イタリアのプログレッシヴ・ロック・グループ「ACQUA FRAGILE」。 71 年結成。 73 年アルバム・デビュー。 75 年の解散までに、P.F.M との共同プロデュースで二枚の作品を残す。ヴォーカルのランゼッティは、後に P.F.M に加入。 ウエスト・コースト風のハーモニーと、クリアで透明感のあるサウンドが特徴。
| Piero Canavera | drums, acoustic guitar, vocals |
| Gino Campanini | guitars, vocals |
| Bernardo Lanzetti | guitars, lead vocals |
| Franz Dondi | bass |
| Maurizio Mori | keyboards, vocals |
73 年発表の第一作「Acqua Fragile」。
内容は、英語のヴォーカルがリードする、きらめくようにクリアーなシンフォニック・ロック。
ハードロックよりもフォークがベースにあるような、アコースティックで洗練された音である。
ヘヴィなサウンドが多いイタリアン・プログレッシヴ・ロックの中では、異色の存在だろう。
GENESIS、GENTLE GIANT の強い影響を見せつつも、爽やかな音色のアンサンブルにオリジナリティを感じさせる佳作だ。
曲は、ヴォーカルのランゼッティとドラムのカナベーラの共作。
タイトルも歌詞も、英語である。
ジャケットは、海の軟体動物の器械体操。
おそらくグループ名を表現したものなのだろう。
プロデュースは、P.F.M とクラウディオ・ファビ
。
1 曲目「Morning Comes」(7:25)アコースティック・ギターの和音がそよぐ、たおやかなイントロダクション。
テーマは、ささやきかけるように優しげなフォーク・ターチ。
サビは、ヴォカリーズで力強く高まる。
いったん沈み込み聴こえてくるオルガンは、トニー・バンクス。
軽やかなギターのストロークが、一転チャーチ・オルガンのヘヴィなリフレインへ変化すると、間奏のスタートだ。
ギター・ソロは、あまりにもハケット風である。
たたみかけるオルガンとサイド・ギターの伴奏が、ドライヴ感を生む。
そしてシャウトで決めるヴォーカル、オブリガートで轟くオルガン、ヘヴィなギター。
熱気のほとばしる演奏だ。
メロトロンとシンバルが一閃し、ギターのリフがテンポを落ちつかせる。
ギター・リフにリードされて、ミドル・テンポのタイトなアンサンブル、そしてヴォーカル・パートが復活。
再びヴォリュームが落ちて、ギターのアルペジオとベースがひそやかに流れる。
ヴォーカルは、ささやくような風情だ。
オルガンも加わって次第にクレシェンドする演奏。
「Musical Box」風。
ギター、オルガン伴奏でヴォカリーズが高まり、エンディングはクラシカルなギターの和音を、ストリングス・シンセサイザーが吸い込むように消えてゆく。
リリカルなヴォーカル・パートから、シンフォニックな調子を保って次々に変化してゆく作品。
緩急・音量の変化を用いた語り口やギターの音には、初期 GENESIS の影響が強く感じられる。
新鮮なのは、GENESIS 風の演奏にアメリカ、ウエスト・コースト風の開放感のある爽やかなテーマやアコースティック・ギターを持ち込んだところだろう。
終盤のタイトなリズム(ドラムがみごと)による演奏と、長いクレシェンドを駆け上がるシーンには、思わず胸がときめく。
シンフォニック・ロックの逸品。
2 曲目「Comic Strips」(3:59)オルガンの 4 拍 3 連フレーズにギターがからまる、ポリリズミックな座りの悪いイントロダクション。
ドラムが入り、両チャネルからギター・リフが聴こえると、決めが続いてコーラスだ。
うわずったような平板なメロディを、ヴォーカルとギターがユニゾンする。
オルガンとギターのからみからリード・ヴォーカル・パート。
音程の上下が、激しい奇妙なメロディを荒々しく歌う。
間奏は 7 拍子のハードロック・ギター、そしてピアノのトリル。
再びコーラス・パートへ。
最後の小節は、繰り返しでリズムがくずれて変則的になる。
ヴォーカルの最後をひろうオルガンの繰り返しから、ベースとオルガンのブリッジ、そして 8 分の 6 拍子の奇怪なギター・リフ。
