ANYONE'S DAUGHTER

  ドイツのシンフォニック・ロック・グループ「ANYONE'S DAUGHTER」。 75 年結成。 作品はライヴ・アルバム含め六枚。86 年活動休止。 プログレッシヴ・ロック・シーンの活動が鈍っていた 80 年代前半にハイセンスな作品を発表し、次代への架け橋となった。 グループ名はやはり DEEP PURPLE から? 2001 年復活、新譜発表。

 Adonis

 
Uwe Karpa guitar
Kono Konopik drums
Harald Bareth bass
Matthias Ulmer keyboards

  79 年発表の第一作「Adonis」。 A 面いっぱいを使ったタイトル組曲「Adonis」を中心に、叙情的な作品が並ぶ。 サウンドは、甘く優しいメロディを精妙なアンサンブルで支えるシンフォニック・ロック。 ファンタジックな曲想を支える緻密な技巧にも注目すべし。 再発 CD のジャケットは、オリジナル LP とは異なる。 ヴォーカルは英語。 アドニスはギリシャ神話の美少年神、翻って男性同性愛の象徴としても名高い。

  1 曲目「Adonis」4 つのパートからなる組曲。 メローなヴォーカル・ハーモニーを巧みな器楽で守り立てる、シンフォニック・ロック大作の名品である。

  part 1. Come Away(7:49)ギターの弾き語りによるひそやかなオープニングから 7 拍子のタイトなアンサンブルへと流れ込む、ドラマチックな序章。 優美なヴォーカル・パートは、シンセサイザーによる緊迫感のあるソロやメロディアスなギター・ソロを間奏に進む。 ハイハット・シンバルを細かく鳴らすドラミングは、アンディ・ウォード風だ。 テーマを追ううちに、次第にリズムが明確になり、躍動感が生まれる。 ギターのアルペジオとベースが切なく絡むと、雷鳴、驟雨とともにフェード・アウト。
  GENESIS 風のていねいなアンサンブルによる物語の導入部。 アルペジオ主体のギターとシンセサイザーが絡む 7 拍子のリフや、ギター、シンセサイザーそれぞれのソロなど、おだやかな表情の中でもしっかりと訴えてくるものがある。 特に、交互に浮かび上がるギターとシンセサイザーのテーマの配置と、アルペジオとメロディアスなソロをタイミングよくきりかえるギターのプレイは、絶妙だ。 ヴォーカルはソフトな美声型ではあるが、やや英語にクセがある。

  part 2. The Disguise(3:29)いかにもモノ・シンセサイザーらしい電子音がうねるミステリアスなイントロ。 ハードなギターが飛び込み、一気にテンションが高まる。 続いてテクニカルなムーグのソロがギターとのユニゾンへとなだれ込む。 痛快だ。 ドラムスも緻密である。 ギターの 3 連フレーズは悲鳴のように高鳴り、ギターとシンセサイザーのアンサンブルはここでもユニゾン、かけあいと目まぐるしく変化する。 ギター・ソロに続き、ヴォーカル・パートへ。 間奏は、再びギターとシンセサイザーがユニゾンで叩きつける決めの連続。 エンディングは銅鑼の一撃。
  スピーディかつテクニカルな展開部。 ギター、シンセサイザーのソロとインタープレイが、アップ・テンポでたたみかけるように次々と繰り出される。 前半のムーグ・ソロは EL&P 風。 続くユニゾンは一転 CAMEL 調である。 3連を巧みに使って緊張を高め、8 ビートで落ちつかせるなどリズムの変化もたくみ。

