ATOLL

  フランスのプログレッシヴ・ロック・グループ「ATOLL」。 72 年結成。 74 年アルバム・デビュー。 70 年代に四枚の傑作アルバムを残し、解散。 80 年代末期にクリスチャン・ベヤを中心に新メンバーで再結成、さらに二枚の作品を残す。 フランスの YES と称されるだけあって、サウンドはなじみやすく華やか。

 Musiciens-Magiciens

 
Andre Balzer vocals
Alain Gozzo drums
Luc Serra guitars, synthesizer, vocals, percussion
Micher Taillet eminent string ensemble, clavinet, vibraphone, organ, percussion.vocals
Jean-Luc Thillot bass, vocals, 12 string guitar
Gianez Ler tenor & soprano sax, flute, piccolo, vocals

  74 年発表の第一作「Musiciens-Magiciens」。 本作でグループが掲げた「ヴォーカル・ハーモニーとヘヴィなインストのバランスよいブレンド」は、正に結成当時の YES と同じ目標である。 したがって、音楽のアプローチには類似点が多い。 たとえば、普通ならシャウトで決めるところをウエスト・コースト風(本家と同じく BYRDSCSN&Y 辺りの感じ)のコーラス・ワークで決める、リズム・キープをはるかに超えたテクニカルなリズム・セクションの存在などだ。 次作の完成度が高すぎるためか、あまり話題に上らない作品だが、ブルーズ系のハードロックから一歩踏み出したきめ細かくシンフォニックな演奏は、一聴に値すると思う。 志は高いぞ。 真鍋博とロジャー・ディーンの合体のようなジャケットもいい。

  「L'hymne Medieval」(3:13)ハウリング・ノイズが一声漂う。 そして始まる演奏は、ストリングス・シンセサイザーと ANGE 風のオルガンがゆるやかにリードしベースがパワフルにアクセントをつける。 かなり暗いイントロである。 メランコリックなギター・リフにリズミカルなベースが絡むと、テンポは上がりアンサンブルは走り出す。 ヴォーカルは低音ながらも、歌メロはシャンソン風で小粋。 決めは華麗なるコーラスだ。 ギター・ソロはいかにもハウ風のヘタウマ風ながら、オブリガートやバッキングのアルペジオはなかなかのもの。 前面にでるリズム・セクションが個性的。 エンディングに一発、メロトロン風シンセサイザーが決まるところが、納得のお約束である。
   クールでキャッチーなヴォーカル・ハーモニーとヘヴィな演奏がマッチした佳作。 メロディアスながらもどこかダークなヴォーカルやギター以上にメロディ部に重なり合うベース、手数の多いドラミングなど YES 調のシンフォニックなロックである。 スリリングなオープニング・ナンバーだ。

  「Le Baladin Du Temps」(11:08)は、テーマ、間奏、テーマ再現の三部から成る組曲大作。
    「L'arpege philosophal」目の前に雄大なパノラマが広がるようなファンタスティックなストリング・シンセサイザーと積極的にメロディをうたうベース。 そして夢の語り部のようなモノローグ。 いかにも YES を思わせる音使いだ。 逞しいリズム・セクションに支えられたファルセットによるヴォーカル・ハーモニーに、シンセサイザーが広がりを与える。 幻想的かつ力強いテーマだ。 ギターのアルペジオと手数の多いドラムスが、堅実に進行を支える。 ギター・ソロは短いながらも魅力的。 フランス語独特のもつれるような口調も、サビでは美しい響きをもつ。 中盤、一瞬テンション高いプレイを披露するドラムスを、バタつくと見るかテクニカルで気持ちよいと見るかは好みの問題。 最後のシンセサイザーが美しい。 フェード・アウト。 伸びやかなテーマが象徴する美しいシンフォニック・ロック。

    「L'incube」スパニッシュ風味のアコースティック・ギター・ソロ。 そしてヴォーカル・ハーモニーへとわたってゆくオープニング。 そして一気にヘヴィな演奏へと突入する。 ギターとクラヴィネットがコードを切り刻む、リズミカルな演奏だ。 しかし歌メロは、奇妙な平板さとずれをもつ緊張感のあるもの。 ヴォーカルは、力みかえる部分と緩やかに力を抜く部分を、巧みにゆき交う。 間奏は、なめらかなギター・ソロ。 レガートなギターに対しクラヴィネットとベースが跳ねるようなリズムをつくっている。 ヴォーカル・パートを経た後半は、クラヴィネットがリードするややジャジーな演奏へと変化する。 たたみかけるような 7 拍子のトゥッティとヘヴィな演奏が交互に訪れる、せわしない展開。 最後はスキャットつきの 7 拍子のトゥッティがたたみかける。

