CAMEL

  イギリスのプログレッシヴ・ロック・グループ「CAMEL」。 結成は 71 年北ロンドン。 MCA でアルバム・デビュー後、DERAM に移籍。 80 年代後半までメンバー・チェンジを繰り返しつつ存続し、一時活動休止したが、90 年代に入ってアンディ・ラティマー設立の独立レーベルから復活。 2000 年 9 月来日。
  ブルージーにしてメロディアスなギターとふくよかなキーボードのコンビネーションがおりなす、ファンタジックかつ陰影のあるサウンド。 そして 70 年代の良心ともいえる優れたポップ感覚。 時にハードに時にメローに、自在のアンサンブルを操り、さまざまな時代の音を取り込みながらも、決してオリジナルな音楽を忘れない優れたグループである。

 A Nod And A Wink

 
Andrew Latimer guitars, flute, keyboards, vocals
Guy LeBlanc keyboards, backing vocals
Colin Bass bass, backing vocals
Denis Clement drums
Terry Carleton drums on 2,6, percussion

  2002 年発表の最新作「A Nod And A Wink」。 歳月が生む淡い無常観と郷愁、そして甘美なファンタジーに彩られた秀作。 メンバーは、デニ・クレモン、NATHAN MAHL のギ・ルブランら、前作「Rajaz」のツアー・メンバー中心。 前作ではブルーズ・ギターに集約された情念が、本作では雲ににじむ月光か淡雪のように、すべての作品にうっすらと降り積もっている。 優しくハートウォーミングなトーンは、あたかも静かな諦念の微笑みのようだ。 躍動するアンサンブルにすらブルーズ・フィーリングは漂う。 しかし、フルートなどのアコースティックな音や説得力あるギターとキーボードのアンサンブルをフルに活かして、CAMEL らしい音に仕上がっているのも確かだ。 エキゾチズムをその出発点とした CAMEL が、故郷英国の田園風景を眺望しつつ、静かに思い出にふける、そんなイメージの作品である。
  本作は結成 30 周年記念作であり、1 月に亡くなったピート・バーデンスに捧げられている。 1 曲目のギターとキーボードのユニゾンや 4 曲目のインタープレイにピートの姿が浮かんでくるのも自然なのだろう。 プロデュースはアンディ・ラティマー。 日本盤 CD はボーナス・トラック 1 曲つき。

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 Camel

 
Andy Ward drums, percussions
Doug Ferguson bass, vocals on 2,6
Peter Bardens organ, Mellotron, piano, VCS3 synthesizer, vocals on 5
Andrew Latimer guitars, vocals on 1,4

  73 年発表の第一作「Camel」。 RCA からのデビュー作は、ほんのりサイケデリックでブルージー、さらにはラテン色も豊かなオルガン・ロックである。 若々しく知的な雰囲気が漂う作風だ。 ギターのフレーズにはすでに目のさめるようなきらめきがあり、バーデンスもメロトロン、オルガンのみならずシンセサイザーも操るなどチャレンジングな姿勢を見せる。 みごとな切れ味のテーマやオブリガートを聴けば、ギターとオルガンのコンビネーションがこの段階ですでに完成に近いことが分かる。 ラテン色は熱気と骨太さを感じさせるオルガンが主として引き受けており、ギターやスキャット、リズムには流行の兆しを見せていたジャズ・フュージョン風味もある。 全体にハードロックというには才走ったイメージを与えるのも、このジャズ・テイストのせいではないだろうか。 ともあれ、卓越した演奏力とほのかなユーモアのセンスをブレンドした小気味いい音楽が今花開かんとしている、そういう初々しさがある。 ささやきヴォーカルはこのままずっと変わらないんです。 メロトロンがむせび泣く「Never Let Go」は、後々までライヴの定番となる作品。 プロデュースはデイヴ・ウィリアムス。 各曲も鑑賞予定。

  「Slow Yourself Down」(4:47)
  「Mystic Queen」(5:40)
  「Six Ate」(6:06)
  「Separation」(3:57)

  「Never Let Go」(6:26)代表作でありライヴの定番。 泣きのアルペジオをクールでジャジーな演奏が切り開く瞬間のカッコいいこと。 そして、メロトロンが大きくフィーチュアされる。 ここへさらにロマンティックな物語性を持ち込んだのが「Lady Fantasy」か。

  「Curiosity」(5:55)
  「Arubaluba」(6:28)

  「Never Let Go」(3:36)ボーナス・トラック。シングル・エディション。

  「Homage To The God Of Light」(19:01)ボーナス・トラック。未発表。1974 年 10/29 マーキー・クラブでの録音。 バーデンスのソロ・アルバムの作品から。

(MUPS 473 / CP-002CD / 8829252)

 Mirage

 
Andrew Latimer guitars, flute, vocals
Peter Bardens organ, piano, celeste, mini Moog, Mellotron, vocals
Andy Ward drums, vibes, percussions
Doug Ferguson bass

  74 年発表の第二作「Mirage」。 DERAM 移籍後第一弾。 本作の作風には、CAMEL のイメージとして定着した次作以降のファンタジックな音作りと比べると、ややハードな面も見られるのだが、決してハードロックではなく、キーボードとギターが機敏に反応しあう演奏に、フルートやアコースティック・ギターがリリカルなアクセントを添える独特のものである。 常にメランコリックな憂いをたたえた表情が特徴だ。 SANTANA を思わせるラテン色から生まれるほのかなジャズ/フュージョン・タッチと、英国風のブルーズ・テイストとが微妙にブレンドされ、バランスした味わいといってもいいだろう。 アルバムを締めくくる「Lady Fantasy」は、そのラテン/アラビア色とジャズ・フィーリング、幻想味が交じりあった大作であり、後々までのライヴの定番。 本アルバムは、おそらくラテン・ロック、ハードロックからジャズ・フュージョンへと目を向けたバーデンス、ラティマーのアイデアがきちっとシンクロした時期の作品なのだろう。 フルートの使用も本作から。 プロデュースはデヴィッド・ヒッチコック。

  1 曲目「Freefall」(5:54)。 スペイシーなノイズにオルガンが重なって膨れ上がると、ベース、ギター、オルガン、ドラムスがヘヴィにたたみかけ緊張が高まる。 その緊張を突き破るようにキメを連発し、ギターとオルガンのユニゾンが迸る。 強烈なオープニングだ。 シンバルとハイハットにも注目。 ヘヴィなコード・カッティングとしなやかなオブリガートに支えられるバーデンスのメイン・ヴォーカル。 歌メロは大したことはないのだが、8 分の 6 拍子による間奏のギターとエレピの応酬には、ハードロックとは一味違うジャジーなスリルがある。 ドラムも軽やかに叩き捲くっている。 ラティマーのプレイには、単なる速弾きではないフィーリングがある。 ヘヴィなパワー・コードにからむオルガンもカッコいい。 互いに様子を見ながら華やかなハーモニーへと流れ込むあたりには、興味深いことにフュージョン的なグルーヴすらあるのだ。 ここでも小気味のいいドラミングがさえている。 再びメイン・ヴォーカルからオープニングのスリリングな演奏が繰り返される。 スピーディなハードロックとジャジーでグルーヴィなインストゥルメンタルを両立させたカッコいいナンバー。 ごくストレートな曲調のややサイケがかったハードロックといってよさそうだが、リフの鋭さや小技を駆使するタイトなリズム、さらにはインストゥルメンタル・パートの機敏さなどにジャズ的な面を感じてしまう。 また、多彩なギター・プレイは、ハードロックの直線性とは異なる親しみやすさとあでやかさをもっている。 ギターのプレイは後に確立する CAMEL のイメージに比べて遥かにハードであり、ブルージーなハードロックのニュアンスはここではギターが負っているようだ。 歌メロはちょっと「ナン」だが、インストゥルメンタルはみごとな完成度をもつ。 キーボードのバーデンスの作品。

  2 曲目「Supertwister」(3:23) エコーのかかったフルートとエレピがゆったり歌う哀愁のオープニング。 一転してリズムはアクセントの強い 5 拍子へと変化し、フルートが軽やかに舞い始める。 リズムも軽やかに変化して、エレピのリフレインとともにクライマックス、そして、オルガンが静かに渦を巻きやがてリタルダンド。 再びゆったりとした 8 ビートへ、そしてオープニングと同じフルートが柔らかく哀しげに歌いだす。 密やかなエレピの伴奏。 次作「Snow Goose」や「Moonmadness」で完成するファンタジー路線が、ここで花開いている。 再びオルガンとフルートのリードで 5 拍子で走り、ふっと宙で誰かが摘み上げたように演奏は消え、最後はビール(と思います。サイダーの泡立ちはこんな音しないよなあ。)を注ぐ音。 夢見るようなフルートと切れのいい変拍子アンサンブルをフィーチュアしたインストゥルメンタル。 「美しい音」はキャメルの専売特許だが、このフルートもその一つ。 哀愁あるフルートがたまらなくいい。 前曲の威勢のよさをしっとりと落ちつかせて夢見る世界の扉を開いている。 ラティマーはフルートに専念し、ギターはなし。 奇数拍子を中心とした拍子の変化の処理の巧みさにも注目。 バーデンスの作品。

  3 曲目「Nimrodel-The Procession-The White Rider」(9:18)はメドレー形式の作品。 エフェクトで揺らぐギターのアルペジオとムーグのメロディが織り成す幻想的なイントロダクション。 続いて軍隊の行進に喚声を上げる群衆の SE に迎えられて、マーチング・ドラムと舞い踊るようなフルートがフェード・インしてくる。 (「The Procession」)そして、一転メロトロン・ストリングスの響きとともにあふれ出るギター。 哀愁いっぱいのテーマだ。 伴奏はアコースティック・ギターの密やかなアルペジオ。 (「The White Rider」) クラリネットのオブリガートが柔らかく受け止め、メロトロン・ストリングス、アコースティック・ギターの伴奏でラティマーが静かに歌い出す。 悩ましく哀しげな歌。 クラリネット(?)のオブリガートからフルートへと間奏が進み、次第にうっすらと光がさすように世界が広がってゆく。 一気にテンポ・アップ、ギターによるシャープなコード・ストロークをバックに、ラテン調のワイルドなオルガンが走り出す。 8 分の 6 拍子。 力強いテーマを刻むオルガンが、迫力満点の演奏をリードする。 スピーディなドラムスにあおられるように、オルガンからシンセサイザーの奔放なソロへ。 荒々しくもむせび泣くような調子のソロである。 ドラム・フィルも力強い。 シンセサイザーのアドリヴをギターがメロディアスなフレーズを繰り返して受けとめる。
  爆音とともに一転曲調はゆるやかに変化し、長調への転調を経て、ラティマーが柔らかく歌い出す。 アコースティック・ギターによる伴奏、そしてラテン・ロック調の熱いオブリガートはメロディアスなギターと暖かみのあるオルガンによるデュオ。 エンディングでは、再び暗雲垂れ込めるようにベースとムーグが不気味な低音のリフを繰り返す。 ディレイやエコーによってギターの音が千切れて飛び交う。 やがて暗く深く揺らぐエコーのなかを、ギターが切り裂くようなソロで駆け巡り、ベース音の反復が続いてゆく。 SE とエモーショナルなヴォーカル、奔放なアドリヴが織り成す物語風の大作。 フルート、クラリネットを使った柔らかく密やかなアンサンブルと、ギターとオルガン、ムーグのハードな演奏のコントラストがくっきりとしておりドラマチック。 後半の「The White Rider」は、代表曲の一つといえるだろう。 中盤以降の、思い切って盛り上がるサイケデリックなジャムが、いかにもこの時代のロックらしい。 ニムロデルはトールキンの「指輪物語」中の伝説に現れる妖精の名。 「The White Rider」の冒頭、クラリネットのような音はやはりオルガンなんだろうか。 ラティマーのヴォーカル・テーマにはむせび泣くような哀愁とともに、次作以降に現れるクラシカルなものも感じられる。 ラティマーの作品。

  4 曲目「Earthrise」(6:41) ふきすさぶ風、そしてきらきらと鳴り響くパイプの音。 フェード・インするのは、オルガンの暖かな響きとギターによる哀しき調べ。 堰を切るような哀愁を、軽やかなドラムスがピックアップ、オルガンによるまろやかなテーマ演奏が始まる。 ギターは控えめなアルペジオ。 マーチング・スネアが軽やかに打ち鳴らされ、ギターが愛らしいテーマを奏でてゆく。 オルガンとのハーモニーからオルガンが再びテーマをリードする。 一転めまぐるしくも華やかなドラム・フィル、そしてギターが細かなパッセージを解き放ち、オルガンが一人かけあい風に受けとめる。 ここからが一気に熱くなる。 オルガンのテーマにギターのコード・ストロークが火をつけテンポも上がってゆく。 エネルギッシュな全体演奏からギター・ソロへ。 テープ逆回転のような効果を用いているようだ。 続くオルガンのオブリガート、ソロはかなりラテン調である。 オルガンにギターが合流し、エキゾチックな響きの変拍子ユニゾンを決めてゆく。 スピーディに飛ぶような演奏を支えるのは、ハイハットの連打と細かなフィルを用いる巧みなドラミングである。 テーマが再現するのだが、あまりの熱気にまるでイメージが異なる。 最後は行進曲調へと何気なく戻り、キーボードとギターがおだやかにテーマを回想する。 タムが連打されるエンディングも重厚だ。 エネルギッシュにしてスピード感あふれるテクニカル・インストゥルメンタル。 キーボードとギターのせめぎあうようなプレイがカッコいい。 また、巧みなリズムの変化がいかにも CAMEL らしい。 熱気ある一気呵成の勢いにもかかわらず、アンサンブルは緻密に練られている。 ハードロック的なパワーとクラシックのインテリジェントな構築性が同居しているといってもいい。 テンポの変化など、後の作品の原型となるところもあり。 今聴くと遠慮のないオルガンの音がかえって新鮮だ。 ラティマー、バーデンスの共作。

