BARCLAY JAMES HARVEST

  イギリスのプログレシッヴ・ロック・グループ「BARCLAY JAMES HARVEST」。 66 年ランカシャーにて二つの R&B グループを母体に結成。 HARVEST と契約、70 年アルバム・デビュー。 本国ではアルバム・セールスは芳しくなく、70 年代中盤 POLYDOR 移籍後に、ようやくチャートインを果す。 70 年代後半はドイツを中心にヨーロッパで成功。 90 年代以降は離合集散を繰り返す。 2004 年 1 月ドラマーのメル・プリチャード逝去。
  サウンドは、たおやかなメロディを用いたデリケートなフォーク風シンフォニック・ロック。 初期は、オーケストラを用いた曲作りが特徴であった。 アルバムを経るに連れ、英国フォーク風のサウンドから、西海岸風の爽やかさとベールに包まれたような幻想性がともに強まり、一種独特な非現実感を伴うサウンドへと変化した。 最初期のオーケストラ・アレンジは、後に THE ENID を結成するロバート・ジョン・ゴドフレイによる。
  メンバーの考えが非常に詳しく書かれたホームページは一見の価値あり。

 Barclay James Harvest

 
John Lees guitar, vocals
Les Holroyd bass, vocals
Stuart "Woolly" Wolstenholme keyboards, vocals
Mel Pritchard drums

  70 年発表のデビュー・アルバム「Barclay James Harvest」。 オーケストラを大々的に取り入れ、サイケデリック・ロックから幻想的なバラード、シンフォニーとヴァラエティに富んだ内容である。 反面、アルバムを通した全体の印象はやや薄めかもしれない。 オーケストラ指揮は、ロバート・ゴドフレイ。 プロデュースはノーマン・スミス。 アルバム・ジャケットには、蝶をモチーフにしたステンド・グラスがあしらわれている。 2002 年のリマスター盤では、リズム・セクションやバック・コーラスが鮮明に甦っております。

  「Taking Some Time On」(5:31)オーヴァー・ダヴされたエレキギターによる、まるでフィドルのようにけたたましいリフが炸裂するオープニング。 ハイハットが刻む転がるようなビートとともに、クールなヴォーカルとカラフルなサイケ・ギターが走る。 ギター・リフが次第にインドの民族楽器のように聴こえてくると、60 年代末期の紫煙のイメージも強まる。 そのせいか、間奏における二つのギターとベースの絡みが生み出すグルーヴが、次第に浮遊感に変ってくる。 熱に浮かされたような間奏から一気に覚醒し、再びクールなヴォーカル・パートへ。 催眠効果のあるビートに浮かべられて、けたたましいギターが走り続ける。
  仰々しいギター・リフと呪術的なビートがグラマラスなサイケデリック・ロック。 けたたましいプレイとクールなヴォーカルの温度差がじつにカッコいい。 今思ったが、ひょっとするとギターのリフはバグ・パイプなのかも。 ふと THE BEATLES の「Revolver」を想い出すと、ヴォーカルも「I Am The Walrus」のジョン・レノンに聴こえてくる。 もしくは初期の TRAFFIC 辺りでしょうか。 いずれにせよ、60 年代ビートポップの魅力をもつ目の醒めるオープニング・ナンバーといえるでしょう。 ツイン・ギターの一方は、COLOSSEUM のジェームズ・リーサーランドによるともいわれています。 リーズの作品。

  「Mother Dear」(3:20) ストリングスの胸キュンな響きと、アコースティック・ギターのリズミカルなストロークによる伴奏が暖かいポップ・ソング。 メランコリックでロマンティックなストリングス、そしてサビでのベース下降とオブリガートは、もういかにもブリティッシュ・ポップ。 フォーク・タッチ風のヴォーカルは悪くないが、やや地味かもしれない。 それを救うための深いエコーもノスタルジック。
  このストリングス・アレンジも THE BEATLES 風。 フォーク・タッチのメロディが優美なストリングスを得て、すてきなポップ・ソングに変身した。 サビのマイナー転調はちょっと聴くとベタベタな感じだが、ストリングスによる上品なメランコリーに救われている。 弦楽で勝負するのも初期 BJH の特徴である。 リーズの作品。 おそらくヴォーカルはホルロイド。

  「The Sun Will Never Shine」(5:07)ひそやかなメロトロンがノスタルジーをかきたてるプロローグ。 静かなベースとピアノの伴奏で入ってくるヴォーカル。 PROCOL HARUM を思わせる導入部だ。 パストラルなヴォーカル・メロディ、そして静かに背景に満るメロトロン。 サビを迎えて一気にヴォーカルに力が入ると、バックにはギターがブラスのように湧き上がる。 ギターが目一杯引っぱりコーラスも入る。 ギターとメロトロンが、強力にクライマックスを盛り上げる。 しかし、メロディはあくまで優しくポップだ。 サビの後半、切ないヴォーカル・メロディから微妙な転調を経て、ドラムとギター、メロトロンが呼応しつつ見得を切る。 ややクサめな演出にも思わず納得させられてしまう作品だ。
  おだやかなヴォーカル・パートとドラマチックなサビを対比させたシンフォニック・バラード。 バッキングに徹しながらも、全体をリードするのは、しなやかなギター。 そして懐かしくも切ないメロトロンが、全編にフィーチュアされる。 ぼんやりした雰囲気を引き締め、流れを明確にするのは的確なベースのプレイ。 ウォルステンホルムの作品。

  「When The World Was Woken」(5:50)オルガンの柔らかな響き。 ベースが静かにワン・ノートでリズムを刻むと、ヴォーカルが歌い出す。 おちついたリズムとオルガンに支えられたヴォーカルは、たおやかさの中に独特の無常感が漂う。 クールなリヴァーブは、いかにも 60 年代調。 心くすぐる音質だ。 しかし、次第にスペイシーな広がりが生まれてくる。 これはオルガンに重なる雄大なオーケストラのせいだろう。 静かに刻まれるリズムとオルガン、そしてヴォーカル・メロディらによる不思議な静けさがいい。 間奏は、丹念なドラム・ビートにのせてストリングスとブラスがゆったりと絡みあい、雄大な空気が満ちはじめ、大きなうねりをつくってゆく。 やがてオルガンの伴奏が静かに湧き上がり、クールなヴォーカルが帰ってくる。 透き通るようなストリングスの響きがヴォーカルを支え、スケールの大きな演奏が続く。 オルガンとブラスの交歓から、再び美しいストリングスが響き渡り、ブラスの鮮やかな音色とともに消えてゆく。
  オーケストラをフィーチュアした英国情趣あふれるシンフォニック・バラード。 たゆとうような旋律とクールな歌声、そして、雄大なドラマを静かに語るオーケストラがとけあっている。 また、オブリガートやインストゥルメンタルの中に散りばめられたロマンチックなオルガンの響きは、まるで「Whiter Shade Of Pale」である。 管弦とドラム、ベースのバランスがよく、自然な昂揚と繊細な情感がうまく表現されている。 もっとも後半はやや管弦に頼り過ぎかもしれない。 それでもブリティッシュ・ロックらしい名曲です。 ホルロイドの作品。個人的に前半はとても好きです。

  「Good Love Child」(5:10) 派手なドラム・ピックアップ、ハードなギター・リフ、エネルギッシュなヴォーカルとたたみかけるオープニング。 ジンジンいうエレピのバッキングとドラミングも強烈。 サビはシンプルなリフレインと痺れるようなコーラスのかけあい。 そして、歯切れよいリフを聴きながら、ブルージーなギター・ソロ。 今度のサビはコーラスとギターがかけあい。 絶対フェード・アウトだと思ったが、意外にもギターがしっかり決めてくれた。
  快調なブリティッシュ・ビート調ロックンロール。 リフ、コーラスとの絡み、バッキングどこを取ってもギターが大活躍。 サビのコーラスがばっちり決まる。 にぎやかでサイケでちょっぴりカントリー・テイストもあるということで、まちがいなく THE BEATLES から WINGS へと引き継がれる音だ。 ということはリーズはポール? 前曲との落差も面白い。 リーズの作品。

  「The Iron Maiden」(2:43)静かなメロトロンとオルガンの響きをベースが追いかけるメランコリックなイントロダクション。 ギターのアルペジオと切ないヴォーカルが入ると、ほんのりトラッド調である。 すべてがゆったりと沈み込む中で、ベースの音が動きを感じさせる。 サビのコーラスとギターのオブリガートも、完全にフォーク・タッチ。 2 コーラス目からは、ヴォーカルにうっすらとヴォカリーズがかぶさる。 サビを経て、アコースティックなソロ・ギター。 ベースとのユニゾン・ハーモニーがいい感じだ。 そして、コーラスから再びサビ。 ベースが旋律をリードする。 最後は、メロトロンが最後は明るい和音を響かせて終わる。
  哀愁たっぷりのメロディを抑制された演奏が引き立てるフォーク・ソング小曲。 ほのかな甘みのある幻想性は、このグループの一貫した特徴である。 ヴォーカル・ラインを巧みになぞるベースの音と、寂しげなメロトロンが印象的。 いかにも英国らしいロックである。 ドラムレス。 ウォルステンホルムの作品。

  「Dark Now My Sky」(12:01)ティンパニがドォンドォンと鳴る。 やがて、一人の男が芝居がかった調子で語りはじめる。 狂気の笑い声とともにモノローグが消えてゆく。 クロスフェードで湧き上がるは、ヴァイオリンやブラス。 夜明けのように音が満ちわたり、ティンパニのロールから次第にメロディが形作られ、膨れ上がってゆく。 輝くようなブラスと劇的なストリングスによる、壮大な旋律がすべりだす。 雷鳴のようなドラム・ロールでためこんだ力をドラマチックに決め、粘りつくようなギターが歌い出す。 伴奏は劇的なピアノ。 力強く奏でるは哀愁のメロディ。 一転ストリングスのあまやかなアンサンブル。 再びギターが泣き、雄大なオーケストラとピアノがメロディを支える。 ピアノの低音やドラムが巧みに盛り上げる。 いくつも重なりあうギターと次第に前面に現れるヴァイオリン。 最初のクライマックスだ。 ピアノのスケールをきっかけに、潮がひくようにヴォリュームが落ちてゆく。
  ストリングスやギターが退き、ベースが静かにワン・ノートを刻み始める。 そして密やかに歌い出すヴォーカル。 一人語りのような内省的な雰囲気である。 ドラマチックなアンサンブルが戻り、ギター、ピアノ、オルガンによる重量感のある演奏が膨れ上がる。 再び演奏が消え、もの静かなベースとヴォーカルのデュオへと戻る。 再び、ティンパニのロールからロマンチックなストリングスとギターによるアンサンブルが湧き上がる。 ギターに重なるブラスの輝かしい音。 そして、雄大なストリングス。 オルガンとギターがアンサンブルをリードする。 ドラマチックなストリングスの低音が轟き、ギターも静かにスケールを降りてゆくと、コラールと優美なストリングスによる神々しい演奏が現われる。 チャーチ・オルガンとピアノによる厳かな演奏が続く。 やがてコラールにギターが重なりリズムが戻ってくる。 オルガンがストップをかけ、再び幻想的な響きが膨れ上がる。 天上へと登りつめるストリングスとブラス。
  バンドとオーケストラが真っ向から組み合った 12 分にわたる幻想のロック・シンフォニー。 イントロのシアトリカルなモノローグの意味はよくわからないが、不思議な世界に一気に引きずり込む効果はある。 前半、オーケストラの序奏からメロディが生まれて、一気に成長する様子は、じつにスリリングだ。 このままオーケストラだけでもいいのでは、という気にさえなる。 そのオーケストラにバンドが重なってくるところは、演出としてはドラマチックではあるのだが、やや濃厚すぎるかもしれない。 しかし、耳が慣れてくると、ギターのしなやかさに快感をおぼえ始めるのも事実。 後半うつむくような独唱と高潮する演奏の繰り返しから、輝くような管弦がなだれ込み、オルガンとコラールが幻想的かつ荘厳なムードを生み出すところは、問答無用の大感動。 管弦の調べと力強いバンド演奏が、独特のファンタジーをみごとに描ききっている。 THE ENID へとダイレクトに通じる世界といってもいい。 ウォルステンホルムの作品かと思ったが、意外やリーズの作品。 冒頭のモノローグはウォルステンホルムによるらしい。


