BANCO DEL MUTUO SOCCORSO

  イタリアのプログレッシヴ・ロック・グループ「BANCO DEL MUTUO SOCCORSO」。 69 年キーボードのノチェンツィ兄弟を中心に結成。 72 年アルバム・デビュー。 作風は、ツイン・キーボードを中心とする迫力あるインストゥルメンタルとオペラチックなカンツォーネをフィーチュアしたクラシカル・ロック。 P.F.M に続いてワールド・デビューを果たした、インターナショナルなイタリアン・ロックの代表格。2007 年ひさしぶりの来日。

 Banco Del Mutuo Soccorso

 
Vittorio Nocenzi organ, synthesizer, clarinet, vocals
Gianni Nocenzi piano, flute, vocals
Marcello Todaro guitars, vocals
Renato D'Angelo bass
Pierluigi Calderoni drums
Francesco Di Giacomo lead vocals

  72 年発表の第一作「Banco Del Mutuo Soccorso」。 内容は、エネルギッシュなオルガンと止むことなく流れるピアノを中心としたアンサンブルに、伸びやかなカンツォーネを配したクラシカル・ハードロック。 ヘヴィにして豊かな詩情もある、理想的なロックである。 英国の著名グループや P.F.M の作品とともに、すでに古典の域に入った作品といっていいだろう。 ギターの音やリズム・セクションはやや古めかしいものの、EL&PGENTLE GIANT を地中海の風にさらしたような情熱的でアヴァンギャルドな演奏は、今もって生き生きと輝く。 唸りを上げて駆け巡るインストゥルメンタルと、それをなめらかに潤すヴォーカルにきっとイタリアの血潮の熱さを感じとれるはず。 プロデュースはサンドロ・コロンビーニ。 2001 年の BMG リマスター盤はとてもいい音です。

  「In Volo(飛行中)」(2:13)。 UFO が空中を漂うような電子音に同じく電子音のメロディがうっすらと重なる。 フルートとアコースティック・ギターによる民族音楽風の伴奏で、渋い男声(ライヴの映像によるとヴィットリオらしい)が問いかける。 応じるは、子供の声のようなヴォカリーズ。 再び震える電子音、そして同じフルートとギターを伴奏に、今度は甲高い声(ジアコモさんだろう)がなにごとか語りかける。これは最初の問いかけへの応えだろうか。 そして子供のヴォカリーズ。 UFO は静かに去ってゆく。
  エレクトリックな効果音と土臭い民族音楽調の取り合わせがおもしろい、摩訶不思議な序章である。 宇宙人との語らいだろうか。 思わせぶりでサイケデリックな演出である。

   「R.I.P(安息の鎮魂歌)」(6:41) 一転してアップテンポのサイケデリックな変拍子ハードロックが叩きつけられる。 ギター、オルガンとピアノが呼応し合う強烈なテーマ/リフ(6 + 4 拍子)が叩きつけられただけで、世界は悲劇と安息へのメッセージで沸騰する。 強烈極まる全体演奏から、やや古めかしい音のギターが刻むストロークに支えられて、本グループの看板であるしなやかな歌が始まる。 2 コラース目からはオルガンが伴奏に加わる。 ヴォーカルのキメが、シャウトというよりは伸びのあるベル・カントなところが、さすがイタリアン・ロックだ。 コンプレスされたギターによるサイケでジャジーなアドリヴに続き、ピアノによる低音を強調したリフの変奏とともに、変調したオルガンが奔放に踊る。 オルガンをきっかけに、再び強烈なテーマが再現、メイン・ヴォーカル・パートへ。 アグレッシヴに攻めたてる調子が続く。 今度はバックに無常感あふれるハミングによるヴォカリーズも加わる。 熱い演奏は破断、ヴォーカルが静寂を呼び覚まし、一転して美しいピアノによる歌メロの変奏が続いてゆく。 切々と訴えるヴォーカルが重なり、ピアノのオブリガートが歌に寄り添い、追いすがる。 こういう落差ある展開における堂々とした姿勢と格調、美感を味わいたい。 フルートも加わって、哀愁とロマンのアンサンブルとなる。 ドラムスも加わって、ピアノが守り立てる中、朗々たるヴォーカルはクライマックスに達する。 鋭い一撃とともにオルガンが轟き、ムーグが高鳴り、激しいドラムスの打撃、ピアノが一瞬きらめいて終わる
   キーボード、ギター、ベース、ヴォーカル、すべてを一線にしてフィーチュアしたテンポのいいハードロック。 ヘヴィなギターとピアノの低音を活かした重量感あるリフで攻めたてると、ヴォーカルがそれをハッシと受け止め、いつしか朗々たる歌唱とともに交響詩的な興奮を巻き起こしてゆく。 リフは 8 分の 6 拍子 の問いかけに 8 分の 4 拍子 で応じる形になっており、煽り立てるような効果をもつ。 一方メイン・ヴォーカル・パートは、8 分の 8 拍子のハードロック調であり、ぐんぐんとスピードを上げて走ってゆく。 ピアノ伴奏によるバラードのパートがなんと自然に織り込まれることか。 リズム、硬軟、動静の調子のみごとな変化が、このハードロックを永遠の傑作にした。 R.I.P は 「Rest In Peace」 のアクロニムであり、鎮魂を祈る言葉。

   「Passagio(経過)」(1:18)。 鼻歌を歌いつつ歩み寄る男。足音。 チェンバロを開き、鮮やかなタッチで弾き始める。 メランコリックな調べ。 2 コーラス目では演奏者の鼻歌も入る(グールドか?)。 チェンバロを閉じて去ってゆく男。 足音、遠く扉の閉まる音。
  前曲のテーマに似たエチュード風のチェンバロ演奏とスキャットだけの小品。PINK FLOYD 的リアリズム。ヴィットリオのソロでしょう。「経過」というか「パッセージ」なのでしょう。

  「Metamorfosi(変身)」(10:52) アップテンポの変拍子リフがドライヴする、ミステリアスかつアグレッシヴな大作。 メインのリフは、ピアノを中心にした重くリズミカルな 6 + 5 の変拍子。 オルガンも重なって激しく叩きつける。
  やがてリタルダンド、そして教会風オルガンのオブリガートへと続き、深いエコーで厳かなピアノ・ソロが湧き上がる。ベートーベンを思わせる厳格な演奏だ。 ピアノは次第にキース・エマーソン風(バルトーク?)の攻撃的な調子へと変化し、華麗な重音連打、スケール上昇下降を繰り返し、そしてオルガンの轟音リフレインとヘヴィなトゥッティによって断ち切られる。 激しく叩き付けるキメ、そして、オルガンが渦を巻いて排気音ような音をたてて駆け巡る。
  一転、低音のリフレインは音量を落とし、フルートのような音色に変調したオルガンが密やかに流れてゆく。 何かが起こりそうな気配だ。 重苦しいチャーチ・オルガンが高鳴るも、謎めいたオルガンが受け止めてなかなか、弾けきらない。 やがて、オルガンとギターによるジャジーなインタープレイが始まる。
  クラシカルな調子から一気にロックな高まりへ、ピアノもこらえきれなくなったように飛び出す。 ぐわっと立ち上がったアンサンブルは、再びギター・リフのリードでメイン・テーマとともに走り出す。 挑発的なオルガン、ギターは、駆け下りてゆくピアノとともにテンポをどっと落とし、オルガンが悲鳴をあげ、ドラムス連打が轟き、すべてが尾を引いて消えてゆく。
  静寂、ベースとピアノによる謎めいたデュオ、そして荒々しいオルガンが怪しげなトリルを繰り返す。オルガンにピアノが寄り添い、謎めいた演奏はメロディアスなギターとともに次第にロマンティックに変貌してゆく。
  ギターが叫びドラムスの連打によって一気にハードロック調を取り戻すのだが、ようやく登場したヴォーカルがピアノの加勢を得て、深い哀感で染め上げてゆく。 ピアノ、オルガンは、ともに熱っぽく高潔な歌が響かせる。
  またも凶暴なアンサンブルが復活、息せき切るように走り出す。 オルガンが猛るが、ヘヴィなギターとともに高鳴るヴォカリーズは雄々しく格調高い。 渦を巻くような激走は、強引にねじ伏せられるようにエンディングを迎える。
   フリーな曲想による奔放な展開を見せるクラシカル・ヘヴィ・ロック。 初めに 8 分の 6 + 5 のギター・リフを強烈に印象づけ、続いて前半は 8 分の 6 のフレーズをピアノ・ソロ、ハモンド、ムーグのリードする即興風のパート、オルガンとギターの対話などを通して維持してゆく。 リズムが解体された (6:30 付近) からの後半は、不安げな音を散りばめながらも一転メロディアスに変化する。 そして情感が高まったところで、ヴォーカルへと主導権が渡される。 ブルーズ調のギターも現われるが、これは評価の難しいところ。 インストゥルメンタル作品と思っていただけに、ヴォーカルの存在感が圧巻だ。 エンディングは、強引に引き千切るような感じである。 1 曲目と同じようなリフでドライヴするハードロックだが、疾走感よりも変化に富むプレイが眼目だろう。 攻撃的なハードロックとクラシカルで端正なプレイが自然に交差するところも、1 曲目同様みごと。