  5 曲目「Lady Fantasy」(12:43) けたたましいオルガンのリフレインを背景に、ギターとドラムが見得を切る、ドラマチックな演奏から幕を開ける。 8 ビートのダイナミックな演奏を 3 拍子のオルガンが切り刻み、眩惑的なムードが高まる。 一転、ギターによるロマンティックな、いやロマンティック過ぎるテーマが現れる。
  テーマに応えてヴォーカルを迎えるのは、オルガンとギターのトリルによるパッセージである。 密やかなエレピ伴奏で歌いだすヴォーカル。 エキゾチックな余韻は、ラテン/アラビア風のオルガンのオブリガートによるのだろう。 間奏は軽く歪んだオルガン・ソロ。 アラビア風味とブルーズ・フィーリングの交じりあったエネルギッシュなプレイだ。 単音によるなめらかなプレイである。
   そしてメイン・ヴォーカルのサビが静かに消えると、間髪いれず切れのいいドラムがテンポ・アップ。 そしてギター・ソロ。 小気味いいベースとオルガンのリフにのってギターが走る。 派手な決めとオルガンのかけあいが続く。
   一転再びテンポはふわりと落ち、ギターが哀感に満ちた第二テーマを提示する。 みごとな雰囲気の切りかえだ。 ムーグ・シンセサイザーがギターのテーマに応える。 再び問いかけるギター、オルガンとアコースティック・ギターが静かに付き従う。 密やかなハイハットの連打、そして遠く空ろなオルガンに導かれギターが哀しげに歌いだす。 ささやくようなアコースティック・ギターのアルペジオ。 ギターの歌は次第に熱を帯び、苦悩を見せ始める。 むせび泣くヴァイオリン奏法の響きは、やがて空を裂くフィードバックへ。 ギターの独壇場だ。 ベースの刻むビートとともに、切ないヴォーカル・ハーモニーが最後の想いを打ち明ける。 演奏は一気にハードに高まり、オルガンはメタリックなリフを刻みギターが迸る。 荒々しいトレモロとコード・ストロークが激情を叩きつける。 続いてヘヴィなアンサンブルから飛び出すのは、アラビア風の旋律をフィーチュアしたエネルギッシュなオルガン・ソロ。 ギターとベースは烈しいリフで攻めたてる。 熱いクライマックスはメロトロンとともにギターの歌うロマンチックなテーマへと吸い込まれ、強い哀感を余韻としてのこして去ってゆく。 希求の激情と喪失の哀感を若々しいエネルギッシュな演奏へと詰め込んだ大作。 焼き尽くされそうなほど熱い思いを音にしたテーマ、情感豊かなソロ、テンポやテーマの変化による流れるような展開など、明快にして濃厚な世界である。 序盤でたぎるような熱さをもっていたテーマが、エンディングでは空ろな余韻を漂わせるあたりが、まさに展開の妙といえるだろう。 基本的にはギターとオルガンのソロ、インタープレイが全ての作品なのだが、リズム・セクションも多彩なプレイを見せている。 アンサンブルとしては理想的ではないだろうか。 そして、ストーリー仕立ての大作という意味では、やはり後の作品の原型といえるだろう。 もっとも、ここで見られるような濃厚な感情を込めた SANTANA 風のサウンド自体は、以後の作品では見られなくなる。 ハードロックとソフトでメローなセンスが結びついた傑作といういい方もできるだろう。 単一の曲では、CAMEL 作品中最長であり、ライヴでは今もって定番。


  ギターとキーボードがせめぎあいながら、優美にして哀愁あるメロディを紡ぎ出してゆくファンタジック・ロック。 クラシカルにしてジャズ/フュージョン・テイストもあるという英国ロックらしい個性的な音である。 ラティマーのギター・プレイは、ブルース・スケールの速弾きというハードロック・スタイルから一歩はなれ、練りに練った美しいメロディを丹念に刻み響かせるスタイルである。 そして、そのギターと活発に呼応し時にはギターを越えて、カラフルな音色によるフレーズを繰り出して演奏をリードするのが、バーデンスのキーボードである。 このコンビネーションが本作での CAMEL サウンドの中核といっていいだろう。 後の作品に比べると荒々しさも見られるが、ハードさよりも豊かな音色のアンサンブルが紡ぎ出すメロディの美しさと安定感が先立つ。 さらに、音を惜しまない技巧的なリズム・セクションとくればいうことなしだ。 しかし、ラティマーのギター・ワークは受け継がれる一方で、バーデンスの軽快なプレイを受け継いだプレイヤーがほとんどいないなぜだろう。 デジタル楽器に変ってキーボードの使い方が効果音/バッキング主体に変ってしまったためだろうか。

(POCD-1821)

 The Snow Goose

 
Andy Ward drums, vibes, Varispeed percussion
Doug Ferguson bass
Peter Bardens organ, mini moog, electric piano, pipe organ, piano, ARP Odyssey
Andrew Latimer electric & acoustic & slide guitars, flute, vocals

  75 年発表の第三作は、ポール・ギャリコの小説からインスパイアされたトータル・アルバムの傑作「The Snow Goose」。 ギャリコ本人の賛同は得られなかったようだが、音で小説世界を再構築するという困難な作業を乗り越え、オール・インストゥルメンタルによるカラフルな絵本のようなコンセプト・アルバムに仕上がった。 プログレ的なファンタジックな物語性、ほんのりジャジーなスリル、親しみやすいメロディ、ポップな聴きやすさなど、すべてクリアした、ロックのトータル・アルバムとしては五指に入る大傑作である。 本作で、CAMEL は一流のグループの仲間入りを果たした。 管弦楽器のサポートも得た楽曲は、それぞれに活き活きとした情景を喚起するテーマをもっており、現在でもまったく色褪せていない。 リズム・セクションの進境も著しい。 過剰にならないセンスあるオーケストラ・アレンジは、「Tubular Bells」のデヴィッド・ベドフォード。 プロデュースはデヴィッド・ヒッチコック。 原作は、今なら新潮文庫で入手できます。

  「The Great Marsh」(2:02)潮騒に弦楽がオーヴァーラップする美しい序曲。

  「Rhayader」(3:01)フルートをフィーチュアした CAMEL の代表曲。 うっすらと哀しみをおびつつも軽やかなテーマがいい。 繰り返しではヴィオラ伴奏も加わる。 バッキングのジャジーなエレピからソロのオルガンまでバーデンスが大活躍。 ベースのオブリガートもみごと。 鮮やかな導入部である。

  「Rhayader Goes To Town」(5:20)3連リフレインによるスピーディなオープニングから一体感のある迫力のアンサンブルを経て、ユーモラスなエレピ、ギターによるテーマ、メロディアスなシンセサイザーと続くめまぐるしい展開を、ブルージーに泣くギターが満を持して受け止める。 バウンスするビートが効いた作品だ。

  「Sanctuary」(1:05)さざめくアコースティック・ギターをバックにギターがゆったり歌う。 ギターのおだやかな表情がいい。

  「Fritha」(1:19)アコースティック・ギターのアルペジオにフルートのようなムーグが重なる。 二つのフルートのようなムーグのアンサンブル。 クラリネットを模したようなやさしげなムーグも低音に現れる。

  「The Snow Goose」(3:12)ラティマーのギターが熱き思いを秘めたようにむせび泣く。 オブリガートのムーグはスノー・グースの鳴き声だろう。 オルガンの響きが暖かい。 そして包容力を感じさせるギターのテーマ。 いかにもラティマーらしいジャジーでメロディアスなソロである。 リズム・セクションは、職人的な丹念さでギターを支えている。

  「Friendship」(1:44)オーボエ・アンサンブルによる愛らしい演奏。 エレピのオブリガートはいかにも CAMEL らしい美しさ。 後半はオーボエとフルートの優美な交歓のようなデュオである。

  「Migration」(2:01)ファルセットのヴォカリーズがリードするスピード感あふれるナンバー。 得意の 8 分の 7 拍子。 ドラム、ベースをフィーチュアしているといっていいほどクールなジャズロック調の作品だ。

  「Rhayader Alone」(1:50)エレピによる「Rhayader」のテーマの変奏はメランコリックなギターのメロディへとつながってゆく。 ファンタジックな音にほのかにフュージョン・テイストも感じられる。 エレピとギターのデュオ。 ソフトな音だが哀しげ。

  「Flight Of The Snow Goose」(2:40)エレクトリックなキーボードのリフレインがフェード・イン、堰を切ったように現れるテーマは朗々たるギターである。 ツイン・リードのユニゾン・ハーモニーも心地よし。 ブリッジはシンセサイザー。 ライド・シンバルが小気味いい。

  「Preparation」(3:58)8 分の 5 拍子のギターのリフレインによる伴奏。 テーマは「Friendship」と呼応するようなフルートとオーボエのデュオである。 シンセサイザーのリフレインへと変化し幻想的な空気が生まれる。 か細くたゆとう物悲しきヴォカリーズ。 ヴァイブが愛らしくヴォカリーズをたどる。

  「Dunkirk」(5:19)決然たる歩みのようなしっかりしたリズム。 勇退を決めた英国軍をあらわすのだろうか。 テーマはオルガンとヴァイオリン奏法ギター。 重々しいオブリガートは 5 拍子。 ギターのなめらかなリフレインそして金管のファンファーレ。 ギターは次第に高鳴ってゆく。 スリリングな金管との呼応。 やがてオルガンのテーマも弦楽に変わってゆく。 メロディアスなギター。 重厚な演奏。 リズム・チェンジからスリリングなアンサンブルがスライド・ギターのリードで走る。 しなやかなドラムのプレイがみごとだ。 鳴き声のようなギター。 緊迫を高める打撃音の連続。 ドラがとどろく。

  「Epitaph」(2:07)「Preparation」で現れたシンセサイザーの 5 拍子のパターンが鐘の音とともに再現。 静かに湧き上がる低音。 金属を打つ音が左右に走る。 鐘の音。 消えてゆくシンセサイザーのリフレイン。 鎮魂歌。 長い沈黙。

  「Firtha Alone」(1:40)クラシカルなピアノ・ソロ。 テーマは「Firtha」のヴァリエーション。 伴奏は幻想的なエレピ。 胸の痛みが伝わってくる歌である。

  「La Princesse Perde」(4:44)豊かに美しい弦楽がせめぎあうようにフェード・イン。 水平線に太陽が昇るようなイメージだ。 そしてムーグのリードでアンサンブルが走り出す。 「Flight Of The Snow Goose」のテーマの変奏である。 曲調がゆったりめに変化するとギター登場。 弦楽を伴奏にオルガンとのメロディアスなデュオである。 テーマは弦楽へと移り優美な演奏が続いてゆく。 そして典雅なオーボエによるテーマ。 ギター、オーケストラによるきめの細かい演奏だ。

  「The Great Marsh」(1:20)エピローグはプロローグと同じ潮騒、そして神秘的なヴォカリーズである。 エコーするエレピの響き。


  最高のロック・ファンタジーであり、悲劇のイメージから普遍的なものを導く文学的な傑作である。 あふれんばかりの美しいメロディに妥協のないミュージシャン・シップが感じられる。

(DERAM 800 080-2)

 Moonmadness

 
Doug Ferguson bass, lead vocals on 2
Andy Ward drums, percussions, voice on 1
Peter Bardens keyboards, vocals on 4
Andrew Latimer guitars, flute, recorders, vocals on 2,5,6

  76 年発表の第四作「Moonmadness」。 ジャケットに象徴されるように、淡雪のような月の光におおわれた冷ややかな幻想性にあふれた好作品。 こわれてしまいそうな繊細なメロディ・ラインから奔放なインター・プレイまで、幅広い魅力をもっており、最初の絶頂期の作品といえるだろう。 バーデンスとラティマーのコンビネーションは冴えわたり、メロディアスなソロやデュオなどの演奏面に加えて、前作を凌ぐ静と動の巧みな使い分けや色彩にあふれた音色の配置など、作曲/アレンジ面でも飛躍的な進歩が見られる。 プレイであげるならば、やはりバーデンスのキーボード(シンセサイザーの使用が飛躍的に増えている)とラティマーのフルートだろう。 そして、変拍子、ファンタジックな音作り、ハードロックとジャズのブレンドされたギター、多彩なキーボードなど、CAMEL の特徴は本作で全て現れているといってもいい。 「Mirage」のエネルギッシュなプレイをリリカルで幻想的なサウンドで包み込み、自由な発想のプレイを見せる本作こそ最高傑作という声は多い。 ファンタジック・ロックという名前の似合う作品である。 プロデュースはグループと「Snow Goose」でエンジニアを務めたレット・デイヴィズ。 本作を最後にオリジナル・メンバーのベーシスト、ダグ・ファーガソンが脱退する。