  サイケなビートポップを基調に、リーズ中心のギター・ロックンロールとホルロイド中心のオーケストラ入りシンフォニーの両端を揺れ動く作品である。 演奏には安定感があり、どんな面白い曲を聴かせるかを課題としてさまざまなトライをしているようだ。 オーケストラのアレンジはポップス的な正攻法であり、バンドとのバランスもいい。 そして、サイケデリックな音質にもかかわらず、ぼんやりとした白昼夢のようなムードが強いところがユニークだ。 他のシンフォニック・ロックといわれるグループに比べると、オーケストラの導入や最終曲のモノローグ以外は劇的な見せ場や仰々しい展開とはあまり縁がない。 その控えめなところが新鮮であり、特徴となっているともいえるだろう。 オーケストラの使用以外にも、ソフトなメロディ・ライン、ハードなギター・プレイ、幻想的なコーラス、不思議なポップ感覚などブリティッシュ・ロックらしい魅力にあふれている。 弦楽とバンド・サウンドのやりとりは、やはり THE BEATLES がルーツなのだろうか。 さまざまな曲が並ぶためにトータルなイメージはやや希薄だが、可能性は感じさせる内容だ。 ややアメリカ指向でロックンロール好きと思われたリーズが、最終曲のような大作を手懸けているのが興味深く、次作への期待も高まる。 年代柄録音が今一つなのだが、ひょっとするとそのせいでボンヤリした雰囲気が強まり意図しない効果が現れているのかもしれない。

(Harvest SHVL 770 / EMI 07243 538 405 2 5)

 Once Again

 
John Lees guitar, vocals
Les Holroyd bass, vocals
Stuart Wolstenholme keyboards, vocals
Mel Pritchard drums

  71 年発表の第二作「Once Again」。 基本的には第一作の延長上にある作品。 ポップさをやや控えて、メランコリックなメロディを軸にシンフォニックなアレンジを採用したナンバーが中心である。 オーケストラは、本作でも積極的に用いられている。 キーボードとギターはドラマチックな表現でアンサンブルをリードしており、この器楽の充実とオーケストラの投入によって、全体に力強く雄大な調子がみなぎっている。 シンフォニックにしてデリカシーある名作「Mocking Bird」はライヴの定番。 この作品に象徴されるように、力強さのなかに浮き上がる、透き通るような繊細さと物憂くも暖かみあるタッチが魅力のアルバムといえるだろう。 中後期のユーモアすら感じさせる作風と比べると、この頃の作品には、まだ若さゆえの頑なさのようなものが感じられる。 オーケストラ指揮は、ロバート・ゴドフレイ。 プロデュースはノーマン・スミス。 アルバム・ジャケットは、よく見ると一作目の一部拡大。

  「She Said」(8:20)大仰なドラムとギターのストロークとともに幽玄なるメロトロンが湧き上がる、センチメンタルなオープニング。 ヴォーカルの表情は切なさの塊のようだ。 メロディ・ラインには、トラジックな重みと哀愁がある。 コーラスが深みと抱擁するような暖かみをもたらすのに対して、ギターはこらえ切れない思いのようにバッキング、オブリガートともにけたたましく鳴り続ける。 そして間奏はしなやかなギター・ソロ。 ドラム・フィルも気持ちいい。 再びドラマチックなメロトロン、ギターのコードのアクセントを経てヴォーカルヘ。 センチメンタルなヴォーカルをパワフルなドラミングとヘヴィなギターが支えてゆき、ロマンティックな甘さとハードな表情がバランスを保って進んでゆく。 再び間奏はしなやかにして決意にあふれるギター・ソロ。 そしてシンバルが打ち鳴らされると一気にすべての音が退いてゆく。 静けさの中、深いこだまとともにリコーダーによるメイン・テーマが洞窟に響きわたるように幻想的に浮かび上がってくる。 この静寂は安らぎ、それとも不安? そして、静かなスネアのロールとシンバルに呼び出されるように、柔らかくストリングスが響き始める。 湧き上がるストリングスの響きを断ち切るように、ギターが強烈に轟き、オープニングと同じアンサンブルが帰ってくる。 ロールを繰り返し、激しく打ち鳴らされるドラム、そして憂鬱に嘆き続けるギターの調べ。 ベース・ラインが俊敏にギターを支えてゆく。 サビのコーラスが繰り返される。 最後は鮮やかにギターが決める。
   やや悲劇的なニュアンスをもつ、ドラマティックな PROCOL HARUM 風ロック・シンフォニー大作。 マイナーのメロディを切々と歌い上げ、ギターとドラムスがパワフルにそれを支えてゆく。 立体感のあるヴォーカル・ハーモニーとオルガン、メロトロンによるロマンティックな空気とギター、ドラムスによるハードなサウンドがみごとにマッチする。 メロディアスななかに、強ばったような決然たる表情が浮かんでくる。 ハードなシンフォニック・ロックの名作だろう。 リーズのクレジットだがホルロイドの作品。

  「Happy Old World」(4:40) ベースのトレモロとオルガンだろうか、何とも分らぬノイズが一気に吹き上げ沈み込む、衝撃的なオープニング。 やがてメロトロンが静かに流れ出すと、ベースの伴奏でささやくような憂鬱なヴォーカルが始まる。 メイン・ヴァースでは切々と思いを歌い込むが(ベースの動きがみごと)、サビでは、オルガンにリードされて一気に力強さを取り戻す。 「Happy Old world」。 遠くこもったように響くかと思えば、アンサンブルに不思議なエコーをもたらすのはオルガンかストリングスか。 そしてサイケデリックなムードもある。 再び、高まるサビのポジティヴな力強さ、そしてオルガンには、ニューロック風のやや大時代なテイストあり。 後半、ピアノのソロが入ると、スペイシーなエコーはさらに強まり、ファンタジックなまま雰囲気がぐっと洗練されてゆく。
   サイケデリックな酩酊感を基調に、メランコリックな歌と活気あるサビを鮮やかにコントラストする佳曲。 伴奏では敏捷なベースと幻想的なキーボードを大きくフィーチュアしている。 ハモンド・オルガンの音色が、力強さと甘さを同時に感じさせる。 サビのリフレインがいつまでも耳に残る。 ウォルステンホルムの作品。

  「Song For Dying」(5:01) ロマンティックながら落ちつきを見せるピアノ伴奏とともにバラード調のヴォーカルが始まる。 サビでは、サイケデリックなリーズのギターが一気に高鳴りメロトロンが響き渡る。 ハーモニーも力強い。 2 コーラス目からはドラムも加わって、ミドル・テンポの堂々とした演奏が続く。 伴奏のピアノが高雅に全体を引き締める。 三度目のサビを経ると、メイン・ヴォーカルの繰り返しがメロトロンとともにどこまでも高まり、懸命な思いを伝えようとするかのごとくハーモニーがせめぎあう。 LED ZEPPELIN の「Thank you」を思い出すのはわたしだけでしょうか。 最後は遠くメロトロン・ストリングスがざわめき、ベースのソロが時を刻むように流れてゆく。
  AOR 調の 7th の響きが印象的なメイン・ヴォーカル・パートと、シンフォニックなサビが繰り返されるシンプルなバラード。 サビを支える泣きのギターは、いかにもリーズらしいプレイ。 また、サビのコーラスは、繰り返しごとに切実さが増してゆき、やや乱れるところすらも、かなえられない夢を訴えるようでかえってリアルである。 静かなメロトロンとベース・ソロによるエピローグが、いかにも挽歌らしい演出だ。 リーズによる反戦歌。 リード・ヴォーカルはホルロイド、ハーモニーがリーズと思われる。 なぜかエンディングのフェード・アウトが途中で無残に切られている。 地味かもしれないが、個人的には大好きな作品です。

  「Galadriel」(3:14) 愛らしいギターのアルペジオにメロトロン・ストリングスが重なる暖かいオープニング。 切ない表情で歌いだすリーズに、管弦楽が静かにオブリガートし、伴奏する。 金管の響きが新鮮だ。 ヴォーカルは、サビでは気高い表情も見せる。 ティンパニ、ブラス、ストリングス・アンサンブルが華やかに響く。 エンディングは再びギターのアルペジオとメロトロン。
  管弦楽が素朴なヴォーカルを支える、夢のように美しい小品。 弾き語り風のフォーク・ソングのたおやかなニュアンスを消すことなく、管絃の調べが厚みと広がりと色彩を与えている。 夢の世界への案内人のようなアルペジオを奏でるギターは、ジョン・レノンのエピフォンのギターだとか。 なんというか、形容しようのないほど優美で切ないメロディ・ラインである。 リーズの作品。 4 曲目でようやくリーズの声を聴くことができる。 個人的には、イタリアン・ロック的な世界を感じる。

  「Mocking Bird」(6:38) ギターが奏でるメランコリックなアルペジオ。 ベースとギターのハーモニクス、ドラムがアクセントを付ける。 密やかにして重みのある印象的なオープニングだ。 アルペジオをなぞるように歌い出す密やかなヴォーカル。 サビはギターのコード・ストローク、そしてアルペジオへと戻ってゆく。 散りばめられるパーカッション。 密やかな祈りのようなヴォーカル。 ギターのストロークは、いつのまにかブラスとストリングスへと交代する。 静かに、鮮やかにオーケストラがすべり込み、ティンパニも轟いてサビを盛り上げる。 パーカッションの響き。 ドラマチックなストリングスそして轟くティンパニ。 コーラスも加わったヴォーカルをオーケストラが悠然とリードする。 ストリングスが、やや沈んだ調子でリフレインすると、激しいリズムが始まり、一気に音量が上がってコーラスが入る。 そして、壮大なアンサンブルが走り出すのだ。 ギターも力強くリフを提示し、ブラスが後を追う。 激しいドラムとともに、ストリングスとギターのクラシカルなメロディがスリリングなハーモニーをなす。 ブラスが轟き、ギターとストリングスはクライマックスへと駆け上がる。 そしてストリングスは悠然とリタルダンド、重厚に響く。 激しくロールするティンパニ。 突き刺さるようなブラス。 ストリングスは、再び夢見るように優美に鳴り始め、ブラスとともに全てを回想するように響きわたる。 最後はイントロと同じようにアルペジオが去ってゆく。
   代表曲の一つ。 メランコリックな旋律による、やや感傷的なフォーク・ロックが、管絃の力を得て悠然かつ重厚なシンフォニーへと飛躍している。 哀愁漂うバラードはやがて中盤でオーケストラと融合を果たし、壮大なドラマとなってゆくのだ。 旋律を押し出す管絃は、呆然とするくらい力に満ちている。 さらにすばらしいのは、バンド演奏が管絃に呑まれることなく真っ向勝負を挑むことだ。 その緊張感は、ギターとストリングスのユニゾンでクライマックスに達する。 頂点を経た弦の響きも、激情を迸らせた後の浄化のように、切なく美しい。 全体に慈愛に満ちた演奏である。 ごくストレートな構成なのだが、素直に一直線に駆け上ってゆくところがよいのだろう。 オーケストラと真っ向組み合った本グループらしい作品であり、後々までライヴの定番となる名作である。 オーケストラ抜きの曲の母体はリーズによる。 切ないオープニングもいい。