    「L'arpege philosophal」終章は再びオープニングの雄大なテーマへと回帰。 ストリングス・シンセサイザー、オルガンが悠然とたゆとう。 ファルセット・ヴォイスとコーラス、そして溌剌としたギターが重なり合いながら、クライマックスをつくってゆく。 打ち鳴らされるドラムス。 高鳴るシンセサイザー。 コラー風のバック・コーラス。 すべてが輝きながらエンディングへと向かってゆく。 シンフォニックかつファンタジックな大団円。 感動的。
  ドリーミーな美しさとオプティミスティックな力強さをもつテーマによる、シンフォニック大作。 テクニカルかつ緊張感のある第二楽章の存在は、終章の感動を倍加している。 ジャジーなインタープレイや変拍子を駆使した展開は、プログレ真骨頂であり、次作のスリリングなインストゥルメンタルに直結している。 この、キャッチーでシンフォニックなパートとスリリングなジャズロックを兼ね備えた演奏こそが、ATOLL の特徴である。

  「Musiciens-Magiciens」(3:43) 天から降るようなシンセサイザーのリフがきらめき、ヘヴィなベース、クラヴィネットとワウ・ギターのカッティングがうねりを生むモダン・ポップ調のオープニング。 今回の歌メロは、ファンキーなロックンロール調。 それでもヴォーカル・ハーモニーは高々と伸び上がる。 演奏全体を浮き上がらせるようなダイナミックなリズム・セクションが強烈だ。 シンバルが派手だ。
  間奏は、ギターとエレクトリック・サックスのエキサイティングな絡み。 サビを経て続くインスト・パートは、レスリーを効かせたハモンド・オルガン。 すっかりファンク調かと思いきや、バックでストリングスが高鳴ったりもするミスマッチの妙。 続いてパワフルなサックス・ソロ。 ハモンド・オルガン、ワウ・ギターがからむ。 ストリングス・シンセサイザーとワウ・ギターが交錯し、テーマを奏でて終わり。
  シンセサイザーのテーマが印象的なアップテンポのファンキー・ロック。 サックス、ワウ・ギター、クラヴィネットによるジャズ、ファンク・テイストに、スペイシーなシンセサイザーを交えたイケイケなナンバーである。 しかし、これだけファンキーでも、フランス語特有のゴツゴツした響きが独特のヘヴィさと暗さをもたらしている。 こういう曲でもドラムスが軽やかにならないからすごい。 決めのコーラス、ストリングスは、やや無理があるかも。

  「Au-dela Des Ecrans De Cristal」(5:28) 開巻劈頭、ハードなキメとその余韻を吸い込む得意のストリングス・シンセサイザー。 そして、軽やかなギターのコード・ストロークに続き、ヘヴィにうねるリズム・セクションが飛び込む。 切れ味よくシンフォニックな演奏である。 エキサイティングなオープニングだ。
  一瞬のブレイク。 そしてアコースティック・ギターによるシャープなコード・ストロークに導かれて、快調な演奏がすべりだす。 軽めの 3 連ギター・リフと対照的に、アフロっぽくタムを打ち鳴らすドラムス。 ギター、ベース、クラヴィネットの間で鋭い受け答えが続く。 テクニカルな見せ場だ。
  続くヴォーカル・パートは、意外にもメランコリック。 ギターの 3 連リフが浮かび上がるものの、ムードは沈みがち。 エレピのオブリガートがゆらめきチェンバロがきらめく。 そして決めはコーラス。
  再び、ブレイクを経て強烈なアフロ・ドラムスの先導で演奏が走る。 ベースのトレモロ、ドラムスの連打。 しかし一瞬で音は消え、今度はストリングス・シンセサイザーが静々と湧き上がる。 シンバルの刻み。 挑発するようなベースと反応するドラムス。 錯綜し呼応するヴォーカルとバック・コーラス。 左右のチャネルから交互に語りかける。 神秘的。 ドラムスは次第にタイトなリズムを刻み始め、静かな演奏に緊張が漂う。 リードするのはヴォーカルだ。
  ギターのリフをきっかけにヴォーカルがエキサイトし、次第に演奏がまとまりを見せ始める。 メロディアスなギターがしっかり展開をリードしてゆく。
  最後もコード・ストロークからすさまじいドラム・ロール、そしてギターの 3 連テーマを経て激しい演奏が続く。
  テンポ、アンサンブルともに激しく変化してゆくテクニカル・チューン。 強引なまでに演奏をひっぱるのは、ドラムスである。 中盤の憂鬱なヴォーカル、そして静かながらも緊迫した演奏がすばらしい。 70 年代初頭のブリティッシュ・ロックやイタリアン・ロックによく見られた、曲調が過激に変化する作品である。 破綻寸前の展開を、テクニカルなプレイで息つく暇もなくつないでゆく。 まさにプログレ真骨頂。