ここまでくると、さすがに GENTLE GIANT だと分かる。
そのままギター・リフと重なるヴォーカル。
ツイン・ヴォーカルが、両チャネルから聴こえる。
珍妙な間奏、セカンド・ヴァースに続き、再びハードロック風ギターのせわしない間奏。
そしてメイン・ヴォーカルへ。
ランゼッティのヴィブラートは、独特である。
ギターがヴォーカルにユニゾンする。
最後の小節の繰り返しから、オルガンが和音を轟かせて終わり。
今度は明らかに GENTLE GIANT である。
4分弱にもかかわらず、めまぐるしく変転する作品だ。
リズムの変化、わざとらしいメロディ、パッチワーク風のプレイは本家そっくり。
これで追いかけコーラスがあったら完璧だ。
心なしか、ヴォーカルもデレク・シャルマン似である。
緊張感のある狂おしい曲だ。
3 曲目「Science Fiction Suite」(5:57)コード・ストローク中心のアコースティック・ギター・アンサンブル。
12 弦ギターだろうか、透明感のあるみごとな演奏だ。
そして爽快でデリケートなハイトーンのコーラス。
すっかり CSN&Y である。
もしくは初期 YES。
バンジョーも使われているような気がする。
ほのかに土の香りがする、軽やかなヴォカリーズ。
ややつたない英語の響きが、独特の味わいを与えているようだ。
次第に、ギターのデュオには、PENTANGLE のような英国トラッドの湿り気もあらわれる。
しかし、ハーモニーはソフトである。
コーラスが次第に熱気を帯び、ストリングスが静かに浮かびる。
どこまでも飛翔するようなコーラス、そして小粋なギターによるエンディング。
ほぼギターとコーラス・ハーモニーのみのフォーク・ソング。
二本もしくは三本のアコースティック・ギターが織り成す目映いテクスチュアと、涼やかなコーラスが気持ちいい。
イタリアンというよりは、アメリカや英国のフォークを思わせる曲調だが、根っこにしっかりこういう音楽が息づいていていると思うと、新しい友人ができたようにうれしくなる。
歌ものの仕上げのみごとさは、やはりイタリアン・ロックらしいといえるだろう。
4 曲目「Song From A Picture」(4:11)ベース、二つのギターによるひそやかなアンサンブル。
ヴァイブのようなエレピとともに、静かに歌が始まる。
透明感ある 12 弦アコースティック・ギターのストローク、オブリガート。
やはり、初期 GENESIS を思わせる展開だ。
間奏から加わるドラムの、ていねいなストロークがいい。
堅実なギターの伴奏、そして控えめなオルガンとシンセサイザーが歌いだす。
抑えていた気持ちが思わず隙間から顔をのぞかせるような、切なく美しく緻密な演奏だ。
そしてヴォーカル。
声高く迎えたコーラスによるサビがみずみずしい。
ブレイクを経てエピローグ風のおだやかなピアノの和音と、ギターの爪弾きが静かにリタルダンド、そして消えてゆく。
美しいフォーク・ロック。
アコースティック・ギターの間断ないさざめきと、ヴァイブの響きが硬くなった心を解きほぐしてくれるようだ。
デリケートにして技巧的なアンサンブルそしてフォーク風のアコースティックでおだやかな演奏が、シンフォニックな高まりを見せながら進んでゆく様子は、「Stagnation」など最初期の GENESIS の作品を思わせる。
もしくは、KING CRIMSON の「Epitaph」が、長調になったような感じだろう。
もしヴォーカルがイタリア語なら、さらに繊細な表情が現れてよかったような気がする。
しみじみとした名曲だ。
何の絵からインスパイアされたのだろう。
5 曲目「Education Story」(4:16)前曲の雰囲気は一転ヘヴィなリフによって破られる。
オルガン、ギターによる CRIMSON か BANCO か、といった攻撃的なリフである。
ていねいなドラムが気持ちよい。
ヴォーカルも、不安を高めるようなアジテーション風である。
オルガンのブリッジが緊張を高めると、リズムが巧みに変化、たたみかけるようなアコースティック・ギターのプレイから、ストリングスが高まりギター・ソロへ。
ソロは、さらにリズムの変化を呼び、雰囲気が明るくなると、YES風のコーラスによるサビ。