  「Vanessa Simmons」(3:45) 優しげな弾き語りフォーク・ソング。 アコースティック・ギターのコード・ストローク、アルペジオも軽やかだ。 マイナー・コードを巧みに使ってサビをメジャーで抜ける展開やベース下降など、お約束のパターンながらも、前曲の重みからリスナーをたくみに救いだす。 ややディラン風の表情を見せるヴォーカルもいいのだが、のどかさの中に独特の雅な空気があるところが英国風というイギリスである。 サビのコーラス・ハーモニーは手折れそうなほどデリケート。 ドラム、ベースレス。
  アコースティック・ギター二本の伴奏によるシンプルな弾き語りフォーク・ソング。 おそらくタイトルの名前を持つ女性についてのお話だろう。 いかにもイギリスらしい繊細さと BIRDS などアメリカ風の爽やかさ/軽やかさが一体となっている。 劇的な大作の余韻のうちにすっと響き始め、流れを変化させる、巧みな曲配置といえるだろう。 リーズの作品。

  「Ball And Chain」(4:49) ヘヴィなギター・リフと重く粘っこいリズム、苦しげなシャウトによるブルージーなナンバー。 引きずるようなリフとともにギターがむぜび泣く。 シャープにコードを叩きつけるギターとともに歌いだすヴォーカルはけだるい。 ソウル調のオルガン伴奏とライド・シンバルのざわめき。 2 コーラス目では、熱くシャウトするヴォーカルをクールなベースが素知らぬ顔で、それでも巧みな呼吸でサポートする。 激しいドラムとともに力み返るサビ。 三度ヘヴィなギター・リフが入ると間奏は二つのギターが歌メロを変奏したソロで絡み合う。 ワウを効かせたブルージーなプレイだ。 ミックスでややギターに負け気味だが、よく聴くとオルガンのバッキングがカッコいい。 再びリフに導かれるヴォーカル。 苦しげに唸りブルージーな表情を見せる。 シャウトのサビそして得意のチョーキング・ヴィブラートを決めるギター。
   引きずるようなリフと「泣き」のギター、R&B 調のオルガン、粘りつくリズム、うねるベースなど、珍しくブルージーなヘヴィ・ロック。 多重録音されたギターの合間を縫って聴こえてくるソウルフルなオルガンのプレイが印象的だ。 珍しい作風といえるだろう。 ウォルステンホルムの作品。 しゃがれ声のヴォーカルにこもったような響きがあるのは、紙コップを通して歌っているせいらしい。

  「Lady Loves」(3:57) ロングトーンの切なく高鳴るギターと軽やかなピアノの伴奏で綴られるカントリー・フレイヴァーのある作品。 ヴォーカルは男っぽく落ちついた表情を見せる。 ギターは遠くヴォーカルをなぞり、ピアノはリズミカルに伴奏する。 マウス・ハープと思われるビョンビョンという音が面白い。 ギターはあたかもフィドルのようだ。 間奏では、二つのギターがオーヴァーダブされた得意のハーモニーを見せる。 そして、時おりきらめくピアノの伴奏で、土臭いヴォーカルが続いてゆく。 ハイハットを巧みに用いたドラミングもおもしろい。
  終始ヴォーカルがリードするスワンプ風のナンバー。 珍しく男っぽいヴォーカルとピアノが THE BAND を思わせる。 ただしサビの歌メロは、BJH 節というべきぐっと優しげなものである。 リーズの作品。 マウス・ハープはアラン・パーソンズが客演しているそうだ。 個人的には大好きな作風です。


  ほぼ前作の延長上の作品。 しかし、フォーク調のメロディに様々な味つけをするという基本路線がはっきりしてきたようだ。 ミックスのせいか前作よりもギター、キーボードのプレイが明確になり演奏に鋭さがある。 前作ではロックンロール風のナンバーでのみ目立っていたギターが全体でフィーチュアされていることや、メロトロンが頻繁に用いられているのも異なるところだ。 またオーケストラとの共演は二曲に絞られており、それぞれ密度の高い作品になっている。 まず取り上げたいのは、オープニングの「She Said」。 前半の好バラードと後半のスリリングなインスト・パートがコントラストをなすシンフォニック・ナンバーである。 構成のひねりがすばらしい。 次に大作「Mocking Bird」。 オーケストラとガッチリ組んだ一大スペクタクルである。 この方法はそうは何度も使えないが、必殺の一曲になったと思う。 また、この曲のメロディに象徴される、いかにも英国風のメランコリーと甘美さは全編に満ちている。 ただのフォーク・ロックとはかたづけられない味わいがあるのだ。 また、意外にも、ディラン風、THE BEATLES 風、THE BAND 風など、さまざまなスタイルの演奏をやすやす演ってのける器用さもある。 安定した技巧、柔らかなメロディそして豊かなアイデアをもつ作品である。
  弱点は、落ちつきや安定感に対比すべき予想外の展開やブッ飛んだプレイがないため、全体の印象が地味になり、やや平板に聴こえてしまうこと。 フォーク・タッチの繊細なメロディ・ラインの味わいも、聴き込まないと分からない。
  なお一、二作目のオーケストラ・アレンジは、後に THE ENID を結成するロバート・ゴドフレイが担当した。
(Harvest SHVL 788 / EMI 07243 538 406 2 4)

 And Other Short Stories

 
John Lees guitar, vocals
Les Holroyd bass, vocals
Stuart Wolstenholme keyboards, vocals
Mel Pritchard drums

  71 年発表の第三作「And Other Short Stories」。劇的なチェロの調べで幕を開ける本作は、アコースティックなサウンドを主体にさまざまな曲想の作品が並んでいる。 前二作での試みは着実に結果を生み、オーケストラを完全に楽器の一つとして使いこなしたシンフォニックなアレンジは、これまでで最高。 タイトル通り、比較的短い曲を集めており、曲数も今までで最も多い。 オーケストラ・アレンジはマーティン・フォードに交代。 プロデュースはウォーリー・アレンとグループ。

  「Medicine Man」(3:56)ドラマチックなストリングスに導かれて始まるメランコリックなヴォーカル。 声質は甘いが哀愁を引きずった歌である。 叙事詩的雄大さでヴォーカルを彩るストリングス。 しかし、スケールの大きな演奏が呼び起こすのは、意外にもフォーク調のひそやかな曲想である。 リズミカルなアンサンブルとともに奏でられる管弦の響きが、歌とともに次第に明るさを帯びてゆく。 フェード・アウトは残念。
  管弦楽の調べとともに、冒頭から一気にクライマックスへと登りつめるシンフォニック作品。 雄大なオーケストラとメランコリックな歌メロのコンビネーションがさえている。 ただし、あまりにあっさり終って拍子抜け。 ストリングスを入れずとも、フォーク・ロックとしてとてもすてきな雰囲気を持っているように思う。 ブラドベリの小説からインスパイアされたリーズの作品。 ヴォーカルもリーズ。

  「Someone There You Know」(3:47)ヴァイオリン奏法による柔らかなギターと淡いメロトロンに支えられた優美なヴォーカル。 始まりはバラード風だが、すぐにサビを迎えてピアノも加わり、一気にラウドに盛り上がる。 激しいドラミングとリーズらしい泣き叫ぶギターのオブリガート、そして力強いヴォーカル。 再び、静かなヴォーカルとギター、エネルギッシュなアンサンブル。 ギターに煽られるようにヴォーカルも叫び、ギターも応える。 次第に落ちつきを取り戻し、静けさが戻る。 そして、再びラウドに盛り上がるサビ。 ギターと呼応しながらヴォーカルが次第に落ちついてゆく。 三度ヴォーカルからエネルギッシュに盛り上がって、最後はメロトロンの響きとともに「Someone There You Know」を繰り返しつつ消えてゆく。
  バラード風のメイン・ヴォーカル・パートからなめらかにサビへと盛り上がるメロディアスなナンバー。 ナチュラルな抑揚がいい。 繰り返しのみというシンプルなつくりだがメロディ、ヴォーカル・コーラスのよさとメロトロン、ヴァイオリン奏法のギターによる控えめながらシンフォニックなツボをおさえたアレンジでもたせている。 ウォルステンホルムの作品。 ヴォーカルもウォルステンホルム。

  「Harry's Song」(3:52)アコースティック・ギターのコード・ストロークとベース、ピアノが絡むカッコいいオープニング。 そしてヴォーカルはカントリー調である。 ピアノとベースのリードする演奏には黒っぽいうねりがある。 グルーヴィなヴォーカルと対照的に繊細なコーラス。 コード主体のギターのオブリガートも切れ味よし。 サビの「Just Don't Get」が、何ともカッコいい。 後半はパーカッションが加わり、ピアノ伴奏が低音へと変化する。 最後はヴォカリーズが幻想的に響いておわる。
  ベース、ピアノのコンビネーションがすばらしい西海岸風のナンバー。 特にアンサンブルをリードするベース・ラインが耳にのこる。 グルーヴィなリズムと珍しくワイルドな感じを前面に出している。 一瞬のクールなヴォカリーズの挿入もいい感じだ。 ウォルステンホルムの作品。 ヴォーカルはリーズと思われる。

  「Ursula(The Swansea Song )」(2:54)アコースティック・ギターの刻むリズムとメロトロンの響き。 そしてリードは管楽器のようなオルガンである。 田園風のおだやかなオープニングだ。 素朴なヴォーカルがいい味わいだ。 サビは典雅なマイナーだが、すぐにフォーク・タッチのメジャーで浮き上がりオルガンが柔らかくこだまする。 ふと気がつくと遠い潮騒のようにストリングスも響いている。 メロトロンだろうか。 ストリングスの響きは自然で暖かい。 ややせわしなくフェード・アウトするのは CD 編集のせいだろうか。
  「Someone There You Know」と関連しているらしい優しいヴォーカルのフォーク・ナンバー。 切ないヴォーカルとキーボード主体の優美なアンサンブル。 暖かいそよ風のようなナンバー。 ウォルステンホルムの作品。 ヴォーカルもウォルステンホルム。

  「Little Lapwing」(4:56)ブルージーなアコースティック・ギターの弾き語りによるカントリー・ナンバー。 ギターのチョーキングやコーラスの取り方が、いかにもカントリー風である。 ストリングスはフィドルを思わせる音で、次第に存在感を現してくる。 アコースティック・ギターのコード・カッティングとともに次第に厚みを増す音。 そしてストリングスの静かな響き。 ブレイクからリズムが入ると、一転して、ストリングスが高鳴り、ピアノとともにスケール大きい演奏へと膨らんでゆく。 ブラスのおだやかな響きと劇的なピアノのリフレイン。
  管弦を加えたセンチメンタルなカントリー・ソング。 どうってことない曲だがアコースティック・ギターの透明な響きやコーラス、そしてフィドルやキーボードのソフトな音色の組み合わせの妙が味わえる。 さらに、中盤リズムが入ってからの巧みなストリングス・アレンジが、なめらかに曲のスケールを広げてゆく。 最後のピアノとブラスのやり取りはビッグ・バンド・ジャズ風である。 たおやかなメロディを取り巻くインストの変化はなかなかプログレッシヴ。 ホルロイドの作品。 ヴォーカルもホルロイド。

