ANGE

  フランスのプログレッシヴ・ロック・グループ「ANGE」。 カリスマ・ヴォーカリスト、クリスチャン・デキャンを中心に演劇性の強いサウンドで国民的な人気を博すグループ。 72 年アルバム・デビュー。 第二作から PHILIPS に移籍、途中解散を経るも再結成し、現在も活動を続ける。
  サウンドは、荒々しさと寄席演芸的細やかさを兼ね備えるロック・テアトル。 初期の作品は、さまざまな人格を操る一人芝居ヴォーカルをギター、眠りを誘うようなオルガンを中心に守り立てた、重苦しく魔術的な世界である。 鬱々と進むクラシカルなアンサンブルが、クライマックスでは抑えてきた狂気を爆発させる。 ロックも「芸」です。ファンクラブの HP も充実。 2012 年新作「Moyen-Age」発表。


 Moyen-Âge

 
Tristan Décamps keyboards, piano, vocals, chorus
Hassan Hajdi guitars
Thierry Sidhoum bass
Benoît Cazzulini drums, percussion
Christian Décamps vocals, guitars, keyboards

  2012 年発表の作品「Moyen-Âge」。 内容は、風格ある歌ものオールドウェーヴ・ロック。 粘っこい歌唱は、ハードにヘヴィにタイトにクランチに、ありとあらゆるロックのスタイルを難なく乗りこなし、絶頂期の ROLLING STONES と同じ種類のギラギラとした熱気を放つ。 そして、同時に、ポップス、シャンソン、BEATLES、AOR、Virgin レーベルを軸に洗練と前衛の頂点に達したサウンド、といった要素もまんべんなく取り入れ、というか 70 年代後半くらいの最盛期で自らを語るスキルを完成させて、悠然すぎるほどゆったりと構えている。 オールドウェーヴという言葉はただのラベルであり、揶揄するニュアンスは微塵もない。 時の経過は大した意味を持たない、ここの音はそういっている。 そして、メロディの良さは格別であり、すべての曲に耳を惹きつける魅力がある。 当たり前のことなのに、この水準に達しているバンドがいくつあるだろうかと思わず指折り数えてしまう。 誰かも定かでない仮想敵を標的にして遠慮会釈のないアジテーションを叩きつける現代のドン・キホーテ、もはや怖いものなど何もないだろう。

(ART 6/1)

 Le cimetiere des arlequins

 
Gerad Jelsch drums, percussion
Francis Décamps keyboards, voice
Daniel Haas bass
Jean-Michel Brezovar guitar
Christian Décamps vocals, keyboards

  73 年発表の第二作「Le cimetiere des arlequins(道化師の墓所)」は、フランスでゴールド・ディスクに輝いた名作。 内容は、深く湿った霧に覆われたような独特のサイケデリック・サウンドとエキセントリックな一人芝居ヴォーカルをフィーチュアしたヘヴィ・シンフォニック・ロック。 重く淡々と進むアンサンブルは、強烈なリフで目を覚ましたかと思えば再び眠るように落ち込んでゆく。 その起伏は魔術的だ。 ギターとオルガンのリフの作り出すドライヴ感は、ハードロックのように直線的でもなければ、サイケデリック・ロックのように原色の酩酊感を生むものでもない、独特の粘りと熱気をもつ。 アグレッシヴな演奏から幻想的なバッキングまで、さまざまな雰囲気をカヴァーするのは、オルガンによるトーン・コントロールである。録音は低音の広がりを強調した独特のスタイルだ。 特に、2 曲目のような動と静が切りかわる曲で特徴が顕著に現れる。

  1 曲目「Ces gens-la」(4:47) ギターのベンディングが娼婦の嬌声のように気だるく鳴り響くイントロダクション。 ヴォーカルは深く苦悩に沈む表情を見せ、懊悩の果てに狂気を発し、歌というよりは怨み言をぶつぶつとつぶやく。 オブリガートのギター、オルガンは再びけたたましく叫ぶ。 憂鬱な表情から、やにわに力を得て絶叫するヴォーカル、しかしまたも陰鬱な独り言に陥ってゆく。人格崩壊気味である。 うっすらとヴォーカルを支えるオルガンの調べ。 重苦しい足取りのようなベース、ドラムスの打音。 いくたびかギターが悲鳴を上げると、オルガンは蒸気を吹き上げる機関車のように鳴り響き、ブルージーなギターを呼び覚ます。 こういうブルーズ・ロック的な展開が新鮮だったはず。 つぶやきが幕を引く。
   内省の果て狂気を爆発させる一人芝居ヴォーカルとけたたましいアンサンブルが印象的なヘヴィ・チューン。 声色を使ったお芝居調のモノローグや何かをすするような擬音など、ヴォーカリストの芸が見せ場である。 こういう毒気はブリティッシュ・ロックにはあまり感じられない。 それだけに、終盤、ブレゾヴァルによるオーソドックスなブルーズ調のギター・アドリヴがきわめて斬新に聞える。 ジャック・ブレルのカヴァー。 ("あにーはずらむ"さん、情報感謝です)

  2 曲目「Aujourd'hui c'est la fete de l'apprenti sorcier」(3:25) 冒頭から勇ましくクラシカルな、そう GENESIS 風のテーマが提示される。 くすんだような音でもこういうテーマなら盛り上がる。 ファズ・ギターが和音を叩きつける豪快な演奏とともに、メイン・ヴォーカルも力強く歌い上げる。 熱気のこもった世界を、ギトギトの原色に霞みがかかったような背景を彩るオルガンが、見る間に夢色に変えてゆく。 こうなれば、ギターも穏かなアルペジオを刻み始め、演奏は柔和な表情になってゆく。 小鳥のようなさえずりも、トーンを変えたオルガンだろう。牧歌調へのみごとな変転だ。 最後は再び、アグレッシヴな演奏と歌が復活する。 動きと停止を対比させたドラマティックな作品だ。
   クラシカルなテーマとヘヴィに攻めたてる調子が印象的なシンフォニック・チューン。 中盤の変化が絶妙。 幻想的な響きのオルガンが動きと静止を揺れるドラマを演出している。