  「IL Giardino Del Mago(魔術師の園)」(18:26)。 サイケデリックな混沌と近代クラシックの怪しさ、そして典雅な牧歌調も盛り込む呪術的プログレ超大作。 エレピのように音をにじませるオルガン、ピアノとベースによるミステリアスなトリオ。 二つに分かれて呼応するテーマの間には、気まぐれなせせらぎのようなピアノのトリルが散りばめられる。 堅実なビートを刻むドラムスとともに、オルガンがゆったりとテーマを歌い出し、演奏全体のヴォリュームが上がってくる。 テーマはいつの間にか一つになり、4 分の 9 拍子の変則的なパターンとなる。 テーマの繰り返しは、謎めいたヴォカリーズも呼び覚まし、やがてピアノに呼び覚まされるようにギターが飛び込んでくる。 ファズ・ギターはオルガンとハーモニーを成しつつ、荒々しくテーマを繰り返す。 演奏は重さを増してゆく。 破裂寸前のような緊迫感。 そしてブレイク。(2:50)
  ビートは消え、再びオルガンがか細い音でテーマを繰り返し始める。 オルガンをなぞるように、無表情な呪文のような歌が始まる。 音そのものよりも周りに不気味に広がる空間が意識される演奏だ。 無表情だったヴォーカルは、ぴったり寄り添うオルガン、ベース、ドラムスをアクセントに力を得て登りつめてゆき、感極まって歌い上げる。 再び、沈みこみ、オルガンにチェンバロが伴奏に加わって、怪しげな歌が続いてゆく。 そして、怪しげな雰囲気を振り払うように高らかな朗唱が響く。(5:25)
  遂に破裂、一気にリズム・セクションが立ち上がり、扇動するヴォーカルとともに火の手が広がるような激しい演奏に突っ込んでゆく。 熱唱を追いかけるのは、パーカッションの効いたヘヴィなオルガンと男臭いハーモニー。 堰を切ったように熱く性急な演奏、オルガンが 3 連のフレーズでたたみかけると、次はピアノが登場。 変拍子のリフを低音主体で叩きつける。 オルガンが復活し、ピアノとの熱い連弾、そして最後は 3 連の火の出るようなキメを放つ。(7:20)
  再び謎めいた静寂。 オルガンがうっすらと漂い、ギターが頼りなくささやく。 ここまでの熱気が嘘のように感じられる、もの寂しげな演奏だ。 メロトロンのように震えるオルガンの調べ、エコーのかかったギターの爪弾きを経て、哀愁あふれるソロ・ピアノへ。 切なくも格調ある歌を刻むピアノ。 ピアノを受け継ぐのは、クラリネットの侘しい調べ、そしてそのクラリネットをピアノとベースが巧みに守り立てる。 ヴォーカルは密やかにすべりこみ、ピアノが提示した旋律を伸びやかに受け継いでゆく。 ヴォーカルは、高らかに歌い上げるかと思えば、ささやき、語りかけ、巧みにさまざまな表情を操る。 二回目のコーラスでは、ピアノに加えてアコースティック・ギターの丹念なアルペジオも付き随う。 こういうメロディ・ラインでは、ジアコモのスタイルがじつに映える。
  朗々たるヴォーカルの余韻にオーヴァーラップするように、再びアンサンブルは小刻みなビートで走り始める。 快調なテンポ・アップとともに、クラリネットが朗々と歌い出し、オルガン、ギターとともに演奏がどんどん熱気を帯びてゆく。 しかし、テーマはピアノが静かに提示したものだ。 絶叫するクラリネット、激しいオルガンがぐるぐる回る。 やがて、ピアノの提示した哀愁のテーマを確かめるように激しく再現したアンサンブルは、ティンパニの轟きとともに消えてゆく。(12:45)
  またも静寂。 うっすらと響きわたるオルガン、そしてギターは空ろな調べをつぶやく。 アコースティック・ギターによる律儀なアルペジオ、オルガンの調べはクラリネットが引き継いでいる。 ギター伴奏によるクラリネットの調べ、どこか牧歌的なアンサンブルだ。 弦楽をバックにヴォーカルはゆっくりとテーマを繰り返し、やがて高まって、ピアノとともに厳かなエンディングに向かう。轟くティンパニ。 (15:35)
  エピローグ。 ギターとベースによって序章の呼応するテーマが再現される。 地の底から湧き上がるようなヘヴィなオルガンが切れ切れに回想される。 おもしろい演出だ。 執拗に繰り返されるテーマ。 オルガンが和音とともにギターにおおいかぶさり、激しいドラムスとともに、ピアノも加わってメイン・テーマによる熱狂的なトゥッティへ。 中盤のあの激烈なアンサンブルが再現される。 ピアノによる角張ったテーマは、唸りを上げるムーグ、オルガンによるすさまじい 3 連オスティナートに振りまわされる全体変奏へと移ってゆく。 管楽器の絶叫のように高まるムーグなど、ほとんど EL&P である。 不協和音を繰り返し、不安定に傾いだままのアンサンブルが、豪快に断ち切られる。
  不気味なテーマとヘヴンリーなヴォーカル・パートのコントラスト、せめぎあいがドラマを成すゴシックな超大作。 「陰」が支配するかと思えば「陽」がそれを呑み込み、「陰」も再び甦って「陽」と対峙する。 そのムードの変化を、緩急の変化でも表現している。 おどろおどろしい空気を吹っ飛ばすようなスピード感、そして気を許せば追いすがってくる粘っこい怪奇。 構築された楽曲をプレイの勢いで沸騰させ、さらなる次元へと引き上げる。 その手腕がみごとだ。 暗くミステリアスな場面から、次第にパワーを得て一気に走り出す展開は、現代ではある種の HR/HM 系のグループがその表現様式を受け継いでいるかもしれない。 全体演奏の迫力は本作で一番だろう。 もちろん、ヴォーカル・パートであふれ出る気高さとストレートな昂揚感もいい。 クラリネットまでこなすとはノチェンツィ恐るべし。 明快なテーマをもつクラシカルなアンサンブルにヘヴィな音を持ち込むという、このグループの基本アプローチの典型のような作品だ。 しかし、次作では、その完成されたものを大胆に突き崩す。 エピローグでの回想シーンもおもしろい。

   「Traccia(痕跡)」(2:05)。 ピアノによる 3 連の鋭利なテーマが繰り返される。 タムタムの先導を受け、テーマはヘヴィなオルガンに引き継がれる。 重々しいドラムス連打とともに、厳かなヴォカリーズへ。 テーマを繰り返すうちに、演奏はどんどん重くハードになる。 最後は、バロック風の華麗なるオルガンのカデンツァに、ロマン派風のピアノが華麗に反応してガツンと終わる。
  あっという間にクラマックスへと翔け上がる 8 分の 6 拍子によるクラシカルな小曲。 イタリア独特の舞曲風のノリもあるが、頭拍のアクセントは厳然とクラシック風。 タム回しを続けるドラムスがスゴイ。 ツイン・キーボードの力量をさらりと示した粋な曲。 ヴォカリーズ以外はインストゥルメンタル。


  熱気あふれる濃密なアンサンブルが楽しめる、クラシカル・ロック・アルバム。 大作目白押しの傑作である。 クラシカルな気品/整合感とロックのダイナミズムが一体となり、エネルギッシュにして胸一杯のエモーションをたたえ、なおかつ神秘性もある音楽を生み出している。 ギターのように、さすがに時代を感じさせてしまう音があるのだが、キーボードの熱いプレイを満載したアンサンブルは完全に時を越えている。 ピアノ、オルガンというツイン・キーボードをフルに活かした演奏は、EL&PGENTLE GIANT の敏捷性、変幻自在さに重量感をも加えた、理想的なものだ。 特に、ピアノの本格的な表現力と自在の音色を操るハモンド・オルガンがみごと。 ブリティッシュ・プログレッシヴ・ロックの影響をサウンドの洗練という方向で受け止めながらも、イタリアの風土から生まれてきたオリジナリティを強く感じさせるところは、P.F.M と共通する。 逆に違いは、熱っぽくひたむきな訴えかけが直接音楽に現れているところだろう。 その思いをさらに強めるのは、カンツォーネ唱法の圧倒的な表現力をもち、宗教的な厳かさすら湛えたヴォーカルの存在だろう。 このヴォーカルとキーボード・アンサンブル、そしてパワフルなリズム・セクションが生み出すロックは、まるでオペラのように華麗にしてドラマチックだ。 パワフルな演奏力に加えて大作の間に小品を散らしたアルバム構成もみごと。 名盤。

(SMRL 6094 / BMG 74321 763702)

 Darwin!