  「Le Secret Du Mage」(2:56) ギター・リフが渦を巻くように金切り声を上げる激しいオープニング。 クラヴィネットとギターの応酬が後を追う、ハードなオープニングだ。 ヴォーカルは珍しくミドルトーンで攻めたてるが、やはり声量があり本格的。 オブリガートもメタリックなギター。 一方コード・ストロークがしっかりヴォーカルに寄り添う。 リッケンバッカー・ベースの硬い音が唸りを上げる。 セカンド・ヴァースではコーラスも登場。 間奏はギター・ソロ。 伸びやかなサビから三度オープニングの激しい演奏へ。 サビのヴォーカルとコーラスの応酬に、ギター、クラヴィネット、メロトロンが重なり、火を噴くような演奏が続く。
  ギター中心のメタリックなハードロック。 重量感たっぷりのリズム・セクションとクラヴィネットが歯切れよいリズムを支える、ハイ・テンション一発ものだ。 ここでもヘヴィな演奏と濃厚なヴォーカル、さわやかコーラスのコントラストが個性的。 ドラムスはエフェクトも使って叩きまくる。 アンコール向きの作品だ。

  「Le Berger」(3:48) 憂鬱なギターとオルガンによるさびしげなオープニング。 続くたおやかなフルートとヴァイブのアンサンブルにも哀愁はいっぱいだ。 フルートの悲しき旋律。 ところがやおらティンパニが轟き、秘教風の謎めいたコラールが高鳴り、ドラが響く。 なんとも神秘的な展開だ。 一転してヴォーカル・パートは、おだやかなリズムとギター伴奏によるメランコリックなフォーク風。 可憐なフルートが歌に寄り添うようにオブリガートし、ベースがゆったりと歌を運ぶ。 間奏は、エキゾチックなシタールに続き、ブルージーなギター・ソロ。 次第にストリングス・シンセサイザーが湧き上がり、ギターに重なってゆく。 そして再び、あのコラール。 続いてオープニングとおなじ哀愁のフルートとヴァイブ。
  エキゾチックかつメランコリックなバラード。 うつろなフォーク・タッチのヴォーカルを中心に、ブルージーなギターやジャジーなフルートを配し、モーダルなコラールとシタールで意表を突いた不可思議な世界である。 歌メロ、フルート、ギターのアルペジオ、ヴァイブなど、極めて初期ブリティッシュ・ジャズロック的。 またギターの典型的なブルーズ・ロック風のソロも意外。 しかし今までで一番ナチュラルなプレイのようにも思える。 タイトル・ナンバー同様、古いレパートリーなのかもしれない。 名曲。

  「Je Suis D'ailleurs」(7:58)ストリングス・シンセサイザーが静かに響き、ヴァイブが小さく鳴る。 そして泡が浮き上がるような効果音。 あたかも海底のような雰囲気だ。 ギター・リフが静かに入ってくる。 ギターとベースがシンクロし、一気にダイナミックな動きが生まれる。 緊張を孕んで続く演奏、そしてスキャットが入ってくる。 執拗な繰り返し。 再び、イントロのストリングス・シンセサイザーが湧き上がる。 テンポが上がる。 ヘヴィなベース・ソロ。 続いてギター・ソロ。 シャープなリズムで自由に弾き捲くる。 ギターのリフレインに続いて、足音のようなドラムスとあぶくの音。 フロア・タム、バスドラが交錯するユニークなドラム・ソロ。 音が消えると、遠雷のような音とともに、田園風雅あふれるアコースティック・ギターのアルペジオが始まり、たおやかなヴォーカルが歌い出す。 ハイトーンのヴォーカルと軽やかに伴奏するフルート。 リズムがブレーキをかけ、オルガンの雄大なソロへ。 シンセサイザー、ギターも加わってシンフォニックな盛り上がりを見せる。 しかし低音のストリングス・シンセサイザーが響き始めると、不気味にドラムスが暴れ出す。 泡立つような音。 フルートの遠い響きとヴァイブの音がこだまする。 暗く広がる空間。 突如激しいドラムスが飛び込んで終る。
  スペイシーな即興風の大作。 一部ヴォーカルはあるが、後は自然発生的なプレイが主体のインストゥルメンタルである。 前半は、ストリングス・シンセサイザーとギター、ベースのリフで緊張感を高めてゆき、ソロでクライマックスへ達する。 後半は、ドラム・ソロからフォーク調のヴォーカル・パートを経て、シンフォニックな演奏へと進む。 ヴォーカル・パートの周辺に、即興風のアレンジを付け加えたような形である。 同国の PULSAR を思わせるダークな雰囲気、もしくは KING CRIMSON の「Lizard」辺りの薄暗い幻想の雰囲気である。