  3 曲目「Bivouac 1ere partie」(5:32) ハイドンのように愛らしい交響曲風のテーマが高鳴るイントロダクション。 勇ましいテーマに応じるのは、つぶやきのようなヴォイス。 メイン・ヴォーカルは、うっすらと響くオルガンとクラリネットのような伴奏で支えられて、遠く頼りない。 ここまでの歌はデュキャンではないようだ。 展開部では歌はさらに陰鬱に変化し、単調なビートとともに、空ろな表情から狂気を高ぶらせてゆく。 ヴォーカルに絡みつくギター、絶叫、膨れ上がるオルガンの音。 そして、演奏は再び深くうなだれ、沈み込む。 繰り返される暗いオルガンのテーマ、しかしそれを追い越すように、挑戦的なギターのストロークが始まり、鋭いリズムによる演奏が立ちあがる。 GOBLIN ばりのジャズロック的な演奏である。 反響する絶叫はオルガンだろうか、そして、ファズ・オルガンによるカミソリのようなソロが始まる。 ライド・シンバルが打ち鳴らされ、左右のチャネルで交錯しながらオルガンが走る。ギターも負けじと追いかける。 スリリングなアンサンブルは、そのままフェード・アウト。
  ドラマチックな展開を見せる ANGE 風プログレのエッセンスがつまった好作品。バロック音楽風のテーマ、エキセントリックなヴォーカル表現、そして終盤は珍しくテクニカルなインストゥルメンタルで緊迫感を煽って迫る。

  4 曲目「L'espionne lesbienne」(2:52) 唐突に呪文のようなハーモニーが始まる。伴奏はせわしないアコースティック・ギターのアルペジオ。 弾けるようなギターの音に高ぶったようなサビのハーモニーが重なり、ギターのトリルとともにダイアローグが崩れ落ちる。 怪しい弾き語りである。 展開部では、サビのテーマをささやくスキャットを、太鼓やピアノ、こもったトーンのギターらがジャジーでリズミカルなオブリガートで受けとめる。 笑い声も聞える。 間奏は、一転してフルートによる洒落た調べとギターのアルペジオ。 ギターとフルートに微妙なミスマッチの味わいがある。 再び、平板な呪文ハーモニーから奇妙なダイアローグ、そしてテーマとそれを忙しなく受けとめるアンサンブルが繰り返される。 エンディングのギターの不協和音が耳に残る。
   弾き語りフォーク・ソング調奇想曲。 初期の KING CRIMSONGENESIS を思わせる狂気とナンセンスが一体となった歪な作品である。 フルート(またはフルート風のメロトロン)、エレキギターらのこもった音がアコースティック・ギターの粒立つ音と好対照をなす。 たたみかけるような受けのアンサンブルにジャジーな響きをもたせるところもおもしろい。 小品ながら、凝った和声とクラシカルな構造をもち、アヴァンギャルドな表情を的確に演出している。 名曲。

  5 曲目「Bivouac final」(2:57) 3 曲目の終曲。 3 曲目終盤を引き継ぐダークなアンサンブルがフェード・イン、すべてを呑み込むような不気味なスケールで迫ってくる。 轟々とうねるメロトロン、ギター、シュアーなドラムス、ノイジーに暴れるオルガン。 ドラム・ビートとともに演奏の密度がぐっと高まる。 ギターもアドリヴの応酬で暴走。 しかし、あらゆる音が満ち潮に覆い尽くされるように消えてゆく。 遠ざかる嵐のようなオルガンが厳かに無情に幕をひく。 スティーヴ・ハケットの「The Tower Struck Down」を思い出します。

  6 曲目「De temps en temps」(4:08) オープニングはオルガン、メロトロン、ピアノらによる重厚なユニゾン。 ティンパニ風のドラムスも轟く。 ヴォーカルは高らかに主題を歌い上げる。 今までにないポジティヴで正統的な力強さを感じさせる歌だ。 オルガンは歌を支えて緩やかにうねり、オブリガートも悠然たるものだ。 サビでは、ややメロディアスでポップなテイストも感じさせる。 繰り返しでは、ヴォーカルをピアノが彩る。 展開部では、愛らしいエレピのリフレインを伴奏に、ヴォーカルが抑えた表情ながらも次第に力を蓄えてゆく。 メロトロン伴奏が幻想を強めるも、ヴォーカルは苦悩を抱えたまま力強く駆け上がり、鮮やかに長調への転調を果たす。 頂点ではギター・ソロが迸る。 そして、メイン・パートが復活。 ギター・ソロは短くも印象的。 再びテーマ・ヴォーカルを経てエンディングへ。
   クラシカルにしてポップな響きがあるイタリアン・ロック調の正統シンフォニック・ロック。 ミドルテンポによるオーソドックスな作風であり、しかけはあまりない。

  7 曲目「La route aux cypres」(3:18) アコースティック・ギターのストローク、メロトロン・フルートの優しい調べ。 春の草原のように暖かで、ノスタルジックな響きがある。 かき鳴らされるギター、ささやきのようなアルペジオ。 ここでのヴォーカルはお芝居風の表情ではなく、繊細な歌唱に集中している。 オルゴールのようなエレクトリック・ピアノが歌を彩る。 サビでは、おだやかなハーモニーを成し、柔らかな 7th の響きでふわりと着地する。 二番目のヴァースでは、ヴォーカルにメロトロン・フルートが寄り添う。 クールなサビのハーモニー、そして、7th の切ない響き。 最後は、ギターのアルペジオを追いかけて、フルートがひんやりとした調べをささやき、振りかえり、謎めいた微笑を残す。
   ひんやりとしたタッチが特徴的な英国フォーク調ギター弾き語り。 ヴォーカルは繊細な表情を操り、素朴なロマンを漂わす歌を切々とささやく。 優しいのだが、心地よいクールネスがある。 ヴォーカルをなぞるフルートは、初々しい少女がふと見せた大人の表情のように、デリケートで冷ややかである。