  「Aristillus」(1:56)は、バーデンスの華やかなキーボード・ワークが冴えるインストゥルメンタル。 ムーグ・シンセサイザーのお披露目的な作品である。 作曲はラティマー。

  「Song Within A Song」(7:16)は、静かに水が滴るようなイメージを与えるキーボードとニンフの奏でる魔笛のようなクールな叙情性をもつフルートが美しすぎる序盤から、ギターによる 8+7 拍子のブリッジを経て、一転軽やかな疾走へと展開してゆく幻想傑作。 CAMEL らしいファンタジックな音色とジャジーでダイナミックな演奏の絶妙のコンビネーションを見せる。 終盤の分厚いキーボードの奔流を支える、ウォードによる小気味いいドラミングがみごと。 リード・ヴォーカルはファーガソン。 作曲はラティマー、バーデンス。

  「Chord Change」(6:45)は、いきなりクライマックスから始まるギター中心の軽快なナンバー。 オーヴァーダブされたギター・リフが、才気の迸るウォードのドラミングとともにしなやかに進み、フュージョン風のグルーヴを与える。 ラティマー節ともいえるギター・ソロはエモーショナルだが、ブルーズ・ギターとはニュアンスの異なるジャジーな心地よさがある。 オルガン・ソロはシングル・ノートにもかかわらず、リスナーの想像力をいくらでもかきたてるみごとなものだ。 フュージョン CAMEL はここに現われた。 作曲はラティマー、バーデンス。

  「Spirit Of The Water」(2:07)は、美しくも哀しい夢語りのような作品。 リコーダーによる端正なテーマが切なく気持を揺るがせ、こらえ切れないメランコリーを浮かび上がらせる。 波打つようなピアノも美しい珠玉の小品だ。 リード・ヴォーカルはバーデンス。(これだけ加工されていると誰でも同じだが) 作曲はバーデンス。

  「Another Night」(6:58)は、「Mirage」の作品を思い出させるハードなタッチとロマンティックなファンタジーがブレンドした作品。 シンプルで緊張感のあるリフ、やや斜に構えた独特のテーマ、ほのかなラテン・タッチなどいかにも初期の CAMEL らしさ(ラティマーらしさ?)を感じさせる作品だ。 間奏部の反復によるブリッジの生む緊張感、それを巧みに受けとめるギター、オルガンのデュオの切れのよさ。 終盤のアラビア風味のあるオルガン・ソロも、前々作までは顕著に見られたスタイルである。 代表作の一つだろう。 リード・ヴォーカルはラティマー。 作曲はグループ。

  「Air Born」(5:02)は、あまりにも美しいフルートのテーマが密やかな夜明けを称え、静けさを呼びもどすような大傑作。 静謐なピアノとロマンティックなフルートのデュオは、いつしかギターとストリングス・シンセサイザーによるスペイシーなアンサンブルへと引継がれてゆく。 テーマにはやはり独特の物憂さがある。 アコースティック・ギターが効果的に用いられているのも特徴だ。 ギター、エレピなどによるエレクトリックな幻想美の中に、フルート、ギターなどの瑞々しいアコースティックな響きが、鮮やかに散りばめられている。 中盤、フェイザーのかかったギターのメロディに THE BEATLES のインストゥルメンタル・ナンバーを思い出すのは私だけ? 朝露をふくむようなしっとりとした静けさのなかに、もだえるような苦悩の翳も浮かび上がってくる。 リード・ヴォーカルはラティマー。 作曲はラティマー、バーデンス。

  「Luna Sea」(9:11)は、小気味いい疾走感と無限の広がりをイメージさせる映像的インストゥルメンタル大作。 ストリングス・シンセサイザーを生かし、後の「Echoes」へとつながってゆくスタイルである。 泡が弾けるような SE と宇宙に散らばる星のささやきのようなシンセサイザーに満ち満ちたオープニング、そしてレーザー光線のようにギターが切り込み、走り出す痛快さに胸はドキドキ。 奇数拍子でドライヴ感を出すのも得意技だ。 SF 映画風のスペイシーなムーグのソロも、ファンタジックな演出にピッタリ。 ジャケットのイメージ通りの光る淡雪のような音である。 そして変拍子をドライヴするアンサンブルをバックにしなやかなギター・ソロが始まる。 オルガンのバッキングとギターの呼吸がいい。 ギターは抑えていたものを爆発させるような、ブルージーながらもエネルギッシュなプレイである。 10 拍子のリズミカルなユニゾンがたたみかけるように繰り返されるうちに、シンセサイザーがクロス・フェード・インし、アンサンブルを圧して静けき幻想の海が戻ってくる。 ふきすさぶ風の音が消えてゆくと、いつのまにか佇む人もいない月の海が寒々しく広がっている、そんな光景が浮かんでくるエンディングだ。 作曲はラティマー、バーデンス。

(810 879-2)

 Rain Dances

 
Andrew Latimer guitars, pan pipe, bass, flute, piano, mini moog, string synth, glockenspiel
Peter Bardens mini moog, string synth, electric & acoustic piano, organ, car horns
Andy Ward drums, vibes, percussions
Richard Sinclair bass, vocals
guest:
Mel Collins sax, bass & concert flute, clarinet, bass clarinet
Brian Eno mini moog, electric & acoustic piano, bells
Malcolm Griffiths trombone
Martin Drover trumpet, flugel horn
Fiona Hibbert harp

  77 年発表の五作目「Rain Dances」。 ダグ・ファーガソンに代わって加入したリチャード・シンクレアのヴォーカルが新風を吹き込み、カンタベリー調のジャジーなポップ・センスとファンタジック・ロック路線が見事に結晶した作品となった。 ゲスト参加のメル・コリンズも目の醒めるようなサックスで大活躍。 CAMEL 流フュージョン・サウンドの誕生という見方もできるだろう。 みずみずしい新生 CAMEL のスタートである。 プロデュースはグループとレット・デイヴィズ。

  オープニング「First Light」(5:01)は、個人的に大好きな作品。 表看板であるキーボードとギターの鮮やかなコンビネーションが活かされた、ファンタジックにしてドライヴ感のある CAMEL 節である。 シンセサイザーとエフェクトされたギターのアルペジオが一フレーズ毎に魔法の粉を撒くようなイントロダクション。 そして一気に走り出すテーマはシャープなオルガン。 ハンク・マーヴィンばりのシングル・トーンのテーマが息を呑むほどカッコいい。 そしてオルガンと追いかけるように、ギターが豊かに丸みのある音色でテーマを繰り返す。 テーマの展開部の決める 3 連符のドラム・フィルに痺れる。 風をまいて走る抜けるような心地よいスピード感。 ギターがすぅっと消えると、シンセサイザーとエフェクト音が渦を巻く不思議な中間部へ。 夢見るような繰り返しの間に、アンサンブルは次第に力を蓄えてゆき、突如エネルギーが噴き出す様にギターが再開。 しかし、驚くことにギターをおさえつけるように鮮やかなサックスが切り込んでくる。 予想を裏切る目のくらみそうなサックス・ソロ。 華やかなテーマをライヴな迫力で描くファンタジック・インストゥルメンタル。 バーデンス在籍時の作品の特徴である、積極的なキーボード・プレイとそれに絡むギターというパターンの典型のような内容だ。 小粋なベース・ラインにも注目。 ラティマー/バーデンスの作品。

  「Metrognome」(4:15)は、時を刻むようなパーカッション(メトロノーム)のビートの上で、シンクレアがしっとりと夢見るような歌を聴かせる。 ヴォーカルをストリング・シンセサイザーとギターが受けとめ贅沢に彩る。 ギターとサックスがリードしファンキーに跳ねる間奏では、シンクレアが得意のエフェクト・ベースの冴えたプレイを見せる。 このポップな味わいも独特だ。 そして締めは得意の 7 拍子アンサンブルへとなだれ込み、ストリングス・シンセサイザーが星を吹きギターが翔けぬける。 ファンタジックでありながら R&B 調のファンキーさとジャジーな躍動感のあるポップな感触の作品。 ヴォーカル・メロディの湿り気やリズムと音色に凝った薄暗いインストゥルメンタルは、やはりブリティッシュ・ロックのものである。 ラティマー/バーデンスの作品。

  「Tell Me」(4:06)は、エレピとエフェクトを効かせたフレットレス・ベースの響きとシンクレアのヴォイスがフィーチュアされた、官能的な味わいのバラード。 バス・クラリネットに導かれて始まる静かなヴォーカル・パートは、深海や漆黒の夜空のイメージである。 星々が冷たい声でささやくスキャットのように重なりあうシンセサイザー。 間奏では、クラリネットとフルートが透き通るように美しい調べを奏でる。 ムーグの柔らかなソロ。 ゆっくりしたトリルは、海の底から浮かび上がってゆく泡のようだ。 ストリングス・シンセサイザーとムーグに彩られたヴォーカルには、夢から目醒めたような切なさがある。 遠い海底での静かな会話のように幻想的なサウンドは、10CC の「I'm not in love」を思わせる。 確かにこういう音がこの時代に流行した。 シンクレアのヴォーカルが無常の冷ややかさに耽美な味わいを醸し出し絶品。 ラティマー/バーデンスの作品。

  シングル・ヒットした「Highways Of The Sun」(4:29)は、暖かみあるキャッチーな歌メロとオルガンのシンコペーション・リフが魅力的なポップ・ナンバー。 ジャジーなエレピ伴奏とシンセサイザーのオブリガート、そしてサビではコーラスも加わって、ファンタジーとポップな躍動感が同居する。 中間部では、華麗なピッチ・コントロールを披露するムーグ・ソロをフィーチュアする。 このファンタジックな味わいをもつアンサンブルがいかにも CAMEL 流である。 静かにフルートが絡むところや、ベースのパターンも何気なく凝っている。 シンプルなリズムのシングル盤ポップスながらも、さりげない音への配慮のセンスが横溢する佳作。 ヴォーカルはラティマー。 これも大好きでした。 ラティマー/バーデンスの作品。

  「Unevensong」(5:33)も、物憂い雨ににじむようなトーンとスリリングなリズムが組み合わさって、やがて軽やかに飛翔するようなジャズロックの佳作。 たたみかけるように刻むエレピによるスリリングなオープニング。 ニール・ラーセンを思わせるおしゃれな音だ。 ドリーミーなバーデンス、シンクレアのヴォーカル・ハーモニーは、タイトなリズムに跨って軽やかに走ってゆく。 ギターのオブリガートは、シンセサイザーのようにシャープ。 間奏は、鳴き声のようなギター(キーボードだろうか)のリフレインから低音のムーグへと進み、やがてムーグとオルガンのコンビネーションへとまとまってゆく。 半拍足りないリズムがおもしろい。 一度オープニングのエレピのパターンを回顧した後、ふわりとテンポは落ちてリズムも 8 ビートへと変化し、緩やかにうねるフェイズ・シフト処理を効かせた幻想的なヴォーカル・パートが始まる。 ブルージーなギターが遠慮がちにオブリガートする。 そしてエンディングはテンポ・アップしてストリングス・シンセサイザーがざわめくなかを、オーヴァー・ダブされたギターが幾重にも重なり合いながら駆け抜けてゆく。 ハイハットを小刻みに用いるアンディ・ウォード独特のドラミングも冴える。 明快なテーマをギターとキーボードでせめぎあい、変拍子を用いてスピード感を演出する作風は、フュージョン・タッチこそ新しいものの、やはりラティマー、バーデンスらしいものだ。 オープニングはラーセン・フェイトン・バンドへの意識が素直にそのまま出ているが、その後の展開の多様さはやはりプログレ的。 全体にとてもなつかしい音です。 ヴォーカルは後半のテンポ・ダウンのところがラティマーと思われるが、他はバーデンス、コーラスがシンクレアと思われる。 ラティマー/バーデンス/ウォードの作品。

  「One Of These Days I'll Get An Early Light」(5:53)ベースとドラムの巧みなコンビネーションからきらめくようなエレピのプレイへ。 そして、サックスがソフトに盛り上げるジャジーなイントロダクション。 ベース、ギター・リフもうねるようなグルーヴを感じさせる。 ブラス伴奏によるごきげんなギター。 いかにもラティマーらしいプレイだ。 エレピ・ソロもブラスのオブリガートに彩られて、すっかり本格フュージョン・タッチ。 サックス・ソロも、「いかにも」だ。 続くギター・ソロも、意図的にジャジーなフュージョン・スタイルを演じているようだ。 エンディングのドラムの音は、テープ逆回転処理だろうか。 小洒落たエレピの音色といい、ソロ回しといい、これはもうフュージョン・ナンバーといっていいでしょう。 誰もが無闇な長髪やアフロヘアとヒゲを切って、さっぱりしたスーツでカクテルを嗜もうとしたわけです。 インストゥルメンタル。 メンバー全員とメル・コリンズによる作品。 ブラス・セクションはゲスト。