  以下は 73 年 6 月 21 日にメッツでのライヴ音源からのボーナストラック。 音は悪いが熱気が伝わる演奏だ。
  「Au-dela Des Ecrans De Cristal」(4:30)
  「Fille De Neige」(6:48)
  「Ju Fais Un Reve」(3:34)
  「Musiciens-Magiciens」(4:40)


   クラシック、ジャズといった他ジャンルの要素を取り込むアートロック的なアプローチを越え、リズムやアンサンブルを緊密に練り上げてロックを高度化しようとする姿勢がうかがえる好作品。 YES など英国ロックの直接的な影響下なのだが、スタイルの模倣というよりは、音楽の深化への取り組みの方向が初めから類似していたと、解釈した方がよさそうだ。 特筆すべきは、強靭なリズム・セクションとファルセットのヴォーカル・ハーモニーがうまく結びついて、音に清々しさを与えていること、ストリングス・シンセサイザーを巧みに使ったシンフォニックな音つくり、管楽器による効果的なワンポイントなど。 演奏/録音に荒々しさが残るし、ギターの力量不足も否めないが、爆発力のあるリズム・セクション、センスのよいキーボード・ワーク、アンドレ・バルザーのヴォーカルを主体にしたまとまりあるアンサンブルは、デビュー作としては十分ではないだろうか。 未完成ながらも、ロックンロールをさらに緻密でスリリングな音楽へと引き上げようという試みの成功例の一つである。 コーラスは、YES よりも QUEEN か。

(MUSEA FGBG 4008)

 L'Araignee-Mal

 
Christian Beya guitars
Jean-Luc Thillot bass
Michel Taillet keyboards
Alain Gozzo drums
Andre Balzer vocals,percussion
guest:
Richard Aubert violin

  75 年発表の第二作「L'Araignee-Mal」。 卓越した技巧と前衛的な表現で濃密な幻想世界を描く大傑作。 YES のもつ明確な構築性と KING CRIMSON の破壊性を矛盾なく混ぜ合わせたといってもいい力作である。 起爆剤はヴァイオリニスト、リシャール・オベールと名手クリスチャン・ベヤの存在だろう。 (もっとも、両者の役割はかなり対照的。ベヤのギターは音をまとめてゆく方向にあり、オベールのヴァイオリンは激辛の薬味となっている) 「太陽」CRIMSON が接近した MAHAVISHNU ORCHESTRA の音楽性から、メロディアスなフュージョン・テイストまでも盛り込んだ、いわば「演奏主導」の内容ながら、全体としては、あくまでバロックなロマンを湛えており、たとえば、バルゼルのヴォーカルなどにはフォーク・タッチといっていいほどのデリケートな情感が込められている。 緊迫したアンサンブル、研ぎ澄まされたソロといったジャズロック/フュージョンの表現と、耽美で陰鬱でアヴァンギャルドな表現が矛盾なく両立し、唯一無比の個性を輝かせている。 これだけ躍動感にあふれた演奏が生み出すのが、重苦しい閉塞感と息詰るような緊張感であるところが興味深い。 他ではまったく見つけられない音楽だ。 流れるようで深々と澱み、ゆらゆら漂うようで荒々しい質感を誇り、精緻にして明快。 ダークで耽美な感覚と逞しい演奏力が結びついた本作の内容は、まさしくロックの可能性を広げたといっていいだろう。 フランスだけにとどまらず、OSANNAFOCUS の作品とともに欧州プログレッシヴ・ロックを代表する一枚だ。 ヴォーカルはフランス語。 プロデュースはジャッキー・シャビロン。 邦題は「組曲"夢魔"」。 込み入った音が多いだけに、なるべく音質のいい盤を探したいところだ。