  8 曲目「Le cimetiere des arlequins」(8:46) つぶやくようなベースとギターそしてメロトロンのうねりが強烈な決めによって叩き切られるオープニングで始まる。 ベースの刻む不気味なビート、オルガンが静かに湧き上がり澱む。 そして暗闇に放り出されたような孤独なヴォーカル。 童謡風に語尾を跳ね上げても誰も応えない。 ギター、シンバルが伴奏に周りハーモニー・ヴォーカルも加わるが、再びヴォーカルは暗い谷間に落ち込んでしまう。 しかし独力で次第に力を得てゆくヴォーカル。 高まるオルガン。 ブレイク。 絶叫。
  再びイントロの暗い演奏が始まる。 つぶやき声が漂う。 そしてヴォーカル・パート復活。 絶望的なリフレイン。 再びリズミカルな伴奏を得るが、ミニマル調のリフレインがあたかも眠りを誘うようだ。
  またも曲調は暗い谷間に沈み込むが、今度はオルガンとともに次第に演奏はヴォリュームを上げ、巨大な獣が起き上がるように動き出す。 そしてヴォーカル。 狂気寸前のような絶唱だ。 ゆっくりとしかし確実に加速する演奏。 笑い声と絶叫。 加速するリズム。 轟音が渦を巻き、何もかもが混沌としたノイズの塊になって爆音とともに消えてゆく。
  湧き上がるエレクトリックなオルガン。 ティンパニ、ベース、ギターが力強く突き進みオルガンがトリルで応える。 重厚だ。 しかし一転、コミカルな電子音とシンバルがぐるぐると回り始め呆気に取られているうちにそのまま消えてゆく。
  暗く救いのないシンフォニー。 葬送曲にもならないくらい弛緩した曲調と不気味な童謡のような歌。 サイケデリックな悪夢空間に漂い続けるような気持ちになる。 器楽は、オルガン中心にソロではなく、アンサンブル主体で巧みにダークなドラマを演じている。 そして主旋律はヴォーカルがリード。 そして長いクレシェンドの歩みをゆるゆるとしかし止むことなく続け、やがては凶暴なクライマックスへ達するのだ。 シンプルな演奏でも曲がよければこれだけの効果がある。 力作。


  暗闇であがくようなヴォーカルを中心としたドラマ性の高いシンフォニック・ロック。 音の感じは、GENESIS よりも PINK FLOYD に近いようだ。 取り立ててテクニカルなプレイはないし、音もサイケデリック・ロック風に近いのだが、シンフォニックな広がりを持つキーボードとていねいなアンサンブルそして曲の展開のおかげで、いわゆるプログレらしい作品になっている。 しかし演奏の印象は暗い。 底無しの穴へ降りてゆくような感じである。 しかし動きが鈍いわけではなく、一旦エネルギッシュに走り出すときの運動性とパワーには底知れぬものが感じられる。 またアコースティックな弾き語りをさらりと決めて愛らしいアクセントにするうまさもある。 それにしても、この暗さと重さは大陸特有のものなのだろうか。 フランス語特有の暖かく角張った響きが、この暗さの中を静々と忍び寄りやがてガッチリとつかみかかる。 そして抜きさしならない世界へと引き込まれてゆく。 そういう不気味な吸引力をもつ作品だ。 全体に短い曲に面白さのエッセンスが詰め込まれており、プログレッシヴ・ロックの入門にも手ごろ。 古びた音ですがどなたにも奨められる名盤です。

(PHILIPS 842 238-2)


 Au-dela du delire

 
Christian Décamps vocals, keyboards
Francis Décamps keyboards, voice
Jean-Michel Brezovar guitar
Gerad Jelsch drums, percussion
Daniel Haas bass

  74 年発表の第三作「Au-dela du delire」。 邦題は「新ノア記」。 内容は、不器用にのたくりながら突き進む演奏に、デキャンの壮絶なヴォーカルが火をつける、ダーク・シンフォニック・ロック。 初期 ANGE のスタイルが確立した作品である。 重厚かつ怪しげなキーボード・ワークと存在感あるギターによるアンサンブルは、暗くこもったような音ながらも、緩急/軽重自由自在にストーリーを描く。 特に、轟々と突き進むときの演奏に圧倒的な勢いがある。 ぼんやりと輪郭のぼやけた音像も、録音の悪さによるというよりは、意図的な雰囲気作りに思えてしまう。 そういう「企み」のようなものを感じさせる音楽なのだ。 また、管弦やチェンバロ、アコースティック・ギターなどのクラシカルなプレイや、ペーソスとユーモアあるヴォードヴィル風のプレイに、いかにもフランスらしい広く深い芸術性を感じてしまう。 ヘヴィなエレクトリック・サウンドにこれらのプレイがブレンドすることで、ドラマチックな効果が生まれているといっていいだろう。 充実したエンタテインメントという点では JETHRO TULL の緒作にも通じるものがある。 そして忘れてならないのが、歌メロの魅力。 シアトリカルな歌唱スタイルが特徴として取り上げられることの多い ANGE だが、それ以前に、歌そのものの良さが完全に別格なのだ。 2 曲目や 4 曲目のメロディ・ラインは一度耳にするだけでしっかりと印象に残る。
  アコースティックな弾き語りからクラシカルなシンフォニーまで、多彩なアンサンブルが楽しめる好作品。 精神の腫れ物のような怪しい熱気を全体に孕みつつも、初期 GENESISKING CRIMSON に匹敵する高度なシンフォニック・ロックとなっている。 テーマは、時空を超え神とまみえる農夫ゴドウィンの旅。 コンセプト・アルバムというよりも「御伽噺」という表現が似合う。 フランス語で書かれた大人向けの絵本なのだ。 タイトルは「錯乱の向こうに」の意。 名作。

  「Godevin le vilain」(2:57)うらぶれた老楽士が奏でるようなヴァイオリンによって哀愁たっぷりの主題が提示される序曲。 ピアノ(オルゴールかチェンバロのように聴こえるのは安物のせい?)とアコースティック・ギターも哀しげな表情で伴奏する。 リズムが轟き、一気に盛り上がるとデキャンの濃厚な歌が始まる。 ANGE オルガンが枯れ果てた音で高鳴り、荒っぽくもメロディアスなギターが唸りを上げる。 メロトロンはオブリガートや伴奏で歌に深い陰翳をつけている。 ペーソスあるドラマティックな導入である。

  「Les longues nuits d'isaac」(4:10)サスペンスフルなテーマを激しく浮き沈みつつ反復するうちに狂乱してゆくヘヴィ・チューン。 力みかえり絶叫するヴォーカルがかなり危ない。 メロトロンを思わせるオルガンが印象的。

