルガン、シンセサイザー、フルートが印象的なメロディを散りばめる小品「Wraiks And Radders」。 ジョージ・マーティンを思わせる音作りである。 そして、モダン・ジャズ調のソロ回し大作「Sneaking Out The Bare Quare」。 ジャジーなギター伴奏に支えられたフルートによるソフトなテーマ。 ここから、エレクトリック・ピアノ、ギター(リチャードソンによる)、ムーグ、ヴィオラとソロが続いてゆく。 ヴィオラ、ムーグの絡みはブラス・セクションに乗せられて盛り上がる。 それにしても、デイヴ・シンクレアのキーボードの音に対するセンスはかなりのものだ。 最後は再びフルートによるテーマ。 思わせぶりなブレイクを経て大団円「All Sorts Of Unmentionable Things」。 「Hoedown」を思わせるカントリー調ギターのコード・ストロークが秩序をキープ、ストリングスやヴィオラらがしっかり寄り添い、力強い隊列を成してゆく。 ここでもブラス・セクションが強烈に後押し。 リフのバックでは、様々な SE がミュージック・コンクレート風に散りばめられ、交錯してゆく。 次第に第 1 曲「The Show Of Our Lives」が他を圧倒して感動のリプライズ、そしてフェード・アウト。 「For The Girls Who Grow Plump In The Night」の組曲や「Nine Feet Underground」にひけをとらない大作。 無窮動で一気に流れてゆくゴージャスなメドレーだ。 やっぱりマッカートニー/WINGS の影響はあるんでしょうね。

  終曲「The Fear And Loathing In Tollington Park Rag」(1:12)はリチャードソンのアコースティック・ギターが軽快なシャフルを決める、ラグ・タイム風の小曲。 フルート、ヴィオラも愛らしい。 いかにも THE BEATLES 風のまとめだ。


  前半をポール・マッカートニーばりのメロディ・ポップで決めて、後半はゆったり音に身を委ねられるメドレー大作と、あいかわらず全く隙なしの CARAVAN ワールド。 R&B 色やポップな曲調は後半の大作へもしっかり反映されており、スリリングなインストと対を成す魅力になっている。 1、5 曲目のリード・ヴォーカル担当、3 曲目のタイトルの意味は From USC さんからご指摘いただきました。 感謝です。

(POCD-1838)

 Blind Dog At St.Dunstan

 
Pye Hastings electric & acoustic guitar, vocals
Jan Schelhaas piano, electric piano, clavinet D6, ARP string ensemble, mini-moog, organ
Mike Wedgwood bass, vocals, congas
Richard Coughlan drums
Geoffrey Richardson viola, guitar, flute, night-shift whistle

  76 年発表の「Blind Dog At St.Dunstan」。 デイヴ・シンクレアが再脱退し、ヤン・シェルハースがキーボード担当として National Head Band から加入、所属レーベルも BTM へと移籍する。 限りなくパーマネント・メンバーに近いジミー・ヘイスティングスが、今回もサックスとフルートでゲスト参加。 B 面いっぱいを使った大作は姿を消すも、カントリー・フレイヴァーあふれるクールなポップ・ロックという点では、かなりの内容だろう。 サウンドでは、ピアノやシンセサイザーの音が目新しい。 また、リチャードソンがリード・ギターからフルートまでも担当して存在感が増している。 さらには、楽曲がややメローになったことも新生面だ。 個人的には巧みなピッチベンドさばきを見せるシンセサイザーとリリカルなピアノがうれしい。 また 5、6 曲目で見せるジャジーな AOR 調や R&B テイストも新鮮だ。 パイ・ヘイスティングスは、ほぼ全曲でヴォーカルを担当。(1 曲のみウェッジウッドが担当) 10CCWINGS とイメージが重なるというより「あの頃の音」がたっぷり入っているといった方がいいでしょう。 プロデュースはデヴィッド・ヒッチコック。 各曲も鑑賞予定。

(REP 4501-WY)