  part 3. Adonis(7:51)ドリーミーなエレピとヴォーカルによるバラード風のオープニング。 間奏のギターもソフトな音色を用い、爪弾くようなプレイである。 ストリングス・シンセサイザーが、星を掃くように背景を流れる。 切ないヴォーカル・パートでは、ギターが寄り添うように伴奏する。 ミドル・テンポでヴォーカルを引き継ぐギター・ソロ。 シンセサイザーは、まるで降りしきる雪の粒のように音を散りばめる。 しかし、ややヘヴィなギター・リフが静かに浮かび上がり、場面展開を予感させる。 そして、ドラムスの復活とともに、11 拍子によるシンセサイザーのせわしないリフが提示される。 ここのリズムの変化はじつに自然だ。 ギター、シンセサイザーのユニゾンによるネジを巻くようなリフレイン。 このリズムをキープしたまま、ハードなアンサンブルが動き出す。 そして舞踊るようなムーグ・ソロ。 エモーショナルかつテクニカルなプログレッシヴ・ロックの醍醐味たる演奏だ。 繰り返し主体の演奏は、まるでしだいにエネルギーをためこんでゆくようだ。 混沌とするドラムス、シンセサイザー、オルガンの騒音を突き破るように、メロディアスなギターが歌い始める。 すでに終局の予感。 余韻をのこしてギターが去ると、マーチング・ドラムスと電子音がフェード・アウト。
  官能的なバラードからスリリングなインストゥルメンタルへと進むクライマックス。 前半は、ストリングス・シンセサイザーによる乳白色のもやがかかったようなファンタジックなムードを堪能できる。 ギター・ソロで頂点を極め、巧妙にリズムの変化をつけながら場面転換、テクニカルな後半へとなだれ込む。 奇数拍子で緊迫感を出しつつも力強い和声で重厚に進むこの後半部は、このグループのポテンシャルをはっきりと伝えてくれる。 オーヴァー・ダブされたギター、シンセサイザーともに大活躍だが、個人的には細かいプレイを積み重ねるタイプのドラムスが貢献度大と感じる。

  part 4. The Epitaph(5:07)厳かなピアノの和音とおおらかにして優美なピアノ・ソロは、いかにも終章らしい始まりだ。 そしておだやかなヴォーカル・ハーモニー。 そして伴奏が加わり、シンフォニックなバラードへ。 間奏のギターもやさしげである。 セカンド・ヴァースは、ピアノ伴奏。 ストリングスも高鳴る。 そして、感情のほとばしりのようなギター・ソロ。 力強くアクセントするドラムス。 両チャネルから訴えかけてくるギター。 リタルダンドが、感動的な余韻をのこして消えてゆく。
  前章の熱気あふれるクライマックスを静かに回想するような終曲。 情感の高まりがイノセントに現れており、感動的である。 全体を通して、ノーブルなメロディとヴォーカルがいい。 また、要所でスリリングなプレイで盛り上げてはいるものの、大筋はごくストレートという語り口が奏功し、仰々しさのないすがすがしさがある。

  2 曲目「Blue House」(7:20)金管楽器と弦楽器がまじりあったような不思議な音色のシンセサイザーが高鳴る雄大なオープニング。 渦を巻くようなシンセサイザーと、音域広く和音を響かせるオルガン。 そしてギターのアルペジオへとすっと落ち込む演出が憎い。 静かなアルペジオにのせて、再びシンセサイザーがゆるやかに歌い始める。 ファンタジックとはまさにこのことだ。 リズムとともにギターのメロディも静かに寄り添ってくる。 CAMEL なら「Moonmadness」の世界である。 ギターの歌が朗々とながれる。 ドラムスと呼応しつつ、高らかな繰り返しでアクセントをつけ、再びシンセサイザーにリードをゆずる。 そしてアルペジオとともに最初のテーマへと回帰。
  万感胸に迫るファンタジックなシンフォニック・ロック・インストゥルメンタル。 聴いたこともない美しさをもつシンセサイザーのテーマ、そして中盤のギターはシンフォニック・ロックの切り札ともいえるプレイである。 SEBASTIAN HARDIE を思わせる宇宙的な広がりと色彩のある作品だ。 名曲。

  3 曲目「Sally」(4:20)ファンキーなピアノ、サックスをフィーチュアしたリズミカルなポップ・ナンバー。 アメリカンな曲調は、シンフォニック・チューンではちきれんばかりのアルバムの中では異色である。 しかし、メロディアスなバラードの中間部はともかく、メイン・パートはダンサブルというにはやや泥臭くリズムが重いようだ。 保険だろうか。 ギター・ソロは短いながらも存在感あり。