  「Si j'etais le messie」(3:00)朗読のようなナレーション/モノローグをフィーチュアした作品。 モノローグは次第に加熱し、表題を繰り返しつつ狂気をふりまく。 この怪しいモノローグを、フルートや電子音、シンバル、ティンパニなどの音が、ストーリーに合わせてかタイムリーに彩る。 中盤フルートとオルガンによる重厚な演奏が高鳴るも、再びささやくようなモノローグへと戻る。 厳粛なオルガンがここでも印象的だ。 圧巻は、食いつきそうなデキャンのパフォーマンス。

  「Ballade pour une orgie」(3:22) アコースティック・ギターとストリングス・キーボード伴奏による、メロディアスなバラード。 童謡のように親しみやすいメロディと弾き語り風のアレンジがみごとな名曲だ。 サビでは卓越したメロディ・センスを見せつける。 丹念ながらも軽やかなアコースティック・ギターのプレイ、クラシカルなキーボード(後半のストリングスを背負ったハーモニウムのような音がいい)が、素朴ですてきな味わいをもつ。 やさしげな JETHRO TULL といった感じ。

  「Exode」(5:00)勇ましいキーボードのファンファーレがリードする、牧歌的なシンフォニック作品。 ストリングスを模すオルガン、メロトロンをバックに、シンセサイザーが朗々と歌う。 ギター伴奏のフォーク調の演奏への着陸が鮮やかだ。 歌メロは愛らしいエチュード風である。 ここの味わいはイタリアン・ロックにも通じるものがある。 しかし後半、歩みは力強い疾走へと一変し、ギターがうねりと勇壮なキーボードとせめぎあう。 緊迫感あるリズムもカッコいい。 熱気は、「Musical Box」後半のインストのクライマックスに通じる。

  「La bataille du sucre(incl La colere des dieux)」(6:30) カルーセルを思わせるオルガン、童子のささやきのような歌唱、クラシカルで不気味なキーボード、錯綜するヴォイスなどが綱渡りする異形の物語。 シャープなドラミングで曲を引っ張るのに、どうしてもプライヴェイトで悪夢的なイメージが強まってしまうところが、PULSAR の名作に通じる。 やや唐突なクロス・フェードとヘヴィな反復。 決して素直に熱く燃え盛らない。 全体に音を削ぎ落としたようなイメージのある怪しい奇想曲である。

  「Fils de lumiere」(3:52) ANGE オルガンのリードで、センチメンタルなテーマを従えて、ぐいぐい直線的に駆け上がるマーチ風のシンフォニック・チューン。 スケールを上り詰めてゆくオルガンは「A Day In The Life」の終盤のようです。

  「Au-dela du delire」(9:02) トラッド調の序盤からシンフォニックなインストゥルメンタルへと盛り上がってゆく終曲。 前曲のエンディングからクロス・フェードで始まる 12 弦アコースティック・ギターの調べ。 呪文のようなヴォーカル、さえずるリコーダ、太鼓が加わるとすっかりトラッド風の演奏になる。 4 分過ぎ辺りから、鳥のさえずり、豚の鳴き声が聴こえる田園風の SE を経て、一気に ANGE オルガンが高鳴る重厚な演奏へ。 うねるような泣きのギター・プレイを存分にフィーチュアして、シンフォニックな全体演奏がラウドに続いてゆく。 鳴き声や鳥のさえずりが次第にオーヴァーラップして、演奏を乗り越えてゆく。 獣たちが生を謳歌する楽園へ、終にたどりついたということなのかもしれない。

(PHILIPS 842 239-2)

 Emile Jacotey

 
Christian Décamps vocals, keyboards
Francis Décamps keyboards, voice
Jean-Michel Brezovar guitar
Guenole Biger drums, percussion
Daniel Haas bass

  75 年発表の第四作「Emile Jacotey」。 ドラムスがメンバー交代。 本作は、老人の語る伝説をテーマにしたコンセプト・アルバムである。 語り部の老人のモノローグを交えつつ、アルバムは進んでゆく。 深く澱んだ幻想美とねっとりとまとわりつくような重苦しさはそのままに、演奏はぐっと洗練され、録音そのもののグレード・アップもあるのか、サウンドが明確さを増している。 聴きやすいメロディも用いた楽曲の充実には目を見張る。 表現も、ダークなシンフォニーからコミカルかつエキセントリックな端唄まで幅広い。 また童謡の一節を用いるなど、アレンジもおもしろい。 特に目立つのは、ムーグも取り入れたキーボード・オーケストレーションの充実と、多彩な歌い方がみごとなギター。 プログレというよりは、演劇ロックという独自の様式を確立したみごとなエンタテインメントです。

  「Bele, bele petite chevre」(3:50)パンチのあるにぎやかなロックンロール。 やけくそ気味に快調な演奏とトボケたヴァイブの応酬がおもしろい。 ベースが唸りを上げギターがかっ飛ばす演奏は YES にも通じるが、ぶち切れたイアン・アンダーソンのようなヴォーカルがそのイメージをひっくり返す。 「cherve」はヤギのことらしくデキャンがメーメーと鳴く。 終盤はギター、シンセサイザー、ヴァイブらによるクラシカルなアンサンブルからエミール・ジャコティのモノローグへ。

  「Sur la trace des fees」(4:48)うってかわって叙情的なシンフォニック・ロック。 アコースティック・ギターとアナログ・シンセサイザーによる哀愁のデュオから始まるバラードが次第に力強い広がりを見せる。 背景に広がりヴォーカルを支えるのは、幻惑的な味わいが独特な ANGE オルガン。 華やいだオブリガートで彩をつけるピアノもいい。

  「Le nain de stanislas」(5:45)独特の暗さをもったまま疾走するアップテンポのナンバー。 シンセサイザーによるなめらかなシンコペーションのテーマ、ツイン・ヴォーカルとハーモニーなど。 中盤には得意のモノローグ。 加速とともにドライヴ感を増しタイトに突き進む演奏がカッコいい。 風を巻いて疾走するようなキーボードのフレーズ。 最後はきらめくような流れの中で、ギターが粘っこいプレイを見せる。 この終盤の疾走は CAMEL 風。 全体にシンセサイザーがフィーチュアされている。 傑作。