 The Album

 
Pye Hastings guitar, vocals
Richard Coughlan drums, percussion
Dave Sinclair keyboards
Dek Messecar bass, vocals
Geoffrey Richardson guitar, viola, flute, vocals

  80 年発表の「The Album」。デイヴ・シンクレアが何度目かの復帰を果たし、「Better By Far」の後、セッション・ワークのためグループを離れたリチャードソンとともに録音された。 内容は極上といっていいポップ・アルバム。 CAMEL の「Breathless」と同じ 70 年代終盤のテイストをもつ。 素朴なラヴ・ソング、アメリカンな R&B 風ポップス、AOR からレゲエ/スカまで、多彩な楽曲を英国ロックらしいロマンティックでちょっぴりシニカルなタッチでまとめている。 個人的にこの辺の音は、どうにもこうにも懐かしくて客観的になれません。 シンクレアによるジャジーで雅な 3 曲目は、インストゥルメンタルの充実した CARAVAN らしい佳曲。 4 曲目も「O Caroline」の作者らしいロマンチシズムたっぷりの名バラード。 「For Girls Who Grow Plump In The Night」を思い出して正解。 ヘイスティングスのかすれ声とメロディの甘さが絶妙のバランスを見せる。 5 曲目とともに後のソロ・アルバムにも収録される。 全体にリチャードソンのフルート、シンクレアのエレクトリック・ピアノ、シンセサイザーのセンスがみごと。 本作の特徴は、シンクレアのメロディ・メーカーとしての存在感でしょう。

(KINGDOM 74015 / CDKVL 9003)

 BBC Live In Concert

 
Mike Wedgwood bass
Richard Coughlan drums
Geoffrey Richardson violin, guitar
Pye Hastings guitar, vocals
Dave Sinclair keyboards

  98 年発表の「BBC Live In Concert」。 75 年 3 月 21 日 Paris Theatre で収録された BBC 音源である。 ラインナップは、「Cunning Stunts」のメンバー。 「Love In Your Eyes」,「For Richard」,「The Dab Song Concerto」など、各アルバムを代表する大作が会場を活かす。 このグループが単なるポップ・グループではないことは、ここでのソロをフィーチュアしたスリリングな演奏を聴けばすぐ分かる。 イントロの MC と 1 曲目の間が不自然に切れていることから、さらに収録された曲があると推測しているのですが。 モノラル録音。

  「Intro」(0:29)アナウンサーによる MC。

  「Love In Your Eye」(15:30)前半ヘイスティングスのファズ・ギターが不調。リチャードソンはエレクトリック・ヴィオラとワウ・ギターを持ち替えて活躍。中盤のパーカッションをフィーチュアしたジャズロック・テイスト、シンセサイザー・ソロもカッコいい。13 分辺りからのギター・ソロもリチャードソンか。第四作「Waterloo Lily」より。

  「For Richard」(16:55)第二作「If I Could Do It All Over Again, I'd Do It All Over You」より。緩やかに始まり、自然に広がってゆく演奏の妙、それだけに 6 分付近からの疾走が鮮やか。ノイズすれすれのファズ・オルガンがスリリングに走る。ウェッジウッドのベース・ラインもカッコいい。11 分付近からはエレクトリック・ピアノ、ムーグ・ソロ。名曲です。 冒頭からヴィオラが巧みにフルートの役を果たしている。リチャードはもういないんだけれどね(いやいやドラマーがいますってば)。

  「The Dab Song Concerto」(18:45)第七作「Cunning Stunts」より。スムース・ジャズ調とまろやかなブリット・ポップロックの微妙なバランス。前曲の冒頭部と同じくバッキングにストリングス・シンセサイザーを使っている。「Wraiks And Radders」で一瞬フルートが聞こえたような気がするが、続く「Sneaking Out The Bare Quare」ではフルートのパートはギターが演奏しているので、幻聴か? エンディング「All Sorts Of Unmentionable Things」は、スタジオ盤のテープギミックを再現して、熱演とともにサイケデリックにドラマを仕上げてゆく。 毎度のことながら、「Sgt. Pepper's」を思わせる感動的なエンディングです。