  4 曲目「Anyone's Daughter」(9:10)スペイシーな広がりをもつオルガン、シンセサイザーによる幻想的なイントロダクション。 ブルージーなギターが、光の微粒子に取り巻かれてきらめく。 湧き上がるリズム、そして高らかな昂揚。 優美な旋律が幾重にも重なって流れてゆく。
  そしてハイハットの連打とベースをきっかけに、ジャジーなオルガン・ソロ。 グリッサンドとアルペジオするギターが、巧みに絡むアップ・テンポの演奏だ。 小気味よいドラム・フィル。
  ギターのリードでヴォーカル・パートへ。 スピーディなハーモニーのかけあいである。 間奏はシャープなギター・ソロ。 快調に飛ばす演奏は再び優美なオルガン、シンセサイザーで一区切り。
  ヴァイオリンのスケルツォのようなフレーズを華麗に繰り出すギター。 リズム・セクションも巻き込んで、再びスピーディな演奏へ。 せわしないリフレインから、しなやかな表情へと変化するギターがみごと。
  ギターのメロディとともにリタルダンド。 ミドル・テンポでギターが朗々と歌い続ける。 高鳴るストリングス。
  再び軽やかなドラムスに導かれてヴォーカル・パートへ。 そして間奏のシャープなギター・ソロが、アンサンブルに火を注ぐ。 目もくらむような鮮やかなアドリヴ。 ギターとオルガンがリタルダンド、ドラムスのロールで大見得切って終り。
  ギターのリードするスピード感のある大作。 ストーリー性よりもアドリヴを次々にまじえてどんどん盛り上げてゆく、いわばライヴのエンディングを飾るような作品だ。 ブルージーなギター、ジャジーなオルガンそしてクラシカルなアンサンブルと、まるで打ち上げ花火のように惜しげなく大サービスである。 反応よいアンサンブルの力量がよく分かる作品だ。


  あまくソフトなメロディ・ラインと巧みなアンサンブルによる正統派シンフォニック・ロック。 「Adonis」第三楽章や「Blue House」に明らかなように、丹念にシナリオを練り上げ音色も十分に活かしてドラマをつくってゆく手法が、すばらしい効果をあげている。 細部は緻密だが、全体には起承転結の分かりやすいストレートな流れがあり、聴きやすい。 また技巧が突出するようなこともなく、演奏に優美な歌心が感じられる。 技巧的でないとは決していっていない。 キーボードやギターのソロやインタープレイには、胸のすくようなスリルと痛快さがある。 驚くべきはテクニカルなプレイの応酬にすら、聴きやすいメロディがしっかりとあるということである。
  キッチリまとまったアンサンブルとわかりやすく優美なメロディそして明晰な構成力は、CAMELSEBASTIAN HARDIE に充分匹敵する。 最高級のシンフォニック・ロックという賛辞がおおげさではない。 プログレッシヴ・ロック受難の 79 年に、ドイツでこんなにすばらしいアルバムが出ていたとは大きな驚きである。 ライヴでは U.K. のカヴァーもやっていたらしく、ヴォーカルは英語がややジョン・ウェットン似。
  

(WMMS 025)


 Anyone's Daughter

 
Harald Bareth bass, vocals
Uwe Karpa guitar
Kono Konopik drums
Matthias Ulmer keyboards, vocals

  80 年発表の第二作「Anyone's Daughter」。 内容は、メロディアスかつリズミカルな陽性シンフォニック・ロック。 キーボードを多用した持ち前のシンフォニックなサウンドにコンテンポラリーなポップ・センスを加味してさらに聴きやすくなった。 キャッチーなテーマを中心にしたヴォーカル中心の作風となり、インストゥルメンタルによるめくるめく展開のカタルシスよりもシンプルなグルーヴに重きがおかれているようだ。 いわば「プログレ風味のアダルト・ロック」であり、この時代を生き残るには最善の道であったように思う。 ハイクオリティの 80 年代メイン・ストリームのハード・ポップと考えてもいい。 おもしろいのは、曲が単純になるに連れてかえって演奏のうまさが際立ってくること。 シンセサイザーやギターのソロの歌わせ方に技巧を越えてにじみ出る熱いロマンチシズムは前作といささかも変わらない。 一つ一つのシーンがとても丹念な作りになっていることに気づけば、このグループのセンスに唸らされるだろう。 メロディアスでポップなシンフォニック・サウンドという意味で、同時代の CAMELKAYAK、いや STYX に匹敵する内容だ。 多彩で優美なキーボード・サウンドとしなやか過ぎるギターに耳は釘付けである。 ヴォーカルは英語。