  「Jour apres jour」(3:09)アコースティック・ギターによる弾き語りナンバー。 スペイシーなムーグが静かに星を撒きギターが小粋にオブリガートする。 軽やかでほのかにメランコリック。

  「Ode a emile」(3:45)再びジャコティのモノローグ。 続いて現れるのは、切ないポップスがシンフォニックに高まるすてきなナンバーだ。 どこかで聴いたような歌メロは、シャンソンの名曲か何か、スタンダードだろうか。 こちらがオリジナルならすばらしいことだ。 ストリングス、オルガン、ヴァイブ、アコースティック・ギターによる伴奏は控えめながら最高級。 極上のイタリアン・ポップスに匹敵する、みごとな歌ものである。

  「Ego et deus」(4:07)チェンバロ、オルガンが活躍し、シアトリカルなヴォイスが圧倒的な存在感を見せる GENSIS 風のナンバー。 アジテーション風のヴォーカルとクラシカルでせわしない 3 連のフレーズが緊迫感を高める。 攻め立てるようなメイン・パートに対し、ややテンポを落としコミカルな調子を見せる「抜く」パートがある辺りはさすが。 GENESIS でいえば「Get'em out by Friday」といったところ。

  「J'irai dormir plus loin que ton sommeil」(4:11)ピアノ、ギター伴奏によるキャバレエ寸劇風のナンバー。 けだるい 3 拍子。 表情豊かなギターがお芝居ヴォーカルを支えまるでデュエットのようだ。 間奏部のさびしげな演奏から一気にブルージーに盛り上がり、ヴォーカルとギターがコテコテのかけあいを見せる。

  「Aurealia」(2:54)ANGE オルガンが妖しく渦巻きメランコリックなアコースティック・ギターがさざめくバラード。 歯切れよいリズムが刻まれるも、演奏と歌は沈んでいる。 やや AOR 的な表情もあり。 キーボードが多彩な音を聴かせる。

  「Les noces」(6:28)序盤はオルガンとヘヴィなギター、重く叩き込むベース、語り部風のヴォーカルなど典型的な ANGE スタイル。 中盤からのリズミカルなインストゥルメンタルは、チープな音ながらもオルガンがジャジーですてきなソロを繰り広げてゆく。 そしてカントリー・フレイヴァーあふれるギターも加わって、すっかりアメリカンな演奏へと進んでゆく。 しかし、意外にもまとめでは、クラシカルなピアノがリードし、再び ANGE オルガンとともにファンタジックな世界が広がってゆく。いつの間にか足元をすくわれてしまう語り口がすばらしい。 後半のインストゥルメンタルがみごとな傑作。

  「Le marchand des planetes」(4:17)ピアノ、メロトロン、ギターが支える AOR 調のバラード。 エレクトリックなノイズが左右のチャネルを駆け抜ける。 幻想的な音がさまざまに散りばめられるが、メイン・ヴォーカル・パートはジャジーでポップな味わいだ。 ブルージーなギターが存在をアピールする。 エンディングは、厳かなムードでシンセサイザーが嘆きの調べをささやく。 ヴォリューム奏法のギターによる風に舞うようなメロディ、叩きつけるようなピアノの和音。 長いデクレシェンド。 神秘的なエンディングである。

(PHILIPS 842 240-2)

 Par Les Fils De Mandrin

 
Christian Décamps vocals, keyboards
Francis Décamps keyboards, voice
Jean-Michel Brezovar guitar
Jean-Pierre Guichard drums, percussion
Daniel Haas bass

  76 年発表のアルバム「Par Les Fils De Mandrin」。 英語盤も発表された代表作。ドラマーは再びメンバー交代している。 きわめて演劇的なヴォーカル・パフォーマンス、効果音風の演奏を軸とした内容だが、作風には GENESIS というよりは JETHRO TULL に近いスタンスが感じられる。 それはいかにも物語タッチであるコミカルな表情や、愛らしくもヘヴィな演奏から立ち上る現世肯定の貪欲さのせいであり、さらに驚くべきは、その執念をも笑い飛ばすしたたかさすら感じられるからだ。 ひょっとすると、かなりファンタジックな内容(ジャケットから想像するに、不思議の国を探訪する旅芸人のキャラヴァンといったところだろうか)なのかもしれないが、音の与える印象は夢想というにはあまりに逞しい。 それだけに、終曲の唱歌から立ち上るなんともいえぬほのぼのと暖かい余韻に、いっそう酔いしれることができるのだ。 言葉が分からないために物語を理解することはできないのだが、本作のすごみは、歌から想像されるイメージと音がみごとなまでに合っているところだろう。 個々の楽器云々はあまり意味がないかもしれないが、以下のような点に気がついた。 すなわち、メロトロンに似た独特の ANGE オルガンに加えて、ムーグ・シンセサイザーやチェンバロが効果的に使われていること。 そしてギターは、エレクトリックもアコースティックにおいても存在感抜群であること。 このアコースティック・ギターの波打つようなストロークや、フルートを思わせるオルガンが生む渋みも、TULL に通じるという印象を強めているのだろう。 おそらく芸術の国フランスのロックというイメージに最もあてはまる作品ではないだろうか。
   「Mandrin」は辞書によると、チャックのことのようです。チャックの息子たちって??

(PHILIPS 842 237-2)

 Tome VI

 
Francis Décamps organ, synthesizer, mellotron, vocals on 6
Jean-Pierre Guichard drums, percussion, harmonica, vocals
Daniel Haas bass, acoustic guitar, brassman on 3
Jean-Michel Brezovar guitar, flute, vocals
Christian Décamps vocals, piano, string ensemble, acoustic guitar

  77 年発表のアルバム「Tome VI」。 名曲オンパレードの必殺ライヴ・アルバム。 驚いたことに、ライヴにおいても独特の腫れぼったくこもった音が再現されている(一般には「録音が悪い」ともいう)。 ANGE といえば何をさておきデュキャンのお芝居ヴォーカルだが、拡大された「Dignite」の描く幻想世界を体験すると、きわめて映像的な演奏力も備えていることに気がつく。 未発表曲であるもう一つの大作「La Chien, La Poubelle Et La Rose」では、リード・ヴォーカルがフランシスに交代。 熱気と毒気をはらむ ANGE オルガン、ブレゾヴァルのブルージーにしてどこまでも流麗なギター・プレイも堪能できる。 なんというか、「大見得を切る」ことが非常に似合うのです、このグループは。