  「Le Photographe Exorciste(悪魔払いのフォトグラファー)」(8:14) 吹き上げるストリングスにモノローグが重なる。衝動。大波乱の予兆、破断が迫る。 絶叫と不協和音の嵐から邪悪な運動へと展開する。 そして緊張を解き放つ優美なる調べ。 悩ましく狂おしくも美しい序章である。 エンディングのヴァイオリンのカデンツァがすさまじい。

  「Cazotte No.1(カゾット NO.1)」(6:22)。 MAHAVISHNU ORCHESTRA 直系のヘヴィ・テクニカル・ジャズロック。 やや前のめりながらもバウンスしているのだが、ファンキーな感じが皆無であり(決してノリが悪いわけではない)、不思議なグルーヴを醸し出す。 ロックしか聴いていなかった耳には恐ろしく新鮮だったはず。

  「Le Voleur D'extase(恍惚の盗人)」(7:32)

  「Imaginez Le Temps(思考時間)」(6:40) スペイシーなシンフォニック・チューン。 CAMEL のようなほんのりジャジーな味わいもある、ストリングス・シンセサイザーを活かした音作りである。

  「L'araignee-Mal(夢魔)」(5:05) 緩やかなクレシェンドがゆったりとした飛翔をイメージさせる序章からぐんぐんと高まってゆくクライマックス。 波打つシンセサイザー、強引なまでに刻みまくるドラムス、執拗に反復するギターのアルペジオ、バルゼル特有の絶唱がからみあいながら、宇宙を駆け抜けてゆく。

  「Les Robots Debiles(狂った操り人形)」(3:35)。 前曲とクロス・フェードで切り替わるトリッキーなヘヴィ・チューン。 徹底的にけたたましく、めまぐるしく雰囲気を変えてゆく。 シンセサイザーのソロがすばらしい。 無機的なモード風の音である。

  「Le Cimetiere De Plastique(プラスチックの墓碑)」(6:00)。 一転してエモーショナルな演歌調のバラード。 初期 CRIMSON の叙情面を思わせる序盤、70 年代中頃らしいキーボードをフィーチュアして、中盤からはギターとオルガン、ヴァイオリンによる堂々たる演奏が続く。 想像力の翼を華麗にはためかせながらも、ヘヴィなロックとしてのカッコよさを忘れない傑作である。
  4 曲目から 7 曲目までは切れ目なく曲が続き、一貫したドラマがあるようだ。曲名の日本語訳から考えて怪奇趣味のストーリーだろうか。


   フランス象徴派詩人の作品の如く、荒ぶる魂と狂的な緻密さをもつ技巧がダイナミックな連携を果たして生み出した大傑作。 圧倒的声量のヴォーカルと技巧的な器楽が生み出すアンサンブルは、緻密さを極める過程でヨーロッパ的な幻想性を取り込み、非常にユニークなサウンドを創出している。 YES の影響色濃い演奏から技巧的なジャズロックへとプレイ・スタイルも変化している。 鋭いアンサンブルに加え、ロバート・フリップのようなアナーキーさを噴出すギターや狂おしい調子で扇動するヴァイオリンなど、リードやソロにおいてトンがった個性的なプレイが次々と現れる。 キーボードもジャジーなエレピからファンキーなクラヴィネット、鮮烈なムーグ・シンセサイザーまで、多彩な音色と厚みある音で、しっかりと耽美な雰囲気を支えている。 ヤン・ハマーばりのムーグのソロは息を呑むほどスリリングだ。 さらに、ロック・ドラマーながらもコブハム系の手数を誇るドラムスも、この圧倒的なサウンドの充実に一役かっている。 そしてテクニカルな演奏に加えて、表現力のあるヴォーカルとキーボード、ギターらによる叙情的でシンフォニックな演奏もみごとだ。 しかしながら、もっとも特徴的なのは、全編一貫する暗さと粘着性である。 本来なら、静けさといくばくかの涼感が漂うはずのストリングス・シンセサイザーとギターによる冒頭のアンサンブルにすら、重苦しさと隙あらば噴出さんとする狂気の先触れが感じられる。 YES の「危機」のイントロや、同じような編成の ARTI+MESTIERI と比べるとサウンドは遥かに暗い。 ファンキーなジャズロック・インストゥルメンタルもあるのだが、それ以上に、予断を全く許さない荒れ狂うような演奏があり、そちらの方に危険ながらも怪しい魅力があるようだ。 3 曲目のような、デカダンスと素朴さが交じったような奇妙な感触の歌ものから怒涛のインストへと発展する佳作においても、変転する曲調についてゆくのはなかなか難しい。 元祖変転サウンドのイタリアン・ロックのような、アッケラカンとしたなかに古典芸術への憧憬がある実験精神ともまた違う。 むしろ、英国ロックの「なんでもあり」的な発想に近く、それにさらに独特のゆがみを加えている感じだ。 音楽と国民性の関係はそう簡単にあれこれいえるものでは到底ないのだが、この一種奇妙なサウンド・展開に触れると、やはりお国柄があるのではと思いたくなってしまう。 結論をいえば、この粘りつくような感触と独特のゆがみ/軋み、さらに厳しい響きをもつフランス語ヴォーカルなど、好悪のポイントとなりそうなところが多く、アルバムとしての評価は意外に分かれそうだ、ということだ。