  「Song With No Meaning」(4:21)美しい 12 弦アコースティック・ギターのアルペジオによるオープニング。 アコースティック・ギターとベース、そしてワウを使ったエレキギターのバッキングが、穏かながらも鮮やかである。 繊細な響きをもつコーラスとドリーミーなスキャット、エレキギターの間奏が、絶え間無く鳴り続けるアコースティック・ギターの中を流れてゆく。 エレキギター・ソロの金属的な音色が、アンマッチのようでいて不思議な効果を上げている。
  アコースティック・ギターが、あたかも蜂の羽音のように眠気を誘うドリーミーなフォーク・ソング。 典型的な BJH の作風の一つ。 リーズのエレキギターが、さまざまな奏法でバッキングを工夫している。 ホルロイドの作品。

  「Blue John Blues」(6:50)静かなピアノの弾き語りによるイントロダクション、ほのかなカントリー・テイストは、THE BEATLES よりは、キャロル・キングか THE EAGLES だろう。 空しさと懐かしさを混ぜ合わせたような、複雑な心持ちを歌っているようだ。 リズムが入り、物語は静かに幕を開ける。 ギターとユニゾンするヴォーカルが「Get Back John」と決めると、オルガン、ファズ・ギターが轟き、一気にアンサンブルが動き出す。 ピアノの刻むコードとフィドルのように鳴くスライド・ギター、たなびくオルガン。 逞しいベース・ラインとピアノ、ギターの伴奏で遠い昔語りが続く。 盛り上がりの直前は、メランコリックなメロディで沈み込み、サビでは一気にカントリー風の力強いリフレインを見せる。 オルガン、ギターによる分厚い演奏。 そして、ヴォーカルは強烈にデフォルメした表情で烈しく叫ぶ。 ホンキートンク風のピアノとギターのカッティング。 ヴォーカル・リフレインとギターが重なる。 オルガンの響きを残して、フェード・アウト。
  昔語りを素材にしたメランコリックなウエスト・コースト風のナンバー。 郷愁あふれるヴォーカルによるメイン・パートとサビに入る前の沈んだメロディが切ない。 サビは一気にブルーズの思いが噴き出す。 そしてサポートするベース、ギター、ピアノのプレイがそれぞれに個性的だ。 ウエスト・コースト風味はスライド・ギターによる鳴くようなオブリガートのせいでもある。 後半、ミック・ジャガー調(それとも、タイトルからするとジョン・レノンだろうか)のデフォルメを効かすヴォーカルとオルガン、ピアノ、ギターがつくり出す黒っぽいグルーヴもおもしろい。 リーズの作品。 ヴォーカルもリーズ。

  「The Poet」(5:33)静かに湧き上がる哀愁のストリングス。 フルートのような頼りなげな音はメロトロンだろうか。 そしてストリングスのテーマを受けてオーボエが静かに歌いはじめるオープニング。 ストリングスは柔らかくヴォーカルを招き入れる。 オーボエは子供の声のようなピュアな響きでヴォーカルを彩る。 敬謙さを感じさせるヴォーカルと高く低く渦巻くストリングスそして透き通るようなオーボエの響き。 優美だが厳かな哀しみを秘めた演奏である。 ブレイクを挟んでは思い出したように演奏が続いてゆく。 オーボエのオブリガートが美しい。 次第にストリングスがヴォリュームを上げ雄大に歌い上げる。 ブラスも鳴り響く。 ティンパニの轟きからギターがパワー・コードを力強く叩き付ける。 ティンパニがロールするとすでにラスト・ナンバーへと入っている。
  美しい管弦をバックに歌うバラード。 中世的なヴォーカル・メロディを支えるストリングスは哀感を流れに蓄えさえずるようなオーボエがその哀感をかきたてる。 最後の悩ましくも盛り上るストリングスはベートーベンのように感動的。 ほぼオーケストラとヴォーカルのみからなる作品である。 そして雄大な管弦の旋律からバンドを飛び込ませラスト・ナンバーへつなぐアレンジは劇的。 ウォルステンホルムの作品。 ヴォーカルもウォルステンホルム。

  「After The Day」(4:05)前曲のティンパニ、オルガンとクロス・フェードしてチェンバロ、エレピのアルペジオとヴァイオリン奏法ギターによる切ないメロディが流れだす。 キーボードのアルペジオ伴奏で静かに歌い出すヴォーカル。 サビはギターに合わせてやや荒っぽいコーラスが加わる。 おだやかなヴォーカル・パート。 ギターのオブリガートに導かれてコーラスが加わるサビ。 間奏はドラムが入り、メロトロンをバックにギターが力強いソロで歌い上げる。 再びキーボードのアルペジオとヴァイオリン奏法ギターのアンサンブル。 いきなりサビに入るとコーラスとギターが切なく響く。 再び間奏へと入ると今度はドラムとともにメロトロン、ギター、さらにはオーケストラまで加わってシンフォニックにスケール・アップする。 分厚い演奏をバックに切々と歌い上げるギター。 最後はドラム・ロールを経てハルマゲドンの爆音で総てが消えてゆく。
  アコースティックなナンバーが続いたが最後は劇的なシンフォニック作品である。 イントロのチェンバロ、エレピ、ヴァイオリン奏法ギターによるアンサンブルは地味ながら実にいい感じだ。 そしてキーボードとギターの伴奏に支えられた短調のメイン・ヴォーカルに漂う乾いた情感が味わい深い。 ギターとメロトロンそしてオケによるドラマチックな間奏はまさにシンフォニック・ロックといえる熱い名演である。 歌詞は核戦争ですべてが消え去った後の光景を歌う衝撃的な内容である。 小品集のイメージを最後で覆す傑作。 リーズの作品。 ヴォーカルはウォルステンホルム。


  管弦によるアレンジ含め、アコースティックな音を活かしたフォーク風のファンタジックな楽曲で充実した作品。 オーケストラはアレンジの手段として的確かつ集中的に使用されるようなっている。 特に最終曲はすばらしいでき映えだ。 また、ウォルステンホルムやホルロイドの作品がいかにもこのグループらしい優美なメロディック・サウンドであるのに対して、リーズは積極的に様々な方向へとアプローチしてそれぞれに質の高い作品を生んでいる。 それでいながら全体に散漫な印象を与えないのは、アコースティックな美しさを強調した幻想的なサウンドという通奏低音があるせいだろう。 どこを取っても美しいメロディとパストラルなアンサンブルがある。 オーケストラ嫌いの僕でも、このアルバムのサウンドの湛える淡い情感には魅せられる。
(Harvest SHVL 794 / EMI 07243 538 407 2 3)

 Early Morning Onwards

 
John Lees guitar, vocals
Les Holroyd bass, vocals
Stuart Wolstenholme keyboards, vocals
Mel Pritchard drums

  72年発表の「Early Morning Onwards」。 初期三作からの抜粋とレア・トラックを含んだコンピレーション・アルバムである。 僕が初めて聴いた BJH のアルバムだ。 したがって、ここのコメントがオリジナル・アルバムへの感想と大幅に異なる可能性があるが、第一印象を記録しておくという意味で敢えてそのままにしてある。 耳の悪さが露呈すると同時に、第一印象の意外な面白さが発見できるかもしれない。
  録音のせいもあるのだろうが、初期のナンバー「Early Morning」(2:32)や「Brother Thrush」(3:05)は、「夢見る」コーラス、「夢見る」ギターと、全てに「夢見る」をつけていいほど茫洋としたサウンドである。 そんな中で、「Poor Wages」(2:30)は、リズムがはっきりしており、フォーク・ロック調ながらもギターとピアノがドラマチックに盛り上げている。 「Mr.Sunshine」(2:53)は、アコースティック・ギターの伴奏とパーカッションを活かしたカントリー・フレイヴァーあふれるナンバーであり、リコーダーのメロディが印象的である。
  強烈な演奏としては、第一作からの「Taking Some Time On」(5:28)が印象に残る。 ブルース/カントリー風のテイストをもつ、うねるギターのリフと叩きっぱなしのドラムによるサイケデリックで呪術的な雰囲気が特徴的だ。 また、ほとんどの曲がフォーク調なのも特徴か。
  ストリングスやブラスやティンパニなど、オーケストラの入れ方はきわめて効果的であり、淡い色のサウンドにみごとなアクセントをつけている。 特に第二作からの「Mocking Bird」(6:35)は、メランコリックなフォーク風のオープニングから次第に管弦楽が増えてゆき、やがてはオーケストラとバンドが一体となってダイナミックに演奏を盛り上げていく。 名曲だろう。
  第三作からの「Song With No Meaning」(4:17)は、エコーの効いたコーラスやワウやエフェクトを効かせたギターらがスペイシーな雰囲気を作る少し変った曲。 ポコポコいうパーカッションがドイツ風かもしれない。

  CARAVAN を思わせる明確でハードなロック調の曲(「Child Of Man」(3:17)や第三作収録の「After The Day」(4:39))などギターのジョン・リーズの作品は、バンド名クレジットの作品とはかなり雰囲気が異なる。

  「Early Morning」(2:32)68 年発表のシングルより。 モノラル録音にステレオ効果を出す処理をしてあるとのこと。 弦楽とメロトロンをたっぷりフィーチュアしたいかにも BJH らしいクラシカルなバラード。 特にオープニングの重奏が印象的。

  「Poor Wages」(2:30)69 年発表のシングルより。 ギターのコード・ストロークにピュアで気負った若者らしさが感じられるセンチメンタルなビート・ナンバー。 リーズ特有のけたたましいギターも一瞬現れる。 ピアノもフィーチュア。

  「Brother Thrush」(3:05)69 年発表のシングルより。 THE BEATLES を思わせるひねったアレンジとコーラスにほんのり西海岸風味も漂わせたマジカルなナンバー。 キャッチーなサビと謎めいた雰囲気のブレンドがみごと。

  「Mr.Sunshine」(2:53)68 年発表のシングルより。 モノラル録音にステレオ効果を出す処理をしてあるとのこと。 フルート、パーカッションをフィーチュアした弾き語り風のナンバー。

  「Taking Some Time On」(5:28)第一作より。
  「Mother Dear」(3:15)第一作より。
  「Mocking Bird」(6:35)第二作より。
  「Song With No Meaning」(4:17)第二作より。
  「I'm Over You」(3:49)72年発表のシングルより。
  「Child Of Man」(3:17)72年発表のシングルより。
  「After The Day」(4:29)第三作より。

(EMI/Starline SRS 5126 / BRIM001)

 Baby James Harvest

 
John Lees guitars, vocals
Les Holroyd bass, mellotron, organ, piano, vocals
Stuart "Woolly" Wolstenholme piano, organ, mellotron, bells, tam tam, vocals
Mel Pritchard drums, percussion

  72 年発表の第四作「Baby James Harvest」。 リーズのギターが前面に出た作品が増え、幻想的なアンサンブルにロックっぽい力強さとポップ感覚が加わった作品。 ブラスの導入などインストゥルメンタルに工夫を凝らし、巧みな構築性を見せはじめたのも特徴かもしれない。 アルバム・タイトルは、ジェームス・テイラーの「Sweet Baby James」のパロディだそうだ。 この独特のユーモア感覚は、後々のアルバムにまで引き継がれてゆく。 HARVEST での最後の作品となるも、プログレッシヴな躍進を感じさせる作品である。 プロデュースはグループ。