 
Vittorio Nocenzi organ, cembalo, synthesizer
Gianni Nocenzi piano, piccolo
Marcello Todaro electric & acoustic guitars
Renato D'Angelo bass, contrabass
Pierluigi Calderoni drums, timpani
Francesco Di Giacomo lead vocals

  73 年発表の第二作「Darwin!」。 前作をさらに複雑化し、攻撃的でアヴァンギャルドな方向へと過激に推し進めた作品。 リリカルにしてメロディアスなパートと鋭利なフレーズが交錯する攻撃的なパートが、くっきりとした対比を見せながらも、全体としては不安に満ち満ちた混沌というイメージである。 爆発的に奔放なエネルギーによって一息で活写された作品といえるだろう。 ヘヴィにしてグロテスクにねじ曲がった印象があり、現代音楽的な面も見せる。 ムーグ・シンセサイザーが十二分に活かされた作品でもある。

  「L'Evoluzione(革命)」(13:59) 風のようなメロトロンの調べをバックに、パーカッションの効いた低音のハモンド・オルガンの不気味なフレーズが蠢く。 爪弾かれるギター、そして伴奏の低音はチェンバロだろうか。 素朴なギターの調べをひろいあげるように、チェンバロとピアノがさざめく。 ベースも加わって、謎めいた物語が始まる。 可憐なチェンバロ伴奏で歌い出すリード・ヴォーカル。 やるせない哀愁をはらむも伸びやかで力強い歌唱である。 歌唱の高まりをギターが受け継いでぐっと高まる。 繰り返しの伴奏はピアノに交代。 サビでは、ヘヴィなオルガン、ギターが重なりあい轟々たるアンサンブルとなる。 ヘヴィだがクラシカルであり、どこまでも典雅であり、悠然たる風格もある。 トラジックな重みをまとうヴォーカルからギターへと引き継がれる高まりを受け止め、アコースティック・ピアノが気品あるソロで雰囲気を整えてゆく。 (3:50)
   寒風を思わせるホィッスルのようなオルガンの調べ、頼りなげなピアノの表情に不安がよぎる。 予想通り、ヘヴィな爆音がそこここで湧き上がり始め、鼓動のようなドラミングとともに、ハードな第二テーマを掲げたアンサンブルがスタートする。 怒りと畏怖がない交ぜになった、あたかも開き直ったような勢いがある。 ヴォーカルも、不安を煽り立てるように、歌詞を繰り返し叩きつけては登りつめてゆく唱法である オルガンのバッキングもかみつくように強烈だ。 オブリガートでは、オルガン、ギターが狂おしくユニゾンする。 二度目のオブリガートは、ヘヴィなギターとピアノが鮮烈なコントラストを成す。 三度目のオブリガートでは、ギター、オルガンが激しくユニゾンで攻め立てると、今度は重厚なピアノが受けて立つ。(6:08)
   一転、レゾンナンスを効かせたシンセサイザーが 8 分の 5 拍子によるノイジーなリフを提示する。 そのリフの上で、オルガンとシンセサイザーのユニゾンが得意のシンコペーションを使ったテーマで走り回り、クラリネットの絶叫が受け止める。 クラリネットが舞い、さまざまな音やフレーズがたたみかけるように折り重なると、ノイズとともにアンサンブルは狂おしくもつれ合って高まり、強烈なキメの連発だ。 リズムを失い、轟々と渦巻く低音ノイズの一撃とともに、クラリネットが空ろにさ迷い出てゆく。 オルガンが 8 分の 5 拍子のパターンを提示し、ハイハットのビートとポリリズミックな絡みを見せるも、クラリネットは狂ったように舞い、混沌を貫いてドラムスがフリーな打撃で受けて立つ。 目まぐるしく過激な展開であり、ポリリズミックな現代音楽風の演奏である。(9:00)
   熱気あるドラムス・ロールから、一瞬のブレイクを経て、再び、ヘヴィに追いたてる第二テーマが復活。 反復しながら自らエネルギーをため込んで高めてゆく荒々しいヴォーカル、そして、追いかけては熱く攻め立てるハモンド・オルガン。 オブリガートは、オルガンとギターによる挑戦的なユニゾン。 ヘヴィなオルガンのリードで走り、鋭く叫ぶキメ。(10:14)
  息を呑むブレイク。 そして、一転、すべてをロマンティックなソロ・ピアノの調べが受けとめる。 眩暈のしそうな落差だが、今までの流れを吸い上げて、みごとなまとめになってゆく。 GENTLE GIANT の初期作品に通じる展開ではないだろうか。 ホィッスルのような音色のハモンド・オルガンがピアノをなぞり、やがてヴァイブとピアノ、オルガンによるバロック調の対位アンサンブルへと発展する。 ランニング・ベースがいい。 やがて、オルガンも教会風の音色となり、軽やかなプレイとともに、全体はみごとなトリオ・ソナタになってゆく。 華のある鮮やかな変転、収束だ。 きらめくヴァイブ。 ペダルの低音も加わったバロック・アンサンブルから生まれた、第三テーマともいうべき付点つきのメロディが繰り返し奏でられる。 そして、序盤と同じものさびしいオルガンが寒風のように吹きすさぶ。(12:18)
   エピローグ。 ざわざわと湧き上がるハモンド・オルガン、跳ねるようなギター・リフ、重々しいピアノらに導かれて、メイン・ヴォーカルが静かに復活。 初めのテーマを再現し、またもラウドに盛り上がり、レゾナンスの効いたムーグ・シンセサイザーの電子音とギター、オルガンらが交錯しつつ、強引にフェード・アウトしてゆく。
  哀愁ある詩情、ロマンと猛るような熱狂が交差するドラマチックな大作。 性急で駆り立てるような印象の強い作品である。 レガートで雅なヴォーカル・パートが、次第に表情を変えてアグレッシヴな演奏へと飛び込んでゆくという、スリル満点の展開をもつ。 間奏部での、変拍子を用いたミステリアスなインストゥルメンタルの迫力は、かなりのものだ。 音色に変化をつけたハモンド・オルガンやノイジーなアナログ・シンセサイザー、そして木管楽器までも駆使したインストゥルメンタルは、EL&P をさらに過激にしたようなイメージもある。 まさに、一気呵成の勢い/ダイナミズムとクラシカルな構築性を共存させる試みの成果である。 ムーグ・シンセサイザーがこれだけフルに使われるのも、この時代にしては凄い。 クラリネットやヴァイブはヴィットリオによるのだろうか。 一つ注文があるとすれば、「ダーウィン」なだけにタイトルは「革命」ではなく「進化」なのでは? それとも政治的なメッセージを埋め込んだダブル・ミーニング? 急加速しては急ブレーキを引いたり、やや発散気味のまま無理やり終わる辺りも、エネルギーがあり余っている感じである。  クラシカルなハードロックの逸品。

  「La Conqueista Della Posizione Eretta(征服)」(8:41) 不安感を煽り、駆り立てるようなスリリングなピアノ和音の連打とドラムス連打。 迫力あふれるオープニングである。 決めの連続と震えるオルガンによる不気味な返答。 ギターがゆるゆると歌い出すと、ベースが凄まじい音で受け止め、オルガンが華麗にオブリガートする。 ギターの調べに応じるベースの荒々しい動きに挑発されるように、オルガンがスピーディなフレーズを放つ。 一気に演奏は重量感を増し、低音を強調したうごめくようなリフですべてが地鳴りに踊らされる。 やや落ちついた演奏を貫いてムーグの電子音が挑発的に悩ましげに流れてゆく。 オブリガートは全体が激しく応じる。 エレクトリック・ピアノがけたたましく叩きつけられると再び全体へ火の手が回り、ピアノのリフレインも押さえられない。 ギターの叫びから、シンセサイザーによるメタリックなテーマが中低音域を独占して力強く流れる。 ここで世界に秩序を取り戻すのはピアノである。 メタリックなテーマは続き、激しいトゥッティが応じるも、ピアノが抑えを効かせている。 二つのキーボードの絶妙の呼吸が、すべての進行をつかさどる。 再び、重厚なシンセサイザーのテーマ、追いかけるピアノ、激しく過剰に応じる全体演奏。 シンセサイザーのスリリングなテーマにまとわりつくように重なってくるのは、忌まわしき悪霊の雄たけびか。 次第にヴォリュームが落ち、あたかも遠ざかる行進のようにピアノの和音が刻まれる。 やがて、風に吹き飛ばされる笛の音のようにシンセサイザーの旋律が頼りなく舞い、ドラムスのピックアップとともに、ヴォーカルがやや沈んだ面差しで歌いだす。 熱狂の後の虚脱感。 不気味にのたうつ低音シンセサイザー、ベースらによるややグロテスクな伴奏を得て、ヴォーカルは次第に表情を確かにし、力強く歌い上げる。 それでも、どこか空しい。 間奏のクラシカルなシンセサイザー、ピアノも哀しげだ。 アコースティック・ギターと雨ににじむようなピアノのアンサンブルとともにヴォーカルは熱く歌い、そして去ってゆく。 勝利の雄たけびは、乾いた風に吹き消され、何も残らない。
  怪奇なヘヴィ・シンフォニック・ロックの大傑作。 前曲は、まだ苦悩や迷いがあるような気がするが、本曲は、すでに覚悟を決めて邪悪を突っ走る勢いがある。 EL&P からここを経て IL BALLETTO DI BRONZOMUSEO ROSENBACH などへとつながってゆく魔道である。 パワフルにして邪悪な演奏は、さながら軋みながら驀進する怪奇で巨大なエンジンである。 オープニングから緊迫感に満ちており、タイトル通り「戦い」を強くイメージさせる。 前半のハモンド・オルガンによる挑戦的なプレイ、ピアノとギターの生み出すスピーディな展開と受け/引きのシンセサイザーによる即興風の演奏を経て、クライマックスの重厚なストリングス風のシンセサイザーまで、一歩も止まることなくたたみかけるような演奏が繰り広げられる。 ジャズ風のピアノもいい感じで引き立っている。 最後のヴォーカルは、戦いの後の空しさを象徴するように、熱くなればなるほどむなしく響く。 風の音もその空虚さを象徴する。 ここまで A 面の 2 曲の展開はイタリアン・プログレの最高峰の一つ。