  1 曲目「Swedish Nights」(4:52) ミドル・テンポのソフトでメロディアスな歌もの。 ていねいな器楽と優美なヴォーカルのコンビネーションによる安定感ある作品だ。 冒頭のストリングスなど、全体のイメージはやはり CAMEL ですかね。

  2 曲目「Thursday」(3:59) 快調なロックンロールにうっすらと品のある陰影を施した作品。 明朗さににじむこの悩ましげな、メランコリックなタッチはこのグループの特徴だと思う。 エレクトリック・ピアノによるほのかな AOR 調も悪くない。 ギターとキーボードの歌うようなやり取り、ていねいなドラミングもいい。 4 分弱とは思えぬ密度の高い演奏だ。

  3 曲目「Sundance Of The Haute Provence」(3:39) 夜空の星を射るようなデジタル・シンセサイザー・ホイッスルの調べが印象的な慈愛のバラード。 エレクトリック・ピアノが暖かく優しくリズムを刻む。 ドラムレス。

  4 曲目「Moria」(3:52) ややエレポップ調のハードポップ・チューン。 泣きのメロディとキャッチーなサビをシーケンス風のデジタリーな伴奏で支えヘヴィなサウンドでメリハリを付ける。 コンパクトにドラマを入れ込んでおり、シングル向けの作品ではないだろうか。 はち切れそうにポップな曲調でも、シンセサイザー、ギターのソロはもったいないほどに冴えている。 オルガンの支えもよく効いている。 「モリア」は指輪物語でガンダルフがバルログに襲われて最大の窮地に陥った古の坑道のことだと思う。

  5 曲目「Enlightment」(5:01) 重厚なピアノが晩鐘のように響き、ストリングスが厳かにざわめくトラジックなバラード。 ブルーズ・フィーリングを込めてむせび泣く、オーソドクシーを極めたギターの表現がみごと。 切々とした思いを訴える湿度のある曲調には英国ポンプロックと共通する味わいもあり。

  6 曲目「Superman」(3:56) メロディアスなハードポップ・チューン。 3 連シャフル独特の跳ねるようなビート感が生む華やぎが特徴か。 歌詞は意外にもきっぱりと決意を告げるような内容だ。 次曲のタイトルが歌詞に出てくるので、連作のようだ。 メロディ・ラインもギターの入り方も、ほんとうに CAMEL によく似ている。

  7 曲目「Another Day Like Superman」(8:03) ロマンティックなメイン・ヴォーカル・パートを前後に、間奏として華やかなソロを配した、劇的なシンフォニック・ロック。 このグループ独特の「上品なソロ・ピアノを思わせるアンサンブル」が活かされた傑作である。 インストゥルメンタル・パートはハードロック的なニュアンスも強く、やや古典的な表現ではあるのだが、安定した演奏とていねいなメイン・パートの雰囲気作りのおかげで、説得力ある内容となっている。 圧倒的なテクニックを見せつけるギターとシンセサイザーによるハイ・テンションなソロ合戦は痛快そのもの。 ギターは終盤にもメロディアスなプレイでドラマを締めくくる役を演じて存在感をアピールする。 凝ったドラムスにも注目。 CAMEL でいえば「Lady Fantasy」でしょう。(ギターのキレのよさはこちらに軍配が) 前作に近い作風の傑作。

  8 曲目「Azimuth」(1:27)。 パーカッシヴなインストゥルメンタル小品。 フィル・コリンズを思わせる快速打撃と、目まぐるしいギター、キーボードが織り成すハイテンションのパフォーマンスである。 スティーヴ・ハケットの作風にも似る。 次曲への序章のようなニュアンスも。

  9 曲目「Between The Rooms」(4:22) エレクトリック・ヴァイオリンのようなシンセサイザーの音色が印象的な、ジャジーでやや AOR タッチの作品。 丹念なアルペジオが何気ない変拍子(15/16)を刻み、エレクトリック・ピアノが舞い、つややかなシンセサイザーがほのかなエキゾチズム(P.F.M の「Jetlag」でも聴いた音色だ)を漂わせつつ朗々と歌う。 ムーディな AOR 調の曲が、独特のリズムとシンセサイザーの音色のおかげで、眩く輝く未来のファンタジー・ロックへと昇華する。 さりげないエンディングがいい感じだ。

(INT 845.612)