  「Crazy(Over You)」(4:10)二つのギターによるセンチメンタルなハーモニーが繰返されるオープニング。 うっすらと響くメロトロンと、クールな奥行きをもつエレピ。 そして、もの静かなホルロイドのヴォーカルが歌い出す。 サビは、リーズも加わった甘く熱っぽいコーラスである。 再び、ギター・ハーモニーとオルガン・リフが高鳴る。 けたたましい演奏は一旦ベース・リフに静かに受けとめられ、にじんだようなエレピがつぶやく。 そして静かに湧きあがるメロトロン。 エレピが幻想的に響き、ヴォーカルがささやく。 再び、熱っぽいサビのコーラス。 ギターのハーモニーに重なるように歪んだギターのパワー・コードが轟き、リーズのソロが追いかける。
  甘くメランコリックなラヴ・ソング。 リーズらしい泣きのギター・ハーモニーや熱っぽいサビのコーラスに対し、メイン・ヴォーカルはクールな憂愁を感じさせ、いかにもブリティッシュ。 ヴァイブのように熱気をクール・ダウンし、神秘的な余韻ももつエレピもいい感じだ。 ヴォーカル、キーボードもホルロイド。 コーラスにはリーズの声が聞こえる。 ホルロイドの作品。

  「Delph Town Morn」(4:43)開放弦を活かしたアコースティック・ギターのコード・ストロークによるメランコリックなイントロダクション。 ピアノがリズミカルに和音を刻みリーズが歌い出す。 オブリガートはブラス。 ゴージャスなビッグ・バンド風のアレンジである。 ブラスはヴォーカルを支え力強い流れをつくる。 再びアコースティック・ギターのコード・ストロークがクールな表情を取り戻すも、スワンプ風のピアノとブラスのコンビネーションが、リーズのポジティブなヴォーカルを力強く盛り上げる。 最後は、サックスによるダイナミックなソロが飛び出す。 クリアーな音色とスピード感が新鮮だ。 分厚く轟くブラス・セクションに支えられてサックスが走る。 フェード・アウト。
  フォーク・タッチの歌とダイナミックなビッグバンドを組み合わせた CHICAGO 風のブラス・ロック。 オーケストラではなくブラス・セクション、サックスをフィーチュアするところが新機軸だ。 ブラスの熱気とアコースティック・ギターの sus4 の響きによるクールネスが、絶妙のバランスを見せる。 歌メロもリーズの声も甘めなのだが、どこか醒めたようなところがいかにも BJH らしい。 ブラス・ロック独特のゴリ押しをフォーク風のメロディで和らげ、仕上げは、思い切りジャジーなサックス・ソロでまとめた好作品。 ブラス・セクションはブライアン・デイによる。 リーズの作品。 ヴォーカルもリーズ。

  「Summer Soldier」(10:24)教会の鐘が鳴る。 兵士の行進と叫び声。 銃撃と爆音が続く。 哀しみを象徴するように鐘は鳴り続ける。 「Kill」という叫びは、こだまのように繰り返され、次第に捻じれ、ノイズとなって消えてゆく。 クロス・フェードで鳴り響く勇ましいマーチング・ドラム。
  フェード・インするアコースティック・ギターのコード・ストロークがパストラルな空気を吹き込む。 ベースが響き、郷愁あふれるヴォーカルが歌い出す。 おだやかに鳴り続けるアコースティック・ギター。 カントリー・フレイヴァーあるフォーク・ソングである。 兵士の夢見る故郷のイメージだろうか。 歌を彩るのは、エコーを効かせたスライド・ギター(メロトロンだろうか)。 シャープなドラム・フィル。 2 コーラス目からはギターのアルペジオも加わり、リズミカルなヴォーカルを支える。 間奏はワウ・ギター・ソロ。 ギターの呼びかけにドラムが積極的に応ずるかけ合い。 再び、落ちついた伴奏とともにヴォーカル・パートへ。 ヴォーカルは、高く歌い上げてはうつむくように沈みこむ。 アコースティック・ギターのきらきらとした音。 再び浮かび上がるワウ・ギター・ソロ。 何かにかみつくようなアグレッシヴなソロだ。 そして、左右のチャネルにふれる躍動感たっぷりのドラミング。 しかし、突如現れたギターのパワー・コードは引き裂くように轟き、アルペジオと鉄琴、ノイジーな効果音が機械的に交互に響いて、フェード・アウトしてゆく。
  沈黙から突如高鳴り轟くのは、ギターによる強烈なテーマ。 憂鬱にして力強いメロディを、メロトロンとともにヘヴィに歌い上げる。 そして、エコーを効かせたヴォーカルが空ろな表情で歌いだし、幽玄なるメロトロンから古式ゆかしいストリングスが立ち上る。 次第にリズムを取り戻すアンサンブル、そして、問いかけに応えるような決然としたヴォーカル。 ヴォーカルは重ねて録音されているようだ。 再びギターとメロトロンによる力強いテーマが現われる。 深いエコーのかかったヴォーカルは、幼子の問いかけのように頼りないささやきだ。 そして自ら決然と応えるヴォーカル。 このヴォーカル・パートはあたかも対話のようだ。 劇的な演奏である。 三度ギターのテーマが高鳴る。 幾重にも重なりあい悲鳴のように高鳴るギターのテーマ。 メロトロンが静かに包み込んでゆく。 オルガンの音は THE BEATLES を思わせる。 フェード・アウト。
  ギターをフィーチュアし、戦争の空しさを訴えるドラマ仕立ての大作。 おおまかに 3 部から構成されているようだ。 効果音を用いた衝撃的なオープニングから始まり、アコースティック・ギターによるアーシーでおだやかなフォーク・ソングは次第にブルージーな調子へと変化し、やがて、ギターによる重厚なテーマが提示され、メロトロンとともにシンフォニックな演奏へと流れ込む。 前半はアコースティック、エレキと複数のギターをフィーチュアしたアメリカンな音作りである。 最後のヴォーカルの問いかけと応えは、何を現しているのだろう。 重苦しい主題を、シンフォニックかつメロディアスな耳に優しい語り口で伝えている。 テーマは、エレキギターが複数がオーヴァーダブされており、分厚く悠然たる響きをもっている。 伴奏のメロトロンもいい。 第二作収録の「Song For Dying」に続くリーズの反戦歌。 ヴォーカルもリーズ。

  「Thank You」(4:24) オーヴァー・ダブしたジャジーなギター・リフがけたたましく鳴り響くイントロダクション。 ピアノが刻むコードに乗って軽快なヴォーカルが歌い始める。 ヴォーカルはごくシンプルなリフレイン。 ギター・リフとピアノが生むビート感が心地よい。 後半はリフをはさんで延々とギター・ソロ。 リフ、コード・ストローク、ソロとエレキギターが重ねられている。
  カントリー・フレイヴァーたっぷりの軽快なロックンロール。 デビュー作の 1 曲目のようにギター・リフがにぎやかだ。 リーズの作風にはウエスト・コーストの音の影響があるようだ。 Thanks Credit をそのまま歌詞にするというアイデアは、いかにもこのグループらしいユーモア感覚である。 (10CC のメンバーへの謝辞もある) 本曲も複数のギターがオーヴァーダブされている。 ピアノはホルロイド。 リーズの作品。 なお、本曲のの録音にウォルステンホルムは参加していない模様。

  「One Hundred Thousand Smiles Out」(6:04)フェード・インするピアノ。 和音を繰り返すおちついた演奏だ。 ヴォーカルもひそやかに歌い出す。 アクセントをつけるドラム。 ストリングスが低音でざわめき、ギターの華麗なアルペジオが始まる。 早くも叫ぶギター。 メランコリックに、次第に熱くなるヴォーカル。 ギターがオブリガートする。 パワー・コードも響く。 そしてエコーの深いギター・ソロ。 ややテンポも上がる。 再び、安らかなピアノ伴奏でヴォーカルが戻る。 そしてギターが泣き始めるとサビの繰り返しである。 ヴォーカルは次第に熱をおびてくる。 パワー・コードとベンディングが追いかける。 そしてソロが飛び込む。 ギターは伴奏のパワー・コードと二つのソロがオーヴァー・ダブで絡み合う。 切なく泣くギター・アンサンブル。
  オーヴァー・ダビングされた「泣き」のギター・アンサンブルと美しくも憂鬱なヴォーカルがマッチした好バラード。 歌詞のテーマは、宇宙空間に取り残された飛行士。 メランコリックなメロディと泣きのギターのコンビネーションは、もはや十八番の域である。 PINK FLOYD っぽさがあるのは、偶然だろうか。 リズム・キープを越えたドラムの表情つけにも注目。 ヴォーカル、ピアノはホルロイド。 ホルロイドの作品。 本曲の録音にもウォルステンホルムは参加していない模様。

  「Moonwater」(7:22)遠く響くオーケストラ。 遥か地平線を太陽が昇ってゆくようなイメージ。 そして、ブラスとハープを背景にヴォーカルが切々と歌い始める。 優美にして幻想的なイントロだ。 一瞬オーケストラがぐっと力を発揮しどよめくが、再び柔らかく映像的なサウンドでヴォーカルを支え、さまざまなアンサンブルがメロディに巧みに色をつけてゆく。 たおやかなヴォーカル。 ストリングスが不安をかきたてるような和音を響かせると、一気にブラスが湧き上がり、ドラマチックなクライマックスがやってくる。 再び静けさは戻り、フルートやオーボエが柔らかく響きあう。 そして、波が打ち寄せるようにストリングスが流れる。 しかし、ティンパニが轟き、険しい表情へと変化した管弦が轟音で唸りをあげる。 再び、明朗なブラスと優美なストリングスの演奏から次第に静けさを取り戻す。 やがて、演奏は神々しいまでのスケールへと膨れ上がり、管弦が宇宙に満ちわたる。 ブラスの低音から次第に駆け上り、遂には、高音の力強いユニゾンへと収束してゆく。 雄大なメロディが轟く。
  ウォルステンホルムが作曲したオーケストラ・パートにメンバーが演奏を付け加えた作品。 前半は、ディズニーのファンタジアやハリウッド・ミュージカルを思わせる幻想的かつ雄大な歌ものであり、中盤からはマーラーからガーシュインまでに通じる管絃打楽器が織り成すフル・オーケストラ・インストゥルメンタルである。 特に後半は、楽器の特性を活かしたダイナミックにして繊細なニュアンスのある演奏を堪能できる。 BJH は「Mocking Bird」でオーケストラとの一本勝負を見事にこなし、前作では遂に「楽器」として使いこなすようにもなり、すでにオーケストラとの共演については知り尽くした感もある。 財政難も手伝って本作を最後にオーケストラと別れを告げるわけだが、この曲は今までご苦労さんという手向けの曲ではないだろうか。 いずれにせよ、作曲者としてのウォルステンホルムを強く印象づける作品である。


  前作とはうってかわって、ギター中心のエレクトリックな作品となった。 ウォルステンホルムは最後のナンバーの作曲のために他のメンバーとは別行動を取っていたため、最後のナンバー以外はほとんど録音に参加していないそうだ。 したがって、必然的にリーズの作品が増え、ギターの比重も高まっている。 しかし、作品は全て個性に輝いており、完成度も高い。 シンプルなロックンロール、得意のメランコリックなメロディにギターの絡むナンバー、コンセプチュアルでシンフォニックな大作、そして毛色は異なるが、クラシック作品と音楽的総決算といってもよい内容になっている。 グループとして一つのピークを迎えた傑作といえるだろう。 一方、ホルロイドの作品が減ったせいもあって英国らしいアコースティックな音色に乏しいのも事実。 個人的にはオープニング・ナンバー「Crazy(Over You)」の冷たい手ざわりのヴォーカルとエレピがなんともいえず好きなのだが。
  以上第 3 作と第 4 作の鑑賞・解説は ONE WAY RECORD よりの 2in1、S21-18505 を用いた。
(Harvest SHSP 4023 / EMI 07243 538 408 2 2)

 Everyone Is Everybody Else

 
John Lees guitar, acoustic guitar, vocals
Les Holroyd bass, acoustic guitar, rhythm guitar, vocals
Stuart "Woolly" Wolstenholme keyboards
Mel Pritchard drums, percussion

