イギリスのメロディック・ロック・グループ「BIG BIG TRAIN」。 90 年結成。PENDRAGON や JADIS のオープニング・アクトをつとめながらアルバムを発表。 作品は六枚。最新作は 2011 年発表の「Goodbye To The Age Of Steam」(94 年第一作のリマスター盤)。おセンチだが涼しげな英国ポップス系プログレ。
| David Longdon | vocals, flute, mandolin, dulcimer, organ, psaltry, glockenspiele |
| Andy Poole | bass, keyboards |
| Gregory Spawton | guitars, keyboards, bass |
| guest: | |||
|---|---|---|---|
| Nick D'Virgilio | drums, vocals | Dave Desmond | trombone |
| Rich Evans | cornet | Jon Foyle | electric cello, cello |
| Dave Gregory | electric sitar, guitar, guitar solo | Nick Stones | French horn |
| Jon Truscott | tuba | Francis Dannery | guitar solo, guitar |
| Jem Godfrey | synthesizer solo |
2009 年発表の第六作「The Underfall Yard」。
内容は、ギター中心の YES 風のアンサンブルと薄墨を流したようなハーモニーが特徴的な正調シンフォニック・ロック。
アンサンブルの妙味をたっぷりと湛え、全体的に以前よりもプログレらしさが前面に出た作風になっている。
ギターはりゅうりゅうと鳴り、メロトロン・ストリングスが霧のように吹き上がり、驟雨のようにスネア・ドラムがざわめけば、フルートが感極まって泣き叫ぶ。
芸風を喩えるなら、「昔の DRUID のような癒し系 YES フォロワー」+「アンソニー・フィリップス系 GENESIS」+「イアン・マクドナルド KING CRIMSON」といった感じである。
癒し系の印象は、主として優美なヴォーカル・ハーモニーから来る。
もっとも、新ヴォーカリストの歌唱スタイルはジョン・アンダーソンではなくフィル・コリンズやジョン・ウェットンのものである。
AOR っぽくなってしまうところもあるが、大した問題ではない。
オープニングでみるみるうちに培われる神秘性、独特の湿り気は全編を通じて保たれており、英国プログレらしさはほぼ満点である。
4 曲目に代表されるように、小雨そぼ降る港街のようにくすんだ叙情パートと歯切れのいいインストゥルメンタル・パートのコンビネーションもいい。
また、ブラス・アンサンブルが非常に美しく、KING CRIMSON の「Islands」のような雅と歪な邪悪さをともに巧みに醸し出している。3 曲目終盤のコルネットの切ないこと!
ただし、アンサンブルやソロといった演奏面の拡充が優先されたせいか、前々作のように耳に残るメロディ・ラインは少ない。
初期 YES 風の尖ったアンサンブルとメロディアスなヴォーカル・ハーモニーの対比のつけ方が若干ハナにつくところもある。
それでも、英国ロックらしいヒネリとクラシカルな叙情性を期待する向きにはど真ん中だと思う。
とにかく、アンディ・ポール氏の作曲、編曲の巧みさを賞賛したい。
最終曲はオムニバス風の力作。ダイナミックにして謎めいたオープニング、すさまじい切れ味のギター・ソロとシンセサイザー・ソロなど、見せ場が続く。
今回もニック・ドヴァージリオ他、多数のゲストがサポートしている。
特筆すべきは、元 XTC の名ギタリスト、デイヴ・グレゴリーである。英国ロックの本質に「ぶれ」はない。
プロデュースはアンディ・ポール。
「Evening Star」
「Master James Of St.George」
「Victorian Brickwork」
「Last Train」
「Winchester Diver」
「The Underfall Yard」
(EERCD 005)
| Sean Filkins | vocals, blues harp, percussion |
| Andy Pool | bass |
| Ian Cooper | keyboards |
| Laura Murch | vocals |
| Gregory Spawton | guitars, keyboards, vocals |
| Steve Hughes | drums, percussion |
2004 年発表の第四作「Gathering Speed」。
内容は、繊細なヴォーカル・ハーモニーとアコースティック・ギターによる透明なサウンドが特徴的な、YES、GENESIS 系のネオ・プログレッシヴ・ロック。
冒頭のエンジン音とジャケットのスピットファイアのイラスト通り、1940 年夏、第二次欧州大戦のエース・パイロットの物語だそうだ。
リズミカルで立体的なアンサンブルは YES、アコースティック・ギターのアルペジオとストリングスによる叙情的な展開は GENESIS、優しげでメランコリックなヴォーカル・ハーモニーは YES というよりも元祖である CSN&Y が英国調になったというべきだろう。
メロトロン・ストリングスの多用や 7 拍子アンサンブル、ヴァイオリン奏法など、プログレらしさの演出も的確に行われている。
しかし、本作品で何より称えるべきは、デリケートなハーモニーがたどる繊細でヒネリのあるメロディ・ラインだろう。
美しいのだが抑制が行き届いた淡い色合いの作風において、このメロディとそこから伸びてゆくポップ・テイストだけはくっきりとした印象を残す。
プログレのイディオムを盛り込みながらも、主となっているのは、ネオアコ風の展開なのだ。
ブルースハープの響きにそういうことを感じずにいられない。
また、さりげなくジャズやフォークのニュアンスも盛り込んでいるのだが、それもプログレ然とせずに、ナチュラルなポップ・フィーリングを生み出している。