  「Elke」(4:26) ピアノとフルートそしてシンセサイザーが密やかに厳かに響きわたる思弁的な作品。 繊細な音のアンサンブルが豊かなイメージを喚起する。 宇宙の静寂をイメージさせる演出、オーロラが歌うようなシンセサイザーとそれを貫いて流れるフルートの無垢な美しさに息を呑む。 深海や宇宙など、人界の喧騒から離れたところで静かに営まれる大自然の命の息吹。 神秘に満ちたシンセサイザーはゲストのブライアン・イーノによる。 インストゥルメンタル。

  「Skylines」(4:24)ソリッドなギターがリードする得意のシャープなインストゥルメンタル・ナンバー。 アンサンブルをドライヴするベースの 3 拍子パターンが面白い。 ブラス・セクションと控えめにきらめくエレピに支えられてしなやかなギターのテーマが繰り返される。 続くテーマは吸いつくようなムーグによる低音と高音の「一人かけ合い」。 小気味よく、それでいて流れるような演奏は、さすがのひとこと。 再びギターのテーマへと戻り、エンディングはムーグとギターがうれしそうに弾きまくる。 ブラスとベースによるジャジーなグルーヴ、およびギターとシンセサイザーによるシンフォニックな高まりがむすびついた作品。 上品なドライヴ感のある正統 CAMEL 節。

  「Rain Dances」(2:53) 厳かに湧き上がるストリングスの響きを背景に、サックスがオープニング・ナンバーのソロのテーマを静かにリプライズする。 シンセサイザーがビートを刻み始めると、いつの間にか、ストリングスがサックスを引き継ぎテーマを繰り返している。 最後はコーラス、シンセサイザー・ビートとともにオルガンのリフレインが続き、静かに消えてゆく。 リスナーといっしょにアルバムを振り返り、上品にサヨナラを告げて去ってゆくすてきなエンディングである。

  CD のボーナス・トラックは「Highways Of The Sun」のシングル・ヴァージョン(3:57)。 アルバム・ヴァージョンに比べると全体に楽器の音のコントラストと音量を強めて中間部のインストを短くしている。 テンポも少し速めか。


  シンクレア加入は、ヴォーカル・パートの充実に加え、ベース・プレイの幅の広がりも生まれ大成功と思われる。 定評ある小気味よいインストゥルメンタルに、初めて官能的なテナー・ヴォイスによる本格的なヴォーカルが加わって、画竜点睛し大きくレベルを上げたといえるだろう。 エレピの音に代表されるように、当時の流行であったフュージョン・サウンドの影響があちこちに見られて微笑ましいが、あくまでファンタジックかつ骨太な CAMEL サウンドが核にあり、迎合というよりは貪欲な芸域の拡張という感じがする。 舌触りはソフトだが芯のある演奏である。 音色で気がつくのは、前作以来大幅に使われるようになったストリングス・シンセサイザーとムーグ、フェイザー系のエフェクトだろうか。 全体を通して感じられる夢想的なムードは、これらの音に負うところが大きいだろう。 メンバー交代をばねに、魅力的なテーマ、キーボードとギターの絡み、サックス、フルートのアクセントなど、持ち札を総動員してつくられた贅沢なファンタジック・ロックである。 愛を感じる作品です。
  ちなみに世評をぶっ飛ばして私の CAMEL ベスト・アルバム。 リアルタイムに聴いていて、ちょっと懐かしさにやられた感じもありますが。 プログレッシヴ・ロックがポップスとおりあった好例でもあるでしょう。 これは CARAVAN 出身のリチャード・シンクレアをベーシストとして選んだメンバーの慧眼のおかげにちがいありません。 なぜかライヴで取り上げらない曲の多い悲運の作品でもあります。 (2002 年のリマスター盤「A Live Record」で、ようやく「Rain Dances」ツアーも収録されました) DERAM の現行 CD はメンバー・クレジットがないために、演奏情報はインターネットのファン・サイトを参考にしました。

(DERAM 820 725-2)

 Breathless

 
Andrew Latimer guitars, flute, synthesizer(CS80/50)
Peter Bardens keyboards
Andy Ward drums, vibes, percussions
Richard Sinclair bass, vocals
Mel Collins sax, flute

  ライヴ・アルバムに続く 78 年発表の第七作「Breathless」。 メル・コリンズがメンバーとして正式加入。 その一方で本作を最後に、オリジナル・メンバーにして CAMEL の看板の一つであったキーボードのピーター・バーデンスが脱退する。 したがってアルバム・タイトルはファンタジックなタイトル・ナンバーの歌詞のキーワードなだけではないのかもしれない、という思いも浮かんでくる。
  内容は前作で提示されたフュージョン色をしっかり吸収し、パストラルでのどかな雰囲気やバロック調の典雅なアンサンブルそしてダイナミックな演奏へと昇華した完成度の高いもの。 フュージョン CAMEL の完成型。

  「Breathless(ブレスレス-神秘の女王)」(4:21) リチャード・シンクレアのおだやかなヴォイスがリードする可憐にして典雅なアコースティック・ナンバー。 アコースティック・ギターとシンセサイザーによる華やかなオープニングから、ノーブルなヴォーカルによるメイン・パートへの導入は、さながら朝もやの田園への誘いのように気持がさざめく。 夢見るような心地と冷やりとした空気の感触が同時に感じられる。 ヴォーカルのファルセットが美しい。 ややメランコリックなブレイクを経て、再びファルセットで高まってゆくヴォーカルの表情も巧みだ。 ヴォーカルのリフレインに絡むように歌い上げるソプラノ・サックス(オーボエにも似た響きである)にはえもいわれぬ気品がある。 フルートも加わって、終盤はおだやかにして優美なアンサンブルが続いてゆく。
  シンクレアの慎みあるヴォーカルを活かした優雅にして素朴な暖かみのある佳作。 こういう曲調でも決して土臭くならないポップなタッチの配分が心憎い。 中盤から現れる管楽器は、ソプラノ・サックスかオーボエだろうが判然としない。 いずれにしろ気品あるヴォイスとの相性は抜群だ。 アコースティック・ギターも竪琴を思わせる美しい音色である。

  「Echoes(エコーズ-残響)」(7:22) 冒頭からクライマックス、カッコよすぎるギターのテーマに巻き込まれて、一気に大空へ舞い上がる。 風を切るスピード感と力強いドライヴ感を兼ね備えた、目もくらむオープニングだ。 3 拍子のギターを受け止め、4 拍子に切りかえたシンセサイザーのテーマが走る。 オルガン/ストリングス系の音による力強いリード・プレイがみごと。 再びギターのメイン・テーマ。 細かなハイハットはアンディ・ウォードならでは。 スリリングなリズム・チェンジ、そしてオブリガートでテーマを支えるシンセサイザー。 「泣き」と力強強さをともに備えたテーマもすばらしい。 名残惜しそうに去ってゆくギターをオルガンのリフが受けて、さまざまな音を散りばめられた、フリー・フォームに近い幻想空間が広まる。 「Rain Dances」でも見せた、10CC 風の密やかで夢見るようなムードである。 宇宙遊泳をしているような気分だ。 そして再び秩序をもたらすのはフェード・インする細かなドラミング。 ドラムスのリードで動き出した演奏は、タイトな決めの連発で一気に盛り上がる。 ギターのハードなコード・ストロークが高鳴り、シンセサイザーはきらきらと輝くように歌い上げる。 ギターに導かれて、ようやく、伸びやかなラティマーのヴォーカルが入ってくる。 パワー・コードとシンセサイザーの応酬。 バッキングのシンプルなアルペジオもいい。 ヴォーカルが吸い込まれるように消え去ると、今度はギターによるレガートなテーマ変奏。 ややリラックスしたムードである。 ギターに絡むのはオブリガートするオルガンと細かなパッセージのシンセサイザー。 次第に躍動感が生まれてくる。 三度、鳥肌がたちそうな決めの連発、そして再びヴォーカルへ。 ややクール・ダウン。 最後はシンセサイザーのリードでアンサンブルが走り、ギターがパワー・コードで決めを連発する。
  CAMEL の代表作の一つである名曲。 リズム・チェンジも鮮やかにギターとキーボードがスリリングなソロを繰り広げる前半から、スペイシーな中間部を経て、ハードなタッチのドライヴ感あふれるヴォーカル・パートへと雪崩れ込む。 オープニングのギターのテーマには、ねじ伏せるような力強い説得力がある。 一貫してギターとキーボードがせめぎあいつつ繰り広げるインストゥルメンタルは、ハードにしてファンタジックな CAMEL 独特の味わいである。 後半の決めは痛快の一言。 ヴォーカルはラティマー。

  「A Wing And A Prayer(翼に祈りを)」(4:45) エレピによるリズミカルなリフにアコースティック・ギターのキラキラとした 3 連アルペジオが重なる。 エレピとていねいなドラミングが跳ねるようにファンキーなリズムを生む。 フュージョン・フレイヴァーたっぷりのシティ・ポップスに、アコースティックで雅な雰囲気を持ち込んでいるところがおもしろい。 追いかけあいサビではメロディアスに重なりあう、巧みなツイン・ヴォーカルにも注目。 リズミカルに舞い踊るフルートとサックスのソロが美しい。
  軽妙なエレピなどファンキー・テイストがいかにも 78 年周辺を思い出させるライトなシティ・ポップスに、本作の通奏低音である優雅さをスパイスに加えた好作品。 サックスやフルートの旋律には田園風の穏やかさと心落ちつかせる余韻がある。 スタカートとテヌートの絶妙のコンビネーション。 メイン・ヴォーカルはバーデンス、ハーモニーがシンクレア。

  「Down On The Farm(田園の日曜日)」(4:23) ギターによるパワー・コードが力強く轟くキャッチーなイントロダクション。 パワー・ポップというかなんというか、QUEEN みたいだ。 しかし、コミカルな早口言葉調のヴォーカルが入ると、雰囲気は一転し、のどかな空気で一杯になる。 ギター、エレピの伴奏もすっかりリラックスしている。 第二コーラスではフルートがヴォーカルに寄り添う。 軽やかでキュートなサビではフルートが踊る。 鮮やかなコード・カッティング。 ニワトリも鳴いている。 間奏では再びギターのコードとピッキング・グリッサンドが炸裂、パワー・ポップ風になる。 しかし、すぐにヴォーカルが雰囲気を田舎に戻してしまう。 極端な落差が面白い。
  田舎のお百姓さんの暮らしを描いたようなのんびり、ユーモラスな作品。 フルートが印象的だ。 ユーモアたっぷりの SE を散りばめる。 のんびりしているが土臭さがないのは、ジャジーななめらかさで曲を潤すシンクレアのヴォーカルのおかげ。 ノーブルなシンクレアのヴォイスとキャッチーでリズミカルな曲調のギャップが生む独特の味わいと、ジミー・ヘイスティングスを思わせるフルートなど、CARAVAN に近いニュアンスもあり。

  「Starlight Ride(星への旅路)」(3:23) きらきらと流れるエレピを夢見るようなフルートが追いかける、美しく静かなイントロダクション。 フルートのプレイに KING CRIMSON の「Lizard」と同じニュアンスがある。(コリンズのプレイだろうか) 静々と歩み寄る夕暮れを思わせる演奏だ。 優しく語りかけるようなヴォーカルはラティマー。 フンワリしたエレピの伴奏と飛行機雲を引くようなスライド・ギターのオブリガート。 ギターとフルートの対位的なアンサンブルはトランペットを迎えて、いよいよ三声のバロック室内楽調である。 ヴォーカルはソフトなエレピとスライド・ギターの伴奏に支えられて、あくまで柔らかく穏やかだ。 エンディングでは、トランペットがソプラノ・サックスであることが分る。
  恋人たちが愛と夢を語る、夕暮れのひと時を描いたような美しく儚い作品。 AOR 風のラヴ・バラードをさりげなくバロック・アンサンブルでアレンジするという、なかなか大胆な試みだ。 サックスの音色にはヘンデルやバッハの雅がある。 室内楽風ポップスの佳作。

  「Summer Lightning(サマー・ライトニング)」(6:06) シンクレアによる力強い歌唱がリードするグルーヴィなオープニング。 きらめくエレクトリック・ピアノとスペイシーなシンセサイザー、ソフトなハーモニーに支えられて、アンサンブルは軽やかに走る。 心地よいコード・ストローク、そして、凛々しくも優しさあふれるヴォーカル。 アコースティック・ギターも伴奏に加わる。 いつしか心地よいドライヴ感が AOR タッチに勝り、ジャジーなエレピに彩られつつも、ギター・ソロが少しづつ熱を帯びてゆく。 そして、あっという間に、メロディを刻み込み迸るように歌い上げるラティマー・スタイルになってゆく。 フュージョン・タッチの曲調を、ブルージーで重みあるプレイでグッと引き締めている。
  ジャジーな、しかし力強いシティ・ポップス。 エレピやシンセサイザー、リズムはフュージョン・タッチであり、グルーヴィ。 これでヴォーカルも黒っぽかったら、完全にアメリカ西海岸のグループになってしまうのだが、そこは CAMEL。 ノーブルなシンクレアのヴォーカルとファンキーになりきれないドラム、そしてブルーズ・フィーリングあふれるギターが、センチメンタリズムの垂れ流しにならないように、ちゃんと全体を引き締めている。 ギターの説得力を感じる作品だ。