   「Danza Dei Grandi Rettili(卑劣漢の踊り)」(3:41) ピアノによる小洒落たシャンソン風ワルツ。 ジャズ・ギターは気まぐれにつぶやく。 ハモンド・オルガンと揺れるシンセサイザーが追いかけて高鳴る。 続いて、「主よ人の望みの喜びを」をなぞったようなランニング・ベースが動き出し、ピアノが追いかけるのだが、次第に演奏は即興になってゆく。 ハモンド・オルガンとベースの挑発的なやりとりから、再びシンセサイザーとオルガン主導のパワフルな演奏へと戻る。もっとも、テーマはシャンソンのままである。 冒頭のピアノ演奏が復活、小粋なベース、ギターも加わったジャズ・コンボは、ふいに、気まぐれな終焉を迎える。
  ピアノをフィーチュアしたジャジーなシャンソン風の小品。 プログレの権化のようなハモンド・オルガンとシンセサイザーが、強烈なサウンドで迫るのだが、奏でる調べはやはり洒落たシャンソンであり、その落差がおもしろい。 インストゥルメンタル。

   「Cento Mani E Cento Occhi(100 の手と 100 の瞳)」(5:21)バロック管楽器風に響き渡るシンセサイザーとティンパニによる悠然たる幕開けもそこそこに、フル回転するエンジンのようにシンセサイザーが絶叫し、ハモンド・オルガンが邪悪な唸りを上げる。 嵐のように狂乱する演奏のはじまりだ。 ヴォーカルは、過激な器楽を睨みすえてこの嵐を乗り切らんと決然たる姿勢で呪文のような歌を歌い続ける。 すべてがぐるぐるまわり続けるような、すさまじい演奏だ。 一転、せせらぎのようなピアノのリフレイン、再びリズムとともにハモンド・オルガンが加わって、ピアノのリフレインを一気に沸騰させる。 再び、熱きヴォーカル。 間奏は、ハモンド・オルガンとピアノ、そしてやや落ちついたギター。 三度目の男臭い、武骨なヴォーカル・パートは、ノチェンツィのリードだろうか。 ギターのオブリガートを経て、再びピアノの和音の連打とともに静寂が訪れ、さまざまに音がしたたるように散りばめられる中を、ひそやかなハーモニーが流れる。 最後は、低音部から駆け上がるように、ピアノとオルガンが爆発、またしてもエネルギッシュな演奏へ。 ヴォーカルは再びジアコモさんのオペラ調へ。 雄たけびようなうなり声、激しいピアノ。
  圧倒的なピアノ、オルガンをリードに突進する快速ヘヴィ・チューン。 リズムに凝った粘っこい演奏が得意の作風だが、この作品は比較的ストレートなビート感があり、よりスピーディな印象だ。 感受性のアナーキーな爆発のように動と静がスピードにまかせて激しく交錯する。 そして、ここでもメロディアスなヴォーカル・パートを巧みに活かした鮮やかな急緩急の展開があり、ドラマを生んでいる。 ヘヴィながらもリズミカルな曲調と波打つようなヴォリュームの極端な変化、二人で分け合うヴォーカルなど、GENTLE GIANT 風に感じられるところが多い。 攻め立てるハモンド・オルガンは圧巻。 つむじ風のような作品だ。

  「750,000 Anni Fa...L'Amore?(75 万年前の愛)」(5:37) 美しいピアノの調べに乗って、哀しみを秘めたヴォーカルが、思いのたけを切々と、しかし情熱的に歌い上げる。 ピアノは歌に呼応するように揺れ動く。 歌とピアノの交歓は、高音のフレーズと低音のフレーズが幾重にも折り重なったシンセサイザーの重い不気味な演奏に変ってゆく。 ストリングスのように重厚に響くシンセサイザー、そしてミステリアスなメロディがゆっくりと絡み響き合う。
  そして、再びピアノが湧き上り、悩ましげなヴォーカルが朗々と歌いだす。 ヴォーカルはピアノとともに熱い思いを吐露し続け、その情熱はやがてバンド全体によるハードな演奏に火をつける。 重厚なピアノがすべてを断ち切り消えてゆく。
  オペラのソリストのように圧倒的なヴォーカルをフィーチュアした歌もの。 哀愁に満ちたメロディが印象的だ。 クラシカルなピアノ伴奏によるカンツォーネに、神秘的かつサイケデリックなシンセサイザー・アンサンブルの間奏がナチュラルに結びついてしまうところが、プログレの醍醐味である。 ここまで B 面の作品は、ジャンニ・ノチェンツィの華麗なピアノが印象的。

  「Miserere Alla Storia(悲惨な物語)」(5:58) フェード・インで息せき切るように迫るのは、エネルギッシュなハモンド・オルガンがリードするアンサンブルだ。 急ブレーキでリタルダンドし、ベースが重苦しいパターンを刻みはじめる。 静かに挽歌を歌うクラリネット、アコースティック・ギターのアルペジオが丹念に追いかける。 ベース、アコースティック・ギター、クラリネットによる神秘的な、異国風のトリオ。 そこへ、金管シンセサイザーのファンファーレがおだやかに絡み始め、さまざまな楽器の音は積み重なると、さらにミステリアスなムードが強まる。 再び演奏は沈み込むが、ピアノ、チェンバロの伴奏で邪悪なモノローグが始まる。 ANGE のデキャンのように怪しい表情を操るジアコモ。 再び、演奏はリズムを得て、力強く渦を巻くように高まる。 序盤のアンサンブルが復活し、華麗なピアノ間奏でエネルギーを蓄積して、荒々しい演奏が続いてゆく。 劇的なクライマックス、そして再び神秘的な静かなトリオ演奏がよみがえり(アナログ・シンセサイザーらしいサウンドがアクセントする)消えてゆく。
  エキゾチックなアコースティック・アンサンブルと得意のオルガン、ピアノらによるハードな演奏を組み合わせた幻想的な作品。 途中から始まるような構成は物語のエピローグということなのだろうか、何にせよ、大作の一部を取り出したようなイメージである。 メインとなるテーマはあるのだが、構築性よりも勢いで突っ走るような即興性を強く感じさせる。 クラリネットが印象的。 演劇風のモノローグがある以外はインストゥルメンタル。

  「Ed Ora Io Domando Tempo Al Tempo Ed Egli Mi Risponde...Non Ne Ho(疑問)」(3:29)木の扉がきしむような音。 シンセサイザーとメロトロンを重ねたような不気味な音が高まりトライアングルのような金属音が響く。 チェンバロとクラリネットに導かれて歌いだすヴォーカルはやや表情がうつろ。 緩やかな 3 拍子。 間奏はクラリネットがバロック・トランペットのように軽やかに響く。 アコーディオンや手回しオルガンのような音も聴こえる。 オーボエやバスーンもあるようだ。 フェード・アウトする演奏。 クロス・フェードで木の扉のきしむ音。
  メリーゴーラウンドを思わせるやや不気味な感じワルツ。 伸びやかなヴォーカルを取り巻く演奏はオバケ屋敷風の怖さとコミカルさのブレンド。 さまざまな管楽器の音はシンセサイザーによるものだろうか。 木管系の音は本当の楽器のようにも思える。 ヘヴィにして混沌たるアルバムの結びとしては秀逸。