(PHILIPS 6641715 / FGBG4200-AR)

 Guet-Apens

 
Christian Décamps vocals, keyboards
Francis Décamps keyboards, vocals
Claude Demet guitars
Jean-Pierre Guichard drums, percussion
Gerald Renard bass

  78 年発表のアルバム「Guet-Apens」。 キーボードが苔むしたような幻想を描き、ヴォーカルが濃厚な情緒をたたえる腫れぼったい演劇調シンフォニック・ロックに、さらに磨きがかかった傑作。 驚くべきことに、その音は 70 年代後半にもかかわらずかえって古びてきており、風雪に晒されてこわばった古外套か蔦に蔽われた古城のようになっている。 音楽的な進化がサウンドの洗練に進まず、あたかも古酒のような熟成へと進んでいる、そして、憂鬱に古色蒼然としながらも、技巧はさりげなく冴え渡っている。 キーボードとは対照的に、ややモダナイズされたギターやドラムスらが、耽美で退廃的なイメージとは裏腹な鋭さを放つところも多い。 唯一無二のヴォーカル表現については多言を要しないが、その表情と音の感触のみごとなまでの合致には、改めて驚かされる。 名手ブレゾヴァルを欠きながらも、総合的な音楽面ではかなりの健闘、いや高潮に達しているといっていい。 ライヴ盤以前の世界、演劇性、耽美な幻想性、叙情性をがっちりと継承、充実させた内容である。 この充実ぶりは、GENESIS が「A Trick Of The Tail」を発表したときと同質のものなのかもしれない。 ただし、70 年代中盤の作品のようなユーモアやナチュラルなポップ・テイストがなく、主題とも絡むであろう切実さと深刻さが前面に出るため、息苦しく感じられるかもしれない。 最終曲のエンディングの悲劇的な力強さには誰もが圧倒されるはず。 邦題は「異次元への罠」。 本作品発表後、グループは一時解散状態となる。

(PHILIPS BT 8113)

 La Gare De Troyes

 
Christian Décamps vocals, pianoFrancis Décamps synthesizer
Serge Cuenot guitarsJean-Claude Potin drums, percussion
Laurent Sigrist bass
guest:
Guy Boley narrationTristan Gros vocals
Marc Fontana saxGuy Battarel programming
Anne Et Maria chorus

  83 年発表のアルバム「La Gare De Troyes」。 80 年代に入って再編成とともにポップ路線へと切り替えた ANGE であったが、その成果は如何? 果たしてサウンドは変化したのか? 確かにドラミングやデジタル・シンセサイザー、シーケンサー処理など 80 年代らしい音がフルに使われている、が、恐ろしいことに ANGEANGE のままである。 いかにクリアでモダンな音を使おうとも、卓越したメロディ・ラインと冴えたアレンジに支えられた濃密で腫れぼったい世界はほとんど変わらず、全盛期のままの魅力を放っている。 本来ならばガッカリさせられるばかりの 80 年代サウンドの取入れは、不思議なことにすぐに気にならなくなる。 それどころか、どんどん物語りに惹きこまれて、後半では情念の炎に身を焦がされ、最終曲の PINK FLOYD の名作ばりの盛り上がりに、下手をすれば涙を流しそうになる。 流行を超越した個性派アーティストといえば、特徴的過ぎてホトンド変化のない VAN DER GRAAF GENERATOR や基調をキープしたままみごとに流行を取り込む LE ORMECAMEL、ポップスとロックの調合法を最初から心得ていた KAYAK といった名グループがあるわけだが、ANGE はその最右翼の一つだろう。 もちろんクリスチャン・デュキャンのヴォーカルあってのこの内容なのだが、彼のリーダーシップの元、懸命に物語を綴るスタッフの能力もみごとなものである。
  タイトルは「Troyes の駅舎」という意味らしく、フランスの鉄道駅として有名なところらしい。 ペーソスあふれるジャケットのマンガもいい。 そういえば、マンガのことをフランスでは「バンドデシネ」というらしいが、この人たちはまさにバンドをやったまま死にそうである。(親父ギャグ)
  83 年作ということで避けている方には「ANGE は別格、心配御無用」とだけ伝えたい。

(PHILIPS 812139 / FGBG4206.AR)

 Sève Qui Peut

 
Christian Décamps vocals
Francis Décamps keyboards
Jean-Michel Brezovar guitar
Robert Defer guitar
Jean-Pierre Guichard drums, percussion
Daniel Haas bass

  89 年発表のアルバム「Sève Qui Peut」。 80 年代的なサウンドがすでに魅力と特徴を失いかけ、機材の高度化と世の復古調に伴って 70 年代サウンドの再現が容易になってきた時代を感知したかのように、全盛期のメンバーが結集して製作された作品である。 まさに、輪郭の明確な現代的サウンドを得たオールド ANGE の復活である。 エレクトリック・キーボードの音やエフェクトはいかにもこの時代らしいものだが、うねるようなギターや多彩なアレンジ、そして存在感抜群のヴォーカルのおかげで、全盛期とそん色ない濃厚で豊かな広がりと深みのある音楽になっている。 独特の怪しさ、毒気もふつふつと立ち昇ってくるし、ディレイとリバーヴが深くなってくると、60 年代風のサイケデリックな味わいも現れてくる。 (当時全盛だった U2 への意識もありそうだ)
   スリーヴを見る限り、各曲はつながりをもっており一つの大きな物語を構成しているようだ。 残念ながらフランス語に不案内なので、どなたか詳細を解読して教えていただきたい。 Sève が「樹液」であり、ジャケットのイラストも世界が樹木にのっている(表ジャケットでは不気味な人物に取り囲まれた木の上の世界は「枯葉」色だが、裏ジャケットのイラストでは人物は消え、世界は「新緑色」を取り戻している)ものなので、何かを訴える寓話的なものだろうと推測するばかりである。 そういえば、ゴダールの映画に「勝手に逃げろ/人生(Sauve Qui Peut)」というのがありましたが。

(CELLULOID 66863-2)

 Les Larmes Du Dalai Lama

 
Christian Décamps vocals, keyboards
Francis Décamps keyboards
Jean-Michel Brezovar guitar
Robert Defer guitar
Jean-Pierre Guichard drums, percussion
Daniel Haas bass