  「You Make Me Smile(微笑みを)」(4:18) ベースとキーボードが刻むファンキーなリフと、切なくメロディアスなサビが印象的なポップ・チューン。 ラティマーのヴォーカルが、渋く落ちつきを見せる。 サビで低音から高音へぬけるところの凝ったメロディがいい。 そして、シンセサイザーはスペイシーなソロを披露。 ユーモラスな音色でカラフルにアンサンブルをリードする。 ニューウェーブっぽさにも、典雅なタッチがある。 ギターはほとんど聴こえない。
  シンセサイザー、ベースによるディスコ調のリフにメロディアスなヴォーカルをのせたポップ・チューン。 演奏はほとんどシンセサイザーのみであり、当時の流行を感じさせる。 アメリカのチャートを駆け上っても不思議のないポップスなのだが、それでも、何気ないメロディに味わいがある。 次作 1 曲目や「Single Factor」 の「No Easy Answer」につながる、ラティマー流ポップスである。 改めて彼の卓越したメロディ・センスを感じる。

  「The Sleeper(夢想曲)」(7:06) ドリーミーなエレピがスケールの上昇下降を繰り返す。 ギターのロングトーンが静かに満ちはじめる。 宇宙の深みを思わせる瞑想的なオープニング。 一転して、グルーヴィなシンセサイザーのリードで変拍子アンサンブルが走り出す。 サックスとオルガンがポリリズミックにかけ合い、サックスが伸びやかに歌うすてきなアンサンブル。 パーカッションが通りすぎる。 オルガンのリフレインに呼び覚まされて、いよいよギターの登場だ。 スタイルは、完全に「フュージョン」。 しかし、ソリッドな音色でシャープな速弾きも見せながらも、ギターを悠々歌わせている。 ギターを受けるようにシンセサイザー・ソロ。 こちらもリラックスしたフュージョンらしいプレイである。 シンセサイザーとサックスと絡みつつエンディングへと向かう。 ドラムが巧みにアンサンブルをあおる。 アップテンポの CAMEL らしいインスト・ナンバーだ。
  CAMEL 定番といえる作風に、フュージョン・タッチを加味したインストゥルメンタル。 幻想的なイントロから、一転してエネルギッシュなアンサンブルが動き出す迫力。 ほんのりラテン風な、フュージョンらしいグルーヴ、カッコいいメロディ、そして巧妙なリズム処理が生むノリ。 変拍子を用いて軽やかなドライヴ感を生む熟練の技。 オルガン風のシンセサイザーとギターの絡みの呼吸、ポップなブラスのアクセントもいい。 全体に、第二作の作風にフュージョン・ノリを加えて、さらに洗練したようなイメージだ

  「Rainbows End(失意の果てに)」(3:00) 管弦楽奏を思わせる優美で広がりのあるシンセサイザーを背景に、ピアノが静かに語り始めるイントロダクション。 ピアノの調べはラティマーのヴォーカルを静かに呼び覚ます。 サビは切ないファルセット。 おだやかなピアノ、そしてオーボエのようなシンセサイザーが夕空へ広がり、消えゆくような音色で歌う。 再びピアノが導くヴォーカル。 そしてヴォーカルに寄り添うフルート。 ストリングス・シンセサイザーとサックス、フルートがおりなすバロック風の演奏。 ストリングスに重なるようにオーボエ風シンセサイザーが静かに締めくくる。
  どこまでも美しく、失われしもの、儚きものへの郷愁のように涙を誘う作品。 今度は哀愁のバラードにフルート、サックスでバロック風味を加えている。 CAMEL の音楽の特徴の一つである「夢見るような美しさ」がある。 エピローグにふさわしい小品である。 クレジットにはないが、シンセサイザーはデイヴ・シンクレアが弾いているそうだ。 それにしても、どうしてもバーデンスとの関係を託したとしか思えない歌詞内容。 ショッキングですが、率直な気持なのでしょう。 ひょっとするとバーデンス、ラティマーのツイン・ヴォーカル?


  雅なバロック風味でアレンジしたジャジーなポップスが、いつしかファンタジックな世界を描き出す佳作。 流行のフュージョン・テイストを共通項に、さまざまな作品が並ぶ。 みごとなのは、シティ・ポップスにサックス、フルートによるクラシカルなアクセントを効かせるところ。 管楽器のバロック風味、シンクレアのヴォーカルによる気品ある雰囲気が、ジャジーなグルーヴと重なりあい、ユニークなサウンドになっている。 また、「Echoes」や「Summer Lightning」、そして「The Sleeper」では、得意の変拍子を用いたダイナミックなアンサンブルで快調な走りを見せ、プログレ CAMEL の健在ぶりもきっちりアピールしている。 特に、「Echoes」は、本作の基本的なトーンとはやや離れるものの、テーマの魅力とストーリー・テリングの巧みさという CAMEL の専売特許を活かした大傑作といえるだろう。 やや気になるのは、バーデンスとラティマーの絡みが減ったかな、ということだ。 交互にソロを取ったりモチーフを共有したりと最低限のコンビネーションは見せるが、緊密にせめぎあうようなインタープレイが少ない。 バーデンス脱退直前という事実を知っているために、よけいにそういう思いにとらわれるのかもしれない。 その一方で、キーボードとサックスが巧みに絡む「The Sleeper」は、新たなコンビネーションとしてとてもおもしろい。 どうしても分らないのは、コリンズの使用している楽器の種類。 サックス、フルート以外にも、オーボエやトランペットも吹いているように思うがどうだろう。 それともシンセサイザーなのだろうか。 バイバイ、ピート、ほんとにありがとう。 We miss you. We would never let you go...

(POCD-1827)

 I Can See Your House from Here

 
Andrew Latimer guitars, flute, vocals, keyboards
Jan Schelhaas piano
Andy Ward drums, percussions
Colin Bass bass, vocals
Kit Watkins keyboards
guest:
Mell Collins saxophone
Phil Collins vocals

  79 年発表の第八作「I Can See Your House from Here」。 前作録音終了後に CAMEL サウンドの一翼を担い続けたピーター・バーテンスが脱退。 そしてヤン・シェルハースらを迎えてツアーを行うが、ツアー終了とともにシンクレアとコリンズも脱退する。 後任にはコリン・バース、さらにキーボーディストに HAPPY THE MAN のキット・ワトキンスを迎えて本作の制作に取りかかるが、メンバー・チェンジのインパクトをほとんど感じさせないツイン・キーボードを活かした CAMEL サウンドに仕上がっている。 コンテンポラリーなサウンドを巧みにブレンドした、ルパート・ハインのプロデュース手腕によるところも大きいのだろう。 オーケストラ・アレンジはサイモン・ジェフズ。

  「Wait」(4:50) スポーツカーをぶっ飛ばすような(古)パンチのあるギター・リフと斜に構えて抑えたヴォーカル、そして二人のキーボーディストがかけあうムーグ・ソロがメチャクチャカッコいいアップテンポ・チューン。 歯切れよく決まるサビの鮮やかさ。 後半のハモンドをバックにしたギター・ソロは、ほんのりジャジーな薫りも漂わせつついかにもラティマーらしくメロディを歌わせている。 そしてしなやかな力強さも同時に感じられる。 弾けるパワー・ポップで決めたオープニングである。

  「Your Love Is Starnger Than Mine」(3:14)「Rain Dances」以降顕著になってきたポップ化路線を堅持するキャッチーなリフのナンバー。 キーボード主体のアレンジによっていっそうお洒落に完成されている。 弾けるようなリズムを叩き出すドラムにも注目。 エンディングのコリンズのサックス・ソロが鮮やかだ。

  「Eye Of The Storm」(3:42)ワトキンスの作品。 HAPPY THE MAN のサード・アルバム用のナンバーを CAMEL 加入の手土産にしているようだ。 アコースティック・ギターのアルペジオに支えられてムーグのメロディが軽やかに舞うファンタジックで美しいインストゥルメンタル。 あらゆる管楽器の音色とニュアンスをまとめあげたようなムーグの音色に魅せられる。 フレットレス・ベースの響きも心地よい。 マーチング・スネアとティンパニも効果的。 HAPPY THE MAN ほどは神経症的な繊細さはなくリラックスした美しさがある。

  「Who We Are」(7:26)ピアノのバッキングでギターがなめらかに歌うイントロダクション。 このすばらしくリズミカルなテーマ部を経て、アコースティック・ギターのアルペジオとシンセサイザーが幻想的に美しいヴォーカル・パートへと入る。 ストリングスによってぐっとメロディが引き立ち、アコースティック・ギターのソロは非常にグルーヴィ。 重厚なストリングス伴奏で歌うヴォーカル。 ムーグの柔らかなソロからストリングスが息を吹き返すと、再びメロディアスなヴォーカル・パートへと戻る。 ヴォーカルのバックでオーボエのように鮮やかに踊るムーグそして包み込むようなストリングス。 メロディアスで軽快なギター・アンサンブルから、メランコリックで都会的なヴォーカル・パートを経て、ドラマチックなストリングス・アンサンブルと展開してゆく大作。 メロディのよさに加え後の CAMEL の作品の方向性を暗示するような見事な構成を誇るナンバーだ。 キーボードはワトキンスがムーグのなめらかなソロを得意とするのに対し、シェルハースはピアノが得意のようである。

  「Survival」(1:04)クラシカルな旋律を重厚にセンチメンタルに歌い上げるストリングス。 哀愁がにじむ小品。 インストゥルメンタル。

  「Hymn To Her」(5:23) ストリングスの美しい響きに支えられた「泣き」のギターで始まるナンバー。 タイトル通りギターのテーマが静かな思いを訴えかけてくる。 哀愁のメロディから次第にテンポ・アップしてゆくところが、いかにも彼ららしい表現だ。 ムーグとギターのユニゾンが見事。

  「Neon Music」(4:39)再びアップテンポの軽快なヴォーカル・ナンバー。 軽さの中にもハモンド・オルガンとギター・リフがロックっぽさを演出し、ムーグはいかにもプログレ風。 ストリングス・アンサンブルもいい音だ。 ちょっと作り声のヴォーカルがユーモラスな典型的 CAMEL ナンバー。

  「Remote Romance」(4:01)おお APP になってしまったんかい!と思わせるシンセサイザー・ビートにビックリするとともに、時代の流れへの思いも浮かんでくる。 冷静に聴けばシーケンサで繰り出すエフェクト音も新鮮だし、パッチワーク風のヴォーカル・アレンジも面白い。 これも CAMEL?もちろんこれも CAMEL

  「Ice」(10:10)幻想美を無常感が貫く圧巻のシンフォニック・インストゥルメンタル。 ピアノとギターのイントロから、エレピ、ギター、シンセサイザーのトリオ、そしてムーグ・ソロを経てギター・ソロへと到達し、クライマックスを迎える劇的な展開をもつ作品だ。 ブルーズ・フィーリングあふれる圧巻のギター・ソロ。 ギターは険しい表情を貫くが、シンセサイザーが夢の世界に誘うようなファンタジックな響きを与え、全てが哀しみに沈まないように背景を覆い尽くしている。 ピアノも加わったアンサンブルは正に叙情を極めたシンフォニーである。 ギター・ソロが去った終盤、アコースティック・ギターとエレキギターが静かに奏でる室内楽風のデュオは、アルバム全体のポップさを打ち消してしまうような、空しさを孕むエピローグになっている。 ラティマーのソロ・アルバムがあったとしたらこういう色調なのかもしれない。 ファンタジックな幻想美に満ちたサウンドにも関わらず全ての旋律は哀しげである。 ツイン・キーボードを遺憾なく活用した YES の大作にも匹敵する作品。


  ギターのテーマとキャッチーなヴォーカル・メロディがバランスし、インスト指向のロック・ファンにもポップス・ファンにも受けそうな内容の作品。 最終曲に代表されるラティマーの圧倒的なギター・プレイとともにストリングス、ツイン・キーボードが導入され、楽曲のドラマ性は高まり、70 年代最後を飾るに相応しい重みをもっている。 それと同時に、タイトル・ナンバーのように今後を暗示する新たな展開もある。 本作の収穫は、ワトキンスによるカラフルで個性的なキーボード・プレイだろう。 ギターとのアンサンブルではバーデンスに一歩譲るものの、音色の美しさ、スリリングなソロは正に絶品。 圧巻は最終曲。 カラフルでエモーショナルなおかつ厳粛といっていい聴きごこちである。 この一曲のためだけでも、聴いて損はない。 結論として、あまり目立たないアルバムですが CAMEL の魅力が一杯詰まった名作といっていいでしょう。 繰り返しますが「Ice」は傑作。

(DERAM 820 614-2)

 Nude

 
Andrew Latimer guitars, flute, vocals, koto, keyboards
Jan Schelhaas piano on "The Last Farewell"
Andy Ward drums, percussions
Colin Bass bass, vocals
Duncan Mackay keyboards
Mell Collins flute, piccolo, saxophone
Chris Green cello
Gasper Lawal percussions on "Changing Places"
Herbie Flowers tuba