さすが P.F.M の弟分、みごとな場面展開である。
コーラスは、なぜか YES の「Drama」の作品に似ている。
再び、ヘヴィなリフによるヴォーカル・パート。
今度は、間奏部のギターの後ろで、YES コーラスが聴こえる。
そしてオルガンのブリッジから、ストリングス・シンセサイザー伴奏のギター・ソロへ。
再び、ソロが巧みに明るい曲調への転換をリード。
最後は YES コーラスがリズミカルに進み、ハーモニーを決めて終わり。
ダークなリフによるメイン・ヴォーカル・パートと開放感のある YES 風のコーラスによるサビがコントラストする作品。
ヘヴィなリフはいかにもプログレ風なのだが、このサビへの予想外の展開で新鮮さが生まれたようだ。
いまさらながら、すべてのパートの演奏が充実していることを再確認できる佳曲である。
6 曲目「Going Out」(2:59)さみしげなアコースティック・ギターのコード・ストローク。
開放弦をうまく使った maj7 に、独特の響きがある。
ヴォーカルには、ファルセットのコーラスが重なる。
そして、おだやかで張りのあるヴォカリーズ。
ギターとともにゆったりと広がってゆく。
半音進行の宙ぶらりんな気持ち。
セカンド・ヴァースを経て、最後は美しい三声のコーラスが滔々と流れてゆく。
シンプルな弾き語りによる小品。
何気ない曲だが、アルバム後半の流れをなめらかにしている。
7 曲目「Three Hands Man」(8:06)オルガンによるスリリングなイントロダクション。
8 ビートを 8 分の 6 プラス 2 拍へ割るフレージングが、緊迫感を高めている。
ピアノが加わってオルガンに絡み、ティンパニがとどろく。
オルガンからピアノへのリレーが、巧妙である。
ギターがユニゾンすると、オルガンのリードでスピーディな歌が始まる。
ハイトーンのコーラスが重なる、熱気あふれるヴォーカルだ。
加速をあおるようなオブリガート。
クラシックを倍速にしたようなドラマチックな演奏である。
間奏はヴォーカル・テーマをなぞるオルガン、叫ぶギター、そして一旦やや沈み込んでオルガンとエレピのスリリングなハーモニーが続く。
リズム・セクションも緻密である。
再び 8 分の 6 のオルガンのリフに続くヴォーカルはランゼッティのソロ。
激しくギター、オルガンと呼応する。
そしてメロディアスな泣きのサビのコーラス。
再びオルガン、ギター、ストリングスと続く間奏からヴォーカルへ。
リタルダンドからギターのコード・ストロークによるブリッジ。
ここでも 8 分の 6 を交えて、独特のせわしなさがある。
シャープなドラミング。
ストリングス・シンセサイザーが、左右のチャネルを揺れ動きながら湧き上がる。
そしてギターとオルガンによるヘヴィなアンサンブル。
クロスして飛び込むのは踏み切りの SE? エネルギッシュなヴォーカル・コーラスに続き、スリリングなピアノ、ギターのアンサンブル。
リズムのアクセントがフラットな 8 ビートへと変化し、雑踏をイメージさせる SE が現れる。
リコーダーのようなシンセサイザーが奏でる、軽やかなフォーク・ソング。
次第に浮かび上がるリズム、ギター、そしてスケルツォ風の輝かしきオルガン。
オルガンの和音がオーケストラのように高まる。
華麗に舞うピアノ。
オルガンの和音が決まると、弾き語り風のギターからシャンソン風の小粋なヴォーカルへ。
意外な展開だ。
リズムをくずしたギターのオブリガートがおもしろい。
再び雑踏の SE そしてヴォーカルが、テーマを繰り返しながらフェード・アウト。
シンセサイザーのフォーク・ソングが寄り添う。
YES のような緊密な演奏で押し捲る、スリリングな大作。
倍速クラシックのようなテーマや、キーボード中心のめまぐるしい展開など、プログレの醍醐味たっぷりである。
カデンツァよりもスケルツォ風のオスティナートを得意とするキーボードは、やはりトニー・バンクス流。
エネルギッシュに押すヴォーカル・パートを軸にして、たたみかけるリズムとギター、キーボードによる息もつかせぬ展開が楽しい。後半の奇想曲風の展開もおもしろい。
明快でテクニカルなサウンドが特徴のシンフォニック・ロック作品。
派手さよりも、緊密なアンサンブル志向の職人芸的な演奏である。