  前作を凌ぐ激情と噴出するエネルギーそしてミステリアスなムード。 演奏は即興性も高く、さまざまなしかけや効果音を煮詰めた、めまぐるしいものだ。 構成やストーリーよりも音楽の自立性を活かした、より破天荒なものを求めているのかもしれない。 二つの大作や「Cento Mani E Cento Occhi(100 の手と 100 の瞳)」には、正にそういう緊張感がある。 曲調こそ異なれど「Danza Dei Grandi Rettili(卑劣漢の踊り)」も然り。 そして、大作のモチーフ的な「Miserere Alla Storia(悲惨な物語)」やリリカルなワルツの「Ed Ora Io Domando Tempo Al Tempo Ed Egli Mi Risponde...Non Ne Ho(疑問)」も、流れこそストレートなもののどこかに軋みをもっている。 曲の一部をとればリリカルであったりハードであったりと色分けできるのだが、総体的には何ともいえない色合いの不安定さがあるのだ。 英国ハードロック/プログレの影響は受けつつも、模倣を越えて高度な音楽的素養が希求する前人未到の荒野へと挑戦するようなパフォーマンスである。 姿勢はある意味 HENRY COW などにも近いのかもしれない。 もちろんプログレッシヴ・ロック・ファンには、唸りを上げてたたみかけるオルガンやサスペンスフルなピアノ、ギターなどハードなプレイを満載した傑作として薦められる。 名盤。

(SMRL 6107 / KICP 2706)

 Io Sono Nato Libero

 
Vittorio Nocenzi organ, synthesizer, spinettaGianni Nocenzi piano, electric piano
Marcello Todaro acoustic & electric guitarsRenato D'Angelo bass, acoustic guitar
Pierluigi Calderoni drums, percussionsFrancesco Di Giacomo lead vocals
guest:
Rodolfo Maltese electric & acoustic guitarSilvana Aliotta percussion
Bruno Perosa percussion

  74 年発表の第三作「Io Sono Nato Libero(自由の扉)」。 前作で見せたアヴァンギャルドなアプローチと奔放な即興性を整理し、メロディアスなヴォーカルと攻撃的ながらもクラシカルで明快なプレイが調和した、格調高いシンフォニック・ロックとなる。 ロマンティックなメロディ・ラインやソフト・タッチのサウンドも盛り込み、ワイルドなアンサンブルにすらクラシカルな気品、エレガンスが感じられる作風となっている。 GENTLE GIANT ばりのパワフルにしてトリッキーな演奏は、攻撃的な姿勢へとつながるだけではなく、さまざまな表情を自在に描き出している。 嵐のような変拍子による無調アンサンブルにクラシカルなクリシェを刻み込むタイミングが絶妙であり、そういう意味で、爆発と発散だけではないアヴァンギャルドな表現を会得したといってもいいだろう。 ジャンニ・ノチェンツィのピアノは当然として、本作から参加するギタリスト、ルドルフォ・マルテーゼのアコースティック・ギターのプレイも、クラシカルな格調高さ、繊細な演出に大きく貢献している。 確かに演奏の中心は、今回も、重厚華麗なピアノ、チープな音質すらもいわくいい難い魅力にすりかえるシンセサイザー、挑戦的なオルガンなのだが、アンサンブル全体としての練り込まれた深み、計算された聴きやすさは、いままでで一番だろう。 エレクトリックな音のみならず、アコースティックな音やエキゾティックなパーカッションも駆使する辺りは、EL&P の「悪の経典」を、よりクラシカルに純文学的に昇華した感じ、といってもいいだろう。 歌詞内容は、タイトルから想像できるように、政治闘争色濃いラディカルなもののようだ。

  「Canto Nomade Per Un Prigioniero Politico(政治反逆者の歌)」(15:46) 金管楽器調のムーグ・シンセサイザーと重厚なピアノを伴奏に力強いメッセージを歌い上げるヴォーカル・パート、エキゾチズムが郷愁へと昇華するアヴァンギャルドにして巨大なインストゥルメンタル・パートから構成される大作。 後半のインストゥルメンタルはアコースティックなサウンドを駆使してダイナミクスを大きく変化させる野心的なもの。 ミステリアスにして厳粛であり、熱っぽくも知的で透徹した意識を感じさせる、格調のある名品である。 マルテーゼのアコースティック・ギター・プレイが随所で光る。

  「Non Mi Rompete(私を裏切るな)」(5:07)二つのアコースティック・ギター伴奏による弾き語り風のソフトな作品。 ノーブルなメイン・ヴォーカル・パートはアコースティック・ギターが柔らかく伴奏、オブリガートし、展開部では、軽やかなストロークにのせて、スキャットとともに思いのほかエネルギッシュに走る。 ヴォーカル表現は、フォーク・タッチながらもオペラ的な広がりがあり、ギターのオブリガートはきわめてクラシカルだ。 ギターは豊かな和音を響かせ、切ないメロディをささやき、エフェクトを用いた熱いストロークと情熱的なラスゲアードを放つなど、きわめて多彩な技を見せる。 アポヤンドによる弾けるようなシングル・ノートの響きは、ガット弦によるのかもしれない。 また、サビのヴォカリーズには、意外にも、ほんのりビートポップ風味もある。 最後は、ムーグ・シンセサイザーが金管楽器風のソロで軽やかにリードしてゆく。 素朴な暖かみに気品が浮かび上がる佳品である。 P.F.M と共通する感性です。

  「La Citta'Sottile(小さな街)」(7:12) オーセンティックなヴォーカルを軸に重苦しさと軽妙さを縫って唐突な展開を繰り広げてゆくアヴァンギャルドな作品。モダン・クラシック調の重々しいピアノとジャジーなギターが交錯するかと思えば、エレクトリックなサウンド・エフェクトが大胆に放り込まれる。 いわゆるイタリアン・ロックの過激さが分かりやすく示されている。 本曲のみジャンニ・ノチェンツィの作品。

  「Dopo...Niente E'Piu'Lo Stesso(消え去りし真実)」(9:54) メカニカルな反復と細分されたビートが抽象画のようなクールな神秘性を訴える作品。 抽象的でやや散漫な印象は、無表情なマイナー調(ロクリアン・モード)のメロディ・ラインによるのだろう。 本アルバムでは、最もアヴァンギャルドな作風の作品である。

  「Traccia II(軌跡 U)」(2:38) 金管楽器のファンファーレを思わせるシンセサイザーが堂々とリードするシンフォニック・インストゥルメンタル小品。 前曲の緊張を解きほぐして、心地よい余韻を残すために置かれた作品だろう。 第一作最終曲の続編である。 クラシカルなピアノとシンセサイザーによるアンサンブルが、長いクレシェンドでフェード・イン。 シンセサイザーは華やかな金管楽器やバスーンなどを思わせる。 フルートからトランペットなど多彩なオーケストレーションに耳を奪われる。 ストリングス系の音も加わり、勇壮な演奏が続く。 おもちゃのオーケストラのような愛らしくも勇ましいキーボード・シンフォニー。 EL&P の「Canario」などに通じるイメージです。


  変拍子ハードロック、アヴァンギャルドと進んできた作風は、安定感とともに、ついにクラシカルにして逞しく奔放な音楽性という完成形へと進化した。 本作を BANCO のベストとする声も、多いのではないだろうか。 前作を比してややおとなしめに感じられるのは、ヘヴィさと対比する軽快さを取り入れていること、オルガンからムーグへのシフト、そして、過激ながらもアンサンブルがしっかり制御されていることなどがその理由だろう。 荒々しさとクラシカルな美しさの調和は絶妙である。 テーマに込められた真摯な思いを言葉で直接読み解けないもどかしさはあるのだが、予想を裏切りつつも美しさを保ち続ける曲展開の妙味、次々と繰り出される緊迫したプレイに、心奪われるのは必至である。 ツイン・キーボードを中心にフル回転する、研ぎ澄まされたアンサンブルを堪能しよう。

(SMRL 6123 / CDOR 8202)

 Garofano Rosso

 
Rodolfo Maltese electric & acoustic guitars, trumpet, French horn
Pierluigi Calderoni drums, percussion, timpani
Renato D'Angelo bass, contrabass, acoustic guitar
Gianni Nocenzi piano, electric piano, synthesizer, clarinet
Vittorio Nocenzi organ, synthesizer, violin, vibraphone
Francesco Di Giacomo documentation

  76 年発表の「Garofano Rosso」。 映画「Garofano Rosso」のサウンド・トラック。 内容は、ジアコモさんぬきのインストゥルメンタル。 このアルバムからギタリストはロドルフォ・マルテーゼへと交代。 ピアノ、オルガンなどキーボードはもとより金管、クラリネットなどもフィーチュアしている。 ジャズからクラシック、民俗音楽、ポップス、エレクトロ・ミュージック、果ては近現代音楽風のインパクトの強い楽曲まで、情景描写という点を考えてもあまりに多彩な曲調である。 特にタイトル・ナンバーは、アコースティック楽器を多用したジャジーなエレポップという非常に面白い作品。 インストゥルメンタルのせいか、静かに旋律を歌わせるよりは、泥臭く音を詰め込み独特のせわしないプレイを好むという個性がよく出ている。 どことはいえないがマイク・オールドフィールドもある。 ジャケットの心細げに立ち尽くす若い家族の絵が印象的だ。 個人的にはジャンニ・ノチェンツィが珍しく見せるジャジーで小粋なタッチがおもしろかった。 各曲も鑑賞予定。