このセンスは、ニール・モースに近い。
GENESIS 風のレガートなキーボードや竪琴のようなエレキギターを中心としたインスト・パートも確かに美しいし、悪くない。
しかし、本作で類稀な個性が宿っているのは、ヴォーカルとハーモニーである。
インストゥルメンタルはヴォーカル・ハーモニーと干渉し合うことでより高みに登ってゆくように感じるし、あえていえば、いわゆるプログレから離れていったときにさらに輝くような気がする。
1 曲目のイコライジングされたハーモニーとギター・サウンドや、2 曲目のメイン・ヴォーカルとスキャットのパート、最終曲であるタイトル・チューンなどが本作品の心肝のように思う。
まず、センチメンタリズムとシニシズムが均衡した個性的な英国ロックというべきであり、プログレ的な部分は味つけに過ぎない。
ただし、何度も視点が反転するが、その味つけの仕方はきわめて巧妙である。
ふと気づけば、アンソニー・フィリップス、トニー・バンクス直系のギターとメロトロンによるはかなくも凛々しいアンサンブルに酔わされているのだ。
3 曲目を聴くと THE SMITH と GENESIS がじつは同じ根っこを持っていたことが分かる。
同じ英国の音楽なのだから当然なのかもしれないが、70 年代末から 80 年代初頭に不気味な分水嶺の存在を感じてしまう音楽ファンとしては、こういう視点を持ち難かった。
固定観念を軽々とひっくり返してくれたこの音には感謝したい。もっとも、こういう風にひっくり返されるのが楽しくて聴き続けているというところもある。
閑話休題。
本作品は、往年のプログレらしさを控えめだが堅実な手つきですべて詰め込み、若々しく繊細な英国ポップスのニュアンスを盛り込んで耳に優しくした、きわめて巧妙な作品といえる。
予定調和の極みであるインストと、ロマンチシズムと恥じらいのあるブリット・ポップの邂逅が新鮮だ。
すべてを JADIS の一番デリケートな表現のスタイルで描く作風ともいえるかもしれない。
「High Tide, Last Stand」(7:06)
「Fighter Command」(10:44)
「The Road Much Further On」(8:39)
「Sky Flying On Fire」(6:04) インストゥルメンタル。
「Pell Mell」(6:36)
「Powder Monkey」(9:08)
「Gathering Speed」(7:23) 本アルバムでの作風を代表する傑作。
(TFCD002)
| Gregory Spawton | guitars, keyboards, vocals |
| Becca King | viola |
| Tony Wright | alto sax, tenor sax, flute |
| Nick D'Virgilio | drums on 2,4, vocals on 2 |
| Sean Filkins | vocals |
| Dave Meros | bass on 3 |
| Pete Trewavas | bass on 4 |
| Steve Hughes | drums, percussion |
| Andy Pool | bass |
2007 年発表の第五作「The Difference Machine」。
厳粛にして透明感あるサウンドにサイケデリックなフィルタと憂鬱な仮面をかぶせたような不思議なトーンが貫く佳作。
JADIS と PORCUPINE TREE の中間位置にいる作風であり、とことん英国ロックらしい音楽である。
前作のようなフックがあまり見当たらず正直かなり地味ではあるのだが、次第に、穏やかな表現に覆われた深いメランコリーと無常感がしみわたってくることに気づき、静かな自信のようなものが感じられてくる。そういう作風である。
メロトロン・ストリングス、アタックを消したレガートなギター、ディック・パリー、いやソニー・ロリンズばりの伸びやかなサックス、かすれた薄墨のようなヴォーカル・ハーモニー、キコキコしたハモンド・オルガンといった、いわゆるプログレらしさを散りばめながらも、音楽の幹には、弾むリズム・セクションにギターのコードがバーンと轟く英国ギター・ロックの血が脈づいている。GENESIS そのままなアンサンブルや GENESIS と PINK FLOYD の合体技もあるのだが、だからどうということもなく、全体の音の質のよさやデリケートな作りの方に耳がいってしまう。
アコースティックな音についてもきめ細かい心遣いが感じられる。木管楽器、弦楽器らによる厳かにして透き通るように美しい調べがあちこちで吹き上がる。
地味ながらも素直には着地しない sus2 系のメロディが多いだけに、サックスやヴィオラのクラシカルで明確な音の響きの存在感がいや増している。
また、きらめくようなギターのアルペジオはアンソニー・フィリップス直系だが、それもここでの巧みな音処理における役者の一人に過ぎない。
また、モダン・ロックに対するアンチテーゼか、あえて隙間の多い薄く細い音で勝負をかけているようなところもある。
元 JADIS、元 IQ のマーティン・オーフォードの作風に通じる部分も。
ゲストに、SPOCK'S BEARD のデイヴ・メロスとニック・ドヴァルジリオ、MARILLION のピート・トレワヴァスを迎えている。
英国クラシックの流れに手を差し伸べた感もある、ひたすら美しくメランコリックな佳作です。
ちなみに、「Difference Engine」だとバベッジの差分機関だと思いますが、「Differece Machine」だとどうなんでしょう。何か別のもの?
「Hope This Finds You」(3:17)
「Perfect Cosmic Storm」(14:40)
「Breathing Space」(1:47)
「Pick Up If You've There」(13:39)
「From The Wide Open Sea」(1:20)
「Saltwater Falling On Uneven Ground」(12:38)
「Summer's Lease」(7:34)
(EERCD 003)