  74 年発表の第五作「Everyone Is Everybody Else」。 HARVEST から POLYDOR に移籍後の第一弾。 オーケストラとは袂を分かち、代わりにシンセサイザーを含むキーボードによるオーケストレーションを用いている。 このキーボードと「泣き」のギターが演奏の中心になり、サウンド的に PINK FLOYD への意識が感じられる内容となっている。 メランコリックでドリーミーなメロディ・ラインやユーモアとメッセージに満ちた歌詞も健在であり、特徴である独特の非現実性もある。 そしてさらに、本作では、ぽっかりと穴の開いたような無常感と重さも感じられる。 プログレッシヴ・ロックとしての BJH の代表作である。 プロデュースはロジャー・ベイン。

  「Child Of The Universe」(5:02) 劇的なピアノの和音、そして力強いリズム・セクションに支えられた説得力あるメロディ。 サビでは、アカペラ風の歌唱が冴え、シンセサイザーによる光沢ある金属音が独特の渋さに華やぎを与える。 比較的な感傷的なメロディ・ラインの反復による流れだが、ピアノを中心とするドラマティックな演奏とシンセサイザーの新鮮な音によって、格調高いバラードに仕上がっている。 全体に漂う現実離れしたムードは、ここにもある。 しかし、終止感のないシュールな印象を残すコード進行や、スローかつブルージーなエンディングのギター・ソロなど、現実離れしながら悲劇的な重苦しさがあるところが、特徴的である。
  戦争の犠牲になる世界の子供の惨状をシンフォニックに歌った、メッセージ色の濃い作品。 リーズのソロ・アルバム用の曲だったが、グループのアルバムに採用された。 ヴォーカルはリーズ。 独特のコード進行をもつ歌にオーヴァーラップするノイジーな VCS3 シンセサイザーの音色から PINK FLOYD へと連想が進むと、全体の音の質感も PINK FLOYD にきわめて近いような気がしてくるから不思議である。 リーズの作品。 名曲です。

  「Negative Earth」(5:28) 黒っぽいエレピがコードを刻むあまり見られなかったタイプのイントロダクション。 メイン・パートは、沈んだ調子のヴォーカルとジャジーなエレピのバッキングによる AOR。 しかし、サビでは、ドリーミーな歌唱をメロトロンと鋭く鳴くギターが彩る、ロマンティックな BJH タッチである。 60 年代の残り香を味わうもつかの間、間奏部では、ジャジーなエレピをバックにギター・ソロはブルージーに沈み込む。 リーズには珍しく深く歌い込むソロだ。 それでも、サビの柔らかさ、暖かみが救いとなる。 エンディングもエレピ、メロトロンの伴奏で鋭いギター・ソロ(デイヴ・ギルモア風である)が続き、フェード・アウト。
  AOR 調の憂鬱なクールネスと若々しくイノセントな響きを一曲に押し込めた、ブリティッシュ・ロックらしい作品。 前作の「One Hundred Thousand Smiles Out」とテーマが似ているように思うが、こちらはアポロ 13 号の事故で宇宙に取り残されそうになった飛行士を歌っているらしい。 60 年代から 70 年代、宇宙開発には多くの人々が注目していた。 ミュージシャンもその例に洩れない。 改めてホルロイドのポップ・センスも BJH の重要なファクターであることを感じる。 ブルージーなギターとオルガンの演奏が、やはり PINK FLOYD のイメージを残す。 ホルロイドとプリチャードの共作。 ヴォーカルはホルロイド。

  「Paper Wings」(4:14) メロトロンがゆったりと広がり、ギターが切なく泣くイントロは、Wings 辺りにありそうだ。 細かなロールによるフィルにギターの下降音系が重なる劇的なオープニング。 メイン・パートは再びホルロイドによる繊細なファルセット気味の歌唱である。 ストリングスとともにシンセサイザーがソフトな間奏をはさみ、水が滴るようなギター・エフェクト音が散りばめられる。 サビの感傷的なハーモニーは、ホルロイドとリーズだろう。 ストリングスに重なるエモーショナルかつにぎやかなギター。 甘ったるいポップスにも聴こえる。 このまま終わってなるものかとばかりに、一転テンポが上がり(ここの編集はかなり苦しそう)、パワフルな乱れ打ちドラムとともに勇ましいギターのテーマが走り出す。 前半のおセンチな空気を吹っ飛ばすように、勇壮なアンサンブルが続いてゆく。
   エッフェル塔から飛び降りる自殺者という奇妙なテーマを、繊細なヴォーカルと力強いリズムで突き進むシンフォニックな演奏のコンビネーションで描く作品。 終盤、重たいリズムとギターのリードで突き進む演奏は、GENESIS を思わせる、重厚なプログレらしいもの。 2:30 を境に二つの曲を編集でつなげたようにも思える。 ホルロイドとプリチャードの共作。 ヴォーカルはホルロイド。

  「The Great 1974 Mining Disaster」(4:35) アコースティック・ギターのコード・ストロークとピアノの和音が静々とフェード・インする、哀しげなイントロ。 高らかなピアノの和音の響きとシンプルかつ柔らかな歌メロ。 ギターのオブリガートも甘い。 エコーを操作したさまざまなギターが重なる。 サビはファルセットのコーラスがからむ。 ゆるゆると、しかし説得力をもって続くヴォーカルは、いかにもな 70 年代中盤ポップス調に、エレクトリック・フォークのペーソスをはらむ。 オブリガート、間奏のピアノの和音がいいアクセントだ。 意外なマイナーへの転調も面白い。 ギターは、甘めのトーンを使ってそっと近づくように歌うかと思えば、硬くクリアな音でシャープなオブリガートを入れるなど、気まぐれながらも、きわめて多彩。 最後は、シンセサイザーによるノイジーなリフに、切ないギター・ソロがオーヴァーラップする。
   やや悲劇的なトーンのバラード。 ギターを駆使した内容だ。 曲調は、柔らかくていねいなつくりの BJH 節であり、ミドル・テンポで進むソフトな曲調に、エッジのある音を散りばめてアクセントにしている。 ナチュラルにメロディアスに進むだけに、転調によるなんともいえぬ不安な余韻が効果的だ。 内容は、BEE GEES の「New York Mining Disaster 1941」の歌詞を元に様々な含みを持たせた、風刺の効いた曲のようだ。 リーズの作品でヴォーカルもリーズ。

  「Crazy City」(4:05) ヘヴィなギター・リフと不思議な広がりを与えるシンセサイザーが、奇妙なバランスを保つイントロダクション。 静々と広がるメロトロン、そして、オーヴァー・ダビングされたギターが、華やかに見得を切る。 ガーンと威勢のいい決めを経て、一転、アコースティック・ギターに守り立てられた、なめらかなヴォーカル・パートヘ。 オープニングのハードな調子がウソのように感じられる繊細な展開である。 ワンノート風のシンプルなテーマを切なく歌い、コーラスが追いかける。 間奏は、得意のけたたましいギター・リフによるハーモニー、そしてレガートにハモるツイン・リード。 いかにもジョン・リーズらしいプレイである。 再びドラムスが去り、アコースティック・ギターのコード・ストロークがビートを刻み、うつろなヴォカリーズが流れる。 ヴォカリーズを捕らえるようにメイン・ヴォーカル、そしてドラムとともに、サビのコーラス・ハーモニーへとなめらかに展開。 そしてイントロのハードなギター・リフが復活する。 オルガンが寄り添う。 憂鬱なメロトロンが吹き上がると、そのままフェード・アウト。
  ヘヴィなリフで目を覚ますも、中心はメランコリックにしてスウィートなハーモニーによる歌ものである。 間奏でもけたたましいリフが繰り返され、全体にリズミカル。 メローで翳がある歌がいい。 「Crazy City」 とはロンドンを意味するそうだ。 ニュアンスとしては、日本人にとっての東京と同じだろう。 本作も、これまでの作風の堅持である。 ホルロイドの作品。 ヴォーカルはホルロイド。 コーラスはリーズ。

  「See Me See You」(4:32) コンプレッサを効かせたまろやかなギターが甘く切なく歌うオープニング。 メロトロンに包まれたメイン・ヴォーカルは、フォーク風の賛美歌か。 リーズのヴォーカルをアコースティック・ギターのアルペジオが追いかけ、やがてヴォーカルが優しげなハーモニーになる。 ストリングス、ギター、ピアノらによる上昇音形の間奏は、きわめて THE BEATLES = ジョージ・マーティン風。 2 度目の間奏は、ギター・ソロ。 ギター、ピアノらによるアンサンブルが繰り返され、ギターが追いかける。 やがてメロトロン・ストリングスが主導権を握り、重厚に高まるエンディング。 しかし、最後の和音は、やや含みを残すような不思議な響きをもつ。
  全編に流れるメロトロンを背景に、おだやかなヴォーカルとギターが対話するようにフィーチュアされたナンバー。 単純な繰り返しの中に、メロディ・ラインやコード進行に細かい工夫があって楽しめる。 階段を上るようなピアノ含め、幻想的で普通の和音へ落ちつかないところは、いかにもジョージ・マーティン風である。 BJH らしいぼんやり感、非現実感がある作品だ。 リーズの作品。 ヴォーカルもリーズ。

  「Poor Boy Blues」(3:05) ホルロイドがカントリー風のアカペラを披露するイントロ。 アコースティック・ギターのコード・ストロークも鮮やかだ。 リズミカルなギター・カッティングに導かれてドラムが入り、ヴォーカルが歌い出すと一気に「アメリカン」、気分はすっかり西海岸である。 コーラスのメロディやスライド・ギターのオブリガートは、見事なまでに CSN&Y もしくは THE EAGLES。 ツイン・ギターのソロも、それっぽい。 最後は、リーズのギターがダメを押してそのまま次の曲へ。
  THE EAGLES のパロディかと思わせるウエスト・コースト風の爽やかなナンバー。 「Peaceful Easy Feeling」ですかね。 ホルロイドの作品。 ヴォーカルはホルロイド。 コーラスはリーズ。

  「Mill Boys」(2:47) 途切れなくギターに呼ばれて、ヴォーカルが歌い出す。 メロディも似ているので、リード・ヴォーカルがリーズへと交代しただけで、同じ曲が続いているようだ。 サビのメロディは、前の曲のギターによる短い間奏に似る。 間奏は、やはり西海岸風のツイン・ギター・ソロ。 最後のゴスペル/カントリー風のアカペラはホルロイド。 前曲のオープニングで締めるという憎い演出だ。
  前曲のアンサー・ソングのようなナンバー。 リーズの作品。 ヴォーカルもリーズ。 この 2 曲は明らかに対になっているのだが、歌詞内容の関連は不明。 アルバム前半のやや暗めのトーンを吹っ飛ばす内容である。

  「For No One」(5:08) 再び、途切れなくメロトロンが朗々と鳴り響き、ギターが切なく歌い出す、あまりに劇的なイントロダクション。 悠々たるミドル・テンポで一気にクライマックスへと登りつめ、リーズのヴォーカルが決然たる表情で歌い上げる。 メロトロンとシンセサイザーが、オーケストラのように雄大な演奏を見せる。 サビでは、ややレイド・バックしたホルロイドのヴォーカルが、浮遊するような調子を加え、幻想味を強める。 再び、力強く訴えるリーズのヴォーカル。 吸い込まれそうになるメロトロンの中から、ギターがゆっくりと歌い出す。 悲痛な叫び。 そしてコーラスによるメッセージ。 リーズのギターが再び叫ぶ。 堰をきるようにワウを効かせたギター・ソロへ。 シンフォニックなメロトロンをワウ・ギターが切り裂いて進んでゆく。 フェード・アウト。
  格調高き正統シンフォニック・ナンバー。 古城の如き風格を見せるメロトロンとエモーショナルなギター、そしてしなやかなヴォーカル。 堂々と切々とメッセージを語りかけてくる。 テーマは明らかに反戦。 アルバム・タイトルをささやくサビのコーラスなど確かに PINK FLOYD 的な表現はあるのだが、そういうことが気にならないほど、凛とした音楽の姿が胸を打つ。 この反戦のメッセージは、1 曲目のテーマとオーヴァーラップする。 エンディングは、フェード・アウトよりも堂々と決めてもよかったかもしれない。 リーズの作品。 ヴォーカルはリーズ。