  92 年発表のアルバム「Les Larmes Du Dalai Lama」。 内容は、コンテンポラリーなひねりを加えたオールド・ウェーヴ・ロック・リヴァイヴァル。 パンキッシュなロックンロールから、大人のバラード、90 年代のプログレ復権を知ってか知らずかみごとなまでのシンフォニック・ロック王道復古調まで、堂々の推し出しで迫ってくる。 お涙頂戴のクサい演技もお手のもの、熱っぽく強引な節回しで引きずり回すうちに豊かなサウンドがいつの間にか世界を違った景色にかえてゆく。 前作で集結した全盛期メンバー + 新ギタリストという充実の布陣は揺いでいない。 THE FLOWER KINGS らと同じく 70 年代からのキャリアを活かしたポップなタッチ、AOR やワールド・ミュージック、ラウドなギターロック風の音も使いつつも、デキャンの歌声が聴こえれば、そこはもう何もかもを呑み込む ANGE の幻想奇譚の世界である。 シンプルなリズム・パターンや明快な今風のサウンドを纏っていても、ヴォーカルに象徴される独特の「濃さ」は絶えることなく染み出して世界にうねりを与える。 デキャンは、エモーショナルという言葉では言い尽くせない、シリアスな表情に湛えた情感の読み切らせない奥深さから軽妙さに浮かぶしたたかなまでの凄みまでを惜しげなく晒し出す、まさに孤高のリード・パフォーマーである。 そして、ブレゾヴァルの流れるようなギターの復活がうれしい。 この空に浮かび上がるようなギターに独特のブルーズ・フィーリングがあることで、卑俗で官能的なシャンソン・ポピュレールに一層の陰影ができていると改めて思う。 そう、エスプリもいいのだが、ANGE には、すべての古い男がそうであるように、ブルーズがよく似合う。
   タイトルは「ダライラマの嘆き」。 1 曲目タイトル曲の冒頭から、重厚荘厳にして肯定的な力強さにあふれる世界が一気に広がる。 そして、テーマとなるメロディ・ラインの冴えもかわらない。 どの曲もひとたび耳にすればいとも簡単に口をついて出てくるのだ。 本作品で ANGE は再び解散し、"ヌーヴェル ANGE" から "第二世代 ANGE" へと引き継がれる。 でっぷり太ったクリスチャン・デュキャンは、まるでカラマゾフ兄弟を悩ませた父フョードルのようだ。

(PHILIPS 512 934-2)

 Culinaire Lingus

 
Christian Décamps vocals, keyboards
Tristan Décamps keyboards
Hassan Hajdi guitars
Caroline Crozat vocals, chorus
Herve Rouyer drums, percussion
Thierry Sidhoum bass

  2001 年発表の作品「Culinaire Lingus」。 "第二世代" ANGE の第一作。 内容は、酸いも甘いも知り尽くした大人向けのシンフォニック・ロックである。 インダストリアル調やワールド・ミュージック、ヴォードヴィル調など多彩なサウンド・スタイルを駆使しつつも、重苦しく腫れぼったい基調はまったく変わらない。 本作では、そこにさらに無常感が加わっている。 イコライジングされたデュキャンのヴォーカル、つぶやき、アジテーション、呪詛の表情を音楽の中心に配し、さまざまなスタイルのバッキングが自由自在にその歌を彩って運んでゆく。 U2 あたりと変わらないアダルトなロックの王道だ。 往年のような一回で耳に残るようなメロディはないのだが、演奏の安定感とサウンドの充実感はハンパではない。 特に冒頭 2 曲のへヴィネスと陰鬱さ、そこらのプログレ・メタルが尻尾を丸めて逃げ出しそうな迫力と貫禄である。
  全編を貫く主題は、人、肉体と精神、を食と性愛という観点から解釈することのようだ。 性感帯やら半陰陽やら G スポットなど、とんでもないキーワードが次々と出てくる。そして、一つの SEX から死へ ... なんとフランス人らしい、そもそもフレンチ・スタイルとは...と黄泉の木村尚三郎先生が喜んで解説しそうだが、ANGE の復活作にはふさわしい、洒脱で風刺の効いた主題だと思う。 タイトルは、"cxxxxlingus" と引っかけたスケベなダブルミーニングか。ちなみに Lingus はラテン語で「舌」であり、直訳すると「料理を愛でる舌」。 タイトルとともにバンドデシネ・タッチのジャケットも冴えている。 最終曲は、直前の曲のテーマを引き継いで、ジャン・パスカル・ボフォやヤン・アッカーマン(!)ら十二人のギタリストが次々に登場するスペイシーなボーナス・インストゥルメンタル。すてきなオマケだ。 ミキシング・エンジニアにスティーヴ・ウィルソンの名前があるが、あの人?

(322012)

 ?

 
Christian Décamps vocals, keyboards
Tristan Décamps keyboards, vocals
Hassan Hajdi guitars
Caroline Crozat vocals, chorus
Benoît Cazzulini drums, percussion
Thierry Sidhoum bass

  2005 年発表の作品「?」。 "第二世代" ANGE の第二作。 一見地味な印象を与えるが、複数の作曲者と複数のヴォーカリストを存分に生かした多彩な作風は、謎めいたトーンを基調にしてじわじわとしみてくるみごとなものだと思う。 冒頭、苔むしたメロトロン・ストリングスとモダンなシンセサイザー・ストリングスの交歓に打ち込みリズムをオーヴァーラップさせて、怪しいメロディを奏でるところで、あっさりと ANGE の術中にはまるはずだ。 その後も緩急自在に出番を心得たアンサンブルがヴォーカルを守り立てて、多彩な音楽表現を抑制を効かせつつも惜しげなくふるまう。 特にみごとなのは、アタックの強さやスピードやヘヴィネスではないロックのよさをうまく引き出していること。 アコギ一本でぶつぶつつぶやいてもやる人がやればちゃんとロックする、アレである。 練られたジャズ・タッチやスペイシーなポスト・ロック調などスタイリッシュな演奏面の充実もすばらしいものがあるが、あえて「演奏」と「音のドラマ」のいずれかといえば、後者だと思うし、何より、艶っぽい「歌」がたっぷり盛り込まれている。 ソウル、ゴスペル・タッチはかなり新鮮だし、バラードの説得力と神秘的な陰影もいい。 デキャン親子のみならず、メンバー一人ひとりが作曲にも携わり、そこから生れたヴァラエティを得意の「腫れぼったく怪しげでオシャレ」な雰囲気にうまくまとめている。 キャッチーなメロディもたっぷり入った極上のエンタテインメントであり、稀代のポップ・アルバムである。 ギターはブレゾヴァルの芸風をよく会得している。 個人的には、近作では一推し。 おっさん向けということですね、きっと。