  81 年発表の第九作「Nude」。 終戦を知らずに南の島に取り残された元日本兵をテーマにした「The Snow Goose」以来のコンセプト・アルバム。 本作では、メンバーとゲストを区別する明確なクレジットがない。 すでにグループというよりもプロジェクト・チーム化が進んでいたのかもしれない。 スーザン・フーヴァーが作詞に携わるようになったのも、本作からである。 ストーリーはインナーに記されている。
  サウンド面でまず気づくのは、多くのミュージシャンを起用した成果であるインストゥルメンタルの充実だろう。 CAMEL らしいドライヴ感にあふれるギター・ナンバーや、美しいバラードを通して感じられるのは、人生の哀しみを象徴するような哀愁あるトーンである。 しかし、ドラマといいながらも、テーマの重さよりも、洗練されたサウンドによるソフトな幻想性を感じさせるところが CAMEL らしい。 たとえグループがどんな形態になろうとも、優美なファンタジー性こそ CAMEL という名前に期待されることではないだろうか。 今回はテーマを打ち出すことでヒット・チャートの呪縛を逃れ、最上のサウンドへと素直に向かうことができたのかもしれない。 ダンカン・マッケイの贅沢なキーボードを中心とした風景画調の美しい演奏、当時新たな音楽として台頭しつつあったニューエイジ、ワールド系の音もある。 それでもなお、70 年代の残り香をたっぷり封じ込めており、すてきな味わいのある作品といえるだろう。
  シンセサイザーが刻む伴奏やあまりにシンプルなドラミングなど、さすがにニューウェーヴな時代を感じさせて複雑な思いもあるのだが、歌い込むギターにとりあえず一安心できる。 ヴォーカルはだんだんうまくなってます。 プロデュースは、グループとトニー・クラーク、ヘイデン・ベンドール。

  「City Life」スムースな幕開けとなるキャッチーなヴォーカル・ナンバー。 ドラム・パターンやシンセサイザーのサウンド、そつのない歌メロなどあまりに 80' ポップなのだが、今聴くとなつかしさも手伝ってさほど拒否反応は起きないです。 トータル作の冒頭というプレッシャーのせいか、前作の冒頭のように開き直ることもできず少し迷いを見せてしまったように感じる。

  「Nude」シンセサイザーのざわめき。

  「Drafted」ピアノの調べに支えられた叙情的でメロディアスな歌もの。 ギターも力強い。 ヴォーカルはバース?

  「DocksCAMEL らしさのあるスリリングなインストゥルメンタル。 「Mirage」や「Moonmadness」がなつかしくなるような展開だ。 ストリングスから管楽器までシンセサイザーがきわめて多彩。 中盤以降はややミステリアスな雰囲気も現れる。 キット・ワトキンスが作曲にクレジットされている。

  「Beached」「Echoes」を思わせる快速ギター・チューン。 本曲ではようやくドラムが本領発揮。 くるくるとリズム・曲調が変化する。 ベースのパターンなどコミカルにすら思えるところもある。

  「Landscapes」フルートと電子ピアノによるファンタジックな哀感漂う名品。 月の海が見えるはず。

  「Changing Places」前曲でほのかに見せたアジアン・テイストがはっきりと現れたニューエイジ調のナンバー。 フルートをフィーチュアするのですっかり JADE WARRIOR

  「Pomp & Circumstance」やはり CAMEL 風ニューエイジといった趣のブリッジ。 NUDE が空に放った銃弾の音。

  「Please Come HomeTHE BEATLES、マッカートニーにつながるブリット・ポップの秀作。英国の音。

  「Reflections

  「Captured」一転激しく高まる曲調。 スリリングなハードポップ。 シンセサイザーの音はかなり苦しい。 メル・コリンズのサックスの方が遥かに豊か。

  「The Homecoming」金管・フルートのリードする華やかなマーチ。 しかし、どこかアイロニカルな響きが。

  「Lies」ギター・ブルーズ。 ハモンド・オルガンで目を醒ませ。 苦悩そして帰国して始まる NUDE の本当の戦い。 そしてほどなくラティマー自身の戦いも始まった。

  「The Last Farewell- The Birthday Cake」ソプラノ・サックスとアコースティック・ギターによるファンタジックなイントロダクション。 CD では次曲へ表示が移るのが早すぎる。

  「The Last Farewell - Nude's Return」ポジティヴで優しくそして哀しげなテーマがいかにも CAMEL らしいナンバー。 フュージョン風でもこのテーマがあれば大丈夫。 どうしても「Snow Goose」を思い浮かべてしまう。 ちょっとハナがグスグスします。

(POCD-1829)

 The Single Factor

 
Andrew Latimer guitars, bass, piano, Mellotoron, organ, keyboards, vocals
Chris Rainbow vocals
Graham Jarvis, Dave Mattacks, Simon Phillips drums
David Paton bass, fretless bass, vocals
Anthony Phillips piano, organ, Poly-moog, ARP-2600, classical guitar, 12 string, marimba
Haydn Bendall Yamaha CS-80
Duncan Mackay Prophet synthesizer
Peter Bardens organ, Mini-moog
Francis Monkman harpsichord synclavier
Tristan Fry glockenspeil
Jack Emblow accordian

  82 年発表の第十作「The Single Factor」。 朋友アンディ・ウォードも脱退、遂に CAMEL はラティマーのソロ・プロジェクトと化した。 本作は、かつての盟友ピーター・バーデンスら豪華なゲスト・ミュージシャンを迎えて、アルバム・タイトルが暗示するように、ポップにして陰影のあるヴォーカル・ナンバーが中心のアルバムとなった。 しかし、そんな中でも、はかなげなギターを聴かせる「Selva」や、アップテンポでシンセサイザーとギターのインター・プレイが見せ場をつくる「Sasquatch」のようなインストゥルメンタルが輝いているのを見逃してはならない。 後に、契約消化のためのアルバムであったことをラティマーが明らかにしているが、ニュー・ウェーヴや量産型ポップス全盛時代にあって、コンテンポラリーなサウンドを取り込みながらも、冴えたメロディ・ラインにしっかりと個性のきらめきを見せるところはさすがといえるだろう。 APP に似過ぎという意見もあるが、ヴォーカリストを共有しているのでしかたがない。 キャッチーであると同時に 90 年代以降のラティマー = CAMEL のスタイルを暗示するところもある。 プロデュースはトニー・クラーク、アンディ・ラティマー、ヘイデン・ベンドール。

  「No Easy Answer」(2:54) 「I Can See Your House From Here」のオープニング・ナンバーにも似たアメリカンな雰囲気のポップ・チューン。

  「You Are The One」(5:20) 重苦しいテーマから一転して弾ける展開とシンセサイザーやギターの和音に 80' ポップスらしい風のアレンジが冴える好ナンバー。 懐かしすぎて冷静になれません。ここまで 2 曲は時流の音をしっかりとつかまえた上で、CAMEL らしいブルーズ・フィーリングが入れこまれている。

  「Heroes」(4:48) 哀愁のバラード。 デジタル・キーボードを駆使しながらもサウンドそのものはきわめて抑制されている。 APP に似てます。 リード・ヴォーカルはデヴィッド・ペイトン。

  「Selva」(3:30) 厳かなインストゥルメンタル。灰色の雲のように垂れ込めるシンセサイザーに抱かれてラティマーのギターが静かに悲しげに歌う。ガット・ギターのアルペジオはアンソニー・フィリップス。

  「Lullabye」(0:50) ものすごく小さなピアノ弾き語り。


  「Sasquatch」(4:40) ファンにとっては本作の目玉となるファンタジックかつファンタスティックなインストゥルメンタル・チューン。 ギターはまだラティマーのフュージョン・ブームが続いている感じ。 ドラムスはサイモン・フィリップス。このドラムスのせいか、同時期の Gordon Giltrap の作風との共通性も感じる。

  「Manic」(4:23) 大仰なサウンド・メイキングがいかにもな 80' ロック。 この曲がヒットしてもなんの不思議もなかった。

  「Camelogue」(3:40) 現在の作風に近いブルーズ・フィーリングある西海岸系フュージョン歌もの。ギターの音が気持ちいい。

  「Today's Goodbye」(4:05) AOR 風の歌もの。「You Are The One」と同じような展開だが、どうにも躍動感がなく華もない。

  「A Heart's Desire」(1:11) 清らかな詠唱、雅歌。伴奏はピアノとアコーディオン。ヴォーカルはクリス・レインボウ。

  「End Peace」(2:49) 前曲の歌を慈愛のギターが受け止め、シンセサイザーが吹き上げる豊かな調べとともに天上へと誘う。ヴォカリーズはクリス・レインボウ。

  「You Are The One - Edited Version」(3:41) CD ボーナス・トラック。プロモーション用 4 曲入り 12 インチに収録されていた。

(DERAM 800 081-2)

 Stationary Traveller

 
Andrew Latimer guitars, bass, piano, PPG, Juno 60, YAMAHA-CS80, Drumulator, vocals
 12 string, classical guitar, pan pipe, flute
Haydn Bendall Fairlight, PPG voices
Paul Burgess drums
Ton Scherpenzeel YAMAHA-CS80, Prophet, Juno 60, piano, PPG, Korg organ
David Paton bass, fretless bass
Chris Rainbow vocals
Mel Collins saxophone

  84 年発表の第十一作「Stationary Traveller」。 「ベルリンの壁」をテーマにしたコンセプト作品。 シンセサイザーを多用したデジタルなビート感とラティマーのブルーズ・フィーリングがブレンドした佳作ではあるが、打ち込みやフェアライトも多用されており、CAMEL というグループというよりは、ベテラン・ブリティッシュ・ロッカーの 80 年代のソロ作品というべき内容になっている。(6 曲目「West Berlin」、7 曲目「Fingertips」などが典型 ) 特に、クリス・レインボウがヴォーカルを取る作品は、ギターに耳をすまさない限りは完全に APP 調のデジタル・ポップである。 その一方で、ラティマーがヴォーカルを取る作品には強い哀感があり、このフィーリングがそのまま 7 年後の活動再開時に引き継がれているように思う。 また、トン・シェルペンジルの技巧的なプレイが、地味な楽曲が続く中でなかなかの存在感を示している。
  本作発表後のツアー終了とともにグループは解散したため、スタジオ最終作となった。 5 年後にこの壁が崩れ去ることを考え合わせると、まるで CAMEL が最後の力を奮って予言に希望を託し静かに旅を終えたような気がしてくる。 プロデュースはアンディ・ラティマー。 作曲は、シェルペンジルによる 1 曲を除きラティマー。 作詞は、スーザン・フーヴァー。 「第三の男」のアリダ・ヴァリをイメージさせるジャケットがいい。 各曲も鑑賞予定。
  なお、2004 年に、本来 1 曲目として用意されていたがレコード会社の意向で収録されたかった「In the Arms of Waltzing Frauleins」を含んだ再編盤が CAMEL PRODUCTION から発表された。

  「Pressure Points
  「Refugee
  「Cloak And Dagger Man
  「Stationary Traveller
  「West Berlin
  「Fingertips」 名バラード。メル・コリンズのサックスをフィーチュア。
  「Missing」 一人打ち込みながらも、なかなかスリリングな 7 拍子インストゥルメンタル。ギターも元気。キーボードの腕前もすごい。プロダクションが宅録っぽいですが。
  「After Words」 トン・シェルペンジルの独奏。
  「Long Boodbye」 久々のフルートも登場する、ほのかな希望の光を感じる終曲。 いいメロディを書きます。 でも、CAMEL からの丁寧なお別れの挨拶に聞こえてなりません。

(820 020-2)

 Pressure Points

 
Andrew Latimer lead guitars, vocals
Collin Bass bass, vocals
Paul Burgess drums, percussion
Ton Scherpenzeel lead keyboards
Richie Close keyboards
Chris Rainbow vocals, keyboards
guest:
Mel Collins saxophone
Pete Bardens organ

  84 年発表の第十二作「Pressure Points」。 最終作は最終ツアーのライヴ・アルバム。 前 5 作からの作品と「Snow Goose」から。 ラティマーのギターは円熟こそすれ微塵の瑕もなく、ただただ時代の流れを強く感じさせる。 ラヤダーではピート・バーデンス、メル・コリンズも飛び入りし大興奮。 プロデュースはアンディ・ラティマー。

  「Pressure Points
  「Drafted
  「Captured
  「Lies
  「Sasquatch
  「West Berlin
  「Fingertips
  「Wait
  「Rhayader
  「Rhayader Goes To Town

(LONDON 820 166-2)

 Dust And Dreams

 
Andrew Latimer guitars, flute, keyboards, vocals
Colin Bass bass
Ton Scherpenzeel, Don Harris keyboards
Paul Burgess, Christopher Bock drums
Neil Panton oboe
Kim Venaas timps, harmonica
John Burton French horn
David Panton, Mae Mckenna vocals

  91 年発表の「Dust And Dreams」は、長い沈黙の果てに独立レーベルを設立し、発表された最初の作品。 ラティマーの移住先であるカリフォルニアと縁の深い作家、スタインベックの「The Grapes Of Wrath(怒りの葡萄)」からインスパイアされたコンセプト・アルバムである。 PINK FLOYD の大作に匹敵するドラマ性に、CAMEL らしい親しみやすさも備えた名作だ。 ヴォーカル・ナンバーもあるのだが、管弦による典雅なサウンドからくるイメージは完全に「甦る "Snow Goose"」である。 もちろん、キーボードの織りなすドラマチックなサウンドに支えられ、ソリッドでメロディアスなギターは健在。 全編を貫く哀愁あるトーンがすばらしい。 ロマンの世界にリスナーを誘う巧みな語り口は 70 年代から変わらず、デジタル・サウンドの進化とともに重厚さ、スケールの大きさを得て、80 年代よりも優れたパフォーマンスになっている。 そしてギターの技は年季とともに熟成し、切れのいい明快なテーマと抑制されたプレイからにじみ出る感情の機微の表現は、さらに巧みになっている。 ヘタウマが持ち味だったヴォーカルにすら円熟した表情がある。 キャリアは伊達ではない。 歳月から貪欲にエネルギーを吸収して、隊商はまだ前進を続けている。 プロデュースはアンディ・ラティマー。