 Piktors Verwandlungen

 
Harald Bareth bass, vocals
Uwe Karpa guitar
Matthias Ulmer keyboards, vocals
Kono Konopik drums

  81 年発表の第三作「Piktors Verwandlungen」。 ヘルマン・ヘッセの短編小説「ピクトルの変身」を朗読と演奏で表現したライヴ作品。 スタジオ・テイクと見まがうばかりの正確なテクニックに、ライヴ独特の迫力が加わった傑作アルバムである。 ライヴであるという事実を知らなければ、おそらく最後に観客の大歓声が聴こえるまでそうであるとは気がつかないだろう。 厳かなモノローグとドライヴ感にあふれた明快なシンフォニック・サウンドが絶妙のコンビネーションを見せ、やがて静かな感動を呼び覚ます。 ギターとキーボード(華麗なシンセサイザーに加えてハモンド・オルガンがうれしい)のかけあいには、ジャズロック的なスリルもたっぷりある。 文芸に主題を求めたトータルなロック・アルバムとして忘れられない名作である。 ちなみに、CAMEL の「Snow Goose」と異なるのは、テキストの力を朗読という形で直接借りていることと、管弦楽とは競演していないことである。 朗読はドイツ語。

  「Piktor(ピクトル)」(2:14)
  「Erstes Vorspiel(第一序曲)」(0:39)
  「Erster Teil Der Erzählung(第一の章)」(2:23)
  「Purpur(紫)」(2:55)
  「Zweites Vorspiel(第二序曲)」(0:56)
  「Zweiter Tell Der Erzählung(第ニの章)」(2:19)
  「Der Baum(木)」(7:14)

  「Dritter Teil Der Erzählung(第三の章)」(2:37)
  「Sehnsucht(熱望)」(5:27)
  「Vierter Teil Der Erzählung(第四の章)」(4:30)
  「Piktoria, Viktoria(ピクトリア、ヴィクトリア)」(0:27)
  「Fünfter Teil Der Erzählung(第五の章)」(0:43)
  「Der Doppelstern(双子星)」(4:23)
  
(WMMS 033)


 In Blau

 
Uwe Karpa guitar, vocals
Peter Schmidt drums
Harald Bareth bass, vocals
Matthias Ulmer keyboards, vocals

  82 年発表の第四作「In Blau」。 ドラマーがメンバー交代するも、輝かしいサウンドに大きな変化はない。 その内容は、テクニカルなギターとキーボードによるアンサンブルを中心とする 70 年代ロック・スピリットあふれるシンフォニック・ロックである。 キャッチーな AOR テイストのメロディ・ラインとこなれた変拍子によるスリリングなインストゥルメンタルをふんだんに用いて、暖かな郷愁ときらびやかな目新しさを同居させている。 悪名高き 80 年代初頭におけるこの音楽センスは、当時の CAMEL と共通している。 うねる波のようなシンセサイザーときらめくギター、まろやかなヴォーカルが織り成す新時代対応シンフォニック・ロックの大傑作だ。 ヴォーカルはドイツ語。
  この時代らしいクリアーなサウンドへとシフトしながらも、キーボードとギターをバランスよく配置して丁寧かつ力強く音を綴ってゆくスタイルはまったく健在だ。 安定したトゥッティにセンスよいソロを交えたカラフルなパフォーマンスが続いてゆく。 ヴォーカリストはそこに豊かな情熱を加えてゆく。 演奏は、優しげな表情を見せながらも隅々にまでプロフェッショナルな仕込みが施され、丹念に構築されている。 凡百のハードポップとは明らかに一線画している。 特に、ドリーミーな世界をクラシカルな輪郭で切り取るアコースティック・ギターと甘さの中にスリリングなアクセントとして放たれるハモンド・オルガンのプレイがみごと。
   全曲すばらしく甲乙は付けがたいが、なかでも白眉は終曲の大作「Tanz Und Tod」。 重厚でオーセンティックなシンフォニック・ロックをたっぷりと味わうことができる。 本アルバム、80 年代初頭にありながらも、胸を揺さぶるロマンティックな味わいとテクニカルなプレイによるカタルシスが奇跡的に調合された大傑作である。