アコースティックな歌ものから凝りまくったシンフォニック・ロックまで充実の一枚だ。
英国プログレの雄姿があちこちにちりばめられているのが微笑ましいと同時に、これだけエッセンスを取り出すテクニックとセンスにもびっくりである。
歌ものですら、イタリアよりも英国風である。
とはいえやはりベースにあるのは、コーラスやアコースティック・ギターの弾き語りのような、フォーク的な感性ではないだろうか。テクニカルなプレイの好きな方や、英国ロックのファンにはお奨め。
ポンプも、これくらいうまいといいのですが。
全体に漂うクリアーで瑞々しい空気が魅力である。
(ND 74853)
| Piero Canavera | drums, percussion, acoustic guitar, vocals |
| Gino Campanini | guitars, mandolin, vocals |
| Bernardo Lanzetti | lead vocals, guitars |
| Franz Dondi | bass |
| Maurizio Mori | keyboards |
| guest: | |
|---|---|
| Caludio Fabi | piano on 4 |
74 年発表の第二作「Mass・Media Stars」。
アコースティックなヴォーカル・ハーモニーにさらに磨きがかかり、インストゥルメンタルも緻密さを増した。
前作にて散見された英国のグループのあからさまな模倣は影をひそめ、やや性急ながらも躍動感ある演奏を基本に、ギターやキーボード、マンドリンがアコースティックで小粋なアクセントをつけている。
全体に、演奏は明快である。
広がりのある西海岸風のコーラス・ワークは、ほぼ全編にわたってテーマを彩り、ベースを軸にしたアンサンブルは、豊かな音量と粒の揃った音色で輝くような表情を見せている。
そして、ギターとキーボードは、派手さこそないが、ここぞという場所で音色を活かしたみごとなプレイを決めている。
全体に透明感があるのは、ヴォーカル・ハーモニーに加えて、アコースティック・ギターのアンサンブルがあること(ドラムのカナベラ、ヴォーカルのランゼッティを加えて計三つのアコースティック・ギターがある)、そしてハードロック的なリフやソロがないことによるのだろう。
曲の面白さも、ぐっと増したようだ。
緻密なアンサンブル指向、透明感のある音作りや、ギターがもろにスティーヴ・ハケット風であるなど GENESIS/YES 的な部分は確かにあるのだが、曲調に健康的で溌剌とした明るさがあり、そこに独自の色がある。
また、P.F.M と同じく高い音楽性のグループが、プログレを越えてからどういう方向を自分たちに自然なものと考えて進んだかを指し示しているという点でも、興味深い作品だ。
作詞はランゼッティ、作曲はカナベラ。
プロデュースは P.F.M とクラウディオ・ファビ。
ヴォーカルは英語。
2003 年久しぶりに BMG より CD 再発。
1 曲目は、せきたてるような調子ながらも一体感ある演奏がみごとな傑作。
P.F.M の「Chocorate Kings」へつながる音だ。
3 曲目タイトル・ナンバーは変化に富み、きらめくような躍動感あふれる傑作。
ラテン、ハワイアンなど、さまざまな表情を垣間見せつつ駆け抜けてゆく。
4 曲目は、かなり本家 P.F.M に近いニュアンスの作品。「Jetlag」に入っていても違和感のない、タイトにしてグルーヴィな作品だ。
5 曲目は、オルガン込みの直線的な疾走感が。サード・アルバム辺りの YES を思わせるのだが、ギターだけ GENESIS。ハーモニーが美しい。
終盤の引き方の彫りの深さが、何倍にも感じられる。
終曲は、アコースティックな透明感にフェイズ・シフタでねじれを加えて、ほのかな哀愁を漂わす名品。
ジョージ・マーティン風のエンディングが、P.F.M の「甦る世界」を連想させる。
「Cosmic Mind Affiar」(7:22)
「Bar Gazing」(5:07)
「Mass-Media Stars」(6:55)
「Opening Act」(5:40)
「Professor」(6:49)
「Coffee Song」(5:57)
(GFX 2055 / BMG 74321980592)