  1 曲目「Dust Bowl 弦楽、シンセサイザーが分厚く音を成すアンサンブルによる壮麗なオープニング。 インストゥルメンタル。

  2 曲目「Go West 幻想的なピアノ伴奏によるバラード。 「豊かな暮らしの待つカリフォルニアへ、西へ迎え」と繰り返される歌詞の響きが、儚く切ない。 また、「Go West」に「最期のときを迎える」という意味があることに思い当たると、夢の国は現世の果て、遠く彼岸の彼方にしかない、というあまりに哀しいメッセージとも解釈できる。

  3 曲目「Dusted Out 思いが天に鳴り響くシンフォニック・チューン。 哀感とともに力強さを打ち出す劇的なピアノ、優美にして重厚なストリングス。 インストゥルメンタル。

  4 曲目「Mother Road ブルージーなギターとリズミカルなシンセサイザーをフィーチュアしたモダン・ロック。 CAMEL らしい生き生きとした演奏であり、思わず胸が踊る。 PINK FLOYD を思わせる重みとは対照的に、コーラスやソロで切り返すメロディは、80 年代をしっかりと過ごしてきた証のようにキャッチー。 ギターの表現も多彩だ。

  5 曲目「Needles 重厚なストリングスを縫って、物寂しいハーモニカの調べが流れてゆく。 ニンフの呼び声を思わせるシンセサイザー。 幻想的だ。 エンディングのカモメの鳴き声のような音が、遠く「Snow Goose」を連想させる。 インストゥルメンタル。

  6 曲目「Rose Of Sharon デヴィッド・ペイトンとメイ・マッケンナのデュオによる密やかなバラード。 ラティマーがオブリガートのハーモニーで重なる。 ここでもブルージーなギターから、一転雲が開けるように爽やかな世界へと展開させる演出が効果的。 不安を歌う歌詞にもかかわらず、明るい未来を約束するようなすばらしいアンサンブルで結んでいる。 朗々と歌い上げるギターがいい。

  7 曲目「Milk n'Honey 短い中に堅固な展開をもったシンフォニック・インストゥルメンタル。 前曲のエンディングを再現し、軽やかなリフレインと重苦しい低音の蠢きが交差する。 ここまでのモチーフを回想するのは、湧きあがる不安を幾度もなだめて、大いなる期待に胸膨らます様を現すのだろうか。 インストゥルメンタル。

  8 曲目「End Of The Line ギター、オルガン、ヴォーカル、全てが懐かしのブリティッシュ・ロック。 ヘヴィでブルージーなのだが、思いきり哀愁にあふれながらも若々しさのあるメロディが CAMEL らしい。 ペンタトニックとすなおなメジャーを行き交う得意のギター・スタイルは全開。

  9 曲目「Storm Clouds さまざまな音を使って情景を描写する小品。 泣き叫ぶようなギターのヴォリューム奏法、無表情ながらも不安をかきたてるシンセサイザーのシーケンス、打撃音。 来るべき何かの予兆を告げているのだろう。 インストゥルメンタル。

  10 曲目「Cotton Camp スリリングなギターがリードする「Echoes」、「Ice」直系のインストゥルメンタル。 多彩な技もみごとだが、自在な表情の変化がすごい。 脇を固めるシンセサイザーのプレイもセンスよく冴えわたる。

  11 曲目「Broken Banks 前曲を受け止める軽やかなギター・チューン。 得意の変拍子とコード・チェンジ。 インストゥルメンタル。 息つくまもなく次曲へ。

  12 曲目「Sheet Rain 管弦楽のアコースティックな響きが美しい小曲。 軽やかなリフレインに支えられ、せせらぎか風に舞う木の葉のように、流れるようにナチュラルに展開してゆく。 木管やフルートが美しい。 インストゥルメンタル。

  13 曲目「Whispers クラシック然とした優美なブリッジ。

  14 曲目「Little Rivers And Little Rose ピアノとベースによるスペイシーな曲。 訥々と歌うベース。 宇宙に線を引くようにまっすぐなギターの調べ。 ほのかなエキゾチズム。

  15 曲目「Hopeless Anger 爆発的なクライマックス。 KING CRIMSON を思わせるようなヘヴィなギター・リフでたたみかけ、轟々たる管弦楽とオルガンが突き進む。 しかし、その後のギターの調べが CAMEL らしい。 哀愁と親しみやすさが一体となった印象的なテーマである。 重さを振りほどくようなシンセサイザーの響きと、シンコペーションを活かして思い切り跳ねるギター。 ヘヴィさとキャッチーなフレーズを組み合わせた鮮烈な作品だ。

  16 曲目「Whispers In The Rain ストリングスとギターが織り成す感動の終曲。


  流れるような展開がみごとなコンセプト・アルバムの傑作。 PINK FLOYD を思わせる劇的なヘヴィ・チューンと、キーボードを活かしたシンフォニックなナンバーが交互に現れて、やがて大きな奔流となって終曲へと向かう。 メロディのよさ、親しみやすさはすでに円熟の境地、40 数分ある長さを全く感じさせない。 歌詞もストレートであり、移民の気持がしみじみと伝わってくる。 抜群のブルーズ・フィーリングをもってリスナーのハートに切り込んでくるギター・ソロの力強さは、何ものにもかえられない。 男性的にして感情の機微を巧みに表現するヴォーカルも魅力である。 豊かなサウンドでストレートにテーマを描いてゆく正攻法が、すがすがしい感動を呼ぶ作品だ。 分かりやすさという点も CAMEL らしい。 これでもう少しポップな味わいがあれば完璧な作品となっただろう。 改めて、悲劇でありながらどこまでも愛らしくポップであった「Snow Goose」のすごさを感じる。

(CP-001CD)

 Harbour Of Tears

 
Andrew Latimer guitars, flute, keyboards, vocals, penny whistle
Colin Bass bass, vocals
Mickey Simmonds keyboards
David Paton bass, vocal
Mae Mckenna a capella vocals
John Xepoleas drums
Neil Panton oboe, soprano sax, harmonium
John Burton french horn
Barry Phillips cello
Karen Bentley, Anita Stoneham violin

  96 年発表の「Harbour Of Tears」。 独立レーベル第二弾は、アンディ自らのルーツを探るという重厚なコンセプト・アルバム。 父親の死を契機にアイルランドから強制移民させられた祖先たちをたどり、その悲劇を厳粛かつ映像的な作品にまとめ上げている。 テーマの重さがそのまま各作品に現れており、透き通るような美しさの向こうにいい知れぬ哀しみを湛えた作品を主に、切々たる思いに満ちた旋律が胸を引裂くバラードが散りばめられている。 それでも、生活を素朴に描いたナンバーを交えてうまく悲哀に満ちたトーンを和らげ、バランスをとる辺りがみごとである。 巧みなアルバム構成といえるだろう。 初めは、ロック的なダイナミズムよりも旋律美が重視されているように感じたが、よく聴けば、重厚なギターがしっかりとフィーチュアされていることが分かる。 「Coming Of Age」は CAMEL らしさのある名曲。 オープニングとエンディングのケルト風のアリアに胸がつまり、永久に続く穏やかな潮騒が痛む心を癒す名作といえる。 プロデュースはアンディ・ラティマー。 PINK FLOYD も「Final Cut」で戦死した父を歌っていましたっけ。

  「Irish Air
  「Irish Air(Instrumental reprise
  「Harbour Of Tears
  「Cobh
  「Send Home The Slates
  「Under The Moon
  「Watching The Bobbins
  「Generations
  「Eyes Of Ireland
  「Running From Paradise
  「End Of The Day
  「Coming Of Age
  「The Hour Candle(A song for my father)

(PCCY-00864)

 Rajaz

 
Andrew Latimerguitars, vocals, flute, keyboards, percussion
Colin Bassbass
Ton Scherpenzeelkeyboards
Dave Stewartdrums, percussion
Barry Phillipscello

  99 年秋発表の作品「Rajaz」。  前作が自らのルーツというテーマを巡り、プライペートな思いを織り込んだ重いコンセプト・アルバムであったのに対し、今回は「Farewell=さようなら」というキーワードを軸にした、自由な曲想の楽曲の並ぶ作品となっている。 一つ一つの曲にはそれぞれ深い思い入れがあるのだろうが、コンセプト・アルバムよりはさまざまな楽しみ方ができる内容といえるだろう。 そしてトータルなイメージとしては、前二作に比べて主題からくる重いペーソスと無常感が控えられた分、躍動感とシンフォニックな広がりを感じさせる。 もっともファンとしてはラティマーのギター・プレイを堪能できると思うだけで胸が一杯なのだが。
  さて、改めてそのサウンドは、ファミリーともいうべきメンバーによるタイトでエモーショナルないかにもロックらしいものである。 存在感あふれるソロやギターとキーボードの巧みなコンビネーション(これが前二作には欠けていた)はいうまでもなく、チェロやストリングスなどのアクセントも効かせて、郷愁や希望といった心情を一期一会というキーワードの下に音楽としてみごとに昇華している。 作曲、アレンジ、演奏すべてにおいて傑出した内容といえるだろう。 一つ興味深い発見は、貫禄あるヴォーカルやときおり見せる生々しいギター・プレイが PINK FLOYD を思わせること。 ブルーズ・フィーリングに根ざした音楽ということで、同じようなところへ向かっているのでしょうか。 そして最大の魅力は、巧みなリズム処理とキーボード・アレンジによる軽やかなアンサンブルがこのブルーズ・フィーリングとバランスして、ポップスに不可欠である弾けるようなタッチがあるところでしょう。 随所に散りばめられたアラビア風味が、あたかも長い旅路の果てに砂漠へと戻ってきたような安堵感を呼び覚ます。 近年最大の名盤。 プロデュースはアンディ・ラティマー。 ところで CD ケース裏面(裏ジャケ)の砂を取り出そうとしたのは僕だけでしょうか?

  「Three Wishes」(6:58) 重々しいシンセサイザーのリフレインに鳴くようなギターが重なるオープニング。 砂漠の朝焼けを思わせる神秘的な幕開けだ。 生々しい感触で迫るギターは、デイヴ・ギルモアを思わせてびっくり。 それでもよく聴くと、ギルモアほどの濃い粘りはなくラティマーの音なのだが、ここだけ耳にしたら PINK FLOYD の新譜と思ったかも知れない。 しかし、一旦リズムに乗ってギターのリードするアンサンブルが走り出すと、もう完全に CAMEL 節である。 リズミカルで活気あるギターがリードするアンサンブルは、得意の奇数拍子(5 拍子)。 目をみはるドライヴ感と躍動感をもっている。 また、親しみやすいメロディ・ラインも健在だ。 ギターとキーボードのコンビネーションで押し引きを見せながら、グイグイと惹きつけてゆく。 魅力的なフレーズで走るギターに重なるように、フルートが流れ、ハンドクラッピングがドライヴ感を煽り、エキゾチックな情趣を効かせる。
   しなやかで深みのあるギター・ワークと躍動感あふれるアンサンブルに変わらぬ CAMEL を見た。 美しく豊かでポジティヴな力にあふれたそのサウンドに、ただただ酔うばかりである。 ブルージーで重たいソロ、蜃気楼が揺らぐ地平線へ駆け出してゆくようなポジティヴな演奏がフェード・インしてくるスリル、そして鮮やかなギターが飛び込めば、もう感動の余り鳥肌がたってしまうし、涙腺も緩みがち。 インパクトもある出色のオープニング・ナンバー。 インストゥルメンタル。

  「Lost And Found」(5:38) 切れ目なく続く 2 曲目はコードも同じであり、1 曲目の感動をそのまま持続できる巧みなイントロダクション。 何気ないが今度も 7 拍子の曲である。 アコースティック・ギターの刻むリズムとギターが追憶のように響くとヴォーカルが歌い始める。 男性的で力強い声だ。 チェロのオブリガートが仄かなシリアスさを醸し出す。 落ちつきあるバラード。 サビからギターのコードがリフを刻みリズムが入り始めると一気にアンサンブルは熱くなって動き出す。 ギターを受けてシンセサイザーのなめらかなソロ。 7 拍子にもかかわらずビートの効いたすばらしいアンサンブルだ。 そしてシンセサイザーを追いかけるギター。 巧みにブレイクしつつシンセサイザーと絡みながら進んでゆく。 このシンセサイザーとギターのコンビネーションこそ CAMEL の真骨頂だ。 そしてリズムが退いてアコースティック・ギターが響くとリズムの戻りとともにギターの独壇場が始まる。 ロングトーンを紡ぐギターの説得力は何物にも代えがたい。
   巧みなオープニングから力強いヴォーカル・アンサンブル、そしてインストでは得意のシンセサイザーとギターのコンビネーションを充分楽しめる作品。 1 曲目で少しにじんだ感涙をこの曲で振り払って、さあ次だという気持ちにさせてくれる。