  派手なパフォーマンスこそないものの、グループの音楽の集大成といってもいいほど完成度のある傑作アルバムである。 柔らかなメロディ・ラインと整った演奏にはすっきりとした聴き心地があり、しみじみと郷愁を呼び覚まされる。 そして郷愁とともに、いつしかいい知れぬ無常感も浮かび上がってくる。 このサウンドの中心になるのが、ハーモニーとピアノ、メロトロンを中心にしたキーボード・ワークである。 目を覚まさせるように切り込むギターや、各場面演出を支えるドラミングも見逃せない。 このドラムスは技巧派でこそないが、ニック・メイスンを思わせる堅実かつツボをおさえたプレイではないだろうか。 もろに西海岸なところは、メンバーのテイストが素直にそのまま現れたのかもしれない。 全体に、ポップな聴きやすさとセンチメンタルでスペイシーな揺らぎが絶妙であり、メッセージもすんなりと伝わってくる。 まさに円熟期に入った作品といえるだろう。 1 曲目を代表に、そこここで用いられるシンセサイザーが意欲を感じさせる。 いかにも PINK FLOYD 調の表現が散見されるのは、POLYDOR の HARVEST への対抗心でしょうか。
(Polydor 2383 286 / 833 448-2 Y)

 Barclay James Harvest Live

 
John Lees lead guitars, recorder, vocals
Les Holroyd bass, rhythm guitar, vocals
Stuart "Wooly" Wolstenholme mellotron, electric piano, moog, vocals
Mel Pritchard drums

  74 年発表の第六作「Barclay James Harvest Live」。 初のライヴ・アルバムはアナログ二枚組。 オーケストラなしの 4 人のみによる、タイトにして迫力満点のすばらしい演奏が味わえる。 ドラムスは驚くほど力強く、ギターはスタジオ盤とたがわぬ歌心を見せている。 そして、存在感抜群なのがキーボード。 メロトロン、エレピからムーグ・シンセサイザーまで、意外なほど俊敏なプレイで豊かな音を響かせている。 改めて、ウォルステンホルムの腕に感服。 そして、なによりバンドとしての一体感がいい。 他にも、原曲よりもビートを効かせたハードなアレンジを用いたり、リーズのヴォーカル・バッキングのギターがホルロイドのダブル・ネックによること、リーズ、ホルロイドのハーモニー部ではキーボードが演奏をリードするなど、4 人でこなすライヴ盤ならではの「発見」の楽しみがたくさんある。 選曲も HARVEST 時代の名曲を含んでおり、ベスト/入門盤としても薦められる。 とにかくみごとな演奏です。 リヴァプール・スタジアムと王立劇場ドルリーレーンにおける録音。 プロデュースはロジャー・ベイン。

  「Summer Soldier」(10:17)メロトロンとギターが一気に高まるイントロで、ムーグによる「Jerusalem」のテーマが流れる。 ヴォーカルはリーズ。
  「Medicine Man」(10:25)ストリングスをギターのコード・カッティングとメロトロンにおきかえ、スタジオ盤よりもずっとヘヴィな演奏になっている。 ワイルドなドラムにも注目。 中盤のストリングス・メロトロンに感激。 終盤のムーグ、ファズ・ベースの暴れっぷりもすごい。 HAWKWIND のような演奏である。 ヴォーカルはリーズ。
  「Crazy City」(4:58)ツイン・ギターの一方はムーグがカバーする。 甘くメランコリックなヴォーカルはホルロイド。 スキャットのハーモニーもみごと。 新作のナンバーだけあってフレッシュで切れ味鋭い演奏だ。
  「After The Day」(7:27)冒頭のメンバー紹介を経て、一気にシンフォニックな演奏へ。 メロトロン、ギターが交錯する重厚な演奏だ。 ヴォーカルはウォルステンホルム。 コーラスはなし。 間奏はメロトロンのソロ。
  「The Great 1974 Mining Disaster」(6:30)ギター、エレクトリック・ピアノによるメランコリックな曲調はオリジナルのまま。 3 人のヴォーカル・ハーモニーもすばらしい。 メジャーとマイナーの転調が巧みだ。 リーズのメロディ・ラインはやはり THE EAGLES を思わせる。 メランコリックでファンタジック。

  「Galadriel」(3:18)
  「Negative Earth」(6:20)
  「She Said」(8:33)
  「Paper Wings」(4:19)
  「For No One」(5:53)
  「Mockingbird」(7:37)

(Polydor 2683 052 / VSOP CD 164)

 Time Honoured Ghosts

 
John Lees electric & acoustic guitars, vocals
Les Holroyd bass, acoustic guitar, vocals
Woolly Wolstenholme keyboards, vocals
Mel Pritchard percussion

  75 年発表の第七作「Time Honoured Ghosts」。 ライヴ盤に次ぐ POLYDOR 三作目。 内容は、優しげなヴォーカルをファンタジックにして穏やかなアンサンブルが彩る、フォーク・ロック。 キーボードやギターが盛り上げるも、ヴォーカルのテーマは、あくまでソフトであり素朴である。 本作あたりになると、かなりポップス化/アメリカ化が進み、コアなプログレ・ファン向きではないかもしれない。 しかしながら、HARVEST 時代から営々と続く幻想的なフォーク/ポップ路線(偉大なワンパターンである)がサウンド面で洗練されてきたという見方もできるので、70 年代ロックのファンには欠かせない音といえるだろう。
  演奏面では、ギターに加えて、きらめくような音色にゆったりした広がりと深みをもつシンセサイザー、オルガンも存在感を強めている。 このキーボード・オーケストレーションは、今までで最高といっていいだろう。 また、バッキングのギターの音も、すっかり洗練されたものとなっている。 ホルロイドのナンバーが、たおやかな歌声と演奏のみごとなバランスをとって英国調を堅持しているのもうれしい。 ロマンティックながらもブルーな悲哀のトーンとシニカルなユーモア精神が、いかにも英国ロックらしいのだ。 すでに AOR 化も見えており、ポップな聴き心地は一番だろう。 プロデュースは、ニール・ヤングらを手がけた大物エリオット・メイザー。 プロデューサーの特徴が BJH サウンドを変化させており、なかなか面白い聴き応えあり。 邦題は「神話の中の亡霊」。

  「In My Life」(4:39) かなり歌謡曲風のギターに導かれるセンチメンタルなナンバー。 一人ツイン・ギターやせわしないリフなどリーズらしいプレイである。 ヴォーカル・パートの独特の結びの和音が幻想味を強めている。 中盤、分厚いキーボードとともにぐっとテンポを落とすところが劇的な効果をもつ。 リーズの作品。

  「Sweet Jesus」(3:30) さすがホルロイドというべき"イングリッシュ・アメリカン"風のバラード。 土臭さや開放感をもつようで決してカントリー風に聴こえないところが、この人の持ち味だろう。 思い切り西海岸してしまうリーズと対象的。 しかし、このサビのメロディはどこかですでに使われていたはず。 ギターはオーシャン・ブルヴァード辺りのクラプトンにも通じる抑えた名演。 ホルロイドの作品。

  「Titles」(3:49)THE BEATLES の曲名を歌詞に用いた、あまりに有名な作品。 「Trad arr. By J.Lees」とクレジットされているところが可笑しい。 リーズの作品。

  「Jonathan」(4:45) 夏の朝の思い出のような爽やかさと切なさをもつフォーク・ソングが、シンフォニックに高まってゆく。 アコースティック・ギターの弾き語りが、いつしか湧きあがるストリングスに支えられて浮かび上がってゆく。 エレピが伴奏するヴォーカル・パート辺りから、すっかり BJH らしい優しげな幻想世界になってゆく。 前作までのメッセージ・ソングを思わせる力作ではないだろうか。 ホルロイドの作品。

  「Beyond The Grave」(4:08)キーボードを駆使した重厚にしてやや怪奇なシンフォニック・ロック。 ミステリアスなギターのテーマと光り輝くシンセサイザーが交差し、雄大なシンセサイザー・オーケストラが羽ばたく。 異色。 ウォルステンホルムの作品。

  「Song for You」(5:20)YES を思わせるハードにして華やかに舞い立つ演奏が、一転穏やかな BJH 節へと着地する作品。 前半の立体感あるアンサンブルやコーラスはまさしく YES。 後のハードポップやアリーナ・ロックを予感させるサウンドである。 ホルロイドの作品。

  「Hymn For The Children」(3:39) ヴォーカル・ハーモニーを用いた西海岸風のフォーク・ロック。 こういう音のアルペジオは今まであまりなかったような気がする。 哀しげな風情がつきまとう。 リーズの作品。

  「Moongirl」(4:51) いかにもリーズらしい泣きのギターがリードし、ホルロイドのセンチメンタルな歌メロが冴えるクラシカルなバラード。 ここのエレピのアルペジオもベタベタである。 サビのオルガン、シンセサイザーのまろやかで上品な響きはさすが。 60 年代後半から 70 年代前半へかけての英国ロックの質を守りたいという意地が感じられる。 ホルロイドの作品。

  「One Night」(5:21) アメリカンな歌、リズムと英国風の演奏が重なりあった不思議な印象の作品。 どちらかといえばアメリカン・ロックだろう。 それでも変拍子のギター・リフを経た後半は、耳が慣れるせいか、BJH らしく聴こえてくる。 リーズのメイン・ヴォーカルが、なんとなくニール "Helpless" ヤング風に聴こえてしまうから不思議だ。 リーズの作品。

(Polydor 2383 361 / 831 543-2)

 Octoberon

 
John Lees acoustic & electric guitar, vocals
Les Holroyd acoustic guitar, bass, vocals
Stuart "Woolly" Wolstenholme keyboards, vocals
Mel Pritchard drums, percussion

  76 年発表の第八作「Octoberon」。 POLYDOR での四作目。 やや大作が増えるも基本的に作風に大きな変化はなく、独特のメランコリーとポップ・センスを感じさせるメロディ・ラインに、管弦楽オーケストラや混声合唱を使ったシンフォニックかつ神秘的なアレンジをからめている。 一風変わった歌詞とは対照的にヴォーカル・ハーモニーはドリーミーであり、またそれでいて重厚な余韻もある。 リーズの泣きのギターも変らず健闘。 今回はメロトロンよりも、ハモンド・オルガンとシンセサイザーが多用されている。 プロデュースはグループ。 エンジニアにデヴィッド・ロールがクレジットされている。 邦題は「妖精王」。

  「The World Goes On」(6:27)ホルロイド作、ヴォーカルによる美しき正調バラード。 弦楽オーケストラが大きくフィーチュアされ、リーズのギターもオーケストラと堂々渡りあう。

  「May Day」(7:57)抑え気味のリーズのヴォーカルが渋くリードしてゆく大人のロック。 アコースティック・ギターによるきらきらした伴奏はともかく、オルガン、金管調のシンセサイザー、たたきつけるような分厚い全体演奏など思いのほかヘヴィな部分も多い。 後半に意表を突いて聖歌風のコラールが入り管弦楽とともに重厚な演奏となる。 リーズ作。