  「Zobeida」(2:40)
  「Funerale」(4:28)
  「10 Giugno 1924」(4:28)
  「Quasi Saltarello」(1:38)
  「Esterno Notte(Casa Di Giovanna)」(3:15)
  「Garofano Rosso」(5:02)
  「Suggestioni Di Un Ritorno In Campagna」(7:38)
  「Passeggiata In Bicicletta E Corteo Di Dimostranti」(2:53)
  「Tema Di Giovanna」(2:35)
  「Siracusa: Appunti D'Epoca」(2:20)
  「Notturno Breve」(2:20)
  「Lasciando La Casa Antica」(2:35)

(MAL 2014 / VIRGIN DISCHI 7866172 / WAS 1035)

 Come Un' Ultima Cena

 
Rodolfo Maltese guitars, trumpet, French horn
Pierluigi Calderoni drums, percussion
Renato D'Angelo bass
Gianni Nocenzi keyboards
Vittorio Nocenzi keyboards
Francesco Di Giacomo vocals

  76 年発表の「Come Un' Ultima Cena(最後の晩餐)」。 コンパクトな楽曲構成と飛躍的に明確さを増した録音が特徴的な作品。 重厚なドラマを描くに辺り荒々しさよりも明快さに重きを置き、結果として凝縮された濃密な味わいを生み出した秀作である。 大作は姿を消すものの、楽曲にはメロディアスなヴォーカルとツボをおさえた器楽によるメリハリがあり、聴きごたえは変わらない。 ピアノ、オルガン、シンセサイザー、力強いリズム・セクションを軸としたプログレ的な盛り上がりも健在。 管弦楽器も多彩に用いられている。 特に A 面の琴が印象的。 ハードでアヴァンギャルドなナンバーからアコースティックなバラードまで、曲のヴァリエーションも充実。 テーマはキリスト受難と現代の政治状況をオーヴァーラップしたものと思われる。(確信はない) 時代の流れを敏感に察知した音づくりをしながらも楽曲のクオリティを維持する姿勢には、すでにベテランの風格あり。 個人的には、メロディアスな歌とリズミカルな舞踊に、得意の前衛色の濃いトリッキーなアンサンブルが複雑かつナチュラルに織り込まれた 6 曲目にとどめをさす。 全体に重厚な印象の作品です。

  「.....A Cena, Per Esempio」(6:20)朗々たるカンツォーネを軸にした傑作。 歌には独特の険しさ、厳かさとともにジャジーな揺れ、ロマンの香りがあり、演奏もその表情をとらえて歌とともにしっかりと音楽を彫りこんでゆく。 古楽からテクニカルな決めまで演奏は華麗に流れる。 ヴォーカルの表情ににじむ切迫感は主題の重さを物語るのかもしれない。

  「IL Ragno」(4:55) ハモンド・オルガンがドライヴする BANCO らしい鋭い変拍子リフを用いたリズミカルなロック。 メイン・パートでは 4 拍子に 9 拍子を交えて、アジテートするようなヴォーカル・ハーモニーが走る。 メロディアスな中間部を配して鋭く叩きつけるような演奏との対比をつける。 鳴り続けるピアノ、華やかなムーグ・シンセサイザー、ギターなどさまざまな音が入れ込まれ、ぜいたくな色合いのある作品である。ヴォーカルはどこまでも伸びやかである。

  「E Cost Buono Giovanni, Ma...」(3:32) ピアノ、アコースティック・ギター、フルート伴奏による癒しのバラード。 内省的で愛らしい表情に、中盤からはバロック・トランペットやティンパニも加わって悠然とした広がりが生まれてくる。

  「Slogan」(7:23) ざわめくティンパニ、鼓動のようなベース連打、叩きつけられるピアノの和音など波乱を予感させるオープニングから、一気にけたたましい演奏へと突っ込んでゆく、初期作品のイメージに近いヘヴィ・クラシカル・ロックである。 ハードな演奏の合間を軽やかに縫ってゆくシンセサイザーにこのグループのセンスを感じる。 ハードロックといってさしつかえない調子ながら、あまりに伸びやかなヴォーカル、鮮烈なピアノなど BANCO 以外の何物でもない個性的な演奏である。 中間部は琴、ピアノによる神秘的なパート。 キーボードやドラムスによる即興的かつ耽美なプレイが散りばめられてゆく。 ピアノや管楽器的なシンセサイザーによるクラシカルなプレイがヴォーカルとともに劇的な盛り上がりを見せ、ハードなギター・ソロ、ハモンド・オルガン・ソロからメイン・テーマを浮かび上がらせつつ混沌としたまま強引なエンディングを迎える。 「Darwin!」辺りの大作をコンデンスしたようなカッコいい名品である。

  「Si Dice Che I Delfini Parlino」(5:50) オルガン、ロールするティンパニ、管弦(シンセサイザーだろうか)、ピアノによる劇的かつ重厚な序章が導くクラシカル・ロック。 メイン・ヴォーカル・パートには、太古のエジプトを思わせるエキゾチズムとサイケデリックな神秘性が香る。 テーマをリードするオルガンやギターに加えて、ヴォーカルをなぞって付き随うヴァイオリン、クラリネットと重量感あるピアノのオブリガートの響きが印象的なクラシカル・ロックであり、ミニマルに抑制された中にぜいたくな音色を散りばめた好作品である。 あっさりしているようで中身は濃い。

  「Voila'Mida(il guaritore)」(6:14) 才気の迸りのように大胆な即興演奏とにぎにぎしいフォーク・ミュージックとを一つにした大胆な作品。 ピアノを中心とした近現代クラシック調のイントロダクションは強烈なアクセントのあるへヴィな即興ジャズロックに展開、コラージュのように音風景が散りばめられ、その果てに、狂乱のベールをはぎとるように祝祭的かつノーブルな歌ものへと収束する。 宝石を数珠つなぎにしてゆくように多彩な音色がきらめくオブリガートがすばらしい。 終盤は祭りの宴のようににぎやか。 フォーキーなメロディ・ラインのメイン・ヴォーカルがアヴァンギャルドな演奏と絶妙のマッチングを見せる。 ピアノはド派手なプレイで演奏をリードする。 ハモンド・オルガンもサポート役としていい音を決めている。 傑作。

  「Quando La Buona Gente Dice」(1:57) アコースティックな音(シンセサイザーもホィッスルを模す)で奏でる祝祭的な小品。 中期 P.F.M のようなタッチ。 木管風のシンセサイザーのオブリガート、ヴァースで歌に寄り添うマンドリンが印象的。 ティンパニがスケール感を演出。

  「La Notte E Piena」(4:14)素朴にして美しく芳しきクラシカル・アンサンブル。 フォーキーな響きもあり。 素朴な笛の音がアコースティック・ギターのアンサンブルを導き、木管楽器が哀しげに歌う。 ヴォーカルをなぞるのはヴァイオリン。 間奏部の金管風の音はシンセサイザーだろう。 終盤にピアノが現われて、短い物語にエレガントに幕を引く。

  「Fino Alla Mia Porta」(4:30) GENTLE GIANT 風のジャジーでリズミカルな器楽が哀愁の労作歌へと流れ込み、やがてシンフォニックな調子を帯びてゆく終曲。 自らの初期の作風をコンパクトに再現したような佳品である。 8 ビートのアクセントを工夫して独特のグルーヴを出すところがさすが。 前半のギター・ソロはゲイリー・グリーンに似過ぎ。

(MAL 2015 / VIRGIN DISCHI SPA 0777 7 86612 2 1)

 Di Terra

 
Vittorio Nocenzi synthesizer, organ, electric piano
Gianni Nocenzi piano
Rodolfo Maltese electric & acoustic guitars, trumpet
Pierluigi Calderoni drums, timpani, percussion
Renato D'Angelo bass
Alan King contraalto sax, flute
Francesco Di Giacomo title

   78 年発表の「Di Terra」はオーケストラと共演したインストゥルメンタル・アルバム。 「Grafondo Rosso」に続き、再びジアコモさんは曲のタイトル作成のみのクレジット。 劇伴的な面も感じられるのだが、バンドをフィーチュアした場面(2、5 曲目など)では BANCO らしい、たたみかけるような緊迫感のある演奏を聴くことができる。 ジャンニ・ノチェンツィの鮮やかなピアノ、ヴィットリオ・ノチェンツィのシンセサイザー、そしてゲストのサックス、フルートも存在感あり。 最強のヴォーカリストを要するバンドとしては異色作かもしれないが、独特のジャズ・オーケストラ楽曲/演奏は充実しており、持ち味である一種謎めいた邪悪なイメージもしっかり提示できている。 やはり名作だろう。 いわゆる「オーケストラとバンドの共演盤」という観点でも出来は出色。 個人的には NEW TROLLS の件の作品よりもこちらが好みです。 作曲は、ノチェンツィ兄弟とロドルフォ・マルテーゼ。 AFTER CRYING のファンには絶対のお薦め。 ちなみに本作より一年ほど前に武宮恵子の名作の連載が始まっております。奇妙な縁?

