ARZACHEL

  イギリスのサイケデリック・ロック・グループ「ARZACHEL」。デイヴ・スチュアート、スティーヴ・ヒレッジら、カンタベリー・シーンをリードする才能豊かなミュージシャンが参加した。 ヒレッジがURIEL を脱退した後、残された 3 人は EGG と改名するもバンドを存続し、ヒレッジの復帰時にアルバムを録音した。 グループ名が変名なのは契約上の問題に対応したためだそうだ。

 Arzachel

 
Steve Hillage Guitars, Vocals
Mont Campbell Bass, Vocals
Dave Stewart Keyboards
Cive Brooks Drums

  69 年発表のアルバム「Arzachel」。 内容は、ヒレッジのブルージーなギターとスチュアートのオルガンを前面に出したサイケなハードロック。 前半には、キャンベルによる実験的な試みもある。 CREAM のようなブルーズ・ロック志向を見せるヒレッジと、アカデミックなキャンベルという分裂気味の内容の間を取り持つのが、双方の資質をもつスチュアート、という見方もできそうだ。 特に、荒々しさのなかにある何気ないユーモアは、彼のセンスだろう。 ヴォーカルは、ヒレッジとキャンベルそれぞれと、二人によるツイン・ハーモニー。 アルバム全体の印象は、後半のブルージーでサイケデリックなナンバーで決まってくる。 EGG を結成するメンバーとヒレッジの目指すものの違いが分かって興味深い。
   本作後、EGG はトリオで活動を続け、DECCA からアルバムを発表する。 一方ヒレッジは、学業を終えた後 KHAN を結成、GONG を経て、独特のサイケ/スペース感覚を活かしたソロ・キャリアを積む。
   ここの CD ジャケット(本 CD は非正規盤)は、ドイツ盤 LP と同じ。 英国盤は青色。

  1曲目「Garden Of Earthly Delights」 ツイン・ヴォーカルとクラシカルなオルガンをフィーチュアした EGG 風の小曲。 ヒレッジとキャンベルが、交互に問いかけるように歌う。 スチュアートは、パイプ・オルガンで静かに品よく演奏。 後半は、ギターが冷ややかな表情のペンタトニック・ソロをゆったりと奏でる。 ヴォーカル、ギター、オルガンすべてが深いエコーの底。

  2曲目「Azathoth」再びチャーチ・オルガンによるイントロダクション。 キャンベルのヴォーカルが、厳かに歌いヒレッジが追いかける。 ヴォーカル・パートの終わりとともに、オルガンが次第にクレージーな和音を繰り返し始め、やがてノイズの塊と化す。 ギターも唸りを上げる。 オルガンは、さらにメタリックな轟音を繰り返す。 サイケで不気味なクライマックスを経て、再びチャーチ・オルガンと厳かなヴォーカルに戻って終わる。
  賛美歌の如きヴォーカル・パートと、狂おしい間奏をもつ過激な作品。 前半の妙に落ちついた演奏が、一波乱ありそうだなと匂わせ、予想通りにディープ・サイケな間奏へ。 狂おしくも抑えた演奏が、不気味。 アザトースは、クトゥルフ神話の登場人物?。

  3曲目「Queen St. Gang」オルガンが、クラシカルかつメランコリックなフレーズで歌いだす。 クラシカルなオルガンの問いかけに、ギターは和音をゆったり響かせて応じる。 ミドル・テンポのたんたんとした演奏が、次第に緊張を高めてゆく。 オルガンは二種類の音色を巧みに使い分けて、コール・レスポンス風のプレイを続けてゆく。 ブルージーかつクラシカルなプレイがいい。 再びオルガンが憂鬱な演奏へと戻り、最後にエネルギッシュなフレーズを決めて終り。
  オルガンのリードするブルージーなインストゥルメンタル。 メランコリックでたんたんとした演奏に、グイグイと引っぱるようなドライヴ感とうねりがある。 RARE BIRD を思わせる佳作だ。

  4曲目「Leg」冷ややかなエコーの効いたオルガンによる、クラシカルな演奏で幕を開ける。 ややブリッコ気味かもしれない。 ギターが静かに始まり、しっかりと自己主張をはじめブルージーなプレイを決めてゆく。 一気に激しいリズムが飛び込み、サイケデリック・ギターと叩きつけるようなヴォーカルが爆発する。 完全にハードロックである。 轟音ファズ・ギターに負けじとスチュアートも、オルガンの音量を上げて対抗する。 オブリガートが華麗だ。 メイン・ヴォーカルに続き、左右のチャネルからヒレッジのブルーズ・ギターが炸裂。 EXPERIENCECREAM や初期の LED ZEPPELIN を思わせる、ワイルドな演奏だ。 続いてスチュアートのオルガン・ソロ。 歪んだ和音を、荒々しく放つ。 激しいリズムと轟音ギターそしてうわずったまま吼えるヴォーカル。 最後は、狂ったように絶叫するオルガンとギターが交錯して終る。
  サイケでブルージーなハードロック。 クラシカルなオルガンもギターに刺激されて、次第に羽目を外してゆく。 そのオルガンとギターのバトルが聴きもの。 甘めの声をせいいっぱい張り上げるヒレッジのヴォーカルがいい。