  「Ra」(7:18)金管シンセサイザーとギターのファンファーレによる勇壮なオープニングがカッコいい、史劇のサントラ風大作。 メイン・パートは PROCOLS 風の逞しいオルガンが、か細いウォルステンホルムのヴォーカルを支えて切々と物語る。 間奏はオルガン、シンセサイザーの海をギターが切り裂いてゆく。 白昼夢のような幻想性は BJH ならでは。 終盤は、シンセサイザー・オーケストラとオルガンのオスティナートが高まりながら、タイトなリズムとともに突き進む、ド迫力の演奏である。 ウォルステンホルム作。

  「Rock'n Roll Star」(5:17)メロトロン・ストリングスとクランチなギター・リフが絶妙のコンビネーションを見せる西海岸風のフォーク・ロック。 サビの透明感あるハーモニー、ブルージーな解決のメロディ、独特のトーンのギターによるオブリガート/間奏/コード・カッティングなど。 リーズのギターはドン・フェルダーのようです。 ホルロイドの作品。

  「Polk Street Rag」(5:37)アップテンポのポップ・チューン。 思い切りエフェクトを効かせたギター、要所で入るシンセサイザー・ストリングスなど ELO らのポップ・ロックに接近する。 モダンでややチープな音が 70 年代中盤らしい。 リーズの作品

  「Believe In Me」(4:21)ホルロイドらしいメランコリックなバラードにブライアン・ウィルソン風の大胆な味つけを施した作品。 ギターが唸るサビからの追いかけハーモニー、コーラス、ピアノとギターによるけたたましい演奏、スキャットなどかなり THE BEACH BOYS である。 終盤メロトロン・ストリングスが高まってゆく。 ホルロイドの作品。

  「Suicide」(7:56) ストリングスとギターによるテーマが非常に美しいシンフォニックなバラード。 弾き語り風の作品をストリングスやコーラスで彩っている。 歌詞は「Paper Wings」でも用いた「自殺」という主題なのだが。 エンディングの効果音はかなり不気味。 リーズの作品。

(Polydor 2442 144 / 821 930-2)

 Gone To Earth

 
John Lees guitars, vocals
Les Holroyd acoustic guitar, bass, vocals
Stuart "Woolly" Wolstenholme keyboards, vocals
Mel Pritchard drums, percussion

  77 年発表の第九作「Gone To Earth」。 オーケストラ・アレンジに MANDALABAND のデヴィッド・ロールを迎えている。 内容は、あいかわらずのドリーミーで優しげな BJH サウンド。 THE EAGLES を思わせるナイーブなポップ・ロック風味にさらに磨きをかけて、まろやかな味わいが増している。 かなりアメリカナイズされてはいるものの、持ち味であるソフトで神秘的な面が管弦楽によって強められており、メローでクリーミーな幻想美の世界が広がっている。 キーボードは全体に控えめだが、オルガンとシンセサイザーを中心に非常に効果的に使われている。 プロデュースはグループとデヴィッド・ロール。 邦題は「静寂の海」。

  「Hymm」(5:06)アコースティック・ギターが刻むビートとチャーチ・オルガン、ストリングスの織り成すシンフォニックなナンバー。 クライマックスヘ向けて、次第に音が厚く積み重ねられてゆく様に息を呑む。 トランペット、ティンパニの響きが高揚感を煽るロック・シンフォニー。 リーズの作品。

  「Love Is Like A Violin」(4:03)ギターのアルペジオと透き通るようなストリングス・シンセサイザーやオーボエの響きで彩られるバラード。 切なく美しいメロディの導入部から、リズミカルな中間部を経て、再びオーボエとストリングスの美しい夢の世界へ戻ってゆく。 イントロとエンディングのギターが印象的。 リーズの作品。

  「Friend Of Mine」(3:30)歯切れよいギター・リフから始まるアップテンポのカントリー風ポップス。 サビのメロディがウエスト・コースト風であり、コーラスとオルガンの響きも気持ちいい。 ちょっとレトロな感じもある。 ホルロイドの作品。

  「Poor Man's Moody Blues」(6:55)アコースティック・ギターのコード・ストロークと緩やかなストリングスが支えるスロー・バラード。 サビのメロディと歌詞が、THE MOODY BLUES の「Nights In White Satin」に酷似するも、タイトルからも明らかなように一流のユーモアということなのでしょう。 ゆったりと歌う間奏のギターが切ない。 センチメンタルなメロディを、管絃が格調高く補い、讃美歌のような厳かなムードと雄大な広がりが感じられる音楽になっている。 リーズの作品。

  「Hard Hearted Woman」(4:27)カントリー風のギターの軽妙なリフレインとユーモラスなパーカッションから始まるが、テーマはメランコリーに満ちている。 サビのコーラスのたおやかな美しさや控え目なオルガンのバックアップもいい。 うねるような曲調を生み出しているのはベース。 アメリカ風の音を熟成した英国風味の芳しき秀作。 ホルロイドの作品。

  「Sea Of Tranquility」(4:03) 前曲からそのままオルガンが柔らかく広がり始め、厳かなムードが高まるとともに、我慢しきれないようにオーケストラの響きがかぶさる。 そしてヴォーカルはひそやかに歌い出し、次第に力強く語りかける。 気高く湧き上がるホルン。 メランコリックなイージー・リスニング調と、迫力あるオーケストラの音響がマッチしたシンフォニック・バラードである。 I POOH 辺りとセンスは近そうだ。 悠然とファンタジックな広がりを見せるオーケストラに対し、一歩も譲らないギターのシンプルで力強いメロディもいい。 初期の作品から一貫する作風の一つである。 冒頭のオルガンはかなり感動的。 ウォルステンホルムの作品。

  「Spirit On The Water」(4:49)ギターとシンセサイザーの伴奏によるミドル・テンポの AOR 調ヴォーカル・ナンバー。 ホルロイドのスウィートなヴォイスが似合った甘めの曲調である。 シンセサイザーの音が、いかにも 70 年代中盤を思わせる。 サビのマイナーのメロディは、コテコテではあるのだが、ブリット・ポップ一流のメランコリーと静かな迫力がある。 シンプルなギターのテーマ・リフの裏では、珍しくシンセサイザーが使われている。 エコーの効いたギターや美しいヴォーカル・ハーモニーはきわめて THE BEACH BOYSTHE EAGLES 的ではあるのだが、やはり英国流のデリケートなユーモアや耽美なセンスが感じられる。 コーラスやリズムの取り方は、どうしても「Pet Sounds」辺りを思い出してしまうのだが。 ホルロイドの作品。

  「Leper's Song」(3:34)ギターが大活躍するリズミカルなハード・チューン。 ドラムスは数少ない機会を活かすかのように、力いっぱい叩いている。 オブリガートで現れるエレポップ風のシンセサイザーの音がなつかしい。 リーズのギターが久々に大活躍。 リーズの作品。

  「Taking Me Higher」(3:07)ピアノ、チャーチ・オルガンとホルロイドのソフトなヴォーカルが、あたかも夢の BGM のように静かにたゆとう美しいバラード。 鳥がさえずり、エレピが静かに和音を刻むイントロから、ストリングス、オルガンの響きに包まれたヴォーカルまで、フィルターを通した映像のように、美しくぼやけている。 あたかも白い霧におおわれた森を歩くような、幻想と神秘に満ちている。 ベースがちゃんと強調されてミックスされているところも、おもしろいですね。 ホルロイドの作品。

(Polydor 2442 148 / 800 092-2)

 A Major Fancy

 
John Lees acoustic & electric guitar, lead vocals
Skip Allen(Skip Alan) drums, percussion (THE PRETTY THINGS
Wally Waller bass, electric 12 string, vocals, percussion, keyboards (THE PRETTY THINGS
Gordon Edwards piano
Rod Argent organ (ARGENT
Eric Stewart acoustic guitars (10CC
Kev Godley ashtray, beer bottle, fire extinguisher ?? (10CC
Rex Morrison tenor sax
Graham Preskett electric piano, violin, string arrangement

  77 年発表のジョン・リーズのソロ・アルバム「A Major Fancy」。 72 年に録音されるも、レーベル移籍に伴うゴタゴタで 77 年まで発表がずれた悲運の作品。 BJH サウンドの要でもある甘くメランコリーを湛えたヴォーカルと独特の音色のギターはそのままに、ゲストを迎えた密度の高いインストゥルメンタル、そして爽やかなウエスト・コースト風のポップ感覚が冴える。 特に、キーボードが大きくフィーチュアされた、BJH とは異なるハードなロックを聴くことができる。 シンプルながらも多彩な曲想が盛り込まれた佳作である。

  BJH でも有名な「Child Of The Universe」は、重厚なヴァイオリンとストリングスが優美なメロディ・ラインを巧みに惹き立てる別アレンジ版。 そしてオリジナル・アルバムに加え、74 年発表のシングルも収録、内容は「やはり」と納得の THE EAGLES のカヴァーである。 各曲も鑑賞予定。

  「Untitled No.1 - heritage」(7:55)ジャジーなインストゥルメンタルが続く躍動感あるナンバー。 エドワーズのピアノ、リーズのギター、アージェントのオルガンがフィーチュアされる。 ドラムも非常に力強い。 傑作。

  「Child of the universe」(6:17)プレスケットのヴァイオリン、ストリングスをフィーチュアした繊細なアレンジ。 幻想的なコラールも加わる。 やや不気味な響きである。

  「Kes(a major fancy)」(2:33)アコースティック・ギターのストローク、エレクトリック・ギターによるアルペジオの伴奏で、シンセサイザーがシンプルなテーマを奏でる小品。

  「Untitled No.2」(3:52)細かいリズムの R&B 風ナンバー。 エレピがフィーチュアされる。 暗くハードな表情のヴォーカルは新鮮。 ベースの動きも面白い。

  「Sweet faced jane」(5:05)明るい西海岸風ナンバー。 カントリー・フレイヴァーあるヴォーカル、ヴァイオリンそしてコーラス。 テナー・サックスもソロを取るメリカンな音である。

  「Witburg night」(5:48)ピアノ、ピッチの揺れるエレピがフィーチュアされた不思議な雰囲気の曲。 リズミカルだが歌メロは表情がない。 BJH に近い世界だろう。 リーズのギターは最後でソロを取る。 打楽器系のシンセサイザーも入っているようだ。

  「Long ships」(5:21)リーズのヴォーカルが冴えるブルージーなナンバー。 エコーに埋まったギター、スキャットなどシンプルなしかけでヴォーカルを守り立てる。 エレピの伴奏で疾走するギターに溜飲が下がる。 傑作。 エンディングのキーボードは何だ?

  「untitled No.3」(5:03)アコースティック・ギターが爽やかな西海岸風ナンバー。 ピアノのオブリガートも鮮やかだがヴォーカルはやや沈んでいる。 エンディングの暖かいヴァイオリン・ソロがすてき。

  「Please be with me」(2:49)キーが低過ぎてヴォーカルが辛そうなスワンプ風ポップ・ナンバー。 コーラス、オルガン、ギターともに軽やかだが、THE BAND 風の土臭さがある。

  「Best of my love」(3:40)シングル。 THE EAGLES の名曲。 スライド・ギター、多重録音によるリーズの一人コーラスを用いたオリジナルに忠実なカヴァーである。 自分の曲のようにうまい。

  「You can't get it」(3:57)ツイン・ギターのアップ・テンポ・ナンバー。 ブルージーなヴォーカルをエレピ、ギターが彩りモダーン・ポップ風。 ドラムの表情が実に多彩。

(EAGCD107)


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