  「The Final Encore」(8:07)重々しいリズムとシリアスなギターのメロディそしてざわめくようなシンセサイザーのフレーズ。 ミステリアスな幕開けだ。 オルガンのリフレインにギターのパワー・コードがメタリックにヘヴィに響くが、次第に柔らかなメロディへと変化しテンポも緩やかになる。 フルートとクラシカルなシンセサイザーが熱を冷ますように入るが、ギターはアラビア風のメロディで堂々と進み続ける。 リズムもエキゾチックで重々しい。 シンセサイザーのエキゾチックなリフレイン。 鈴の音。 そして歌いだすヴォーカルは悩ましげに沈み込んでいる。 守り立てるオルガンの厳粛な響き。 シンセサイザーの神秘的なオブリガート。 リズム・ブレイクを経てロマンチックなストリングスが湧き上がり、シンセサイザーが朗々と歌ってやや明るい調子へと変化するも、すぐに重いリズムが復活し、オルガンが厳かに鳴り響く。 再びギターはエキゾチックなメロディを刻み込む。 再びヴォーカル。 そしてヴァイオリン奏法のギターとシンセサイザー、うっすらと広がるコーラスがバロック調のドリーミーなアンサンブルとなる。 幻想的な空気が満ちる。 コーラスとシンセサイザーが波紋のように広がり、シンセサイザーがエキゾチックなメロディで歌う。 リズムの復活ととともにオルガンの伴奏でギターのしなやかに歌う。 最後は、緩やかなオルガンから神秘のコーラスが高まり、柔らかい長調の和音が安らかに響く。
  神秘的なムードにあふれた厳かかつヘヴィなナンバー。 ハードなロックへエキゾチックな民族/宗教音楽を巧みに持ち込んでいる。 前半は重々しい展開を見せ、後半のインストゥルメンタルではその重みを次第に美しく幻想的な物語へと昇華してゆく。 すばらしいストーリー・テリングだ。 コーラスや民族楽器はサンプリングだろうが、リアルな重みをもった音になっている。 歌詞にかつてのアルバムのタイトルが次々に現れる。

  「Rajaz」(8:15)アコースティック・ギターが憂鬱な和音を奏でるオープニング。 メイン・ヴォーカルも哀しく悩ましげだ。 弾き語りによる哀愁の物語である。 チェロによる間奏は哀しみとメランコリーに満ち、そのまま 2 コーラス目の伴奏としてヴォーカルを支える。 ここまでリズムはない。 続く間奏は、チェロとアコースティック・ギターによる厳かなアンサンブルに透き通るようなフルートが重なる美しいものだ。 謎めいた空気と哀感。 フルートの余韻はストリングスのざわめきと鼓動のようなベースに代わる。 ゆらめく蜃気楼のようなヴィブラートをもつエレピのリフレイン、そしてブルージーなギターが歌いだす。 そして再びヴォーカル登場。 メランコリーのなかに力強さも見えてくる。 サビで高まるストリングスとヴォーカル。 しかし、エレピのリフレインに引きずられるように重苦しいリズムへと落ち込んでゆく。 間奏は、泣きのブルー・ギター。 存在感あるヴォーカルがロジャー・ウォーターズを思わせる。 そして、再び粘りつくようなブルーズ・ギターへ。 言葉は少なく、胸のうちをまるで刻み込むように歌ってゆくギター。 ハーモニクスを交えて朗々と歌うギター。 圧巻である。
  重くメランコリックなバラード。 シンプルに反復するリズムに支えられて、泣きのヴォーカルとギターを前面にフィーチュアする。 弾き語り風に始まり、美しい中間部を経て、後半は思い切り泣きのブルーズ・ロックへと突き進む。 終盤のギター・ソロには、重く苦悩するような表情が浮かび上がる。 全体に、ブルーなサウンドで重苦しい心象風景を描いている。 ヴォーカルやギター・プレイのイメージは、何度もいう通り PINK FLOYD である。 意識的なものなのだろうか。 それともホワイト・ブルーズに洗礼された世代のミュージシャンとしての必然的な到達点なのだろうか。

  「Shout」(5:15)アコースティック・ギターの軽やかなストローク。 ヴォーカルは重い声ながらもうっすらと明るさも漂う。 それほど器用な歌い手ではないのだが、誠実さのにじみ出た円熟した歌である。 ギターのオブリガートや静かなオルガンなど、ウェットななかにアメリカン・ロック的な面も見られる。 間奏はおだやかなオルガン、シンセサイザーとギターの交歓。 パーカッションのビートも心地よい。 それにしてもヴォーカルはウォーターズ風である。 後半は、伴奏にスライド・ギターも加わったようだ。 サビの自然な昂揚感もいい感じだ。 シンセサイザー、オルガンとギターがおだやかに反応しあう演奏が続いてゆく。 名残惜しくなるような、すてきなエンディングである。
  ほのかなメランコリーと逞しい暖かみをともに感じさせるフォーク・タッチのナンバー。 本曲もヴォーカルはウォーターズに酷似。 すべてを優しく見守る年長者のような懐の広さと温もりを感じさせる。 まろやかなキーボードとクリアなギターのコントラストもいい。 本曲のメッセージは、元ドラムスのアンディ・ウォードに向けられているようだ。

  「Straight To My Heart」(6:23) 三度アコースティック・ギターで始まり、エキゾチックなフレーズを奏でてゆく。 応えるようにエレキギターが短く入り、ヴォーカルがけだるく歌いだす。 自らの歴史を解きほぐすような重く憂鬱な歌。 トラッドかカントリー風なアコースティック・ギター。 リズムとともにギターが鮮やかにリードしてアンサンブルが動き出すが、どこか暗さがある。 ピアノのバッキングでスライド・ギターがつぶやく。 ヴォーカルもギターのようにつぶやき疲れた酔っ払いのように歌を投げつける。 ドラムのきっかけでアコースティック・ギターが入りブルージーなギターがさらにそこへ乗ってくる。 どん底であえぐようなブルーなソロだ。 ハードな決めの繰り返しを経て一気にヴォリュームが上がりアンサンブルが戻りブルージーなギターのソロは次第に哀しみを帯びてくる。 再びリズムを失うがピアノのバッキングでアコースティック・ギターのリフレインが続く。
  アコースティックなフォーク・ナンバー。 ブルース、カントリー色が濃い。 酔った夢の中で思いをギターに託して歌い上げたが結局夢だったといった雰囲気のエンディングが面白い。 おそらくスライド・ギターを使っていると思うのだが、正しいだろうか。

  「Sahara」(6:44) 甘く切ないトーンのギターがエモーショナルな旋律を奏でる。 背景には優美だが冷気の漂う音色のシンセサイザーが満ち広がる。 囁き喘ぐように耳に迫るギター。 ジャズ、ブルーズ調の官能的なソロだ。 囁くソロはドラムのきっかけで一気に高音へと跳躍し高らかに歌い出す。 そして走り出すアンサンブル。 再び 7 拍子である。 軽やかに走るアンサンブルをリードするのはしなやかに歌うギター。 リズムが退き、シンセサイザーの民族楽器のようなグニョグニョいうリフレインからドラムの乱れ打ち、そしてギターがアラビア風のエキゾチックなリフレインを提示する。 リズムが戻り、ギターのアラビア風リフレインが続く。 歯切れよく存在感のあるギター・リフだ。 烈しくスピーディに叩き始めるドラム。 演奏の熱気が高まり、ギターはしなやかに自由自在に歌う。 シンセサイザーが奏でるエキゾチックなリフとともにギターが走る。 再びドラムが止み静かになると、ギターのヴァイオリン奏法が柔らかく音を散りばめる。 ギターを包み込むように涼しげに響くシンセサイザー。 そして消えてゆく。
   硬軟、緩急のコントラストを付けたギター・プレイを重ね、砂漠の官能と力強さを描く名作。 エモーショナルでジャズ・テイスト溢れるパット・メセニーばりのギター・アドリヴが冴える前半。 そしてタイトなリズムで走りつつソロを刻みつけてゆくギターがすばらしい後半。 さらにアラビア風のエキゾチックなテーマも得て、疾走し続けるカタルシス。 変拍子の快速アンサンブルは昔からの得意技だが、この曲ではオープニングの静かなシーンからの展開があるために一層スリリングに映える。 ラティマーの多彩な技を堪能できる。 インストゥルメンタル。

  「Lawrence」(10:46)シンセサイザーの奏でるファンタジックなイントロは次第に弦楽オーケストラのように重厚に響き始め、悲劇的ロマンあふれる旋律を奥行き深く響かせる。 そしてリズムが打ち鳴らされると、フルートが動物のような鳴き声をたてる。 シンプルなバッキングとともに、力強く男性的なヴォーカルが歌い出す。 伝説を語るように、哀歓をかみしめて淡々と。 時おりピアノやストリングスが湧き上がる。 悠然としたシンセサイザーの伴奏、ピアノとともにアンサンブルが動き出し、切々と歌い上げるヴォーカルを支えてゆく。 そしてギターが、思いを込めた歌を奏でてゆく。 力強いリズムと鮮やかなストリングス。 ヘヴィな存在感をもつギターは、次第に旋律に輝きを注ぎ込んでゆき、ストリングスが鮮やかにオブリガートする。 リズムは、密やかなマーチへと変化し、シンセサイザーが静かに流れる。 再び、圧倒するようなギターが空間を切り裂いて現れ、リズムもタイトに締まってくる。 ギターは、歌を彫りこんでゆく。 演奏は、力強く哀しく響き、ギターもそれに応えて高らかに鳴る。 ギターの余韻を惜しむようにベースが歌い、ギターは遠く去ってゆく。 マーチング・ドラムとベースの響き、そして遠ざかるストリングス。 鐘の音。
  砂漠の英雄アラビアのロレンスへの鎮魂歌。 シンセサイザーのオーケストレーションによる、スケールの大きい厳粛なイントロダクションがすばらしい。 ラクダの泣き声のようなフルートの調べに続いて現れるヴォーカルは風格を感じさせる。 壮大な叙事詩を語る詩人のようなイメージだ。 ピアノやストリングスに包まれたヴォーカル・アンサンブルだけでも十分にすばらしいが、さらに決定打を打つのが歌うようなギター・プレイである。 ストリングスと呼応しながらせめぎあうように歌い上げるギターに拍手喝采である。 微妙な音色を使い分け、絶妙のバランスをもつ押し引きの表現力を駆使する演奏は、曲想を完成されたイメージとしてしっかり伝えており、まさしく熟練の業師の仕事といえる。 あらゆる音がギターの松明に導かれてクライマックスの神殿へと上りつめ、虹色の雲を越えて輝き昇る太陽を固唾を呑んで見守るようなイメージが湧いてくる。 砂漠の純潔に殉した男の鎮魂歌として相応しい厳かで清らかな大作だ。


  圧倒的なギター・プレイとおだやかにして深みある音楽にひたることのできる傑作。 すべての曲においてテーマに向かい合う真摯なスタンスが感じられる。 これだと普通ならば重苦しさに息が詰まってしまうのだが、ラティマー氏のすごいところは、主題を描きながらもどこかで必ずホッと息をつけるような、微笑ませてくれるようなメロディを歌わせたり、視線をすっと移すように鮮やかな呼吸のアンサンブルを見せるところである。 中盤から後半には確かに重い曲もあるのだが、それでも朗々と歌うギターが、いつしかブルーな気持ちを透明に変えて空へと解き放ってくれる。 そして序盤はなんといっても、ドライヴ感にあふれたキーボードとギターのみごとなアンサンブルに尽きる。 ロックとして最高に贅沢なパフォーマンスを味わえる無上の感動、幸せ。 何という変拍子の処理の巧みさ。 汲み尽くせぬオアシスのようにエモーションに満ちたギターと朝焼けの光のようなシンセサイザーが描く素朴なファンタジーの力が、いつしか清潔さを極めた砂漠へと旅立つ夢を見させてくれる。 最終曲のギターが圧倒的な存在感を示しながら限りないイメージを伸びやかに歌い上げるのを聴いていると、この作品が幸運にも 21 世紀を前に僕らに届けられた新たな傑作にちがいないと確信できる。 CAMEL は年降るも変わらぬ歩みを見せている。

(PCCY-01414)

 Camel On The Road 1972

 
Andy Ward percussions
Doug Ferguson bass
Peter Bardens keyboards
Andrew Latimer guitars

  92 年発表のオフィシャル・ブートレッグ。 シリーズ第一弾「Camel On The Road 1972」。 「God Of Light」以上に 72 年の時点で「Lady Fantasy」や「White Rider」が演奏されているのにびっくり。 ライヴ・バンドとしての力量を感じさせる作品だ。

  「Lady Fantasy」(13:45)「Mirage」収録。
  「Six Ate」(6:11)「Camel」収録。
  「White Rider」(9:56)「Mirage」収録。
  「God Of Light」(14:24)「Greasy Truckers」収録。 バーデンスのソロ作品。 SANTANA 調のラテン色豊かなインスト大作。

(CP-003CD)


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