  「Nel Cielo E Nelle Altre Cose Mute(天空と変化)」(4:39) オーケストラ主導による重厚な序曲。 ノチェンツィ兄弟による。

  「Terramadre(母なる大地)」(3:08)キーボードがみごとな傑作。 重厚な変拍子アコースティック・ピアノ、トランペットをフィーチュアした展開は、マイルス系のハードなジャズロックのイメージ。 剛にして邪悪、エマーソン/バルトーク/ヒナステラなピアノがカッコいい。 ジャンニ・ノチェンツィによる。

  「Non Senza Dolore(苦痛)」(5:02)再び変拍子のリフによる重厚な演奏をサックスとシンセサイザーが雷鳴のように鮮やかに切り裂く。 EL&P の「奈落のボレロ」をさらに展開させたような内容だ。 独特のエキゾチズムも匂わせる。 ノチェンツィ兄弟による。

  「Io Vivo(生きる)」(9:08) 近現代音楽的な面を集約した傑作。 ゲストの管楽器も鮮烈だが、ドラムス、ギターも怒涛のパフォーマンスを見せる。 一方キーボードはオーケストラと一体化し、きわめてクラシカルに全体の基調となる音を綴っている。 ジャンニ・ノチェンツィによる。

  「Ne' Piu' Di Un Albero Non Meno Di Una Stella(星もなく、木もなく)」(8:01) 軽やかながらも EL&P 風の重みをもつピアノのオスティナートが導く、ロマンティックな傑作。 中盤は変拍子リフのアンサンブルの上でフルート、サックスがフィーチュアされてジャジーに進み、最後には勇壮なファンファーレへと進む。 要所を締めるシンセサイザーもみごと。 タイトなジャズロック・タッチが強調されている。 ノチェンツィ兄弟による。

  「Nei Suoni E Nei Silenzi(音と静寂の中で)」(5:48)バスドラ、キーボードによる人間シーケンスの上で輝かしいアナログ・シンセサイザーとオーケストラが静かに対峙する作品。 ベースが強調され、シンセサイザーが高鳴るとやはり後期 EL&P を思い出す。 次第に大河のようなメロディアスな流れが生まれるも、最後は現代音楽風のピアノとオーケストラが現れ、流れを絶つ。 ノチェンツィ兄弟による。

  「Di Terra(地球へ)」(5:57)大団円に相応しい変化に富む名曲。 雄渾な管弦楽、タイトなバンド演奏、華麗なるピアノとすべてが現れ、ドラマを成す。 ノチェンツィ兄弟、マルテーゼによる。

(SMRL 6226 / MPICD 1002)

 Canto Di Primavera

 
Vittorio Nocenzi keyboards
Gianni Nocenzi clarinet, keyboards
Rodolfo Maltese guitar, trumpet, vocals
Gianni Colaiacomo bass
Pier Luigi Calderoni drums
Francesco Di Giacomo lead vocals
guest:
Liugi Cinque Harmonica, Saxophone

  79 年に発表された「Canto Di Primavera」。 サウンドは、主流の AOR やポップスを意識してか大分ソフトになる。 それだけに、ツヤと安定感を兼ね備えたジアコモさんのヴォーカルのデリケートな表現が際立っており、歌ものの味わいは格別である。 サウンドのソフト化の原因の一つは、アンサンブルの重心であるキーボードの種類が、オルガン、ピアノのコンビネーションからエレピやシンセサイザーへと移行したことである。 それ以外にもサックスの使用やベースのエフェクトなどのファクターもある。 第一印象は、フュージョンまたはイージー・リスニング調の爽やかロック。 1 曲目だけ聴いてこれが BANCO だと断言できる人はいないかもしれない。 しかし、歌メロやアコースティック・ピアノの表情には独特のメランコリックなリリシズムが漂い、「やはり」とうなづくシーンも多い。 プロデュースはルイジ・マントヴァーニ。

   「Ciclo(循環)」(4:21) 意外な面白みのあるインストゥルメンタルの佳曲。 最後まで続く低音のピアノのアルペジオが、変則的なアクセントによってポリフォニックな響きとともにカチッとした規則性を全体に持ち込み、穏やかなサックスとベースが流れをキープする。 ジャジーだがジャズではなくコンテンポラリーな音楽という意味では、マイク・オールドフィールドやペッカに近い。 初期と比べると随分とソフトになったなあという思いはあるが、新境地としてはとても興味深い。 ドラムスのリズム・キープもとても気持ちいい。 ピアノのシーケンスは、3 連が 5 回繰り返され 6 回目で 5 連となり、続いて 3 連 4 回、そして 3 連 4 回で 5 回目が 5 連、続いて 3 連 5 回で計 8 分音符で 64 でありドラムスの 8 ビートとシンクロする。

   「Canto Di Primavera(春の歌)」(5:39) 南の国のカーニバルのようなにぎやかでカラフルなナンバー。 初めは驚くほどジアコモさんの声にオペラっぽさがないが、エンディングに向けて加熱するとともに、次第に往年のベル・カントが復活してくる。 この辺の喜ばせ方がうまい。 パーカッションと弦楽器は、おそらくどこかの民俗楽器だろう。 グリッサンドするパーカッションは電気的なものだろうか。 シンセサイザーはアコースティック楽器に混ざって、巧みに使われている。 春(primavera)の到来を喜ぶお祭りなのかもしれないが、濃厚さはなくアッサリ目で爽やか。 第一曲の主題がクラリネットで回想される。

  「Sono La Besta(獣は)」(4:33) 独特のアクセントで迫力満点のアンサンブルが疾走するラテン風ロック。 ヴォーカル・メロディは、いかにも BANCO らしい熱く大仰なオペラ風。 決めを連発するテクニカルなアンサンブルとこのなめらかなヴォーカルが高めあって、スピードとパワーが生まれてくる。 イタリアンな情熱をテクニカルなプレイにきちっと収められるところは P.F.M に匹敵。 一方ソフトな音色が、普通のポップス風でもある。 「R.I.P」 から邪悪さ、ヘヴィネスを取り除いた、70 年代後半らしいハード・ラテンロック。

  「Niente(無)」(4:05) シンフォニックな高揚が感動的な歌もの。 オープニングはメランコリックに迫り、雄大な演奏の広がりとともに大切なものを発見したかのように翔け上がってゆくヴォーカルが、胸を熱くする。 神々しいまでに力強く登りつめていった、かつてのシンフォニック・チューンの昂揚感が、クラヴィネットやシンセサイザーらのロマンティックでジャジーなタッチによっていく分薄められてはいるのだが、これはこれで味がある。 かき鳴らされるコントラバス、そしてオブリガートするムーグが印象的。 VdGG 辺りの作品にもありそうな傑作だ。

  「E Mi Viene Da Pensare(思い)」(3:20) 端正なピアノの伴奏による歌もの。 イントロは、エチュードのようにシンプルなのにすてきな味わいをもつ。 ピアノの演奏にはクラシカルな気品があり、安っぽいロマンチズムとは無縁である。 ヴォーカルはさすが、ポップス風のメロディを見事な歌声でドラマチックな物語に仕立てる。 シンセサイザーやパーカッションがほんの少し彩るだけで、基本的にピアノとヴォーカルのデュオだ。 ピアノのプレイは、テクニックではキース・エマーソンに十分匹敵し、情感では凌駕する。

  「Interno Citta(内なる街)」(6:30) 異色だが芸風の幅広さを感じさせる大作。 基本はジャジーな歌ものだが、リズム構成は、ヴォーカル・パートの 3 拍子とインスト・パートの 8 ビートと変則的である。 後半へ向かうに連れ演奏は加熱し、8 ビートになったところで堰を切ったように盛り上がる。 いかにもな展開だ。 そして、新しいのは、演奏スタイルがややジャズロック風なところ。 ヴォーカルすらも、ジャズ・ヴォーカルたらんと抑え目でソフトに歌っているように思える。 普段の熱唱との落差がほほえましい。

  「Lungo Il Margine(岸に沿って)」(4:50) フランス印象派のような、ほのかな幻想が過去への郷愁をかきたてる作品。 何かをどこかへおき忘れてきたがどうしても思い出せない、大人の哀しみを歌っているのかもしれない。 霧にとざされ薄墨を流したような湖水を小さなボートでわたってゆくような、心細く切ない気持ちになる。 サティ風ともいえる。