  「Hoedown」(5:20)第五作「For Girls Who Grow Plump In The Night」より。 何気なく 7 拍子のカントリー・チューン。コーラスも決まる。観客に変拍子ハンドクラップを指導。

(SFRSCD058)

 Songs For Oblivion Fishermen

 
Pye Hastings guitar, vocals(1-12)
Dave Sinclair keyboards, vocals(1-12)
Richard Sinclair bass, vocals(1-6)
John Perry bass(7-12)
Richard Coughlan drums(1-12)
Geoffrey Richardson viola(7-12)

  98 年発表の「Songs For Oblivion Fishermen」。 内容は、70 年から 74 年にかけての BBC スタジオ・ライヴ。 「In The Land Of Gray And Pink」のラインナップで六曲、73 年から 74 年にかけて「For Girls Who Grow Plump In The Night」のラインナップで六曲が録音されている。 1ー8 曲目がモノラル録音。 ライヴ演奏による「For Richard」、「Caravan & The New Symphonia」収録曲のグループ演奏、またゲストなしでのアルバム収録曲の演奏など、貴重なマテリアルが揃っている。 もちろん、パフォーマンスはエキサイティングかつまとまりある優れたものだ。 曲間をスキップするような編集も、メドレー風の効果を生んでおり違和感はない。 各曲も鑑賞予定。

  「Hello Hello」(2:51)二作目「If I Could Do It All Over You, I'd Do It All Over You」より。

  「If I Could Do It All Over You, I'd Do It All Over You」(2:48)二作目より。

  「As I Feel I Die」(4:31)二作目より。

  「Love Song Without Flute」(3:20)一作目「Caravan」より。 オリジナル・タイトルは「Love Song With Flute」。 ジミー・ヘイスティングス抜きの演奏のため。

  「Love To Love You」(2:25)三作目「In The Land Of Gray And Pink」より。

  「In The Land Of Gray And Pink」(3:39)三作目より。

  「Memory Lain, Hugh」(4:54)五作目「For Girls Who Grow Plump In The Night」より。

  「A Hunting We Shall Go/Backwards」(8:25)五作目より。 オーケストラなしでの演奏。 ヴィオラとピアノ、オルガン中心の演奏で十分に美しく迫力もある。 特にテーマ部と Backwards は秀逸。

  「The Love In Your Eyes」(13:52)四作目「Waterloo Lilly」より。 本曲も原曲はフルート、オーケストラ入り。 リチャードソンのヴィオラとシンクレアのオルガン、そしてヘイスティングスのギターのコンビネーションのみでも十分スリリングな演奏になっている。 リプライズ風の終曲「Tilbury Kecks」ではエレピに代わりファズ・ベースも活躍。 全体にヴィオラが強力だ。

  「Mirror For The Day」(4:15)六作目「Caravan & The New Symphonia」より。

  「For Richard」(15:03)二作目より。

  「Virgin On The Ridiculous」(7:00)六作目より。

(HUX 002)

 Green Bottles For Marjorie

 
Pye Hastings guitar, vocals
Dave Sinclair keyboards
Richard Sinclair bass, vocals
Richard Coughlan drums, percussion
Steve Miller keyboards on 8

  2002 年発表の編集盤「Green Bottles For Marjorie」。 BBC セッション音源。 68 年末のデビュー間もない頃の録音から、傑作「In The Land Of Grey And Pink」の作品までに、72 年のスティーヴ・ミラー参加の録音を加えた内容である。 最終曲以外は BOOTLEG の「BBC 1969-1973」、「Living In The Grey And Pink」と同じ音源。 録音は良質のブートレッグ程度だが、SOFT MACHINE (ケヴィン・エアーズ)のカヴァー、「Nine Feet Underground」全曲、微妙な歌詞違いなどファンにはたまらない内容だ。 2001 年からの DECCA アルバムのリマスター作業に携わった腕のいいエンジニア、パスカル・バーン氏からのプレゼントである。