  「Sonnenzeichen - Feuerzeichen」(5:20)静々と湧き上がるオルガンとひそやかなヴォーカルから幕を開け、ゆったり広がるキーボードとアタックを消したギターによって悠然と演奏が進む。 そして思いを吹き上げるように迎えるクライマックス。 高まっては沈み込む。 熱く豊かな表現力を持つギターは、アンディ・ラティマーに酷似。 流れは最後には堂々たるギター・ソロへと注ぎ込む。 緩やかなクレシェンドが生み出すドリーミーにして無限の力強さをもつシンフォニック・ロック。 次第に心をとらえてゆく語り口がみごとだ。

  「Für Ein Kleines Mädchen」(5:20)竪琴を思わせる鮮やかなアコースティック・ギター・アンサンブルから華麗なシンセサイザーが描くファンタジーへと進むナンバー。 後半は、ほんのりラテン調でリズミカルに進む。 フュージョン・タッチもあるのだが、お気楽グルーヴよりも知的な憂いとピュアな夢想感があり、一線を画す。 オープニングの 12 弦ギターとピアノによるデリケートなハーモニーは GENESIS を思わせるみごとな演奏だ。

  「Nichts Für Mich」(6:45)前半は、フロア・タムによる太鼓ビートとフォーキーなメロディをもつヴォーカルのコンビネーション。 ジャーマン・ロック特有の素朴なタッチである。 ギターとシンセサイザーのユニゾンやベース、ハモンド・オルガンのプレイは目が醒めるほどテクニカル。 特に、ハモンド・オルガンは全編にわたってフィーチュアされる。 終盤のどっしりしたメロディアスなアンサンブルがみごとだ。 変拍子パターンから幻想的な場面までも交えたテクニカル・シンフォニック・ロックの傑作。 プログレ度満点。 CAMEL ファンは絶句。

  「Nach Diesem Tag」(4:00)官能のほめきの感じられる柔らかなバラード。 ピッチを揺らがせるエレクトリック・ピアノのソフトな響きは、典型的な 70 年代後半 AOR 調。 コーラスに重なるギターには、優美さとともにロックらしい力強さがある。

  「La La」(3:10)タイトルとおりのスキャットに導かれる、スリリングなインストゥルメンタル。 メロディ・ラインの濃い目のまろやかさとリズミカルで切れ味のいいリフ中心の演奏がみごとな調和を見せる。 コンパクト版の「Echoes」ですね。一瞬出てくるフルートの処理が印象的。

  「Sonne」(4:30)竪琴のように深みのあるアコースティック・ギターの響きが特徴的な弾き語り。 ゾンネは「太陽」でしたっけ。 複数のギターが美しくも近寄りがたい気高さで絡み合い、時に凛とした表情を見せる。 後半のクラシカルなソロは、スティーヴ・ハケット的。 終盤ピアノやファズ・ギターも加わって、切ない響きが螺旋を描くように高まってゆく。 ドラムレスでのこの高揚感、GENESIS に負けません。

  「Tanz Und Tod」復古調の優美なロマンチシズム、鋭角的でコンテンポラリーな芸術性をシームレスに結んだ傑作。
  「a) Der Begleiter」(5:20)密やかな弾き語り。B.J.H を思わせる泣きの牧歌調である。 小気味のいいハモンド・オルガンに痺れる。後半はメロディアスなヴォーカルを軸に、ギター、キーボード、ドラムスが一体となって多彩な 7 拍子反復で追い込んでゆく。デジタル・シーケンス風のトゥッティとラフなタッチのギター・ソロが痛快な対比をなす。ジャジーな全体演奏からの最後のリタルダンドにはこの時代のユーロロック・テイスト(ハンガリーの EAST あたりか)が凝縮している。とても懐かしい。
  「b) Yaqui」(3:30)気高い情熱がほとばしるクラシカルなピアノ独奏。本格的です。
  「c) Tanz Und Tod」(6:15)密やかなモノローグを支えて、エレピとギターのアルペジオが綾をなす。 リズムとともに力を得、キレのいい 5 拍子のスタカートとともにギターが泣き叫ぶ。緊迫感ある終曲である。ドラムスの打ち鳴らされるブレイクを経て、第一楽章の 7 拍子アンサンブルが再現、ハモンド・オルガン、シンセサイザーが決然とリードを取って、重厚なドラマに幕を引く。

(INT 845.632)


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