  「Circobanda」(5:30) 1 曲目を変奏するインストゥルメンタル。 アコースティック・ピアノのリズミカルな演奏とムーグなどシンセサイザーによる軽やかに踊るような演奏がより合わされ、とてもカラフルな作品になっている。 音色こそソフトだが、演奏そのものはきわめてエネルギッシュ。 ジャジーな雰囲気もたっぷりある。 名残惜しさをかみ締めるように、なかなか去らないアンサンブルがいい。


  主流の音を取り入れたせいか全体にソフトなイメージの作品だが、切れ味いい技巧やヴォーカル表現など演奏はみごと。 作風は、イージー・リスニングかラウンジ・ミュージック調の「Ciclo」、「Circobanda」からジャズの「Interno Citta」、幻想的な「Lungo Il Margine」までバラエティ豊かである。 シンセサイザーを巧みに用い、管楽器をイメージしたアンサンブルはとてもカラフルでジャジーだ。 また、ギターが抑え目なのもソフト化の一因だろう。 かつてのようなハードロック系のプレイの片鱗は、強烈なドライヴ感のあるトゥッティに残るが、荒々しさはない。 それでも、変拍子のような凝ったしかけは用意されており、音楽的な挑戦はシンプルなメロディ中心の耳にやさしいサウンドの裏側でしっかり進行している。 要するに 78 年頃の音楽の風潮を、個性を活かしつつ巧みに取り入れているということだ。 もはや大物の風格である。 P.F.M と比べると、ドラスティックなスタイルの変化なしにうまく時代の音楽と折り合っているようだ。 聴きやすい上に噛み締めることによって味も出てくる、名盤といっていいだろう。

(SMRL 6247 / MPICD 1004)

 il 13

 
Vittorio Nocenzi keyboardsRodolfo Maltese guitars
Tiziano Ricci bassToni Ametta bass
Maurizio Masi drumsDavid Sabiu drums
Pierluigi Calderoni drumsPaolo Sentinelli percussion, keyboards
Max Semeraldi guitarsFrancesco Di Giacomo lead vocals

  94 年発表の「il 13」。 九年ぶりのオリジナル新作である。 じつにさまざまな作品が取り揃えられているが、第一印象ではキャッチーなアリーナ系ハードロックである。 もっとも、キーボード・シーケンスのアクセントが凝った変拍子風だったり、独特の転調やエキゾティックな音使いがあるなど、プログレッシヴ・ロックらしいしかけがないということではない。 そして、曲調を問わず、モダンな音楽を取り込んでポップになっても、編み出される音にがっちりした手応えがあるところがこのグループらしいところだ。 ロック・バンドのアンサンブルとしての一つの完成形だと思う。(本家 GENTLE GIANT と違って時代とともに発展できたのは、ヴォーカリストの芸風のみならず、音楽の複雑化と抽象化そのものを目指すのではなく、クラシックを尊重しつつ肉体的な面を忘れずに来ているからだろう。まあ真面目過ぎるアカデミスト英国人と情熱肌の芸術家である伊人の差かもしれない) ポップ・チューンでの祝祭的なノリやアコースティックなバラードの重厚なロマンチシズムなど、イタリアン・ロックらしさあふれる作品である。 今までよりもギターがかなりがんばっているが、ピアノやシンセサイザーももちろんいいところで鳴っている。 ジアコモさんのパワフルかつ哀愁ある歌唱もまったく健在。 時にやや 70 年代末のニューウェーヴっぽく聞えるのは、私の耳が古いせいだと思う。 結論、フツウに車で鳴らしていても誰からも文句の出ない、大人向けのポップス、ロックとしての水準を軽くクリアする佳作。 本作は、日本では初来日記念盤として 97 年に発表されました。

  「Dove Non Arrivano Gli Occhi」(1:44)
  「Sirene」(4:01)
  「Sirene (Parte II)」(0:54)
  「Brivido」(6:52)
  「Guardami Le Spalle」(4:30)
  「Anche Dio」(3:37)
  「Spudorata (Pi-ppò)」(4:58)
  「Bambino」(5:06)
  「Tremila (Rock Prove)」(5:03)
  「Rimani Fuori」(6:35)
  「Emiliano」(3:40)
  「Mister Rabbit」(4:08)
  「Magari Che (Gargarismo)」(5:53)
  「Tirami Una Rete」(5:00)
  「Bisbigli」(1:40)

(8 23620 2)

 Nude

 
Vittorio Nocenzi keyboards
Rodolfo Maltese guitars
Tiziano Ricci bass
Maurizio Masi drums
Filippo Marcheggiani guitars
Francesco Di Giacomo lead vocals

  98 年発表の「Nude」。 日本公演を含むアンプラグド・ライヴとスタジオ新曲によるパワフルな CD 二枚組。 「R.I.P」だけでも十分オツリがくる内容である。 四の五のいう前に、まず買って聴いてください(ゲンコツ・ジャケットの輸入盤を買うべし) 中ジャケにあるジアコモ、ノチェンツィ、マルテーセの三人がどこか遠くを見つめている写真を見ると、まだまだやるなこのオッサン達は、という気がしてくる。 また是非来日して欲しいものです。(2007 年、再来日しました)

(8 23620 2)

 No Palco

 
Vittorio Nocenzi keyboardsRodolfo Maltese guitars
Francesco Di Giacomo lead vocalsMaurizio Masi drums
Tiziano Ricci bassFilippo Marcheggiani guitars
Alessandro Papotto sax, flute, clarinet
guest:
Morgan bass on 1,5Pierluigi Calderoni drums on 2,9,13
Mauro Pagani violin on 6,9Federico Zampaglione guitar on 8
Andrea Satta voice on 9Filippo Gatti viola on 9
Gianni Nocenzi digital piano , MPC 4000 on 10,11,12,13

  2003 年発表の「No Palco」。 2002 年に行われた結成三十周年記念コンサートのライヴ盤。 さまざまに工夫されたアレンジで時代の名曲が鮮やかに甦る。 「Moby Dick」はやはり名曲。 マウロ・パガーニ、ジャンニ・ノチェンツィ、ピエロルイジ・カルテローニ(オリジナル・ドラマー)らゲストも豪華。

  「Prologo」(1:13)
  「R.I.P」(8:24)第一作より。
  「IL Ragno」(5:18)「最後の晩餐」より。
  「Cento Mani E Cento Occhi」(4:29)「ダーウィン」より。
  「Quando La Buona Gente Dice」(6:28)「最後の晩餐」より。
  「Canto Di Primavera」(7:28)「春の歌」より。
  「La Caccia / Fa# Minore」(4:30)ヴィットリオ・ノチェンツィのソロ作品より。
  「Moby Dick」(7:20)「Banco」より。
  「Non Mi Rompete」(10:37)「自由の扉」より。観客が一斉に歌いだす。
  「Come Due Treni / Intro」(3:09)ジャンニ・ノチェンツィの作品。独奏。
  「750,000 Anni Fa...L'Amore?」(6:34)「ダーウィン」より。冒頭、ピアノの入りは感動的。
  「Traccia I」(3:00)第一作より。
  「Traccia II」(5:08)「自由の扉」より。

(SAS 5135072)

 Seguendo Le Tracce

 
Vittorio Nocenzi keyboards, synthesizer Gianni Nocenzi piano, electric piano, clarinet
Rodolfo Maltese guitars, trumpet Renato D'Angelo bass
Pierluigi Calderoni drums, percussion Francesco Di Giacomo lead vocals

  2004 年発表の「Seguendo Le Tracce」。 1975 年録音のライヴ・アルバム。 英語盤を製作し、充実した時期の演奏をとらえた驚異の発掘である。 シンセサイザーのサウンドやアレンジは、オリジナル・スタジオ盤からはやや変わっている。 音質はまったく問題なし。 テープにはもう何曲かあったのでは?

  「R.I.P」(8:58)第一作より。英語ヴァージョン。
  「L'albero Del Pane」(5:01)MANTICORE 英語盤より。
  「Danza Dei Grandi Rettili」(11:31)聴きものの一つ。第二作より。EL&P ばりのハモンド・オルガン、ピアノがリードし、さらにはトランペット、アナログ・シンセサイザー、パーカッションが爆発的なアドリヴを放つ強烈な変拍子インストゥルメンタル・パートへと発展する。 サイケなソウル・ジャズとしても抜群にカッコいい。 終盤には「Canto Nomade Per Un Prigioniero Politico」も引用されている。 ノイズを爆発させて荒ぶるアドリヴには、EL&P の「展覧会の絵」と同じセンスと熱気が詰まっている。
  「Passagio」(0:50)。第一作より。
  「Non Mi Rompete」(6:03)第三作より。
  「Dopo...Niente E'Piu'Lo Stesso」(12:36)第三作より。
  「Traccia II」(3:27)第三作より。
  「Metamorfosi」(26:15)第一作より。圧巻のピアノ・インプロヴィゼーション。

(MRC 003)



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