  「Le Couteau Suisse」(3:58)ストリングスの響きと怪しすぎる歌唱、それだけでもう完全に ANGE
  「Ricochets」(5:55)現代と古代を行き交うように一気に時空を越える味のある歌もの。傑作。
  「Histoire D'outre Rêve」(9:39)ジャジーな異色の展開からクールなデジタル・ロック調、そして大人のシンフォニック・ロックへと広がるオムニバス風の力作。序盤だけ聴いたらこのバンドとは分からないはず。
  「J'aurais Aimé Ne Pas T'aimer」(4:17)重苦しさを抱えたまま漂流する。人生そのもの。間奏のジャズもいい。
  「Le Coeurs À Corps」(5:34)クラシカルなピアノとキャッチーなリフレインが耳に残るグルーヴィなロック。
  「Les Eaux Du Gange」(5:15)デュオによる相聞歌風のバラード。
  「Naufragé Du Zodiaque (inclus"Thème astral")」(9:12)ギタリスト主導の作品。 PORCUPINE TREE のようにヘヴィなパワーコードも現れ、クールでニヒリスティックな空気が場を占めるが、ジャジーなソフトネスとなめらかさもキープされる。
  「Entre Foutre Et Foot」(2:16)女性ヴォーカルによるシャンソン。もちろんアコーディオンも。
  「Ombre Chinoises」(6:00)後半、貫禄のゴスペル調に頬が緩む。
  「Sous Hypnose」(4:58)PINK FLOYD 的ブレイクビーツ。今を取り込む技の冴え。
  「Passeport Pour Nulle Part (Reflux d'aubes TempéRées)」(4:54)ブラスも飛び出す痛快作。デヴィッド・アレン、桑田圭佑、フランク・ザッパに通じる音楽的祝祭感。一押し。
  「Quand Est-ce Qu'on Viendra D'ailleurs ?」(6:27)開放的にはっちゃける一曲。もちろんそれだけではなく、緩急硬軟自在弾力に富み、クライマックスらしくぶち上げる。やっぱりメロトロンは使うんだ。
  「Jazzouillis」(3:46)「Je Taim'e Moi Non Plus」そのものな相聞歌。音楽は前戯か。ちなみにバルドーよりもバーキンの方が演奏がニューロックしていて好きです。

(3103832)

 Souffleurs De Vers

 
Christian Décamps vocals, narration, guitar, keyboards, accordion
Tristan Décamps keyboards, guitar, sequences, vocals, chorus, lead vocals on 4
Caroline Crozat vocals, chorus, narration, lead vocals on 7
Hassan Hajdi guitars
Thierry Sidhoum bass
Benoît Cazzulini drums, percussion, sequences

  2007 年発表の作品「Souffleurs De Vers」。 "第二世代" ANGE の第三作。 へヴィでシャープで瑞々しいロック・アルバム。 ワイルドなサウンドと弾けるようなビートとともに苦み走ったヴォーカルが意外なほどにキャッチーで味わいのあるメロディを歌い上げている。 そういえば、胸を揺さぶるメロディのよさは往年の ANGE の特徴だった。 粋すぎるギタリストのプレイ、重く弾力に富むリズム・セクション、さらにはアコーディオンやストリングスらが、雄々しく猛々しく歌を彩り、しなやかなメロディに幅広い肩を貸している。 したがって、ナレーションこそあるものの、シアトリカル、プログレッシヴ・ロック、といった言葉は本作にはあまりあてはまらない。 管弦がオーヴァーラップするような物語の高まる場面ですらも、ハードでダイナミックなバンド演奏が気を抜かずに硬派なテンションをキープする。 スタイリッシュなベテランロッカーとして U2 に近い世界にいると思う。 ちなみに、トリスタンのヴォーカルは(当たり前だが)親父によく似ている。 吐息がかかりそうな女性ヴォーカリストも一曲リードを任されている。 9 曲目は女性のナレーションによるタイトル曲の「シノプシス」になっており、本編は 10 曲目になっている。 この 10 曲目は、「le film(映画)」と銘打った 16 分にわたる大作。 深く雄大なサウンド・スケープがシネマティックな感動を呼ぶ新時代の総合芸術ロックである。 声色パフォーマンスもようやく現れる。
   タイトルは「詩のプロンプター」という意味だが、何のメタファーなのだろう。 それにしても、味のあるメロディ・ラインといいアルバム構成といい、70 年代の ANGE そのものである。

(3128532)

 Le Bois Travaille, Même Le Dimanche

 
Caroline Crozat vocals, chorus
Christian Décamps vocals, keyboards
Tristan Décamps keyboards, voice
Hassan Hajdi guitars
Benoît Cazzulini drums, percussion, sequences
Thierry Sidhoum bass

  2010 年発表の作品「Le Bois Travaille, Même Le Dimanche」。 "第二世代" ANGE の第四作。 愛らしいジャケットとは裏腹にへヴィ・エレクトロニカはたまたトリップホップというべきコンテンポラリーなサウンドをフィーチュア。 ぎざぎざのドラム・ループとともに全編に吹き荒れるハードボイルドな空気とその中でもかき消されぬロマンの香りに酔える傑作である。 独特の「濃さ」は現代的なサウンドからもエネルギーを吸い取って卑俗で肉感的なパワーをみなぎらせている。 また、ヘヴィでデジタルなサウンドの選択に 90 年代以降の KING CRIMSON と共通する姿勢を感じる。 邦題は「木は日曜日も働いている」。 「Sève Qui Peut」を思い出させる「木」というキーワード、何やら現代文明批判、アジテーションが織り込まれているに違いない。 結成 40 周年を記念する 40 作目だそうだ。

(ART 401661)


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