  5曲目「Clean Innocent FunCREAM 調(ジャック・ブルーズ風かもしれない)のサイケデリック・ブルース。 ヴォーカルをきっちりなぞるギターは、クラプトンも真っ青のみごとな存在感。 オブリガートは、ヘヴィなオルガンが唸りを上げる。 思わせぶりなオープニングからブルージーにしてメロディアスなオルガン、ギターのハーモニーへ。 叩きつけるリズム。 うねりむせび泣くギター。 鳴り続けるオルガン。 3 連でたたみかけるドラム。 遠吠えのようなベンディング。 重苦しいオルガンのオブリガート。 ヴォーカル・パートへと戻り、ぐっと抑制された演奏が続く。 そして堰を切ったように飛び出すギター、オルガンそしてスキャット。 リズムも細かいビートへ変化し、ギターとオルガンによるアドリヴ大会のスタートだ。 せわしないギターに対し、ロングトーンを駆使するオルガン。 ハイ・テンションなのだが、ある意味ラリラリでもある演奏である。 オルガンは、クラシカルなフレーズでアクセントをつける。 最後は、ヴォーカルへと戻って終わり。
  CREAM 直系(「Wheels Of Fire」の「Cross Road」ですな)のヘヴィ・ブルーズ・ロック大作。 ヴォーカルとギターが抜群のコンビネーションを見せるメイン・パートと、インプロヴィゼーションによる間奏。 延々続きます。

  6曲目「Metempsychosis」 前のインプロを引きずっているかのような、混乱したノイズの嵐から始まる。 オルガンが「ペールギュント」をひとくさり。 ノイズは次第におさまり、力強いドラムに導かれて、ギターとオルガンのインプロヴィゼーションへと突っ込む。 スチュアートのオルガンは、やる気がないのか前衛的なのかわからない、ノイズをたてている。 ギターは調子のいいリフのみ。 ベースとドラムは、ややアフロなビートを刻む。 ギターは、グリッサンドを駆使し、深いエコーの海を泳ぎだす。 強まる酩酊感。 ふと途切れるようなブレイク。 オルガンが静かに湧き上がり、メランコリックに響く。 二日酔いの虚脱感。 交錯するヴォイス。 ほろ酔い気分のグレゴリアン・シャント。 サイケです。 ギターが低音を刻み始め、フロア・タムが連打されると、荒々しい世界律が甦る。 そしてブルーズ・ギターのソロが復活。 オルガンもエレクトリックな轟音を放ち、応戦する。 トライバルなビート。 うねるようなベース・ラインからベースのソロが、フィーチュアされる。 空気を切り裂くようなオルガンのノイズから演奏が復活。 脱力とハイ・テンションを行き交う演奏が、それこそエンドレスで続くのだ。
  音の感触が初期の ZEPPELINSPOOKY TOOTH に通じるサイケデリック・インストゥルメンタル超大作。 虚空に叫ぶギターとヘヴィにしてノイジーなオルガン。 中盤のスキャット入りの混沌は、今聴くとさすがに疲れるが、おそらく音響的には自信満々だったのでしょう。 終盤は、凄まじいばかりにエネルギーが迸る。 16分にわたる巨編。


  サイケデリックでブルージーな極彩色のニュー・ロック・ワールド。 もちろん古めかしい音なのだが、演奏はエネルギッシュで熱い。 ヒレッジのギター、スチュアートのオルガンは、すでにこの時点でかなり完成されたプレイを見せている。 特にスチュアートのクラシカルなオルガン・プレイは、EGG へと直結するものだ。 インテリジェントなカンタベリーの住民も、出自はこの辺のアートロックなのだと思うと、なんとなく微笑ましい。 もっともこういう音に浸っていたからこそ、さらなる革新を求めて、はばたいたのかもしれない。 前半の 2 曲では、ツイン・ヴォーカルやクラシカルな演奏でオリジナリティを打ち出すも、熱気と問答無用のパワーでは、やはりラウドに盛り上がる後半に軍配が上がるだろう。 オルガンもがんばっているが、こういう演奏ではギターに一日の長があるようだ。 とにかくヒレッジがカッコいいです。

(TRC 021)


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