(KICP 2712)

 Tertio

 
Christian Beya guitars
Jean-Luc Thillot bass
Michel Taillet keyboards, percussion
Alain Gozzo drums
Andre Balzer vocals, percussion
guest:
Richard Aubert violin

  78 年発表の第三作「Tertio」。 三年ぶりの新譜は、前作のイメージを鮮やかに振り払って、なおかつグレードアップした印象を与える好作品となる。 内容は、明快でタイトなシンフォニック・ロックであり、神秘性とメロディアスな聴きやすさのバランスがいい。 前作で顕著であったジャズロック調のテクニカルなプレイは、楽曲にとけこんでいる。 過剰なまでの緊迫感をもつ前作と比べると、よりファンタジックでナチュラルな美に富む作品といえるだろう。

  オープニングは、ギターによる勇ましいテーマが印象的な「Paris C'est Fini(パリは燃えているか)」(5:56)。 クラシカルなシンセサイザーとギターによるテーマ演奏が緊迫感あるメイン・ヴォーカル・パートを呼び覚ます。 FOCUSP.F.M と同じく、テクニックに余裕のあるグループによる堂々たる演奏だ。 エフェクトや雰囲気重視ではなく、どのパートもライヴに近いニュアンスでしっかり音を出している。 無駄なく生き生きとした表現がみごとだ。 シンプルで切れのいいリズムに支えられた、苦悩するようなヴォーカルとギターのインタープレイがカッコいい。 バルセルのヴォーカルは、あいかわらずの迫力だ。 最後は、タイトル通り戦時下のパリ市街を思わせる SE がオーヴァーラップする。 オープニングにふさわしい明快で聴き応えある作品だ。 過剰な構築性よりもバランスのとれた骨太いロックを目指しているように思う。 モチーフは、同名の戦時小説かその映画版(英仏米オールスターキャストによるルネ・クレマンの大作)だろう。 ちなみに、「パリは燃えているか」と電話口で金切り声を上げたのは、かのアドルフ・ヒトラーである。

  スキャットとスペイシーなアナログ・シンセサイザーの調べで始まる「Les Dieux Meme...(神々)」(7:35)は、静、動、静の三部から成る力作。 序章は、ストリングス・シンセサイザーとギターのデュオによるロマンティックにして幻想的なシンフォニック・バラード。 ストリングスの冴え冴えとした響きとエフェクトににじむギターが美しい。 やがて、デリケートな表情でささやくように歌うメイン・ヴォーカルが現れる。 伴奏のアコースティック・ギターもロマンティックなムードを支え、あくまで愛らしく哀しい。 PULSAR を思わせる展開である。(2:43)
  一転タイトなリズムとともに、演奏は祝祭的な雰囲気へと変化する。 目まぐるしく動くところは P.F.M 風。 ヴォーカルも迸るようなシャウトへと変化。 吸い込まれるようなストリングス、つややかなシンセサイザーのリフレイン、ヴォーカル・ハーモニーなど、陽性の力強さに対比するように、歌メロはマイナーにして変化をつけている。 リズミカルなテーマの全体演奏から、4 分過ぎのシンセサイザーのソロがクライマックスの一つだろう。 クラシカルなギター、キーボードのデュオをはさんで、5 分過ぎにはメロディアスなギターのソロ。 スリリングなドラムスにも注目。 流れるようなギターは、ヴォーカルを導き、華やかな演奏が続いてゆく。 そして、スキャットとシンセサイザーによるオープニング・シーケンスが再現し、ゆったりとした調子へと戻ってゆく。 最後は、存在感抜群のギターが朗々たるソロを奏でしめやかなエンディングを迎える。 往年の松本零士作のアニメーションを連想させる女声スキャットは、なんと MAGMA のステラ・ヴァンデ、リサ・デリュによる。 メロディを支える熱いロマンティシズムと切れのいい技巧を見せつける名作だ。