  「Green Bottles For Marjorie」(2:36)「If I Could Do It All Over Again, I'd Do It All Over You」の原曲。 ポップでトボケた味わいの小品。

  「Place Of My Own」(4:13)デビュー作より。 ヘイスティングスの冷ややかで物悲しいヘタウマ・ヴォイスとやや大仰な音作りがいい佳品。 初期 KING CRIMSON とまったく同じ感性があるような気がします。 それは 69 年の空気の匂いなのかもしれません。 CARAVAN はこの感じをいつまでも持ち続けたように思います。

  「Feelin' Reelin' Squealin'」(5:43)最初期 SOFT MACHINE のカヴァー。 テーマとコーラスはシンクレアで、メイン・ヴォーカルはヘイスティングス? 間奏部分のコワれた、迫りくるような調子は、確かに CARAVAN というよりは SOFT MACHINE 的。

  「Ride」(4:20)デビュー作より。

  「Nine Feet Underground」(19:20)三作目より。

  「In The Land Of Grey And Pink」(4:05)三作目より。 ノーブルなヴォイスと夢語りのようなオルガンに酔う。

  「Feelin' Reelin' Squealin'」(10:10)最初期 SOFT MACHINE のカヴァー。 珍しくワイルドなインプロヴィゼーション。

  「The Love In Your Eye」(11:47)四作目より。 ジャジーなミラーのエレピ、ヘイスティングス最大の見せ場であるワウ・ギター・ソロなどを含む、グルーヴィかつ幻想的な名曲。

(CARAV 001)

 Caravan Live At The Fairfield Halls, 1974

 
Pye Hastings guitar, vocals
Dave Sinclair organ, mini-moog
Mike Wedgwood bass, congas, vocals
Richard Coughlan drums, percussion
Geoffrey Richardson electric viola, guitar, glockenspiel

  2002 年発表のライヴ盤「Caravan Live At The Fairfield Halls, 1974」。 74 年 9 月 1 日 U.K. ツアー中のクロイドン、フェアフィールド・ホールでのライヴ録音。 このツアーはジョン・ペリーと交代したウェッジウッドのデビュー・ツアーでもあるそうだ(3 曲目「Be Alright」ではリード・ヴォーカルを披露)。 セットは、「For Girls Who Grow Plump In The Night」収録の作品を中心にしたものである。 パフォーマンス、録音ともに優れており、安定した演奏が生み出す心地よいグルーヴを堪能できる。 特に、エレクトリック・ヴィオラがそのつややかな音色で演奏をリードしている。 ちなみに、本 CD の内容は、80 年に Kingdom Record から発表されたフランス廉価盤「The Best Of Caravan Live」と同じ録音源を使っているが、異なる編集がなされており、より完全なライヴのイメージに近くなっている。

  「Memory Lain, Hugh/Headloss」()

  「Virgin On The Ridiculous」()六作目より。

  「Be Alright / Chance Of A Lifetime」()前半はウェッジウッド、後半はヘイスティングスのヴォーカル。 前半の鋭いギターのオブリガートは本当にヘイスティングスなのだろうか?

  「The Love In Your Eye」()四作目より。ライヴ定番の大作。リチャードソンはギターでも活躍。サイケデリックなジャムから生まれる上品な陶酔感、これが CARAVAN の作風である。

  「L'Auberge Du Sanglier/ A Hunting We Shall Go / Pengola / Backwards / A Hunting We Shall Go(reprise)」() サイケデリックな幻想性にジャズの洗練が入り交じるインストゥルメンタルの名作。 ウェッジウッドのベースがカッコよく変拍子のリフを刻んでいる。

  「The Dog, The Dog, He's At It Again」()

  「For Richard」()二作目より。ライヴの定番であり、CARAVAN を代表する作品。冒頭にメランコリックなヴィオラ・ソロがある。中盤のリチャードソンのギターとシンクレアのムーグのかけあいがカッコいい。

  「Hoedown」()アンコール。オーディエンスのソロがある。

(DECCA 8829022)


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