  「Cae Lowe(Le Duel)(決闘)」(4:49) シンセサイザーとギターのコンビネーションによる勇ましいファンファーレ調のイントロダクション。 リズミカルな演奏をストリングスがゆったりと受け止め、ムーグ・シンセサイザーが高鳴る。 メイン・ヴォーカルはファルセットとのかけあい、伴奏は手拍子とクラヴィネットによるバックビートのリズミカルな演奏。 展開部では、ストリングスがたゆとい、エフェクトされたギターが繊細な音を奏でて、リズミカルなメイン・ヴォーカルと対比する。再びリズミカルなメイン・ヴォーカル、そして、間奏は、イントロのスリリングなギターとシンセサイザーによるハーモニー。 続いて、ユーモラスな 3 連 4 拍子へとリズムが変化し、ギター、クラヴィネットがビートを刻む。 かみつくようなヴォーカルを支えて、リズムとともにストリングスが朗々と流れ出る。 リズミカルな演奏を粘っこく支えるのは、ベース。 跳ねるようなリズムをバックに、ストリングス・シンセサイザーが透き通るような調べを歌う。 愛らしいムーグ・シンセサイザーを受け止める伸びやかなギター、そして再び、ストリングス、ムーグ、ギター、ベースが巧みなアンサンブルで優雅に、華麗に舞い踊る。 リズミカルなパートと流麗なシンセサイザー、ギターを華麗に対比させた、愛らしい佳曲。 技巧と愛嬌が交じり合った作風である。

  「Le Cerf Volant(天翔る鹿)」(5:41)。 いかにもフレンチ・ロックらしい耽美なバラードと、シンセサイザーがしなやかに舞うシンフォニックなパートを行き交い、う作品。懊悩をそのまま歌にしたようなヴォーカルは、展開部では、マーチ風のリズムとともに、力強く表情を変える。 シンセサイザーのリードによって演奏は高く飛翔し始め、ヴォーカルも高らかに歌い上げてゆく。 再び、憂鬱に沈みこむも、演奏は力強い。 現実と夢を行き交うような曲調の変化であり、最後は現実に力強い一歩を刻んでゆくイメージだ。 出番を抑えられたギターは、終盤、幾重にもオーヴァーダビングされたエモーショナルなソロを放つ。 重厚なシンフォニック・チューンである。

  「Tunnel-Part 1 / Part 2(トンネル - パートT、パートU)」(5:48+7:48)。 「パートT」は、「シベリアン・カトゥール」風の技巧的なロック・アンサンブルを見せつける秀作。 音数の多い弾力のあるリズム・セクション、唸りを上げるベース・ライン、端正ながらも弾き捲くるギター、息の合ったギターとキーボード、ハイトーン・ヴォイスなどを特徴に、目まぐるしく展開するストーリーを描いている。 リズム・チェンジをものともせず、個性的なソロばかりか、インタープレイでも絶妙の呼吸を見せる。 みごとなアンサンブルだ。 敏捷にしてヘヴィ、破天荒にして一体感ある、理想的なプログレである。 インストパートの充実という点では、全曲中でも屈指の作品だろう。 リズムへのこだわりは、GENTLE GIANT にも匹敵。 クラヴィネットが印象的。
   「パートU」は、位相系エフェクトによる宇宙空間に神秘的なモノローグがたゆたい、やがて、スペイシーな演奏を導いてゆく。 空を横切る彗星のようにストリングスが宙を切り裂き、鼓動とともに次第に躍動感が生まれる。 クラヴィネットが加わり、一気に歯切れのいいアンサンブルへと変わってゆく。 シンセサイザーとスキャットのユニゾンは、勇ましいテーマをなめらかに歌い出す。 木目細かなリズムにもかかわらず、あらゆる流れは悠然としなやかであり、大団円らしい包容力ある調子がキープされている。 最後の主役は、テクニカルなギター・プレイだ。 細かいパッセージで疾走するのだが、晦渋にならずどこまでも明快にして、なおかつロマンティック。 ここが、クリスチャン・ベヤのすばらしいところである。 ジャン・ピエール・アラルサンの衣鉢を完全に受け継ぎ、ヤン・アッカーマンとも渡り合えそうな逸材だ。 この終盤のファンタジックにしてキツキツに引き締まった演奏は、イタリアの技巧派プロ集団 GOBLIN にも共通しないだろうか。 このスリルとロマンは、前作から続く技巧的な演奏スタイルの集大成といえる。 エンディングは、なぜか東洋風の鐘の音である。



  「Tunnel-Part 1」が出色。 「Paris C'est Fini」も力作。 全体に、緻密さをまったく重苦しく感じさせない、シンフォニックで爽快な内容ということで、再び YES のイメージに迫っている。 個人的にはベスト。

(K32Y 2157)

 Rock Puzzle

 
Andre Balzer lead vocals
Christian Beya electric & acoustic guitar, 12 string guitar, backing vocals
Alain Gozzo drums, percussion, backing vocals
Michel Taillet Eminent 310, Korg & Prophet synthesizer, piano, Rhodes, Clavinet D6, percussion, backing vocals
Jean-Luc Thillot bass, Moog bass pedal, 12 string guitar, acoustic guitar, backing vocals
John Wetton lead vocals, bass on 12-14
Jean-Jacques Flety guitar on 12-14

  79 年発表の第四作「Rock Puzzle」。 緻密な構築性よりもキャッチーなメロディ・ラインやフレーズに重点のある作品。 ブラス・セクションをフィーチュアし、ためらわずにファンキーなグルーヴを打ち出すところもあるし、70 年代終盤らしいシンプルな縦ゆれビートのニューウェーヴ風の作品もある。 しかしながら、多彩な音色を操るシンセサイザーやテクニカルなギター、変わらぬ歯切れよさをもつリズム・セクションによる贅沢なサウンドのハイ・クオリティ・ロックンロールというイメージは変わらない。 技巧的な余裕を見せつつストレートに迫る作品のほかに、緊張感が和らげられた分素直なリリシズムがしみる曲もあり、アルバムとしての完成度は高いのではないか。 ベヤ脱退後の作品では、ジョン・ウェットンの参加がなにより話題だろう。 鑑賞予定。

  「L'Age d'or(dans 8000 ans)」(5:58)
  「L'Ultime rock」(4:08)
  「Kaelka」(2:54)
  「Smarto Kitschy」(7:51)
  「Eau(H2O)」(5:38)
  「Garces de femmes」(4:11)
  「La maison ed Men-Taa」(4:10)
  「Puzzle」(8:02)

  以下ボーナス・トラック。
  「L'Ultime rock(studio Z version)」オルタネート・テイク。
  「Puzzle(studio Z version)」オルタネート・テイク。
  「Atari, that's a game!(Smarto Kitschy-American mix)」「Smarto Kitschy」の英語版。
  ジョン・ウェットン参加の 81 年録音。
  「Here Comes the Feeling」(4:30)後に ASIA のアルバムへ収録された。
  「No Reply」(4:05)
  「Eye to Eye」(5:20)

(FGBG4024AR)

 Tokyo C'Est Fini

 
Paoul Leininger vocals
Christian Beya guitar
Jean-Pierre Klares bass
Gilles Bonnabaud drums
Nathalie Gesher keyboards

  94 年発表の「Tokyo C'Est Fini」。 89 年にベヤを中心に結成された新 ATOLL の来日ライヴ録音である。 鑑賞予定。

  「L'Araignee Mal "LE CIMETIERE DE PLASTIQUE"(プラスチックの墓碑)」(4:16)セカンド・アルバムより。
  「L'Ocean(海の伝説)」(4:12)新作より。
  「Quelsque Part(彷徨)」(4:18)新作より。
  「Lune Noire(呪われた月)」(6:35)新作より。
  「Tunnel(トンネル・パート 1,2)」(11:29)サード・アルバムより。
  「Drum Solo Bass Solo」(6:44)
  「L'Amour N'a Pas de Drapeau(愛ゆえに)」(4:19)新作より。
  「Paris C'Est Fini(パリは燃えているか)」(8:16)サード・アルバムより。

(14801)


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